廃ビルの残滓


<オープニング>


「だいぶ遅くなっちまったなぁ、早く帰ろうぜ」
「ちょっと待ってくれ、二階に道具があるんだ」
「早く取ってこい、夜の廃ビルとか気持ち悪いんだよ」
 オフィス街から少し離れた場所にある三階建ての雑居ビル。解体予定のその廃ビル内で、解体業者の男が三人、そんなことを言っていた。
「しっかしなんでこんなに荒れるまで壊さなかったんだ? ここ」
「さぁなぁ。あれじゃね? なんか出るとかなんじゃね?」
 道具を取りに行った男を、二人は一階で待っていた。
「早くこんなところ出たいぜ……お、来た来た………お、おい……後ろ……」
 二階から道具を持って降りてきた男の後ろには、一見で正気ではないとわかる狂気じみた笑みを浮かべる女の姿があった。
 
「お集まりいただきありがとうございます」
 時瀬・由貴(高校生運命予報士・bn0241)は昼休みに空き教室で能力者達を迎えた。
「とある解体予定の雑居ビルで、解体業者三名が地縛霊によって命を落としました。彼らはたまたま運悪く地縛霊の出現する時間帯に居合わせたため犠牲になってしまいましたが、昼間などは影響がないため人の出入りはなくなっていません。このままでは次の犠牲者が出るのも時間の問題です。そうなる前にみなさんにはこの地縛霊を倒していただきたいのです」
 由貴は手帳を開いて続けた。
「この雑居ビルは三階建てで、各階にフロアは一つ。この一階から屋上まで全てのエリアが地縛霊のテリトリーで、地縛霊が出現する時間帯に一度ビルへ入ると、日が昇るか地縛霊を倒すまで外には出られません。どの階もガラスの破片や瓦礫などで足場が悪い上に、地縛霊はそれらを飛ばして攻撃してきます。また、犠牲になった作業員三名がリビングデッドとなって現れます。どのタイミングでどこの階に出てくるかなどはわかりませんが、地縛霊より先に遭遇した場合は先に殲滅した方がいいと思います。ただ、リビングデッドを囮にして地縛霊が奇襲をかけてくる可能性もあるので注意が必要です」
 由貴は一度言葉を切って手帳のページをめくり、続ける。
「地縛霊の攻撃はガラスや瓦礫を飛ばしての遠距離攻撃と、近距離では両腕を刃物のようにしての斬撃、密着状態からの吹き飛ばし攻撃が主です。リビングデッドは動きが遅く攻撃も単調ですが、一撃は重いので注意してください」
 
「ちなみに建物内は地縛霊の特殊空間になっているので、外に出られないのに加えて照明等が点けられなくなっています。幸い今は月が満月に近いので、目が慣れれば月明かりや外からの光で動けるとは思いますが、足下が悪い上、暗いことに変わりはないのでくれぐれもお気をつけください。調べてみたところ、以前このビルで自殺者が出たらしく……今回の地縛霊がその騒ぎと関わっているかはわかりませんが、ビルをテリトリーにし、ターゲットを逃がさないようにする様子は、どうもこのビルと縁が深いように思えます」
 由貴は手帳を閉じると能力者達に向き直った。
「ですが情けは無用です。相手はゴーストで、すでに犠牲者が出ている以上、倒す他はないのです。対峙する相手より、どうか御自分と仲間のことを思ってください。皆さんが無事に帰ってくることを祈っております。ご武運を」

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参加者
水無月・亜理沙(冥土令嬢・b25690)
ヴィルヘルミーネ・タカナ(中学生真雪女・b28381)
伊藤・洋角(百貨全用・b31191)
降魔・散人(反武術に至る者・b52388)
功刀・伊知郎(深紅の錬士・b65782)
ハニー・ライアン(魔性の女・b67281)
七村・晶(異剣・b69126)
霧島・縁(夜空を巡る風・b70139)



<リプレイ>

●まずは屋上へ
 日が落ち、皆々が帰路についてしばらくした頃、とある廃ビルの前に八人の人影があった。
「ではまず屋上へ行きましょうか」
 柔和な顔でそう言ったのは伊藤・洋角(百貨全用・b31191)。
「せやね、ここから見る限りじゃなにもわからへんし」
 ヴィルヘルミーネ・タカナ(中学生真雪女・b28381)がそう言う。
「じゃぁ先頭はまかせてください」
「一応イグニッションはしておきましょうか」
 降魔・散人(反武術に至る者・b52388)と水無月・亜理沙(冥土令嬢・b25690)が先に立って朽ちかけたビルの中に入った。
「う、なんか変な感じがしたわ」
 建物内に一歩入るなり、ハニー・ライアン(魔性の女・b67281)が表情をしかめてそう言う。それに霧島・縁(夜空を巡る風・b70139)が応えた。
「ここからもう敵のテリトリーだからかもね」
「ふむ、照明は持参した物も使えないようだ。屋上で目を慣らすしかないな。
 功刀・伊知郎(深紅の錬士・b65782)が持ってきた懐中電灯をカチカチと操作したが、まったく光る様子はなかった。
「廊下や階段に瓦礫はないようですね」
 伊知郎と共に殿をつとめる七村・晶(異剣・b69126)は、階段を上りつつ辺りを見回しながらそう言った。
「………屋上、敵の姿はありません」
 先頭を行く散人が軋んだドアを開ける。今日は月が大きく、雲もないので月明かりが思ったより明るい。
「ここで目を慣らしていきましょう」
 洋角がそう言い、ハニーが見張りとしてドア付近に立つ。
「念のため、瓦礫どけとこうかな」
 屋上で戦う可能性も考え、縁は軍手を着けると目立つ瓦礫を端へ寄せた。
 しばらくして、皆だいぶ暗さに目が慣れてきたので、各々が具現化した武器を手にして立ち上がった。
「さて、行こか」
 ヴィルヘルミーネの言葉に皆頷いた。

●接敵
 列の先頭を亜理沙と散人が固め、その後ろに洋角と縁が続く。さらにハニーとヴィルヘルミーネが続き、最後尾を守るのは伊知郎と晶だ。
 そして、先頭の二人が三階の部屋へ入ると、月明かりに照らされた荒れた室内に、一体のリビングデッドの姿を確認した。
「リビングデッド一体発見」
 散人が後ろへそう囁き、亜理沙とタイミングを合わせて部屋へ飛び込む。すぐさま霧影分身術で自己強化をし、気づかれる前に亜理沙が拳にオーラを込めて断罪ナックルを決める。その間に皆自己強化を済ませ、続けて部屋に入ってきた洋角が呪いの魔眼で敵を睨付けると同時に、縁がジェットウインドでリビングデッドの足下から風を発生させた。
 そして反撃を散人が受け止め、ハニーが後方からダークハンドで攻撃し、ヴィルヘルミーネが吹雪を吹き付けるとリビングデッドは氷づけになってその場に倒れ伏した。
「いっちょあがりやね」
 部屋の中を見回す限り、暗いのでよくわかるわけではないが、動く物はなさそうだった。
「三階廊下は問題ありません。ただ今の戦闘で階下の敵は気づいたと思います」
 晶が廊下を見渡しながらそう言った。
「では二階へ行きましょうか」
 洋角がそう言って皆を促し、また先ほどと同じ隊列を組んで移動を開始した。
 そして先頭が階段を半ばまで下りたとき、二階廊下の暗がりからリビングデッドが現れた。室内より廊下は暗く、発見がやや遅れたが、攻撃はなんとか亜理沙が防御した。
「亜理沙の回復は私に任せなさい!」
 そう言ってハニーがヘブンズパッションで亜理沙に回復を施す。すかさずまだ三階にいた晶と伊知郎がダークハンドで援護し、その隙に散人が爆水掌をたたき込んでリビングデッドを廊下の壁へ吹き飛ばした。
「よし、全力で飛ばすよ!」
 縁がジェットウインドでリビングデッドを巻き上げ、足止めしたところを洋角が呪いの魔眼でトドメを刺す。
「二階室内……パッと見では敵はいないようです」
 亜理沙が部屋を覗いてまず室内に入った。三階よりも広く、瓦礫も多い。
「じゃぁ残りは一階か」
 暗いので部屋の奥の方はよく見えないが、動くものは見あたらなかった。
「地縛霊がどこかに隠れている可能性もあるが……とりあえず順番通り一階をつぶしておこう」
 伊知郎が皆をそう促し、廊下へ出た。その際、ヴィルヘルミーネが縁の元へ歩み寄り、こう耳打ちした。
「縁さん軍手持ってたやろ? この部屋の出入り口にちょっと瓦礫まとめて、あと廊下にも少し瓦礫ばらまいといてくれへんかな。地縛霊が隠れとったら音がしてわかるんやないかと思って」
「なるほど。わかった、任せて」
 縁はヴィルヘルミーネに頼まれたとおり、瓦礫に細工をした。

●本当に怖いのは、強いヤツより狂ったヤツ
「一階廊下に敵の姿無し」
 散人が後ろへそう伝え、全員階段を降りてから一階の部屋をのぞき込む。一階のフロアが一番広いようだ。
「けっこう足場悪そうね」
 ハニーが後ろから部屋をのぞき込むとそう言った。確かに二階、三階に比べると荒れ方が酷い。
「後方も今のところ問題無し」
 殿の伊知郎が階段の方を見てそう言った。もしかしたら一階フロアに地縛霊がいない場合もあるので、皆鋭敏感覚を駆使して辺りを警戒する。
 そして室内に踏み込むと、奥の方にリビングデッドの姿を見つけた。
「瓦礫と、これはなんやろ、デスク? こっちに攻めてくるまで時間かせげそうやね」
「暗くてわかりづらいけど、おおよその位置でとにかく攻撃しましょうか」
 洋角がそう言い、散人が水刃手裏剣で攻撃を開始する。
 が、そのときヴィルヘルミーネと縁が上の方から何かが崩れるようなわずかな音を聞き逃さなかった。
「後ろ! 気をつけて!」
 伊知郎と晶は縁の声にいち早く反応し、振り返るとすぐ防御態勢をとった。そこには、狂気を帯びた笑みを浮かべながら刃物状の腕を振り下ろす地縛霊の姿があった。
「くっ!」
 晶と伊知郎はどうにか防御することができた。気づかずに背後から襲われていたらと思うとぞっとする。
「晶の回復は私がする! 誰か伊知郎をお願い!」
 ハニーがすぐさまヘブンズパッションで晶を癒し、その後ろから伊知郎に向かって洋角の治癒符が飛んできた。
「地縛霊は私たちで抑えます」
「そっちはリビングデッドを頼む」
 晶と伊知郎はそう言い、それぞれ黒影剣で迎え撃つ。地縛霊はゆらゆらと変な動きをしながらじりじりと迫ってくる。
「暗くて狙いがつけにくいですね……」
 一方リビングデッドと相対している散人達は、少々苦戦していた。奥が暗くて狙いがつけにくいのだ。
「足場は悪いですけど、接近戦を仕掛けた方がいいかもしれませんね」
 亜理沙がそう言い、拳にオーラを込める。どちらにしろリビングデッドもじりじりと距離を詰めていた。
「おい! 防御するんだ!」
 そのとき、伊知郎の声がそう響いた。言われるまま皆は一斉に防御態勢をとる。すると、窓のあった方から大量のガラス片が飛んできたのだ。
「痛っ! ちょっとあんた! そんな狂った顔で男にモテないからって八つ当たりするんじゃないわよ!」
 ハニーがそう悪態をつくと、地縛霊は一瞬動きを止め、表情に一層の狂気をにじませながら金切り声に近い笑い声を上げた。
「………完全にイってるみたいやね」
 ヴィルヘルミーネが呆れたようにそう言った。とにかく皆はそれぞれ、今のダメージを回復しつつ自己強化を図る。
 体勢を立て直し、各々はそれぞれの敵に集中した。
「迷わず成仏してください!」
 亜理沙がリビングデッドに断罪ナックルを仕掛ける。ただ、足場が悪いため踏み込みが浅く、完全にダメージを通すことはできなかった。
「食らえ! 吸血鬼の秘術!」
 縁はリビングデッドと地縛霊の間に十字架を出現させ、双方にダメージを与えつつ回復をする。足場の悪さが不利に働いたのはリビングデッドも同じ様で、散人は仕掛けられたリビングデッドの一撃を容易に回避できた。
 だが地縛霊の方はトリッキーな動きで攻撃タイミングが読めず、晶が攻撃を受けて吹き飛ばされてしまった。
「前衛、受け持つわ」
 すぐにヴィルヘルミーネが晶と入れ替わりに地縛霊の前に立ち、雪だるまアーマーで攻撃に備える。
 晶は洋角が受け止めたことで幸い壁に叩きつけられるようなことはなく、すぐに洋角が黒燐奏甲で回復を施す。
「きゃぁっ!」
 と、今度は亜理沙がリビングデッドの一撃をくらってしまった。
「我が本体がどれだか見破れるかな」
 すぐさま散人が霧影分身術で自己強化をしながら前に出る。亜理沙の回復はハニーが受け持った。
 やられるばかりではなく、地縛霊には伊知郎が黒影剣で切り込み、間髪入れずにヴィルヘルミーネが天妖九尾穿で追い打ちをかける。それなりにダメージは通ってるハズなのだが、地縛霊があまり怯んではくれないのでそれが難点と言えば難点だった。
「攻撃来るぞ!」
 伊知郎が後ろにそう声をかけてすぐ、地縛霊が室内の瓦礫を八人に向けて飛ばしてきた。直接攻撃ほどのダメージは無いが、鬱陶しいことこの上ない。
 だが決着の時は近づいていた。
「お前は吹き飛んでろ!」
 散人が爆水掌でイビングデッドを壁に吹き飛ばしたところへ縁のジェットウインドが決まり、吹き上げられたリビングデッドは地面に落ちると動かなくなった。
 一方地縛霊の方も、前衛に復帰した晶がお返しとばかりに黒影剣を決め、地縛霊の反撃を受け止めた伊知郎にすぐさま洋角の治癒符が飛び、ハニーのダークハンドで体勢を崩した地縛霊を、
「そろそろ土へ還るんだ」
 伊知郎の黒影剣が切り裂いた。それが決め手になり、地縛霊は狂笑を上げながら倒れて消えていった。

「……暗闇の中を彷徨うのも、これでおしまいです」
 晶のその言葉で、場の緊張が解けた気がした。
「お、電気つくようになっとるやん」
 ヴィルヘルミーネが試しに懐中電灯を点けたら、明かりがついた。
「ホントにモテなくて死んだのかしら」
「一応反応はしてましたねぇ」
 ハニーと亜理沙はそんなことを話している。真相は闇の中だが。
 その傍らでは、洋角が犠牲者に黙祷を捧げていた。
「助けられなかったのは残念ですが……これで報われたと思いたいですね」
「死した者は土へ還るものだ。災いとして存在するよりは、ずっといいだろう」
 伊知郎が隣でそう呟いた。
「そろそろ行きましょうか」
 散人の言葉で皆は、このあと崩れ去るだろうビルを後にした。
「寒くなってきたし、みんな風邪引かないようにね。季節外れの台風なんかもきてるしさ」
 縁のその言葉に皆笑顔で頷き、またどこかで起こるであろう戦いに備えて足早に帰路につくのであった。


マスター:月光うさぎ 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/11/01
得票数:楽しい1  カッコいい13 
冒険結果:成功!
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