<リプレイ>
●ラーメン屋に行こう 「私は味噌ラーメンが好きです、玉子のトッピングは欠かせません! ししょーは?」 「ししょーってなんか照れくさいんだけど……あ、私も玉子大好き! 味噌ラーメンなら、バターとコーンも良いかも」 ラーメン談義に花を咲かせてるのは、アリーセ・エルンスト(ソライロノカゼ・b33163)と速坂・めぐる(真烈風少女・bn0197)。 ラーメン――それは中国の麺料理を起源とし、大正時代頃から日本の中華料理店を中心に発展。長い年月を経て日本独自の進化を遂げた料理である。 今ではカレーと並び、日本人に愛される国民食のひとつだ。 「ご主人は地縛霊になるほどの執着を持っていた方です。できれば生前に味わってみたかったですね」 呟くのは天宮・信長(天狼地祇・b16653)。 と言うのも、これから一同が向かうのは、かつて行列の出来る店として知られたラーメン屋の跡地。 死して思念を残す程であれば、さぞかしこだわりのラーメンを出していたのだろう。一見さん泣かせと言われる独特のローカルルール等と相俟って、「ラーメン通」を自称するラーメンファン達にはカリスマ的な店でもあったとか。 「注文の多いラーメン屋……ああ、そんな店に行った事あるよ。でも正直面倒なローカルルールだらけの店には2度と行きたくないな。いくらうまいラーメンを作ろうが雰囲気の悪い店では食べたくないしね」 軽く肩を竦めながら言うのはフェリシア・ヴィトレイ(きまぐれな野良猫・b54696)。 彼女はこの店に似た様な店を訪れた経験があるのだと言う。 「それは言えてる。女の子は入れないような雰囲気の店とか、やたら店主が怖いお店ってあるもんね」 うんうんと頷くめぐる。客に厳しく接する頑固さがもてはやされたり、客商売のあり方とはやや乖離した独自の世界観を持つ店も多い。 そして、そう言ったこだわりを持つラーメン職人はファン達に崇められる傾向がある。 「注文の仕方とローカルルールを覚えておこう」 ともかく、作戦開始に備えて店の概要を頭に叩き込む一同。 「死んでまでラーメンを作ろうとするその心意気は、一料理人として見習うべきかもしれないが」 日本育ちの中国人、柳・深龍(翠龍・b19303)は料理人を目指す身でもある。店主地縛霊が、これ以上客を手に掛ける前に退治せねばなるまい。 「うむ。それほどこだわるラーメンを食わせる事もできぬのでは仕方なかろうて」 当人にとっても、退治してやる事がせめてもの情けだろう。2、3度頷きつつ裏郷・夕香里(高校生黒燐蟲使い・b51508)。 「リリスさんと地縛霊、よくある組合せなのです……とは言え、油断は禁物」 目の前にそびえるビルを見上げながら、気を引き締め直す露木・水無月(耳と尻尾はもふもふ・b43410)。 なんと言っても、相手は知能を持つ相手。戦力で大きく勝っているとしても油断は禁物だ。 「リリスはどうしてそこに逗留を決めたのだろうな。ラーメンがよほど美味しかったのか……それとも別の理由があるのか?」 小首を傾げる三井寺・雅之(風炎の光彩・b60830)。 いずれにしても、リリスが利用出来る地縛霊を見つけ出す嗅覚は大したもの。このままラーメンファン達を殺めさせるワケにはいかない。 「ええ、リリスは何でも利用してきますね……それでは、手はず通り行きましょう」 ソフィー・セルティウス(深蒼雹刃・b60749)の言葉に頷いた一同は、ビル内の階段と非常階段の2手に分かれて3階フロアを目指す。
●こだわりの店 ビル内の階段を登った一同の視線の先に『ラーメン三郎』と書かれた店の看板が飛び込んで来た。 廃ビルの中にラーメン屋が有るとはにわかには信じがたいだろうが、いざ半信半疑でこの場所に来たラーメン好きは、営業中の看板を見て一も二も無く店内に飛び込むのだろう。 彼らは常に、隠れたる名店を欲しているのだから。 勢いよく扉を開き、店内へ乗り込むアリーセ。一同もその後に続く。 「ネットに載ってた店はここでいいんだよな」 「えっと、まずは水を確保するんだったよね」 雅之とめぐるは地縛霊の出方をうかがうため、客を装ってみる。 「いらっしゃい。大きさは?」 カウンターの向こうから、店主らしき中年男性がそう問い掛ける。 「少なめで」 「ニンニクは入れるのかい?」 「ニンニク、ヤサイ、カラメで」 フェリシアの教え通り、店主へ答える一同。 「いらっしゃい、ラーメンを食べに来たのかしら? それとも……」 店主の隣に居て、不敵な笑みを浮かべる女。 「とっとと幽世へ帰せ、それが我らが貴様らへ科す使命だ」 「あらあら、おっかない……ねぇ大将、この4人はきっと他の店のスパイよ」 「何ぃ……?」 アリーセの剣幕に怯えたフリをしてみせたリリスだが、すぐさま店主地縛霊にも臨戦態勢を取らせる。 「4人ではありません」 「え?」 信長の指摘に怪訝な表情のリリスだが、その言葉の意味はすぐに明らかになる。 ――ばんっ。 「逃がさないのですよ」 水無月ら、勝手口からの別動部隊が厨房側に姿を現わしたのだ。 「そう言う事……良いわ、もてなして上げて! この子達は店をめちゃくちゃにする気よ」 「許さねぇ……俺のラーメン道を邪魔する奴は……」 自らもカメラを手に、別働隊の方を向くリリス。店主には、カウンター側の正面部隊を相手させるつもりの様だ。 「この颶風、喰らって只で済むとは思うな……!」 「さぁ、僕の狐火に惑わされるのです」 「くっ……この程度で!」 アリーセの呼び起こした上昇気流がリリスの足下から吹き上がる。と同時に、水無月は幻楼火を揺らめかせる。 しかしリリスも然る者、盛んにフラッシュを焚いて応戦する。 その間にもソフィー、信長は限界を超えた覚悟を決めると、厨房を駆けて一気に間合いを詰める。 「料理人の心意気を利用とするリリス……許してはおけないな」 「さぁて、征くかのぅ」 抜き放った二振りの長剣に、黒燐蟲達を纏わせる深龍。夕香里もまた、得物の黒と銀に黒燐奏甲を施す。 「俺の店で厄介事は許さねぇ……」 「塩ラーメンの半炒飯セットだ」 リフレクトコアを展開しつつ、試しにオーダーをしてみる雅之。 「塩に炒飯だぁ? そんな物はねぇ!」 茹でたての麺が入った平網を振り回す店主。 ――キィン! 「熱っ……」 信長はMithrasでこれを受け止めるが、跳ねた熱湯に顔をしかめる。 「アンタ達……この店の事どれだけ解ってるの? ファーストロット任せられていた古参サブロッターの私の前で、三郎を馬鹿にする様な事言ってたら怪我するわよ。大体ね、この店のルールを理解せずにいきなり本店に来るって発想自体がふざけてるの。まずさっきのコール、全然リズム感がなってないわ。とりあえず知識だけ詰め込んで来たってのが見え見え。最低でも自分達で5回ずつくらいは声に出して予行演習して来いって感じ。しかもね、アンタ達みたいな子供が本店の小を完食出来るわけ? よしんば完食出来るとしても、それまでにどんだけロットを乱すか解ったもんじゃないわ。そりゃね『紅いほうき星』の異名を持つ私程の速度を出せとは言わないわ。それに私は安易なバトルを推奨しているわけじゃないの。ロットリズムこそこの店の真髄なわけ。昔の本店ファーストは気心の知れた常連と店主、助手達と言ったオーケストラによって奏でられる交響曲が――」 わなわなと怒りを露にしつつ、能力者たちをにらみつけるリリス。言ってることの意味は良くわからないが、彼女もまたこの店のファンと言う事だろうか。 「そんなに言うなら、店を捨てて逃げたりしないわよね?」 ジェットウィンドを放ちつつ、リリスをけん制するめぐる。 「それだけ面倒なルールに従っても出てくるラーメンは汚らしい盛り付けだし」 店のルールに従っても地縛霊の攻撃を避けられないと解れば、もはや遠慮する意味も無い。フェリシアは妖狐の守護星である7つの星を輝かせつつ、ずばずばと指摘。 「き、汚いですって? 三郎の盛り付けはね、沢山食べてもらいたいって事と、多くの客にラーメンを楽しんでもらう為に作る速度を上げる、サービス意識の現われなの。そう言う店側の心意気も解らない初心者にえらそうな口を――」 「それに、あんま美味しくない」 「「なっ……!!?」」 リリスと店主は一層怒りを露にする。リリスがこの店のファンである事は、逃すまいとする能力者達には好都合だ。 「生かしては返さない!」 無数の蛇を出現させるリリス。戦いはより激化してゆく。
●伝説に還るラーメン屋 「くく、妾からトッピングの差し入れじゃ!」 夕香里はファンガスを凝縮して形成したキノコ型の弾丸を撃ち出す。 「っ……差し入れですって?! 三郎のラーメンってのはね、アンタが生まれる前からこのトッピングでやってるの。それをアンタみたいな素人が偉そうに口出しした日には、全マシマシの『最強三郎』を着丼されても文句言えないわよ!」 相変らず良くは解らないが、ともかくダメージは受けている様だ。 ――ざしゅっ。 「ちょっと、コシが足りないのではないですか?」 「な、なんだと……うちの自家製麺に難癖つけようってのか!」 ソフィーのdeep blueが、襲い掛かるラーメンを切断する。 「この尻尾でおねーさんをもっふもふにしてあげるのですよ♪ さっきゅん!」 水無月の妖力が極限まで高まり、その九尾がリリスに襲い掛かると同時に、真サキュバス・ドールのさっきゅんも投げキッスを飛ばす。 「くうっ……小賢しいやつらっ」 「これ以上被害を増やさせはしません」 表情を歪めるリリスへ更に間合いを詰め、断罪の闘気を帯びた拳を繰り出す信長。 ――ばきぃっ! 「あぐっ! くっ……」 一撃を受けてよろめいたリリスは、退路を求めて視線を巡らせる。 「逃がす訳にはいかない、覚悟して貰おうか」 そんなリリスの腕に絡みつくのは、深龍のタイマンチェーン。 「利用するだけでは我らに勝てる道理はないな! トドメだ!」 「親父さん手が止まるとロットが狂うよ、早くして」 「うぬぬっ」 一方、店主も能力者たちの力によって満足な動きが出来ずに居た。アリーセがリリス目掛けてジェットウィンドを放つのに合わせ、フェリシアも尾獣穿を繰り出す。 「ぎゃあぁぁっ!! この……私が……三郎のカウンターで負ける……とは」 能力者たちの集中攻撃を受けたリリスは、ついに崩れ落ちた。 「さてあとはお前だけだぜ」 「ほざけっ……俺はここでラーメンを作り続ける……お前達みたいな小僧に邪魔されてたまるかっ!」 「行くぜ、速坂。せーの! ファイアストーム!」 尚もこの世への執着を見せる店主に対し、雅之とめぐるは前後から同時に攻撃を仕掛ける。 ――ゴォォッ! 「ぬぉぉぉっ!!」 紅蓮の炎と突風が、店主を瞬時に飲み込む。 「さて、トドメといくかのぅ……深龍、ソフィー」 「あぁ。料理はお客の為に作るもんだ、お客を殺してどうするんだ」 「これで終わりです」 ――バッ!! 再び夕香里のシューティングファンガスが放たれると同時に、深龍の瞳が禍々しき力を帯びる。そして死角を突く様に懐へ入ったソフィーは、守護精霊の力を宿した拳によって店主を打ち抜いた。 「ぐはぁぁっ……俺のラーメンは……まだ……完成しては……」 前のめりに倒れた店主は、青白い燐光と共に跡形も無く消えた。
●〆はラーメン 「よし、行きましょう」 店主とリリスの冥福を祈り終えた信長が、店内から出て来る。 「出来れば生きてる間にラーメン食べてみたかったかな。……変なルールナシで」 「私もそう思うよ」 残念そうに呟いた深龍に、フェリシアも頷く。 「手間取らせてくれたのぅ、口直しにラーメンが食いたくなったのじゃ」 うーんと伸びをしながら、やや空腹気味らしい夕香里。 「確かに……丁度昼飯時だな。食べていくか?」 「賛成! ソフィーも行くわよね?」 「……そうしましょうか」 ちらりと時計を見る雅之。めぐるを含め皆空腹なのは一緒の様だ。 「美味しいお店、この近くにありますかね?」 「下調べは万全、近くに美味しいラーメン店があるのはリサーチ済みなのです」 アリーセの問い掛けに、少し自慢げに答えるのは水無月。 「ししょーの分は私が持ちます!」 「え、いや……それは悪いわよ」 「その店にトンコツはあるのかのぅ?」 「厄介なローカルルールが無いところにしてね」 任務を終えた一同は、ラーメン屋へと向かうのだった。
彼らの活躍により、ラーメン愛好家達の命は救われたのだ。
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参加者:8人
作成日:2011/03/08
得票数:楽しい13
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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