子牛と毒を持つ成牛


<オープニング>


 雪面に伸びた長い一本道をたどった先に、悲劇はあった。
 拓けた地で子牛に体当たりされて倒れた男は、成牛に体をなめられていたのだ。
 ねばついた唾液が体にしみこんだ男は苦しみだし、口から泡をこぼす。
 子牛と成牛は、まるでワニのような鋭い歯をのぞかせながら、不気味に笑んだ。


「お待ちしておりました」
 神奈・瑞香(中学生運命予報士・bn0246)は、集まった能力者たちにおじぎをした。
「ある山に妖獣が現れました。このままにしておけば、いずれ犠牲者がでてしまいます。皆さんにはそんなことが起きてしまう前に妖獣を倒してほしいのです」
 そういう瑞香は、視たできごとを元に話し出した。

「妖獣は、山の中にある拓けた場所にいる二匹の牛です。
 外見には、ただの子牛と成牛にしか見えませんが、一度口を開けば、まるでワニのような鋭い歯をむけてくるため注意が必要です。
 しかも、子牛は成牛を守るように突撃したり、成牛は毒をもった唾液を塗りつけたり、足を強く地面にたたきつけて二十メートルに渡る振動を広げたりする攻撃をしてきます。
 くれぐれも、ただの牛だとあなどらないでください」
 そう話した瑞香は、そして……と、言葉を続ける。
「妖獣のいる場所ですが……残念ながら、はっきりとした位置を知ることはできませんでした。
 しかし、雪が積もっている山の中に伸びる長い一本道をたどれば、妖獣のいる拓けた場所へ行くことできます。
 ですから、皆さんはクロスカントリーをしながら、山の中にある一本道を探してください。
 拓けた場所以外は雪が多いので、歩くのがとても困難です。その点、クロスカントリーでしたら身動きがとれるため、自由に動きまれるはずです」
 山中に、能力者以外の人はいないことも告げた瑞香は、能力者たちへ顔を向けた。

「皆さん、どうかお気をつけて。帰りをお待ちしております」

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参加者
水無月・遥(高校生マンゴーさんの花嫁・b09587)
御厨・和沙(真角っ子ナース・b23529)
菰野・蒼十郎(小者で弱くてヘタレな三拍子・b30005)
伊藤・洋角(百貨全用・b31191)
レイリア・ヴァナディース(戦場のヴァルキュリア・b37129)
犬山・ホエル(妖獣使いの牙道忍者・b42890)
松仲・鉄太(小学生巡礼士・b53106)
裏方・黒衣(藍と白のアルケー・b57463)



<リプレイ>


 八人の能力者は、一本道の側に集まっていた。
 それぞれがクロスカントリーの板をはいて、雪の上に立っている。
「レイリアさんの無線機のおかげで、早く一本道を見つけることができましたね」
 スキーにふさわしいかっこうの伊藤・洋角(百貨全用・b31191)は、借りていた無線機を返しながら言った。
「道を探すためとはいえ、何の連絡の手段も持たずに散らばるのは危険だからな。役に立ってなによりだ」
「うん、すっごい役に立ったよ! 連絡もスムーズだし……無線機っておもしろいね!」
 無線機のスイッチを入れたり切ったりして遊んでいた松仲・鉄太(小学生巡礼士・b53106)はにこやかに笑う。
「あまりいじっていると、壊れてしまうよ」
「わっ、それはやばい! レイリアさん、これ、返すね」
 鉄太は、犬山・ホエル(妖獣使いの牙道忍者・b42890)に指さされた無線機を慌ててレイリア・ヴァナディース(戦場のヴァルキュリア・b37129)に返した。
 全員分が集まった無線機を、レイリアは鞄へしまい込む。
「じゃあ、出発だね。海東くん、はい、頭の上に乗って」
「もきゅー」
 御厨・和沙(真角っ子ナース・b23529)の使役ゴースト、真モーラットヒーローは、主が示す頭の上にちょこんと乗った。
 裏方・黒衣(藍と白のアルケー・b57463) の使役ゴースト、真モーラットヒーローも、主の肩に乗ろうと飛び跳ねたが、黒衣は手でガードをしてしまった。
「もっちー君、肩に乗るズルはダメなのですよ」
「もきゅ?」
「後ろからついてくるのですよ」
「もきゅ……もきゅぅぅ……」
「かわいそー。もっちーくん、泣いているよ」
 黒衣は、和沙に頭をなでられている使役ゴーストを、ちらりと見た。
 真モーラットヒーローは、うるんだ目で黒衣を見ている。しかし、ずっとそっぽを向いている主にショックをうけたのが、途中でがっくりとうなだれてしまった。
 和沙の真モーラットヒーローは、元気を出せと言わんばかりに、黒衣の真モーラットヒーローに声をかけている。
 黒衣は、使役ゴーストへ振り返り、自分の肩を叩いた。
「ちょっとの間だけなのですよ」
「もきゅ、もきゅ!!」
 喜びに満ちあふれた真モーラットヒーローは、黒衣の肩に飛び跳ね、やわらかな体をすりよせた。
「マンゴーさん、スキーはけませんから、浮いたままで、よろしいですか?」
 真モーラットヒーローより、はるかに大きな体をしている水無月・遥(高校生マンゴーさんの花嫁・b09587)の使役ゴースト、真シャーマンズゴースト・シャドウは、主の言葉にうなずき、主に寄り添った。
 主と使役ゴーストの絆を見せつけられた鉄太は、目をぱちくりさせる。
「しっかし、こうしてみるとすごいねー。ホエルさんにも、使役がいるんだよね? 使役さんたちもいっぱいで、人数多くて、なんか楽しいねえ」
「そういってもらえるとすごく嬉しいのです。ね、和沙さん」
「ね、黒衣ちゃん」
 二人は笑顔で向かい合う。
 洋角は、地図や方位磁石を見ているレイリアにたずねた。
「レイリアさん、どうですか? 地図で何かわかりました?」
「ああ、わずかだが、この辺りの斜度が緩やかになっているようだ。一本道の向きを考えても、妖獣のいる拓けた場所はそう遠くないだろう。この等高線の配置からすると、向こうが怪しいか? 麓で何か情報が得られれば、確信できたのだが……一本道を知らないといわれればしかたがない」
「レイリアはんが、そう思うんなら大丈夫やろ。さ〜て、ここから気を抜かんよう、気いつけなぁな。スキーはやった事あるけど、初めてのクロスカントリーや。いくら慣れたというても、油断はあかん、あかん」
 菰野・蒼十郎(小者で弱くてヘタレな三拍子・b30005)は、あげていたゴーグルをかけ直した。
 いよいよ、正念場だ。
「じゃあ、一番後ろは僕がいくね! 山で、よくスキーで遊んだし、超得意! 何があっても、すぐに追いつくよ」
 スキーウェアの鉄太は、風をきりながら後ろに回る。
「ホエルさん、また一緒でいい?」
 和沙は、使役ゴーストと一緒に顔をかたむけながらホエルにたずねた。
 ホエルは少し考えてから答えだす。
「それは構わないが、もう和沙くん一人で大丈夫だろう。飲み込みが早いから、教えることは何もない。とてもクロスカントリーが始めてとは思えないよ」(ホエル
「それは、ホエルさんの教え方が上手だからだよ。でも、まだまだ不安だからお願いしたいな」
「わかった。和沙くんの後ろについていこう」
「準備はええかー?」
 蒼十郎は、ストックをまわしながら仲間に声をかけた。
 全員、歩き出す準備は整っている。
「うん、よさそうやな。そんなら、道を消さんよう、横をすべっていこか」


 能力者たちは、ひたすら一本道をつたって歩いた。
 スケートの要領ですいすいと滑っていく蒼十郎。
 仲間が遅れていないか、時々後ろを見る黒衣。
 ホエルに見守られている和沙は、よいしょ、よいしょっと。と、いわんばかりにストックを前にだし、遥はクロスカントリーに慣れているホエル、洋角、鉄太、黒衣、蒼十郎に遅れを取らないよう、懸命にスキー板を滑らせている。
 そんな二人を守るかのようにレイリアは、周囲を注意深く見ながら、妖獣の存在を伺っていた。
 奇襲を受けないためにも、鉄太も一緒になって辺りに目を配らせている。
 しばらくして洋角が最終地点を見つけた。
 洋角は、仲間に声をかけながら、確実に進んでいく。
 ぽっかりと空いた穴のように木々のない場所は見晴らしがよく、歩けないほどに積もっているはずの雪は、どこかへさらわれて足首ほどの高さしかなかった。
 レイリアと蒼十郎は、黙ったままスキー板に指をさして、金具を足からはずすしぐさをした。
 成牛と子牛の妖獣が気づく前に、足を自由にさせておこうというのだ。
 使役ゴーストたちは、声をださないという意思表示か、口に手を当てている。
 しかし、妖獣は、それほどのんびりとしていなかった。
 拓けた場所へ入ってきた能力者たちを見るなり、成牛の妖獣が声をあげたのだ。
 続いて、子牛も声を出す。
「来るぞ!」
 二匹の妖獣は、雪煙を起こしながら突進してきた。
 手早く足をスキー板からはずした能力者たちは、イグニッションを唱えて武器を手にした。


「もっちー君、成牛を抑えとしてがんばってくださいね! 元気づけのドリンクなのです!」
「海東くん! ぱちぱちっとがんばってきてね!」
 二匹の真モーラットヒーローが成牛に向かって走り出した。
 黒衣の真モーラットヒーローは、主からもらったギンギンカイザーXを飲み、和沙の真モーラットヒーローは、主と「死がふたりを分かつまで」で結ばれている。
「マンゴーさん。成牛の抑え、入ってください。先頭に立って。お願いしますね」
 主からのゴーストアーマーによって深紅のオーラのような、よろいをまとった遥の真シャーマンズゴースト・シャドウは、ふわりとういて成牛の前に立ちはだかった。
 印を結びながら森羅呼吸法をかけるホエルも、イグニッションによって新たに姿を現した使役ゴースト、モーラットヒーローを成牛にむかわせた。
「天地に充る森羅の力、借り受ける! ――シロ、まかせた!」
「もきゅ!」
 モーラットヒーローは、勇ましい額のV字で成牛を斬りつける。
 四匹の使役ゴーストに成牛をまかせた能力者たちは、攻撃の矛先を子牛へ向けた。
 蒼十郎はスピードスケッチで闘牛を描き、レイリアは奥義フロストファングをふりおとして、洋角は奥義呪いの魔眼でにらみつける。
 鉄太は、成牛へ向かおうとする子牛の前に立って行く先を封じた。
 子牛は、自分をはさみこむホエルとレイリア、鉄太を見回した。
 今にも、刃を向けてくる能力者たちを前に、子牛は強行突破を試みる。
「攻撃する相手は、こっちなのですよ!」
「かわいない牛は売られへんでエエで大人しゅうしいや〜」
 黒衣と蒼十郎のスピードスケッチが子牛に襲いかかってきた。
 そして、子牛を切り裂く二匹の牛の絵を追うように、和沙の穢れの弾丸が真横から飛んでくる。
「一気にダメージをあたえるよー!」
「人狼騎士の戦い方が、剣だけと思わぬことだ!」
 高く飛び跳ねたレイリアは、子牛に奥義龍尾脚を踏み込んだ。
 最後の一蹴りで子牛の体をぐらつかせたレイリアが声をあげる。
「今だ!」
「行きます」
 遥の穢れの弾丸が、レイリアの攻撃から間をおかずに放たれた。
 漆黒の弾丸が、妖獣を直撃する。
「お互いをかばいあう、仲睦まじいその姿は親子、なのだろうな。一体いかなる悲劇がお前らを生みだしたのか……。……いや、最早問うても詮無なきことか。その痛みから、その呪縛から今、開放しよう。還れ! 銀の雨に!」
 ホエルの奥義牙道砲が飛ぶ。
「使役の四匹ががんばっているのです。ここで倒れていただきますよ。こんな雪の中に牛がいるというのもおかしいですからね……」
 洋角の呪いの魔眼に、子牛は勢いを弱めた。
 だが、顔を上げて成牛を見た子牛は、かける足に力をこめた。
 使役をなめて毒を与えていた成牛は、鼻息をあらくして、力強い一蹴りを地面にたたきつけた。
 と、同時に能力者と使役ゴーストたちの体に激しい痛みが起きた。
 子牛は、鉄太へ体当たりをする。
「――くっ! 後ろのセンパイのとこにも、前の使役さんズにも通さないよ!」
 全身で子牛を受け止めた鉄太は、幻影兵団をかけた。
 仲間全員の側に、霧のような幻影が現れる。
 蒼十郎は、ギンギンカイザーXで使役ゴーストの傷を癒す黒衣に続いて、封神十絶陣を作り上げた。
 ほんの一瞬で起きた出来事に、仲間たちの傷は癒え、妖獣たちは苦痛の声を荒げる。
「無理も油断も禁物やで〜」
 蒼十郎は、生やしたキツネの耳を自慢に動かす。
 数々の能力者たちの攻撃で子牛が消滅すると、彼らは自分たちを信じている使役ゴーストたちの元へと駆けつけた。
 使役ゴーストは、能力者たちから回復の援護を受けながらも傷だらけだった。
 足を踏み込んで地面をたたきつけた成牛は、毒を持つ唾液をワニのような鋭い歯からこぼしながらさらなる攻撃をしかけてきた。
 自分の使役ゴーストと手を取り合った和沙と遥の目が成牛に向く。
「海東くん、ボクたちナイスパートナーだよね。だから、行こう!」
「マンゴーさん、マンゴーさん。今度は、マンゴーさんたちとも一緒です」
 和沙と遥が、使役ゴーストとともに成牛へ刃を向けた。
「シロ、頼む」
 とっさの構えで成牛の振動をやわらげていたホエルは、モーラットヒーローに花火をとばさせる。
 レイリアはフロストファングで成牛を凍てつかせた。
 武器をかまえて振動を回避した洋角は、黒燐奏甲で傷を癒していく。
「回復いきます、がんばりましょう!」
「ありがとう!」
 洋角にお礼をいった鉄太は妖獣に氷の吐息をふきかける。
 黒衣と蒼十郎のスピードスケッチがかける中、成牛は毒の唾液、足の振動で能力者たちに攻撃を加えていった。


「ねぇ、海東くん、あの大きなウシの角より、ボクの角のほうがかっこよかったよね」
 妖獣が消えて一息ついた和沙は、真モーラットヒーローを抱えながら、頭についている角をすりよせた。
 使役ゴーストは、「もきゅもきゅ」といいながらうなずいている。
「さて、妖獣を倒したことですし、久しぶりのスキーが楽しかったので中腹辺りまで競争するのもありですかね?」
「やろやろ! 競争ってことは、猛ダッシュしていいんだよね。うわー!! 思いっきりスピード出しちゃおう!」
 仲間をねぎらった洋角がにこやかにいうと、雪を投げて遊んでいた鉄太が喜びの声をあげた。
 来るときは、仲間と一緒に動くことが前提だったので、思う存分楽しむことができなかったのだ。
 モーラットヒーローの頭をなでていたホエルは、心配そうな顔をしている遥と和沙を見てから、ある提案をした。
「まだクロスカントリーに慣れていない人もいるから、ハイキング組でもつくってもどうだろうか? ハイキング組は、競争組の滑った跡を歩いていき、中腹で合流する形になるだろうが」
「ええと思うで? ゆっくり遊びながら滑るのもありやし、それは個人の自由ってことで、俺は、競争に参加するで。雪降ってへんし視界良好やし、勢い乗って気持ちよぅ滑れるわ〜」
 スキー板をはいた蒼十郎は、スピードに乗って仲間の周りを滑りながら言った。
 レイリアは、無線機を一人ひとりに渡した。
「はぐれないと思うが、念のために、持って行くといい」
「これで安心ですね」
 黒衣は、にっこりと笑う。
 遥は遥の真シャーマンズゴースト・シャドウの横に立った。
「マンゴーさん、ウィンタースポーツ、楽しみましょう。マンゴーさんと一緒のスキー。楽しみです」
「スタート!」
 妖獣を倒した能力者たちは、晴れ晴れとした心で雪山を下り始めた。


マスター:あやる 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/02/06
得票数:楽しい8  カッコいい1  ハートフル1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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