銀誓館襲撃〜病垂愁一:緑の指先


<オープニング>


 冬、ちらちらと雪が舞い散る深夜。
 人気が少なくなった鎌倉の町を、学校の怪談・病垂愁一は、ゆっくりと歩く。
 明るい大通りでは無く、街灯も少ない裏通りを歩くのが彼の流儀だ。
 そうこうするうちに、彼は、とある学園の前へとやってくる。
 既に冬休みに入っている未明の学園は閑散としており、人影一つ見えない。
「誰も居ない深夜の校舎。学校の怪談には最高の舞台だね。さぁ、僕が君達を取り出してあげるよ」
 愁一がそう言って、両手を振り上げると、静かであった校舎が、にわかに騒がしくなり始めた。
 音楽室では無人のピアノから音楽が流れ出し、保健室の人体模型が生命を得てギクシャクと踊り、トイレでは赤いスカートの少女がカラカラとトイレットペーパーを回し続ける。

 その様子を眺めた、愁一は満足そうに校舎の門に手を掛けた。
 その門に書かれた学園の名は、銀誓館学園。
 ナイトメアビースト、病垂愁一の銀誓館襲撃が、今、はじまったのだ。
 
 寒い朝。未だ明けきらぬ空は張り詰めている。
 商店街の24時間営業のファミレスでカフェラテをすすりながら、運命予報士の下嶋・くゆら(中学生運命予報士・bn0306)は能力者を迎えた。どことなく仏頂面なのは事態が事態だからだろう。
「……ごめん、また予報することができなかった」
 まず一言、自分の無力を謝罪してからくゆらは顔を上げる。
「冬休みの銀誓館学園が怪談ゴーストに占拠されたわ。どう考えてもナイトメアビーストの一人、学校の怪談・病垂愁一の仕業よ。冬休みだって言うのにふざけるんじゃないわよばかって感じ」
 最後の一言、ノンブレスで言い切るとカフェラテをすする。少し怒りを抑えてからくゆらは深々と頭を下げた。
「このままじゃ、学園が怪談ゴーストによってめちゃくちゃにされちゃう。銀誓館学園がそんな目に遭うのは絶対にイヤ。お願い、急いで学園に向かって、学園の危機を救ってください。私たちの学園が壊されるなんて、本当にイヤだから」
 ツンデレのはずの運命予報士が、素顔をさらけ出した瞬間だった。
「相手をお願いしたいのは中等部の某キャンパスの屋上に出る『緑の指先』と言われる怪談ゴースト」
 くゆらはカフェラテをスプーンでかき混ぜながら話し始める。
「昔、植物の好きないじめられっ子の女の子がいた。お約束通り、その子は嫌がらせの後、某キャンパスの屋上から自殺した。それから屋上で植物を使ってキャンパスの人間に復讐をしている……っていう怪談があるんだけど。これがどうやら実体化したみたい。全身をツタ系の植物で覆った緑のゴーストよ。攻撃もツタによる巻きつきやなぎ払いが中心。配下のゴーストも植物系ね。とは言っても、火への耐性は面倒だけどあるみたい」
 ふう、とため息をついて、くゆらは言葉を続けた。
「例によって、この騒ぎを起こした病垂・愁一はパワーアップをした実体よ。学園の何処かに隠れていて、怪談ゴーストが学園を破壊させたら出てきて動き出すみたい。
 ただ、怪談ゴーストはヤバくなると病垂・愁一がいる方向に逃げようとする習性があるから、それをチェックすれば愁一の居場所を突き止めるのは楽勝だと思う。
 そりゃ、一体のゴーストを倒すだけじゃ場所を特定するのは難しいけど、多くのゴーストを倒せば、自ずと愁一の場所はわかると思う。この戦いで愁一との決着をつけてやって」
 あの顔、どうにも気に食わないのよねとくゆらは呟くが、それはどうでもいいことだろう。
 こほんと咳払いをして、くゆらは能力者たちの顔を見渡した。
「ヤツの狙いも銀誓館学園にあるメガリス『ティンカーベル』のはず。渡すわけにはいかないので撃退して。
 幸いにも冬休み、しかもこんな朝早くだから、学園に一般生徒はいないわ。私みたいな運命予報士もこうして学園から避難してるくらいだしね。……とは言っても、校舎の被害が大きくなれば、学園としても悪影響が出るから被害が出る前にやっつけてほしいのよ。お願いできるかしら」
 くゆらは真剣な目で能力者たちを見た。すぐにふいっと顔をそらす。
「べ、別に、そこまで真剣になることもないけど……でも、心配くらいならしてあげるから。気をつけて行ってくればいいわ。……ここで吉報を待ってるから」

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参加者
樹・吉野(永訣のサウダージ・b16185)
渕埼・寅靖(人虎・b20320)
ポルテ・トルテ(フェンリルクォーツ・b37411)
布施・命(奏緑呪・b37509)
琴吹・紗枝(青空駆ける春一番・b49528)
新城・香澄(翠の翼・b54681)
黄金崎・燐(向日葵の花・b55478)
氷山・雪(銀嶺の覇者・b59616)



<リプレイ>


 指定されたのは某中等部キャンパスの屋上。
 能力者八人はすでにイグニッションを済ませて屋上までの薄暗い階段を昇っていた。生徒のいないキャンパスは静かで、それだけで薄気味悪く感じる。各自光源を持ってきているため足元が危ないということはなかったが、やはり夜の学校というのは独特の空気がある。
「しーつーこーいー!」
 その静かな中で立腹しているのは琴吹・紗枝(青空駆ける春一番・b49528)だ。そもそも怒りに周囲が静かとかうるさいとか関係ない。
「ほいほい連続で出てくるな、後人の学校を勝手にお化け屋敷にするな馬鹿ー!?」
「ここは私達の学校です」
 同意するのは黄金崎・燐(向日葵の花・b55478)だ。普段のおっとりした口調からは想像できないほどの強い意思が声に込もっている。
「誰であろうと、こんな風に好き放題にされる事は許せません」
 もちろん全員が同じ気持ちだろう。こくり、と強く頷いたのは最後尾からついていく氷山・雪(銀嶺の覇者・b59616)。
「度重なる襲撃は少しばかり苦しいところではありますが……そうも言ってられませんね、がんばるとしましょう」
 淡々と冷静に、雪は言葉を紡ぐ。
 紗枝の横を歩くポルテ・トルテ(フェンリルクォーツ・b37411)は心なしか表情が堅い。不思議そうに表情をのぞく紗枝にポルテは乾いた笑いを零した。
「はっはっはっは。学校の怪談って事は基本的に作り話よね。女の子の自殺とか作り話……だよね?」
「大丈夫だよ、ポルテお姉ちゃん。怪談だから作り話……だと思う……」
 一緒に笑い飛ばそうとした紗枝だったが、証拠がないせいか次第に語尾が小さくなってしまう。結局二人でうなだれると、燐が微かに笑った。そして隣にいる燐のモーラット、章姫を見る。
「章姫、今日はちょっと危険な役目だけど、お願いね」
「もきゅう!」
 モーラットはモーラットでも章姫はモーラットヒーローだ。力強く燐に返事をする。燐はそんな章姫を抱きしめた。
「うん、ヒーローですしね」
「一般生徒の心配をしなくて済むのは不幸中の幸いか」
 静かな周囲を見渡しながら呟くのは渕埼・寅靖(人虎・b20320)。他の戦場にいるだろう友たちと大切な人を想い、紅刃の欠片が収まった守り袋に触れる。
(「……皆も、どうか無事で」)
 目の前には屋上へと続く扉。その扉に寅靖は手を添えた。
「……冬の怪談は日本には似合わないです。早々に退場して頂きます」
 開く扉にあわせて新城・香澄(翠の翼・b54681)が毅然として言った。

 扉を開くと夜が明けきらないことを示す、白々とした月が残っていた。
 能力者八人は「緑の指先」と呼ばれる怪談の具現化を見る。
 それはまだ中学生くらいの背丈の人型のツタだった。少女にツタが巻き付いているなどという生やさしいものではない。ツタが立っている。薄暗い緑色の葉がざわざわと風に揺れる。その光景はどこか禍々しく、怪談にふさわしいとも言えた。
 ゆっくりと八人を見返す「緑の指先」。その背後にまるで屋上から生えてきたように現れる人型のツタが三人……いや、三体。
「創作の怪談とはいえ……、悲しいお話は好きではありません」
 樹・吉野(永訣のサウダージ・b16185)がぽつりと言った。その声に合わせて八人は所定の位置に散っていく。
「わたしたちの手で終わらせます。ナイトメアビーストの企みも、全て」
 ツタの援護ゴーストが「緑の指先」を守るように前に出る。
「怪談話はバッドエンドになる事も良くあるが」
 布施・命(奏緑呪・b37509)は符に触れると宣言するように言葉を発した。
「今回は学園の皆の力で謎を見事に解決、怪談の元凶も倒してハッピーエンドとさせてもらおうか」
 指が導眠符を黎明の空へと放る。
「さあ、この風に乗って舞え。眠りの呪符よ」
 ……学園を守るための戦いがはじまった。


 竜巻のような風が大量の導眠符を巻き上げる。前衛に位置した寅靖、雪、そして燐のモーラットヒーロー、章姫の目の前にいる援護ゴーストが、そして「緑の指先」がぐらりと体を傾げる。眠らず踏みとどまったのは寅靖の前の援護ゴーストと「緑の指先」だ。
 命の攻撃タイミングに合わせるように香澄が幻楼七星光を発動する。
「……石になってくれたらラッキーですね」
 降り注ぐ星。けれども星は届く前に消えてしまう。どうやら上手く発動しなかったようだ。
 吉野はいざとなったら前衛へと出られる位置を確かめつつ黒燐装甲で、燐はモーラットの章姫へとヤドリギの祝福で強化をする。
「章姫、祝福を……、頑張って!」
「きゅぴ〜!」
 キリリと震えるVの毛。
 目の前の敵が眠ってしまった雪は援護ゴーストが後衛へと移動しないよう位置を調整しながら、寅靖の前のゴーストまでの距離を目測する。移動すれば攻撃は届く。けれども移動したら自分が抑えなければいけないゴーストが後衛へと動く可能性がある。雪の優先しなければいけないことは目の前の援護ゴーストの足止めだ。歯がゆい思いを抱きつつ、雪だるまアーマーで自己強化をする。
 援護ゴーストの先手をとった寅靖は虎紋覚醒で強化を図る。寅靖もまた、盾としてゴーストを抑えることを自らに課していた。それは不退転の意思。守るべきものがある、共に戦っているものがいる、その事実から強固なものとなった意思。
「緑の指先」が動いた。
 ツタが直線に動き、偶然「緑の指先」の先にいたポルテへと向かう。ポルテは射程に入らないように位置を模索していたこともあり、ツタへの反応は早かった。抜き放ったレイピアで牽制するも、ツタはポルテの首へと絡みつく。そのままツタは首を絞めつけてきた。息が止まる。
「ポルテお姉ちゃん!?」
 紗枝が心配そうな声を上げる。ポルテは次第に苦しくなる首と息に耐えるように呟いた。
「諦めない……!」
 レイピアという細い切っ先の武器であることも幸いした。ツタと首の間に差し入れると、ポルテは強い意思でそれを引きちぎる。呼吸が楽になり、その反動で咳き込んだ。
 不安そうに見る紗枝にポルテは笑顔で応える。それから、
「はーい、邪魔しないでねー!」
 明るい声と同時に発動するのはブロッケンジャイアント。巨大な霧の犬をポルテは身にまとう。すでにその表情には余裕の笑みが浮かんでいた。
 それに安心したのか、紗枝は援護ゴーストの絵をさらさらっと描き寅靖の前の敵へと向かわせる。
「遠慮なんてしてあげない、叩き潰すよっ!」
 スピードスケッチ。描かれた援護ゴーストはデフォルメされたツタをしならせ叩きつける。
 本物の援護ゴーストはツタを寅靖めがけて叩きつけた。寅靖は回避しない。宝剣でガードを固め、直撃を防止するだけだ。衝撃と痛みが走るが、その足は動くことすらない。
 寅靖もポルテもまだ大丈夫だと見た命は再度導眠符を放った。動き出していた燐のモーラット、章姫の前の援護ゴーストが再度眠りに落ちる。雪の前の援護ゴーストは未だ動く気配がない。起きているのは先刻同様、寅靖の前の援護ゴーストと「緑の指先」だ。
 それを確認すると同時に香澄が動いた。しっかりと狙いを定める。
「……我は請う。天にも地にも在らざるヤドリギの力持ちて、即ち妖しの緑を討て!」
 森王の槍。同じ自然のものを宿すも、反する力を持つもの。眠る二体を攻撃対象から外し槍は落下、爆発した。「緑の指先」が衝撃にゆらりと揺れる。援護ゴーストは大きく体を傾げた。
 そのタイミングを見てまず吉野が動く。自らの影から生み出す手、ダークハンド。寅靖の前の援護ゴーストを影の手が引き裂く。援護ゴーストが態勢を立て直す前に今度は寅靖が紅蓮撃を叩き込んだ。焔がじわじわと炙るようにゴーストの身を削る。雪とモーラットヒーローの章姫は援護ゴーストの壁役のため待機だ。雪はいつでも動けるよう薙刀の柄を握り締め、燐もすぐに回復できるよう全体に目を配る。
 巨大な霧の犬をまとったポルテは瞬断撃でもまるで援護ゴーストを踏み潰すかのよう。勿論狙いは皆と同じく寅靖の前の援護ゴーストだ。それにタイミングを合わせて紗枝のスピードスケッチが放たれる。
 能力者たちの攻撃の間隙をぬって「緑の指先」が動いた。八人を拘束するためのツタが四方八方に放たれる。絡みつかれれば自由は奪われる。各自回避を試みるが燐の右腕に、雪の腰に、ツタはそれぞれ絡みつく。
 命が解除の符を取り出すより早く、寅靖の前のゴーストが動いた。ツタをしならせて寅靖を打ち付ける。回避はしない。痛みを表情に出すこともしない。それが盾の役目だと自らに課しているから。
 雪の前の援護ゴーストが眠りから覚める。雪は動けずとも薙刀を握る手に力を込めた。
 命が雪へと病魔根絶符を投げる。
「わしらが後ろから支えている限り、誰一人として倒させはせんよ」
 命の自信に満ちた言葉は「緑の指先」への宣言にも聞こえる。
 雪は符と自身の意思の力で巻きついたツタを振り払った。そのまま目の前のゴーストへと指先を伸ばす。
「『緑の指先』ですか。私の指先とどちらが強いでしょうか?」
 微笑んでゴーストに触れればそれだけでゴーストは痛みに揺らぎ、寅靖の前にいるゴーストとは逆に寒さがその身を削る。さよならの指先。それは色に例えれば白だろうか、青だろうか。
 未だ動けない燐を気にしつつも吉野は寅靖の前のゴーストへとダークハンドを放つ。寅靖も吉野の影の手がゴーストを引き裂く瞬間に紅蓮撃をえぐるように突きつける。
 燐が動けないのはモーラットの章姫も心配だ。
「もきゅ〜……」
 章姫が祈りを捧げると燐の拘束がふと軽くなる。燐はそのまま意思を強くもち、ツタを振り切った。
「章姫……ありがとう」
「もきゅ!」
 どこか誇らしげに燐に返事をするモーラットヒーロー。
 ポルテが瞬断撃を、紗枝がスピードスケッチを、それぞれタイミングよく同時に叩き込む。援護ゴーストのツタ葉がぱらぱらと落ちていく。その落ちる蔓をしならせて、援護ゴーストは寅靖へと叩きつけた。防御態勢をとっていても痛みを散らすことはできない。確実に寅靖の体力を奪っていく。
 雪の前の援護ゴーストは雪の脇を抜けて、雪の後ろで待機していた命を狙おうとする。
「……させません」
 雪の薙刀が一閃した。植物を斬るような手応え。援護ゴーストは足を止め、雪を見る。雪は進路を塞ぐように援護ゴーストと対峙する。
 そんな様子を見ていた「緑の指先」がゆっくりと動いた。ツタがシュルリと伸び、寅靖の首を締め付けようと動く。だがそれを黙って許す寅靖ではない。首に巻きつく寸前に腕を首に添えた。隙間を作り、逆の手で持った宝剣でツタを切り払う。
「生憎、首は太い方でな……!」
 ツタは落ち、「緑の指先」は未だツタを黎明の空の下、そよがせている。
 それは余裕だろうか、それとも。
 香澄は佇む怪談を見る。
 どちらでも構わない、香澄はただ守りきるだけだ。


 前衛は基本的に担当のゴーストから離れず、後衛が回復と攻撃、そして各個撃破……それは時間がかかるものの確実な安全策だった。前衛のダメージが溜まれば一時的に後衛に下がり回復をしてから前へと戻る。とは言え、寅靖も雪も覚悟を持って前衛で立ちふさがっているため、吉野が強引に前へ出て体を割り込ませることもあった。
「覚悟と無謀は違います。回復を」
 黒影剣を振るう吉野に自己回復のタイミングを探っていた雪は苦笑する。
「ご心配をおかけしました」
 雪だるまアーマーをかける前に静かな声が響く。
「……木よ、森よ、命の息吹よ」
 香澄のヤドリギの祝福だ。
 燐はモーラットヒーローの章姫へとヤドリギの祝福をかけ、盾となる小さな体を祈るように見つめる。
 寅靖が後衛に下がるとポルテが前へ出た。
「ちょっとの間、お相手してあげよう」
 前衛に出てもポルテの余裕の笑みは変わらない。寅靖のダメージは命が回復し、ポルテの援護は紗枝が張り切った。
 ツタをしならせるという速い攻撃ゆえ、回避は難しい。けれども徹底した安全策が功を奏した。寅靖の前の援護ゴーストが倒れるとペースは完全に能力者たちのもの。「緑の指先」の拘束に苦戦するものの、きっちりと援護ゴーストを倒していく。
「……しっかり狙って撃ちます」
 香澄の詠唱兵器であるクロスボウが魔を祓う。最後の援護ゴーストを倒すと八人の視線は「緑の指先」へと向いた。
 禍々しく揺れる葉は何も語らない。
 ポルテが剣を引きぬき「緑の指先」へと距離を詰める。
「自殺するほどの勇気があるなら、死ぬ気でいじめっ子に立ち向かえばよかったのさ。過ぎたことだけどね」
 怪談の真相はわからない。事実が脚色されたものなのか、それともすべて物語なのか。
 ポルテが剣を鞘に収める微かな音。同時にはらはらと散るツタの葉。それこそが瞬断撃の美しさ。余裕の笑みでポルテは「緑の指先」を見る。
「章姫、まだ大丈夫?」
「もきゅ」
 燐が尋ねるとモーラットヒーロー、章姫は「緑の指先」にVキャリバーをお見舞いした。
「これでお別れです……さよなら」
 雪はさよならの指先で「緑の指先」を追い詰めていく。葉を凍らせるほどの攻撃の後はタイミングを測ったように寅靖の紅蓮撃だ。葉がいっきに燃え上がる。さらに命が御霊滅殺符で押し切ろうとする。
「緑の指先」が動いた。しかし、それは攻撃のための動きではなく、逃走のための動き。それは一方向へと確実に向いていた。屋上の扉ではなく、直接自分の主へと戻るような進路。
 目ざとく気づいた紗枝はその方向を確かめる。それはおそらく病垂愁一のいる方向。
「方向さえわかれば、もう成敗してもいいよね!」
 紗枝の攻撃を皮切りに各自が余力を残しつつも攻撃を重ねていく。
「あなたの悲しい物語は、ここでお終いです」
 ダークハンドを放ちながら吉野が語りかける。
「大丈夫、忘れたりはしません。草花を愛でた優しい女の子のお話として、ずっと憶えていますから……」
 ツタがざわざわと揺れたのは、その言葉への感謝だったのだろうか。
 香澄のクロスボウが怪談という魔を祓い、「緑の指先」はゆっくりと崩れ落ちた。


 各自が疲弊し、怪我も負っている。それでもこれで終わりではないことも知っている。
「病垂愁一。おぬしの心に巣食う悪夢ごと、全て穢し殺してやろう」
 静かに命が言えば、紗枝が強く頷いた。
「ボクらの学校を勝手にお化け屋敷にした罪は重いんだからっ!」
「突貫じゃー!」
 紗枝の横で声を上げるのはポルテ。
「章姫、頑張って銀誓館を救うヒーローになりますよ」
「もきゅん」
 燐の言葉にヒーローであるモーラット、章姫が頷く。
「行こうか」
 寅靖が屋上の扉を開ける。
「……守ってみせます」
「銀誓館は必ず守り抜きます。わたしたちの手で!」
 奇しくも香澄と吉野の言葉が重なった。二人は顔を見合わせると微笑みあう。
 扉をくぐる前にふと雪は振り返った。禍々しい葉が風に舞っていた。


マスター:水城みつき 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2011/01/11
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死亡者:なし
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