<リプレイ>
●喧嘩に理由なんかねぇ! ――ぱぴょ〜。 陽が傾き、やがて沈んでいこうと言うてろてろの時間帯。流れるのはハーモニカの音色。 河川敷には心地よい風が草を揺らし、緩やかな水の流れには時折小魚がその背を光らせる。 のどかなそんな景色の中にあって、剣呑な雰囲気を漂わせる若者の一団があった。 「オマンら……覚悟しぃやぁ」 紅蓮・かいな(ゴーストパニッシャー・b50605)は吹いていたハーモニカを懐にしまうと、ドスを効かせた声で言い放つ。 「いいねぇ。気兼ねなく思う存分殴り合える! やっぱ喧嘩は派手で華やかでなきゃねぇ」 加茂建角身・まつり(一身三柱八剛・b60052)は拳を一発打ち鳴らして、愉快でしょうがないと言った様子。 「さぁさぁさぁッ! はじめようじゃないのさ。御託は要らぬ、作法は要らぬ。あんた達とあたし、誰が一番ガッツがあんのかくらべっこさァ!」 根っからの喧嘩好きである彼女は、威勢良く喧嘩を売り始める。さながら喧嘩の啖呵売と言った所か。 「私が売ったッ! あなたが買ったッ! だから殴り合おう。青天食らうその瞬間まで!」 同様に、威勢良く喧嘩を売るのは望月・三樹(中学生真土蜘蛛の巫女・b22354)。 学帽を被り、大きくはだけた学ランの下にはさらしを巻いており、そのオールド番長スタイルから気合が窺える。 「私がぶった! 貴方が善がった! だから撲りあおーん! ところてん食らうその時まで!」 さて、びしっと決めた彼女の横で、それをマネるのはカムヴェレッタ・ベルリオーズ(この子アホの子・b71443)。 中途半端に意味が通じるような通じないような、そんな片言加減が何とも言えない。 「喧嘩しまくりか……思う存分だね? 面白そうじゃねえか。一度やってみたいと思っていたぜ……さあ、殴りまくるぜ!!」 育ちの良さが垣間見える普段の真神・瑞貴(氷の貴公子・b45562)からは、想像もつかない荒々しい口調。冷徹な戦闘モードとも異なる、熱い闘志がその身を包んでいる。 「ガチゴロで芽生える友情! いいねいいね! 友情とかいいつつ普段いえないことを遠慮無く言う感じですね。オーケイわかった!!」 この夢の趣旨を最も理解しているのか、曲解しているのか。カイト・クレイドル(高校生人狼騎士・b37048)はやや邪な満面の笑み。 とは言え、無礼講は無礼講。こうした機会に思うところを拳と共にぶつけ合うのも一興だろう。 「夢の中ではありますが、空に輝くお天道様に誓って正々堂々殴りあうとしましょうかねぃ」 普段は一方的に殴られる事の多いラプラス・ノマ(の半分はやらしさでできてます・b53414)も、今回ばかりは勢いよく腕を回転。 やられ役だとか突っ込み役だとか、年上だとか年下だとか、男だとか女だとか、そんなお約束も関係なしだ……多分。
●殴り合え! 「おい! ユウヘイ!! まずはこのキャンキャンうるさいクソガキ川にぶち込もうぜ!!」 「お前は鬼か! 変態か! カムは十分淑女だろ、そして我らは紳士!」 バトルロイヤルの筈が、いきなり共闘を持ちかけるカイト。紳士である花屋敷・幽兵(軸のブレは波動・b32720)は当然それを撥ね付け…… 「「せーのっ」」 なかった。結局2人は、小柄なカムを2人がかりで持ち上げる。 「カムの伝説は今から始まった! ヘッ、とっつぁん。カム、この右で世界獲るぜ……! ます」 そんな絶対絶命の状況にも関わらず、カムヴェレッタ本人はと言えば、頻りにシャドーボクシングを続けている。立つんだカム、立ってくれと応援したくなる。 「「せっ!」」 同時にカイトと幽兵の手が離れ、宙に舞うカムヴェレッタ。 「これが、俺の、俺たちの! デンプシーロールだああああ! ます」 ――バシャッ、バシャッ! だが、高速回転した彼女は水切りの要領で水面を跳ねているではないか。 「「まっくのうち!?」」 そのまま、対岸まで辿り着いてしまった。 「カムも石と同じでひらべったいからなぁ」 うんうんと頷くかいなだが、カムヴェレッタは勢い良く対岸から帰ってくる。 「あ、カムお帰りー……」「カムカァム!」 ――どごっ! 「ごふ、ナイスタックル。だめだ……なんだかヤロウ共をぶんなぐってる方が楽そうな気がしてきた……」 カムの突進に軽くよろめきながら、かいなは真理に辿り着いた様子。 「ちっ、水もしたたるいい女にしてやろうと思ったのに――」「チェェストォォォォォ!!」 ――どごぉっ!! 一方悔しげに舌打ちしたカイトの顎には、三樹のアッパーカットが炸裂。そのまま川の中まで吹っ飛ぶ。まさに人を呪わば穴二つだ。 「早速始まってるな……」 「はん、見てるだけかい瑞貴。お勉強なら後にしな。そのタッパが飾りじゃないって証明してみせな!」 「へっ……喧嘩は買うぜ!」 重心を落としたまつりは、瑞貴目掛け頭突きを繰り出す。 ――ごっ! 「つっ……逞しい戦姫には手加減は似合わないよな? おらおら!!」 鈍い音が響くが、瑞貴も簡単には倒れない。すぐさま鋭く脚払い。くんずほぐれつ取っ組み合いの格闘戦が始まる。 「カムヴェレッタさん。まず、一発思いっきりどうぞ」 さて、一方では三樹とカムヴェレッタが対峙。 三樹は仁王立ちして、カムヴェレッタの拳を己が身で受け止めんとする。 「では遠慮なく。ホワチャア!」 「ひゃうっ?!」 高い声を上げて、ビクンと飛び上がる三樹。 無理も無い、左右の脇腹――それもさらし一枚巻いただけ――を、カムヴェレッタの人差し指が突っついたのだから。 「ううっ……一発は一発です!」 ――べちんっ。 「てへっ」 少し顔を紅くしつつ、三樹はカムヴェレッタの額にお返しの一撃。 「……良いですねぃ」 「なあ、ラプラス……陸の上で上品に殴り合うなんて、喧嘩の神髄が解ってないと思わないか」 「と言いますと?」 「ごにょごにょ……」 互いの秘孔を突き合う女性達を見て、思わず取っ組み合いを中断したのはラプラスとカイト。 今回はかなりストイックに拳を交わしていたラプラスだが、カイトの耳打ちを聞いて2、3度頷く。
●でも少しくらいは 「そこのレディ、髪やお洋服が濡れるから水には入れませんかい?」 「むっ、いいでしょう……買いました!」 「漢気あふれていますねぃ、レディ。その気合に敬意を払って遠慮なく殴りにいきますぜぃ!」 ラプラスの挑発に乗って、三樹はばしゃばしゃと川の中へ。 「おいカム、レディっていうなら淑女ってみろや! なぐっぞ! このガキ」 「カイトせんぱは構ってちゃんあるます」 カムヴェレッタもまた、上着を脱いで半裸となったカイトの方へとやってくる。 「よーしよし……あ、かいなさんはいいです。あのひと男だから」 目論み通り、女子2人を川へと誘い込むことに成功したカイトは、うっかり口を滑らせ…… ――がしっ。 当人にそれを聞かれると言う愚を犯してしまった。 「カイトなにいってんの。目ん玉こわれちゃったの? のうみそとびだしたいの?」 カイトの頭を鷲掴みにして、にっこり微笑むかいな。 ――どごっ、ごすっ。 「すみません、女性でした」 「お前をロウ人形にしてやろうか?」 ――ばきっ、ごきっ。 「とても美人な女性でした」 口は災いの元、あわれカイトはめっこめこにされたのだった。 「一度カイトとはやってみたかったんだよなあ……」 そんなカイトの元へやってきて、蹴りを入れてみる瑞貴。 「ぐはっ……ミズキもついでにぶっこまれろ」 ――ざばっ! ゾンビの如きしぶとさを見せるカイトは、その脚を掴むと、川の中へと引き摺り込む。 「うわっ……やってくれたな」 素早く立ち上がると、こちらも濡れた上着を脱ぎ捨てる瑞貴。 色白で細身な彼だが、こうして見ればそれなりに筋肉がついており、精悍な体つきだ。 「性別不明……と思っていた時期が俺にもありました」 カムヴェレッタの頭突きに鯖折りで対抗していた幽兵の呟きを、瑞貴は聞き逃さなかった。 「誰が性別不明だごるあ!! 外見で判断すると痛い目みるぜ!!」 「男同士の語らいはこれだゴルア!! てめえの血は何色だ!」 幽兵の蹴りに対し、瑞貴はカウンターパンチで応戦。 「うっし! ここなら後ろにぶっ倒れるくらい殴っても平気さ! さぁ、思いっきり打ち込んできなッ!」 「ならば真っ向勝負です!軽くは無いですよ!」 まつり目掛け、体重を乗せたストレートを放つ三樹。まつりもまた、その拳目掛けてパンチを放つ。 ――バキィッ!! 両者の拳が激しくぶつかり合う、なんとも漢らしい女の戦いだ。……痛みで三樹が涙目なのを除けば。 蛇足だが、幾重にも巻かれた彼女のさらしは、多少水に濡れても肌が透けるようなことは無さそうだ。 「対応済みでしたか。しょんぼり!」 「しょんぼり!」 「ダメだこいつら早くなんとかしないと!」 かいなは、ボコボコにされながらも煩悩の炎を消さない紳士達に呆れつつ、彼らを川底へと沈める。
●タイマン張ったらダチだろう? どれほどの時間が経っただろうか、乱戦に次ぐ乱戦によって、一同は一人残らずボロボロの状態だ。 「た、倒れるなら前のめりと決めています。最後まで真っ向勝負です」 既に体力は尽き、気力だけで立っているような状態の三樹。それでも彼女は、目の前の幽兵目掛けて拳を繰り出す。 ――ひゅっ。 「貰った! コレで決める!!」 これに対し、左ストレートでクロスカウンターを狙う幽兵。 その拳が三樹の頬を強かに打ち据える……かと思いきや、両者は腕を交差させたまま密着状態に。 「……なんか、幽兵先輩踏み込みすぎ?」 半ば抱き合っているような状態なものだから、当然というか必然的にさらし越しのお胸が、幽兵の身体に正面から当たっている。 けれど、そんな素敵な時間も長くは続かない。とてつもなく強い力が幽閉を引っ張り、振り向かせたと思うと―― ――ばきぃっ! 「やったか……? 変態が、世に栄えた試しなし……」 やけに幸せそうな幽兵を葬ったかいなだが、彼女もまたがくりと膝を突く。 「だが……オレもどうやら限界みてぇだ……へへへ……いい、パンチ、だった……ぜ」 打たれ強い彼女も、蓄積したダメージによってついにダウンしたのだった。 「萌え尽きたぜ……真っ白によ……ます」 「ごぼごぼがぼがぶ……」 完全燃焼した様子のカムヴェレッタも、大の字になって横たわっている。……沈んだカイトの上に。 「あー、指一本うごかねー。久しぶりですねぃ、ここまで暴れたのは」 概ね真面目に殴り合いをしていたラプラスも、普段のやられ役では得られない充足感を得たのか、晴れやかな表情で微笑む。 「みんな大丈夫? 楽しかったよね」 さて、瑞貴もすっかり元のおっとりした口調と表情で皆を気遣う。 「イイ暴れっぷりだったよ瑞貴。さっすが男の子ッ!」 その呼びかけに応えたのは、草の上に大の字で横たわるまつり。 「カーーッ! やっぱイイネェ! 活き活きするってもんさッ!」 銀誓館に来るまで喧嘩三昧の日々を送っていた彼女にとって、こうした素手での殴り合いは懐かしく心躍る一時となった様だ。 「うん、分かってはいましたが、男の人や慣れてる人には全然及びませんね」 一方こちらは、身体中が痛むせいか涙目の三樹。 「三樹、あんた見かけによらず中々凶暴だねぇ……」 普段の彼女からは想像出来ない奮闘ぶりに、まつりも賛辞を送る。 「でも、楽しかったです……。これだけ暴れたのは初めてでした。付き合ってくれてありがとうございます……」 にこりと笑顔の三樹。 彼女の思惑通り、どうやら「CANDY@BOX」の面々は、喧嘩を通して一層友情を深め合うことが出来た様だ。 「三樹も良いパンチ……と胸だったぜ」 こちらも良い笑顔で応える幽兵。 「ユーヘーくんよぉ、人が溺死しかけてる時に何を楽しんでたのかな? かな?」 「抜け駆けは許されないのが戦場の掟。知らなかったとは言わせませんぜぃ」 そんな彼の両肩に手を置くカイトとラプラス。 「……やれやれ、三大紳士はほっといて皆で焼肉でも食べに行こうかね」 「焼肉? いいね。ボクもお腹すいた」 かくして一行は、夕焼けに染まる河川敷を――三樹の夢を後にするのだった。
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参加者:8人
作成日:2011/02/28
得票数:楽しい3
笑える6
カッコいい1
ハートフル4
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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