ファイントゥデイ 〜さあ、友達に戻ろう!〜


<オープニング>


 一日に一度しか使われないバス亭で、僕達は約束をした。
 いつも一緒にいた君。
 いつもの朝。
 いつもの道。
 いつもの笑顔で君は言う。
「さあ、友達に戻ろう!」
 もうすぐバスはやってくる。
 僕はそして――
 
「いつか別れは訪れます」
 少しだけ目を閉じて、志穂は微笑んで見せた。
 ある少年と少女が、ごく普通に別れる。
 それだけの話……なら、どれだけ良いか。
 志穂は、外の光景を見詰めながら呟いた。
「この少年は、リビングデッドです」
「…………」
 町へ行くバスがやってくるバス停。
 人の全く通らないバス停。
 そこで二人は別れます。
 けれどその日を前にして、彼はリビングデッドになっていたんです。
 バスがやってくるまでの数分間。
 それまで彼と彼女は二人きりです。
「私達がやることは分かってますよね。やり方はお任せします」
 目を瞑って、志穂は風に髪を靡かせる。
「さあ、物語を終わらせましょう」
 新しい物語のために。

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参加者
佐々木・颯太(最高の最低・b40604)
神々廻・円(ましゅまろとりっくすたー・b62499)
饗庭・瑞穂(中学生魔剣士・b64055)
ソーシェ・バッハーズ(中学生魔弾術士・b64686)
遠魔・雷火(瑠璃の金月・b74036)
冬城・ちか子(疾風旋律駆け巡る空色娘・b76885)
雨御・叶一(中学生除霊建築士・b78003)
マリアン・シルヴェストリ(暴君楽土・b78067)



<リプレイ>

●フレンド
 木漏れ日がまだらに射す雑木林。
 マリアン・シルヴェストリ(暴君楽土・b78067)の帽子の上を針葉樹の陰が過ぎった。
「友達に戻ろう……か」
「ええ、戻してあげたいですわ。一瞬でも」
 そう呟く遠魔・雷火(瑠璃の金月・b74036)。マリアンの赤い眼が横に動いた。
「何からかは分からないけど」
「そうですね。二人が過去にどんな……」
 瞑目する雷火。マリアンの目が元の位置に戻る。
「でもそんなこと、関係ないわ」
 目を開けた雷火の髪を、針葉樹の陰が過ぎる。
「分かった所で、どうにもならないじゃない」

 木葉が風に靡き、擦れ合って鳴く。
 佐々木・颯太(最高の最低・b40604)は目を閉じて、木々の声を聞き流した。
「前に、リビングデッドに話しかけたことがあった。どいつも話なんかできなかったが……」
 さらさら。さらさら。
「うん」
 耳を欹てて、冬城・ちか子(疾風旋律駆け巡る空色娘・b76885)は瞑目した。
「ツバサ君に会えないソラちゃんも可哀想だし、彼女を助けないわけにもいかない。でもそれは……話を訊いてからでも遅くないよね」
 風が吹いて、颯太の襟が靡く。
「こいつにまだ、愛が残っていると信じて。……行ってみっか!」
 二人は振り返った。
 林がざわりと鳴いている。

 バス停の裏は、屋根以外に日差しを遮るものが無い。
 長過ぎた残暑を感じながら、雨御・叶一(中学生除霊建築士・b78003)は額を拭った。
「今日のは、本当なら伝わらないサヨナラを伝えてやる話なんだろうな」
 手を空に翳す。
「まあ、そんな言い方したって手は汚れるけどな……」
「……ああ」
 バラックの壁に背をつけて、饗庭・瑞穂(中学生魔剣士・b64055)は口を噤む。
 どの道、リビングデッドは倒さねばならない。
 けれど……。
「マヨイガ……」
「ん?」
 瑞穂は一旦開けた口を、再び閉じる。
 第三の選択肢はあった。けれど今回の場合、上手くは行かないだろう。
 ツバサ……彼らはマヨイガの存在をきっと知らない。
 説明したとして、信じてもらったとして、自ら入ってくれれば良いが……。
 その為の文句なんて、一つも用意してこなかったのだ。
「今更か」
 もしかしたらこれが、最良の選択だったのかもしれないが、今となってはもう遅い。
 倒してしまうしか、ないのだろう。
 汚してしまうしか、ないのだろう。
 叶一の翳した手は彼の顔を陰らせた。

 虫の声を聞きながら、ソーシェ・バッハーズ(中学生魔弾術士・b64686)は空を見上げていた。
「色々聞いて見たいことはあるけど……今日は我慢するかねぇ」
 隣で、神々廻・円(ましゅまろとりっくすたー・b62499)が同じように顎を上げている。
「気持ちは分かるけど、ゴーストと人は一緒に居られないんだよ」
「んー」
 両手をついて、仰け反るようにして空を見る。
 ゆっくりと雲が北へ流れていく。
「ボクらが出来る事は……死者に安らかな終りを与えて、人に優しい嘘をつくくらいっしょ」
「かもしれないね」
 雲が流れていく。
 バスはまだ来ない。

●鴛鴦の翼
 考えてみろ。人が死ぬのが悲劇だなんて、一体誰が教えたんだ?

 雑木林の道を行くと、鮮やかな金髪が目に入った。
「ツバサさんですね」
 ゆっくりと振り向く雷火。
 後退しようとするツバサの後へ、ちか子が素早く降り立った。
「突然ごめんね。君の気配がおかしかったから、先回りして待ってたの」
 そう言う彼女に、ツバサは沈黙を返した。
 靴のつま先で地面を叩くちか子。
「僕の事情を、知ってる風ですね」
 ちか子は頷く。
「今の君では、あの子を危険にしちゃうと思うの。だからこのまま行かせられない」
「…………」
 ちか子が、一歩足を踏み出した。
 同じく、木の陰から颯太が姿を現す。
「今のお前は、ソラを殺す可能性がある」
「ソラを……」
 違う、そんなことはない。絶対にしない。
 ……とは、言わなかった。
 言えなかったのかもしれない。
 雷火が足を踏み出す。
「ソラさんに危害を加えないと約束できるなら、会いに行っても良いでしょう。ですが危害を加えた場合……」
「…………」
 木の幹に片手をついて、マリアンがツバサの様子を見下ろしていた。
 手を翳したまま、照準をぴたりと彼の頭に当てる。
 彼が『嫌です』と言うかもしれない。
 もし承諾したとしても、隙を見てソラを殺しにかかるかもしれない。
 バスは一本だけなのだ。一緒に逃げることだってできるだろう。
 この場で黙って殺してしまう手もあるのではないか……?
「……」
 マリアンの手に、ぱちりと紫電が走る。
「僕は――」
 ツバサが、消え入るような小さな声で、呟いた。
 それを聞いて、強く頷く風太。
「悪かったな、救ってやれなくて」
 そして彼はバス停を掲げ――。

●空の向こう側
 バス停がある。
 最低限の屋根とトタンの壁で出来た、こじんまりとした場所である。
 壁に貼られた時刻表には、バス一本分の数字しか書いてない。
 それを横目に見ながら、ソラはベンチに腰掛けていた。
「来てくれるかな……」
 そんなバス停の反対側。
 叶一は小石を手に立っていた。
 足元を見ながら、瑞穂が小声で呟く。
「祭壇の効果は現れそうに無いな」
 彼女の言う祭壇は、足元にあった。
 簡素なものである。今回の場合は効果を表さないものだが……。
「いいんだ。これはこれで、意味がある」
 そして二人は上を(正確には屋根の上を)見た。
 狐と猫が一匹ずつ、屋根の上に座っている。
 遠く、雑木林を見つめている。
 二匹の内、猫の首がぴくりと動いた。
「ソラっ……」
 道路を挟んで反対側。
 そこには、ツバサが息を荒げて立っていた。
 立ち上がるソラ。

 ……。
 …………。
 雑木林。枝の上に腰掛けて、ちか子と颯太はバス停の様子を覗っていた。
「ガラにも無いことしたかもな……」
「……ん」
 颯太の呟きを聞いて、僅かに顎を上げるちか子。
「大丈夫。どんな選択でもいいんだよ」
 視線をバス停に戻す。
「後悔しないで、逝って欲しいな」
「……ああ」
 それきり二人は沈黙した。
 木の下では、マリアンと雷火が幹を挟んで背中を合わせていた。
「こう言っちゃ悪いかもしれないけど……」
 帽子の鍔をなぞるマリアン。
「訳知り顔でやって来て手を差し伸べるのって……救済じゃなくて、ただの傲慢なんじゃないの?」
 片手の爪を擦り合わせながら俯く雷火。
「分かっています。これが恐喝に近いってことも承知しているつもりですわ」
 マリアンの目が一度動いて、また元の位置に戻る。
「傲慢……ね」
「ええ。でもせめて、今生の別れは……」
 風が吹いて、木葉が鳴いた。
 木漏れ日が傾いて行く。

「…………」
「…………」
 ソラとツバサは、互いに何も言わなかった。
 虫の声が一際大きく聞こえる。
 遠くからエンジン音が聞こえる。
「ツバサ」
 顔を上げるソラ。
「来てくれてありがとう。本当は、会えないかもって思ったんだ」
 バスが止まる。
「昨日から家に居なかったって言うし……心配したんだから」
 扉が開く。
「さあ、友達に戻ろう」
 虫の声と、木葉の鳴き声と、風の音が響いた。
 口を閉じたまま、ツバサは俯いた。
「……」
 流れる沈黙。
 唇をぎゅっと閉めて、ソラはバスへと乗り込んでいく。
 扉が閉まる。
 その瞬間、ツバサは顔を上げた。
「バイバイ」
 バスの窓ごしに、ソラが振り返る。
 響くエンジン音。
「バイバイ」
 全ての音に紛れながら、その声だけは確かに聞こえた。

●空と翼
 バスが遠くなって行く。
「……もう、いいですよ」
 そう呟いたツバサの胸から、剣の切っ先が突き出した。
 ゆっくりと目を閉じて、崩れ落ちるツバサ。
 その身体を、叶一の腕が受け止めた。
「ありがとう。お陰で一回で済んだ」
 瑞穂が、剣を払って鞘に収める。
 ツバサは、もう目を開けない。
「これも、マシな結末か……」
 叶一は呟く。
 その様子を、円とソーシェは屋根の上から眺めていた。
 足をぶらつかせながら、背を丸める円。
「今回は、何もすること無かったね」
 目を瞑る。
「その方が、よかったよね」
 ソーシェは、帽子を目深に被ったまま何も言わなかった。

 数十分後。
 木にスコップを立てかけて、颯太は深く息を吐いた。
「まあ、愛はあったな……」
 草の茂った土地の中に、一部だけ土を被せたような場所がある。
 円はそこへ、花を置いた。
 そして、瑞穂と共に手を合わせる。
「ご家族のもとには、戻れないのでしょうね」
 小さく息を吐いて、雷火は地面を見下ろす。
「きっとソラさんにとっても、『覚えていない誰か』として記憶の果てに消えていくのでしょう」
「うん……」
 ちか子と叶一が、土の上へと移した祭壇に手を合わせた。
「これも、意味の無い行動かもな。もう気の迷いは無いのに」

 日が暮れて、バス停は虫の声に包まれていた。
 マリアンが、ベンチに腰掛けたまま時刻表を見つめる。
「何も知らずに居る。約束の日に別れを告げる。目の前で死ぬ。どれが一番悲惨だったかしら」
 屋根の上で、ソーシェが帽子を脱いだ。
 空を見上げる。
「…………」
 バスはもう来ない。


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作成日:2010/09/27
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