銀誓館襲撃〜病垂愁一:放課後の達人


<オープニング>


 冬、ちらちらと雪が舞い散る深夜。
 人気が少なくなった鎌倉の町を、学校の怪談・病垂愁一は、ゆっくりと歩く。
 明るい大通りでは無く、街灯も少ない裏通りを歩くのが彼の流儀だ。
 そうこうするうちに、彼は、とある学園の前へとやってくる。
 既に冬休みに入っている未明の学園は閑散としており、人影一つ見えない。
「誰も居ない深夜の校舎。学校の怪談には最高の舞台だね。さぁ、僕が君達を取り出してあげるよ」
 愁一がそう言って、両手を振り上げると、静かであった校舎が、にわかに騒がしくなり始めた。
 音楽室では無人のピアノから音楽が流れ出し、保健室の人体模型が生命を得てギクシャクと踊り、トイレでは赤いスカートの少女がカラカラとトイレットペーパーを回し続ける。

 その様子を眺めた、愁一は満足そうに校舎の門に手を掛けた。
 その門に書かれた学園の名は、銀誓館学園。
 ナイトメアビースト、病垂愁一の銀誓館襲撃が、今、はじまったのだ。

「あー、朝早くにごめんね、みんな」
 早朝の総合体育館。その前で八重垣・巴(高校生運命予報士・bn0282)は集まった能力者達の顔を見回し、口を開いた。
「冬休みの学校中が、今、ゴーストだらけになっているの。そのゴーストは怪談ゴースト――ナイトメアビーストの一人、学校の怪談・病垂愁一の仕業よ。とにかく、このままでは学校が破壊されてしまうわ、早急に対処して欲しいの」
 巴は白い息をこぼしつつ厳しい表情を見せる。
「あなた達に対処してほしいのは、学園の武道場に出現する怪談ゴーストよ。夜、遅くにその武道場に残っていると現れる合気道着姿の謎の人物…………私じゃないからね、言っとくけど」
 自分に向けられた能力者達の視線に巴は半眼、咳払いをすると言葉を続けた。
「出現する怪談ゴーストはその一体のみ。だけどかなり強力な奴よ。能力は三つ、近接の全周の対象を投げ飛ばす攻撃、遠距離の視界内へと衝撃を飛ばす掌打、そして構える事により回復と同時に解除されない攻撃力を大きく上昇させる強化を使ってくるわ。投げ飛ばす攻撃には対象を吹き飛ばす効果と強力な『気絶』の効果が、掌打による衝撃にも吹き飛ばす効果と強力な『猛毒』の効果があるわ。一体でもあなた達と互角に渡り合える強敵よ、それを忘れないで」
 武道場は広さもあるし、足場は畳だ。足場や障害物などの問題ない。
「この騒ぎを起こした病垂・愁一は、非常に強力なパワーアップをしているようだけれど、コピーでは無く実体のみのようね。愁一は、現在は学園の何処かに隠れているけれど、怪談ゴーストに学園を破壊させると同時に、その活動を開始するつもりのようよ。ただ、、怪談ゴーストはピンチになると、病垂・愁一がいる方向に逃げようとする習性があるので、その先にいる、愁一の居場所を突き止め、戦いを挑む事が出来るはず。一体の怪談ゴーストを倒すだけでは、場所を特定するのは難しいけど、多数の怪談ゴーストを撃破すれば、愁一の居場所を一点に特定することが大事よ。この戦いは、おそらく病垂・愁一と決着になるわ、頑張って」
 巴は一度そこで信頼の笑みを見せると白い息と共に告げた。
「病垂・愁一の目的も、おそらく、銀誓館学園にあるメガリス『ティンカーベル』よ。『ティンカーベル』をナイトメアに奪われるわけにはいかないので、必ず、撃退して。ただ、学校は一般生徒こそいないものの校舎の被害が大きくなれば、学園の運営にも悪影響が出るわ。出来る限り被害が出る前に撃退して――大丈夫、あなた達なら出来るって私は信じているわ」
 じゃあ、学校の事をよろしくね、と巴は締めくくり能力者達を見送った。

マスター:波多野志郎 紹介ページ
 あれ? 何か相手がおかしくね? どうも波多野志郎です。 
 今回は学園の武道場を舞台に怪談ゴーストと戦っていただきます。

【成功条件】
・怪談ゴースト・放課後の達人の殲滅。
 以上となっています。

 怪談ゴースト・放課後の達人の攻撃手段は、
・空気投げ:近接全周(選択)ダメージ大 吹き飛ばし! 超気絶
・遠当て身:20m視界内(選択) 吹き飛ばし! 超猛毒
・不動の構え:HP回復 エターナル
 となっております。

 戦いに勝利した能力者達は、怪談ゴーストが逃げようとした方向に駆けつける事で、病垂・愁一の居場所を突き止めて攻撃する事が出来ます。
 愁一との決戦は、このシナリオでは扱いませんが、決戦に備えた準備などがあると、その後の戦闘が有利になるかもしれません。

 それでは、冬休みの学園でお会いしましょう!

参加者
燈蛹・暁(暴蝕・b00193)
櫻・広樹(踊るハイエナ道化師・b03077)
玖堂・統夜(黒の確約者・b05760)
文月・風華(暁天の巫女・b50869)
真月・沙梨花(死門封殺の呪を操る者・b56331)
緒方・光希(逆しまの夢・b61839)
萌月・薺(盾の騎士・b65253)
悠・流(とある科学の人狼・b76769)



<リプレイ>


「病垂コノヤロー!せっかくの冬休みだってのになんてことしてくれてんだ!うぅ、何が楽しくてこの寒い日に炬燵から出なきゃいけないの……」
 そうぼやき、燈蛹・暁(暴蝕・b00193)がぼやく。
「――銀誓館学園の4度目の危機ですね」
 冬休みで人が少ないのが幸いでした、と緒方・光希(逆しまの夢・b61839)が静かにこぼした。
 冷たい張り詰めた空気に支配された武道場。そこに一つの影を見つけ、全員が息を飲んだ。
「放課後の達人……か」
 櫻・広樹(踊るハイエナ道化師・b03077)がそう言い捨てる。合気道着に実を包む女性の姿に、悠・流(とある科学の人狼・b76769)が肩をすくめた。
「今度は幽霊のお出ましか。ま、怪談っていうには武闘派すぎるきらいはあるけどな」
「なかなか手強そうなゴーストだな、激しい戦いになりそうだ。正直、病垂よりこっちと戦うほうが面白そうだ」
 そう不敵に言い放つのは萌月・薺(盾の騎士・b65253)だ。それに文月・風華(暁天の巫女・b50869)もコクリと頷く。
「ほむ……合気道ですか私の流派も似たような技を使いますしこれはぜひ手合わせ願いたいものですね」
「己の能力を過信し、神聖な学舎に土足で踏み入れた事、後悔しつつ、先に駆逐した同胞の元へと馳せ参じるが良い。地獄で閻魔がお待ちかねだぞ」
 スラリ、と玖堂・統夜(黒の確約者・b05760)が長剣を引き抜いた瞬間、怪談ゴースト――放課後の達人が音もなく半歩踏み出した。
『――――』
「……ッ!?」
 それだけで、周囲の温度が一気に下がったように感じられる。研ぎ澄まされた空気は、痛さすら伴う――ただ、身構えると言うだけでこれだ。能力者達も反射的に身構えていた。
「揺らぐ感情の四門を殺し、静なる心で邪を滅す。是則ち死門封殺」
 真月・沙梨花(死門封殺の呪を操る者・b56331)が静かに言い捨てる――それを合図に、静かに死闘の幕があがった。


 武道場の主のように一人立つ放課後の達人を相手に、能力者達は陣形を組んでいく。
 前衛に統夜と風華、光希、薺、広樹の使役ゴーストの使役ゴーストであるケルベロスオメガ、後衛に暁と広樹、沙梨花、流、楓といった布陣だ。
「――では、死合い開始といきますか」
「影よ、切り裂け」
 光希の使い込まれたナイフが空中を滑り魔弾の射手の魔法陣を描き、統夜が長剣を振り払った軌道に沿ってその足元から影の鉤爪が走る。その統夜のダークハンドを放課後の達人は真横に半歩ほど体を滑らせ、軌道を逸らせた。
「全力で参ります! 覚悟!」
「あまり近づきたくないし近づかれたくもないな」
 風華が駆け込み間合いを詰め虎紋覚醒を施すとその背後から旋剣の構えを取る広樹の前に立つケルベロスオメガが炎を吐き出す。
『……ッ』
 放課後の達人は、その炎を左の回し受けで受け止め散らした。それを見ながら、薺と流が動く。
「防御は、私の本領だ」
「そんじゃ、まぁ成仏してもらおうかいな」
 風華の横へと並んだ薺が丸盾を構えクルセイドモードで、流が後衛で魔狼のオーラを身に包み自己強化した。
「我、言の葉を以て存在を禁ずる」
『――――』
 そこへ、沙梨花の紡いだ呪詛が放課後の達人を襲う。だが、放課後の達人は無言の気合でそれを弾くと――風華と薺の視界から、消えた。
「……ッ!?」
 消えた、そう錯覚するほど滑らかな動きで放課後の達人が二人の手を掴み、宙へと舞わせる。投げられたのだと気づいたのは、遠く武道場の畳へと叩き付けられた時だ。
「倒れるには、まだ早いよ!」
 そこで暁の赦しの舞と楓の慈愛の舞が風華と薺の朦朧とした意識を覚醒させる。
『――――』
 それを見ても、放課後の達人は動かない。ただ、挑む相手を待つかのように身構える放課後の達人の姿に、光希が言い捨てた。
「接近するのも一苦労ですか……達人は間合いを知る、ということでしょうか」
 そう言い捨てた光希自身、離れている自分の立っている場所さえ相手の『間合い』なのだと肌で感じていた。
「一度で駄目なら、二度三度だ――!」
「この程度では、退けません」
 薺が、風華が、身構える。それを見た放課後の達人がその右手を能力者達へと向け――。
『――――』
 来い、とそう告げるように指招きをする。それを見た能力者達が、弾けた様に動き出した。


「オメガ――!!」
「こいつで、どうだ……!」
 広樹の掛け声と同時に、ケルベロスオメガのブラックセイバーとダークハンドが同時に放たれ、薺が身を低く構え丸盾によるインパクトを叩き込む。
 その斬撃の連撃を放課後の達人は左右の腕で弾いて反らし、薺の丸盾による打撃をその右肘で迎撃、受け止めた。
「雷の蛇や、食らっとき!!」
「真月の業と念、受け取れ……内側から喰われ、爆ぜろ」
 流が放電光の絡みつく右腕を突き出し、沙梨花が地獄の叫びを上げる。武道場を貫く電光の蛇を放課後の達人は回し受けで受け流すも、地獄の叫びを受けきれずにわずかにその身を震わせた。
『――――』
 だが、右手を上に左手を下に――不動の構えを取った放課後の達人はそこから一歩も退かない。
 ダンッ! と足元の畳を踏み締め、放課後の達人がその右手で空を『叩く』。パンッ! という軽い弾けた音と同時、その遠当て身の衝撃が視界内の能力者達を薙ぎ払った。
「倒れるには、まだ早いよ!」
 そこで、暁が赦しの舞を舞う。遠当て身を受けて吹き飛ばされた薺が、悔しげに言った。
「……っ、そろそろきついか。交代してくれ!」
「わかりました」
 その言葉を受けて、光希が横合いから放課後の達人へと駆け寄る。左右から襲い来る光希――霧影爆水掌を放課後の達人は左右に手を突き出し、掌打によって受け止めた。
 だが、そこに一瞬の間隙が生まれる――統夜の足元から影の鉤爪が、踏み込んだ風華の右の回し蹴りから左の後ろ回し蹴りに繋がる連続蹴りが、放課後の達人へと叩き込まれた。
「――せっかくの隙だ、付け込ませてもらう」
「こちらは、蹴り技もあります!」
 影の鉤爪が、連続蹴りが、放課後の達人を切り裂き打ちすえる。それでも、放課後の達人は退かず不動の構えを取る――後退のネジは既に外した、そう言わんばかりに。
 ――能力者達と放課後の達人の戦いは一歩も退かぬ打撃戦となっていた。
 放課後の達人の不動の構えから繰り出される空気投げや遠当て身などの強力な攻撃の数々を能力者達は暁の赦しの舞や楓の慈愛の舞に加え、それぞれの自己回復で戦線を維持していく。対して防御の厚い放課後の達人へと能力者達は果敢に攻撃を重ねていった。
 乱打戦、そう呼ぶのが相応しいだろう戦い――その流れを大きく変えたのは、沙梨花だった。
「……終わりだ」
 一気に間合いをつめた沙梨花が経典を突き出す――その経典に込められた凝縮された念、それが放課後の達人の防御を掻い潜り胸元へと突き刺さった。
『――――ッ!』
 ピキリ――、と放課後の達人の手足が、末端から石化していく。この戦いで初めて見せた焦りの表情に、広樹は確かに見た。後方から攻撃の隙を与えないために一挙手一投足を観察していた、そのために気付けた逃亡しようと言う意志、そしてその方向を――だ。
「いい加減……倒れちゃえよ!」
 暁の赤い瞳が禍々しい輝きを宿し、真横へと回り込んだ光希が逆手でナイフを振り払う。放課後の達人は呪いの魔眼によってザクリ、と内側から切り裂かれ合気道着を赤く染め、光希のナイフを手首を抑える事によりかろうじて受け止めた。
「この僅かな隙が貴方にとっての命取り、です」
『――ッ!!』
 光希の言葉に、放課後の達人が振り返る。だが、その時には既に統夜がその長剣を袈裟懸けに振り下ろす体勢に入っていた。
「この隙を待っていた」
 全体重を乗せた渾身の斬撃――統夜のインパクトに、放課後の達人が大きく切り裂かれ膝を揺らす。
 そこへ真後ろへ回り込んだ風華がその青龍の力が宿る拳を突き出した。
「今が勝機です!」
『――ッ』
 それを振り向いた放課後の達人が回し受けで受け流そうとする。それを見た風華が更に加速――回し受けが触れるよりも早く、その胸元へと龍顎拳を叩き込んだ。
 ビキビキ――、と放課後の達人の石化が進んでいく。そこへ巨大な影がおどりかかる――ケルベロスオメガだ。
 そのケルベロスオメガの鋭い牙を放課後の達人は身を捻る事により掻い潜る。だが、その背後に隠れるように迫っていた影の鉤爪が深々とその脇腹へと食い込んだ。
「生憎オレは柔道より剣道派でな……!」
 刀を下段から振り上げた体勢で、広樹が会心の笑みを浮かべる。
「隙をもらうぞ?」
 身を低く踏み込んだ薺が、その丸盾を突き上げた。その丸盾を放課後の達人は両腕で受け止める。だが、その拍子に膝が伸びきり、それが隙につながる――そこへ、流が不敵に笑った。
「――これで決めなきゃ、男やないな!」
 お膳立ては整った――そう流はその右腕を突き出す。ドンッ! と武道場を貫く一条の電撃、流のライトニングヴァイパーが放課後の達人へと放たれた。
『――――ッ』
 放課後の達人は、それに反応できない。その身を電撃に貫かれ、ついに完全に石化したその武道場の怪談ゴーストがゴトリ……と重い音と共に転がった。


「惜しいですね……どこか案内してもらう前に倒してしまいましたか」
 石化した放課後の達人を粉々に打ち砕き、風華が悔しげに呟いた。
 だが、ただ一人広樹が小さく肩をすくめる。
「いや、その方向はわかったよ……ちょっと、行ってくる」
「そうか、それなら頼む」
 俺達の分まで、と告げる統夜に、広樹は一つうなずくとケルベロスオメガを連れて駆け出した。
「学校の怪談も時には面白いですけど、学校は基本的には明るく学ぶ場所ですからね」
 ことさら明るく言う光希の言葉に、仲間達も笑みをこぼす。武道場には、張り詰めた空気はもうない――ただ、冷たく身の引き締まるいつもの雰囲気を取り戻していた。
「なかなか、ごついてだったわ〜」
 そうこぼし、流がゴロリと畳の上へと寝転ぶ。その畳の冷たさが、戦いの後の火照った体に心地が良かった……。


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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/01/11
得票数:カッコいい11 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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