地を砕くは砲吼竜の咆哮


<オープニング>


『オオオオオオオオオオオオオオオオオオ――!』
 その咆哮が、山奥に木霊していく。
 咆哮の主、体長十メートルにも及ぶ黒曜石の鱗を持つ蜥蜴――否、竜とも言うべき存在が、その口の端から黒い煙を吐きながら天を仰いだ。
 竜の進行方向では、一台の自動車が巨大な黒曜石の杭に貫かれ大破していた。運転していた者は即死だ――竜はわずらわしげにその自動車を見ると、再び咆哮を上げる。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
 咆哮と同時、その口から吐き出された黒い霧が黒曜石の杭となってドンッ! と放たれた。鈍い破壊音を立てて壊れた自動車は吹き飛ばされ、崖から転がり落ちていく。
『グルルルル……』
 目の前から障害物がなくなったのに満足したのか、竜は喉を鳴らし再び動き出した。

「うん、みんな集まったわね」
 放課後の武道場で八重垣・巴(高校生運命予報士・bn0282)は集まった能力者達を見回した。
「今回は、とある山奥に出現する妖獣退治を頼みたいの」
 その山は紅葉が有名な山で季節になれば、多くの人で賑わうのだという。
「幸い、今はまだ紅葉のシーズンじゃないんだけど、その山に森林調査の仕事でやって来た人が犠牲になってしまうわ。運命予報自体は未来の出来事だから、今から急いでいけばその人も救う事が出来るわ」
 巴はそこまで告げると、一枚の地図を懐から取り出し広げた。そして、サインペンを取り出すと、地図上に一本の長い矢印を描いていく。
「いい? これが妖獣の進行ルートと進行方向。で、ここに紅葉シーズンになると使われる駐車場があるの」
 その進行ルート上にある駐車場に、巴はキューと一つ丸をした。
「今は車は一台も停まってないし駐車場に使われるぐらいだから広さも十分にあって障害物もないから、かなり戦いやすいはずよ。人の目も気に必要はないし、思い切り戦って」
 出現する妖獣は一体のみ――だが、巴の表情は厳しい。
「妖獣は体長十メートルほどの黒曜石の鱗を持つ蜥蜴……そうね、このサイズだと竜と呼ぶ方がしっくり来るわね。能力は三つ、遠距離の視界内に咆哮と共に黒曜石の杭を撃ち込む攻撃と近接の全周を咆哮の衝撃で対象を強力に『石化』させる攻撃、そして黒曜石の鱗をより強固なものにして回復と同時に攻撃力を上昇させてくるわ。黒曜石の杭には対象を吹き飛ばす効果と強力な『足止め』の効果があるから、陣形を崩されると厄介よ、注意して」

 巴はそれこまで告げると信頼の笑みを能力者達に向ける。
「いい? 相手は一体のみだけれど強力な妖獣よ。くれぐれも油断はせず、全力を持って対処に当たること、いいわね? ――大丈夫、あなた達なら出来るって、私は信じているわ」
 じゃあ、頑張ってね、と巴は能力者達を見送った。

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参加者
篠原・薫子(高校生真雪女・b25283)
祭屋・宴(舌切り雀・b38961)
沙更女・粗目(蛇の心臓・b40178)
風波・椋(悠久の黒・b43193)
黒山・白児(疫神牛頭天王・b55947)
緒方・凪(ホワイトライズ・b57126)
秋葉・まな(アキバ系弾幕少女・b70221)
イクス・イシュバーン(高校生魔剣士・b70510)
護宮・マッキ(氷原スレイプニル・b71641)
大沢・美風(トパーズオートメタリックス・b77387)



<リプレイ>


 ――ズン……、と重苦しい足音が響き渡る。
「色々とでっかい敵は見てきたけど、今度のも大きそうだねー」
 未だ姿は見せずともその移動で薙ぎ倒される木々と足音を見やって篠原・薫子(高校生真雪女・b25283)が呟いた。
 山の木々はまだ夏の装いを残したままだ。だが、確かに秋の訪れを感じさせる風の冷たさを感じて大沢・美風(トパーズオートメタリックス・b77387)が静かにこぼす。
「紅葉……もうそんな時期なのね。これから人はもっと増えるわね。そのために森林調査の方が車で向かわれてるのでしょう。その方々を守るのはもちろん、美しい紅葉を見に来る方々のために、苦しい戦いでしょうけどがんばりましょう」
「竜ねぇ……まぁどんなにでかくてゴツゴツしてようがつまりは蜥蜴でしょ。どうせなら翼やら角やら生えてたらもっとファンタジーでらしかったのに」
 しみじみとそんな軽口を叩く風波・椋(悠久の黒・b43193)に、緒方・凪(ホワイトライズ・b57126)が苦笑交じりに返した。
「竜ということにしておこう。その方が盛り上がる」
「――うお! でかいな」
 その足音の主の姿が見えるほどに近づいてくると、護宮・マッキ(氷原スレイプニル・b71641)が驚きの声をあげる。
 体長十メートルの黒曜石で出来た蜥蜴――言葉で理解していても実物を目の前にすれば誰もが一瞬、言葉を失った。その圧倒的な質量感。黒曜石の美しい輝きと生物だけが持ちえる躍動感、相反する二つの融合――その姿に、沙更女・粗目(蛇の心臓・b40178)が感嘆を漏らす。
「蜥蜴……黒い、竜。美しいですねぇ……」
「咆哮竜とかどきどきだねー。さぁ楽しい狩りの時間だ。素材を剥ぎ取っちゃるよ? 心臓寄越せ心臓ー! この際鱗でもかまわーん!」
「ねぇさん。ゲームのやりすぎ、ですよ?」
 一気にテンションを最大値まで引き上げる祭屋・宴(舌切り雀・b38961)に、粗目は苦笑する。
「あれは人里に降ろすわけにゃあ行かねぇんでな。誰か来ちまう前に……きっちり沈めさせてもらおうか」
「強敵との対峙か。もちろん気は抜けませんし、被害を出すわけにはいきません。でも……正直に言えば、楽しみでもありますね」
 静かに身構える黒山・白児(疫神牛頭天王・b55947)と確かな高揚感を感じながら長剣を抜くイクス・イシュバーン(高校生魔剣士・b70510)――そして、凛とした表情で秋葉・まな(アキバ系弾幕少女・b70221)が言い放つ。
「何の因果で生まれ落ちたのかなんて分からないけど、悪しき竜は勇敢な戦士や魔法使いに倒される物なのよ――竜の宿命にそって、このストーリーは終わりにさせてもらうわ!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
 目の前の能力者達を見回し、砲吼竜がその口の端から黒い煙を漏らしながら吼えた。さながら目の前で爆発が起きたかのように、大気が震える――撒き散らされた爆炎のごとき殺気とともに、ここに竜退治の幕が開いた。


 ズン……! と地面を踏み締めて周囲を威嚇する砲吼竜に対して、能力者達は東西の二班に別れ陣形を組む。
 東側の前衛に薫子とまな、中衛に宴と粗目、後衛に凪、西側の前衛に白児とイクス、中衛に椋と美風、後衛にマッキと十織といった布陣だ。
「んじゃ、いこっか粗目。竜退治だ」
「はい。ねぇさん。参りましょうか」
 合わせて動く宴の言葉を受けて、粗目がうなずく。粗目はギンギンカイザーXで、宴は黒燐奏甲で自己強化を施した。
「目には目を歯には歯を……竜には竜を!」
「そんじゃいくぜ!」
 椋のナイフが宙を滑りディフォルメされた砲吼竜を描き、合わせて動いたマッキが狐の耳と尻尾を生やし七つの星の輝きを光臨させる。
『ガ、アアアアアアアアアッ!!』
 スピードスケッチの体当たりと幻楼七星光の輝きを砲吼竜はその尾をを振るい、咆哮と共に薙ぎ払った。
「石化が怖くて前衛が出来るか!」
 薫子が砲吼竜へと駆け込んでいく。その指先で黒曜石の体に触れる――しかし、この強固な鱗は薫子のさよならの指先を弾いた。
「戦闘態勢入ります、補助プログラム『ラジカルフォーミュラ』起動」
「さぁ、タイマンと行こうか? イービル・バインドッ!!」
 機械的な呟きと共に美風の瞳に文字列が溢れ、白児の投げ放ったタイマンチェーンが砲吼竜の巨体を絡めとる。
「お前に砲弾は撃たせない!」
「魔弾の射手よ」
 イクスが間合いを詰め長剣を振り上げ、駆けたまなが眼前に魔弾の射手の魔法陣を描いた。
『ガ、アアアアアアアアアアアッ!!』
「……ッ!」
 砲吼竜がそのタイマンチェーンを引き千切り、その咆哮を轟かせる。その叫びに、ピキリ……! と薫子とイクス、まなの手足が石化していく――だが、そこにすかさずゴウッ! と竜巻が戦場に巻き起こった。
「風よ――!」
『オオオオオオオオオオオオオッ!!』
 凪の浄化サイクロンが前衛の三人の傷を癒し、石化を解除していく。それに威嚇するように吼えた砲吼竜に、白児が叫んだ。
「イービル・バインドで足りないなら、次はエビルストライクを食らわせてやる!!」
 身構えていく能力者達に、 砲吼竜は四肢に力を込めていく――そして、能力者達は強大な竜へと挑みかかっていった。


『ガ、アアアアアアアアアアッ!!』
 黒曜石の鱗を鋭角化させた砲吼竜が大地を踏み締め、咆哮をあげる。
「この上、更に強化を図るか。厄介だが好きにはさせない」
「穿てえっ!!」
 凪の召喚した風雨と複数の雷が降り注ぎ、マッキの背中から伸びた複数の狐の尾が放たれた。しかし、その雷と尾は砲吼竜の硬い鱗の前に火花を散らし弾かれる。
「く――!」
「ブラックボックス作動」
 雪を身にまとった薫子の指先が砲吼竜へと触れ、美風のブラックボックスから放たれた雷が黒曜石の鱗を撃った。それでも構わず、砲吼竜はその巨体を揺るがし振り払う。
「砕け、カラミティ・フィストッ!」
「黒影――剣!」
 白児の青龍の力が宿るリボルバーガントレットの拳打とイクスの闇色に染まる長剣の斬撃が砲吼竜の鱗を砕き、切り裂いた。だが、明らかに浅い――そこへ反対側から宴の瞳が禍々しい輝きを宿しまなの雷の魔弾が続く。
「ほら、切り裂いちゃうぞ」
「撃ち抜くよ!」
 ビキリ、と内側から宴の呪いの魔眼によって鱗に亀裂が走り、そこにまなの雷の魔弾が突き刺さった。
『ガ、アアアアアアアアアアアッ!!』
「飛ばされるな。持ちこたえて!」
 砲吼竜の咆哮と共に、口から吐き出された黒い煙が黒曜石の杭となっていく――西側へと放たれた黒曜杭の砲弾は視界内の対象をことごとく吹き飛ばした。
「スピードスケッチッ!」
「……これでなんとか解ければいいんだけど」
 十織の浄化サイクロンが渦巻く中、粗目の描くデフォルメされた竜が駆け、椋は自らのギンギンカイザーXを飲み干した。
 ――能力者達と砲吼竜の戦いは拮抗状態が続いていた。
 砲吼竜の黒曜の守りによって攻撃力が強化された黒曜杭の砲弾や黒曜の吼え声は能力者達を苦しめたが、凪の浄化サイクロンと移動の分のロスはあるものの十織の浄化サイクロンが戦線をよく支え、前衛も無理はせずに中衛と入れ替わる事により危なげなく戦線を維持していく。砲吼竜の厚い防御によって能力者達の攻撃は大きく削られ続け、お互いに有効打を与えられずにいた。
 だが、それでも怯まずに能力者達は着実に攻撃を重ねていき――ついに、その時が訪れようとしていた。
「砕かれてたまるもんか!」
「プログラム『デモンストランダム』発動!」
 狐耳と狐尻尾を生やした薫子の封神十絶陣が展開され、美風が螺旋状の文字列に包まれた拳を砲吼竜へと叩き付けた。
『ガ、アアアアアアアアアアッ!!』
 苦痛に身をよじりながら、砲吼竜が大地に踏ん張る。封神十絶陣の地獄の責め苦を受け、防御に成功しながらもデモンストランダムの一撃はその強固な鱗へとヒビを入れていた。
 そこへ、跳躍した白児が右足を振り上げ、中衛に下がっていたイクスがその長剣を下段に構える。
「貫け、エビルストライクッ!」
「切り裂け――!」
 ダダダダダダダンッ!! と白児の右の回し蹴りを起点に放たれた龍尾脚が黒曜石の鱗を打ち砕き、そこを長剣を振り上げた軌道に沿って走ったイクスのダークハンドが引き裂いた。
『ガア――――!!』
 地響きを立ててのたうち回る砲吼竜――そこへ宴がその拳を魔炎に包み、零距離でまなが雷を放つ!
「じょーずにおいしく……は焼けないかぁ。残念」
「この雷、受け切れる!?」
 渾身のプロミネンスパンチと魔弾の射手の魔法陣に強化された雷の魔弾――その連撃は砲吼竜を魔炎に包み、鋭角化した黒曜石の鱗を四散させた。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
「お、っと……!」
 砲吼竜の放つ黒曜杭の砲弾が、東側の能力者達へと放たれた。能力者達が吹き飛ばされる中、ブーメランを盾に杭を防御し踏み止まった凪が粗目を受け止める。
『グル、ル――!?』
 不意に砲吼竜が戸惑ったようにその喉を鳴らした。東側と西側――突然姿を現した、巨大な二体の竜の姿に威嚇するように叫びをあげる。
「渾身の傑作です――」
「――存分に、味わってください!」
 粗目と椋、二人が描いた渾身のスピードスケッチが砲吼竜へと駆けた。体長十メートルの三体の巨竜が激突――体中にヒビが入った砲吼竜が大きく揺らぐ。
『ガ、ア、ア……』
「降り注げ、雷霆」
「かったそうな鱗だけど、僕らの結束に比べたら、固くなんかないね! ――貫け! 天妖九尾穿奥義!」
 そこへ凪の放つライトニングストームが降り注ぎ、マッキの放つ無数の黄金色の狐の尾が走る――無数の雷が打ちすえ二本三本と尾に貫かれ、ついに砲吼竜はズシン……! と重苦しい音と共に倒れ伏した。


「みんな、大丈夫?」
「皆さんお疲れさま、怪我ないですか」
 深い溜め息と共にマッキが問いかけ、薫子がぐったりとしながらも微笑んだ。その二人の言葉に、ようやく仲間達も緊張を解く。
「これで静かになりましたね。次は紅葉を見に訪れたいです」
「どうせなら紅葉真っ盛りの時に来たかったね。きれいだろうに」
 イクスが周囲を見回してそう呟けば、椋もうなずいた。今はまだ夏の色を残した山は、季節になれば赤く染められていくのだろう――その光景に想いを馳せて美風がこぼす。
「妖獣は観光客に自分の場に入ってほしくなかったのでしょうけど……この自然の環境は素敵だわ」
 ふと、粗目は砲吼竜の倒れた場所を見た。あの兄弟で強固を誇っていた黒曜石は、欠片一つも残っていない――それに、小さくもらした。
「咆哮は、悲鳴でしょうか。それとも、苦鳴で、しょうか。ただ今は、その静寂に安寧があることを願うのみで御座います。そうぞゆうるりと、お休みくださいませ」
「もったいないわね……流石に素材剥がしたかったとか言わないわよ? 冗談だからね?」
 宴がそう人の悪い笑みで言う。小さく漏れる笑い声に、ふと思い出したように凪が口を開いた。
「実際は妖獣だが。神話や伝承に登場する竜も、ひょっとしたらゴーストだったかも知れない」
 だとしたら倒した英雄はきっと能力者なのだろう――そう夢想に浸りながら凪は笑みをこぼす。
 戦いは終えた――竜という強大な敵を討ち滅ぼし、能力者達は秋の気配が近づく山を後にした……。


マスター:波多野志郎 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/09/27
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冒険結果:成功!
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