人形の家


<オープニング>


 いったいここは、日本のどの辺りなんだろうか?
 近代的な印象の日本家屋ではなく、木造の古びた平屋の家であった。来る時に見た感じでは庭はかなり広く、雑草が生い茂ってはいるものの以前は手入れされていたと伺える。
 ここに連れてきたのは、線の細い女であった。白髪でおそらく日本人。しかし言語は堪能でこちらに分かりやすくしゃべってくれている。
『……ここは日本のどの辺りなんだ』
 仲間の一人が聞いた。
 二十数人の仲間が住むのには十分な広さがあり、上下水道も完備。今のところ、申し分ない家である。……少なくとも、自分たちからすればここは住み良さそうな家だ。
 ただ一つを除けば。
 仲間は、側にあった人形をひょいと手に取る。ソレは部屋の至る所に無造作に置かれ、あるものは薄汚れあるものはすっかり壊れてしまっている。
 にほんにんぎょう、というものだろう。
 日本人形は日本観光をする人々の間では人気アイテムの一つであるが、それもこう大量に置いてあると気味が悪い。
「それは気にするな、前の住人が置いていったものだ」
 ずいぶん前に死んだがな、と彼女がつぶやいた。持ち主が死んだ後、彼女が買い取ったのだという。処分してもいいのかと聞く仲間に、彼女が薄く笑った。
『人形の事はどうでもいい、仕事を紹介してくれるという話はどうなったんだ』
「そうだな、今すぐにでも」
 彼女の言葉。
 だが、背後にいた彼女の連れが扉や窓の側に立ってこちらを監視しているのに気づき、自分は声をあげた。何だか、嫌な予感がする。
 それは仲間にも伝染したらしく、仲間が不快感を顕わにした。
『どういう事だ、いつになったらここから出られるんだ』
『当面の食い物はどうする』
『家族との連絡は……』
「静かにしたまえ」
 彼女は凛とした声で、こちらを制止した。
 とても落ち着いていて、そして強い声。
「……ここに住んでいたのは、とある人形師。なぜかここに住む人間は、いずれも人形に固執する傾向にあってな。知っているか? 昔日本では、人形を自分の身代わりや何かを呼ぶための形代として使われていたんだ」
 なぜ今そんな気味の悪い話をするんだ。
 そもそも男ばかりの俺たちが人形を集めるとでも?
 確かに呪術で人形が使われる事はあるね、それは認める。
「そう、身代わり……だよ」
 すうっと笑うと、女は胸元にさしていた懐刀を抜きはなった。
 彼女が刀をすうっと持ち上げると、彼女の影から黒いモノが飛び出した。それらは煙のように広がり、部屋中に広がっていく。
 小さく、鳴き声を上げるそれはコウモリであった。
 部屋に響く怒号と悲鳴。
 殴りかかった手は、彼女の側にいた男によって遮断される。一刀の下で斬り伏され、今までヒトであった体が次々と畳の上へと崩れ落ちていった。
 女はただ、無言でそれを眺め続ける。
 やがて部屋が静まると、刀を布でぬぐって鞘へとおさめた。
「あとはアレだけだな。さて、どんなモノが出るのやら」
 彼女は楽しそうに、返り血に染まった人形たちを眺めた。

 着流し姿の扇・清四郎が手にしているのは、赤い袿を着た少女の日本人形であった。雛遊びをするには、ちょっと年齢が過ぎているようだが。
 すると扇は人形を置いて、話をはじめた。
 話に出たのは、吸血鬼株式会社のことである。
「彼らの手引きで多くの不法入国者が日本に来てね、しかもすでに吸血鬼達の手によって殺害されてしまっている。彼らの目的は残留思念を使い、いにしえに存在した強力なゴーストをよみがえらせる事だ」
 こちらが到着した時、すでにゴーストは呼び出された後であろう。吸血鬼達はまだそこにいるかもしれないが、用が済んだ彼らがそこに長居するとは思えないし、そもそもゴーストも彼らも両方倒すのは困難だ。
 古い日本家屋に残された、日本人形達。それに囲まれて出現するのは、着物を着た幼い少女であった。手には大事そうに、古い形の人形を抱いている。
 ずっとずっと昔に存在したと思われるそのゴーストは、赤い袿を着たかわいらしい女の子だ。しかし見た目と違い、童の持った力はこちらを凌駕している。
「おそらく、臨海学校に出現したゴーストもその関連のゴーストなんだろう。ただ、出現したのはリビングデッドじゃなくてもっと強力なモノだけどね。……古いゴーストか、ちょっと興味があるね。どんな方法で呼び出したんだろう。この子、どうやらこちらと会話する事ができるようなんだ。自分がゴーストになった経緯とか、聞いたら答えてくれるんじゃないかな。まあ、だからといって説得したら応じてくれるとは思えない。昔倒されたゴーストだもの、倒さなきゃならなかった相手って事でしょ」
 呼び出されたゴーストは一体。
 ただし、その周囲には殺された後リビングデッドとなった人たちがいる。彼らはここで殺された、不法入国者たちであった。
 少女は紙でできたヒトガタのようなものを使い、周囲を切り刻む。さらに彼女を守るように、リビングデッドが二体。威力も耐久力も高い少女と合わせれば、こちらが苦戦を強いられるのは必至である。
「形代……呪術に使用される人の形をした紙の事だよね。まあ、その彼女の使うヒトガタが何か特別なものだとか、そういう事はないみたいだね。ただ何が要因だったのか、ここに現れたのは不完全な形で召還されたらしいゴーストだ」
 少し何かを考えて、扇は話を続けた。
「この女の子、とても人形を大事にしていたんだね。周囲にある人形に強い執着があって、それに力を左右されているのを感じる。元々そういうゴーストではなかったと思うんだけど、不完全だから力が足りないのかもしれない。人形の数は相当あるけど、これを何とかすれば彼女の力を弱体化できるんじゃないかな」
 何とかと言っても、戦闘中なのだから容易だとは思えないのだが。
 最後に扇はちりんと鈴を鳴らした。
「鈴の音は退魔の音色という。……君たちに幸運を」
 そう言うと、扇はそっと人形を抱えた。

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参加者
香我美・允(陽だまりのムル・b16223)
寒桜・美咲(蒼天夢想・b32031)
到真・悠人(伏魔絵師・b40287)
安心院・ヒナタ(金曜日に降る雨・b51011)
桐真・響(アゲート・b56476)
ユマ・ジャン(イアハム様のメイド・b59371)
間引・法螺乃(黒狐忍・b60680)
耀・数馬(焔舞・b67513)



<リプレイ>

 屋敷にたどり着いた頃は、日が暮れかけていた。明かりの心配をするように香我美・允(陽だまりのムル・b16223)が庭の方を見やるが、とりあえず今の所は問題はなさそうである。
「大丈夫だよ、電気は付いてるみたいだから。暗ければ付ければいい」
 桐真・響(アゲート・b56476)が玄関を指すと、そこには薄ぼんやりと明かりが点っていた。おそらく、まだ中に吸血鬼が居るのだろう。だとすればボヤボヤしていられない。
 真っ先に玄関から飛び込んだのは、到真・悠人(伏魔絵師・b40287)と間引・法螺乃(黒狐忍・b60680)の2名である。彼らは後ろに続く響と寒桜・美咲(蒼天夢想・b32031)達を護るようにして居間まで突っ切ると、そこで状況を確認するように足を止めた。
「嗅ぎつけられたか」
 舌打ちして武器を取った吸血鬼を、法螺乃が一瞥する。
 そこは、見るに堪えない惨状。思わず美咲が口元に手をやったのも、ムリはなかった。床を染める血と、無残に切り刻まれた遺体の数々。
 それらに囲まれて、平然とした表情で女が口を開いた。
「やれやれ、撤退の時間か」
 しれっと女は言い切ると、つ、と顎を動かして撤退を促した。それに従い、吸血鬼達は無言で独り、二人と後ろの窓から脱出していく。
 しかしこちらは、元より追うつもりなどなかった。
 この中でただ一人吸血鬼……従属種であるユマ・ジャン(イアハム様のメイド・b59371)は、その様子を少し悲しげに見ていた。何故吸血鬼同士がこうして戦わねばならないのか?
 何故こんな残忍な事をしなければならないのか?
 吸血鬼達の誇りは、一体どこに行ってしまったというのだろう。ユマは主の胸の痛みを思い、自分の事のように切なくなるのであった。
 そっと視線を上げ、側に耀・数馬(焔舞・b67513)が居るのを確認してほほえむ。血の臭いでユマと数馬が視線を前へと向けると、そこにあった骸がふたつ、むくりと起き上がった。
 生臭い室内に垂れ込める、思い空気。
 それは形となり、姿を現した。
「サーテ、キアイ入れていくか……ユマさん」
 ぽんとユマの肩に手を置くと、数馬は允と声を掛け合い、炎と翡翠の布槍を握りしめた。少女の姿をした陽炎は、苦悶の表情を浮かべて部屋の真ん中に鎮座する。
 右手には大事そうに、布で出来たサルボボにも似た人形を抱えていた。そして左手には、人型の紙符が……。
『……誰……』
 少女は、大きく息を吐くと、そう声をかけた。

 ああ……本当に答えてくれている。
 安心院・ヒナタ(金曜日に降る雨・b51011)は地縛霊がこちらに反応してくれている事に、少し感動にも似た感覚を覚えた。地縛霊がこうして答えるのは、通常ある事ではない。
 しかし、だからこそこの少女がいったい何なのかが気になっている。
 思わず立ち尽くしたヒナタに向かってきた死人を、前に居たヒミコが庇うようにして立ちはだかり牽制する。
 ここはヒミコがやってくれるようだ。
 ヒナタは、ここに居るリビングデッドの相手をヒミコと允に任せると少女の方へと向き直った。少女はどこか虚ろな目で、人形を抱えたまま符を放つ。
『あなたが、ひいなを痛くしているの……?』
「ひいな……雛。ひな人形のひな、ですね。雛さん」
 ヒナタの笑顔が凍りついたのは、次の瞬間である。彼女から放たれた紙符が室内を舞飛び、ヒナタやヒミコ達の体を切り裂いた。
 紙符は赤く染まり、そして威力を失って消えていく。鋭い刃のような符は、ヒナタの体を見る影もない程に引き裂いていた。
「ヒナタさん!」
 允がヒナタを気遣いながら、紙吹雪に負けじと声をあげる。嵐に混じるは、允の柔らかい癒しの声。少しずつ彼の声が傷を癒すが、とうていそれで傷を塞ぐ事の出来るものではなかった。
 かろうじて、ユマの力に支えられて立て直すヒナタ。
「……僕の名前は。安心院ヒナタと申します。雛さん、少しお話ししませんか?」
 雛は、静かにこちらを見返した。
 その間も、油断なく符を構えている。雛の動きに注意しつつ、後に控えていた四名が行動を開始する。悠人と法螺乃が壁となった背後で、美咲と響は部屋に散乱した人形とへ駆け寄った。
 人形はまだ綺麗なままで、術によって傷ついた様子はない。
「人形は側にあるものから、無作為に吸い取られているように見えました。……みた所、この視界内にある人形には影響があるようです」
 美咲は、一体ずつ手に取りながら響と話した。
 この範囲というのは、すなわち攻撃範囲でもある。おそらくこの視界内は、すべて彼女の符の攻撃範囲に入っている。
 その外に持ち出すのは、かなり時間がかかるだろう。
 響は自分が持った人形を、ちらりと見下ろす。そこには、おかっぱ頭の人形があった。着物といい髪といい、あの女童に似ている気がしたのだ。
 しかし容赦なく符の攻撃は続き、人形は次々彼女の体に吸い込まれていく。高速演算プログラムで身体能力を上げながら、つう、と響が頬の血をぬぐう。
「吸い込まれた人形に共通性がないね。……ただ、効果範囲は確かに攻撃範囲と同じだ。力の範囲は私達とほぼ同じ……力が及ぶ範囲内でしか、人形もどうこう出来ないんだよ」
 響の見守る先で、ヒナタが会話を続ける。
 ヒナタは、姫だるまという人形について話していた。怪我を負いながらも、ヒナタは実家の近くにあるその人形の話をする。
 ヒナタが話すと、時折雛も攻撃を止めて聞いていた。
『姫だるま……も、そうなの?』
「そう……とは?」
『ひいなの……カタ、よ。ひいなの、代わり……痛いものは全部、カタが代わりにしてくれるの』
 すうっと笑った少女の体から、はらりと符がこぼれる。
『ヒトを、殺すと、ひいなにくれるのよ』
 ここにあるのは、全部雛の……人形。自分の力となり、自分の盾となる形代。彼女の符を受けて、自分もあまり体力的に余裕がない法螺乃は允の弦の音色を聞く。
 前に立ってくれているヒミコを励ましている、允の音は優しく柔らかい。
「ヒミコさん、ムリをお願いしますね」
 自分とヒナタ達後衛を庇ってくれているヒミコへ、允が微笑みかけた。
 その音色は少しだけ、法螺乃を元気づけてくれた気がする。法螺乃も冷静さを取り戻し、美咲に声を掛けた。霧を生み出して傷を庇いながら、息を吸い込む。
「今までのすべての動きを見てきたが、範囲内を側にあるものから吸収していた。……扇が言っていたどうにかする、というのには破壊するしか思いつかない」
 それが必要であれば、法螺乃の力でここにある人形をすべて破壊する。
 美咲が響を見ると、彼女は一つため息をついた。食われる前に壊す。今はそれが最善だと、響も感じていた。

 リビングデッド自体を倒すのには、さほどの手間はかからないはず。ただしユマや数馬、允らリビングデッドに常に対峙している者がほとんど回復に専念しており、結果数馬とヒミコが集中攻撃を受ける形となった。
 時折戻って来るだけの響や法螺乃、悠人達はリビングデッドは眼中にないという訳である。また、少女からの攻撃はかなり前衛を痛めつけており、それが数馬やヒミコにも蓄積していた。
「この調子じゃ、あの人形を何とかしないと先に進まないぜ」
「……この子も多くの人形に囲まれていたのだろう。それも、口調からすると形代としての人形だ」
 悠人が数馬に言った。数馬に噛みつこうとしたリビングデッドを後ろから羽交い締めにし、それを阻止する。
 形代……悠人は、女童が人形についた力を吸収しているのかもしれないと思っていたが、人形に力があるんじゃない……そもそもここにあるのは、後世の人形だ。
 彼女が生きていたのは、ずっとはるか昔の事。だとすれば、ここにある人形がどうこう、であるはずがないのだ。
「あなたは、何故ゴーストに……そんな姿になったんですか?」
 ヒナタが問いかける。
 その問いを、悠人もじっと待った。
『ひいなは……恨めや憎めと……ヒトを呪い殺すモノになれと……』
 そうすれば、人形をあげようと。
『そうして、剣で少しずつ少しずつひいなの体を……』
 悲鳴のような雛の叫び声が響くと、弾かれたように法螺乃の力が爆発した。法螺乃の力が、周囲にあった人形達を次々と破壊していく。
 生み出された絶陣へと送り込まれた人形が、破壊されて戻る。
「……吸い込まれていない!」
 響が声を上げた。
 そうとなれば、いつまでも人形にこだわっている暇はない。
「残りの破壊は任せるよ」
 響は法螺乃に言うと、ヒミコの横に立った。既に彼女は、立っているのもやっとの状態。毒の力に抵抗出来なかったヒミコは、響がやって来ると安心したかのように力付き、倒れた。
 まっすぐリビングデッドを見据えたまま、響は口を開く。
「世界結界がなくても、あなた達は不法入国の犯罪者。……でもそれよりも、手引きした吸血鬼はもっと気に入らないわ!」
 剣先を向け、響は凛とした声でそう言った。リビングデッドが牙を立てても、怯む事はない。ヒミコが今まで彼に穿った傷があるのだ。
 引きはがしながら、悠人に声をかける。
「後ろから回り込んで! ……行くよ」
 ぎゅっと柄を握り込み、死人の腹についた傷を狙う。螺旋のプログラムが宿り、貫いた剣が死人の体を貫いた。
 プログラムは死人を逃さずとらえ、力を停止させる。
 びくりと体を振るわせた死人に、背後から少女の影が掴みかかる。あの女童の姿をした影……悠人の作り出した影が、力の振るえぬゴーストの体を引き裂いた。
 周囲に居た人形達は、既に大部分が破壊されていた。
 あの女童には、ほとんど力は残っておるまい。声を荒げた女童の側には、力つきたヒナタが崩れ落ちていた。
 せめて一言、と半身を起こして少女を見上げる。
「あなたの事を……覚えていますから……」
 ずっと、この少女の事を覚えている。
 ただ戦うしか与えられなかった魂を。
 だって、この子は僕が話す間ほんの少し、手を止めて聞いていたのだ。允はヒナタを抱え、へたり込んだ。
 もう少し力があれば……。
「おっと、ヒミコさんの分まで俺がぶっ潰さないとな。……皆は頼んだぜ」
 数馬は允に声を掛けると、布槍に破魔矢を番えて少女の前に立った。そう、力が及ばなかったとかそんな事はない。
 今できる事を、一生懸命やる……それだけだ。
 女童の放った符が数馬に襲いかかるが、それも今まで程の威力はなかった。一気に符で室内を殲滅しようとするが、それもそよ風ほどしかなく。
「形代に護られなければ、威力はこれ程なのか。……これで終わりだ―――穿!」
 後ろから攻撃の隙をうかがっていた法螺乃が、九尾を生やして力を解放させた。九尾が食い尽くす少女の体を、散らかった符に重なるようにして悠人と美咲の作り出した人形の絵が取り囲む。
 ゆっくりと手が上がり、人形達は女童の体に鋭い爪を突き立てた。
 彼女が死した時と同じように、ゆっくりと引き裂かれていくのだ。それに美咲も一瞬手を緩めかけたのだが、破魔矢で貫いた数馬と総力を尽くす響達の様子を見て思いとどまる。
 辛いのは、皆同じだ。
 少女が力を失いかけた時、声が響いた。
「あの……雛様、もし……気に入っている人形が御座いましたら、ワタクシが……」
 裁縫が得意でございます故、その人形を。
 ユマが言い終わらぬうちに、少女の体は最後の力を失った。
 ただ、その指が部屋の片隅へと向けられていたのを、ユマは見ていた。影のように消えていった少女の後に残されたユマは、無言で立ち尽くす。
 美咲はそれに気づき、そっとその方へと歩いていった。
 拾い上げたのは、長い黒髪の人形。少し大人びていたが、少女はその人形に何を見たのだろうか? 美咲がユマに手渡すと、彼女は女を細めて見つめた。
「直してやるのか、ユマさん?」
「……はい」
 ユマは数馬を見上げると、こくりと頷いた。

 残されたのは、見るも無惨な遺体の数々。
 悠人はその一つ一つに、黙祷を捧げて回る。ヒナタもまた、怪我をおして犠牲者に黙祷を捧げている。それから、人形を繕っているユマの所へとやってきた。
 いつの間にか、数馬にヒナタに悠人に、そしてヒナタの傷の具合を心配した允と皆がユマの裁縫を見つめている。その様子に少し顔を赤らめ、ユマは視線を人形に落とした。
「小さい頃、こうしてよく人形遊びをしたりしましたわ。でもお人形ってすぐ壊れてしまうんです」
「そう、毎日使うものですものね」
 ユマが笑いながら言うと、美咲がほんのり笑う。
 いつも遊んでいたというユマの手によって、人形の服が綺麗に直された。髪も、くしでキチンととかしつける。
 すると、美咲がはっと気づいて駆けだした。
 ……そういえば。
 美咲が取り出したのは、彼女が持ってきた袋であった。その中に入っていたのは、調査段階で彼女が袋詰めした人形たち。
「そういえば撤去するといって袋詰めしていたな」
 悠人がそれを見下ろすと、ユマも手伝って人形を取り出していった。人形達は、他の人形と一緒に元どおり部屋の片隅に並べられていく。
「本来、既に倒されて眠っていたはずなんですよね。……それが、また呼び起こされて縛られて……悲しい話ですね」
 人形に埋もれた『雛』の人形を見ながら、そう悠人は呟いた。
 本来消えたはずの。
 自分達が倒してきたゴーストを思い返し、允が眉を寄せる。もう一度戦うとなると、身が震える思いがする。
 皆とて、死ぬ思いをして倒してきたゴーストも居るだろう。
「それをまた、蘇らせるだなんて……」
「そして、その為に不法入国者を使う訳ね。……どっちも褒められたもんじゃないわ」
 響の声は、少し冷たく感じた。
 だが法は法。それをとがめるつもりは、允にもなかった。ふと顔を上げると、法螺乃が部屋の片隅で鈴を取り出していた。
 りん、と綺麗な音色が響く。
「なにそれ?」
 数馬が聞くと、法螺乃がちらりとこちらを見た。
「退魔の音色、だろう?」
「もうこんな企みが行われないように、だろ?」
 にやりと笑って数馬が聞くが、法螺乃は黙って居た。

 ちりん。
 涼しげな音色が周囲を清めてかき消えた。


マスター:立川司郎 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/09/10
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冒険結果:成功!
重傷者:安心院・ヒナタ(金曜日に降る雨・b51011) 
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