108のウサギ


<オープニング>


 自分の身長ほどある大きなウサギと出遭ってしまった男は逃げていた。
 だが、三匹いるウサギは男へ顔を向けるなり、次々と口からビームを放つ。
 立ち上がったウサギの腹には「108」と読める模様が描かれていた。


「お待ちしておりました」
 神奈・瑞香(中学生運命予報士・bn0246)は、集まった能力者たちにおじぎをした。
「ある山に妖獣が現れました。このままにしておけば、いずれ犠牲者がでてしまいます。皆さんにはそんなことが起きてしまう前に妖獣を倒してほしいのです」
 そういう瑞香は、視たできごとを元に話し出した。

「妖獣は、山頂付近にいる大きな三匹のウサギです」
 妖獣の数は三匹。
 二メートル弱の身長を持つウサギの妖獣は、腹に「108」と読める模様が描かれている特徴を持っている。
「妖獣は共通して、鋭い刃でかじってきたり、太い足で蹴ったり、口からビームを放つ攻撃をしかけてきます。この中で、一番気をつけてほしいのは、それぞれが放つビームの効果です」
 三匹の妖獣は、それぞれで異なる効果を与えるビームを、一人に向けて放ってくる。
 一匹は、浸食。
 一匹は、魅了。
 一匹は、怒り。
 だが、姿形、どれをとっても似ている三匹は、実際に戦ってみないと、どの妖獣が何の効果を与えるビームを飛ばしてくるかわからない。
 かなり、難しい相手だろう。
「そして、皆さんが妖獣退治に行く日は大晦日ですが、一般人が山の中に入てくるということはありません。ですから、皆さんは好きな時間に妖獣退治にむかってください」
 今年最後に大変でしょうが……と、申し訳ない顔で瑞香は能力者たちへ向いた。

「皆さん、どうかお気をつけて。帰りをお待ちしております」

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参加者
権田原・茜(腰痛持ち・b01947)
白鳥・雷輝(両手に花・b02101)
星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・b15890)
迷惑・健(高校生真水練忍者・b16630)
マリア・シンクレア(洗礼の処女・b24391)
舞月・詠仁(神舞新月・b43103)
狭霧・霞(真ブロッケン・b49390)
大沢・颯壱(ピンキッシュデジタリズム・b78739)



<リプレイ>


 太陽が空の高い位置で輝く頃。
 八人の能力者たちは、遠くにいる三匹の巨大なウサギと向かい合っていた。
 珍しく降った雪の上で、互いが音を出さず、様子をうかがっている。
 枝の上にうっすらと積もった雪が、太陽の暖かさで滑り落ち、シャーベットをつぶしたような音が鳴った。
 と、同時に三匹の巨大なウサギと能力者たちが動き出した。
 まさに俊敏。
 能力者たちは、イグニッションを唱えて装備を身にまとうなり、すばやく陣形を整えていく。
 巨大なウサギ――妖獣も、あっという間に能力者たちとの距離を縮めていた。
「けものミミ聯隊、準備しろ、準備しろ……スタンバイ……。ムクムク、妖獣発見したらおやつあげるね」
 迷惑・健(高校生真水練忍者・b16630)は、女の子と見紛う笑顔で、使役ゴースト、ケットシー・ワンダラーにウインクをした。
 ケットシー・ワンダラーは、上品な目を閉じて、ため息をつく。
 しかし、健は、そんな使役ゴーストを気にする様子を見せない。
 ケットシー・ワンダラーは、無言のまま杖を一回転させから目を開けた。
 妖獣はもうすぐで、攻撃範囲内へ足を踏み入れる。
「全員で攻撃よ!」
 マリア・シンクレア(洗礼の処女・b24391)が叫んだ。
 短い四本足を巧みに使って木々を避けてくる妖獣は、三方に別れて走っていた。
「さあ、来い!」
 仲間の視線が集中する権田原・茜(腰痛持ち・b01947)は、妖獣をできるだけひきつけた。
 能力者たちは、茜の第一歩を封切りにと待っている。
 妖獣は獲物が逃げないことを知り、目を細めた。
「まるで、勝利を確信しているかのようですね」
 真意を知らない妖獣に対し、狭霧・霞(真ブロッケン・b49390)は唇を笑ませた。
 茜も笑みをうかべる。
「戦闘開始だね」
 茜の姿が消えた。
 だが、実際には違う。
 あまりにも素早いフットワークで消えたように見えただけだった。
 茜が一匹の妖獣に狙いを定める。
「いいものあげるよ!」
 茜のクレセントファングが蹴り上げられた。
「主よ、邪なる者に罰を与えたまえ……、メギド!」
「光を以って闇を斬る……、斬影剣ッ!」
 妖獣に向かって放たれたマリアの奥義光の槍と並ぶように、霞が瞬断撃で茜と同じ標的を傷つける。
 攻撃をくらったウサギが高い声で鳴いた。
 残る二匹が、目の色を変えた。
 妖獣は道先を変えて、能力者たちの陣へ突撃していく。
「けものミミ聯隊! 全軍援護しろ! ファイヤ!」
 健は、間近に迫っている妖獣に向けて水刃手裏剣を飛ばした。
 水の刃を、ギリギリのところでかわしながら近づいてくる妖獣。
 ケットシー・ワンダラーが踊りを誘っても、その動きは変わらない。
「集中砲火だ!」
 星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・b15890)の声に、白鳥・雷輝(両手に花・b02101)は黒影剣を、舞月・詠仁(神舞新月・b43103)はさよならの指先を、攻撃が集中したウサギに向けた。
 走ってきた二匹のウサギにかまれようとも、蹴られようとも作戦は変わらない。
「攻撃を実際受けないと、相手の手がわからないってのは……きついね……」
 大沢・颯壱(ピンキッシュデジタリズム・b78739)は、サンダージャベリンを突きたてた。
 爆発したエネルギーが雷撃となって確実に一匹を狙い定める。
 優輝も、奥義雷の魔弾を撃ち放った。
 傷だらけになったうさぎは、立ち上がって腹に描かれた108の数字を見せつけた。
 残る二匹も、立ち上がる。
「確実にしとめる!」
 能力者たちの矛先は、茜が攻撃を仕掛けた一匹へ集中した。


 集中攻撃された妖獣が、ふらふらになりながら霞へビームを放った。
 残る二匹も次々とビームを撃ち放ち、辺りに緊張が走った。
 ビームとくらった、颯壱、詠仁、霞の動きに、仲間たちは目が離せない。
「もふもふ……可愛いですねー」
 静まった中で妖獣に好意的な目を向けたのは、詠仁だった。
 詠仁は、近くにいる妖獣にほほえみかけると、慈愛の舞を踊り出す。
「傷を綺麗に癒してあげましょう」
「詠仁?!」
 驚いた優輝は詠仁を止めに入ろうとした。
 だが、詠仁の顔は正気ではない。
 みるみるうちに三匹の妖獣の傷を癒えていく。
 優輝は、唇の端を強くかんだ。
「ダメだ、魅了にかかっている」
 そこに、銃の炸裂音が響いた。
「大沢さん!」
 マリアは、怒りの形相で妖獣に銃弾を撃ち込む颯壱の肩に手をかけてゆすった。
「大沢さん、大沢さん、しっかりしてください!」
 だが、颯壱は無言で詠唱銃の引き金を引いている。
「マリア様、無理だよ。颯壱様、すっかり怒ってるもん。ねぇ、ムクムク」
 健の問いかけに、ケットシー・ワンダラーはうなずいた。
 どうしようもない現実に、マリアは手を離した。
 霞は、雷輝の手を借りて、浸食にかかった体を持ちこたえさせている。
「みんな、攻撃を集中させて! 狙う敵は、怒りを与える妖獣です!」
 マリアは、颯壱から攻撃を受けている妖獣を指すなり、光の槍を飛ばした。
 妖獣は弱っている。
 あと、一押しだ。
 霞は瞬断撃を繰り出し、健は水刃手裏剣を飛ばす。
「負けられない……こんなところで負けられない!」
 雷輝の黒影剣が鋭い太刀筋で妖獣を切り裂いた。
 声を荒げた妖獣は姿を消す。
「――俺」
「正気を取り戻したか、颯壱」
 優輝は、颯壱の様子に安堵する。
 妖獣は、一匹が倒されたことに声を何度も荒げた。
「よく鳴くウサギだ」
 優輝はペイントボールを、一匹の妖獣へぶつけた。
「みんな、ペイントボールのついた妖獣が魅了を放つ妖獣だ」
 優輝が示した妖獣は、突然ぶつけられた液体を嫌だ嫌だといわんばかりに、手でぬぐっている。
 一匹が短く鳴くと、能力者たちから気持ちも悪い液体に意識を向けていた妖獣が顔をあげた。
 茜のクレセントファングが蹴り上げられる。
 浸食に侵された霞は白燐奏甲をかけて、体力の回復と力の底上げを狙った。
「これくらいでやられはしません。――光よ、我が剣に宿れ!」
 二匹の妖獣は、耳を直立させるとビームを放った。
 優輝は魅了にかかり、雷輝が浸食に侵される。
「けものミミ聯隊! 目標変更! 次は彼奴だ!」
 健は、水刃手裏剣を飛ばしながら、ケットシー・ワンダラーに標的対象を伝えた。
 倒す相手は、魅了を与えるビームを放つ妖獣。
 ペイントボールという印があるため、二匹が入り乱れても、しっかりと見定めることができる。
 だが、そんなケットシー・ワンダラーに雷輝の黒影剣が下りてきた。
「ムクムク!」
 魅了にかかっている雷輝は、敵である妖獣のために動いている。
 ショッキングビートをかき鳴らしていた颯壱は手を止めた。
 どんなに妖獣へマヒにかけようとしても、詠仁の慈愛の舞がある。
 しかし、再び、詠仁が慈愛の舞で妖獣を癒したとき、詠仁は我に返った。
 自らがかけていた慈愛の舞は、妖獣側についた能力者たちを正気に戻す効果もあったからだ。
 雷輝も、魅了から解放され、背を向けていた妖獣にむき直し、本来倒す相手と向き合う。
 颯壱は、すぐにショッキングビートを向けた。
 優輝は、武器の魔道書をにぎりしめる。
「蒼の魔弾も使えればよかったんだが――今は、持てる力を向ける」
 優輝は、目の前に現れた雷の魔弾を撃ちはなった。
 詠仁の回復を失った魅了を持つ妖獣は、能力者たちの前に敗れるしか術がない。
 残された妖獣は、全身の毛を逆立て、威嚇の態勢をとった。
 一匹一匹と確実に倒されていく妖獣を見て、身の危険を感じ取っているのだろう。
 妖獣は、ビームを放って浸食を能力者たちに与えていく。
 しかし、能力者側へと戻った詠仁の手によって、妖獣の攻撃はあっけなく消されていった。
 妖獣に勝ち目はない。
 それでも、妖獣はビームを放つ。
 茜がクレセントファングを蹴り出した。
 マリアは光の槍を飛ばす。
「光よ、闇を照らしあまねく世界を光で満たせ! ――ウサギさん、あなたの出番はまだ早いですわ。もうしばらく、引っ込んでいてくださいね」
「モフモフなウサギが私を誘惑する。でも負けない。今日ぐらいは煩悩退散で行きます!」
 仲間を守るために、白燐奏甲をかけまわっていた霞は、きびすを返すなり、妖獣へ瞬断撃を斬りつけた。
 マリアの攻撃から間を開けず、息のあった攻撃だ。
「モフモフしたかったけど君たち凶暴だから此処でサヨナラだね」
 健は、水刃手裏剣を飛ばした。
 雷輝は、獣撃拳をくりだす。
「……相手がなんであろうとも、倒す!」
「いろいろしてもらいましたが、もう誰も傷つけさせません。あなたは、みんなの刃で沈んでください」
 詠仁は慈愛の舞で妖獣の攻撃から、仲間を救う。
「電撃の槍をお見舞いするよっ!」
 颯壱がサンダージャベリンを突き立てる。
 優輝は、血が持つ力を感じながら、雷の魔弾を放つ。
「能力者として、犠牲者を出すわけにはいかないからな」
 容赦のない集中攻撃。
 浸食を与えるビームを放つ妖獣は、よろける足を後ろにさげると、地面へ傾く。
 そして、大きな音を立てる前に、妖獣は跡形なく消えていった。


「終わったか……攻撃も厄介なものだったし、てごわかったな」
 雷輝は、イグニッションを解いた。
「しかし……、来年の干支となる動物を倒すってのもなんか複雑な気分だ」
「そういえば、来年は卯年でしたか」
 詠仁は、変わる干支の動物を思い出した。
 くしくも、今回倒した妖獣は、来年の干支となるウサギだった。
 颯壱は、肩を持ち上げる。
「今年最後の仕事が、ウサギ妖獣とはね。学年のこともあるし、休むもないってことかな」
「新年を迎える前に、妖獣もかわいそうでしたが……ごめんなさい。そして、どうか安らかに」
 山を登ってきたと同じ服装に戻った詠仁は、手袋のはいた手を合わせた。
「108の数字はなんだったんだろうな」
 ずっと妖獣の腹に描かれていた数字が気になっていた優輝は首をかしげた。
 すると、颯壱が108にまつわるいろいろな話を語り出す。
 1の1乗×2の2乗×3の3乗をすると、答えは108になったり、煩悩の意味だったり、様々な内容に、仲間たちは驚きながらも聞き入ってしまう。
「大晦日だし、鐘の意味だと思うけど」
 それでも、颯壱は最後を、大晦日でしめた。
 コートの襟を正した健は、まだ明るい太陽を見上げると、朗らかに笑んだ。
「今年一年、いろいろあったけど、これが今年最後の依頼終了だから、打ち上げとかしない? たいそうな物じゃないけど、ティータイムを楽しむには十分なお菓子とか持ってきたんだ。お湯もここで沸かせるように、小型コンロもね」
「すてきですね。ぜひ、いただきたいですわ」
「私も」
 嬉しそうなマリアと茜に、健はお湯を沸かした。
「カップは温めておけばいいのか?」
 お湯でカップを温めようとしていた健は、手際のいい優輝の動きに目を見張った。
 慣れている。
 流れがスムーズで無駄がない。
「喫茶店の仕事をしているんだ。依頼が終わったら、すぐに店に戻らなければいけないが、たまにはいいだろう。どうぞ」
 健がいれたお茶を、優輝は優雅なしぐさで配る。
「やっぱり年忘れでモフモフすれば良かったかしら……」
 霞は、香りも味もよいお茶に口をつけた。


マスター:あやる 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/01/04
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