<リプレイ>
●学校 「だめだわ」 携帯電話を閉じる莉緒。 澪、龍麻、麻里も携帯をチェックするが、いずれも通話は不可能だった。 一同は、莉緒の誕生日を祝う小さなパーティの準備を進めていたが、残りのメンバーが到着しない。 「……お菓子でも食べながら待ちましょうか」 妙な胸騒ぎを覚えながらも、一同は暫く待つ事にした。
●駅前 「運休?」 電光掲示板を見上げるめぐる。 視線を巡らせば、駅員らしく制服を着た男性が立っている。 「何か有ったんですか?」 「あ゛……あ゛ぁぁぁ!」 めぐるの問い掛けに振り向いた駅員は、返事の代わりに濁った叫び声を上げ、めぐるの首筋目掛けて牙を剥く。 ――がしゅっ! 「ぎゃおっ!」 「速坂、こっちだ!」 駅員の脳天に、こぶし大の石が直撃する。見れば、そこには友人である雅之の姿。 「雅之? 一体」 「話は後だ。まったく、この設定はナイトメアといい勝負だぜ」 周囲に居た人々が2人の方へ向かってくる。いずれも駅員と同様、とても正常とは思えない。 2人は路地裏へと逃げ込む。
●倉庫 「ここにいれば安全ですよね。後は助けを待ってればいいんです。あはは」 街中でゾンビに遭遇した真由美は、スーパーの食品倉庫に身を潜めていた。 「……は……?」 扉も窓も閉ざされている倉庫内だが、見れば隅に小さな穴。そこから覗いていたのは、2つの光る目。 ――キキッ。 ネズミである。ぞろぞろと無数に這いだしてくる。 「ひっ!? これ、ゾンビッ……」 それらは先ほどのゾンビと同じく、狂気の眼差しを彼女へ向けていたのだ。 「……い、いやあああ!!」
●繁華街 「妾についてくるのじゃ!」 『まりかおーちょー』の臣民を引き連れ、茉莉花も逃避行の最中。 押し寄せる無数のゾンビ達を、角材でなぎ払う茉莉花達。 「なんとか凌げたようじゃな……必ず生還するのじゃ!」 「茉莉花さん、後ろ、危ないですよ」 「えっ」 魅夕鬼の声に振り向けば、地面に蹲っているリリィと初音。 「どうしたのじゃ?」 「にゃっはっは」 「姫サま美味シそうデす」 ゆっくりと顔を上げた2人。知性は残っている様だが、感染の最終段階。かなり前にゾンビに噛まれていたのだろう。 「いつの間に……魅夕鬼だけでも逃げるのじゃ!」 魅夕鬼を庇う様に立つ茉莉花。 まさに君主の鑑。そんな彼女の肩に、魅夕鬼の手が置かれる。 「妾が時間を稼ぐ!」 「いえ、それが、残念ですけど……もう手遅れなんですよねー!」 魅夕鬼もまた、ゾンビに手傷を負わされていたのだ。がおーとばかりに襲いかかる。 反対側からは、這い寄るリリィと初音が、茉莉花の足首をがしりと掴み。 「いただきマす」 「ぎゃぁぁ――!」
●再び学校 「遅すぎるわね」 「様子を見てくるか」 ――がらがらっ。 そんな刹那、開かれるドア。 「山崎さん、釣さんも! 遅いから心配――」 「すぐに逃げないとです」 「街は大混乱ですよ。ここに辿り着く間にも……」 2人から、街で起っている事を知らされる一同。 「救助も期待出来出来そうにないな。感染経路が特定されてない以上、街の住人は皆化け物予備軍だ」 「自力で街を出ましょう」 一行はパーティ会場を後にする。 「交通機関は動いてません。道路は事故車両だらけで進めませんし」 ――からーん! 校舎を出た一行の耳に、金属音が響く。 見れば、地面には工具類が転がっている。 「このやろ! こっちくんな!」 声に視線を上げると、電柱の上から作業員が工具を投げつけている。 その相手は、たった今話に聞いたゾンビらしきモノ。 「助けましょう!」 一同は学校から持ち出したモップや木刀を握り直す。
「助かったよ。俺は鷹・真道。電線の修理をしていたらこいつらが人を襲ってるのが見えてさ……」 危機を脱し、電柱から降りてくる真道。 「街中ゾンビで溢れてるそうよ。街を脱出するつもりだけど、一緒にどう?」 「よし、宜しくな」 新たな同行者を加えた一行は、隣町へ続くトンネルを目指す。
●商店街 「私1人だけでも生き延びてやるですぅ!」 その頃、涼子も街からの脱出を模索していた。 「ケケケッ!」 「!?」 そんな涼子を嘲笑うような声に顔を上げれば、外灯の上に人影。ゾンビ化した真由美だ。 ――シャッ! 真由美ゾンビは、そのまま跳躍。涼子目掛け飛び掛かる。 「ひぃぃ! ……あ、あれ?」 「まさにこの世は煉獄か、やり切れんな」 恐る恐る目を開けた涼子の前に居たのは、バットを手にした円。 「柳瀬や速坂達も生きていれば街を脱出しようとしているだろう。俺達も急ごう」 「お、おうですぅ」 差し出されたバールを受け取り、涼子も立ち上がる。
●トンネル 「通れそうにないですね」 莉緒達はトンネルへ辿り着いたが、炎上する多数の車両によって完全に封鎖されていた。 「おい、あれを」 後方を振り返った龍麻が、注意を促す。 大量のゾンビ達が迫りつつあったのだ。 「まずいわね」 「大丈夫、莉緒さんは私が守りますから……ね♪」 「でも、山桜さん」 「隠れていて下さい。私なら大丈夫です♪」 皆を車の影に隠れさせると、麻里はゾンビ達の群れへと駆け出す。 無人になったガソリンスタンドへと誘い込むつもりの様だ。 「……まさか!」 ――ドンッ!! 莉緒の予感は、直後に現実となった。爆発音に続いて地面が大きく揺れ、巨大な炎とキノコ雲が上がる。 「山桜さん!」 「犠牲を無駄にするのか?」 駆けだそうとした莉緒の腕を掴み、言い聞かせる澪。 「今なら行けるか」 混乱している様子のゾンビを見据える龍麻。 ――ガラン。 と、唐突に足下で上がる物音。 「今のなに? 凄い爆発だったね」 そこにいたのは、褐色の肌の少女。 「あなたは?」 「ボクはマルチェア・ベーチ。下を歩いてたんだけど、マンホールが吹っ飛んだから様子を見てみたら、キミ達が居たんだよ」 「下?」 「こっちだよ」 一行は、マルチェアに続いて下水道へ。 「……一旦、この改装中のモールに退避しようと思うんだが」 「食べ物等もあるかも知れませんね」 澪の提案に頷く克乙、そして一同。 「マルチェアちゃん、案内頼むぜ」 「任せて!」 真道に元気良く応えると、マルチェアは急ぎ足に駆け出す。
●モール2F 「誰も居ないみたいなのです」 偵察から戻ってきたましろだが、手にはビニル袋。 「こんな状況だけど……おめでとうです」 「有難う、山崎さん。皆で食べましょ」 久しぶりに表情を緩めながら、お菓子を受け取る莉緒。 「うわああ!」 と、フロアの反対側から響く悲鳴。 駆けつけると、そこには溶接作業服を纏い、フェイスガードを身につけた男。 「驚かせて済まなかったな。俺は文月・昇」 ガードを持ち上げ、青年はそう名乗る。 「町が滅茶苦茶になってるってのは知ってるよ。俺は助かる気は無いが……アンタ達のうち何人かぐらいは、逃げる時間を稼ぐことはできるはずだ」 聞けば、昇はこのビルに大規模な仕掛けを施し、少しでも多くのゾンビを巻き添えにするつもりだと言う。 「ここに立て篭もるのは無理なのね」 「無理だね。奴らはどこからでも入ってくる」 希望を打ち砕かれ落胆を隠せない一同。 「こう云う時こそ平常心が大事です。一杯どうです?」 そんな重い空気をほだす様に、克乙が暖かいお茶を運ぶ。
――プァァーン! 一同がようやく人心地ついた頃、新たな来訪者がやってきた。 「車だ、こっちに来る!」 「ゾンビが箱乗りしてるよ!」 窓から様子を見た真道とマルチェアが口々に言う。 「志筑、免許は持ってるのか?」 「国際C級ライセンス!」 「ゲームの話じゃない!」 「速坂、シートベルトした方が良いぞ」 運良く合流を果たした円、涼子、めぐる、雅之の4人は、乗り捨てられた車両で脱出を図ったが、無数のゾンビに襲われ、必死に逃走を続けて居た。 「モールに突っ込むぞ」 「総員対ショック姿勢ですぅ!」 ――ドカーン! 「……行ってみましょう」 「待て、今のでゾンビは中に入り放題だ。それに車にも何体か張り付いてた」 「でも!」 「それより、今ので火が着いたらビルごと吹き飛ぶ」 澪と莉緒のやり取りを遮って昇が言う。一斉爆破に備え、安全弁を外したガスボンベがビル中に配置してあるのだ。 「屋上に行くんだ。生き残りが居たら追わせる」 「ボクも行くよ!」 昇はそう言うと1階へと走り出し、マルチェアがこれに続く。 「急ごう」 一行は無事を祈りながら、屋上へと向かうのだった。
●屋上 「これですね」 屋上で克乙が指し示したのは、射出式のワイヤー。それを使って隣のビルに移れと言う事らしい。 「まずは俺が行って安全を確かめる。その次に……」 「山崎さん」 「あ、わたしは高い所が怖いので、莉緒さんの後に行きますです」 「じゃあ、先に行くわ」 自分が先に行くことで、ましろが安心するのならと莉緒は頷く。 けれど現実は、彼女の思惑より深刻だった。 「……」 ましろは袖を捲り、隠していた傷口の様子を見る。残された時間はあと僅かだった。
●モール1F 「酷い運転ですぅ」 「誰の運転よ。大丈夫?」 「大丈夫だ」 「急いだ方が良いな」 衝撃で吹き飛んだゾンビ達が、よろよろと動き出す。 「こっちだ! 屋上から逃げろ」 「ゾンビさんこちらー♪」 マルチェアがゾンビらの気を引くうち、車内の4人を助け出す昇。 1階部分は既にゾンビだらけだ。 「って、わあぁあっ!」 マルチェアもついに転倒。ゾンビの波に飲み込まれてしまう。 「志筑、二人を頼むぞ」 「へっ?」 円は言うなり、自らゾンビの渦中へと突っ込んで行く。 「急げ!」 昇もまた、腕に噛みつかれながら角材を振るう。 「2人とも行きますよぅ!」 「う、うん」 尊い犠牲を払いながら非常階段を駆け上り、屋上へと続く通路のドアに手を掛ける。 ――ガチャ。 「!?」 そこに居たのは、ゾンビとは明らかに違う何か。 全身桃色で、ヒトと爬虫類が合わさったような異形のモノ。長い舌を涼子へ伸ばしながら、低く呻る。 「リィ……オォォ……!」 「ひぎゃあぁ!!」
●再び屋上 ――ズンッ……! 低い爆発音が建物を揺るがす。 「遅いわね」 ワイヤーも渡され、隣のビルに渡った澪からもOKサインが出ていた。 「行ってくれ」 「解ったわ」 促す龍麻に頷いて、滑車に手を伸ばす莉緒。 ――ドンドンッ。 そんなタイミングで、ドアがノックされる。 「開けてくれ!」 人間の声に、ドアを開けるましろ。 雅之とめぐるだ。 「急がないと、奴が来るわ!」 「ゾンビなのですか?」 「もっとヤバイ奴よ!」 「他に生存者は?」 「……」 「2人ずつ行きましょう。なんとかなる筈です」 克乙の提案に反対する者は居なかった。落ちるとしても、ゾンビに食べられるよりマシだ。 「三井寺さん、速坂さん!」 年少者の2人を滑車に捕まらせ、送り出す。 「次はわたし達……山崎さん?」 ましろへ視線を移した莉緒は、その手に握られたライターに気付く。そして、腕の噛み傷にも。 「ばいばいです」 「山崎さん!」 にっこり微笑んだましろは、扉の向こう側へと消える。 「滑車が戻ったぞ、次だ」 顔を見合わせる一同。 「緋勇さんなら、問題ないでしょう」 「莉緒ちゃんと龍麻くん、急いで渡ってくれ」 有無を言わさず、2人に滑車を掴ませる克乙と真道。 ――ズズ……ン!! 一際大きな爆発に、足元が揺れる。 「生きるんだぞ!」 滑車をもう一度往復させる時間が無いことは明らかだった。大きく手を振る真道。 「鷹さん、一杯どうです」 克乙は、紙コップに温かいお茶を注ぎ差し出す。 ――バァンッ!! 乾杯する2人の後方で、金属製のドアが吹き飛ぶ。 「オォォ……」 炎や爆発に巻き込まれ煙を上げながら、モンスターが姿を現した。
●モール1F 「そろそろか……頼む。スイッチを押そうにも腕がこれでね」 「解った」 崩壊し掛けた1階では、瀕死の重傷を負った昇から、起爆装置が円に手渡される。 ――カチッ。
●山間部 一行は隣町に行くことを諦め、山間部に身を潜めていた。 「緊急の周波数もだめだ」 「この様子じゃ、隣町どころか……」 増殖するゾンビが、この街の中だけに収まっているとは思えない。 「どうにか安全な場所を」 「待った、何か聞こえるぞ」 ――バ、バ、バ……。 彼方から聞こえるのは、ヘリコプターの爆音。 「行ってみよう!」 最寄の公道へ出る一同。 ヘリは間も無く、彼らの前にやってきた。 「皆さん、お待たせしました」 隊員と共に、ヘリから降りてくる双牙。 世界の危機に設立された組織『殲滅教会』だと言う。 「安全な場所へ案内致しましょう」 ――バキバキィッ! 「オ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛」 そんなタイミングで、木をへし折りながら出現したのは、複数のゾンビが合体した巨大な怪物。 「う、うわあっ!!」 巨体に似合わぬ俊敏な動きで、隊員らを弾き飛ばす巨大ゾンビ。その体当たりによって、ヘリも半壊する。 「中に信号銃があります」 双牙の蹴りを受けて怯むものの、すぐさま腕を振るって襲い掛かってくる。 「こっちだ!」 巨大ゾンビの注意を引く澪と雅之。ヘリから流れ出す燃料の中におびき寄せる思惑だ。 この間、龍麻はヘリ内から信号銃を取り出す。 「グオ゛オ゛オ゛ッ」 「今だ!」 ――バシュッ! 突進を紙一重で回避する澪。龍麻はタイミングを見計らって引き金を引く。 信号弾が着弾するなり、ガソリンは激しく燃え上がり、巨大ゾンビもヘリも炎に包まれる。 「離れてください」 ――バッ!! ガソリンの火がヘリに達した瞬間、大爆発が起こった。
「……お怪我はありませんか?」 「え、えぇ」 双牙の手を借りて、なんとか立ち上がる莉緒。 巨大ゾンビは跡形も無く吹き飛んだようだ。 「皆大丈夫?」 「ええ、なんとか」 ――バキバキッ。 「?!」 再び木の折れる音に、身構える一同。 「ようやく再会できました」 「山桜さん!」 「だから大丈夫って言ったじゃないですか♪」 抱き合って再会を喜ぶ2人。 「さぁ、行きましょう」 かくて一先ずの難を逃れた一行。 彼らを待つものは、安息か、それとも絶望か……。
●現実 「盆踊り練習したのですけど」 少し残念そうに呟く克乙。 「私も、階段で一片さんに食われたきりでしたぁ」 「ふふ」 涼子のぼやきに対し、夢の中とは打って変わって淑やかに微笑む真由美。 「ボク、トマト塗れでのたうってたんだけど誰も気づかなかった?」 マルチェアもせっかくの熱演だが、気づいた人は居なかった様子。 「あっさりと全員ゾンビ化しおって」 わなわなと肩を震わす茉莉花。 「私はゾンビに親近感湧きまスのデ」 悪びれる様子もない初音。 「予定通り美味しく頂いたのだ」 「不可抗力ですね」 リリィと魅夕鬼も、してやったりの表情。 君主としての権威が確立される日はまだ先か。 「皆疲れたと思うから、後はゆっくりお茶とお菓子で過ごしましょ」 かくして、無事現実に帰った能力者達は、パーティを再開するのだった。
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参加者:16人
作成日:2010/12/15
得票数:楽しい18
カッコいい1
怖すぎ1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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