いまどきの子供達とお菓子の家


<オープニング>


「何これ……お菓子の……家?」
「うーん、どこかの製菓会社のキャンペーンか何かじゃないかな」
「TV番組のどっきり企画か何かかも?」
 子供達は小学校低学年〜中学年程度に見えるが、いずれも利巧そうで「無邪気さ」「子供らしさ」と言う言葉からは少し遠く見える。
「……食べちゃう?」
「食べた後で、代金請求されたりしないよね? 毒物が混入されてたりとか」
「うん、おいひぃ!」
「もう食べてるし……まぁ、僕らも食べようか。もし何かあってもうちのパパは議員だし、ミツコちゃんのご両親は弁護士だから何とかしてくれるよ」
 子供達は少し考えた揚句に、結局は目の前のお菓子を食べることで合意した。
 ――パタン。
 3人の子供らがお菓子を食べるのに夢中になり始めた頃、どこからともなく現われた白ロリドレスの女は、そっと家の扉を閉めた。
「ふふ……いらっしゃい可愛い子供達。お菓子よりずっとあなた達の方が美味しそうよ」

「ジャック・マキシマムの配下、ナイトメアビースト達が動き出しているわ。『お菓子ハウス』こと誘森・菓子子は、罪もない子供達をお菓子の家におびき寄せ、悪夢を生み出す存在に変えてしまうの」
 柳瀬・莉緒(中学生運命予報士・bn0025)の言う通りであれば、一刻も早く子供達を救出しなくてはならない。
「けどね、それも簡単ではないのよ。子供達の悪夢から召喚される『はらぺこドラゴン』は、可愛い見た目に反してかなり強力な敵なの」
 正面からぶつかれば、腕利き能力者達とはいえ手こずるのは必至。
「出来るだけ楽をして勝ちたいものですねぇ」
 率直な感想を洩らすのは志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)。
「でも幸い、ドラゴンを弱化させる手があるわ。菓子子がドラゴンを召喚する間、子供達に手作りの料理やお菓子を食べさせる事よ」
 お菓子の家に導かれるのは、心に寂しさを抱えた子供達だ。
 彼らの心の空洞を埋めるような愛情溢れる手料理を食べさせる事が出来れば、自然と悪夢の力は弱まり、則ちドラゴンも弱体化すると言うワケだ。

「はらぺこドラゴンの数は3体、1匹は眼鏡を掛けていて吹雪を吐くわ。1匹はリボンをつけていて、仲間を応援する事で傷を癒す力を持っているわ。最後の1匹はかなり大柄な太っちょドラゴンね。タフでとにかく食欲旺盛だから、噛みつき攻撃に注意して頂戴」
 攻撃方法はシンプルで単調。弱体化に成功しさえすれば、相当有利に戦いを進める事が出来る筈だ。

「3人の子供達を、必ず救い出して頂戴。救出に成功すれば、子供達は間もなく目を覚ます筈よ」
 お菓子の家での記憶はかなり薄れて居る筈。
 自力で帰宅する事も出来るだろうから、余り大ごとにならない様に見守る程度で良いだろう。
「それじゃ、行ってらっしゃいっ!」
 かくて能力者達は、お菓子の家へ急行するのだった。

マスターからのコメントを見る

参加者
鈴木・奈津美(地味目の子・b02761)
那智・れいあ(空翔ける銀獅子・b04219)
琴月・ほのり(鳳翼の詠媛・b12735)
萩森・水澄花(アクロポリスロマンチカ・b25457)
詩刻・仄水(曼呪沙華・b29672)
紗白・波那(光巡る花・b51717)
白蜘蛛・命(幻精界の姫君・b54871)
上条・鳴海(雪割草・b55099)
NPC:志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)




<リプレイ>

●料理は心!
 長引いていた残暑も和らぎ、ようやく秋めいてきたこの時期。
 当然の事ながら、食欲も大いに増進される季節である。
 そんな折、銀誓館の調理室では実習でもないのに、料理の支度をする少女らの姿があった。
「冷たっ」
「こうして水に触れると、季節の移り変わりを感じるわね」
 琴月・ほのり(鳳翼の詠媛・b12735)と上条・鳴海(雪割草・b55099)は、たっぷりの水を使って丁寧に米を研ぐ。
「いやー、学生時代を思い出しますねぇ」
「ほら、涼子さんも手伝って。力いるんだコレ」
 学生時代も他の班員に任せっきりだったらしい志筑・涼子(残念な子と呼ばないで・bn0055)を手招きしつつ、パン生地を捏ねる那智・れいあ(空翔ける銀獅子・b04219)。
「あっちは手巻き寿司とおにぎりでぇ……萩森さんはサンドイッチですかぁ」
「うん、手掴みでも食べやすいしね。フルーツサンドとホットサンドも作りたいな」
 萩森・水澄花(アクロポリスロマンチカ・b25457)は、サンドイッチに挟むためのハムや野菜を刻む。
 味は勿論の事、見栄えにも気を遣って丁寧に包丁を操っている。
「涼子さん、手が空いたらこっちも手伝ってね」
 一方、こちらはスイーツ組。
 紗白・波那(光巡る花・b51717)はレシピと首っ引きでクッキー作りの真っ最中。
「やっぱり、こうやってみんなで作ると楽しいね。ドーナッツ〜……♪」
 意外にも(?)菓子作りは好きだと言う白蜘蛛・命(幻精界の姫君・b54871)。さすがに手際よく卵や牛乳、バニラエッセンス等を加え泡立て器でかき混ぜる。
「完成したら、皆で味見しようよ」
 一方、詩刻・仄水(曼呪沙華・b29672)はチーズタルトに用いる生地に、フォークで空気穴を開けつつそんな提案。
「おおう、そいつぁ名案って奴ですぅ! ところで、この甘い香りは一体どこから〜……」
 勢いよく賛成を示した涼子が視線を巡らせると、どうやらその香りは鈴木・奈津美(地味目の子・b02761)の方から漂ってくるらしい。
「秋っぽくて良いかなぁと。……子供達に喜んで貰えたら良いですけれど……」
 奈津美が制作中なのは、スイートポテトアップルパイ。旬の食材を贅沢に使った一品は、いかにもタイムリーだ。茹でたサツマイモを裏ごししながら、贈るべき相手――子供達のことを思い遣る。
「うん。子供達、笑顔になってくれるといいな」
 彼女達が料理を作るのは、悪夢に囚われた3人の子供達を救う為。
 幼い心に空いた隙間を埋めるには、愛情の籠もった手料理が必要なのだ。
「みんなで楽しい、って気持ちもいっぱいこめて作っていこう〜」
「「おーっ」」
 真剣に、かつ楽しみながら、一同の料理作りは進行して行く。

「うひゃ、どれもめちゃめちゃ美味しそうですぅ! もう餓死寸前ですよぅ」
 次々にオーブンが開かれ、皆の作品が披露されてゆく。調理室の中は、瞬く間に美味しそうな匂いで満たされた。
「あれ、皆お昼食べてきたんじゃ……」
「甘いものは別腹ですよ! 乙女の常識じゃないですか!」
「じゃ、早速頂きましょう」
 各々作品を交換し合い、試食会を始める。
「うま〜♪ うちらでメイド喫茶出来るレベルだわ!」
「これなら喜んで貰えそう」
「うん、美味しい、ばっちり! 涼子さんが分量測らないで入れようとした時はどうなるかと思ったけど」
「いやいや……そこは職人の勘って奴でぇ」
 ともかく、どこへ出しても恥ずかしくない程の出来映えで、彼女たちの手料理は完成したのだった。

●究極の手料理!
「ふふっ……どんどんお食べなさい、子供達。そして良い悪夢を一杯みてね」
 お菓子の家では、子供達が文字通り脇目もふらずにお菓子を頬張っていた。満ちることのない空腹と寂しさを埋め合わせるように、ひたすらに。
 ――バァン!
「っ!?」
 そんな様子を満足げに、うっとりと眺めていた菓子子だが、クッキーで出来たドアが唐突に蹴破られて我に帰る。
「……ノックも無しに、随分と不躾なお客さんね。しかも可愛くないし」
 能力者達の顔を見回し、憮然と言い放つ菓子子。
「3人とも夢の中に閉じ込めさせません」
「このロリコンめ、覚悟しろですぅ!」
 びしっと決めた奈津美と、涼子の物言いに対して片方の眉をひくりと動かす菓子子。
「いきがっていられるのも今のうちよ……はらぺこドラゴン出ておいで!」
 言うなり、早速ドラゴンの召喚を始める。
「それじゃこっちも。遠慮なくどうぞ」
 れいあはバスケットに被せた布を取り、かぼちゃパンを子供達の前へ。
「……」
 これまで、何かに取りつかれた様に菓子を食べ続けていた3人の子供だったが、甘いカボチャの匂いに微かな反応を示す。
 焼きたての手作りパンなど、これまでに食べたことも無かったのだろう。子供達はれいあのパンを黙々と頬張り始める。
「どうか夢から醒めて……」
 更に、水澄花が差し出したのはサンドイッチ。
 今は多忙な母親達だが、かつては愛情の篭ったサンドイッチを作ってくれた事もあるのだろう。
 逆に新鮮な食感であろうフルーツサンドやホットサンドと共に、子供達の胃と心を満たして行く。
「おにぎりってちゃんと手で握るんですよぉ〜?」
 続いてほのりが差し出したおにぎりも、子供達にとっては懐かしい味であろう。
 具材も梅、おかか、鮭と、誰もが一度は食べたことのあるスタンダードな物。
 コンビニに行けば、様々な具材の入ったおにぎりを買う事は出来る。けれど、手で握ったおにぎりこそ本当のおにぎりだ。
「今度時間があれば、ご両親のお手伝いしてみるといいですよぉ?」
 食べる事もそうだが、教わりながら料理を作る事もまた楽しい物。忙しい両親を手伝う事にも繋がるし、一石二鳥だ。
「こっちも出来たわ。本当は皆でわいわい巻いて欲しかったけど……さぁ、召し上がれ」
 そうしている内に、鳴海の手巻き寿司もいよいよ完成。
 巻きたて海苔の香ばしさや、ぎっしりと詰まった具材の豪華さを、子供達は小さな口一杯に味わってゆく。
 一同の手料理は間違い無く子供達に働きかけた筈だが、まだ心もお腹も満杯にはなっていない様子。
「今度は甘い物をどうぞ」
 待ってましたとばかりに、波那が取り出したのはクッキー。
 動物を模した可愛らしいクッキーに、子供達は夢中で貪りつく。
 かなり多目に作ったつもりだったが、それが無くなるのにさして時間は掛からなかった。
「友達、大事にしてね」
 そんな子供達を微笑ましげに見守りながら、そう告げる波那。
 多忙な親の代わりは居なくとも、同じ境遇に耐え、励まし合える友達は居るのだから。
「次はタルトを召し上がれ」
 すかさず、チーズタルトを切り分けて子供達の前に差し出す仄水。
 お菓子で出来た家を山ほど食べてきた子供達だが、仄水による手作りタルトは明らかに別物。
 これまた瞬く間に平らげてしまった。
「ボクはドーナッツだよ〜。みんなで食べよ」
 皿に山盛りになったドーナツを出すのは命。
 ご多分に漏れずドーナツ好きであるらしい子供達は、両手にドーナツを持っては交互にかぶりつく。
「では、次はこちらを」
 続いて奈津美が提供するのは、一際甘い香りを放つスイートポテトアップルパイ。
 見栄えも味もパティシエ顔負けといったレベルで、子供達はこれもアッという間に完食。
 食材、センス、技術……確かに美味しい料理を作る為に必要な要素は数多ある。
 けれど、食べる人間の事を想いながら、手間暇を惜しまず作る事こそ究極のコツと言って良いだろう。
「ふふふっ! お待ち遠様、あなた達をたっぷりお仕置きする準備が出来たわ」
 さて、子供達が一定の満足を得たところで、満を持してカットインして来た菓子子。大仰に両手を広げると……。
 ――がおーっ。
 現われたのは3匹のドラゴン。しかしお世辞にも、強そうには見えない。
 それもその筈、力の源である子供達の寂しさが、能力者らの手料理によって大幅に薄れてしまったのだから。
「この能力、もしかして貴方の過去の反映なのかしら」
 ヤドリギの祝福を受けつつ、ふと尋ねる鳴海。
「過去? 私は未来と無抵抗な子供にしか興味が無いわ! その妨げになる貴女達はだいっきらい!」
 しかし菓子子は、敵愾心を露わにそう返す。まともに会話が成立しそうにはない。
「だいじょーぶ、あんなの、すぐにやっつけちゃうからね! IYA! 爆ぜる風統べし者……その力を、ここに現わせ!」
 白燐蟲を纏いつつ、子供達に声を掛ける命。
「子供達を返して貰います!」
 次いで、狩猟体勢に移行しつつ言い放つ奈津美。
「ふ、ふん! ちょっと弱体化してたって、アンタ達くらい楽勝よ!」
 若干焦りつつも、虚勢をはる菓子子。
「かわいいんだけどなー……ちょっと残念。残念だー」
「ですねぇ、色々と残念ですぅ」
 高速演算プログラムを発動しながら率直な感想を述べる仄水に、頷きながら虎紋覚醒を用いる涼子。
「な、何が残念だって言うのよ!」
「23歳で白ロリかあ……ちょっと無理があるんじゃない?」
 黒燐奏甲を独鈷杵に纏わせ攻撃力を高めつつ、ズバリ切り出す水澄花。
「うん、23歳でお菓子とかリボンとか面白いね」
 こちらもこくりと頷き同意しながら、魔方陣を展開するれいあ。
「な、なぜ私の歳を……べ、別に何歳だって良いでしょ! 女の子は幾つになっても可愛い物と甘い物が好きなのよ!」
「女の子……」
「何か文句でもっ!?」
 正論で応じながらも、やはり自分より若くてピチピチした、正真正銘の女の子達に言われると、内心穏やかでは無いらしい。
「あとでギャグ漫画のネタに描いてあげるね。菓子子おばさん」
 幻影兵団を展開する波那は、ついに禁句を口にしてしまった。
「オ、オバ――?!」
 ブチリ、何かが切れる音。
 それを合図に、戦いの火ぶたは切って落とされた。

●Wakeup!
「はらぺこドラゴンさんは隕石でも召し上がれ〜♪」
 ほのりが降らせた隕石の魔弾が、凄まじい爆炎を生み出しドラゴン達を飲み込んでゆく。
 いかに菓子子が激怒してみても、戦力差は圧倒的。能力者達の苛烈な攻撃の前に、弱体化したドラゴン達は明らかに劣勢だった。
「集中攻撃でいこう」
「ドラゴンの丸焼きね」
 ――ぴぎゃー……。
 れいあが蒼の魔弾を放つのに呼応し、水澄花の拳が太陽の如く燃える。加えて鳴海の指先が触れると、眼鏡ドラゴンはついに倒れ伏す。
「こ、これはちょっとヤバイかも……」
 明らかな劣勢を見て取ると、ジリジリ後ずさり始める菓子子。
「何で離れてるの? コピーなのに逃げ腰とか爆笑だわ〜」
 そんな彼女を見るや、明白な挑発を仕掛ける波那。
「う、うるさい! コピーだって攻撃されたら痛いのよ! あっ」
 思わず口を抑えるが、時既に遅しである。
「と、とにかく今日の所は見逃しておいてあげるわ」
「そうは、問屋がおろさないよ〜……ハスター! ぶっ飛ばしちゃえ!」
 ――どごぉっ。
 逃走を図る菓子子だが、それを見越した命は痛烈な一撃を見舞う。
「ぶぎゃっ!? い、いたた……何するのよっ!」
 砕けて瓦礫と化した飴細工のテーブルに手を突き、どうにか起き上がる。
(「菓子子さん見た目結構かわいいんだけど、高飛車と言うかドSと言うか……ちょっといじめたく……あれ?」)
「な、何よ……なんかこの子の眼、怖い」
 そんな仄水の心を見透かした訳ではないだろうが、何か危険な物を察して警戒を強める。
「罪無き子供を巻き込んだ報い、僅かでも受けて下さい」
「覚悟ですよぉ」
「ぎ、ぎゃぁぁぁ〜!」
 奈津美の黒影剣、仄水の雷弾、波那のGペンが容赦のない裁きを下す。
 かくして、はらぺこドラゴンと菓子子(のコピー)は退治されたのだった。

「大丈夫?」
「う、うーん……あれ?」
「ここは……私達、寝ちゃってたの?」
 水澄花の声で眼を覚ました子供達は、辺りをきょろきょろと見回す。
「ヤバイ! もうこんな時間だ、帰らなきゃ!」
「うん、お腹もすいたしね」
「あんなに食べたのに? ……あれ、どこで食べたんだっけ」
「とにかくお姉ちゃん達有り難う、バイバイ!」
 子供達は夢か現か、曖昧な記憶に首を傾げながらも、そのままそれぞれの家へと帰って行く。
「大丈夫そうだね、ボク達も帰ろう」
「うん。あの子達には両親の愛情が何より大事だって、解って貰えるといいね」
 暫く彼らの後ろ姿を見守っていた一同だが、彼女らも帰途へ着く。
「なんだかお腹空きましたねぇ……帰りにどこか寄っていきましょうかぁ? 頑張った自分達へのご褒美的な意味でぇ」
「だったら、やっぱり甘い物がいいかなぁ」
 天高く馬肥ゆる秋。
 ナイトメアとの戦いはまだまだ続くが、任務を終えた乙女達は若干の寄り道をしながらも、凱旋の途に着いたのだった。


マスター:小茄 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/09/29
得票数:知的1  ハートフル14 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。