キスキスキッス


<オープニング>


 冬の夜が冷たいから、人は温もりを求め合う。夜の闇は深いから、きらびやかな夜景にに魅せられる。
 高台にある公園のベンチで、一組の男女が肩を寄せ合い座っていた。瞳を熱く潤ませながら、互いの鼓動を聞いている。
 ――どちらが先だっただろうか?
 横を向き、見つめ合う二人は両手を静かに絡めていく。揺れる瞳に吸い込まれるように顔を寄せ、相手の唇を塞いでいく。
 暖かな冷たさを求めていく。
「うーらーめーしーやー」
「っ!?」
「な、何っ!?」
 ――ロマンティックな雰囲気をぶち壊し、根暗な女が出現した。女は髪を逆立たせ、驚く男女ににじり寄る。
 怨嗟の言葉をぶつけていく。
「カップル死ねー、死んでしまえー」

「はい、これ」
「? なにこれ」
 放課後の教室に足を運んだ春宮・静音(バトルマニアレディ・bn0097)は、手渡されたガムテープを眺めきょとんと首を傾げていく。後で分かるよ、と長谷川・千春(高校生運命予報士・bn0018)は不敵な笑顔で応対し、依頼の説明を開始した。
「とある高台の公園にね、地縛霊が現れたの。隠れた名所って奴かな? 未だ被害者がいない点を考えても、ひと気は少ない場所なんだけど……」
「そう遠くない未来に被害者が出る、ってこと?」
「うん、そうなんだ。だから、絶対に倒さなきゃいけないの」
 千春は現地までの地図と共に公園の地図を取り出して、五ヶ所にマルをつけていく。
「出現場所なんだけど、この五ヶ所のどこかってことがわかったくらいで、特定はできなかったんだ。でも大丈夫、五ヶ所とも近いし、出現条件も難しいようで簡単だから、特に問題なく出現させることができると思うよ」
「近いって言葉が入るってことは……もしかして、時間限定?」
「うん、その通り。地縛霊を出現させるには、この五ヶ所の何処かで、零時前から零時過ぎまでの間、二人であることをしなきゃいけないの」
「あることって?」
「キスすること」
「キス?」
「うん、マウストゥマウス」
「マウストゥま……って、えぇ!?」
 真っ赤になった静音を始め、理解した者たちが様々な反応を見せていく。千春はひと通り楽しんだ後、先ほど握らせたガムテープを指さした。
「だからガムテープ。やっぱり大事な物だし、直接は……って人もいるしね。後、男女だけでなく同性同士でも大丈夫だから、その辺りも安心してね!」
 何を安心するというのか。語られぬまま説明は続いていく。
「出現する地縛霊は女の人」
 特別な力は特に無いものの、嘆きと共に伸ばされる髪の毛は戦場全体を縦横無尽に打ち据える強力な技。
「力量は高いから油断だけはしないでね。説明は以上、かな」
 説明を終えた千春は、未だ同様を隠せない風な者たちをとても楽しそうに眺めた後、そういえばとメモをめくった。
「地縛霊が出現する候補地である五ヶ所、どこも夜景がきれいな場所として、ごく一部で有名なんだって。地縛霊を倒し終えたらゆっくり眺めてくるのもいいんじゃないかな?」
 楽しい情報をもたらされても、特に状況が変わった感はない。けれど、特にフォローなどもしないまま、千春は説明を締めくくる。
「いろいろと大変な相手だけど、みんななら大丈夫! きっとできるよ! それじゃ、無事討伐できる事を祈っているね!」

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参加者
稲垣・晴香(発展途上の仔猫レスラー・b10327)
クリスティナ・ドレアム(夢の世界に誘う・b35856)
露木・水無月(耳と尻尾はもふもふ・b43410)
沢城・瑞佳(忍法ハト御膳・b49536)
霧島・絶奈(さよならを教えて・b61363)
天川・そら(ダンスウィズミルキーウェイ・b71485)
風霧・來那(風と踊る魔法使い・b71827)
犬神・リューシャ(真クルイークヴォルク・b73419)
ファム・アルフート(中学生処刑人・b78468)

NPC:春宮・静音(バトルマニアレディ・bn0097)




<リプレイ>

 街より星に近い場所、人の騒がしさなど届かぬ高台に公園があった。深夜零時を回ろうとしている今の時間はカップルが足を運んでくるけれど、電飾整備のため一時封鎖……と記述された看板を前にして、仕方ないと肩を落とし別の場所へと向かっていく。
 ひと気もなく、虫たちも歌わない冬の公園には、風と木々のざわめきだけが鳴り響く。どこか寂しげな静けさに満ちているからこそ、人は温もりを求めるのだろう。
 輝く月、煌めく星々が浮かぶ空の下、秘められし時が訪れる……。

●巡る季節に見守られ、優しい今に抱かれて
 周囲の木々が途切れる場所、街の夜景が見渡せる場所に、少し長めのベンチが設けられていた。ベンチの両端を守るように植えられた子供くらいの背丈を持つ小さな木には、やがて正月飾りが施されていくのだろう。
 気に留める様子もなく、犬神・リューシャ(真クルイークヴォルク・b73419)と沢城・瑞佳(忍法ハト御膳・b49536)が見つめ合っていた。気恥ずかしいのか頬を染めている瑞佳は熱っぽく潤んだ瞳を閉じて、小さな体を子犬のように震わせている。
「……」
 言葉をかけることはせず、リューシャが蜂蜜色の髪をかき上げた。瞳を優しく細めたまま、ゆっくりと顔を近づけていく。
 軽いキスを交わすため、唇を近づける。
「っ……」
 挨拶代わりに家族と交わしていたから、慣れていた。慣れていたはずなのに、心臓が小さく高鳴った。頬が熱を持ち始め、視界も霞んでしまっている。
「……」
 リューシャも瞳を瞑った。瞑ったまま、改めて唇を重ねていく。
 小さな体がぴくりと震えた。色白の肌に朱が走った。安堵にも、苛立ちにも似たもどかしい熱に支配され、瑞佳の顔が真っ赤に染まる。
 ――もしも、唇を守るガムテープがなかったら……。
 瞳を開くことはおろか、身動ぎすることすらできはしない。
 甘い匂いに侵されて、二人は理由すらも忘れていく。
 秘密の逢瀬は続いていく。少女たちの心が赴くままに……。

 春ならば見事な色に染まるであろう桜の大樹も、今はただ寂しげに枝葉を揺らすだけの無彩色。大きな幹を震わせながら、ベンチに座る二人を優しく見守り続けている。
 小さなざわめきを風に乗せ、見つめ合う二人を祝福する。
「実は恥ずかしながらキスの経験が無いんです……優しくして下さいね?」
 青い瞳を見つめる霧島・絶奈(さよならを教えて・b61363)が、熱を帯び始めた空気を震わせた。
 クリスティナ・ドレアム(夢の世界に誘う・b35856)は腰に手を回し、妖艶な笑みを浮かべていく。
「ええ、優しくするわ。だから全部、私に任せて……」
 軽く力を入れて細い体を引き寄せる。柔らかな膨らみで鼓動を感じ、届けながら、銀の瞳と碧眼を繋ぐ見えない糸を辿っていく。
 唇が、甘い温もりに満たされた。
 つつけば他愛もなく開かれて、クリスティナの分身が淫靡な水音を奏で出す。
 体が熱を持ち始め、瞳が徐々に潤み出す。柔らかな膨らみを押し付けて、体を優しく撫で上げて……。
「っ」
 一段と柔らかな場所へ辿り着こうとした刹那、クリスティナは瞳を見開いた。己は差し入れたまま、拳をわなわなと震わせる。
 絶奈が気づく様子はない。クリスティナがそうしたように抱きしめ、絡めとりながら、必死に粘着質な水音を奏でようと動かしている。踏み止まったのなど知らず、柔らかな肢体を撫で上げる。
 ――すくすくと蔓を伸ばし既にびっしり絡まりあった二本の葡萄を引き離す方がまだしも易しい……。
 少女たちは濡れた雌しべを絡ませ合う。汗ばむような熱を抱いていく。
 月に惑わされてしまったかのように、淫らな楽曲を紡いでいく……。

 花の咲かない今の時期でも丁寧に手入れされているのか、ベンチのそばに設けられた小さな花壇には雑草など生えていない。虫の気配すらも感じられず、他所とはまた質の違う静寂に満ちていた。
 人が静寂に凍えてしまわぬよう、惑わされてしまわぬよう、外灯は深い闇を照らしている。ファム・アルフート(中学生処刑人・b78468)の上気する頬を、潤んだ瞳を、湿った吐息を照らし出している。
 向かい合う露木・水無月(耳と尻尾はもふもふ・b43410)が、小さく唾を飲み込んだ。 けれど違う! とでも言うかのように顔を激しく横に振り、手足を大きくばたつかせる。顔を真っ赤に染めていく。
 ――大丈夫、少女漫画とかで予習してきたから。
「っ!?」
 火照る両頬に冷たい手を当てられて、ビクっと体を硬直させた。目をまん丸く見開いて、青い瞳を見つめていく。
「目、閉じて……」
 ぎこちなく微笑まれ、今一度唾を飲み込み瞳を閉ざす。
 ファムも静かに瞼を下ろし、ゆっくりを顔を近づけた。
 水無月の体が大きく跳ねる。
 ガムテープ越しに重なる唇から、激しい鼓動が伝わってきた。
「……ん」
 小さな息継ぎで、ファムは己の音を伝えていく。より情熱的に、水無月を抱きしめていく。
 二人だけにしか聞こえない歌を聞くために。
 二人だけで奏でる歌を紡ぐために。
 優しい夜空に見守られ、甘い密儀は続いていく。
 温もりが正常な思考を奪っていく。柔らかな感触が炎に薪をくべていく。
 冷たい夜風に酔いながら、偽りの密儀を続けていく。
 心を歌で満たしていく……。

 ひらひらと、枝から紅葉が舞い落ちる。風に乗り落ち葉の中へと埋もれる。
 秋の終を迎えても、色褪せても魅力を失わない木々が見守る中、ベンチに座る少女が自分の手を見つめていた。隣に座る少女は気づいた様子もなく、着々と手を動かしている。
「……ねえ」
「は、はいっ」
 不意に声をかけられて、稲垣・晴香(発展途上の仔猫レスラー・b10327)が跳ねるように顔を上げた。春宮・静音(バトルマニアレディ・bn0097)は少し驚いたような顔をしたものの、すぐに優しいほほ笑みを浮かべ晴香の髪を撫で上げる。
 言葉はなく、頬を染めた少女たちは見つめ合う。
 目を逸らすことなく、潤んだ瞳で見つめていく。黒い瞳、長いまつげ、仄かに染まる頬、塞がれていく唇を。
「……」
「……あ」
 肩に手を置かれて、晴香は初めて見惚れていた事に気がついた。
 鼓動が高鳴る。息をするのも忘れていた。無言のまま促され、ゆっくりと瞳を閉ざしていく。
 ――自分より熱を抱く相手といると、かえって冷静になれるから……。
 静音は軽く身を屈めた。張りのある体を抱き寄せながら、己の顔を近づける。
 乾いた感触越しに、唇と唇が重なった。覆われていない肌がこすれ合い、晴香が体を震わせる。
 それきり、少女たちは動かない。互いに身を固めたまま、唇を重ね続けていく。
 紅葉は粛々と降り積もる。二人の髪を肩を、膝すらも覆い隠す。
 赤で、黄色でこげ茶色で、二人だけの世界を彩色する……。

 立冬を過ぎ、クリスマスも近づいてきた十二月。モミの木に似た針葉樹で、きらびやかな電飾が冷たい闇に暖かな輝きを与えている。雪が積もれば白が混じり、本物のクリスマスツリーに変わるのだろう。
 静かに眺めていた一組のカップルは、電飾が風に揺れるとともに嘆息する。夜景も見えるベンチで二人きりなのに、心が弾んでいる様子もない。
 時計を見れば、零時まで五分を切っていた。二人は合図するまでもなく見つめ合い、今一度ため息を吐いていく。
「そろそろ、かな……?」
 風霧・來那(風と踊る魔法使い・b71827)の心は、少なくとも目の前の恋人には委ねていない。耳で、肌で、若干視界の悪い周囲をうかがい続けてる。
「ガムテープ、要らないよね?」
 同様に、天川・そら(ダンスウィズミルキーウェイ・b71485)も瞳でしか見ていない。特に淀むことなく紡いだ言葉で恋人の唇を導きながら、意識を外へ向けていく。
 重ねられた唇は、冷たく濡れた甘いもの。
 けれど、どこか温もりに欠けるもの。
 二人の逢瀬はまだおあずけ。
 時が満ちるまで、二人は気持ちを外へと向ける。七色に煌めく電飾で、白い頬を染めながら……。

●不幸な女に手向けの言葉を
 四度、笛の音が響き渡った。更に二度重ねられた。
 逢瀬を重ねていた者たちは素早く、あるいはゆっくりと唇を離し、定められたワードを紡いでいく。音の在処へと走りだす。
 七色の電飾煌めく場所へ、心の矛先を向けていく……。

「きいぃぃぃぃぃぃ! カップル死ね、死ねぇ!!」
「準備完了! ここからが本番だよ!」
 リリカルな静寂をぶち壊す声の主、文字通り髪を逆立てている地縛霊の女を、冷たい風が空高く跳ね上げる。大地へと叩きつけられていく音色が新たな戦いのゴングとなり、風の担い手たる瑞佳が明るい笑顔を弾けさせた。
「う、うーらーめーしーやー」
「狼の牙は、獲物を逃がさない……」
「Seien Sie bitte empfindungslos」
 瞳を合わせて呼吸を重ね、白い吐息を交わすリューシャと絶奈。漆黒の剣が描く白氷の軌跡に導かれ、冷たい指先が刻まれたばかりの傷口をなぞっていく。
 重ねられゆく呪氷の技に、女の胸元が凍てついた。
「我が拳は断罪の刃、悪なる情念と共に消えてしまえ!」
 地縛霊という存在が抱く原罪ごと、ファムの拳が凍りついた胸元を打ち砕く。煌めく粒子を浴びながら飛び退いて、風の入る隙間を開けていく。
「死ね、死ね、カップル死ね、死んでしまえぇ!」
「貴重な経験をありがとうございました。御礼申し上げますので、受け取って下さいませ」
 にっこりと微笑んだ静音は跳躍し、荒れ狂う風を纏いながら、妄念に歪む顔に膝を叩き込む。勢いのまま跳ねのけるようにして離れれば、間に拳を開く晴香が割り込んだ。
「ふぉ、フォローします」
 未だ火照る頬、もつれる舌。鳩尾に拳を叩き込み、爆ぜる水の衝撃で女の体を揺さぶった。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
 開幕数十秒も立たずフルボッコにされた女は叫び声をあげながら、黒髪を伸ばし縦横無尽に振り乱す。
 強く打ち据えられてミミズ腫れが生じた。鋭く切り裂かれ、血を流した者がいる。
「ここはもう、私達の領域よっ」
「動きを止めてしまえばこちらのもの。狐火、いくですよ!」
「きいぃぃぃぃぃぃっ!?」
 楽しげに唇に指を当てたクリスティナが、幻夢の力を仲間に分け与えた。痛みの癒えた水無月が熱のない光を灯し、女の言葉を無理やり途切れさせていく。
 髪が蠢く戦場を駆け抜けて、クリスティナの真サキュバス・ドールのアルプちゃんと水無月の真サキュバス・ドールさっきゅんが同時に女に絡みついた。片やねだるように柔肌をこすりつけ、片や耳を甘噛みし、女の顔から偽りの精気を、存在するための力を削っていく。
 頬を上気させて離れたサキュバスたちや未だ動けぬ女から目を離し、今まで皆が来るまでの間負った傷を癒していたそらが來那と呼吸を視線を交わした。
「じゃ、行きますね?」
「全力で行くよ!」
 星々のごとく煌めくナイフが示す先、魔法陣の向こう側に蒼き雷が生み出された。
 天使のごとく煌めくヤイバが示す先、魔方陣の向こう側に蒼き雷が生み出された。
 重なる蒼の輝きは真っ直ぐに闇を貫いて直撃する。断末魔の悲鳴も上げさせず、存在自体を焼き尽くす。
 熱が潰えた時、そらが十字を切って目を伏せた。來那も黙祷を捧げていく。
 脅威の去った公園に、元通りの静寂が訪れた……。

●心の熱が赴くままに
 木々を用いて弾んだ音色を奏でていく風が、火照った体を冷ましていく。朧げな灯りに抱かれて、疲れも自然と癒えていた。
 戦いの残滓が消え去る頃、瑞佳は空を見上げてみた。星々が変わることのない輝きで地上を見守ってくれている。月が世界を照らしてくれている。
 視線を下げれば、街の夜景が映り込んできた。
「っ」
 夜景から先程のキスを思い出してしまったのだろう。瑞佳の頬が仄かに火照る。瞳が潤み、指が自然と唇に伸びていく。
 触れれば思い起こされる、ガムテープ越しの優しい感触。
「さて、それじゃそろそろ帰りましょうか」
「!?」
 感触の主に声をかけられて、瑞佳の体が大きく跳ねた。
 公園の片隅にお気に入りの金平糖を備えていたリューシャは小首を傾げつつ、視線を夜景へと映していく。
 澄んだ空気に、人々が産み出した宝石箱。公園の片隅には、暖かな飲み物を抱いた自動販売機。温もりをいただきながら、のんびり帰るのも悪くない。
 同様に、晴香も夜景を眺めていた。眺めていたが、体に影が差したため振り返ることもせずにうつむいた。影の主は気づいた様子もなく、あるいは気づかないふりをして、風に髪をなびかせる。
「……」
「……」
 言葉はないけれど、口元には静かな笑みが浮かべられていた。
 言葉は紡げないけれど、顔が火照っているけれど、口元が緩みきっていた。
 静音と共に、晴香は同じ時を過ごしていく。同じ風を感じていく。
「……キスとはそんなに楽しいものなのでしょうか?」
「え?」
 静寂に浸る仲間たちを眺めていたファムに問いかけられ、呆然と空を、あるいはここにいない大切な誰かを眺めていた水無月が振り返る。きょとんと首を傾げていたから、しばし悩んだ後に口を開く。
「……実はまだ経験がないので想像でよければ、ですが……好きな人と一緒なら、それだけで幸せを感じるのです。だからきっと、楽しいものだとおもうですよ」
 一つ一つ、己の心に問いかけていくように。あるいはいつか、大切な時が訪れても焦ることがないように。
 そんな仲間たちの逢瀬を耳に留めつつ、絶奈は夜景を眺めていた。
「キス……か。案外良いものかも知れませんね」
「……」
 アルプちゃんを優しくハグしながら、クリスティナは瞳を閉じた。耳を澄ませば静寂という名の音色に紛れ、広場から離れていく二人分の足音が聞こえてくる。
 ――邪魔はしない、できない。誰も……。
 ため息を吐けば、絶奈のそれとタイミングが重なった。瞳を開けば、変わらず煌きを眺めている絶奈の姿がある。
 夜は静かに満ちていく。人々の密かな想いを抱きつつ……。

「……」
「……」
 クリスマスのイルミネーションが煌めく場所、広がる夜景が覗ける場所なのに、そらと來那の瞳には映っていない。互いに互いだけを、潤んだ瞳だけを見つめているから。
「やっぱり、安心してじゃないと……ね?」
 頬を染めたそらが空気を震わせた。小さく微笑み熱っぽい瞳で静かにねだった。
 來那は火照った頬に手を当てて、優しく微笑み返していく。
「うん、やっぱりこうやって……心置きなく」
 言葉はもう、必要ない。
 赤で七色の煌きを隠しながら、二人の瞳が閉ざされる。鼓動が、どんどんどんどん近づいていく。
 呼吸が重なり、世界を満たした。熱が伝わり、唇が――。

 ……夜は続いていく。人々は温もりを求め、新たな朝を目指していく。
 現で見れる夢を見て。月明かりに惑わされ、星々の煌きに見守られ。
 長い、長い時を重ね、ゆっくりと愛を確かめ合う。
 心を、大切な人の温もりで満たしていく……。


マスター:飛翔優 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2010/12/05
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