<成人式2011>振り袖は蝶々のように


   



<オープニング>


 新春を迎え、松の内を祝い気分で過ごしていれば、すぐに成人の日がやってくる。今年の成人式は1月10日の月曜日。美容院では夜明け前から振り袖の着付けやら髪のセットやらで大忙しになるはずの日。無論、銀誓館の卒業生達にとっても、この日は一生に一度の日となるはずで―――。
「で、ねーちゃん達の準備は終わったんか?」
 片岡・友明(高校生竜虎・bn0125)は空になった紅茶のカップをくるくると回し。
「もちろん!」
 答える雛森・イスカ(魔剣士・bn0012)は上機嫌。新調した振り袖は先日仕上がったばかりだというし、草履から小物まできちんとコーディネイト済みだと嬉々として語りだす。
「本当はハルちゃんの分もお揃いで仕立てたかったんですけど……」
「そんな……レンタルで十分ですよ」
 今岡・治子(運命予報士・bn0054)は呆れたようにイスカの科白を封じると、少年の手からティーカップを取り上げた。大体イスカの着物と同じレベルのものを仕立てるなど、今岡家の経済観念が許すはずもない。
「そもそも成人式なんて決まり切ったものなのに……」
 紅茶のお代わりを淹れてやりながら治子は小さく息をつく。だが、どうやらイスカはこの行事に興味津津のようで。
「確かに私も自治体の成人式はつまらないって聞いてたんです。ですからね……」

 ――私達だけの成人パーティーやりませんか!

 瞳をキラキラと輝かせて身を乗り出してくるイスカ。治子は一瞬の沈黙ののちに、沈痛な表情で頭を押さえた。次に出てくるであろう突拍子もない提案に対する万全の態勢を整えるために。

「でも当日は振り袖ですから、ダンスパーティーは無理ですよ」
 念のためというか無駄な抵抗というか、治子は一応釘をさす。だがイスカが示したのは……。
「旧大名家のお屋敷で……食事会?」
「……と巨大歌留多会?」
 治子と友明は思わず顔を見合わせる。明治の初期に建てられた旧大名家の屋敷を借りての百人一首大会……どこでどう話をつけてきたものやら、イスカの行動力には相変わらず驚かされる。
「せっかくのお着物ですから、ちょっと気軽な懐石料理と新年らしいお遊びを、ですね」
 食事しながらの近況報告はともかくも、懐石料理の一体どこが気軽なのだろう。それに成人式のどこに『新年らしさ』が必要なのだろうか。だがそれはたぶん突っ込んではいけないところ。要するにイスカの気分としては振り袖やら紋付やらをたっぷりと満喫したいだけなのだろう。
「懐石料理やお茶会はまあいいですけど……」
 旧大名の屋敷ならば庭園もさぞや美しいことだろうし、確かに大人の第1日目を過ごすのには結構なことかもしれない。
「ですが、巨大歌留多会では……」
 歌留多1枚が畳半畳分もあるのなら、それを取るにはホームベースよろしく突っ込んでいかなくてはならないのではあるまいか。
「そうですよ。だから皆さん、大騒ぎで……」
 部屋中に並べられた歌留多を取るためにはあちこちパタパタと走り回ることにもなろうし、そうなれば振り袖が蝶々のように広がって、それはそれは綺麗なことだろう。きっと見ているだけでも楽しいし、ちょっと羽目をはずしてのお遊びは気分転換になりますよ……イスカは陶然とした目で空を見つめた。

「あきらめれ、ハルねーちゃん……」
 友明はポンと治子の肩を叩く。ああなったら説得不能。理屈も条理も通じない――。
「いいですよね。片岡君は二十歳じゃないから……」
 今度こそ治子は大きくため息をつく。お茶やお料理がまともなだけマシと思うべきなのか否か、とても判断はつかないけれど、とりあえずあんなに楽しそうにされてはとても水を差すことなどできそうにない。まあ自分はお茶会や庭園散策を楽しめばいいだけだし、読みあげられる和歌に耳を傾けるのもいい。気が向いたら一首詠んでみるというのも趣向だろう――だが治子のそんな思惑は次の瞬間、みごとにぶち壊されることになる。
「確かハルちゃん、百人一首は得意中の得意でしたよね?」
 私も国文科の誇りにかけて負けませんよ……イスカはすっかり治子も参加するものと決め付けていたのだ。
「……私が勝ったら、今年1年そのポーチを封印してくれます?」
「……い、いいでしょう」
 イスカは香辛料セットの入ったピンクのポーチをテーブルの上に置いた。そこまで言うならばと治子はにっこりと笑う。
「じゃあ、成人初の勝負と行きましょう」
 お食事や散策もたっぷり楽しませていただきますけどね……治子のそんな呟きを黙って聞いていた友明は、心の底から感謝した。自分が今年の成人式に参加しなくてもいいことに。

 ともあれ、1月10日。全ては2人が大人になるその時に――。

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参加者
NPC:雛森・イスカ(魔剣士・bn0012)




<リプレイ>

●新春の陽射し
 常緑の松の葉に新春の光は美しく、時折岩を打つ獅子威しの音は微かに遠い。先程のまで式諸々の喧騒が嘘のようにその庭は静けさに満ちていた。
「……迷子になってしまいそう」
 そう呟く彼女の手を文乃はそっと握りしめ。成人式という日には少し子供っぽい気もするが、躑躅が向けてくれた笑みはそんな事さえ霧消させてしまう。
「あら、お抹茶? 庭園を眺めながらのんびり頂くお抹茶もいいものね」
 言ってみましょうかと表情で告げれば、躑躅の笑顔も深くなる。何よりも一緒にいる事が一番だから。茶室に向う彼女達の揺れる袖。文乃の牡丹、躑躅の桜。それはそのまま1枚の絵のようだった。
 伸ばされた真咲の手に藍乃は指を重ねる。茶室から庭に降りた後も包みこんでくれる手は少し熱い気がする。
「将来的には離れてしまうのか……」
 真咲の夢は研究者、藍乃の夢は田舎の小学校の先生。今は近くに居るのに――重ならない2つの夢は心に小さな棘を残していくような。
「友達なんだから、離れちゃってもまた会えばいいよ! ほら、今度はお花見とかさ!」
 藍乃もそう言いはするけれど『友達』という言葉が持つ微妙さを互いに気づいていない訳ではない。
 他の友達とは何か違う真咲の存在。
 放っておく事も、手を離す事もしたくない藍乃。
「行こう、綺麗な花を見に」
 真咲は務めて快活に告げた。指の力はほんの僅かましていたけれども。

 庭の梅は白い蕾をつけていたけれども、風は身を切るように冷たくて桜華は思わずショールを巻き直したが、こんな風に見上げる古木はやはり美しい。梅が枝の下には先客、治子と静蓮がいた。
「以前に梅の苗木を買った事があるのですけれど」
 桜華が独り言のように囁けば、それはお楽しみな事ですねと治子も小さく笑う。
「1枚、いいかな」
 突然の暈人の声に3人の長い袖が大きく揺れた。彼がカメラを抱えているのはいつもの事だが、今日は彼方もその傍らに。
「庭園をバックに撮ったほうがいいのでしょうか」
 久しぶりに会うクラスメイトは相変わらず凛々しい。折角だからと彼方は2人を白梅の前に並ばせる。白い花の蕾の下で桜華の袖には桜が咲き、治子の裾には牡丹が咲く。

 ――振袖に 巡る春の 息吹きこめ

 暈人がシャッターを切ると同時についとこぼれた一句に、静蓮が続ける。

 ――新春の 庭園に舞う 蝶々ら

 春に花、花に蝶。それに継ぐ彼方の声は朗々と和歌を詠み上げた。

 ――春の鳥未来の扉を押し開けて 開くのを待つは逢坂の関

 春を告げる鳥の前には閉じていられる関はない。同じように自分達の未来も――皆さん詩人ですねと治子はふわりと笑った。こういう風に言葉が繋がるものならば、自分が途切れさせる訳にはいかない。

 ――心には翼もあらむ人の子の いかに障らむ逢坂の関

 心に翼のある者に障害となる関はない。その思いはそのまま彼らの大人の日々への祝福となる事だろう。

●歌留多と光を追いかけて
 池の水面に光が踊り、抹茶の香りが世良達を包み込む。
「こんな日まで両手に花(?)で嬉しいわ」
 世良が左右を見やれば黒い紋付き袴の明来は常に変わらず悠々と茶碗を取り上げ、むさくるしい花で悪かったなと笑みを零す
「やっぱ切っても切れねーモンがあるよなオレら!」
 功貴は折角の袴もばさばさと慣れぬ草履ばきの足を振り……。黙ってれば決まってるのに――肩で小さくため息をつく世良の髪にも大輪の牡丹。
「黙ってりゃ云々は世良も一緒だろ!」
 まあまあと割って入る明来の目には優しげな光。めでたい日にも変わらぬ光景が広がる様は、どこか心に温かい。こうなったら歌留多で決着だと宣言する功貴に受けて立つ世良。願わくはこの縁がどこまでも切れる事がないように。それは誰もが口にしない、同じ想い。
 
 風月華の3人が広い園内でようやく巡り合えた頃、悠も空色の振袖姿でやってくる。
「似合ってるじゃない♪ いいじゃんいいじゃん、オトナのオンナ♪」
 はしゃぐ悠に御守も赤い袖をふわりと降って見せ。成人式は迎えたけれど、自分は自分。この仲間達と一緒にすべき事をする日々は変わらない。でもまあ、さしあたって今日は巨大歌留多会を楽しもうという訳で。
「……でかすぎだろ、これは……」
 あっけにとられる亮の傍らでは『大人らしく、お淑やかに』との誓いを懸命に順守しようとする一子の姿。
「「成人式は子供最後の日!」」
 けれどそう囁かれては『めざせ、一子さん』の決意も何とはなしに……。数分後展開されたのは勿論巨大歌留多の上をひらひらと舞う蝶々の群れ。
「いっちゃんは巫女袴なのねー。ずるーいっ!」
 御守が叫べば、思いきり行くわよーと悠も目の前の札に飛びついて。
「そこか! チェストォォォッ!!」
 更には袴がすりきれそうな勢いで亮がスライディングを決めて見せ。いやはや中々の白熱ぶりに見物人からも大きな拍手が沸き起こる。

 記念すべき日には互いに見立てた服装で――第一戦が終わった座敷に蒼夜はコーネリアの見立てた黒いスーツで入って来た。対して彼が彼女に見立てた振袖は臙脂色・大輪の牡丹が花開きながらも落ち着いた雰囲気を醸し出すもの。女性らしい服装を見たいという願いは密かなものだったけれども。ともあれ2人で参加する歌留多会。この先の未来は歌のように詠む事はできないけれど、今は2人で朗々と流れる言葉の川に身を委ねるのも悪くない。
「さあ、次の勝負と行きましょうか」
 私も小手調べと行きましょうと雛森・イスカ(魔剣士・bn0012)が立ち上がれば、静蓮も白椿の振袖に襷をかける。ふわりと揺れた袖には金色の蝶々。
「くっくっくっ。芸舞なら、真剣にやらないとねぇ」
「もちろん、国文科の誇りにかけて負けませんよ」
 イスカがきゅっと拳を握りしめる脇で、ヤマトは微苦笑を零す。
「私も一応、国文科の学生。易々負ける訳にはいきませんね」
 その瞬間イスカの目がきらりと輝く。じゃあ、国文科連合で打倒ハルちゃんです、と。いつの間に連合とやらにとヤマトの苦笑は更に深いものとなったが、偶には童心に帰るのも悪くない。
「では読み手は私が……」
 司真の穏やかな声に最初の句が読み上げられる。刹那皆の顔色が変わった――まるで短距離走のスタートのようだと司真は微笑む。自らの声にひらひらと舞う蝶々達、右へ左へと走る若者達。それはそれで見がいのある光景だった。
 そんな中で一際目を引いたのは色違いの振袖に身を包んだ天河・翼と翔の姉妹。桃色の振袖の翔が小町の歌に飛びつけば、水色の振袖の翼は業平の紅葉を得る。双子の姉妹の勝負はすぐに人々の知れる所となり、あちこちから応援の声が飛んでいる。勝つのは芸術的センスを持つ翔かそれとも勉強の得意な翼か――。
「さ、何が欲しいの?いってごらん」
 財布とにらめっこしながら聞く翔に勝利者たる翼が告げたのは……。
「……えっと、ね。牛丼大盛り……卵もつけて、ね?」
 微笑ましげなざわめきが広い座敷に波のように広がっていった。

●春ならぬ桜散り?
「まあ、男女対抗歌留多?」
 幻桜の灰のメンバーに告げられてイスカと治子は軽く目を見開いた。2人が加わればちょうど5対5なのだと紫郎は言う。藍色の羽織に黒灰色の袴は安らぎの闇を思わせ、傍らに立つ紅吏の薄紅地に舞い散る桜と好一対を成している。
「夜空に散る幻の桜というわけですか」
「この後は結婚式か?」
 治子の感嘆に蒼玄のからかいが重なって、一座は穏やかな笑いに包まれる。しかしながら勝負は勝負。瑞鳳がきりりと襷をかけると大柄の花がふわりと揺れる。
「冬に花が咲いたようですね」
 そういう志津乃の振袖も藤色に花と扇面を散らした優美なものだ。そこへ歌留多の支度ができたと係の者が告げに来る。
「フッ、百人一首か……自慢じゃないが、よく知りません!」
 でも一応の予習はしてきたぜと意気込む光國の前には一点透視の見本にしたいような広座敷。一面の歌留多には少々ひるまずにはいられない。まして『確か下の句の札を取るんだったか』問い首をひねる秀樹や『むすめふさほせですよね』と笑っている志津乃を見てしまえば……。
「あれ、女性陣が揃って強すぎげふげふ……」
 ナンデモナイヨ……リクが慄然として彼らのリーダーを見やれば、
「今回の作戦を伝える。気合で何とかしろ。……以上だ」
 当の紫郎はいつもの黙示録よろしくの無茶ぶりで。ま、運動能力でカバーと行こうとの蒼玄の言葉を皮切りにとにかく勝負は始まった。
 初めは女性陣の独壇場。覚えのあるなしはやはり強い。だが着物に帯といったいでたちではやはり機能的とは言い難い。動き始めたところを男性陣に猛ダッシュされるようになっては、直前でかっさらわれる事も度々。

 ――あまつかぜ雲のかよひぢ吹きとぢよ……

 読み手の声に志津乃の手が音速で動いた。
「……乙女のすがたしばしとどめむ」
 ああいいですねえとイスカが陶然としている間にも札はあっさりと志津乃の膝の下。父母の出会いの思い出ですからねと笑う彼女にはさしもの秀樹のスピードも叶わない。
「イスカちゃん、鑑賞してないで取りにいかないと」
 治子が呆れて言えば、イスカも負けてはいない。
「そういうハルちゃんこそ、さっきから狙われてますよ」
 そういって紫郎に視線を送る。彼は治子が歌に反応する様を観察して札のありかを探っていたらしい。
「ハルちゃん、すぐ札のある方を見ちゃいますからね」
 それにそろそろ札の数も減って来てリクや光國も場所を覚え始めてきたらしい。
「……あら、不覚」
「大丈夫。こっちもダッシュなら負けん」
 瑞鳳が治子の肩をポンと叩く。足袋まで脱いだ彼女の気合はこの上なくも頼もしい。そこからの勝負はまさに激闘。百人一首を覚えているか否かというよりも、指示への反応速度を競っているような。もはや治子も読みあげられれば素直に指差し、紅吏も得意な札を虎視眈々と狙い定め――

 ――みちのくのしのぶもぢずり誰ゆへに 乱れそめにしわれならなくに

 勝負を決めたのは紅吏の最も好むこの一首。あなた以外の誰のために私は心を乱してしまっているのか……深すぎる意味に治子は一瞬興味の色を湛えて紅吏を見たが、その紅の頬は全ての問いを拒絶しているかのようだ。
 終わってみれば僅差で女性陣の勝利。真冬にうっすらとかいた汗は心地よく、この後の2次会もさぞや気持ちよく飲める事だろう。無論男女の区別なく。

●晴れの日に蝶々は舞う
 大切な人の視線を背中に感じて、彩希は鏡のような池に向かう。選んだ振袖は桜に遊ぶ蝶々達。これは私を綺麗に見せてくれるだろうか。彼の頬が紅色に見えるのは自分の見間違いではないだろうか。今日は全てが素敵な日。彩希はゆっくりと振り向いて手を伸ばす。大切な日を分かち合うべきその人に――。
 橙色と金を散らした振袖。花と扇に飾られた日花は文字通り庭園の花。日頃の忙しさも忘れてゆっくり園内を散策してはスケッチブックを取り出して。さらさらと走る鉛筆の音が風の音に調和する。喉が乾けば気の向くままに茶室を目指し。時がゆっくり流れている事を日花は全身で感じ取っていた。
「らぶですが……」
「ふふ、結構なおらぶで」
 小さな茶室で蛍が白磁の碗を差し出せば、伊織の手が静かにそれを回す。小首を傾げてくすりと笑えば髪飾りの銀がちらりと鳴った。粗茶ですが。結構なお手前で――そんなありきたりのやり取りも、ほんのりと甘い和菓子の味も今日は特別なような。
「蛍はね、大人になっても伊織ちゃんとずぅっと一緒にいたいの」
 駄目かなと見上げてくる蛍の着物は薄桃の色。伊織の水色の袖と重なればさながら流水の桃花。
「おばあさんになっても、お友達でいてくれますか?」
 ずっと一緒に……蛍の問いに伊織もまた答えの判り切っている問いを返した。

「つかさ、似合ってるしいーじゃない」
 ライトグレーのスーツからネクタイ、靴に至るまで、つばさは自らのコーディネートに満足の意を表明する。
「オンナノコって拘るよね、そういうの」
 つかさが妹の服装を見れ見ればこちらは母親譲りの振り袖。最もきりりとたくしあげられた袖や裾では折角の手毬も扇の模様も台無しだが。歌留多勝負ではスライディングも辞さない覚悟らしいのは一目瞭然だ。
「そういえば、こういうので勝負は初めてかもね」
 巨大歌留多を挟んでかぐらと儚が対峙していた。共に黒地の和服姿ながらかぐらは花、儚は裾に小さく蝶を縫い取るという中々粋な格好だ。百人一首って苦手なのよねと呟くかぐらに、これでも、文学には結構自信があるんデスヨと強気気味の儚。反射神経やら持久力まで勘案すれば、言い勝負になりそうだが。
「ま、負けられれません」
 その向こうではイスカと治子のポーチを賭けた勝負が始まろうとしていた。
「雛森さん、少し香辛料断った方がいいよ」
 銀子が呆れたように忠告すれば、そうですよねと治子も早速尻馬に乗る。
「そういうの、付和雷同っていうんですよ」
「いいえ、単なる初志貫徹ですよ」
 簪一つ外してはいない楚々とした着物姿のまま、火花を散らす2人の女性。銀子はそっと肩をすくめると紅色の袖をさらりと真っ白な襷でたくしあげた。

 ――春すぎて 夏来にけらし 白妙の……

「あ、あった、です!」
 これだけは譲れないとばかりに世寿が飛びつけば、

 ――瀬を早み 岩にせかるる 滝川の……

 では慎ましく翠月が手元の札に手を置いて。動き回るのは苦手ですから近くの物だけ取れれば十分です――翠月の微笑みはしっとりと暖かい。
 勝負はどんどん熱を帯びていった。「わが衣手」ではつばさが見事な滑り込みを見せれば、再び世寿の浅葱色の袖が視界をよぎっていく。
「だからハルちゃん、目線で教えちゃダメですって!」
 イスカと治子の勝負もどうやら伯仲といったところか。決まり字で確実に手を出せる点では治子が無論有利だが、瞬発力と着物捌きはイスカの方が勝っている。
「あーこりゃイスカちゃんの勝ちかな」
 つかさが呟いたまさにその瞬間、勝利の天秤は定まった。
「……1枚差?」
 終わって見れば残ったのは治子の憮然とした表情とギャラリーの温かな拍手。イスカは勝利の栄誉を遠慮する気はさらさらなかったが、ポーチを掲げるような事はしなかった。
「でも、楽しかったですわ」
 銀誓館の時代を思い出します……翠月ハンカチを差し出してくれ、治子は諦め混じりに好意を受けた。鍛え直さないとと聞こえた気がするのは翠月だけの秘密。
「最後は皆で記念写真でも……」
 光國達の声がかりで銀誓館の一行は思い思いの札を手に座敷に並ぶ。沢山のフラッシュが光る中、彼らの胸に去来したのは学園時代の思い出か、それとも未だ来らぬ時の事か。恐らくそれは十人十色。だが今日という日が宝玉のような思い出となって、残る事は恐らく間違いはないと思われる。――新春の空は抜けるように青かった。


マスター:矢野梓 紹介ページ
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いまいち
参加者:41人
作成日:2011/01/18
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