銀誓館襲撃〜百目鬼面影:シンバルモンキーの乱


<オープニング>


「すばらしい」
 シンバルを持つサルの人形を手にした百目鬼・面影は、細い目をより細めた。
「この腕の形といい、シンバルの持ち方といい、等身を損なわないバランスのよさだ」
 面影が、サルの人形――シンバルモンキーを褒めちぎると、シンバルモンキーは脈動を始め、爆発を起こした。
 辺りに立ちこめた煙が消えていくと、そこには人間大となったシンバルモンキーが立っている。
 昭和ゴーストとなったシンバルモンキーは、シンバルを鳴らすと恭しく頭をさげ、面影に忠誠を誓う。
「これから、お前には特訓を受けてもらいます」
 すっ。と笑んだ面影の目が、後ろに立っていた颯爽・菱子へ向いた。

「まだだ!! そんなことじゃ、必殺技は習得できないぞ!」
 颯爽・菱子は、昭和ゴーストとなったシンバルモンキーに、厳しい特訓を与えていた。
 シンバルをスキーのように扱いながら地面を滑るシンバルモンキーは、モーグルの技をとるために飛び跳ねた後、体勢を崩して地面に落ちてしまう。
 そんなシンバルモンキーに、菱子は、ボコボコと泡が立っている緑のゲル状となったスタミナドリンクを飲ませて元気づける。
 スタミナドリンクを飲んだシンバルモンキーの顔が青くなっている気もしないでもないが、菱子は気にもとめない。
 むしろ、特訓に熱が入る。
 シンバルモンキーは、血のにじむ苦痛を味わいながら、跳んだ足を左右に広げて、身体を前に折り曲げる。
 そのフォームが完璧となったとき、菱子は初めてシンバルモンキーをほめた。
「よくやった。さすがだ。もうお前に教えることはなにもない。お前なら銀誓館を倒せる! 自分を信じろ!」
 シンバルモンキーは、誇らしくうなずいた。


「皆さん、大変です!
 始業式の後に、父兄の方々の有志が、体育館の周囲でチャリティバザーを開いてくださっていたのですが、その会場がナイトメアビーストの一人、リメンバー昭和・百目鬼面影に占拠されてしまいました!」
 慌てて走ってきた神奈・瑞香(中学生運命予報士・bn0246)から詳しい内容を聞いた能力者たちは、うなった。
 面影が『昭和ゴーストを元の物品の姿に一時的に戻して、チャリティバザーの出品物として大量に持ち込んだ』ことにより起きた、この事件。
 当の面影は体育館の中にいるらしいのだが、そこへ行くには、体育館の周囲を埋めつくしている昭和ゴーストを倒さなくてはならない。
 しかも、今回の昭和ゴーストは、なんらかの特訓により必殺技を会得した『超特訓昭和ゴースト』に変化している。
 必殺技は、一度しか使えないというが、とてつもない威力を持つ技と聞けば、一筋縄でいかないことはわかった。
「お願いです! 今は、一般生徒や父兄の方々に『体育館で火事が発生した』という説明で体育館から遠ざける事ができましたが、多くの父兄の方々に被害が及んでしまう前に、学園がナイトメアビーストの手に落ちてしまう前に、急いでチャリティバザー会場に向かって、昭和ゴースト……いえ、超特訓昭和ゴーストを倒してほしいのです!」
 瑞香、倒すべき超特訓昭和ゴーストの説明を始めた。

 超特訓昭和ゴーストは、シンバルモンキーというシンバルを持ったサルのおもちゃが元となっている。
 スイッチをいれると、腕が動いてシンバルを鳴らし続けるというおもちゃらしいが、超特訓昭和ゴーストとなったシンバルモンキーはある程度の知能を得ているため、自らの意志で動き、判断する。
「超特訓昭和ゴーストの武器はシンバルとなります。
 超特訓昭和ゴーストは、シンバルで近くにいる者をたたきつけたり、連続してシンバルを鳴らした周囲二十メートル以内に広がる音の衝撃波を広げたりしてくるのですが、一番注意していただきたいのは、超特訓昭和ゴーストの必殺技です」
 モーグルの技を真似たシンバルモンキーの必殺技。
 スキーのように滑らせたシンバルの上に乗り、二十メートル以内にいる標的と定めた相手の近くへ来ると飛び跳ねて、足を左右に広げ、身体を前に折り曲げて突撃してくる。
 勢いに乗っていることもあり、この技にぶつかるとひとたまりもない。
 下手をすれば、即重傷もあり得る。
 十分に気をつけてほしいという瑞香は、改めて能力者たちに顔を向けた。

「この騒ぎを起こした百目鬼・面影は、非常に強力なパワーアップをしていますが、コピーではなく実体で来ています。
 しかも、百目鬼面影は、体育館の中で『父兄の方が普通に持ち込んだバザー出品物から、昭和ゴーストを作って戦力を増強しようとしています』が、これらは超特訓されていませんので、必殺技は使えないはずです。
 ですから、超特訓昭和ゴーストを倒したら、体育館に突入して百目鬼面影と決着をつける戦いになると思います。
 ……皆さん、どうかお気をつけて。
 一般生徒の皆さんと一緒に、帰りをお待ちしております」

マスターからのコメントを見る

参加者
麻生・瑠璃(呪われし瑠璃色・b03552)
椎名・竜兵(手を差し伸べる・b15684)
鈴白・舜(車の下に入るときは楽・b25671)
文月・風華(暁天の巫女・b50869)
雲乗・風斗(ヴォームティンクラウド・b51535)
鳥山・来雨(クトゥル・b61324)
青江・渚(綿津見と共に在るモノ・b61603)
萌月・薺(盾の騎士・b65253)



<リプレイ>

 体育館へ向かう能力者たちの耳に、シャーン、シャーン、と、シンバルを鳴らす音が聞こえてきた。
 能力者たちは、たくさんの超特訓昭和ゴーストがいる中で、標的と定めたシンバルモンキーの姿をとらえる。
「あいつか……!」
 雲乗・風斗(ヴォームティンクラウド・b51535)と青江・渚(綿津見と共に在るモノ・b61603)の足が、ぐん、と、早まった。
 渚は、肩を並べる風斗に言う。
「合わせます。一気に叩きましょうっ」
「ああ!」
 風斗はシンバルモンキーへまっすぐに向かい、渚は能力者たちを迎え撃とうとするシンバルモンキーの横へ回り込んだ。
「見た目はファンシーだからといって弱いとは思わない。だから、全力で向かわせてもらう!」
「キッ!」
 シンバルモンキーは、風斗の奥義クレセントファングをあごにくらって高い声を出した。
「この後にも戦いが控えていますからね、手短に終わっていただきますよっ」
「キッ!」
 今度は、渚の奥義クレセントファングを腹部にくらい、シンバルモンキーは低いくぐもった声を出す。
「……キキ……」
 連続して攻撃をくらったシンバルモンキーは、ぐらついた意識を取り戻すかのように、頭を左右に振ってから体勢を取り直した。
 しかし、その間にシンバルモンキーは能力者たちによって、身動きがとれないほどの距離で包囲されていた。
 囲んでいるのは渚と風斗、そして駆けつけてきた麻生・瑠璃(呪われし瑠璃色・b03552)と文月・風華(暁天の巫女・b50869)、萌月・薺(盾の騎士・b65253)だ。
 瑠璃と風華は虎紋覚醒をかけ、薺はクルセイドモードをかけながら、シンバルモンキーの動きを見張っている。
「……キキ……キ……ウキーーーー!!!!」
 怒りをあらわにしたシンバルモンキーは、腕を振り上げ、渚をシンバルでなぐりつけた。
 だが、能力者たちの鉄壁がその程度で崩れるわけもない。
 暴れるシンバルモンキーを捕らえるため、鈴白・舜(車の下に入るときは楽・b25671)の奥義茨の領域が飛んできた。
 足元から伸びる茨がシンバルモンキーを襲う。
「負け続けの学園襲撃も、五度目ともなれば工夫はして来るか。……だが、コチラも護りたいモノの為に全力で戦うだけだ。今までどおり、小さな勝利を積み重ね、勝ち続ける!」
 椎名・竜兵(手を差し伸べる・b15684)は、次々と襲ってくる茨をシンバルで切り裂くシンバルモンキーに奥義光の槍を放った。
 黒燐奏甲をかけていた鳥山・来雨(クトゥル・b61324) の耳に、サルの小さな悲鳴が届く。
「必殺技を放つとき、こいつはシンバルで滑る。なら、こっちはその滑りができる空間を潰せばいい。訓練の成果、お蔵入りにしてやる!」
 風斗は、シンバルモンキーの目と鼻の先からクレセントファング蹴りだした。
「たぁっ!」
 瑠璃は、ノーブルブラッドで傷を癒す渚の隣から奥義デッドエンドをたたき込む。
 風華も奥義龍顎拳をふるってきていた。
 シンバルモンキーは、くやしそうに顔をゆがめると、シャンシャンシャン、と、連続したシンバル音を鳴らした。
 鳴らされた音は衝撃波となり、能力者たちに切り裂いて、数々の悲鳴があげさせる。
「――ナイトメアの積極攻勢には、あきれを通り越して感心するな。卑怯というよりは、正々堂々、策を練って攻めてきている……ある意味妖狐とは真逆だな」
 舜は、頬に流れる血を気にもとめず、大きなハートを宙に描いてヤドリギの祝福を飛ばした。
 瞬時の状況判断で、もっとも怪我が酷い相手の傷を癒すハートは黒燐奏甲をかけている来雨の元ではじけ飛ぶ。
 相手を捕まえようとする薺の奥義タイマンチェーンと、敵を倒そうとする竜兵の光の槍が、前衛に囲まれたシンバルモンキーへ伸びた。
 風斗と渚のクレセントファングも容赦なくシンバルモンキーに襲いかかる。
 瑠璃は、にぎりしめた武器をシンバルモンキーに突きだした。
 しかし、音が軽かった。
 シンバルとぶつかった獣爪の先端が、金属から跳ね返されてしまったのだ。
 それでも、瑠璃はあきらめていなかった。
 デッドエンドがもたらす代償は十分に知っているため、少しでも攻撃力があがるようにと虎紋覚醒やさまざまな装備で底上げをしている。
「もうすぐ卒業だというのに、大切な学園は、壊させない。例え、威力が弱くとも、その体に傷をつけることはできる……」
 瑠璃は、武器を構え直す。
 シンバルモンキーは、その瑠璃に狙いを定めた。
「知能がある程度あるということなので、気を引き締めて、油断せずに挑まなくてはいけませんね……。これならどうですか!」
 風華の奥義龍尾脚が襲ってきた。
 シンバルモンキーは連続する足蹴りをシンバルで防ごうとするが、全ての蹴りを防ぎきれない。
 それでも、シンバルモンキーは、風華に抵抗しながら、目の前にいる瑠璃へ襲いかかった。
「瑠璃、気をつけろ! 狙われているぞ!」
「ウキー!!」
 瑠璃はシンバルでなぐられた。
 しかし、舜のとっさの声により、シンバルの直撃を免れた瑠璃の傷は思ったより酷くはなかった。
 瑠璃は、舜からヤドリギの祝福を受け、傷の治癒とともに力を抑え込まれていた効果からも解放される。
「全く、次から次へと立て続けに襲って来るなあいつらは。だが、この学舎を守るため、戦えぬ者に被害が及ぶ前にしとめるぞ」
 薺がシンバルモンキーに狙いを定めてタイマンチェーンをのばすと、チェーンが薺とシンバルモンキーを繋いだ。
 とたん、シンバルモンキーはチェーンが煩わしいと暴れ出した。
 竜兵が放つ光の槍をかすめても、チェーンに気を取られている。
 薺は、絶対に逃がさないと、互いを結ぶチェーンをひっぱって、牽制する。
 来雨は、両足をしっかり地につけて、シンバルモンキーをにらみつけた。
「シンバルモンキー……どこかの怖い話みたい。ノスタルジーってのは大事だけど、僕も大好きだけど、だからこそこういうのはよくないと思うんだ……。早期決着のため、最初から全力で放出させてもらうよ!」
「キ……キキーー!!!!」
 呪いの魔眼によって切り裂かれたシンバルモンキーは悲鳴をあげた。
 能力者たちの攻撃は続いた。
 薺のタイマンチェーンに繋がれているシンバルモンキーは、ひたすら怒りを一人に向けている。
「チャリティバザーの物品に忍びこんでいた……。これは、なかなかのものでしたよ。それに、特訓で新たな技を会得することも、普段ならすばらしいことです。しかし、目的が私たち……これは放っておけませんね。さっさと終わらせてみせます!」
 風華は、龍尾脚をふみこみながら、シンバルモンキーに言った。
 シンバルモンキーは、瑠璃や渚、風斗、そしてインパクをたたきこみながらシンバルモンキーの集中攻撃を受けている薺たちが築く柵から出ることはできない。
 攻撃の時も細心の注意を払って、穴をあけないようにしている強固な壁をどうして抜けることができるだろうか。
 舜と来雨は、その間に仲間の傷を癒し、竜兵は間を置くことなく次々と光の槍で攻撃をしている。
「キキーー!!」
 怒りのチェーンが解けたシンバルモンキーは、能力者たち全員に向けた反撃にでた。
 シンバルの音が作り出す衝撃波を飛ばしたのだ。
 しかし、次の瞬間、シンバルモンキーはシンバルを地面に落とした。
 見たことのないシンバルモンキーの動きに、能力者たちは目を見張った。
 嫌な予感が能力者たちの胸に広がる。
「来るよ!」
 来雨の声に、能力者たちは互いに仲間へ警告をうながした。
「特訓技、来るぞ。気を付けろ!」
「必殺技に備えてっ!!」
「構えろ!」
 シンバルモンキーは狭い空間の中で、準備運動をするかのように、シンバルの上に乗せた足を左右に動かしている。
「特訓技、来ます!」
 徐々に足の速さが増し、シンバルモンキーの目つきが鋭くなったとき、シンバルモンキーは渚に向かって体当たりしてきた。
「渚!」
 渚は後ろへ倒れる。
 だが、渚は数歩下がった足で、崩れた体を持ち直した。
 細かな回復と勢いを削がれて威力が薄まった必殺技によって、渚は持ちこたえられたのだ。
「まだまだ、これからです……。今回も今までと同じように撃退し、ティンカーベルを守ってみせます!」
 渚は、武器を構え直した。
 舜と来雨はすぐに渚を癒す。
 薺は前衛の囲いに加わり、インパクトをたたき落とす。
 竜兵は、光の槍を飛ばした。
 風斗はクレセントファングを、瑠璃はデッドエンドを、風華は龍顎拳をふるう。
 必殺技の効果が思ったより効かなかった相手に、シンバルモンキーはシンバルを激しく叩き散らした。
「必殺技もなくなったことだし、おとなしくしてもらう!」
「キーー!!」
「この後にも戦いが控えていますからね、手短に終わっていただきますよっ」
「キーー!!」
「そして、百目鬼を倒す!!」
「キキー!!!!!!!!」
 させない。
 そういわんばかりに、シンバルモンキーは体育館を背にして立ちはだかった。
「……俺にだって譲れないモンがあるんでな。気持ちでも負けないぜ」
 竜兵は想いを乗せて光の槍を飛ばす。
「キキィーーーー!!!!!!!!!」
 次々と襲ってくる能力者たちの攻撃を受けたシンバルモンキーは、断末魔の声をあげて、はじけ飛んだ。
 そして、いなくなった代わりに現れた、おもちゃのシンバルモンキーが地面に音を立てて落ちる。
 シンバルモンキーは真っ二つに割れていた。
「あなたの命運も、ここまでだったわね」
 瑠璃は、静かに壊れたシンバルモンキーを見下ろした。
「昭和の空気は悪いとは思わない。俺たちは平成生まれだけど、懐かしいって感覚は何となくわかるからな」
 わずかにまぶたを下げた舜は、足を前に出した。
「いい加減、自分たちのエゴを無差別に撒き散らしのはやめてもらいに行こうか」
 薺は、まっすぐな目で言った。
「待ってろ。昭和の悪夢は、今日で終わりだ……!」
「百目鬼、ナイトメアビーストたちの後を追わせてあげる」
 拳を手のひらに打ちつける風斗の後ろで、瑠璃はつぶやいた。
 渚は、これからの戦いに向かうため、ノーブルブラッドで体の傷を完治させる。
「行こう!」
 竜兵は歩み出した。
「……覚悟してください」
 風華は長い髪をなびかせる。
 来雨は、心の中で仲間の援護をすると誓った。

 そして、体育館の前に立った能力者たちは、ドアを勢いよく開けた。


マスター:あやる 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/01/24
得票数:楽しい3  カッコいい8 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。