橋上挟殺


<オープニング>


「こんな所の歩道橋、誰が渡るんだ?」
「……さあ?」
 暇をもてあまし、車をむやみに走らせていた二人の若者は、その存在がなぜか気になった。
 周囲には人家もない。
 ただ草が生え放題の大地を行く4車線の道路。
 その最中にあったのが、歩道橋だった。
「近くに横断歩道もあるぞ?」
「何で作ったんだろうな……」
 車を止め、何気なく歩道橋をのぼる。
 高めの視線になっても人家は見えず、ますます存在意義が分からない。
 と、
「おい、今何か音がしなかったか!」
「あ、ああ。聞こえた!」
 大きな鞄でも転がせば、こんな音がするかもしれない。
 もしくは、人が転げ落ちればこんな音が……。
 確認せねばと駆け出そうとした2人は、なぜか逆方向に体を向ける。
「こっちだろ!?」
 声が重なった。
 2人は一時にらみ合い、結局は各々が聞こえた方へ駆けた。
「!? 大丈夫です……か?」
 最悪の予想通り、そこには人が階段の途中でうつぶせに倒れていた。
 だがそれは予想とは違い両腕で階段を這い上ろうとしている。
 しかも、速い!
 悲鳴も出せずに引き返す。が、向こうからも驚愕の表情を浮かべた友人が走ってきていた。
 お互いに察する。向こうにも同じものが出たのだ。
 友人の肩越しに階段を登ってきたモノを見た。
 持ち上げられた顔は、半分が潰れ見るに堪えない。
 とても生者とは思えないソレは半分だけの口で笑うと、
『アハ、アハハハハハ!』
 突っ込んできた。
 
「集まってくれたか、感謝する」
 運命予報士、袴田・緋矢は集まった能力者の面々を見回すと分厚い本をしまい、代わりに黒革の手帳を取り出した。
 手帳をめくり、目的のページを探しながら言葉を続ける。
「向かってもらいたいのは周りになんにもないような田舎、と呼ぶのもどうかという場所だな」
 もはや使う者もいないような、朽ちかけた歩道橋が事件現場だった。
「すでに2人殺されている。放っておけば犠牲者は増えるだろう。たとえ可能性がわずかだとしてもだ」
 今回の犠牲者は運が悪かったと言わざるおえないが、その運の悪い人が世にどれだけいるか分からない。
「現場に着いたら歩道橋にのぼってくれ」
 のぼるのは全員。
 1人でも下に残っていたら敵は出現しない。
 また全員が、階段が見えない場所にいなくてはいけない。
「階段をのぼりきった場所とかに居るとダメだ。落ちる瞬間を見られたくない、ということかもな」
 音が敵の出現を教えてくれる。
 敵は出現と同時に階段を駆け上り、橋上の能力者を挟み込むように襲いかかるだろう。
「敵は俊敏で、低い位置から攻撃をしてくる。また戦場は狭い歩道橋の上だ」
 歩道橋の広さ的に、横に並べるのは2人が限界。
 飛び降りるという選択肢もあるが、力量が足りなければ失態を演じることになるかもしれない。
「エアライダーなら問題無いだろうがな……しかし、実際なんであんな場所に歩道橋があるのか」
 昔は周囲の環境も違ったのかも知れない。
 少なくともそれを必要とする人がいて、その中に不幸な事故に遭った者が居たのだろう。
「結果、救いを求めるでなく、笑いながら犠牲者を求めるのでは同情などできんがな」
 地縛霊の思念を思い、しかし緋矢はばっさりと切り捨てると、能力者を今一度見回す。
「重傷を負わせた上で階段をひきずり下ろす、それが奴らのやり方だ」
 過去視で見た光景を思い出し、緋矢は表情を歪める。
 浮かび上がった怒りをかみ殺して、能力者へ頭を下げた。
「ここで止めてくれ。あんなモノが存在していてはいけない。どうか、宜しく頼む」

マスター:皇弾 紹介ページ
 当シナリオは、地縛霊討伐依頼となります。

 戦場は歩道橋上。
 幅はヒト二人が並べる程度しかありません。
 光源は充分、広さ以外の障害物もありません。

 歩道橋に全員が上がることで敵が出現します。
 ただ、階段が見える位置にいては現れません。
 歩道橋の中程まで行けば現れます。

 敵は地縛霊が2体。

 這いずるモノ 気魄術式型 ×2
(近接単体/術式/回避困難/麻痺)
(近接全周/術式/締め付け)
(近接単体/気魄/ダメージ大)
 3番目の能力は、追い詰められるほど使用頻度が上がります。

 成功条件は全ゴーストの討伐。

 以上、皆様のプレイングをお待ちいたします。

参加者
赤目・虚太刀(鬼哭啾襲・b03674)
刈谷・紫郎(見通す者・b05699)
伊藤・洋角(百貨全用・b31191)
祭屋・宴(舌切り雀・b38961)
アルスセリア・カーライル(雨夜月・b45933)
ジェニファー・ラングストン(高校生真ゾンビハンター・b54437)
榮柄・黎己(閃煌たる蒼焔・b61614)
橡・刻遥(闇檻・b61837)



<リプレイ>

 とある日、夕刻も近い頃合い。
 ヒトも車もほとんど通り過ぎもしない場所に、存在意義を失った歩道橋はあった。
 昨今では、二人を向こうに渡し損ねた歩道橋。
 そのたもとに9人の能力者は立ち、
「んじゃ、行くぜ」
 アルスセリア・カーライル(雨夜月・b45933)に赤目・虚太刀(鬼哭啾襲・b03674)は軽く頷き、一歩目を階段に乗せた。
 刈谷・紫郎(見通す者・b05699)が後に続く。
「舎にぽつんと突然現れる歩道橋、というのは、マニアとかの興はそそるのかもしれん、が」
 後ろへ振り返り、
「いっそ誰も渡れないように、皆でこの歩道橋ぶち壊して万事解決、ていうのは……駄目?」
「結局、残留思念は残ることになるしな。しかし、確かにこんな場所に歩道橋とは不思議だ」
 呆れたような吐息を零し、橡・刻遥(闇檻・b61837)は周囲を見渡した。
 見えるのは道路の黒と、草木の緑、空の青。ソレだけだ。
「これは税金の無駄遣いってやつかもしれませんね」
 伊藤・洋角(百貨全用・b31191)がひどく現実的な言葉を口にして、階段をのぼりおえた。
 右に曲がり、進む。
「周囲に一般人がいないのはありがたいですけどね」
 登りきる前にいまいちどあたりを確認し、榮柄・黎己(閃煌たる蒼焔・b61614)がイグニッション。
 皆が武装を展開する。
「おぉ、意外と高いのー。……ガクブルぞよ。足から落ちたらいいかのう」
 ふと歩道橋の下を覗き込んだジェニファー・ラングストン(高校生真ゾンビハンター・b54437)が口端を引き攣らせた。
 この橋が特別高いという訳ではないが、飛び降りるとなれば怖い高さだ。
 加えて、祭屋・宴(舌切り雀・b38961)は思う。
「へぇ、この高さとあの角度じゃ、痛いだろうね」
 のぼりに使ったあの階段。
 敵は犠牲者を階段からひきずり下ろし殺すのだ。
「何がしたかったのかね。死んだら終わり。それじゃいかんのかね」
 先頭集団が止まったのに合わせ、宴も足を止める。
 一息の間の後、音が聞こえた。
「さて、現れたようですね」
 洋角が視線を向ける向こう。何か大きなものが、階段を転がり落ちる音が響いた。
 それが一番下へとたどり着き、高速で這い上がる音が続く。
「来た。時間はかけず……全力で、行きます」
 陣中央にてリフレクトコアを発動した黎己が素早く左右を確認。
 這い上がったソレがこちらへ向き直る。
 アルスセリアの招きでこの場に参じた威河・紅耶がサイコフィールドを展開。
 淡い輝きの上を、ボサボサの長髪を振り乱し、笑いながら、四つん這いの敵が迫る。
 いまのぼってきた方向、迎撃の最前に立つのは3人。
 ジェニファーが鎖剣を一閃、応じ足下より伸びた影が魔手となり地縛霊を裂く。
 だが勢いは減じることなく敵は接近。
「挟撃とかうわなにそれかっこいい。けど相手を見誤ってんじゃねぇですだよー?」
 黒燐奏甲を発動した宴、洋角がそれを受けた。
「紫郎ちゃん先輩、そっち任せたー」

「簡単に言う」
 黒燐奏甲を発動後、旋剣の構えを取り、
「だが、まぁ……何の恨みがあるのか知らんが。速やかにお引取り願おうか」
 紫郎がダークハンドにて攻撃を開始。
 それに先んじて、ハンティングモードの虚太刀と黒燐奏甲を携えたアルスセリアが交戦を開始していた。
「うわ、想像以上にグロいな、おぃ」
 ゴワゴワの黒髪がアルスセリアの振り下ろした黒影剣を捉え、その軌道を強引に逸らさせた。
 次いで下段より跳ね上がるように突き出されるのは、地縛霊の枝葉のように細い手指。
 槍の如き鋭さのソレをもう一方の長剣で払い除ける。だが、敵も腕は1つではない。
 もう一手が脇腹をかすめ裂き、痺れが全身に来た。
 その痺れを黎己のヘブンズパッションが吹き飛ばす。
「銀の雨により歪んだとはいえ、人の死を喜ぶモノの存在を許すわけにはいかない」
 執拗に押し込んでくる敵を、虚太刀が左で薙ぎ、
「笑うな」
 インパクトを、笑い声を上げ続ける口へと叩き込んだ。
 わずかに逸れて頬を大きく抉り、
「さて、終わりにしようか」
 続く刻遥がヤドリギの祝福で己を強化した後、狐の耳と九尾を顕現。
 尾は自らの意志を持つかのように飛ぶ。
 ランスの如き九撃は五本が動きを封じるように周囲を穿ち、三が黒髪と拮抗、一が貫通した。
 でも、敵は滅びない。すでに半顔が潰れている。穴が空いたところで意に介さない。
『アハ、アハハハハ!!』
 敵の黒髪が蛇のように蠢き、近接していた能力者に絡みつく。
 締め付ける感覚が、全身に宿り離れなくなる。
「紅!」
「うん、状態異常はわたしが!」
「任せます!」
 アルスセリアの声に紅耶が応じ、黎己は託して攻めに出る。
「光よ、敵を穿つ槍となれ」
 光槍が駆け、敵右足を穿った。

 洋角の目が見開かれ、呪いの魔眼が発動する。
 敵が肩を内側から裂かれ、態勢をわずかに崩しながら来る。
「……やっぱ耐えるだけってのは退屈だし」
 敵手刀を呪髪で捕らえ、こちらの剣を黒髪に捕らえられ、
「潰す気で参るよ」
 姿勢低く突撃敢行。
 元より低い敵の顔面を正面で見据え、
「顔半分が潰れ見るに堪えない? ハンッ」
 頭を突き出し、
「もう半分も潰してやろうか?」
 ライジングヘッドバットが顎を叩き潰した。
 さらに敵側面へ回り込んだジェニファーが剣を頭上で一旋、黒影剣を叩き込む。
『ギャッ!? ギャ、アハハハ!』
 敵は衝撃でバウンドし、笑い、黒髪を蛇と変じて締め付けに来る。
 幾つかを切り払うも避けきれず、全身に締め付けの感覚を得る。
 だが黎己の詩が聞こえる、紅耶の舞のリズムを感じる。
 だから、問題無い。
「倒れてもらうわけにはいかないからな」
 刻遥がヤドリギの祝福を行い、洋角が治療符を手元に現しているのが分かる。
 だから、戦闘は継続。
 こちらを引きずり下ろそうとするヤツら。
 だが落ちるのは、ヤツらの方だ。
 それを、教えてやらねばならない。

 打ち込んだインパクトは敵に掴み止められた。
 虚太刀はとっさに飛び退くも、伸びるように追い縋った手に腕を掴まれる。
 チャーンソー剣の刃を押し当て敵を切り離す。
 だが異常な握力で握られた腕には、力が入らなくなるほどのダメージがあった。
「さがりな!」
「狩谷、頼む」
 アルスセリアの援護を受け後退する虚太刀に代わり、紫郎が前へ。
 敵はもはや駆け回ることもせず、力任せに腕を振り回しこちらの腕を取ろうと迫る。
 是が非にも、こちらを階段から引きずり下ろそうということだろう。
『ギヒッ? ギヒイヒヒヒ!!』
「必死だな」
 つまり後がないということだ。
 伸ばされてきた手から逃れるのでなく、むしろ斬り込みながら紫郎が笑む。
「貴様ら程度にどうこう出来る程ヤワな鍛え方はしてないさ」
 黒の闘気を纏った斬撃により、地縛霊の腕が宙を舞った。
 アルスセリアが距離を詰める。
 敵はさすがに危機を感じたか、後退しようとするが。
「まず一つ」
 刻遥の九尾が後方を塞ぎ、さらに二尾は地縛霊の背を射貫き地面へ縫い付けた。
 逃げられない。
 そこに黒影の一撃を受け、地縛霊は消失した。
「封術の回復を頼む。さて……」
 穿った敵の気配が消えるのを察しつつ、振り返る。
 今までは二方面作戦だったが、これで戦力は一極集中だ。
「……終わりにしましょう?」
 同じく、残る敵へと振り返った黎己が間髪入れず光の槍を射出。
 敵は肩を抉られ、わずかに怯み、しかし嘲笑を止めることなく、その手を伸ばし続ける。

 宴のライジングヘッドバットを受けて動きを止めた敵へ、ジェニファーが斬り込む。
 大上段からの一撃はしかし黒髪に止められ、敵の伸ばした手がこちらの腕を掴んだ。
「むっ」
 答える暇もなく強引に腕を振るわれ、体が歩道橋の壁面へ叩きつけられる。
 それで終わらず、敵はそのままジェニファーを歩道橋から押し落とそうと力を込め、
「やめろ」
 後頭部に虚太刀のインパクトを叩き込まれ顔面から地面に激突した。
 一瞬力がゆるんだ隙に、刻遥がジェニファーの腕を引き助け出す。
「落ちるのはあいつらだけでいい。しっかりしろ」
「すまん、のー」
「治療しますから、一旦さがって下さいね」
 洋角が治療符を片手に出現させながら手招き。
 ここまで来て無理に押し続ける必要もない。
 敵はすでに追い詰められている。
 ならば後は確実に、
「完殺する」
 呟き、放たれたインパクトは敵が掲げた手のひらをわずかに抉り止められた。
 だが衝撃に直ぐさまには動けない敵へ対し、能力者の容赦ない攻撃が注ぐ。
 黎己の光槍を顔面に受け、敵の顔は二割程を残して吹き飛ぶ。
 アルスセリアとジェニファー、紫郎はそれぞれが得物の切っ先を敵目がけ突きだした。
 三つの影が敵へと伸び、三つの魔手となって敵を裂く。
 敵は動こうとする。だがその為の足の一本が洋角の呪いの魔眼に内から切り落とされた。
 刻遥の九尾が四方から襲いかかり、宴のヘッドバットが敵の残る顔面を全て砕く。
「でも動く、か。ホント、えぐいねぇ」
「だが終いだ」
 のたうつように動く敵へ、虚太刀が切っ先を合わせ、
「完殺」
 渾身のインパクトが風穴を穿つ。
 敵は数度震え――霧散した。


「とりあえず、お疲れさまでした」
 戦闘で得た熱が冷めた頃、洋角はイグニッションを解除すると戦友の顔を見渡して微笑んだ。
 誰1人欠けていないことを確認し、その笑みは深くなる。
「ふう。狭いとこは戦いづらいの―」
 壁により掛かり一息つくジェニファーに紫郎は頷き、
「確かに、面倒な相手だったな」
「うー……何かお腹すいた……」
「だな、だが正直しばらく肉料理は食え……」
「ご飯……お肉食べたい。ということで紫郎ちゃん先輩。焼肉かハンバーグね!」
「……何? た、タフだな宴ちゃん……」
 目をキラキラ輝かせている宴に、苦笑を向けた。

「しかし、見晴らしだけはいいですね、ここ……何もないですが」
「そうだな……ただ、星はわずかに近いか」
 刻遥の呟きに、洋角も空を見上げる。
 いつの間にか日が沈み、星がちらほらと見え始めていた。
 都会では見られないほどの、大量の星が。
 皆も星空を見上げ、
「この眺めが、犠牲者の方々の慰めに、わずかにでもなれば良いですね」
 黎己は静かに黙祷を捧げる。
「元は人々が行き交った場所。役目を終えた今は、静かに朽ちていってほしいものだ。誰に、侵されることもなく……」
 降るような星空に片手を伸ばす虚太刀は、静かな笑みを湛えて願った。


マスター:皇弾 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/09/29
得票数:カッコいい16  せつない1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。