プリマドンナの憂鬱


<オープニング>


 身体が重い。
 足が上らない。
 こんなことは一度もなかったのに、すてれっちをするのさえ億劫。
 そんな私でも貴方は優しく、次の公演に向けてサポートしてくれる。
 貴方の腕に引かれて踊る楽しさを知ってるのに、どうしてかしら身体が言うことを利かない。
 このまま一緒にいて。
 ずっと一緒に踊って……。
 踊るのは辛いのに、それでも踊りたいと思ってしまうのは……。
 貴方と踊れる歓びを一緒に受ける喝采を知っているから。
 
 そうして、どうか……私に貴方を…………。
 
「オツカレサマ」
 普段でも言葉少ない樟高・匡(高校生運命予報士・bn0029)が、更に言葉少なく能力者達を、宵闇の屋上で出迎えた。
「早速で悪いけど、依頼の話をするわね」
 こう切り出すと、真っ直ぐに能力者達を見て話をはじめた。
「早速で悪いけど、依頼の話をするわね」
 こう切り出すと、真っ直ぐに能力者達を見て話をはじめた。
「あるバレエ団のレッスン場にプリマドンナのリビングデッドがでたわ。まだ被害は出てはない。けれども彼女が『食べたい』衝動に駆り立てられているのも事実」
 淡々と告げていく、事件の概要。
 一度唇を閉じ、一端間を空けてからまた唇を開いた。
「プリマドンナが食べたい衝動に駆られているのは、パートナーの男性プリンシパル。二人はこのバレエ団のトップバレエダンサーで次の公演が迫っていて、二人はずっとレッスン場に篭っている状態」
 二人はバレエ団のビルの4階にある寮で生活しているから、特別不思議に思われることはない状態。
 なぜなら自分自身を追い込むダンサーは珍しい事ではないから。
 ビルはは5階建て。
 1階、受付。
 2階、一般でも使えるレッスン場3つ。
 3階、団員専用のレッスン場4つ。
 4階、団員の寮。
 5階、事務所。
 という構図になっていて、二人が篭ったままのレッスン場は3階の一番奥まった場所にあり、絶えず次の公演の曲が流れている。
 パンフレットのレッスン場のところをとんとんと指で叩く匡。
「3階には団員しか使わないけど、2階のレッスン場は昼間から夕方は毎日何かしら一般の人でも参加できるレッスンも行われている様ね」
 ページをまたもう一枚めくり、2階の見取り図とレッスンプログラムが載っていた。
「これは直接事件には関係ないかもしれないけれども、今度の公演が終われば結婚を申し込むつもりだと仲間に洩らしていたそうよ」

 二人はバレエだけではなく、深く心でも繋がっていた。
 だからこそお互いを高め合い、より良いものを表現してきた。
 それが二人ともずっと続くと思っていた。
 二人でこの先も踊っていけるとおもっていた。
 でもそれは無情にも叶う事がなかった。
 バレエ団を出て少し買い物にでた彼女は、飲酒運転の車に轢かれてしまった。
 外傷はさほどなく、綺麗なままとその情熱が彼女をイケナイ形で蘇らせてしまう。
 また彼と一緒に踊るために、彼女はバレエ団に戻った。
 けれども日に日に変わっていく彼女の様子。
 イケナイカタチで蘇ってそろそろ2週間。
 リビングデッドとなってしまった彼女からは次第に笑顔が消えていく。
 押さえられない衝動。
 自分を抱く彼の腕に噛み付いたのはつい先日の出来事、彼の腕から流れる赤い血が甘い蜜の味がして、夢中になってしまう。
 そんな彼女の行動をどこかおかしいと思いながらも、受け止めてしまった彼。
 それで彼女が踊ってくれるなら。

 小さく深呼吸した後、匡は気持ちを切り替えるように、リビングデッドの戦闘能力について語り出す。
「バレエダンサーということもあり、動きは俊敏だから気をつけて。武器は持たないけれども、長いすらりとした足から繰り出される蹴りは要注意よ。油断をすれば吹き飛ばされる可能性もあるから。それに戦闘となれば彼女の周りには、コールドダンサーのように、無念を残した女性のバレエダンサーが3人現れるわ。彼女達はもう腐敗が始まっているから、さほど強くはない」
 けれどもやはり、元々がバレエ団さ、プリマドンナには劣るといえども気を抜けば危ないこともあると付け加える。
「残念だけれども幕を閉じてあげなければならない。次の公演を楽しみにした二人だけれども、それは幕を開けるわけにはいかないから」
 そう告げもし必要ならと、人数分の無料体験チケットを能力者のひとりに手渡した。

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参加者
月乃・紅(紅い月・b01117)
水無月・音音(ソードダンサー・b02230)
グローリア・フェン(アドリア海の陽・b03120)
山南・茄矢(早口で喋れない・b04089)
クレール・アンリ(碧眼の黒豹・b15435)
赤王・木霊(小学生ファイアフォックス・b15878)
斉藤・亮(無音世界・b18034)
朧・儚(終の緋雨・b20102)



<リプレイ>

●何が最善か
 1階の受付に能力者たちが集まっていた。
 広々としたロビー。広く取られた待合のゆったりとしたソファ。
 どこからともなく聞こえてくる、音色は複数。
「お待たせしました。体験レッスンですが、いくつかコースがありまして」
 ソファで待たされていた能力者たちの前に、事務の女性がやってきて体験レッスンの説明をしていく。
「あの、すみません。僕、入団を考えていているんですが……」
 体験レッスンの説明が終わった後、斉藤・亮(無音世界・b18034)が事務員に尋ねる。
「そうですね…。それでしたら、このまま残ってもらってよろしいですか?」
 事務員の言葉に亮は頷く。
 簡単な説明を受けた後、能力者たちはそれぞれ動き出す。
 全員が同じクラスを受けても良かったのだが、いろんな情報を集めるためと、この後の作戦のことを考えて、なるべくバラバラのレッスンを受けることにした。
 
 女子更衣室で着替えを始める。
 クレール・アンリ(碧眼の黒豹・b15435)は、久しぶりに受ける本格的なレッスンを楽しみにしている。着替えた後、更衣室で簡単にストレッチを始め、レッスンに備えて体をほぐす。
 クレールと仲の良いグローリア・フェン(アドリア海の陽・b03120)も久しぶりに踊れるとあって、ワクワクしていた。
「それじゃぁ、私たちは先にレッスンを受けてくるわね」
 朧・儚(終の緋雨・b20102)が更衣室に残るクレールとグローリアに声を掛け、月乃・紅(紅い月・b01117)と一緒に更衣室を出て行った。
 山南・茄矢(早口で喋れない・b04089)は既にレッスンを受けている。
「そういえばコダマは?」
「何かハナシ、ある言って、受付行きましたデス」
 一緒にレッスンを受けるはずの赤王・木霊(小学生ファイアフォックス・b15878)がおらず、どうしたのかと首を傾げる二人。

「どうしても、あの人に教わりたいんだ」
 木霊が受付で大きく指差すのは次回公演の『ジゼル』のポスター。
「あそこに移っているタクミって人に習いたい」
 しかし彼は次回公演のため、一般のレッスンには訪れないと諭されるが、しばらく粘るもどうしてもダメだと分れば更衣室に戻ってきた。
「コダマ、そろそろレッスンの時間よ?」
 戻った木霊と一緒に、クレールとグローリアが更衣室を後にする。彼女たちは一般人には誰もいない更衣室に向かって手を振った。
 誰にも見えなかったが、能力者たちにはそこに闇纏いの水無月・音音(ソードダンサー・b02230)が見えていた。音音も出て行く仲間に軽く手を振り見送った。
「さて、私も調べに行きましょう」
 更衣室をある程度調べた後、他の場所を調べに更衣室を後にした。

 一足先にレッスンを終えていた茄矢は2階の間取りを調べていた。
「エレベータが2基に階段は両端にひとつずつ」
 さりげなく更衣室に戻るフリをしながら、2階の構造を調べていた。
 ふっと持っているタオルに視線が落ちた。見ていたのはタオルではなく自分の手。
「…………」
 少し迷っている。ただ敵を倒すだけではない。誰かの大切な人を奪ってしまうという事。能力者なら割り切らなければならない。
 ――――けれども………。
 さっきから何度も同じ事を考えている。大きく吐息を吐き出すと彼女は色んなものを吹っ切るように顔を大きく左右に振って、更衣室に戻ろうと駆け出した。

「3階は静かでしたね。一番奥のレッスン場は中の様子を伺うことは出来ませんでしたね」
「そうねきっと、あそこが二人のいる場所ね」
 更衣室ではレッスンを終えた紅と儚がいた。
 そこへ最後のレッスンに参加していたクレールとグローリアが戻ってきた。
「あら、木霊さんはどうしたの?」
 儚が二人と一緒にレッスンを受けてた、木霊がいないことを儚が尋ねた。
「それが…デスネ…」
 グローリアとクレールが顔を見合わせてから説明をした。
 一緒にレッスンを受けていたのだが、なかなかうまく出来ないことに『もうなんでうまくいかないんだ!』と、癇癪を起こして出て行ってしまったということだった。
「レッスンは楽しかったですか?」
 更衣室に戻ってきた音音を交えて、夜に向けての打ち合わせをしてから女子更衣室を後にした。
 1階で、亮が待っていた。
 他のメンバーとまた違った形で、建物内を調べていた彼は、入団目的ということを利用して事務員や他の入団者などからも情報を仕入れ、4階の寮に生活している団員の人数や、大体の行動時間の情報を掴むことが出来た。
「ありがとうございました」
「あら? それで全員?」
 全員でその場を出ようとした時、不意に掛けられた声。自分達の案内をしてくれた事務員。それには彼女は先に帰ったと、伝えると簡単に納得し、また来てね。と、能力者たちを見送った。

●心に抱えるもの
 夜になるまで、バレエ団の近くで潜伏をする能力者たち。
 そうしてビル内には音音は闇纏いのまま、儚は音音に探してもらっておいた隠れられる場所で時間になるまで静に、息を潜めて待機していた。

 ――――――22時を廻った。

 携帯電話で時間を確認した音音が先に動き出す。
 悲しい。悲しい。悲しいけど…ここで止めないと、もっと悲しくなってしまう。泳ぐ視線。悲しいのはきっと皆同じ、能力者としてやるべきこと。悲しくてもコレが誰かを救うことになる。そう信じなければ辛い部分もある。
「朧先輩……大丈夫ですよ」
 儚が隠れている場所へ声を掛けに行く。
 儚は2階の一般用の更衣室の片隅で息を潜めていた。
「……もしもし?……だめです」
「1階に急ぐわよ」
 音音が携帯電話で外にいる仲間に連絡しようと思ったが、電波は届いているはずなのに連絡が出来ない状態にあった。連絡が出来なかった時は、1階の非常口の鍵を裏から開けておくと示し合わせていたので、二人は1階へと急いだ。

「こんな事を言ってはいけないんでしょうが…次の公演まで、このままでいさせる事はできないんでしょうか…」
 思わず呟くのは亮。分っている分ってはいるが、どうしてもやりきれない気持ちの方が強い。
 亮の言葉に茄矢が思わず視線を伏せた。今日の昼間考えていたことが脳裏をまたよぎるから。
「私もダンスする、ので踊りたい、キモチわかるつもりデスネ。でも…大切な人、傷つける、マスミはしたくないハズ、思うデス」
 少し重い空気が流れる。
 そこへグローリアが力強く、声を掛ける。そう悲しいけれども悲しいのはみんな一緒。二人のためにできることをしようと。
「時間です」
 22時5分を廻った事を紅が時間を確認した。
 中からの連絡はない。能力者達はビルの裏側に回り込んだ。連絡があってもなくてもここの非常口を開けていく手はずになっている。
 金属製の重い扉のノブを回す。鍵はかかってないようでゆっくりと、扉を押し開けてみる。
「大丈夫よ」
 扉を開けた向こう側に、儚と音音が立っていた。

 顔を見合わせると、7人は3階のレッスン場に向かって走り出した。
 それぞれに思いを抱きながら。
 コレが正しいのか正しくないのかわからないまま……。
 それでもコレが誰かを救うこととなると、信じて…。

●ラストダンスを踊る前に
「……あの、僕に先を行かせていただけませんか?」
 少し考えがあった亮は、仲間に申し出た。もしそれで失敗しそうになったときは援護を頼みたいと。
 無闇にアビリティでどうにかするより、何か手立てがあるのならそれを試してみようと言うことになった。
 扉の前に一人たつ亮。
 『夢は…叶えるためにある筈のものだった…』誰も悪くはないのに……。
 一度大きく深呼吸し、閉ざされた扉を軽くノックした。
「あの、斉藤・亮といいます。今度このバレエ団に入団しようと考えいていて…それでここのプリンシパルのタクミさんに少し伺いたいことがあるのですが……」
 人の気配など感じさせない雰囲気なのに、途切れる事無く次の公演に使われる曲が流れていた。どれくらい待っただろうか、もうそろそろ突入しようかと言う雰囲気になったとき。静かにレッスン場の扉が開かれた。
「……何、オレに用?」
 酷く掠れた声。
 顔色は悪く、やつれている事がすぐに分る。
「……ここでは少し話しにくいので、ご一緒してもらっても良いですか?」
「………」
 タクミは黙り、亮をじっと見つめる。その後ゆっくりとレッスン場の方を振り返った。
「……―――少しだけなら」
 そう言ってタクミはもう一歩足を踏み出し、後ろ手にレッスン場の扉を閉めた。
 亮はさりげなく仲間に目で合図し、タクミと共に上のフロアに向かって歩き出した。

 亮とタクミがこのフロアを離れたのを確認してからイグニッションを完了する能力者達。
 勢い良く扉を開け放ち、中へ真っ先に中に飛び込んだのは音音。
「ごめんなさい、ラストダンスです」
 愛する人を本心から傷つけたい人などいない。
 だからこそ戦わなくてはいけない。
 プリマドンナの舞台に幕を下ろしてあげないといけない。
 悲しくてもコレが自分が出来ることと、勢い良くレッスン場に飛び込んだ音音はマスミの姿を見つけると、フレイムバインディングを放った。炎の蔦がマスミの方へと伸びていく。
「……誰? レッスンの邪魔をしないで。ねぇ、タクミは何処なのかしら」
 すらりとした身体つきの女性が音音を見据えた。自分に迫ってくる炎の蔦を交わす。するとプリマドンナの背後に薄汚れたロマンティックチュチュを着たコールドバレエダンサーが姿を現した。
 薄暗いレッスン場に茄矢が持って来た懐中電灯の明かりが灯る。後衛で皆のサポートに徹する彼は、他の皆が戦いやすいようにと暖かい子守唄を歌う。
「次の公演が迫ってるの。タクミとならきっと最高の舞台になると思うの」
 マスミの言葉が茄矢の胸を突き刺さる。誰かの大切な人を奪ってしまうということ。けれども自分は能力者だ。こうする事が二人の幸せなのだから、割り切って……。そう思う、吹っ切るように歌声を更に響かせる。
 紅の放った炎の蔦がマスミを襲う。軽く交わわし、華麗なステップから紅に向かって長い足で彼女の蹴り上げた。
 コールドバレエダンサーに向かうのは後衛で戦うグローリア。彼女達の一人に向かってフェニックスブロウを放つ。腐敗が進んでいるリビングデッドには一発のアビリティで致命的なダメージになる。
「さあ、死のダンスを愉しみましょう」
 儚がグローリアの援護をするような形で白燐拡散弾を放つ。解き放たれた蟲たちは3人のスポットライトを浴びることのなかったダンサーへと向かう。
「お腹を空かせた蟲達には丁度良い餌ね」
 その言葉どおり一人が崩れ落ち、動かなくなる。
 チームワークの取れた戦い方は、バレエダンサー達を圧迫する。
 紅がダンサーを拘束し、旋剣の構えで攻撃力を挙げた音音が日本刀を振り落とす。
 仲間が傷つけばグローリアのブンザエモン。茄矢のヒーリングヴォイスが仲間を癒す。

「愛と云う呪縛に囚われた哀れなプリマ。残念だけど貴女の望む公演の幕は永遠に開かないわ。呪いを解く、甘く残酷な接吻を最期に…夢の中へと逝き堕ちなさい」
 コールドダンサー3人は倒れ、元の姿に戻ってしまった。
 儚が一人残ったマスミとの間合いをつめ、爆水掌を放つ。傷を負っているプリマは吹き飛ばされて致命的な傷となる。
 次の公演演目は『ジゼル』なんて皮肉なものなのか。ジゼルは死んで亡霊となった後も、愛しい人を守った。けれども目の前のジゼルは生ける屍となって、恋人を喰らおうとしている。
「もう、幕は下りていたのよ」
 クレールの声が響き、備え付けの大きな鏡が突然マスミに向かって倒れてきた。蟲の知らせ。マスミはそれを交わすことが出来ず、ダメージを追っている彼女はそれが止めとなった。
 マスミの手が誰かを求めて大きく伸びた。
 
 …………――――――もう一度彼の手で、踊りたかっただけなの。アイシテル。

 大きく伸びたマスミの手は止めをさしたクレールの方へと伸びていた。物悲しげに耳にした彼女の言葉。そうして彼女は不慮の事故に見舞われたような形で、もう二度と舞えなくなった。
 タクミがマスミを受け入れてしまう気持ちも分かる。でももしかしたら彼自身、気付いているのではないかとも思う。愛する彼女の心にはもう、タクミに対するパートナーとしての信頼も深い愛情も、残っていないという事。
 クレールは終わった事に深いため息をついた。
 このまま次の公演に出て踊ってもきっと観客の心は掴めなかったと思う。バレエに限らずダンスや芸術的表現は心で奏でるものだと思うから。

●残されてしまったもの
「話はそれだけ?」
「……え? えぇ。ぁ、ちょっと待ってください」
 4階の談話室で向き合って話し合っていた、亮とタクミ。話がそれ以上続かなくなったとき、タクミが立ち上がり3階に向かおうとした。何とかもう少しだけでも時間を稼ぎたかったが、もう限界だった。
 もし下が戦闘中なら、そう思うと恐ろしくもなったが、仲間を信じて亮も一緒に階段を下りた。
「行っちゃ駄目だ! タクミさん。もうマスミさんは…マスミさんは……」
 3階で待っていたのは木霊。一端帰ったもののこのままではいけないと戻ってきたのだが、ビル内に侵入するのに手間取り、今到着したところ。
 すでに戦闘は終わり、他の仲間の姿はなかった。
 それよりもタクミは木霊の言葉に、マスミが待っているレッスン場に向かう。
 戸口でタクミの足が止まった。
「………マスミ?」
 愛しい人の名前を呼ぶ。
 そこで変わらず待っている彼女、名前を呼ばれても動かない。
 大きな鏡の下。突然訪れた不幸な事故。
 ゆっくりとマスミに近寄るタクミ。横たわったままの体を抱き締める。あふれ出す涙。人目など気にせずに零れ落ちていく。
 キミがいなければこれからどうすればいいんだ。と、声を押し殺す。ほら今日は2幕をやるって……。最後は声になっていなかった。
「ただ…ずっと共に在りたかった…それだけだろうに…」
 亮は静かにレッスン場の扉を閉めた。
 マスミとタクミの姿を見て木霊は「ごめんなさい、ごめんなさい」を繰り返し泣きじゃくっていた。
 亮も大きく吐息を吐き出すと、木霊と一緒にビルを後にした。

「…既に幕は下りていたんだ…もう、もう……」
 出てきたビルを振り返る音音。やりきれない悲しさが胸を一杯にする。
 そうもう一緒に踊ることも、この先の未来を約束することもなくなってしまった。堪えきれず自分の胸元を握り締めた。

 踊れなくなったプリマたちに静かに祈る。
 次の舞台まで、安らかな眠りを………。
 きっといつかまた、幕は上るかもしれないから。 


マスター:櫻正宗 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2007/04/28
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