LALLAPALLOOZA


<オープニング>


 ───ダン、ダン、ダダン!

 体育館の床が揺れる。
「おいおい、あんま無駄にドカドカやると、また先生に怒鳴られっぞ」
「えー? 俺何もしてねーよ?」
 部活が終わり、バレーボールの片付けをしていた少年は、そう言って友人の方を振り返った。
「んーじゃ誰だよ」
 ムッとして見回すが、自分達以外に人影はない。
「……地震?」
「にしちゃ、おかしくなかったか?」
「…………」
 それはまるで、地響き。
 なんとなく、不気味なものを感じ取った少年達は、そそくさと残りの片付けを終えると、早足で体育館から立ち去ろうとした。
 が……。

 ダン!
 ダダダン!

 先程よりも数段大きい地響きが、少年達の足を伝わり身体を揺さぶる。
「ぅわぁ!?」
「……ッああっ!」
 ばたりばたりと、床に倒れた少年達は、それきり2度と立ち上がることはできなかった。
 
 
「ハァイみんな、集まってくれてアリガト」
 久慈・久司(運命予報士・bn0090)は教室を訪れた能力者達を教壇の前に呼び集め、用意した資料を広げながら話を始めた。
「高校の体育館に地縛霊が現れて、男の子2人が犠牲になっちゃう未来が視えたの」
 説明によると、事件が起きるのは放課後で、殆どの部活が終了し、バレー部の少年2人が後片付けをしている最中らしい。
「つまり今から向かえば、まだ間に合うって事か?」
 武田・愛一朗(はりけーん小狼・bn0070)にそう問われ、久司はこくりと頷いた。
「えぇ。だからみんなには、急いで現場に向かってもらって、しっかり男の子達を遠ざけたうえで、ゴーストを退治して欲しいのヨ」
 
 現れるゴーストは、全部で6体。
 前触れとして、体育館の床が軽い地響きを起こすらしい。
「まずは、バスケ部員の地縛霊が3体。バスケットボールを投げて攻撃を仕掛けてくるんだケド、皆かなり動きが機敏だワ」
 3人のゼッケンは3、5、6。3番が最も動きが素早い。
「男女の柔道部員の地縛霊が1体ずつ。男子の一本背負いは、純粋に大打撃。女子の巴投げには、吹き飛ばし効果があるわね」
 この2体は、どちらもかなりタフだが、男子の方がより体力があるようだ。
「そして、一番厄介なのが、最後方に控える応援団長の地縛霊ヨ」
 大太鼓を携えたこの地縛霊は、体育館の奥にいる為、他の部員をある程度片付けてからでなくては近接することは難しい。
 攻撃方法は、携えている大太鼓から繰り出される衝撃波で、これが地鳴りの原因でもある。
「衝撃波には、追撃と足止め効果があるワ。勿論、威力はかなりのものだから、みんなよく気をつけて!」

 ちなみに、校舎内への立ち入りは、制服さえ着ていれば比較的容易い。
「校舎内や校庭には、まだ結構生徒がいるみたいだけど、体育館にはバレー部の2人だけ。だから、安全の為に、まずは彼らをしっかり体育館から追い出してネ」
 
 もう随分と前のことではあるが、この学校で、部活動中に体育館の床が抜け、数名の生徒が亡くなるという悲惨な事故があったらしい。
「今はもうしっかりした体育館に建て直されて、事故のことを知らない生徒も増えてきてるみたいだケド……」
「…………」
 そう呟いて、少し哀しげに目を伏せた久司は、暫くして顔を上げると、制服の入った紙袋を能力者達に渡しながら、激励の言葉を投げかけた。
「みんなのこと、信じてるから……お願いネ」
「おうっ、任せとけ!」
 その言葉に応えるように、愛一朗は親指を力強く突き出すと、皆に「なっ!」と笑顔を向けた。

マスター:大神鷹緒 紹介ページ
応援団はやっぱり長ランであって欲しいと思う大神鷹緒ですコンニチハ。

そんなワケで、高校の体育館に現れた6体の地縛霊を退治してきて下さい。
体育館内には、バレーボールの片付けをしている少年が2人いますので、彼らに被害が及ばないよう、細心の注意を払って下さい。
万が一、彼らに被害が及んでしまった場合、依頼は失敗となります。

愛一朗が同行します。
もし何かありましたら、プレイングでの指示をお願いします。

それでは皆さん、平和な体育館を取り戻す為に、どうぞ宜しくお願いします。

参加者
草剪・ひかり(七色の虹を描く少女・b00540)
緋桜・瑞鳳(太陽の光浴びる大輪の華焔・b00860)
鷺宮・陸(コーラルリーフィ・b01563)
天宮・奈月(天翔茜歌・b01996)
星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・b15890)
鏡・月白(シルバースター・b37472)
緒方・凪(ホワイトライズ・b57126)
シュヴール・ルドルフ(ヴォルフエンブレイス・b57139)
神崎・真希(優しき路傍の石・b75013)
藤原・十織(蒼風の瞳持つ格闘少女・b76407)
NPC:武田・愛一朗(はりけーん小狼・bn0070)




<リプレイ>

●Sal de aqui!(ここから立ち去れ!)
 ズン、ズズン……。
 体育館の床が、低く鳴る。
「おい、まただよ」
「気味わりーし、早く終わらせよーぜ」
 少年達は顔を見合わせ、後片付けの手を早めだした。
 その時。
「あー、すんません。体育館の床下で工事やるみたいっす!」
「わっ!」
「だ、誰だ!?」
 バーンと大きな音を立てて開け放たれた、体育館の後ろ扉。
 そして、その中央に仁王立ちして叫ぶ神崎・真希(優しき路傍の石・b75013)。
「すぐ始めたいから、早く出ろ、急げって。早く早く!」
「え、でもまだ片付けが……」
 まだ終わっていないと、下校を渋る少年達。それならばと、藤原・十織(蒼風の瞳持つ格闘少女・b76407)が一歩前に進み出た。
「早く立ち去れ! 遠くに逃げてしばらく戻るな!」
「あ、ゎ……はィッ!」
 王者の風を発動させ、一喝。
「ぅあぁぁ!!」
 震え上がった少年達は、転がるように体育館から逃げ出ていった。
「お、行ったな?」
「うみゃ」
 壁に背中を預けたままで、走り去る少年達を目で追いかける緋桜・瑞鳳(太陽の光浴びる大輪の華焔・b00860)。その腕の中では、猫変身した天宮・奈月(天翔茜歌・b01996)がうにゃにゃと尻尾を揺らしている。
「さて、もう閉めますよ。いいですか」
 鷺宮・陸(コーラルリーフィ・b01563)は仲間達に確認をとり、体育館の扉を閉めて施錠した。
「よし、これで大丈夫」
「未来のある少年を、ゴースト事件に遭わせるわけにはいかないからな」
 まずは第一段階成功という風に、星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・b15890)が軽い安堵の笑みを浮かべる。
 迎撃の準備は整った。
 あとは、この地響きが本格化し、地縛霊が姿を現すのを待つのみだ。

 ───ズン、ダダダン。
 音が、徐々に大きくなってくる。
「そろそろか?」
 目配せしあい、イグニッションカードを掲げる能力者達。
(「過去の悲劇と、いまだに癒されない魂か……」)
 草剪・ひかり(七色の虹を描く少女・b00540)は、やや哀しげに目を伏せると、ともに前衛を担うシュヴール・ルドルフ(ヴォルフエンブレイス・b57139)らに声をかけ、奥に数歩踏み込んでみた。
 それと、ほぼ同時に。
 ───ダン、ダン、ダダダダン!!
「来たッ!」
 床を、空気を、大きく揺さぶる衝撃波が、能力者達に襲いかかった。

●La apertura de la lucha(戦いの始まり)
 能力者達の前に現れたのは、まるで部活動の最中のような、6体の地縛霊だった。
「いまも部活を続けてるつもりかな……」
 緒方・凪(ホワイトライズ・b57126)がぼそりと呟く。
(「……相も変わらず、銀の雫は悲劇を留め置く事に枚挙が無いね」)
 時の流れから取り残され、苦痛と哀しみを宿したその姿に、陸は僅かに憐憫の表情を浮かべた。
「きっと未だ、青春に汗流す在りし日を繰り返しているのでしょうね」
 解き放ちましょう。
 鏡・月白(シルバースター・b37472)の静かな言葉に、仲間達が強く頷く。

 真っ先に攻撃体勢に入ったのはシュヴールだった。
「生きていた頃は部活動に精を出していたんだろうが……惜しいが、もう帰宅時間だ」
『ギ……!』
 凍てつくような一撃が、女子柔道部員を凍り付かせる。そしてそこに間髪入れず、月白のプロトヴァイパーが、後方にいたバスケ部6番をも巻き込むように放たれた。
『テェェェイ!』
「くっ!」
 バスケ部3番の投げたボールが、優輝の腹を直撃した。咄嗟に防御態勢をとったお陰で、ダメージはほんの僅かだった。しかし、もし堪えそこねていたならば、かなりきつい一撃になっていたかもしれない。
「格闘好きな女の子……私に少し似てる?」
『タァァ!』
 できれば、2人でじっくりと戦ってみたかった。
 しかし、今はそんなことは言っていられないと、ひかりは覚悟を決めて高く跳ねた。
「もっと違う出会い方をしてたら……ね」
 ローリングソバットを思わせるようなひかりの蹴りが、女子柔道部員の肩口に決まる。
『クゥゥ!』
「我が龍の撃砲を受けてみろ!」
 続く十織の龍撃砲は、バスケ部3番と最後列の応援団長には避けられてしまったが、女子柔道部員にはどうにか当たった。
『タァーーーッ!』
「うわっと?!」
 女子柔道部員の巴投げが、瑞鳳をぶわりと投げ飛ばした。
「ゥワ危ねっ!」
 幸い、後方にいた武田・愛一朗(はりけーん小狼・bn0070)が壁になり、さほど遠くへ飛ばされることはなかったが、陣形を崩されるのは厄介だ。
「部活はもう終わりだ」
『……!』
 凪渾身の断罪ナックルが、女子柔道部員の身を貫く。幾らタフな柔道部とはいえ、立て続けのクリーンヒットには耐えきれず、これで、まずは1体目。
『ダァァ!』
『パースパスパス!』
「くぅッ!」
「避けきれません……ッ」
 バスケ部5番、6番のボールが、月白と十織に立て続けに命中する。それを見た陸は、若干体力の劣る十織に、すぐにヤドリギの癒しを施し、真希は狩猟体勢のままで男子柔道部員の懐に飛び込み、その胸板にパイルバンカーを撲ち込んだ。
「クー、俺らも行くぞ!」
「ギャウッ!」
 愛一朗のクロストリガー発動に合わせ、連爪撃を繰り出すクー。どちらも追撃には至らなかったが、それでも、男子柔道部員にそれなりのダメージを与えることは出来た。
『ダァァーーーッ!』
「さて、青春の残像を追い払うとしますかね」
 瑞鳳は突進してくる男子柔道部員を紙一重のところでかわし、カウンター気味に太陽の炎を宿した拳をその顔面に叩き込んだ。
『フゴッ!』
「まだまだ!」
 ぐらりと蹌踉めいたところに、今度は優輝の蒼の魔弾。
「さ、眠れよ。お前達の時間は、もう終わってるんだ!」
 更に、奈月のプロトヴァイパー。その効果は、のバスケ部5番と応援団にまで及んだが。
 ───ダダダン、ダン、ダダン!
「うわっ、何だ!?」
「……ッあー! 頭ガンガンする!」
 応援団長が大太鼓を打ち鳴らす。
 地鳴りを思わせるようなその音に、能力者達は足を止められ、大きなダメージを被った。
(「まだいけるな」)
 軽度で済んだシュヴールは、妄想がふんだんに詰め込まれた原稿用紙を辺り一面に撒き散らす。同じく、殆どダメージを受けなかった月白も、今度はバスケ部5番と男子柔道部員を射程におさめ、負荷の高い雷の蛇を奔らせた。
『オフェーンス!』
「ツぅっ!」
 3番のボールが、ひかりの鳩尾に直撃する。痛みを堪え、すぐにでも男子柔道部員に攻撃を仕掛けたかったひかりだが、大太鼓の影響で未だ足は動かない。ならばと瞳に膨大なプログラムを浮かばせて、体力の強化と回復に専念した。
「浄化の嵐よ、先輩たちを解放しろ!」
「すまない、助かった!」
 十織の起こした浄化の渦が、仲間達から禁癒と足止めを拭い去る。身の自由を得た凪は彼女に軽く礼を言うと、男子柔道部員に近接し、その腹に断罪ナックルを叩き込んだ。
『ウグゥ』
 苦悶の表情を浮かべる柔道部員。だが直後、バスケ部5番のボールが凪を狙う。
『トィヤァァ!!』
「くっ?!」
 腕にできた大きな擦り傷。しかし、この程度ならまだ問題はなさそうだ。
「不破の盾たる誓い、此処に示しましょう」
『グムッ?』
『アァァァア』
 ぞわりと生える、陸の茨。応援団長まで締め付けるには至らなかったが、それ以外の4体の地縛霊は、みな茨に捕らわれた。
「足さえ動けばこっちのモンだ!」
 真希は叫び、男子柔道部員との距離を詰めると、ロケット噴射の勢いの乗ったパイルバンカーで凄まじい一撃をくらわせた。
『ヴァァァ……』
「よっしゃ2人目!」
 消えゆく柔道部員を見て、グッとガッツポーズをとった愛一朗は、負けじとバスケ部6番に気合いのこもったクロストリガー。合わせてクーも飛びかかり、良い流れに乗るかのように瑞鳳の太陽の拳が忽ち6番を焼き尽くした。
「続くぞ天宮!」
「はいです!」
 先輩、後輩の息のあった2つの魔弾が、バスケ部5番の頭上に落ちる。
『ァアァ……』
 雷と炎に呑まれて消える、4体目の地縛霊。これで、残るはあと2体。
 ───ダッダッダン! ダッダッダン!
「ッあーぁ! またかよ!」
「あーもううっせーっての!」
 再びの衝撃波。だが幸い響きが悪く、足止めも追撃はない。
「解き放ちましょう」
 まるで呪縛を断ち切ろうとするかのように、月白がプロトヴァイパーを放つ。そこにシュヴールが駆け込んで、仰け反るバスケ部3番をフロストファングで跳ね上げるように大きく裂き、これで遂に残る地縛霊は応援団長のみとなった。
 ダン、ダン、ドドン。
 応援すべき運動部員は、もうどこにも居ない。
 それでも応援団長は、絶え間なく大太鼓を叩き続ける。
「未練、まだ残ってるんだね」
 私達が断ち切ってあげる。
 詠唱停止プログラムとともに、そんな強い想いも腕に込め、ひかりは応援団長の首にラリアットをお見舞いした。
「俺の風でその厄介な技を封じてやる!」
 巻き上がる十織のジェットウインド。生憎足止めまでは至らなかったが、それでも、応援団長に幾ばくかの傷を刻んだ。
「無念は俺たちが引き受けてやる。だから───」
 凪の突き出した断罪の拳が、応援団長の腹を深く剔る。
「何度でも前へ、だ」
 続けて、真希のロケットスマッシュ。そして陸は仲間達の様子を冷静に観察し、まずは回復手段を持たない凪に、ヤドリギでの治療を施した。
「クー、今だ!」
「ガウ!」
 愛一朗が引き金を引くのに合わせ、クーも応援団長に飛びかかる。弾はかわされてしまったが、しかし体勢が崩れたところを狙い、瑞鳳のプロミネンスパンチが炸裂。
「こんなせまっくるしいトコじゃなくて、もっと広いトコ送ってやるから。そこで好きなだけ太鼓鳴らすといいさ!」
「そうだ。ここはお前達の居場所じゃない!」
 そこに奈月の炎の魔弾も重なって、応援団長は炎の中でのたうちだした。
「あと少し……」
 今すぐ楽にしてやると、優輝が蒼き雷弾を撃ち落とす。
『ウゥゥ……ガァァ!』
 ───ダダダダダダダン! ダン!!
「うわぁぁ!」
「……ッ、やば……!」
 劫火を纏ったままだというのに、今日一番の衝撃波。能力者達は皆等しく大きなダメージを被った。
 だが、見た目にも明らかに分かる。
 あと一歩で、決着がつく!
「これでどうだ!」
 足止めを振り解いたシュヴールが、側面からフロストファング。
「今度はこちらです!」
 月白も、持てる力のすべてを込めて、最後のプロトヴァイパーを。
『ゥ……アァ』
 ドン、ドン、ドン。
 炎の中、大太鼓の音が徐々に弱々しくなってゆく。
「藤原、風を!」
「任せろ!」
 十織が上昇気流を発生させるのに合わせ、真希もロケットスマッシュで特攻。
『ヴァァァァ!』
 腹を大きく剔られて、前のめりになったところに、すかさずひかりが飛び込んでゆき、まさにムーンサルトと呼ぶに相応しい、美しい軌道の蹴りをくらわせる。
 そして、続けて凪の断罪ナックル。
「罪なら裁いてやる。安心して眠るがいい」
『…………!!』
 断罪のオーラにあらゆる罪を断ち切られ、応援団長は大太鼓を叩く手を止めた。
『フレーッ、フレー………』
 最期に、微かに聞こえたエール。
 それははたして、何処へ向けてのものだったのだろうか………。

●Y paz vino(そして、平和が訪れた)
 戦いは終わり、体育館に静寂が戻った。
「ふしゅー、みんな、お疲れ様なのです」
 緊張の糸が切れたかのように、奈月がへにゃっとしゃがみこむ。
「……来世では、どうか幸福に満ちた生を享受出来ますように。ずっと祈っている、から」
 陸は胸に手を宛うと、そっと目を伏せ、苦しめて御免と呟きを落とした。
「大丈夫よ、きっと」
 その肩を、制服を着直したひかりが、元気付けるように優しく叩く。
「あっ」
 体育館の片隅に、少年達が置いていったであろう鞄を見つけた十織は、それをコッソリ体育館外に出しておいた。
(「もう大丈夫ですから、荷物とか忘れないで下さいね〜……」)
 取りに来るのは明日になるかもしれないが、とりあえず、これでもう大丈夫だろう。
「しかし、今回は知り合いが多かったから楽だったな」
 勿論、初めて会う奴等も頼もしかったと、シュヴールは皆に笑みを向けた。
「そういえば、武田とは3年前の夏以来か」
「え? もうそんなになるんだっけか?」
 優輝に言われ、愛一朗は驚いたように目を丸くした。
「随分大人っぽくなって、頼もしくなったな」
「へへーっ……」
「ギャウーッ、ガウッ!」
「……ッと、悪ぃ!」
 照れ隠しにクーを抱き上げた愛一朗だが、つい腕に力を込めすぎて、クーから抗議をくらってしまった。
「こらこら、クーをいじめんな?」
 それを見て、瑞鳳がおかしそうに冷やかしをいれる。
「何にしても……彼らの想いを受け継ぐ後輩たちの命、守る事ができてよかったですね」
 そう言って、ふっと微笑みを浮かべる月白。
 奈月もゆるりと立ち上がり、同意するように笑みを返す。
「部活動に青春をかける後輩たちの姿、どうか天国から見守ってあげてください」
「……これからは彼岸で、此岸の皆を応援して欲しいのですよ」
 願いを込めて、軽く黙祷。
 仲間達も、倣うように静かに祈る。
「しかし、ホントに工事が必要になっちまったな……」
「ぅわ、コレとか結構ヒデェ!」
 真希に言われ、ふと体育館の床に視線を落とせば、そこには戦いの時にできたと思われる無数の傷が刻まれていた。
 かといって、小細工をすれば余計怪しまれるかもしれないし、そもそもそんな時間はありそうにない。
「ま、しょうがねえ。退散だ!」
「そうだな、きっとそれが最善だ」
 にへっと笑って肩を竦めてみせる真希に、優輝が同意するように笑って頷く。
「俺たちは偽装学生の立場だし、あまり目立たないようにな」
 帰ったら部活に出ようか。戦った彼らと違い、俺にはまだ時間が残されてるから……。
 凪はそんな思いを胸に懐きつつ、配電盤に手をかけると、己の肉体を電気に変えて、電線を伝わり一足先に帰路についた。

 体育館の扉を開ければ、秋の空は、既に黄昏を通り越して深い藍に染まりつつあった。
 そんな中、まだちらほらと見える、ジャージ姿の学生達。
「あいつらもしかしたら、ココで一生懸命部活やってる奴らが羨ましかったのかもなあ」
 瑞鳳はふと、銀誓館で過ごした時を思い出し、そんなことを呟いた。
 できることならもう少し、ここで、学生時代の想い出に浸っていたい。
「けど、そういう訳にもいかないな」
 ククッと自嘲し頭を掻く。
「じゃあな、頑張れ学生諸君!」
「もう安心して、部活続けられっかんなー!」
「折角だし、帰りに何処か行こうぜー」
「あ、いいですねー」
 そして、周囲に気付かれないうちに、急いでこの場から立ち去った。

 ───帰り際、ひかりはもう一度だけ、体育館を振り返った。
(「少しだけ……思い残しはあるかも」)
 けれど、すぐに踵を返し、仲間達の後を追った。


マスター:大神鷹緒 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/10/17
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