ウォーゲーム


<オープニング>


 耳を劈くような大音量と歓声の脇を抜けるようにして、数人の少年達が歩いていく。舞台袖にある地下ルームの扉から出た彼らは、先頭を行く赤いジャケットの青年の後ろについて黙って従っていた。
 トレイにドリンクを乗せてすれ違う店員の女性に軽く手を挙げると、彼は指をさした。彼女はこくりとうなずき、何かを彼に伝える。
 指した先に居るのは、ボックスに座っている三人連れである。
「何やってんの?」
 彼が声をかけると、座っていた男が顔を上げた。年齢は三十前後だろうか、いずれもポケットに手を入れてままこちらを睨み付けている。
「なんだ、チーマーはジュースでも飲んでろ」
 嘲笑の言葉をかけると、怒声もあげずに青年は男を引き寄せた。一瞬、彼の表情がこわばる。腹部にナイフが当てられているのに、気づいていた。
「ここ、おっさん達が無断で悪さしていい場所じゃないの。……九十九」
 青年が声を掛けると、後ろに居た少年九十九が男を後ろ手に縛り上げた。
 舞台に上がったアーティストの歌声と音楽にかきけされ、誰もこちらを振り返る事はない。ただ音楽に酔い、踊り、そして飲んでいる。
 その矯正の影で、少年達は三人を知られぬように外へと連れ出した。街灯も届かぬクラブの裏口に放り出された男達を、彼らが見下ろす。
「ここは『大蛇』のショバだから、おっさん達ここで稼ぐなら俺等にお金払ってもらわなきゃ」
 そう言ったのは、先ほどの青年……草薙であった。
 しばらく後、そっと裏口のドアを店員の女が開ける。すでにそこには、あの男達はいなかった。すうっと九十九が振り返り、笑顔で手を振る。
「あ、終わった? ……これ、今週の」
 彼女は何事もなかったかのように、草薙に現金の入った封筒を手渡そうとした。その時何者かが暗闇からすうっと姿を現すと、突然女の手から現金を取り上げた。
「何す……」
 言いかけた草薙に、拳をたたき込む。
 とっさにナイフを取り出した少年達を、彼はたった一人で次々と叩きつぶしていく。女は悲鳴をあげたまま、身動きする事も出来ずにいた。
 それはあまりに一方的。
 やがてしん、と場が静まると彼は肩から力を抜いて見下ろした。そこには、うめき声をあげてうずくまる少年達が転がっている。
 彼の笑みは冷たい。
「天竜頭蓋。……いずれお前達のリーダーになる男だ、覚えておけ」

 少し風が冷たくなって来ただろうか。
 薄手のカーディガンを羽織り、藤崎・志穂はいくつか写真を出して机の上に置いてみせた。カーディガンの前を寄せながら、志穂はぐるりと見まわす。
「皆さん、これがその『天竜頭蓋』が率いるチームです。彼はナイトメア王ジャックの配下で、ナイトメアビースト……『バッドヘッド』天竜頭蓋。こういった不良グループを支配下に置く力を持っています。彼は今現在、エネアドというチームを率いて抗争を仕掛けようとしています」
 志穂が話しを続けようとした時、後ろからひょいと写真を取り上げてめんどくさそうにため息をついた男が一人。
 あっと小さく声を上げ、志穂が取り返そうと立ち上がる。
「……カラーギャングか。こういう奴らは辺りのもめ事納めるかわりに、金取ってんだよ。だから余計にショバ争いが苛烈になる。主にカラオケやクラブ、飲食店なんかの若い連中が多い店に入り込んでるわけ」
「言いたいことを言ってくれてありがとう、詳しいね」
 ぽつりと言った志穂の顔を見てばつの悪そうな表情を浮かべ、毒島・修二は写真をそっと机に戻した。
「……えっと、この天竜って人の支配下にあるチームの一部は強い力を得て、能力者の人達と同程度の戦力で戦う事が出来るようになるんです。その上、そのチームの人達はチーム抗争でしか滅ぼす事が出来なくなる」
 放っておけばどんどん勢力を拡大し、天竜を止める事が出来なくなってしまうだろう。
「つまり、うまくこの大蛇のチームに入れりゃ天竜頭蓋が予定通り襲撃して来るって事だろ。俺等は行って帰るだけ」
「ただ、うまく大蛇に入らないと……この人達も警戒してると思う。今大蛇が本拠地にしている赤城屋ってのはクラブよ。彼らが襲撃して来るのはここで、毒島くん達に行ってもらうのもここね」
 赤木屋には主要の五人と頭蓋、そして配下のカラーギャングが数十名やって来る。なお、天竜達が来る時間帯は客も入っている為、注意が必要だ。
 店内は広いホールで、北側に舞台。そして北西の舞台袖に地下ルームへの階段がある。南側は外への入り口に繋がっており、西側にキッチンへ向かう通路がある。フロアは二階構成で、フロアの周囲にぐるりと通路のような二階席部分があるようだ。裏口は東側へ、非常口も兼ねてつけられている。
「大蛇のリーダーがよく居るのはホールの北西にある地下室なんですけど、並んで2人くらいは立てる周り階段があります。かなり広いから、戦うには十分ですよ。……どうやらエネアドの人たちは、この赤木屋の店員さん達を人質に取って戦いを有利に進めようとしているようです。時間帯が営業時間帯だから、店員さん達も抵抗出来ないみたい。そういった情報を持って交渉したら、うまく加えてもらえるんじゃないでしょうか。店員さん達のほとんどは大蛇の人たちの彼女さんとか妹さんらしいから……。こういった敵の情報をまとめて何とか交渉すれば、大蛇に入れてもらえるんじゃないでしょうか。それと大蛇は赤がチームカラーなので、赤いものをつけていくといいかもしれません」
 天竜頭蓋は日本刀を持っており、自ら戦いに参加する。彼の配下の五人以外は一般の人間と力は変わらない為、能力者では相手にならないであろう。
 しかしその配下にある五人……トム、セト、トト、シュウ、シスの五名はそれぞれナイフを持っていて戦いに慣れている。
「彼らは天竜を入れても皆が6、7人いれば十分戦えると思います。あとの戦力は、事態の収拾などに尽力していてもかまわないと思うので、この襲撃で何をするのか話し合っておいてくださいね。この戦いは天竜が起こしているものなので、天竜頭蓋とこの五名を倒せば抗争は終わるでしょう。ただ、この天竜頭蓋はコピーですので倒してもそれで終わりではないんです」
 少し沈んだような声で、志穂がそう言った。
 しかしコピーといえど、放置していい事件ではない。
 このまま放置しておけば、頭蓋の配下にあるチームも大蛇の者も、そして人質となっている人達も傷つく事になる。
「みんな、あまり無茶はしないでくださいね」
 志穂の一言に、言いたい気持ちはすべて込められているような気がした。

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参加者
戒・蒼魔(戒刀乱魔・b02671)
極道・政(仁義背負って喧嘩道・b15772)
朱残・誄火(紅蓮呪奏・b18864)
旋風寺・舞佳(勇者特攻トライガインエックス・b51714)
ジェニファー・ラングストン(高校生真ゾンビハンター・b54437)
ナギ・ミサキ(大地に荒ぶる獅咬の拳・b55892)
ヴァイス・シベリウス(紅蓮の宵闇・b58720)
ネイト・スタンッア(銀鎖の継承者・b77107)
NPC:毒島・修二(紅龍拳士・bn0013)




<リプレイ>

 赤木屋。
 元はここに居酒屋が建っていたらしく、名前が和風であるのはその名残であるらしい。店の奥へと向かう交渉役の仲間を見送りながら、ネイト・スタンッア(銀鎖の継承者・b77107)は少し落ち着かない感じで視線を上げた。
 入り口付近は人の出入りが激しく、出入りする人々の会話も服装もネイトにとっては慣れないものである。
「……行くぞ」
 短くヴァイス・シベリウス(紅蓮の宵闇・b58720)が声を掛けると、ネイトはヴァイスの後に続いて歩き出した。裏口近くで待機するネイトとヴァイス、店内の客に紛れているのはジェニファー・ラングストン(高校生真ゾンビハンター・b54437)とナギ・ミサキ(大地に荒ぶる獅咬の拳・b55892)、そして旋風寺・舞佳(勇者特攻トライガインエックス・b51714)。
 残りは朱残・誄火(紅蓮呪奏・b18864)達とともに交渉に参加している。
「こういう所は、別に日本だけに限った訳じゃあるまい」
「喧嘩やもめ事だけなら、慣れています。でも不良っぽく、というのはどうも馴染めませんわ」
 ネイトはそう言うと、少し前髪をかき分けた。ファーのついた紅のジャケットで、彼らの味方であるという意思表示。裏生地はリバーシブルで黒となっている。
 赤がトレードマークだと聞いていたから、ネイトだけでなくヴァイスも一応腕に赤いベルトをつけていた。
「これから夜明けまで、ここで監視しなきゃならない。裏口が怪しいようだから、この辺りで連中が来るのを待とう」
「でもここで襲撃を阻止してしまうのはダメなんですよね……エネアドを倒すのは大蛇でなければ」
 その為に、ここに来たのだから。
 裏口にたどりつくと、ヴァイスは扉を開けて中をちらりと様子見た。
 二人が位置に付いた同じ頃、誄火達は舞台袖に到着していた。地下室への階段前には、赤いバンダナを腕につけた少年が二、三名立って出入りを阻んでいる。
「……何だお前達」
 年は16……くらいだろうか。
 おそらく彼が九十九という少年だ。
「俺は戒・蒼魔(戒刀乱魔・b02671)。こいつらは皆、同じチームだった仲間だ」
 じろりと九十九が蒼魔を睨む。
 蒼魔は誄火に視線をやり、交渉にかかった。敵意がない事を示すために、両手を出してみせる。むろんイグニッションしていない今は、武器など服装の中に入っていなかった。
「俺達のショバはこの辺じゃなかったが、少し前にエネアドに潰された。あんた達にとっていい話があるんだが、乗ってくれないか?」
 蒼魔が言うと、九十九が側に居た仲間に声をかけた。何事かささやくと、仲間が奥に消えていく。やがてしばらくして、仲間は一人の青年を連れて戻ってきた。
 赤いジャケットを着た青年、こちらは草薙という青年。彼がこの大蛇の中では実力者なのだろう。神楽にも信用され、チームを束ねているのに違いない。
「エネアドに潰されたって?」
 草薙は怪訝そうな顔をした。
 同行した四名のうち修二と極道・政(仁義背負って喧嘩道・b15772)は、実際違和感はない。蒼魔は髪を少し赤く染めており、また物事や服装もなじんでいる。多分蒼魔は『裏』に馴染みやすいのだろう。
 ただ誄火は物腰柔らかく、特に服装も拘らず赤いマフラーをつけただけで、九十九と視線が合うとつい笑顔を浮かべた。
「こちらにリーダーが居ると聞いて来ました。お会いさせていただけないでしょうか?」
「お会い……ねぇ」
 草薙が思案していると、蒼魔が口を開いた。
「チームを潰された仕返しをしなきゃ、このまま引き下がれねぇ。他にももう若干仲間がいるんだが、重要な情報を掴んでいる。……今日ここにエネアドが攻めてくるって情報だ」
 どうだ、聞かないか?
 周囲を取り囲まれているのに、四人は慌てる様子もなく落ち着いた様子だった。よほど自信があるのか、それともこちらを信じているのだろうか。
 いずれにしても、誄火もその一人であるのには違いなかった。
「……解った、ついてこい」
 草薙は地下室へと扉を開け放つと、顎を動かして奥へと誘った。

 現在赤木屋に居る大蛇のメンバーは、僅か二〇人足らずであった。
「すぐに全員招集しろ」
 神楽は草薙に指示すると、木目のテーブルに肘をついた。茶色の革張りソファーに浅く腰掛けた神楽は、背丈も体つきも丁度蒼魔くらいであった。
「時間帯はよく分かっていないのですが、俺達の時は女やチームメンバーを人質に取られました。今回もそういう手を使ってくる可能性が高いと思いますから、襲撃に備えて人質にされそうな者はなるべく一人にならないように注意しておいた方がいいと思います」
 誄火は説明しながら、配置について神楽と話し始めた。
 出来れば自分達が天竜頭蓋を倒したい。それは、自分達でなければ倒せないからだ。情報を持ち込んだ交換条件と取ってもらえれば、幸いだ。
「一度襲撃されちまってるから、相手の顔は解ってる。もし襲撃が当たっていたら、その権利はもらってもいいと思うがな」
 ぽつりと修二が言うと、神楽は頷いた。
 後ろから話合いの様子を伺っていた政は、小さくため息をつく。
「チーマーが所場代取って喧嘩か……まるでヤクザ者だな。最近の若けえ連中は、悪さにも可愛げがねぇな」
「な〜んか、言い方が年寄り臭いよ政さん。でも赤いシャツ、似合ってるよ」
 政が振り返ると、舞佳がいつの間に着たのか笑いながら立っていた。
「お前は前からそのシャツを着ていたのか?」
「トレードマークだもん」
 胸を張って舞佳が答えた。
 このジャケットも自前で、舞佳のお気に入りである。自分も赤が好きだと言った誄火とは、どうやら気が合いそうだ。
 特に誄火の赤いマフラーを見ると、何となく仲間意識が芽生えるというもんだ。

 話合いが大体まとった頃、舞佳は客席に居るナギの所へと戻ってきていた。いつのまにかジェニファーが居ないが、彼女はどこに行ったのだろう?
「ああ、あいつなら」
 とナギが指したのは、フロアを挟んで真向かいの席であった。ここからでは話している事がよく聞き取れないが、いつもの口調で注文を聞いているようだ。
 服装はこのクラブの女性店員の制服である、ピンクのミニスカートとエプロンドレスである。
「注文はあるかの?」
 すました顔でジェニファーは二人の側を通り過ぎ、ナギ達にそう言うとキッチンの奥へと入っていった。知らない間に交じっている……。
 奥から再びフロアに出てくると、ジェニファーはナギのテーブルにドリンクを置いた。
「そろそろくるんじゃないのか? お前、ずっとその格好で居る気なのか」
「そうじゃな。……下手するとさらわれるかもしれんが、さらうのは普通の人間なのであろう? では負ける気はせぬ。気になるなら、裏手に居る二人の様子を見に行ってやったらどうじゃ」
 こちらは忙しいんでのう、とジェニファーはすうっとフロアを歩いていってしまった。
 ナギはドリンクを飲み干し、立ち上がった。舞佳とともに裏手の方へと歩き出す……その時、裏手のドアからネイトが顔を出すのが見えた。
「とりあえず……頭悪い奴をぶっとばす!」
「……バッドヘッド、だな」
 舞佳とナギはにやりと笑うと、裏手へと駆けだした。
 じきに裏手、そして表側から黒いジャケットとバンダナの集団が乗り込んできた。あっという間に場内は悲鳴と怒号に包まれる。
 音楽に熱狂し、踊っていた人達は事態に気づいて方々に駆ける。
「どこに居る!」
 ナギが携帯でヴァイスに掛けると、向こうからも悲鳴が聞こえてきた。
「裏口付近だ、外の道路側から大蛇が挟み撃ちをしている……おそらく外から集結したメンバーだ。客の避難は出来なかったのか?」
「無茶言うな、営業時間中なんだぞ。それより天竜を地下室に誘導してくれ」
 その渦中に、天竜の姿もあった。
 出入り口のうち非常口と入り口付近には、エネアドのメンバーが居る。残り出入り出来るのは、キッチンの裏手と舞台裏の小さな出入り口。
「出ようと思えばトイレの窓からだって出られるが、避難には時間がかかる」
「神楽、あんたは避難誘導と大蛇の連中の指示を頼む。俺達は天竜を片付ける」
 答えを聞く間もなく、蒼魔は地下室から飛び出した。フロアの戦いは相手の方がやや人数が多いのか、押されているようだ。
 ナギと誄火は、聞いた出入り口に客と店員を避難させるべく誘導を続ける。しかし、人質を確保しようとするエネアドの阻止には手が回ってはいなかった。
「手が空いてる奴は避難を手伝ってくれ!」
「……ダメだ、俺の妹が連れてかれちまった……!」
 大蛇のメンバーは、不安そうに2階席を見た。
 店員の確認とフォローは、ナギも誄火も行っていないのである。
「毒島はどうした?」
「……そういえば、戒さんがフロアの混乱収拾を頼んでいました」
「じゃあ、あいつは?」
 2階席でビール瓶を片手に仁王立ちしているのは、天竜の方に回ってもらおうと思っていたジェニファーである。
 ジェニファーは後ろに女性店員を庇い、ビール瓶をエネアドに叩きつけた。
「餓鬼が大騒ぎしおって……埃が立って飯がまずくなろうが」
 せっかく妾が据え膳したものを、と平然とジェニファーが言い放つ。
 軽く店員を促して彼女に避難するように言うと、彼女を追いかけようとしたエネアドの前に立ちふさがった。
「なんじゃ、妾を人質にしようという強者はおらぬのか?」
 ミニスカートをひらりとゆらし、自分のおしりを叩いて挑発。
 飛びかかるエネアドを、軽く一ひねりで転がしていく。だが、舞台下に見える仲間は五名……どう見ても天竜と仲間相手に数がたりない。
「ここは俺が残る、お前は行け」
「……ふむ、女性を守るのは男の義務……と誄火が言っておったぞ?」
 すうっと笑うと、ジェニファーはフロアへと飛び降りた。

 人が引けていくと、フロアはとたんに広く感じられた。
 じりじりと地下室へと撤収したのは、出来るだけ戦闘中の様子を見られたくなかったという事もあった。
 だが、相手は六名でこちらは五名。特にトムというナイフを持った男と天竜に追い詰められているネイトは、かなり分が悪かった。
 片っ端からまとめて銃弾を浴びせる舞佳は、弾の生む炎でエネアドのメンバーを焼いていく。タイマンチェーンが使えたら、あいつ等の意識をこっちに向けられるのに……と、そんな焦燥感が生まれる。
「……ってな訳で、頼んだ!」
 舞佳の弾丸を浴びてなおナイフを振りかざすシュウの背後に、蒼魔が回り込む。もう一体、横合いからすうっと懐に入り込もうとする男が居るが、そのナイフは腹部をかくめて致命傷には至らなかった。
 まずは、一つずつ片付ける!
 蒼魔は舞佳に襲いかかったシュウの背中に、剣を叩き込んだ。上段からの一撃は、確実にシュウの体を振動させて内側から砕いているはずだ。
「まだ動くのか!」
 ナイフが舞佳の懐に入り、蒼魔が目を見張った。とっさに舞佳が、槍を振りかざしてはね飛ばす。ぐるりと払い上げた槍を再び構えると、舞佳は傷口を押さえた。
 階段下での戦いは、各個撃破に近い状況にあった。舞佳と蒼魔が協力してシュウを挟み込み、双方で治癒の隙を作りながら追い詰めていく。
 だが、たった一人で天竜の前に立ったネイトは、トムのナイフ攻撃と天竜の刀にじりじりと削られていった。
「てめぇらの仲間はこれだけか? やれやれ、そんじゃあここでお前達を倒した後でゆっくり他の奴らを片付けるか」
 にやりと笑う天竜を、ネイトは見据える。
 彼女の手にある銀の鎖剣は、うなり伸び天竜に襲いかかった。
「普通の争いで、片方に反則が入るのはフェアではありませんわ」
「じゃあ、フェアなはずの戦いで追い詰められる気分はどうだ、お嬢ちゃん」
 二対一がフェアかというと疑問であるが。
 鎖剣に炎をまとわせ、ネイトは怒りをぶつけるように放った。その炎は、確かに背後に迫っていたトムと天竜を巻き込む事には成功している。
 しかしその剣が天竜を焼くこととなく、かわりに天竜の刀が真っ直ぐに伸びてきた。
「お話しにつきあえなくて悪いな」
 刀の刃が背中まで貫通し、血がしたたり落ちる。
 ずるり、とネイトが崩れ落ちた。
「こっちが相手だ!」
 政がタイマンチェーンを放つが、天竜はするりとかわして政の懐に飛び込む。政は倒れたままの誄とを気にしながら、仲間に声を掛ける。
 今度は、自分がトムと天竜の総攻撃を受ける番だ。
 立ち上がろうとしたネイトであったが、傷を癒す事が出来ない。血がとめどなく流れ、見上げた所で天竜の刀が再び彼女を切り裂いた。
 そこで、意識が途絶える。
 ただ……遠くから、誰かの足音が。
 二人……。
 手を伸ばした先には、ジェニファーと修二の姿があった。
「よく我慢したな、遅れてすまない」
「いや、指示が混乱しちまったな……すまない」
 蒼魔は修二に謝ると、剣をシュウに叩き込んだ。
 息を大きく吐きながら、倒れたシュウを見下ろす。ジェニファーはすぐさま剣を抜き、ヴァイスと並ぶようにして立って剣を抜き放つ。
 彼女も自己治癒が一切出来ないのは、ヴァイスも聞いていた。
「下手に突っ込んだら、誰もフォロー出来ない」
 前衛が崩れている今、それはヴァイスも同じであった。ヴァイスはぐるりと見まわし、まずは舞佳の相手にしているセトとトトに目をつける。
「毒島、悪いが盾になってくれ」
「それ位ならいくらでも」
 修二はヴァイスの前に立つと、白虎の力を解放した。修二がトトに殴りかかると、それに合わせてヴァイスが黒燐蟲の力を爆発させる。
 強化された彼らには中々効かぬ力であるが、おかまいなしに打ち続ける。打ちもらしたものは、蒼魔が片付けて行った。
 双方、満身創痍である。
 舞佳も、とっくに治癒の力は使い果たしている。
「バッドヘッド! てめぇの思い通りにはさせねぇよ!」
 叫ぶと、槍先を天竜へと向けた。
 天竜の手元をくぐり抜けたと思った、その槍先。だが、天竜が身を反転させて避けると、かわりに刀が飛び込んできた。
「天竜ううううっ!」
 二つの声が、交差する。
 天竜の横合いから、政が刀をはじき返す。天竜は落ち着いて刀を下段に構えなおすと、弾かれた刀を下から切り上げた。
 一瞬……ほんの少し、政が早かったのだ。そのドスが、天竜の腕を切り裂いていた。だが天竜を致命傷にさせるには至らず、政の体を床に転がした。
「次はどいつだ?」
「こっちじゃ!!」
 ジェニファーの剣が、天竜を穿った。
 フロアでの戦いは、舞佳の雄叫びで終結を向かえる。天竜の敗北を意味する叫びは、フロア中に響き渡った。
「おい、どこにいく」
 ナギが、駆け出すヴァイスに声をかける。
 ちらりと振り返ると、ヴァイスはイグニッションを解いた手を出してみせた。
「…大蛇の加勢だ」
「そんじゃ、俺も暴れさせてもらうぜ」
 どこか嬉しそうに、修二もヴァイスの後に続いた。


マスター:立川司郎 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/10/05
得票数:カッコいい14  知的1 
冒険結果:成功!
重傷者:極道・政(仁義背負って喧嘩道・b15772)  ネイト・スタンッア(銀鎖の継承者・b77107) 
死亡者:なし
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