新郎新婦による初めての共同作業です


<オープニング>


「おお、まだここもあったんだなぁ」
 老齢の男はそうこぼせば、懐かしそうに目を細めた。その表情は、いくつもの感情が混ざり合った微笑だ。
「ええ、本当に」
 その隣で、似た表情で微笑むのはやはり同じ年頃の女性だ。
 二人がいるのは、既に廃棄されて久しい教会跡だった。内装など一つも残っておらず、スタンドグラスも割れ放題のそこは、しかし二人にとっては掛け買いのない思い出の場所だった。
「あの時は、神前式じゃないのかってお義父さんには目を丸くされたもんなぁ」
「私が教会式でやりたいんだって、言いくるめるのも大変でしたよ」
「時代が時代だったからなぁ」
 二人の何十年にも及ぶ『夫婦』生活――ここは、その始まりの場所だった。その頃を思い出しているのだろう、左手の薬指にある結婚指輪を撫でながら女は周囲を見回す。
「……年を取るわけですね、ここがもうこんなになってるだなんて」
「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか――か」
「あなたは、すぐに『誓います』って答えたものね」
 今にして思えば、大分照れくさい事を言ったもんだなぁ、と男が小さく苦笑した――その瞬間だ。
『――そのような誓いに、何の意味が?』
「――ッ!?」
 その老夫婦がその声に気付いた瞬間、二人の体に大量の黒い杭が突き刺さった。声もなく、二人の体が倒れ伏す――それを黒いウェディングドレス姿の女が胸から伸びる鎖を鳴らしながら同じく黒いヴェールの下で言い捨てた。
『死ねば一人でしかないのに……命ある限りの誓いなんかに……』

「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
 放課後の武道場。合気道着の八重垣・巴(高校生運命予報士・bn0282)はまったく似合わない言葉を口にした。
「今回、あなた達に頼みたいのはとある教会跡に現れる地縛霊の対処よ」
 そこは昔は結婚式なども行われる教会だったのだが、もう十年以上前に廃棄され今では誰の手も入らぬまま放置され続けているのだという。
「犠牲者になる老夫婦もそこで何十年も前に結婚式を行ったようね……でも、これは未来予知よ。今から早急に対処すれば救う事ができるわ」
 巴はそこで一度言葉を切ると厳しい表情で続ける。
「そこに出現するのは一体の地縛霊よ。黒いウェディングドレス姿の女性ね。攻撃手段は三つ、遠距離の全周へと黒い杭を放ち精気を吸収する攻撃、黒い十字架を召喚する事により遠距離の視界内を黒い光で焼き尽くす攻撃、近距離の全周を足元から伸びる黒い鎖で拘束する攻撃、以上よ。黒い杭には同時に『猛毒』の効果が、黒い光には『追撃』の効果が、黒い鎖には強力な『締め付け』の効果があるわ。全体的に攻撃寄りだけど、攻撃と同時に回復もこなせる相手だからある意味厄介だわ」
 この黒い花嫁は『ある条件』を満たすと教会の入り口付近から出現する。
「その条件って言うのが『その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?』って質問に『誓います』って答える事なの――まぁ、ぶっちゃけると結婚式の真似事をすればいい訳よ」
 巴が能力者達の顔を見回し、どこか悪戯っ子のような笑みで言葉を継いだ。
「必要なのは新郎新婦役と司会の牧師の三人ね。残りは、結婚式を祝う友人役でいいと思うわ……何事も経験だしねぇ、あなた達の中で装うのもよしいっそ恋人でも呼んで予行練習のつもりでもいいんじゃないかしら? そこはお任せするわ。あ、衣装とかはこちらで用意するわ、イグニッションすれば汚れないし問題ないわ」

 巴はそこまで言ってから人の悪い笑みから信頼の笑みへと代わり告げる。
「老夫婦さんのせっかくの思い出だもの、それを汚すような事だけはないように頑張って……大丈夫、あなた達なら出来るって私は信じているわ」
 じゃあ、頑張ってね、と巴は締めくくり能力者達をとてもいい笑顔で見送った。

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参加者
立湧・治秋(寡黙な剣士・b14010)
緋神・琉紫葵(黒翼咆哮・b42772)
風波・椋(悠久の黒・b43193)
達川・薫(全てを射抜く漆黒の瞳・b44475)
秋月・那波(中学生真符術士・b52976)
久留宮・沙希(中学生科学人間・b55661)
アリアン・シンクレア(妖精姫・b58068)
柳生・狼華(断罪の戦乙女・b62835)
鈴乃宮・光華(影を愛でる光・b76361)
壱塚・紘緒(漆黒の衣血薔薇で飾る花婿・b76884)



<リプレイ>


 ――それは、秋晴れの日。
 耳を澄ませば波に音が聞こえる打ち捨てられた教会は、今この時だけはかつてありし日の役目を果たそうとしていた。
「どんな形であれ結婚式にはおめかししなくっちゃ!」
 大人びた格好の水色のドレスを着た秋月・那波(中学生真符術士・b52976)がウキウキしたように満面の笑顔で言った。
 着飾った彼等の中で、異質なのは二人だ。
「うむ、牧師といえばこーいうダンディの事だよ」
「また女装……やっぱり変ですか?」
 黒の聖職服の中に布を詰め込み、付けヒゲとメガネを装備した恰幅のいいオジサマ姿に満足げにうなずく鈴乃宮・光華(影を愛でる光・b76361)ともはや慣れてしまったシスター姿の自分に苦笑する壱塚・紘緒(漆黒の衣血薔薇で飾る花婿・b76884)だ。
(「……高校を卒業したから礼服を作らなきゃならないんだよな、そういえば。…高校だったら制服を着ていけば大抵なんとかなってたんだが……」)
 黒のフォーマルスーツに白ネクタイを着用した自分の姿を見下ろしそんな事を考えていた立湧・治秋(寡黙な剣士・b14010)が、ふと気付いたように周囲を見回した。
「――それで? 新郎新婦はどうした?」
「ああ、新婦さんがまだ着替えが終わってないみたい。ちょっと、様子見てくるね」
 バサバサ、と大量の花びらを用意していた久留宮・沙希(中学生科学人間・b55661)が扉の方へと視線を向ける。
 その扉の向こうでは――。

「仕事仕事。きっちり割り切って行くぞ」
 昔取ったなんとやら、自前の白スーツを卒なく着こなした緋神・琉紫葵(黒翼咆哮・b42772)が自分に言い聞かせるように呟いた。
(「何ていうか、新婦役が狼華母さんというのはかなりへこむ……」)
 一瞬でも気を緩めると、そんな事を思ってしまう――そんな琉紫葵に後ろから声が投げかけられた。
「琉紫葵くーん、表情固いですよー?、スマイルスマイル♪」
「げ、何で舞矢がここにいるんだよ」
 思わぬ顔が友人役としてそこにいる――そんな舞矢の後ろにいたドレス姿に、琉紫葵が目を丸くした。
 そんな表情に、花嫁姿の柳生・狼華(断罪の戦乙女・b62835)がいつもの表情で言い捨てる。
「……何、こんな綺麗な花嫁に何か不満でもあるの?」
「文句なんて無い。そっちこそ俺が花婿で文句あるんじゃないのか」
「彼女じゃなくて悪かったわね、まぁ予行練習と思って諦めなさい」
 そんな言葉のキャッチボールを交わす二人の目の前、少しだけ扉が開く。中から顔を出したのは沙希とアリアン・シンクレア(妖精姫・b58068)だ。
「柳生さ〜ん、とっても綺麗よ♪」
「ありがとう」
 アリアンの手放しの賞賛に、狼華も笑顔で答える。そして、沙希も満面な笑顔で告げた。
「それじゃあ、始めましょう!」


「それでは、新郎新婦の入場です。暖かい拍手でお迎えくださーい」
「それは結婚披露宴だろう?」
 達川・薫(全てを射抜く漆黒の瞳・b44475)のツッコミと共に――ギィ……、と軋む音と立てて開いた扉から新郎新婦が姿を現した。
「おめでとー」
「柳生先輩素敵です!うらやましいなぁ! 新郎さんも綺麗です!おめでとうございます!」
「こりゃまた美男美女だね……羨ましい!おめでとう!」
 沙希が、セルシアが、オリヴィエが、新郎新婦の歩く道に花びら撒いていく。寂れた教会の中に、淡い日の光が二人の道を照らすかのように降り注ぐ光景は、どこか幻想的でさえあった。
(「(……私も、ああいうのを着る機会が来るのだろうか」)
 女の子だしそういうのに興味がない訳ではない――ぼんやりと新婦の姿に薫は自分を重ねてみた。
「……おめでとう」
「おめでとうございます。幸せになってください! ふふふ……」
 拍手をしながら治秋が微笑で祝福を述べ、那波が微笑んでいるのか吹き出しそうなのか微妙な笑顔を見せる。
 そんな祝福の拍手の中、ついに新郎新婦が恰幅のいい牧師とシスターの前へとたどりついた。
「エー、エヘン。新郎よ、その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います」
 低く作った声の光華の問いに、琉紫葵は真顔で答えた。これには、内心で焦ったのは狼華だ。
(「これはお芝居、お芝居だから……」)
「うむ。新婦よ、その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います」
 内心に必死に言い聞かせていた狼華が、きっぱりと答えた――その瞬間だ。
「――ッ!」
 ゾクリ、とその場にいた全員の背筋に冷たいものが走る――弾けた様に振り返ったその先に、一つの黒い人影を見た。
『――そのような誓いに、何の意味が?』
「さて、お遊び気分もここまでです。気を引き締めていきましょう」
 クルリ、とイグニッションカードを手の中で回し風波・椋(悠久の黒・b43193)が言い捨てる。それに、残りの者もイグニッションカードを手に身構えた。
『死ねば一人でしかないのに……命ある限りの誓いなんかに……』
「……出ましたね。何があったか知らないけれど、人生の門出に難癖つけるその捻じ曲がった性根、私がキッチリ矯正してやる!!」
 狼華の啖呵と同時――十三人にも及ぶ能力者達が、その声を揃えた。
『――イグニッション!!』


「氷の精霊王よ。いにしえの盟約に基づき吹雪を巻き起こせ!」
「貴様に何があったかは察するが、自分だけだと思うな!」
 アリアンの凛とした叫びと共にそこに猛吹雪が吹き荒れ、治秋の振り払った刀の軌道、それに沿って走る赤い影の鉤爪が黒き花嫁へと迫った。
『あ、あ、あ――!』
 ジャラン、と黒き花嫁の足元から黒い鎖が無数に出現し壁となるが、アリアンの氷雪地獄に鎖の壁は白く染まり、治秋のカラミティハンドがそれごと黒き花嫁を切り裂いた。
「回復はおまかせ! がつーんとやっちゃってください」
「――助かる」
 那波の病魔根絶符に自らに突き刺さっていた黒い杭を砕きながら薫が動く。その透明な長杖を突き出しながら、眼前の魔弾の射手の魔法陣越しに蒼い雷を撃つ込んだ。
「魔弾よ、撃ち抜け!」
 ダンッ! と薫の蒼い魔弾が黒き花嫁の細い体を撃ち抜く――だが、その次の瞬間、黒き花嫁の背後に黒い十字架がそぼえたち、黒い光が視界内の能力者達を飲み込んだ。
「スピードスケッチ!」
「ここは既に静かで穏やかであるべき場所。貴方がいていいところではないの!」
 サポート達の回復を受けながら椋の指先がすべき、沙希が時空を歪ませる蒼い雷を投擲する。椋の描いたディフォルメされた黒き花嫁が体当たりをかまし、沙希の蒼い魔弾が着弾した。
「行きますよ、シスター!」
「今は違う!」
 ゴウッ! と花びらを舞わせる光華の浄化の風が吹き抜け仲間達を癒し、紘緒と紘緒の使役ゴーストであるサキュバス・キュアのアリーシャが穢れの弾丸と射撃攻撃を繰り出した。
 ――能力者達と黒き花嫁の戦闘は終始能力者達が押す形となった。
 黒き花嫁はその黒き祝福や黒き誓い、黒き束縛という優秀かつ強力な範囲攻撃で能力者達を攻撃して行くが、光華や那波に加えて三人のサポートによる回復はその攻撃力を上回る。加えて、回復に余力を割く事無く攻撃に専念する残るの能力者達の攻撃は黒き誓いの回復を上回り、そして黒き花嫁の厚い防御を物量で押していく。
 結果、危うげなく能力者達は黒き花嫁を圧倒していき――ほどなく、その時が訪れた。
「この聖なる場所を穢すおまえに罰を!」
 紘緒とアリーシャの新郎新婦――ただし、逆――が、その穢れの弾丸と射撃攻撃で黒き花嫁を撃ち抜いた。
『あ、ああ――』
 グラリ、と揺れた黒き花嫁へと狼華と合わせて動いた琉紫葵が攻撃を重ねる。
「新郎新婦の初の共同作業が、ケーキカットじゃなく地縛霊退治って、どんな結婚式ですかい」
「我が瞳は深淵の闇に誘う」
 苦笑交じりに振り払った狼華の純白の長剣と禍々しい輝きと共に呪う琉紫葵の魔眼が黒き花嫁を十字に切り裂いた。
「氷の精霊王よ。いにしえの盟約に基づき吹雪を巻き起こせ!」
「……わざわざ愛する者同士を引き裂くようなことはさせん!」
 アリアンが猛吹雪を呼び起こし、その中を治秋の赤い影の鉤爪が走る――ビキリ、と更に魔氷の白に蝕まれ大きく引き裂かれた黒き花嫁が、それでも踏み止まる。
「貴方を苦しみから解き放ちます」
「例え終わってしまったとしても、ここは神聖な場所だ。お前の出る幕はない!」
 那波の御霊滅殺符が、薫の蒼い魔弾が、黒き花嫁を打ちすえ貫き――黒き花嫁が、叫んだ。
『ア、アアアアアアアアアアアアアッ!!』
 召喚された黒い十字架から、黒い光が溢れ出す――それが視界内の能力者達を飲み込むのを見た黒き花嫁は、息を飲んだ。
『――ッ!?』
 黒き光の中から飛び出してきたのは、黒い花嫁衣裳を着た女――椋が精緻に描いた渾身のスピードスケッチだ。
「ここは幸せの跡なんだ。悲しいこと言わないで」
 黒き花嫁が抱きつくような椋のスピードスケッチの体当たりを受けて、膝を揺らす。
 そこへ、蒼い雷を弾丸とした沙希と右手をかざした光華が続く。
「貴方には同情する! だから安らかに眠って!」
「終わりがどんなバッドエンドでも――そんな鎖に縛られてちゃダメです!」
 ドンッ! と沙希の蒼い魔弾がその胸を撃ち抜き、光華のジェットウインドによる上昇気流が斬り裂いた。
『ア、ア……ッ!』
 黒き花嫁の手が伸ばされる――その病的に白い指先は何かを掴もうと空中をさまよい……何にも触れる事無く、消え去った。


「今はおやすみ。そして来世で幸せな結婚式を迎えてくれ」
 いっそ優しく、琉紫葵が囁いた。そして、全員がようやく安堵の息をこぼすと結婚式も撮っていた年代物のカメラを手に那波が笑った。
「どうせですから、記念撮影しましょう。いろんな意味で話の種になりますよ」
「っと、写真撮るんだね。品物残してちゃっていいの?」
「……これも良い思い出になる……と良いですけど……、黒歴史になりそうですね……」
 まぁ、これも思い出かと苦笑交じりに椋はこぼし、狼華は溜め息混じりに言う。そんな狼華の手をとって、琉紫葵が苦笑した。
「この続きはお互い本命とするってことで」
「ええ、そうね」
 イグニッションを解除して新郎新婦の姿に戻り笑みを交わす二人を見て、シスター服の紘緒がこぼす。
「改めてよく見ると……本当に素敵だな……」
「まぁ、暫くは私には関係ないことか。……ハァ」
 新婦の姿に自分を重ねようとしてうまくいかず、薫が小声で溜め息を漏らした。
「うーん、いい感じの結婚ごっこだったかな」
「私もいずれ……いや、無いな」
 沙希と光華がそれぞれの顔を思い浮かべながら、違う意味で学園のある方角を見やる。そんな女性陣を見ながら、治秋も目立たないようにみんなの列へと並んだ。
「じゃあ、いきますよー」
 カメラのタイマーをセットした那波が、パタパタと駆けて列に滑り込む。
 そして、カチャリとシャッター音が響き渡る――きっと、今日のこの日が笑って語り合える、そんな日のために……。


マスター:波多野志郎 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/11/25
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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