≪銀誓剣術士団SSM≫闘神の宴


<オープニング>


 ──戦士諸君、ようこそ。
 闘神の独鈷杵は、それを所有するに相応しい主を捜し求めている。戦士達よ、戦え。100の戦いが繰り広げられたのち、もっとも勝利した組織の元へ、闘神の独鈷杵は復活するであろう。

 挑戦者達に、幸あれ。

 聞こえてきた声は幾つかの山彦を響かせた後、溶けるように消えていく。唐突に身を包んだ山の空気。木の葉が擦れる音がした。
 修行場らしい。
 樹々に囲まれた広大な格闘場は丁寧にならされ、隅には数々の武器が転がっている。
 ふと砂音が聞こえ、氷川・小雪(白夜の雪・b46013)は顔を上げた。前方に並んだ男達の数は八。ずらりと並んだ男達の中央奥、やや線の細い少年が小雪を真っ直ぐに見返していた。どうやらリーダー格らしい、堂々した様で小雪達を見回した後、少年は傍らの男を見た。
 青蘭、と少年が呼ぶ。青蘭と呼ばれた男は少年──甲英を見た。
「おいおい聞いたかブラザー」
「ああ」
 ゆらゆらと漂い始める覇気。青蘭は右掌を眼前に掲げ、力強く拳を握る。
「日頃の鍛錬のご褒美にマイゴッドが女をプレゼントしてくれたぜ!!」
 初耳である。
「そんな話は聞いてねえよ!」
「倒した女が自分のモノになるんだな!!」
「違うから闘神の独鈷杵だから、闘神の独鈷杵だから」
「心の潤いキタあああ!」
「男だらけの枯れた修行場からはおさらばだあああ!」
「今宵は宴じゃあああ!」
「ヒャッハー!」
「ヒャッハーー!」
「ヒャッハあああ!!」
「うるせええええ!!」
 甲英の絶叫が天高く木霊する。
 一方、銀誓剣術士団SSMの面々。ただならぬテンションの妖狐御一行に思わず首を傾げたとしても無理はない。
「……だそうだハニー」
「柊先輩と一緒なら狙われるどころかボーイズラブとか言われそうですが……」
 ひそひそと言葉を交わしていた柊・草楼(ロックンロールハイブレード・b51831)と栢沼・さとる(メテオリックハイウィザード・b53827)へ、御一行の目が向いた。
 右端の赤衣の少年は紅というらしい。紅は傍らの男へ「ねえ」と囁く。
「白朗。あの子、女子らしいよ」
「ああそのようだな紅。あれだな、今流行という」
 ゆらり、白朗は一歩前へと踏み出した。眼鏡に手を添えつつ、彼は言う。
「あの子は──ボクッ娘だな」
 さとるの一人称は私である。
「おいおいブラザー。狙うならナイスバディなねーちゃんだろう」
「いや狙う相手は戦略的に」
「青蘭はお子様ですね。女子は自分好みに育てるもの……すなわち狙うなら幼女子!」
「おい、ど変態」
「この馬鹿野郎共があ! 王道は清純派女子だ!」
「案外どSっぽいけどな」
「だがそれがいい……」
「馬鹿はてめえだこのやろう!!!」
 がつん。
 甲英の拳が黒衣の男、黒に突き刺さったところで一旦収束。
「お前らの趣味趣向なんざ聞きたかねえんだよ!」
「やべえ、甲英が怒ったぞ」
「落ち着けよ、お前最近血圧高いぞ」
「誰のせいだよ! 大体そんなバラバラに狙いやがったらなあ、勝てるもんも勝てねえんだよ!!」
 もっともである。
 岸田・務(大地に立つ・b55564)が無言のまま頷く。
「なるほど。甲英の言うことも一理ありますね」
 ここで御一行の一人、一紫も頷いた。他にもまともな人が居たんだ、と思ったかはさておき、貴見・一成(闇夢断つ紫瞳の守護者・b77323)の目が彼に向く。
「勝てなければ女子はゲットできない……ここは公平に一番早く動けたヤツのターゲット女子から捕まえていくというのはいかがでしょう」
「あ、本当に一理しか汲んでくれないんだ」
「わかった」
「致し方あるまい」
「うらみっこなしだね」
 全くまともじゃなかった。
 項垂れる甲英に何を言っていいものやら、一成が息を吐く。
 榎・慧(流星を志す者・b62505)は成り行きを唯静かに見ていた。柄に刻まれた文字を指先でなぞり、握り締め、振り降ろす。小気味良い風切りの音が鳴った。
「やれるものならばやってみるがいい」
 慧の黒髪が靡く。
 傍らの冬城・ちか子(疾風旋律駆け巡る空色娘・b76885)もまたこくりと頷き、両の手に握ったナイフを廻した。くるり、一回転して掌に収まる二つのナイフ。
「一成くんはあたしが守るよ」
「「「や、ぬりかべは狙わねえから」」」
 揃った。
 男子はぬりかべ扱いらしい。
 守御・斬人(護天の龍華・b71491)は苦笑とも取れる表情を浮べ、守王御刀を緩やかに振った。
 立ち塞がるのであれば、ただ断つのみ。
 木の葉が振れる。砂が舞う。
 ふわりふわりと揺れた葉が地面に落ちたその瞬間、始まりを告げる足音が一斉に鳴り響いた。

 闘神の独鈷杵──と心の潤い──を賭けた陣。
 勝ち残るのは、どっちだ。

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参加者
氷川・小雪(白夜の雪・b46013)
柊・草楼(ロックンロールハイブレード・b51831)
栢沼・さとる(メテオリックハイウィザード・b53827)
岸田・務(大地に立つ・b55564)
榎・慧(流星を志す者・b62505)
守御・斬人(護天の龍華・b71491)
冬城・ちか子(疾風旋律駆け巡る空色娘・b76885)
貴見・一成(闇夢断つ紫瞳の守護者・b77323)



<リプレイ>

 刀身が流麗な円弧を描いて廻る。榎・慧(流星を志す者・b62505)は熟れた所作で踏み出した。この闘いにはメガリスが掛かっている。自分の身も、在る意味掛かっている。負けられない。
 ──まぁ、相手が尊敬できるほどの腕前であれば、吝かでもないが。
 慧は同じく前に出た柊・草楼(ロックンロールハイブレード・b51831)へ視線を向けた。あの様子では、な。慧の口元が僅かに動く。
「俺のハニーに手ぇ出すやつは──」
 草楼の、サングラス越しの鋭い視線が白朗に向いた。白朗が草楼を見返す。
「馬に蹴られる余地もないほど、木端微塵のロックンロール」
 交錯する二人の視線。白朗へ視線を向けながらも体勢を崩さず鮮やかに駆ける草楼を見返したまま、白朗は眼鏡の端に指を揺れた。
「回転木馬でファンタスティックなら歓迎しよう」
 互いの眼がすぅと細まっていく。
「……悪いなそこの眼鏡男子」
 二人の会話に口を挟んだのは栢沼・さとる(メテオリックハイウィザード・b53827)だった。さとるは言葉を続けるべくゆっくりと口を開く。
「ボクっ娘は去年いっぱいで卒業したんだ……」
 そうかと白朗は頷いた。君はボクッ娘ではなく男子校に一人忍び込んだ男装女子だったのだなと。
「野郎だらけで潤いがない?」
 今度はさとるの指先が眼鏡に触れた。凛とした視線が妖狐一行を見回す。さとるの眼前に浮かぶは魔法陣。蒼が弾けた。
「なら、野郎同士でいちゃいちゃすればいいじゃない!」
「って俺にくんのかよ!」
 魔弾の行き先は甲英である。慌てて飛び退く甲英には眼もくれず白朗と紅は大真面目な顔で頷いた。
「つまり君の旦那と回転木馬でファンタスティックしてこいということか」
「深いね」
「ああ」
 何かを履き違えているようだ。
「それにしても誰だ、ちか子を幼女子呼ばわりしたのは!」
「ほんとだよ! あたし14歳だから、幼女じゃないからっ」
「こう見えても見かけによらず……」
「一成くん?」
「あ、いや、何でもない。──幻影兵たちよ、仲間に力を!」
 一方、冬城・ちか子(疾風旋律駆け巡る空色娘・b76885)を含め、前方へ駆け出した仲間達に、少々顔を赤らめた貴見・一成(闇夢断つ紫瞳の守護者・b77323)の幻影が宿っていく。幻影の力を借りたちか子の足が甲英を狙い、三日月の軌跡を描いた。
「ごめんね……なんかかわいそうだから先に散って……」
「……これ以上見てるのは辛いんだ」
「どういう意味だよ!」
 重く伸し掛かる衝撃と、ちか子と一成の言葉。言葉を返す甲英の眉が寄る。
 ──これが闘神の独鈷杵の力か。
 闘争を喚起させる恐ろしい力だと岸田・務(大地に立つ・b55564)は思う。だが望むのならば見せてやろう。俺の、俺達の闘い方を。
「俺が、俺たちが」
 以下略。
 甲英に加え他の者共も捉えられるよう位置取った守御・斬人(護天の龍華・b71491)は引き継がれし宝刀を構えた。戦陣に慢心は不要。撃ち放ったライトニングヴァイパーが真直の閃を描く。
 ところで。
 氷川・小雪(白夜の雪・b46013)は透き通った青眼で周囲を見回した。
「先程わたくしをどSっぽいと言った方はどなたでしょうか?」
 一寸、間。
「甲英だな」
「甲英だ」
「甲英」
「俺え?!」
 そして敏感に何かを感じ取った甲英以外の者共の判断は速かった。全てを甲英に押し付けて青龍と白虎達は走り去る。
「いや俺じゃな……」
「あ、別に名乗り出なくても結構ですよ」
 かぶりを振りかけた甲英へ小雪は微笑んだ。小雪の身を守る様に雪が覆っていく。ふと瞬けば小雪は甲英の前に立っていた。否、正しくは小雪の幻影が。
「──全員倒せば良いだけですので」
 ぞっと背筋に悪寒が走ったのは凍てつくような吐息のせいか、それとも。兎にも角にも甲英を覆わんと魔氷は広がる。
「ありゃどSじゃねえな。超ど級S」
「だがそれがいい……」
「俺はナイスバディーなねーちゃんがいいけどな」
 言い合った後、黒と青蘭は視線を感じて顔を上げた。向けられていたのは務の冷ややかな視線。後に彼が浮べたのは勝ち誇ったような僅かな笑みだった。その眼は暗に語る、お前に女はいないのかと。
「俺にはいるぞ。背中を任せられる女性がな」
 務が掲げるは卓袱台。
「へえ。じゃあ俺はその女を今から作んぜ」
 青蘭は務の傍らを擦り抜けて笑んだ。青蘭の視線の先は勿論慧。やれやれと言わんばかりに肩を竦め、慧は双剣ドゥースで一撃を受けた。繊細な刀身を衝撃が奔る。けれど力任せに負ける程慧は易くない。
「手向けは後でくれてやる」
 今の狙いは甲英だ。慧は青蘭を真っ直ぐに見据え、そして言う。
「最後まで立っていられれば……」
 慧の言葉はそこで途切れた。青蘭が瞠目する。
 その直後、慧の周囲に幻惑的な炎が揺れた。幻楼火。甲英が放つそれは既に草楼を捉えていた。加えて慧を捉え、また守るべく傍らに立っていたちか子と務も捉えゆく。
「コントにしか見えんが油断は禁物だな」
「青蘭! 鼠と白朗が寝てるぞ!」
「叩き起こせ!」
「──どう見てもコントだが」
 斬人は言う。繰り返す、油断は禁物である。
 一成の悪夢爆弾に呑まれゆく馬鹿共はさておき流石のリーダー。一行の中で一番の手練は甲英なのだろう。斬人は再び守王御刀を構えた。斬人から放たれた電撃が一直線に甲英へ向かい駆け抜ける。
 一番の手練は甲英、故に甲英が倒せれば格段に楽になる。
 小雪の凍った吐息が甲英を覆い、さとるの魔弾が甲英を撃ち抜いた。自身も甲英を切り落とすべく慧は幻炎を断ち切り立ち上がる。幻影の恩恵は消えていることを知り、慧がゆるりとかぶりを振った。
「皆、すまない」
 短く告げ、甲英へと駆ける慧。甲英を切り伏せるには近付くしか術がないのだ。
 慧を守る立ち位置を維持してきた務とちか子も麻痺となれば見送るより他ない。吹き飛ばさんと地を揺らす白虎勢の振動を務は造作もなく受け流した。
 受けたのは卓袱台だった。
 シールド効果もあって万全な卓袱台だった。
「追うぞブラザあああ!」
「畜生何であいつ速えんだ!」
「むっ何だ移動か?」
「あ、起きた」
 青龍達はといえば目的を追って盛大に駆け出していく。丁度黒影を帯びた慧の双剣が甲英の肩口を切り裂くのと同じ時だ。甲英の肩に赤が散る。一方で、青龍達の連撃を受けて片膝を付いた慧の名を呼ぶ仲間達の声がした。
「っしゃああと少し!」
「あと少しじゃねえバカかこっちくんな阿呆!」
 叫んだ甲英の視線の先は彼らの頭上。そこには強大な隕石が浮いていた。さとるの眼鏡の端がキラリ、光る。
 直後に響く爆発音。轟と唸りを上げる魔炎。消えぬ炎に焼かれ青龍達が絶叫した。一網打尽とはこのことである。
 馬鹿野郎と言いながら陣を敷く甲英にああと項垂れるちか子。やっぱり可哀想だった。
 なんという馬鹿共。
 慧が深く息を吐き出したその刹那、不意に気配を感じて慧は瞬く。咄嗟に構えた繊細な刀身の向こうに見えたのは青蘭の不敵な笑みだった。
「綺麗な髪だ。もう少し眺めてえ気はするけどな」
 青蘭が足を振る。躱せない。覚悟を決めた慧の身体に衝撃が奔った。骨が軋む。声にならない音が零れる。
 ──お前に最後まで立っていられる技量があればな。
 慧の姿が消えていく。最後まで気高くあるままに。
「──『吼龍』」
 よしと拳を握った青蘭の鳩尾を雷撃が抉ったのはその直後。雷撃は駆け抜け紅と甲英をも抉る。ぎりと歯を鳴らした青蘭を雷撃の主、斬人は冷然にも見える表情で見返した。
 一成が視線を伏せ、両に構えたナイフを握る。掌のナイフから溢れ出す守りの幻夢。幻は仲間達の身を守るべく纏わりつく。この次の狙いは、きっと。
「次は幼女子だね」
「誰が幼女子だよ後ろに彼氏がいるもんっ!」
 紅を鋭く見返した後、ちか子は飛んだ。ちか子もまた麻痺と共に幻影の恩恵が消えている。ちか子は甲英の懐に飛び込むと、勢い良くその足を右肩へと叩き落とした。確かな手応えがあった。甲英が眼を見開く。
「来るぞ」
 草楼が短く告げた言葉はちか子への言葉。甲英を見据えながら周囲にも気を巡らせていた草楼は、ちか子へ警告を伝えそのまま甲英の傍らに立つ。
「視野を広く持つのとか、超先輩っぽい。ハニー惚れ直してくれるといいな」
「知らねえよ……!」
 甲英が身を捩るより速く草楼の絶剣・黒覇が剣閃を描いた。甲英の胸元を黒刀が貫く。ゆっくり眼を閉じ、目の前で消え往く甲英に草楼は口端を緩めた。
「俺の剣が届く範囲にいるのが悪いんだぜ」
 え、俺から近づいてきた?
 ──そんな昔の事はどうでもいい。
 務の卓袱台を震脚の振動が伝う。卓袱台を掲げ、足を踏み締め、卓袱台の向こうから務は鼠と黄金を見返した。どちらを狙うなどはない。務は卓袱台を振り上げた。務の戦法はただ前に立つものを叩き潰すだけだ、卓袱台で。
「ぬあにがヒャッハーだよおバカ!」
「バカはもっと色気を持って」
「うるさああい!」
 青龍勢の連撃にさしものちか子も眉を寄せた。小雪が治癒符を飛ばすも足りない。がくりと膝を付きかけたちか子は、けれどその時傍らを駆抜けたものに瞠目した。
 ──ナイトメア。
「俺の彼女に手を出すな!」
 一成が奔らせたナイトメアが紅――と青蘭――の顎元に激突した。くぅと顎を押さえて唸る紅を一成は至極冷淡に見返す。
「まあ頑張りがいがあるってことで」
「はあ?!」
 実にしぶとく紅が、回復を求めて草楼の元へ歩み寄ろうとしたちか子の前に立った。紅の拳がちか子の鳩尾を抉る。奥歯を噛み締め、ちか子は振り絞るような声で告げた。
「……馬に蹴られていっちゃえーいっ」
 瞬間、ちか子の姿が消える。
「ひゃはああ! 二人目ゲットォ!」
 青蘭が双手を挙げたが、けれど目の前には白き雪女の姿。こちらとてやられてばかりではないのだと小雪は笑む。
 青蘭様もさようなら。
 ふっと一息。みるみる内に広がった魔氷に包まれ青蘭も消えていく。
「吐息はかけられたいな」
「そうか、黒の趣味は流石だ」
 黒と白朗が眼を見交した。
 ともあれ次はあの清純派女子、小雪の予定である。小雪の元へと飛び込もうとした紅はふとそこで足を止めた。
「ま、急くな。もう少し遊んで行け」
 彼らの前に斬人が立っていた。ぬりかべと呼ばれるならばぬりかべとして大いに邪魔してやるまで。瞬く間もない、斬人の剣は紅の右腕を貫いた。
 続け様にさとるの隕石が再び彼らの頭上へ爆ぜる。そして止めと一成のナイトメアが紅の紅衣を貫いた。務──の卓袱台はひたすら白虎を叩いている。
 紅が最後に放った龍撃砲は幾人かを巻き込んだ。黒と白朗はさらばと小声で呟き小雪の元へと駆けていく。
 小雪の幻影は黒の前に現れた。黒を前に小雪はすぅと青眼を細める。
「……別に怒っているわけでは無いのです。誤解されてしまうのは我が身の不徳の致すところ。別にどS呼ばわりした方を否定しなかったとか、そんなこと気にしてないですから、ですが随分興奮しているみたいですし少しだけ、ええ少しだけ頭を冷やして差し上げようかと」
「要約すると怒っているな」
「だがそれが」
 黒の台詞は小雪の吐息にかき消された。南無。さとるの隕石が勢い良く破裂したのを最後に黒の姿も消えていく。
「──あとは宜しくお願いしますね」
 静かにそう言った小雪が消え往くその後ろには白朗の姿。
 消えゆく小雪にさとるはかぶりを振って、ついにやってきたこの時には笑みを浮かべた。この時、そう、攻撃対象が白朗になるこの瞬間がついにきたのだ。
「眼鏡男子、覚悟! むしろ私のモノにしてくれるわァ!」
 眼鏡男子はうっかりさとるの大好物だった。お持ち帰りは駄目ですよ、と小雪の言葉が聞こえるようである。
 そして今まで一紫と戦ってきた草楼は標的を白朗に変えた。大切なハニーが何やら創作意欲がかき立てられているのだ。可能な範囲とはいえ協力せずして何をするのか。
「そう、俺は柊・草楼。愛に生きるソルジャー」
 草楼の剣が白朗を一直線に切り裂いていく。
 そうかと白朗は言った。鮮血に塗れながらこれが愛の形というものなのだなと。
 生憎ツッコミは不在である。
「ならば二人とも丸ごと受け入れてやろうではないか」
 要約するとお前も俺が倒すという意味なのだろう、きっと。白朗の根性の拳がさとるを叩き伏せた。鈍い音が響き、さとるが瞠目する。ふらりと身を揺らしたさとるの視界に、最後に映ったのは白虎勢の姿だった。
「柊先輩をぬりかべ呼ばわりとは見る目がないな……、こんなにも美人さんなのに! お前ら全然わかってない!」
 それがさとるの最後の言葉だった。
 ハニー。消えるさとるを視界の端に収めながら草楼の剣が白朗を貫く。
「──名も彼女も無き雑魚には、俺の剣はちぃと痛いぜ?」
 草楼は言った。残りは白虎勢の三名のみ。雑魚扱いですかと一紫が冷淡な声で言葉を返す。
「雑魚かどうかは戦ってみればわかること」
「そうか」
 務はゆらりと背筋を伸ばし、一紫を含む白虎勢を見回した。務の手に抱かれたのは卓袱台だ。先ほどから大活躍の卓袱台だ。
「俺が集めた49の卓袱台の内の選りすぐりの一品だ。そう簡単に抜けると思うなよ」
 どうなろうと務はただ目の前の的を叩き潰すまでなのだ。卓袱台で。
 一成の手元で生み出された悪夢の塊は白虎勢の間で爆ぜた。幾度となく眠りへ誘ってきた暗黒は再び鼠を眠りの世界へと突き落とす。
「ぬりかべにやられる気分はどうかな?」
 そして、暗殺。
 一成が奔らせたナイトメアは一直線の軌跡に残る者共を鮮やかに蹴散らした。
 斬人はするりと守王御刀を振る。緩やかな円弧を描き、刀は斬人の眼前で止まる。飾り気のない直刃が艶めいた。
 ──龍華双天流、焼き付けるが良い。
 斬人が鮮やかな手並みで斬撃を繰り出す。
 白虎勢がとんと触れれば激しい衝撃が奔った。負けじと一成がナイトメアを奔らせ、草楼の黒影が薙ぎ、斬人の剣が切り裂き、務の卓袱台が叩く。
 数十秒の短い、けれど激しい攻防の末のこと。しんと静まり返った修行場に斬人は立っていた。淡々とした所作で周囲を見回し、斬人は呟く。
「最後に立っていた者のチームが勝利だったな」
 言葉を闘神に届けようとするかのように一陣の風が斬人の頬を撫でていく。
「俺達の勝ちだ」

 ──勝者、銀誓剣術士団SSM。

 ちなみにリア充爆発しろと言われんばかりな感じでちか子が一成にぴたりと引っ付いたり、務が精進せねばと卓袱台をきゅっきゅと磨いたり、勝者だった斬人が更に磨かなければと呟いたり、慧が彼らを思い出して若干気を滅入らせたり、さとると草楼は相変わらずだったり、小雪が疲れつつも心から甲英へ謝罪が出来る日がくることを祈ったりするのは、彼らが日常に戻った後の話である。


マスター:小藤ミワ 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/02/06
得票数:楽しい19  笑える4 
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