<リプレイ>
●いざ公園へ 「初陣がなんとも奇妙な依頼になったが、それはそれ。一つ、しっかりやらないとな」 白藤・純也(先陣の一番槍・b23668)はトイレだなんだと言ってるわけにもいかないし、と言葉を続けながら足を止めた。その瞳に男装をした仲間の姿が映る。 「変に思われないようにしないとね」 「(不安だけど…大丈夫、衛先輩も一緒だし、がんばれるはず!)」 山吹・風花(高校生白燐蟲使い・b02270)は男装の仕上げとばかりにまとめた髪を帽子の中へ押し込むと小さな声で自身に言い聞かせるた。 「……ま……気楽に……ってわけにもいかないけど……気負わず頑張ろうね?」 雛神・衛(底流の退魔師・b01005)は苦笑しつつ、緊張している様子の後輩に声をかけその方を軽く叩く。 「さて、基本的には仕事は選ばんのだが……場所は選んで欲しかったな」 二人の側には遠い目をして何処かを見ている神楽・京介(雷鳴を駆けし者・b01449)の姿があった。能力者達は現場にであるトイレへと赴くべく門の前に集まっていた。 「しかし、なんで、好き好んでトイレなんかにでるんだ?」 「ああ、……一体トイレで何をしていたんだかな……?」 その疑問は数人の能力者達が共通で抱いたものだったのだろう、秋月・咎(ジューダスペイン・b04782)は相づちを打ちぼそりとこぼす。 「便所の地縛霊ねぇ。至って健全でノーマルな一般人は被害に遭わないだろーからいいんじゃね」 何気なく呟いたウサ・ディストーグ(寂しくても死ねない・b19596)の一言に仲間達の何とも言えない視線が注がれる 「いや、ダメだよな。じょーだんじょーだん。もしかすっと今後、俺も男と一緒に個室に入る機会が訪れる可能性が無いとも……」 「なんでトイレで2名以上かを考えていたが。こいつを見てくれ。こいつをどう思う?」 ここに来て、ずっと何かを考えていたらしい源・源蔵(高校生ローゼンフェヒター・b11651)が動いた。仲間に声をかけると持参した本を開き、中身を見せた。訪れる一瞬の間。 (「訪れないで下さいお願いします。これっきりにして下さい」) 「こういう世界もあるのだな」 ガクブルと震えながら一身に祈りを捧げる一名を筆頭に、さまざまな反応を見せる仲間を尻目にしながら、おそらく誤解であろう確信を抱いて、納得したように頷く。 「まぁ、そんなことど〜でもいいわ。愉しませて貰うわよ」 あまり動じなかったのか、すぐに立ち直ったアンジェリカ・ソアーウィンド(堕天の銀・b10646)は「折角の特殊空間だから光と音のLIVEをたっぷり堪能してもらうわよ」と宣言する。 「大元の地縛霊がいて、その地縛霊の被害者の地縛霊がいて……最初の地縛霊も自業自得とは言え殺人事件の被害者で……」 一方、塔塚・力弥(中学生青龍拳士・b14457)は何かを見なかったことにして事件の全容を思い出しながら、何だかややこしいな、と言葉を続けた。 「むー、まぁ恐喝やら何やらのやり取りはさておき。トイレは基本安心できる場所であって頂きてぇもんだわ」 やはり何かを見なかったことにして、桂田・レオ(橙夜行・b01371)は苦笑しつつ門の向こう、うっすらと姿の見えるトイレへを眺める。 「ウホ! いい便所。しっかし危険な手洗いなんて入りたく無ぇもんだわ」 「あ、言っとくけど『ウホッ!』は禁止ね」 思い出したように仲間へとかけた声に、真っ向から交錯する言葉。しばらく睨み合いが続き、それは思わぬ所へと飛び火した。 「ウサ!いい便所」 だが、未だ震えている当事者は気づかず、ベンチの前を横切ると仲間達と一緒にトイレへ向けて歩き出す。トイレへ至らずして早くも混沌と不穏はMAXに近づきつつあった。
●トイレへGO 「……臭うな」 「公園の公衆トイレの個室……あまり気が進まないわね」 何故か真っ白なトイレットペーパーを持ったノロイ・ウパシホルッケ(高校生青龍拳士・b20190)を一瞥すると、菊岡・和真(高校生フリッカースペード・b19508)はため息をついて四角い建物を眺めた。 「さすがに男4人でトイレの個室はきついだろうし、むさ苦しいでしょうね」 気乗りしない様ではあったが、仕事と割り切ったらしい。そんな事を言っていても仕方が無いし、と口にしながら先発の四人がトイレへと入って行くのを見送見送る。 「こーゆー思い出は……きっといつまでも忘れないんだろうなぁ……」 「それにしても……、男子トイレってなんか違和感あるなぁ……」 「……見目麗しい三人と一緒で良かった」 「4人入れるかどうか些か不安ではあるが、まあいい」 一方、送り出された四人は男子トイレの中、個室の前に居た。一人が遠い目をすれば、女性二人はそれぞれ首をかしげ、やっと我に返った四人目は「ムキムキな兄貴がいたら、俺きっと泣いてた。変なトラウマができなくて安心した」とむせび泣いている。 「後がつかえてるみたいだし……行こうか」 「4人で一緒に個室に入るって、きっと一度限りの経験だよね」 「個室に四人……貴重な体験なのに、全く嬉しくないのは何故だろう」 「男は度胸。なんでも試してみるものさ」 起動を済ませた四人は足下に気をつけながら順番に個室へと入って行く。 「2番目の突入ってのがまたいいわね〜」 「何と言うか……個室に複数で入らなきゃいけない違和感に男女の区別は無いような気がする」 「どーやら1班はもう異空間みたいだねぇ」 トイレの入り口にいたアンジェリカ達2班メンバーは、個室に入った1班メンバーの声が聞こえなくなったことに気づくと、即座に個室の前まで移動した。当然中は空だった。 「なかなか2人以上で入る機会っつーのには巡り合わねぇもんだけどねぇ」 「ヤローばっかりで臭い所に押し込まれるって言うのは何だかこう……やるせない。能力者としての義務感が無きゃやってられないよな」 レオは橙色の髪を押さえるように手をあてて苦笑しながら、ひたすら慎重に足下を凝視する仲間達の後に続いて個室へと入る。 「狭い思い臭い思いも、この世のためですか……」 「……これがホントの臭い仲というものか……」 視界がぼやけると同時に、咎達3班メンバーの声が遠ざかっていった。 「……るまで持ち堪えるよ!!」 「や ら な い か」 逆に聞こえてきたのは既に特殊空間に居た仲間達の声。挑発に激昂した地縛霊が繰り出したナイフが四度閃き血の花を咲かせ、攻撃の隙を突いて飛来した呪符を受けると崩れ落ちる様に座り込んで動きを止める。 「大丈夫ですか?」 仲間の受けた傷を日本刀と長剣へ飛んだ白燐蟲の力が癒し、二つの静かで暖かい歌声が元被害者であろう地縛霊達を眠りの園へと誘って行く。戦いは、乱れ突きで受けたダメージが癒えきっていない事を除けば、能力者達優位に動いていた。 「予想より狭いのね、光の十字架かしら?……とにかく一発ブチかます!」 「さて、本命のお出ましかね。覚悟してもらうぜ……いろんな意味で!」 「追撃の効果があるっつーのが厄介だよねぇ」 「受け身ばかりじゃ、おさまりがつかなくてな」 「ジャマなんだよ、お前ら!」 アンジェリカの涼しげな歌声と京介が頭上で回転させる長ドスの風切り音をBGMに、レオが放った炎の球は早くも眠りの園から追放された地縛霊の一体を炎に包み込む。更に源蔵に切り裂かれた地縛霊は、嫌なタイミング飛来した水流の刃にととどめを刺され、光の粒と化して霧散した。 「ほいっと……無理せずいこう♪」 この間に治療符が飛び、仲間の傷を完治させる。幸運にも地縛霊の大半が眠りから覚めないため、戦闘はほぼ能力者優位で動いていた。
●紙幣吹雪は忘れた頃に 「一体ずつ確実に仕留めていこー」 苦手であったのか眠りをもたらす歌は面白いように地縛霊達の動きを止める。 「お 待 た せ♪ 待ったぁ?」 「お前らと臭い仲になるのは遠慮したい」 このタイミングで和真達3班が到着し、精霊ギターマシンガンの射撃が起きかけていた一体に命中すると、咎のバラ撒いた銃弾が手荒いモーニングコールとなって回避した2体を除く地縛霊達を眠りからたたき起こす。 「……油断せず……畳み掛けるよ!」 「じゃ、こっちも行きますか」 眠りから覚めたばかりの地縛霊は純也達の攻撃に炎上し、内2体が連携をとった能力者達の攻撃に崩れ落ちる。無論、能力者達の攻撃を突破した地縛霊達の反撃も苛烈を極めた。 「くっ」 「前衛は後衛守る。孤立しない。不意打ち注意」 不意をつかれ追撃を伴った痛恨の一撃を食らった前衛の一角が崩れかかるが、眠りをもたらす歌が地縛霊の動きを止め、いったん後方に下がり、風花の白燐奏甲と指示の合間を交えた癒しの歌声、治療符に癒されることによってようやく戦線に復帰する。 「これで、仕留める!」 この間も能力者達と地縛霊との攻防は続き、伸ばされた影と炎の球が幾つもの攻撃で瀕死に追い込まれた2体の被害者地縛霊を地に這わせた。残されたのは作業着姿の被害者地縛霊が一体と、ようやく眠りから覚めた最初の地縛霊のみ。 「あんたもそろそろ眠っておくんだな」 だが、残っていた被害者地縛霊もキターマシンガンの射撃をまともに食らってよろめくと、ノロイの龍顎拳に頭部を捉えられ特殊空間内の便器に倒れ込み、そのまま光の粒と化す。 「キサマラ、ヨクモ……」 取り巻きを全て倒された地縛霊は、呪詛の言葉を口にしながら懐より取り出した無数の紙幣をバラ撒く。 「便所に誰かと入るよりも金に埋もれる方が幸せ……って、んな事言ってる場合じゃねーなコレ」 自己突っ込みを入れるウサの言葉を肯定するかのように、紙幣は増殖し、嵐となって能力者達へ襲いかかる。 「金が人を縛るって……なんか共感できる所が……」 皮膚を切り裂き、張り付いては締め付けてくる紙幣を能力者達は巧みにかわす。かわしきれない者は詠唱兵器を盾に受け止めるが、防御にさえ失敗した数名が紙幣に拘束され動きを止められる。 「こんなものに惑わされてるから……」 だが、地縛霊に不運だったのは回復役の拘束に失敗したことだったろう。清らかな祈りを込めた神聖な舞が紙幣の呪縛を解き放ち、回復した能力者達は、残った地縛霊を一斉に攻撃する。 「押せ押せムードになってきたからそろそろ終幕ね。終わらせましょう」 「人目のつかない取引が必要な買い物をしたお前が悪い。八つ当たりをするな」 至近から放たれた裁きの光が地縛霊を4回にわたって打ちのめし、伸ばした影に薙がれ毒を注ぎ込まれた地縛霊へ力弥の放った水流でできた刃が突き刺さる。流石に被害者とは違い、一通り能力者達の攻撃を受けただけでは倒れなかったが、反撃に放った乱れ突きをかわされ再び集中攻撃に晒されると、耐えきれなかったのか炎に包まれたまま何かを掴もうとするように手を伸ばしながら崩れ落ちた。地縛霊が完全に地に伏したのを待ちかねたかのように特殊空間の輪郭が薄れ始める。 (「特殊空間が切れたら……トイレの個室に12人か……?」) 薄れて行く特殊空間を見ながら、ふと京介の脳裏に嫌なイメージが浮かぶ。嫌な汗をかく彼の思惑など全く頓着もせず特殊空間は薄れていった。
●個室の6人事件 「まさか1つに個室に全員まとめで戻されることはないと思ったが……」 力弥は自分が危険地帯に足を踏み入れていないことを確認し、安堵の息をつく。一部の能力者達が想像した最悪の事態は流石になかった。 「トイレの個室にぎゅうぎゅう詰めってやっぱり気分の良い物じゃないわね〜」 和真はウンザリしたように呟くと身じろぎする。部屋に12人びっちりと言う状況にはならなかったモノの、彼を含めた能力者達の内6人ほどが個室に戻されたのだ。残ったメンバーは外に二人、左右隣の個室に二人ずつ。女性メンバーが中央個室送りにならなかったのはきっと運が良かったから。 「……暑いな」 ノロイは、周囲を仲間に囲まれやはりウンザリした様子で呟いた。彼のような巨漢にはこの状況は窮屈で仕方ないだろう。 「お金で買えないものは少ないけど……やっぱ……寂しいもんだよね……」 白状にも阿鼻叫喚な中央個室のメンバーを尻目に一人の魔弾術士は「雛神衛代行」の張り紙を同室の仲間の背に貼る。 「地縛霊がいなくなってさっばりしたし、もっと気持ちよく使えるようにお掃除してから帰ろうか♪」 「……さて……次の仕事次の仕事……っと♪」 自分に向けられたと思われる風花の声を聞き、ごまかすように猫に変身して逃げようとした。 「に゛ゃ?!」 しかし、慌てるあまり仲間の持ち込んだトイレットペーパーに飛び乗ってしまい、転倒して危うく御用となる。 「トイレは、やっぱり落ち着ける場所であってほしいかな……」 捕り物劇を戸の隙間目撃しながら、純也は力なく笑った。彼も中央個室に詰め込まれた一人であったから。 「よろしい、それも一つの愛の形だ。嫌いじゃあない」 仲間達が詰め込まれた状況から抜け出そうと四苦八苦する中、源蔵は青い薔薇を手向けると、「安らかに」とだけ言い残してトイレを後にする。 「何となくシャワーでも浴びてさっぱりしたい気分だわ」 中央にいた6人が解放されたのは能力者3名によるトイレ掃除が半分以上終わってからだった。
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参加者:12人
作成日:2007/05/26
得票数:楽しい16
笑える5
ハートフル1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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