母を求めて、待ち続けて


<オープニング>


 夕焼けに染まりゆく小さな公園。
 少し前まで子供たちの元気な声で賑わっていたその場所も、今やたった1人の子供を残すのみとなり静まり返っていた。
「ママ、早く来ないかなぁ……」
 ブランコに揺られながら寂しそうに呟いた少女が公園の出入り口を見遣る。いつもそこから現れる自分の母親が『お家に帰ってごはんにしよう』と呼びかけてくれるのを、少女は今か今かと待ち続けていた。
『キミもママをまってるの?』
 けれど、次の瞬間に聞こえてきたのは少女の母親の声ではなく――幼い少年の声。
「わぁっ!? だ、だあれ?」
 びっくりしながら振り返った少女は後ろにいた少年に問いかけるが、少年は答えることもなく言葉を続ける。
『キミのママ、こないよ。だって……ボクがあわせてあげないから』
「や、やだ……! ママ、助けてーーっ!」
 ニタァと歪んだ笑みを浮かべる少年に本能的な危機感を感じたのだろう、少女は怯えながら逃げ出そうとするが――少年は無情にもその手に持っていたナイフを少女の背に突き立てた。

「み、皆さん……お集まりいただきありがとうございます。今回は少し急いでいただく必要のある依頼ですので、早速ですがお話を始めさせていただきますね」
 やや緊張しながら能力者達を出迎えた周防・祐理(高校生運命予報士・bn0301)は、何度か深呼吸を繰り返して自身を落ち着けてから話し始めた。
「えと、今回皆さんに対処していただきたいのはとある公園に出現した地縛霊です」
 この地縛霊は小学校高学年くらいの少年の姿をしており、能力者達が現場に到着した時点ですでに出現しているのだという。
「この公園でお母さんの迎えを待っていた女の子が、どうやらこの少年地縛霊の出現条件を満たしてしまったようで……このまま放っておけば確実にこの女の子は地縛霊に命を奪われてしまいます」
 だが不幸中の幸いとでも言うべきなのか、能力者達は少年地縛霊と少女が出会った直後に到着することができるらしい。すぐに行動を起こせば、おそらく少女を助けることが出来るだろう。
「皆さんには被害が出てしまう前に女の子を保護していただき、その上で少年地縛霊を退治していただければと思います」
 祐理は概要を一通り説明してから能力者達に現場までの地図を渡し、さらに説明を続けた。
「この少年地縛霊ですが、3つの能力を持っています」
 1つは20m以内にいる1人に恨み言を呟いて、ダメージと共に武器を封じる技。
 2つめは近くにいる1人にナイフを突き刺す技。これには追撃の効果がある。
 そして、3つめは20m以内の選択した範囲に黒い衝撃波を発生させる技だ。
「それとこの少年地縛霊には2つの特徴があります。『母親に関することを口にした者に強く反応する』ことと『女性が迎えに来たと呼びかける声に反応する』というものなんですが……これをうまく生かせれば、より確実に女の子を助けることが出来ると思います」
 少年地縛霊は母親に関することを口にしたものよりも、迎えに来たと呼びかける声に強く反応するらしい。また、条件を満たしたものが複数いる場合は、より近くにいる者に反応するようだ。
「あと、戦闘になるとこの少年地縛霊のほかに子供の地縛霊が2体現れます」
 彼らはそれぞれ近くにいる1人に『早く迎えに来て』と抱きついて締め付ける技を使ってくる。

「最後になりますが……大体戦闘が始まって5分くらいすると女の子のお母さんが来ます。女の子をどのように保護するかや、戦闘が終わった後にどうするかは皆さんにお任せしますけど、お母さんが迎えに来たときには必ず女の子が公園内にいるようにしてくださいね」
 騒ぎになってしまっては大変ですから、と苦笑いを浮かべながら祐理は底度一度言葉を区切ると、祈るように両手を組んで能力者達をまっすぐ見つめる。
「では、皆さん……どうかこの少年地縛霊を倒して、無事にお母さんと女の子を再び会わせてあげてください」
 よろしくお願いします――と勢いよく頭を下げると、祐理は能力者達を見送った。

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参加者
淵叢・雹(操炎・b06055)
イェル・ベネヴォルメンテ(高校生真フリッカーハート・b43964)
ファルチェ・ライプニッツ(久遠の雪桜・b46189)
白神・楓(月光の黒騎士・b46213)
如月・狩耶(一人往くモノ・b56011)
春崎・樹(ウィンディーソニック・b75584)
壱塚・紘緒(漆黒の衣血薔薇で飾る花婿・b76884)
クェンティーナ・アシェット(レゾンデートル・b78370)



<リプレイ>

●その命を救う為に
 日もそろそろ沈む頃合となり、オレンジ色に染まってゆく街並み――そんな穏やかとも言える夕暮れの中を、能力者達は必死で駆けていた。

「今回は、地縛霊退治だけど……一般人の女の子はしっかり助けなきゃね」
 急げば間に合う、という運命予報を信じ、ひたすら駆ける春崎・樹(ウィンディーソニック・b75584)に同意するようにクェンティーナ・アシェット(レゾンデートル・b78370)がこくりと頷いた。
「女の子が一人で地縛霊に襲われるなんて……絶対だめ」
 普段はぼんやり気味なクェンティーナの決意の表情を見つつ、樹は「油断しないようにがんばろう」と声をかける。
「公園まであと少しね。急ぎましょう」
 イェル・ベネヴォルメンテ(高校生真フリッカーハート・b43964)の呼びかけで仲間達がさらにスピードをあげる中、ファルチェ・ライプニッツ(久遠の雪桜・b46189)は不意に呟く。
「友達が1人、また1人と迎えられ帰って行くのを見送りながら、1人公園で迎えを待つのは凄く心寂しいものですの」
 そして脳裏に呼び起こされたのは夕暮れに染まる公園の物寂しげな風景。けれど、彼女には迎えに来てくれる人がいたし、その存在を見つけられる喜びも知っていた。
「少年の地縛霊も、かつて公園でそんな風に待っていたのかなぁ」
 寂しさを滲ませるファルチェの言葉を聞き、如月・狩耶(一人往くモノ・b56011)はしばし少年地縛霊のことに思いを馳せる。
 母に会いたい気持ち、母がいない現実を受け止められない気持ち――狩耶にはそのどちらもが判る気がした。
 でも、だからこそ、彼女は少年を倒す決意を固める。
「可哀想とは思わない。その情も殺してみせる」
 彼女にとって今回の依頼はただ地縛霊を倒すだけではなく、悲しみに引きずられた自らの過去と決別する、そんな重要な意味も持っていた。

「一体、どういう経緯で地縛霊が生み出されたのか……」
 狩耶と同じく少年のことを考えていたらしいのは白神・楓(月光の黒騎士・b46213)。だが、その思考は内面的なことではなく、この地縛霊が生み出された原因の方にあったようだ。
「公園で亡くなった奴かな、地縛霊は……。でも、誰かに手をかけて良い道理はないっ!」
 襲う少年とも襲われる女の子とも比較的年齢の近い壱塚・紘緒(漆黒の衣血薔薇で飾る花婿・b76884)は複雑そうな表情をしながらも、少年を許せない思いを込めるかのようにぎゅっと握り拳を作っていた。
「この地縛霊が発生した経緯は気になるし、想像通りだとしたら可哀想なんだろうけれど……もととなった人と、地縛霊は完全に別の存在だしね」
 同情のような言葉を紡ぎつつも、最後はそう締めくくると淵叢・雹(操炎・b06055)は気を引き締める。
「とにかく、少女を見殺すわけには行かない故、全力でいかせてもらおうか」
 楓の言葉に頷いた雹は、前方に見えてきた公園の入り口を目指してただ足を動かし続けた。

●逢魔が時に邂逅する者達
 それから間もなく、飛び込むように公園へ入った能力者達は女の子と少年が話しているのを目にする。女の子が傷1つ負っていないのを見るに、どうやら間に合ったようだ――が、肝心なのはここから。
 彼らはよりいっそう気を引き締め、すぐに行動を開始した。

「ママ、助けてーーっ!」
「そこまでだ」
 悲鳴を上げながら逃げようとする女の子の背に向かって振り下ろされる少年のナイフを、2人の間に割り込んだ楓が妖刀『明星夜朱』で受け止める。そして、キン、と甲高い音を立ててそのナイフを弾き返すと、彼は自らの剣に炎を纏わせ少年に斬りかかった。
「もうそろそろ帰るわよ」
『マ、マ?』
 それに続いて後ろから呼びかけた雹の声に少年が反応した瞬間、彼女は蒼の魔弾を放って少年を射抜く。その突然の攻撃に戸惑った少年の隙を狙って、イェルとファルチェが進路を阻むように立った。
「迎えにきたわ。さぁ、早く帰ろうね?」
『ママ!? マ』
 さらに重なった狩耶の声に、戸惑っていた少年が期待に満ちた表情で振り向くと――彼女は少年に向けてその指先を突き出す。
「君の本来いる場所に」
 そのまま指先が少年に触れると、そこから少年を戒める為の『炎の蔦』が彼の内部に送り込まれ、その自由が奪われた。

 一方、突然襲い掛かった危機に対する恐怖からか、その場で動けなくなっている女の子には、クェンティーナと樹、紘緒が向かう。
 女の子は近付いてきた彼らにも、怯えたような表情を見せるが――
「大丈夫、すぐに怖い事なくなるから、ね」
 少しでも安心させられるようにと穏やかにクェンティーナが語りかけると、女の子は彼らに対して警戒を緩めてくれたようだった。
「ちょっとごめんね。すぐに逃がしてあげるから」
 樹もできるだけ女の子に優しく声をかけ、一刻も早く逃がすことができるようにとその小さな身体を担ぎ上げる。
「後ろから周りに攻撃を合わせて、痛くなったらすぐ回復を……頼む!」
 そしてその後ろでサキュバス・キュアの『アリーシャ』にゴーストアーマーを施しながら一言だけ指示を出した紘緒は、女の子を逃がすために公園の外に向かう樹とクェンティーナに続くこうとアリーシャに背を向けた。

 そんな彼らを無事に逃がすべく、残りの者達がさらに地縛霊達を引きつけようと動きだす。
『助けて、お母さん……』
『やめて……殺さないで……』
 縋りつくように抱きついてこようとする子供を軽くあしらったイェルがダンシングユニバースで地縛霊達を踊りに誘うと、子供達が踊りだした。そして、そんな地縛霊達を一網打尽にするように雹が隕石の魔弾を降らせてゆく。
「このまま行けば女の子は大丈夫そうですの」
「ひとまずはこれで一安心といったところでしょうか」
 女の子を抱えながら逃げていた3人が公園の入り口に辿り着こうとしているのを見たファルチェと狩耶はそう言葉を交わしあい、少年への攻撃を続けた。
 未だ自由を取り戻すことのできない少年の体を、ファルチェが指先でなぞって凍らせる。そこから間を置かずに少年に大きく踏み込んだ狩耶はオーラを纏った拳を叩きつけた。
「あの少女は、私達が母親に必ず会わせる。邪魔をするなら蹴散らすのみだ……!」
 そして、強い意志を込めた言葉と共に楓が少年に切りかかる。攻撃を受けながらも、彼の口にした言葉に惹きつけられた少年の視線がそちらに強く向けられ――
「うう、うぁぁ……ママぁぁッ!!」
 それまで体の自由が利かなかった少年は咆哮を上げ、眼前にいた楓へと襲い掛かった。

●求めてやまぬもの
 突き立てられるナイフに楓の顔がわずかに歪む。しかし、それ以上はやらせないとばかりにイェルが少年に肉薄し、舞いながら連続で攻撃を叩きつけた。
「家に帰って、ご飯の時間よ」
 雹も自分に標的を移そうと少年に呼びかけながら隕石の魔弾を落とし、二人を援護する。その間に素早く子供達が踊り続けているのを確認したイェルは、
(「呼びかけ、ねぇ。母親っぽく……なのかな? 母性ね……私に……」)
 僅かに悩むような表情を浮かべてため息をついてから少年に声をかけた。
「ほら、早くいらっしゃい。暗くなる前に帰るわよ〜」
 予想していたよりも優しげな声が自分から漏れて、イェルは何だか気恥ずかしくなる。だがその分の効果はあったようで、それまで雹に向けられていた少年の視線はイェルへと移っていた。
(「うわ、知り合いには見せらんないな……ファルと狩耶には後で口止めしとこう」)
 そんな風に思いながらイェルがファルチェに目を向けると、彼女は楓と視線を交わしてから動き出す。先に炎を纏った楓の妖刀『明星夜朱』が少年を切り裂き、弓なりに反り返るその体をフェルチェのさよならの指先が捉えると、少年は大きくふらついた。

 その頃、女の子を保護する役の紘緒は公園の外に逃れてからずっと泣き続けていた女の子を宥めていた。
「もう大丈夫だよ」
「ひっく、ひっく」
 何度も根気よく励ましていた甲斐があってか、女の子のしゃくりあげる声は段々と治まってくる。
 その様子にほっと息をついた紘緒は女の子に公園内を見せないように肩を抱き、公園内外を隔てる垣根の合間からアリーシャの姿を捉えるとそっと彼女にゴーストガントレットで加護を与えた。

 そうして紘緒から力を与えられたアリーシャは能力者達と同じく少年に向けて射撃を行い――その攻撃が少年を貫いた直後、ようやく踊りから開放された1人の子供がファルチェに抱きついた。
『行かないで……行かないで』
 その幼い外観から想像もつかないほどの力で締め上げられ、彼女は思わず苦悶の声を小さく上げてしまう。
「ファルチェさん!」
 少年にラビリスの斧と刃金のスキュラを交互に振るいながらその声を聞き、思わず彼女に呼びかけた狩耶。
 だが、ファルチェの苦しみは長くは続かなかった。 
「総てを癒す浄化の風よ……」
 公園内に柔らかな声が響いたかと思うと後方から風が巻き起こり、彼女を締め付けていた力がふっと緩む。
 それだけではない。攻撃を受けていた者の傷も少しずつ癒されていき――わずかに振り返った仲間達は、そこに樹とクェンティーナの姿を捉えた。
「うん、力出た……行くよ」
 自らが生成したギンギンパワーZを飲み干し、クェンティーナが少年を見据える。

『ママ、来て。早く、早く……どうして、来てくれないの?』
 ボロボロになりながらもひたすらに母親を求める少年は、その手をイェルに伸ばして言葉を投げかける。
「私はさ……そう言うの関係無いのよね」
 だが、少年からの恨み言を切り捨てることで体を蝕まれる痛みのみでやり過ごし、イェルはもう一度舞い踊る。
「子供だからって、おイタが過ぎるわよ」
 その激しい舞と共に何度も繰り出される攻撃に、少年がたたらを踏みながらも何とか持ちこたえる。そして、攻撃の終わりに上がった煙を引き裂いて次に現れたのは、デフォルメされた少年自身。
「小さな女の子を狙うなんて、許せないよね……自分に攻撃されて、みない?」
 それを描き出したクェンティーナが言葉を終えると、描かれた少年は少年へとまっすぐにぶつかった。
「女の子を助けるためにも、子供の姿だろうと手加減はしないわ」
 もはや少年はほとんど動けていない。それを見た雹は少年に呼びかけるのをやめ、子供たちをも巻き込んで再び隕石の魔弾を落としていく。
「夕焼けに染まった公園を見ると思いだしますの。よく、遅くまで遊んでた私を迎えに来た母と、一緒に手をつないで帰ったものですの」
 今となっては本当に懐かしい記憶ですの、そう続けるファルチェの方へと少年がゆっくりと顔を向けた。
「あなたも、もう帰りましょう?」
 柔らかく、囁きかけるように呟いたファルチェの指先が、するりと少年の体を撫でる。そして、その指先を追うように体が凍り付いていき――彼女の指先が離れると、少年はゆっくりと倒れる。
『ママ……』
 弱弱しい声と共に伸ばされる手。けれど、少年が消える瞬間まで、その手は何もつかむことはできなかった。

 これで、後は残された子供たちを倒すのみ。
 すでに何度も雹の攻撃に巻き込まれてボロボロになった子供達は、それでも縋りつこうと能力者達に向かってくる。
「皆、頑張れ」
 樹が再び公園内に巻き起こした浄化サイクロンに浄化と癒しを与えられ、楓と狩耶が子供達へと駆けた。
「手短に片付けさせてもらおうか……!」
「……これで終わらせましょう」
 せめて一思いにとばかりに繰り出された紅蓮撃と断罪ナックル。
 それぞれの一撃によって地に伏した子供達は、悲しそうな声を上げながら消えていった。

●望まれた再会が、今
 戦闘が終わったことを知らされた紘緒は、女の子を伴って公園に戻ってくる。
「そういえば、1人で何してたの?」
「あのね、ママを待ってたの」
 すっかり落ち着いたらしい女の子に紘緒が素知らぬふりで問いかければ、返ってきたのは予想通りの答えだった。
 ならば、と紘緒は言葉を続ける。
「なら一緒に待ってようか。俺も姉貴と待ち合わせしてるし」
「うん!」
 こうして彼らは女の子の母親を待つことになったのだが、あまり大勢の……それも見知らぬ人物達と娘がいれば母親に怪しまれてしまうかもしれない、という楓の言葉により、雹、紘緒、クェンティーナが女の子と共に残り、それ以外の面々はその場を離れることにした。

「これで一応、女の子をお母さんを会わせて、お別れしたら……あとは、早々に退散かな?」
「そうね。後の事は……なる様になるでしょ」
 距離は遠くながらも共に母の姿を待ち続けながら、言葉を交わすのは樹とイェル。
「それでも、怖い目にあったのだから早く母親に迎えに来てもらえるといいな」
 2人の会話に交わりつつも、楓が公園の入り口に視線を向けると――そこから女性が現れ、公園内に呼びかける。

「みぃちゃーん?」
「あっ、ママだ! ママーっ!」
 呼びかける母親に元気に答え、女の子が母親に自分の存在を知らせる。母親はその声に導かれながら近付き、待ちきれずに駆けてきた娘をしっかりと抱きしめた。
「ごめんね、遅くなって。……あら、あなた方は?」
 そして、娘をその腕で抱きしめたまま、傍にいた雹たちに不思議そうに問いかけてくる。
「1人でいるのは危ないから、ついてあげていました」
「最近は物騒だし、一人で寂しそうだったから」
 その問いかけに対し、雹とクェンティーナはできるだけ怪しまれないように注意しながら母親に説明すると、
「そうだったんですか……どうもすみません」
 むしろ申し訳なさそうな表情を浮かべながら3人に向かって頭を下げた。
「良かったね。……今の時期はもう暗いですから気をつけて下さいね」
 それを見て安心した紘緒は女の子に近付いて優しく声をかけると、母親にも一言だけそう告げる。
「ええ、ありがとうね」
「ありがとう、おにいちゃんたち! ばいばーい!」
 そうして彼らに礼を告げた母娘は、仲睦まじそうに手をつなぎながら公園の外へと歩いていった。

 母娘が公園を出てから遠巻きに見ていた仲間達も合流し、見えなくなるまで母娘の背を見送ったあと、終わりを告げるように樹が呟く。
「さて、これでもう大丈夫かな。細かいことはきっと世界結界が上手くフォローしてくれるだろうし」
 その言葉に皆が安堵の表情を浮かべながら帰り道をたどる中、狩耶だけが不意に立ち止まった。
「……」
 僅かな痛みを感じる胸に手をあてながら切なげに空を見上げ、彼女はさまざまなことを考え、思いを巡らせる。
「無事、少女を助けれて本当に良かったですの」
 しかしその思考は、直後に発せられたファルチェの言葉で不意に断ち切られた。
「……そうですね」
 そして、彼女にほんの少しだけ笑みを返した狩耶は空を見上げるのをやめて歩き出す。

 公園にはもう、待ち続けるものは誰もいない。
 皆が皆、前に向かって進んでいく――。


マスター:雪野原幸 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/10/15
得票数:楽しい2  ハートフル15 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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