<リプレイ>
●紅蓮の襲撃 「ねぇ、何の騒ぎ?」 「わかんないけどさ、他校の不良達が攻めてきたとかなんとか……」 「えー、何それ?」 この日、銀誓館学園は騒然とした空気に包まれていた。 ナイトメア王の配下「バッドヘッド」天竜・頭蓋と、彼の力により常人ならざる力を付与された不良達が学園を襲撃してきたのだ。 これまで多くの戦いを経験してきた能力者達だが、学園が直接的な侵攻を受けたのは未曾有の事態。 「こういうのって、『ドージョー破り』って言うんだっけ……」 少し違う気はするが、あながち間違っても居ないのだろうか。東郷・氷雨(聖なる歌姫の守り手・b53673)はぼそりと呟く。 「……あの黒馬達も思い切った行動に出たわね。それだけ追い詰められているのかしら?」 「何か策があるのか、それとも何も考えていないのか……」 暫し思案に耽るエクセル・カーリム(蒼月・b01754)と龍臥崎・まきな(みづかがち・b16153)。 確かにこれまでのコピーを用いた戦術からは打って変わって、ご本人の登場である。当然なんらかの勝算は有ってのことだろう。 「……何はともあれ、周りに被害が出ないようにやるしかないか」 「ええ、一般人の前でイグニッションしなければいけないのは痛いところですが……」 片山・京介(気候術士・b43677)、御堂・遥(銀の剣閃・b02015)の2人が危惧するとおり、ただ撃退するだけでもなく周囲にも気を配る必要がある。 なにしろ学園内には一般生徒や職員も数多くおり、彼らに能力者達の戦いを見せるのは何かと都合が悪いのだ。 「誕生日にもめ事とは……今年も退屈しない一年になりそうだぜ」 プレゼント代わりに訪れたタイトな状況に、溜息をつく美咲・紅羽(アクセラレータ・b65300)。 ただし能力者達にとってプラスの材料もある。 不良達は天竜・頭蓋の下にひとまず纏まっているが、各チームは緻密な連携を取っているわけではなく、所詮は烏合の衆。チームごとに、各個撃破する事が出来る筈だ。 個々の質で大きく勝る能力者達なら、一般人の目を欺き被害を最小限に留めながら敵を撃退する事も、可能かも知れない。 (「……自分の居場所を守るためにも、絶対に負けられない……」) 穢宮・風月(穢宮の姫巫女・b23521)に続き、一行は密かにイグニッション。 標的であるチーム「東神紅蓮隊」への接触を試みる。
「おらおらー! こんだけでかい校舎に、アタイ達を止められる奴が1人も居ないのかい!?」 一行は、さほど労せずしてそれらしき集団を見付けた。 花壇や植木を荒らしたり、壁に「夜露死苦」だの「仏恥義理」だのスプレーで落書きしたり、やりたい放題だ。 「すげーなぁ……なんなんだ」 「今どき、あんな格好してる人居るんだね」 そして周囲には、野次馬を決め込む一般生徒達。 「気をつけて下さい! あの人達は、銀誓館の生徒なら誰彼構わず乱暴する気みたいです」 「「ええっ!?」」 「じ、じゃあ……顔を覚えられたりしたら大変ですね! 隠れないと!」 月代・奏(黒蝶の魔女・b61344)と弓弦の巧みな演技に、周囲に居た野次馬達はハッと我に帰る。 自分に危険が及ぶかも知れないとなれば、高みの見物をしている場合ではない。這々の体で物陰に隠れたりしながら、逃げ出して行く。 こっそり目配せをして、その後も弓弦は一般生徒達を誘導。万が一にも戦いに巻き込まれることがないように警戒を続ける。 「ちっ、どいつもこいつもケツを捲って出て来やしない」 「こんなんじゃアタイ達の出る幕はないかもねぇ」 手下達が破壊活動を続ける間、退屈そうに座り込むリーダー格3人。もちろん座り方は不良スタイル。 「……私の母校を荒らすなんていい度胸ね貴方達」 「……あぁ?」 と、ドラマであればカメラワークが光りそうな登場をしたエクセル。不良達へ敢然と言い放つ。 「なんだテメェは、先公かぁ?」 「ふん、アタイ達の前に出て来るとは勇気あるじゃんよ……ボコボコにされる覚悟は出来てんだろねぇ?」 リーダーらをはじめ、モノに当たるのに飽きた不良少女達がぞろぞろと集まってくる。 「マドカさん、ヒカルさん……それに、アスカさんですよね」 「へぇ、アタイ達を知ってるのか」 奏に名指しされ、ちょっと得意げな3人。 「……東方愚連隊と言ったか? あんたらのきれいな顔をツブしたるから来いよ。相手になるぞ」 気を良くする彼女らに、水を差すのは京介。 「んだとぉ!? てめぇぶっころされてぇのか!!」 「アタシ達は東神紅蓮隊だ!」 アスカは怒りに顔を真っ赤にしながら凄む。手下達も、それぞれの得物を手に臨戦態勢。 銀誓館学園の敷地内において、予期せぬ戦いはついに幕を開けた。
●邀撃 「術式展開っと。さぁ、始めようぜ」 魔方陣を展開する紅羽。氷雨はスケルトンのヤマトと、ゴーストイグニッション。 更に奏は風月の得物である「月讀」に黒燐蟲を纏わせてそれぞれ戦闘力を高める。 「こんな分り易くて前時代的な……スケバン? ってまだこの世に存在したんですね! ぷっ……その服、お母さんのお下がりですか?」 「てめぇぇ!!」 前衛に進み出たまきなの煽りに激昂した不良数人が、チェーンや鉄パイプを振り回しながら一斉に襲い掛かる。 ――ビュッ! 唸りを上げる不良たちの攻撃だが、まきなは全て紙一重で見切ると、逆に水刃を振るう。 「……臨兵闘者皆陣裂在……前ーっ!!」 敬愛する先輩の奮戦を援けるべく、水刃手裏剣を放つ風月。 「ぐっ!」「うわあっ……!」 瞬く間に、先陣を切った不良2人が地面に伸びる。 「なっ……こいつらっ!」 「お前達、気をつけな! ただもんじゃないよ!」 さすがに警戒を強めるスケバン達。 「……それっていつの時代のコスプレかしら?」 しかし、ここで冷静になられては都合が悪い。クルセイドモードを発動しながらエクセルは、新たな挑発の言葉を紡ぐ。 「コスプレだとぉ!?」 「ハッ、これがれっきとしたスケバンの伝統的スタイルさ。文句あんのかい」 アスカは依然としてブチギレたままだが、さすがにマドカは不敵な笑みを浮かべつつ、そう開き直って見せる。 「いまどきスケ番なんて天然記念物的存在ですね。こんなところではなくて博物館に行って陳列されていてはいかが?」 「てめぇごるあぁ!! ぶっ殺すからこっち来いやぁ!」 更には旋剣の構えを取りながら、遥がそう煽る。アスカに至っては脳の血管が破裂してしまうのではないかと思うほど、真っ赤になって喚く始末。 「落ち着きなって、熱くなったらあいつらの思うつぼだよ」 「うるせぇ! 来ないならこっちから行ってやるよ!!」 「お前達、行きな」 ヒカルの制止を振り切って、突貫するアスカ。マドカはすぐさま手下に命じてアスカを援護させる。 2人とも平静を装ってはいるが、内心は決して穏やかではないだろう。 「「うらーっ!」」 手下達は、まきな、遥を取りあえずの標的にした様子。 角材や鉄パイプを振り上げて襲いかかる。 ――キィン! ナイトメアの力を付与されているとは言え、技量の差は歴然。2人が不良少女達の攻撃をいなす間に、京介の拳銃が火を噴く。 「アタイの折り鶴を食らいな!」 ――シャッ! それでも、さすがにリーダー格の1人であるアスカは、金属製の鶴をまきな目掛けて投げつける。 一見力任せに見えて、その投擲は極めて精密。しかも巨体から投じられただけに、勢いも凄まじい物だった。 ――ガキィン! 二振りの小刀を交差させ、とっさに直撃を回避するまきな。 走る衝撃に一瞬顔を顰める。 「……子供のおもちゃですよね? ぷっ、可愛い」 が、すぐさま魔方陣を展開して自己回復しながら、ダメ押しの挑発。 「……援護します……」 まきなが尚もスケバンらをおちょくっている間に、風月は水刃手裏剣による反撃を試みる。 「ぎゃうっ!?」 折り鶴に勝るとも劣らない練気の技は、手下の喉元を正確に捉える。 「女を傷つけるのは気が進まないんだが……仕方ない、な」 女の子には優しくがモットーの紅羽だが、今回ばかりはそうも言っていられない。間近でチェーンを振り回している不良少女の懐へ飛び込み――繰り出されたのは鋭利な弧状の蹴り。 ――バキッ! 「ぐうっ!」 一撃のもとに不良を打ち倒す。 (「……姉貴達にはこの事がばれない様、気を付けよう、うん」) 地面に伸びた相手を見おろし、密かにそう誓うのだった。
●そして本陣へ 数分後、3人の手下達は残らず地面に突っ伏し、戦闘不能となっていた。 「ちっ、情けないね……こんな連中相手に手も足も出ないってのかい」 一方で能力者達は誰1人欠けることなく、決着を着けんと間合いを詰めて来ている。 圧倒的不利な旗色に、吐き捨てるマドカ。 「どうする、このままじゃ……」 ヒカルとマドカは小声で何やら相談を始める。この期に及んで逃げ出すという事は考えにくいが…… 「えっと……可愛い女の子がこんな事しちゃダメ、だよ……」 「なっ……?!」 氷雨の言葉は、必ずしも相手を挑発する為だけに紡がれた嘘では無かった。 けれど、これまで散々浴びせられていた挑発とは別方向からのアプローチに、思わず反応するスケバン3人組。 「かわいい……だとぉ?」 「ええ。その鶴、自分で折っているところを想像すると可愛いわね貴方」 「よしなっ! それ以上ふざけた事ぬかすと、承知しないよ!」 「貴方はメイド服とかのほうが似合うんじゃない?」 「め、めいど?!」 「それにあなた、その髪、染めてるの? 枝毛ができているわよ」 「えっ……」 エクセルもこれに調子を合わせ、1人1人へ個別に言葉を掛ける。 「もう許さねぇ! 2人とも、行くよ!」 「「おう!!」」 ――バッ! ヒカルの手から、無数のビー玉が放たれる。 それはマシンガンの弾丸の様に降り注ぎ、能力者達の体力を削り取る。 「力のない人に、暴力は良くないと思う……からもう止めて……?」 氷雨は数発のビー玉を浴びながらも、周囲に漂う雑霊達を集め、ヒカルへと放つ。 これと同時にエクセルが、自慢のブロンドをかきあげる仕草から、呪いの魔眼を用いる。 ――バシィッ! 「くっ!?」 「ヒカル! てめぇらぁっ!」 「社会のルールを理解できないなんて、なんて子供なんでしょう。子供は家に帰って大人しくしてなさい」 遥は激昂して投げつけられた折り鶴を「ファルトラル」で受け流し、更にヒカルへ斬撃を見舞う。 「私達が……紅蓮隊がこうも……」 「噂で聞いたことがありますよ。天竜って人に負けたチームですよね?」 「負けてなど……っ!」 言い終えるより早く、奏の放ったダークハンドが彼女を捉えた。 崩れ落ちるヒカル。 「1人でも多く道連れにしてやるっ! 覚悟しなっ!」 「風よ、力よ。かのものの時を歪めよ……『停』」 京介の手に、蒼い雷光を放つ球体が浮かぶ。 ヨーヨーを手に向かってくるマドカ目掛け、時空を歪める魔弾が放たれる。 ――バシュッ!! 「うあぁぁっ!」 それは吸い込まれるようにして、正確にマドカを捉えた様に見えた。直撃を受ければ、暫くは満足に動く事も困難だろう。 「あーあ、スケバンのくせに普通の生徒に喧嘩で負けそうなんですか? ……ぷっ、そんな面白い格好しているクセに恥じる感情はいっちょ前に在るんですね。耳が真っ赤ですよ」 「てんめぇぇぇ!」 「……かしこみ、かしこみもまうすっ……!」 鼻先で嗤いながら、まきなはあくまで「ムカつく優等生」キャラを崩さない。アスカの放つ鶴が襲いかかるが、風月の降臨させる祖霊らが、そのダメージも瞬時に和らげる。 「何者なんだ……アンタ達……」 どうにかして立ち上がったマドカは、能力者達を見回す。 年もさほど違わなければ、およそ荒事とは無縁に見える少女も居る。自分達が負けるとは到底信じられないのだろう。 「そんな怖い顔、するなよ。折角の可愛い顔が台無しだぜ?」 「なっ……だ、黙れっ!」 唸りを上げるマドカのヨーヨー。しかし冷静さを失った直線的な攻撃を、紅羽は紙一重で見切る。 ――ドッ! 「ぐっ……う……」 再び繰り出されたクレセントファングが、彼女を強かに打った。 マドカもまた、地面に倒れ伏す。 「ち、ちくしょうっ!!」 「ごめんね……でも、暴れられると困るから……」 最後の悪あがきにも似たアスカの抵抗に対し、氷雨は謝罪の言葉を紡ぎながら雑霊弾を放つ。 のみならず、遥が間合いを詰めて長剣を振るえば、エクセル、奏、京介の射撃が絶え間なくアスカを打つ。 「くうっ……てめぇら、覚えてろ……」 苛烈な波状攻撃の前に、ついにはアスカも砂煙を上げて地に倒れた。 「一昨日来なさいッ!」 「……勝った……」 「ひとまず縛り上げておくか」 「運命の糸をつなげるには不良の真似事も必要なのですかねぇ」 目の前の敵を撃退した一行だが、これは前哨戦に過ぎない。 真に倒すべき敵はこの後に控えているのだ。 「……よし、後は大将だな。学園を守るぞ」 「ゴーストじゃない人たちを使って襲いにくるなんて、ちょっと許せないよね……」 かくして、銀誓館の能力者達は「バッドヘッド」天竜・頭蓋との決戦に赴くのだった。
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参加者:8人
作成日:2010/11/30
得票数:楽しい9
カッコいい2
知的1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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