【デッドマンズクルーズ】死者には鎮魂を。生者には悲しみを飲み干す勇気を

<オープニング>


「あ……」
 その呆気に取られた声が自分の喉から出たものだと、キング・シュライバー(お菓子好き人狼・b65723)は一瞬わからなかった。
 炎上した船が、沈んでいく。黒煙を立ち昇らせ船体の半ばからへし折れた船が、海に飲み込まれるように姿を消していく――。
 ――あなたのくれたお菓子、とっても美味しかったわ。ありがとう。
「う、あ……っ」
 耳の奥にはあの感謝の言葉が、脳裏には優しい笑顔が――まだ鮮明に残っている。キングは胸を締め付ける感情に、呻きをこぼすのがやっとだった。
 ただ、船が沈んでいくのを呆然と見るしか彼等には出来ない。ギシリ……、と幽霊船の縁を指先が白くなる程握り締め、綾川・悠斗(青き薔薇の道を歩む者・b66689)が血を吐くような想いで言葉を吐き出した。
「助けたかった人達が皆あんな姿になっていて……それでも、俺達を助けようとさえしてくれて……なのに――ッ」
「無力、ですわね……私達は」
 白姫・琴音(魔砲少女リリカルことね・b56842)がそうこぼせば、使役ゴーストである真ケットシーのテツロウが琴音を慰めるようにその足にすりついた。
 能力者であれば何でも出来る――そんな自惚れを抱いていた訳ではない。いや、むしろその力が強ければ強いほど、『力は無力』なのだと思い知る事は多い。ゴーストを切り裂く剣では失われた命を取り戻せず、ゴーストの一撃を耐える鎧ではその心まで守れないのだ。
 だからこそ――阿頼耶・読魅(黄泉津大姫・b49524)が、その顔を上げ言った。
「まだじゃ……まだ、終わっておらぬ!」
「そうだな。あの人達が望んだように――全てを、終わらせるんだ」
 星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・b15890)が、静かな決意を込めてうなずく。せめて、この手で出来る事を――そう意識を切り替えた瞬間、六桐・匳(青藍月輪・b66454)が厳しい表情で言い捨てた。
「どうやら、向こうさんもまだ終わってないらしいぜ?」
 その言葉に、仲間達もその視線を追う。そこには、先程までは遠くに見えていた赤いコウモリのマークをつけた黒塗りの三胴船型ウェーブ・ピアーサー方式の小型高速艇が、数人の人影を乗せてこちらに高速で向かって来ていた。
 その速度は速い。風の力を借りなくてはいけない帆船とは比べ物にならないその速度は、瞬く間にこちらとの距離を縮めていく――。
「――散れ!」
 反射的にゲルヒルデ・シュピンネ(マーダーレクイエム・b55680)が言うと、能力者達は甲板を蹴り四方に散っていく。そこへ、一人の腰にレイピアを下げた黒スーツにミラーシェードをつけた男が半瞬遅れで着地した。
 男はミラーシェードに隠れた視線で甲板上を見回すと、少し驚いた表情を見せた。
「…………おや? こちらも騒がしいようでしたが、おかしな事になっているようですね? 水着を着た女子供の戦闘集団……ああ、あなた方、銀誓館ですね? ならばなおの事、メガリスを渡すことは出来ませんね」
 丁寧な口調と穏やかな表情だが――その奥に滲む慇懃無礼さは隠し切れていない。だが、そんな事よりも男が発した一つの単語に九櫛・宿禰(十六夜白光・b03017)が息を飲んだ。
「メガリス……?」
「おや? お気づきではありませんでしたか? ハハハハ、これは失敗失敗。あそこにある船首像――あれこそ、メガリス海神の船首像でございます」
「――――ッ!?」
 ほがらかに笑いながら手で指し示して言う男に、能力者達は一瞬そちらに視線を向ける。そこには、波飛沫を思わせる髪と髭を持つ老人の船首像が確かに鎮座していた。
 言われれば、その符丁は存在していた。この船に連れ込まれた時、船首方向を確認した読魅が叱責を受け、最後に船長が助けを求めて手を伸ばしたにも船首だった。
「ばれてしまっては、仕方が――おや?」
 男は一歩踏み出すと瞬間、ふと小首を傾げる。そして、小さく苦笑すればその足を蹴り出す様に前へ振れば――ゴトリ、と高遠・深哲(予言・b00053)は自分の足元に転がったものを見て、目を見張った。
「こ、れは……」
 それは、人間の肘から下の左腕だ。だが、何よりも深哲が目を奪われたのはその手首に巻かれた見慣れた腕時計だった。
「いやあ、お恥かしい事ですがリビングデッドに船を沈められちゃいましてね? 随分と船の構造に熟知していたモノがいたのでしょうが、爆破までされちゃいまして……その腕も最後まで私の足を掴んで離さなかったリビングデッドのものを斬っていたのですが、慌てていてまだ付いていたのに気付かなかったようで――」
 男はまだ言葉を続けていた途中だったが、深哲はその腕へと手を伸ばせば今にも崩れそうな苦笑を浮かべ、腕時計を外した。
 腕時計は、煤で汚れていた。激しい戦いがあったのだろう、傷だらけで壊れて動かなくなったその腕時計に深哲は微笑する。
「こんなになってまで……約束を守ってくださったんですね」
「おや? もしかして、お知り合いのリビングデッドでしたか? あなた方銀誓館にとって、ゴーストは排除すべき敵でしょう? それとも、使役ゴーストか何かでしたか?」
「……ッ! 違います!」
 男の揶揄するような言葉に、白瀬・友紀(蒼の浄巫女・b03507)が思わず声を張り上げた。
「あの人達は、違う……あの人達は、人間です……! 笑って、怒って、喜んで、悲しんで、人を思いやる心と人の痛みを理解できた――あの人達こそ、本当の人間です!!」
 内側から溢れ出す止められない感情が、口からこぼれていく。表情が崩れる。指先が、喉が、声が震える。だが、友紀のその目から涙はこぼれない。高いプライドが、涙を見せる自分を許してくれない。
 男はその反応にさも意外、という表情を見せた。そして、次の瞬間には深い溜め息と共に憐れむように首を左右に振る。
「あのようなリビングデッドなどに、そのような感情的になるとは理解できませんね……ああ、あれですね? 人形に感情移入して『これは人間だ』と思う遊びでしたか? ハハハハハッ、やはり女子供、夢見がちですね。そんなあなた方によい言葉を教えて差し上げましょう――『人は死んで死人になるのではない。死体となるのだ』、あなた方のそれは、単なる感傷です。あんなモノ、それこそ単なる『物』ですよ」
「貴様、黙れ――ッ!」
 思わずキングが声を張り上げると、男は薄い微笑のままミラーシェードに手をかけた。そして、それを外せば――欠片も笑っていない目で、吐き捨てる。
「ええ、もう黙りましょう――時間稼ぎには、十二分ですから」
「――――ッ!!」
 ミラーシェードを胸ポケットにしまう男の体から溢れ出す吸血コウモリの群れ――不意打ちのバットストームに、能力者達が飲み込まれた。
「おのれ……!」
 読魅が舌打ちと共に吸血コウモリを叩き落としていく。視線を外さず警戒していたお陰でその不意打ちには、対処できた――しかし、それと同時に背後にいくつもの着地音が響き渡る。
「従属種か……!」
 その音に悠斗が視線だけで背後を確認した。チェーンソー剣を持つ者が二人、クロスシザーズを持つ者が二人、そして鎖付き棘鉄球を持つ者が一人――男と同じような黒スーツ姿の五人の従属種達が背後に降り立っていた。
「……挟まれましたのね」
 琴音が小さくこぼす。おそらく、こちらが目の前の男に気を取られている間に回り込んでいたのだろう。
 メガリスの存在を明かした事も、こちらの神経を逆撫でにするその言葉も、全てはこの状況を作るための布石だったのだろう――男は、油断のない瞳で能力者達を見回していく。
「あ、申し送れました。私は貴種ヴァンパイアであるワイアットと申します。短い間となるでしょうが、お見知りおきを」
 慇懃にお辞儀をする男――ワイアットに、深哲は腕時計を自分の手首にしながら静かに告げた。
「あなたは約束を守ってくれました……だから、僕達もあなた達との約束は絶対に守ります」
「終わらせる――そう、俺達は確かに約束したんだ」
 匳が、そう吐き捨て身構える。深哲が、宿禰が、友紀が、優輝が、読魅が、ゲルヒルデが、琴音が、キングが、悠斗が、テツロウが――誰一人として無傷な者などいない能力者達が、それでも武器を構えていく。
 そして、強い決意を込めた瞳でゲルヒルデが、優輝が叫んだ。
「例え、失われたものがあったとしても――せめて彼等の心は救うのだ!」
「ここで戦わなければ、終わらせられなければ、能力者である意味がないんだ――!」
「ええ、結構ですよ? 私も船一隻を失った査定分、メガリスを獲得して埋め合わせなくてはいけないものなので。遠慮なく、叩き潰させてもらいます」
 ワイアットが薄い微笑のまま、レイピアを引き抜く。それを合図に、従属種達も各々の武器を構えた。

 ――再び戦いが始まる。
 多くの犠牲者が出た。失われたものがある。守れなかったものがある。そして、守られたものがある。
 だからこそ、終わらせなくてはいけない。これ以上の犠牲者が出ないように――そう望んだ死者達の願いと交わした約束を守るために……。

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参加者
高遠・深哲(予言・b00053)
九櫛・宿禰(十六夜白光・b03017)
白瀬・友紀(蒼の浄巫女・b03507)
星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・b15890)
阿頼耶・読魅(黄泉津大姫・b49524)
ゲルヒルデ・シュピンネ(マーダーレクイエム・b55680)
白姫・琴音(魔砲少女リリカルことね・b56842)
キング・シュライバー(お菓子好き人狼・b65723)
六桐・匳(青藍月輪・b66454)
綾川・悠斗(青き薔薇の道を歩む者・b66689)



<リプレイ>


 スラリ、とワイアットがそのレイピアを引き抜く。その動作はおそろしく滑らかで隙がない――目の前の相手の技量を自覚しながら、阿頼耶・読魅(黄泉津大姫・b49524)が吐き捨てた。
「ワイアットとやら、一つ言っておくことがある。先ほど船一隻を失ったと申したが、それは間違いじゃ。……二隻じゃ。貴様らを倒し、貴様らが乗ってきた高速艇も、妾達がいただくぞよ」
 読魅は素早く視線で仲間達に合図を送る――だが、その時間稼ぎの挑発はワイアットに言下に切り捨てられた。
「――挑発、というのは相手の痛い場所を突くべきですよ? お嬢さん。出来もしない戯言に、意味などありません」
 ふと、そのワイアットが言葉を切る。彼の目の前にメガリスのある船首方向を背に立ちはだかる高遠・深哲(予言・b00053)と六桐・匳(青藍月輪・b66454)がいたからだ。
「高遠深哲と申します、お見知りおきを……短い間となるでしょうが、ね」
「なるほど、あなたは少しは理解しているようだ」
 目の前の貴種が目的を第一に動く者だと理解する深哲に、ワイアットは薄い微笑で囁いた。
「人形だの、物だのと……好き勝手言いやがって。……ふざけんじゃねぇ」
 押し殺した声で匳がそう言えば、ワイアットは軽く肩をすくめる。そして、嘲るように言い捨てた。
「何度でも言いますよ? ――あなた方の感情は不条理だ。あれは死体ですよ? ただ、動くというだけの命の抜け殻がそれらしく振舞っていただけの――ただの山彦のようなものです。消えた命の残滓を、どこまで有難がれば気がすむのですか?」
「あの人達への侮辱は許しません!」
 ワイアットの言葉を遮るように、キング・シュライバー(お菓子好き人狼・b65723)が声を張り上げた。
「あの人達の心は確かに人間だった。彼らの思いに報いるためにも、絶対に負けられません! ……負ける……もんか!」
「やれやれ、私は結構親切心で忠告してあげているんですけどねぇ。死者に想いを残すなど、死神に手を伸ばすようなものですよ?」
「そんなに、自分達の種族が偉いとでも思っているのですか……ならば貴方達が見下した人の想い、そして私達の力を見せて差し上げましょう」
 術扇を構えて言い放つ白瀬・友紀(蒼の浄巫女・b03507)に、星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・b15890)も怒りにかすれた声で言い捨てる。
「今まで能力者として戦ってきたが、これほど怒りを感じたのは初めてだ」
「僕も生まれて初めてです――誰かを本気で殴りたいと思ったのは!」
 激昂を必死に飲み込みながら、九櫛・宿禰(十六夜白光・b03017)もこぼした。
 そんな仲間達を見て、手伝ってくれたリビングデッド達の顔を思い出しながらゲルヒルデ・シュピンネ(マーダーレクイエム・b55680)が微笑した。
「もう人間ではなかったからこそ、人間臭かったのかも、な」
「想いは預かった。見ててくれ。あんたたちの想いの先を――」
 綾川・悠斗(青き薔薇の道を歩む者・b66689)が、静かにそう告げればコクリと白姫・琴音(魔砲少女リリカルことね・b56842)もうなずく。
「わたくし達の為に散っていったリビングデッドさんたちの思いに報いる為にも吸血鬼たちに鉄槌をくだしましょう」
「――ク、ク……」
 誰一人として、無傷なものはいない――それでもなお戦おうと身構える能力者達を見て、ワイアットは小さく肩を揺らすと爆ぜるように笑い声をあげた。
「ク、ハ、ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! ――大変、面白い」
 一瞬にして笑いを収め、ワイアットが冷めた視線で言い捨てる。
「この世界が、そんな甘い夢物語で出来ていない事を、レクチャーしてあげましょう」


「――ッ!」
 キングがチェーンソー剣へと駆け込み、その右足を振るった。ザンッ! と深く肩口を切り裂く一撃を開始の合図に、続いて読魅と悠斗が動く。
「解除せよ!」
「――赦しの舞よ!」
「……くっ!」
 読魅の撃ち放った武装解除弾に、クロスシザースが詠唱炉の停止した自分の武器に舌打ちを漏らした。
「行きますよ」
「ああ――通さねぇ。てめぇなんかにやらせるか……!」
 悠斗の回復を受けて、深哲と匳が動く。深哲の武術短棍が胴を薙ぎ払い、跳躍した匳の右足がワイアットの首へと放たれた。
「ぬるい、ですね」
 だが、ワイアットは大きく踏み出しその武術短棍をレイピアで弾き飛ばし、頭を下げてクレセントファングをかわしてのける。
「――封神十絶陣ッ!」
 二人の戦いを背中越しに感じながら、宿禰の生み出した十個の「絶陣」が敵に苦痛を仲間に癒しを与えていく。
「――ッ!」
「おおおおっ!」
 友紀と合わせて動いた優輝がチェーンソー剣へと挑みかかった。友紀の術扇が振り抜かれ、優輝の術手袋に包まれたその拳が顔面を殴打する。
「いきますわよ、テツロウ」
 魔弾の射手の魔法陣を描く琴音の指示を受けて使役ゴーストである真ケットシーのテツロウによる魔力供給を受けて、回復する。
「――今度は、こちらから行くぞ!!」
 チェーンソー剣がそう叫べば、二人のチェーンソー剣がその場で跳躍し縦回転――優輝と友紀を深く切り裂いた。
「ぐ……ッ!」
 それに続き、一人のクロスシザースのジャンクプレスと鎖付き棘鉄球の攻撃が琴音に集中する。
「く……きつい、ですわね」
「無理だけはするなよ!」
 ゲルヒルデがチェーンソー剣の前で旋剣の構えを取りながらそう言った。
 そんな戦いの光景を見ながら、ワイアットが冷めた視線のまま薄ら笑いをこぼす。
「なるほど、さすがは銀誓館。戦い慣れているようですが……所詮は、女子供ですね。認識が甘い」
「挑発なんて――」
 効きませんよ、と続くはずだった深哲の言葉が飲み込まれた。レイピアを構えたワイアットが鋭く踏み込み、踊るようにその斬撃で深哲と匳を深々と切り刻んでいく――スラッシュロンドだ。
 思わず膝を揺らした二人を酷薄に見下ろし、ワイアットはその血に濡れたレイピアを振り払い言い捨てる。
「挑発ではありません。厳然たる事実です――まさか、二人程度で足止めになるとでも思いましたか?」
「うるせぇ、倒れるワケには、いかねぇんだ……!」
 膝をつかみ、強引に踏み止まった匳に、ワイアットは小さく肩をすくめるだけだ。
「では、叩き潰すといたしましょう――この厳然たる力で」


「慈愛の舞よ――!」
「蒼い雷よ、貫け!」
 友紀の舞う慈愛の舞が仲間達を癒し、優輝の放った時空すら歪める蒼の魔弾がチェーンソー剣を撃ち抜いた。
「吸血噛み付きを使われる前に、押し切りますわ!」
 畳み掛けるように放たれた琴音の蒼の魔弾がチェーンソー剣を容赦なく撃ち抜く。それに、ついに耐え切れず二人目のチェーンソー剣が倒れた。
「今だ!」
 それを見たクロスシザースが読魅とテツロウをジャンクプレスで串刺しにし、鎖付き棘鉄球がその鉄球で琴音を狙う。
「集中攻撃ならいざ知らず、この程度効かぬのじゃ!」
「――まずい、バットストームです!」
 読魅が言い捨てた瞬間、深哲の警告の声と同時に吸血コウモリの群れが甲板を埋め尽くしていく。
「く、う……っ」
 その吸血コウモリが消え去れば耐え切れずに琴音とテツロウが倒れ、読魅もギリギリの状態で肩を揺らしながら何とか踏み止まっていた。
「おや、まだあちらは元気なようですね……まあ、まずは一人と一体と言う事で」
「く、そ……」
 匳が、硬くヨーヨーを握り締めながらワイアットを睨み付ける。ガードを掻い潜り幾度となく与えたダメージもただの一度のバットストームで覆される――その現実を前にしても、匳も深哲も構えを解かない。
 そんな二人を見ながら、ワイアットは小さくうなずいた。
「おかしいとは思っていましたが……どうやら、あなた達も連戦だったようで――お気の毒です。せめて、あの人間もどきどもが私をもう少し疲弊させていたらいい勝負になっていたのでしょうが――」
「何も知らねぇ奴が……あの人達を愚弄すんな!」
 ワイアットの言葉を遮り、匳が叫んだ。
 背後の従属種と仲間達の戦いは、一進一退の攻防となっていた。それぞれがローリングバッシュやジャンクプレス、射撃攻撃など得意な攻撃を主軸にダメージを負えば吸血噛み付きで積極的に回復してくる。連携も攻撃を集中させるか、ワイアットのバットストームを見越して各個攻撃をしてくるなど目を見張るものがある。
 それを悠斗と友紀、宿禰の赦しの舞と慈愛の舞、封神十絶陣を軸に能力者達は耐えしのいで行く。だが、ワイアットの言う通り連戦の疲労は確実に彼等を蝕んでいた――。
「――今じゃ!」
「ああ、決める!」
 読魅の武装解除弾を受けた鎖付き棘鉄球へ、合わせて動いたゲルヒルデがその闇色に長剣を振り下ろした。
「ぐ、お……」
 ガキンッ! と受けようとした鎖ごと従属種が甲板へと倒れ込む――従属種を倒し切った、そう思った能力者達の心を凍てつかせるようにその声が響き渡った。
「何と、二人で持ち応えられましたか――まずは、お見事と言っておきましょう」
 匳のクレセントファングの蹴り足を脇腹から血を流しながら抱えていたワイアットが、そのレイピアを握る右手で匳の胸元を指差した。
「たお、れて、たま……」
「――これが、現実です」
 ビクンッ! と二度三度とその身を震わせた匳が、ワイアットに放り投げられる。ゴロリ、と甲板に転がった匳が、起き上がることはなかった。
「これで二人目――おめでとうございます、あなた達はようやく折り返し地点に辿り着きました」
「折り返し、地点……?」
 かすれた声でオウム返しに呟いたキングへ、ワイアットは乾いた拍手と共に言い捨てる。
「まさか、従属種五人より私一人の方が楽だ、とか思ってませんよね? ――見せてあげましょう、本当の貴種の力というものを」
 カチャリ、とレイピアを構えるワイアットに、能力者達も身構えていく。挑発でもなければ、ハッタリでもない――この男は、ただ事実を語っているだけなのだ。

 ――こうして、戦いは最終局面へと進んでいく。


「う、わあああああ!!」
「頑張って、ください……!」
 キングの渾身のクレセントファングがワイアットの胸元を切り裂き、合わせて動いた友紀が祖霊降臨でキングを回復させた。
「龍撃砲!」
「蒼い雷よ!」
 深哲の放つ龍撃砲が、合わせて動いた優輝の蒼の魔弾が、ワイアットに迫る。だが、それをワイアットはレイピアを閃かせ衝撃波を散らし雷を貫いた。
「黒影――剣ッ!!」
 そこの間隙にゲルヒルデの横薙ぎの長剣が放たれる。引き戻すレイピアは間に合わない――ゲルヒルデの闇色の刃が、その二の腕に深々と食い込んだ。
「――食い尽くしなさい、吸血コウモリの群れよ」
「――ッ!!」
 無数の羽音をさせ、ワイアットの体の中から溢れ出していく。その幽霊船の甲板を埋め尽くす黒の中で、ゲルヒルデがキングを、読魅が悠斗を庇った。
「後は、頼む……ぞ。お前、なら……」
「みんなを、回復……させ、るのじゃ……っ」
 ゲルヒルデが、読魅が、キングと悠斗に言葉を残して力尽きていく。それを見て、ワイアットが小さく吐き捨てた。
「これで、四人――ですね」
 ――死力を尽くして能力者達はワイアットへと挑んでいく。回復手段も数が乏しくなり、攻撃アビリティも残り少ない。だが、誰一人として諦める者はいなかった。その様子を見て、ワイアットが口の端を笑みの形に歪めた。
「……大したものです。これだけ追い込まれながら、まだ諦めないとは」
「彼らがしてくれた事と思いを無駄にするわけにはいかない。待ってくれてる人がいる限り、俺たちは負けないんだ」
 肩で息をしながら言う優輝に、ワイアットがそこで初めて違う表情を見せた。それは、どうしようもないモノを目にして脱力したような――苦笑とも言うべきものだ。
「実に面白い事です……人形遊びも、時に恐ろしい結果を招く」
 ――そうこぼしたワイアットへ、キングと合わせて動いた悠斗が続く。
 ぶつかり合うのは、死力と死力――この犠牲者だらけの戦いも終幕が近づいていた。



 もはや言葉は必要ない――ただ、この戦場においては誰もが行動で語るのみ。 

「――ッ!」
 キングの右足が振り抜かれ、悠斗の渾身の光の槍が放たれた。それをワイアットはクレセントファングを食らいながらも光の槍をレイピアで受け止めた。
 そこで、深哲の青龍の力が宿る拳が繰り出された。ワイアットはそれを左手でかろうじて受け止める。甲板と靴底が軋みを上げる――そこに、宿禰の祖霊降臨を受けて回復した優輝が蒼の魔弾を打ち込んだ。
「……ッ……」
 その蒼い雷はワイアットの右肩を貫いた。友紀も祖霊降臨によって自分を回復させ――その瞬間、ワイアットは左手を宿禰へかざし、握り締める。
「――ッ!!」
 思わず視線を送った仲間達に、構わないでと口の動きで告げた宿禰がブラッドスティールの前に甲板の上に倒れた。
 仲間が倒れる光景を振り切るように、キングが跳躍し最後のクレセントファングを放つ。その一撃にワイアットの脇腹が切り裂かれ、初めてその膝が揺れた。
「――――ッ!!」
 悠斗と友紀の光の槍がワイアットへと投擲される。右と左の太ももを貫かれたワイアットへ、優輝が駆け込んでいく。攻撃アビリティは尽きている――ただ、その眼前の魔弾の射手の魔法陣の向こう、ワイアットへとその拳を繰り出した。
「……ッ」
 それをワイアットはレイピアで受け止める。散る火花。拮抗する剣と拳――そこへ、背後の死角へと回りこんだ深哲が、ギシリと青龍の力の宿る拳を振りかぶる――!
「―――ォオオオオオオオオオッ!」
 ワイアットがそれに反応して振り返る――だが、深哲の龍顎拳は構わず放たれ、ワイアットの胸へと叩き込まれた。
「オ、オ……ォ……」
 ワイアットの体が、膝から崩れ落ちる。それを見て、深哲が吐き捨てた。
「よい言葉、一つお返ししますよ。『人の心を知らずして人間に非ず』――貴方もまた、貴方の嗤ったモノと変わり無い」
 その言葉に、返答は無い。倒れたまま動かないワイアットの姿に、能力者達が歓声を上げた。
 それは、彼等が死闘についに勝利した瞬間だった……。


「これで、準備完了だね」
 幽霊船から吸血鬼達が乗っていた高速艇に降り立った悠斗が言った。その手には、波飛沫を思わせる髪と髭を持つ老人の船首像――メガリス『海神の船首像』がある。
 幽霊船の崩壊は、メガリスを外した事から加速度的に進んでいった。傷を負って倒れた仲間達とまだ息のあった吸血鬼達六人を乗せて、手狭となった高速艇の上から沈んでいく幽霊船を見てキングが呟いた。
「……仇は、取りましたよ……。優しいあなた達はそんなこと望まないのかもしれませんが」
 あなた達の勇気は忘れません、ずっと……、とキングは溢れ出した涙と共にこぼす。
「あなた方を救う事はできなかったが、思いは報いることができた。ありがとう。そしてさようなら」
「ありがとう、ございました……ずっと、忘れません」
 優輝が静かに黙祷を捧げ、友紀も感謝の言葉を告げた。コクリ、と悠斗もうなずくと寂しげに微笑む。
「ただありがとう――別れの言葉は言えないよ」
 そんな仲間達を見て、深哲は一本の左腕を見る。彼の腕もせめて陸で弔えればと――深哲は小さく呟いた。
「……約束1つ分、借りですしね。……?」
 ふと、深哲はその時に気付いた。自分がしている壊れた腕時計――そこに残る、小さな吸血コウモリの牙の跡に。
『実に面白い事です……人形遊びも、時に恐ろしい結果を招く』
 脳裏に蘇るのは、あの時のワイアットの言葉だ。たった一回のバットストーム――だが、その差があの死闘に与えたものがどれほどのものだったか。
「……帰りましょう、銀誓館へ」
 海の中に姿を消した幽霊船を見送った友紀の言葉に、仲間達はうなずいた。

 ――ここに、亡者達の船旅は終わりを告げた。
 多くの犠牲者を出た。失われたものも取り返せないもの多い――だが、それ等が残してくれたものもまた多かったはずだ。
 その想いを胸に抱き、能力者達は海原から帰るべき場所――銀誓館学園への帰還を果たした……。


マスター:波多野志郎 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/09/02
得票数:泣ける12  カッコいい50  知的1  せつない22 
冒険結果:成功!
重傷者:九櫛・宿禰(十六夜白光・b03017)  阿頼耶・読魅(黄泉津大姫・b49524)  ゲルヒルデ・シュピンネ(マーダーレクイエム・b55680)  白姫・琴音(魔砲少女リリカルことね・b56842)  六桐・匳(青藍月輪・b66454) 
死亡者:なし
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