<リプレイ>
●田舎町を統べる者達 ここはイタリア、シチリア州。 のどかな田園風景の広がる田舎町に、銀誓館学園の能力者8人は降り立った。 「ポーランドの次はイタリアか。そのうちマイルで世界一周出来るぞこれ」 日本から遠く離れたこの地に至るには、飛行機を始め多くの交通機関を駆使する必要があった。刈谷・紫郎(見通す者・b05699)が呟くように、能力者達の移動距離は世界を股に掛けると表現しても大袈裟ではないレベル。 さぞかしポイントも貯まることだろう。 (「このままカリストやその一味の思い通りにはさせません。祖国イタリアでの事ならば一肌脱ぎましょう」) セラフィナ・ソニィ(水練にプラス・b69013)にとってイタリアは母国。そこが舞台となるならば、否が応にも士気が高まろうと言うものだ。 ちなみに、学園では罰ゲームで水着を着ている彼女だが、今は目立たないように私服姿。 「それで、どっちなんだ? その何とかファミリーの館は」 地図と目の前の景色を交互に見比べているのは水無瀬・葵(黒刃の屍狩者・b03253)。 どこからどう見ても観光客にしか見えない。 「バンディーニファミリー……でしたね。どなたかに尋ねてみましょうか」 アリア・シュピーゲル(深遠の月・b50717)は周囲を見回すが、視界に人の影は無い。 マンジャーレ(食べて)・カンターレ(歌って)・アモーレ(愛する)の言葉に表される、華やかで陽気なイメージのイタリアだが、南北の経済格差と言う深刻な社会問題も抱えている。 工業で発展した北部に比べ、農業や観光が主な産業となっている南部は貧しい。この町もひなびた農村の御多分にもれず、過疎の道を辿っているのだろう。 「あぁ? ドン・バンディーニのお屋敷ならあっちだよ。あの方がこの町に来てから、本当に良くなったよ。悪さをする奴も居なくなったし……ここらのもんは皆、ゴッドファーザーと呼んで敬ってるのさ。そりゃそうと、アンタらどこから来たんだい? 日本? そりゃ遠い所から良くきたな。何もない所だが、料理だけは最高だよ。一週間居たら3kgは太るって言われてるからな! おっと娘さん達には悪い話だったかな? でも気にする事ぁないよ、わしにもアンタ達くらいの娘が居るんだがね、こいつが都会に出るって聞かなくてね。ロクでもない男に引っ掛からなきゃ良いんだが……」 ようやくアリアが見つけた初老の男性は(暫く世間話に付き合わされたが)屋敷の位置を教えてくれた。 「どっかで聞いたような気もするマフィアの一味だけど……ま、相手が誰でも関係ない! こっちはキッチリ任務を果たすだけ」 相手が誰であれ、戦いに身を投じることを躊躇わない月島・眞子(トゥルームーン・b11471)。 今回の相手は情報収集等を主な任務とする人狼騎士達。彼らはどうやら、このイタリアの田舎町でマフィアの真似事をしながらその任務に従事していると言う。 イタリア人の国家に対する帰属意識は薄く(特にシチリア地方では、圧政に苦しんだ記憶から反体制的な気質が強い)、その代わり、彼らは生まれ育った土地を大事にする。 義理と名誉を重んじ、何よりも家族・一族・村・地域を重視するマフィアが力を持つに至ったのも、そう言ったイタリア人の伝統的気質による所が少なからず影響しているのだろう。 とは言え、イタリア社会に対し大きな影響力を持っていたそのマフィアも、近年は政府や国民の撲滅運動等によって衰退の一途を辿っている。時代が進むに連れ、やはり違法行為や暴力は悪であると見なす動きが強まっているのだ。 いずれマフィアが現実世界から消える日が来るとも言われているが、彼ら「バンディーニ・ファミリー」は古き良きマフィア――ギャング・スターに憧れた人狼騎士達なのかも知れない。 「人狼騎士さん達を解放する第一歩……頑張って成功させたいな」 「ええ、相手は人狼さんたち、それも手強いようですから気を引き締めていきましょう」 町人の示した方向に歩き出しながら、心に誓う宮代・さつき(空色の風詠い・b52693)と、表情を引き締めるリース・コンテュール(蒼猫と戯れる粉雪・b45906)。 今回の作戦は、人狼騎士全てをネジから解放する大作戦の為の布石とも言える重要な位置づけ。失敗は許されない。 「人狼さん達ぜーんぶネジから助け出す為にも、まずは彼らを捕まえちゃおうね」 天乃宮・頻(紅雪白兎・b30003)が元気良く言う間にも、大きな屋敷が見えてきた。
●バンディーニの館 「気付かれて無いようです。今のうちに」 見張りのリースからゴーサインが出たのを確認し、頻はガレージに停めてあった車のタイヤをパンクさせに掛かる。 万が一の脱出手段を封じておこうという思惑だ。 屋敷の敷地は広大だが、守るバンディーニファミリーは8人。さすがに全域をカバーする事は出来なかったと見えて、能力者達の侵入に対してこれと言った反応は無かった。 「では、庭に参りましょうか?」 「よし」「行こう」 皆を一瞥し問い掛けるアリアに、各々しかりと頷く。
――がしゃーん! 眞子がガラスを砕き始めると間もなく、館の中で慌ただしく動く人の気配が感じ取れる。 「お、おい……何をしてるんだお前達!」 かなり髪の毛が後退した中年の男が、やがて庭へやってくる。能力者達を用心深く観察しながら、必死に声を張り上げていると言った様子。 「お〜っほっほっほ! ソニィ家のお嬢様が遊びに来ましてよ」 「ソニィ・ファミリー……?」 セラフィナが高笑いと共に名乗りを上げていると、屋敷の中から更に数人がやってくる。 「おいフレド(フレデリコの愛称)、そいつらは何だ? おいお前ら、ここがどこだか解ってるのか? 子供の遊び場じゃないぞ!」 「いや、それが……」 屈強そうな男と、頑強な巨漢、それに女性が2人。こちらは既に得物を手に、いつでも戦える状態だ。 「始めまして、人狼騎士の皆様方。私は吸血鬼、アリア・フォン・シュピーゲル。皆様へ決闘を申し込みに参りました」 大仰に一礼すると、サンティノの足下に手袋を投げるアリア。 「ほう? 面白いじゃねぇか。決闘を申し込んで来たからには、女だからって手加減はしねぇぞ」 サンティノは手袋をやや乱暴に拾い上げると、長剣を抜き放つ。 「勝負、させてね? ――実力を、試させてもらうの」 「おいチビッコ、生意気な事言ってると、獲って食っちまうぞ!」 同じく頻も、自身の数倍はあろうかと言う巨躯の男を相手取って果敢に挑戦を申し込む。 「待てソニー(サンティノの愛称)、クレメンザ、それに客人。我々は野蛮人では無い」 と、切り開かれようとした戦端を押し留める低い声。 見れば、初老の男性が1人。続いて、付き従う様に2人の男がその脇に控えている。 「聖書にも書かれている。『始めに言葉があった』と」 男は威厳に満ちた様子で、宥めるような、或いは威圧する様に告げた。 「とは言え、ネジが排除されない限り会話は成立しないからな」 紫郎は勿論グラン・クロワを鞘に収める事はせず、油断無く敵の様子を窺い続ける。ここに至って話し合いでの解決など望むべくも無いのだ。 「売られた喧嘩も買えないなんて、バンディーニファミリーもとんだ甘ちゃんだね!」 「ボク達と戦うのが怖いわけじゃないよね?」 「腰抜け共が」 「な、なんだと? ファミリーを侮辱する奴は誰であれ許せねぇ……どこの回し者か知らねぇが、やっちまえ!」 眞子やさつき、葵が口々に騎士達のプライドを刺激する物言い。顔を真っ赤にしたサンティノは、剣を振り上げて能力者達に斬り込んでくる。他の騎士達もこれに続き、戦いの火ぶたは切って落とされた。
●庭での抗争 「天乃宮さん」 「うん、この冷たさからは――逃がさないの!」 突っ込んでくる騎士達に対し、リースと頻の手が翳される。 ――バッ! 「うおっ!?」 2人の巻き起こした吹雪は、瞬く間に周囲を極寒の地獄へと変貌させた。 「ちっ、この程度で参るかよ!」 魔氷が体温と体力を奪うが、相手もさしもの人狼騎士。サンティノとクレメンザは各々クルセイドモードによって一層の覚悟を固める。 「気をつけて、ただの子供じゃないわ!」 一瞬の間に能力者達の力量を察したのか、他の騎士達も表情を引き締めた様子。 「クルースニク以外の力を使う気は無いようだな」 二振りの剣に黒燐蟲を宿しつつ、紫郎は確信に近い物を覚える。 誇り高き騎士達は、クルースニクとして戦う事にこだわりが有るようだ。 「サンティノ! 蜂の巣になって死にな!」 その一方で、すっかりギャングになりきっているのは眞子。 彼女が炎を纏った無数の弾丸をバラ撒くのに呼応して、さつきの花信風も火を噴く。 ――ガガガガガ! 「フレド、マイケル! 手を貸せ!」 無数の流れ弾が屋敷の壁や窓に次々と穴を開けるが、サンティノの怒声を受け、騎士2人が間合いを詰めてくる。 「イタリー忍法・超武器破壊の術!」 これを見たセラフィナは、すかさず詠唱停止プログラムを帯びた拳で殴りかかる。 ――ばきぃっ! 「ぐわぁっ! く、くそっ……やめろ!」 「まだだ」 音も無く死角を突く葵。 黒炎を纏った孤黒が、よろめくフレデリコを追撃する。 「ぎゃあっ! 助けてくれ!」 テッシオと女騎士2人は、窮地の仲間を救わんとしきりにライフルを応射する。 「リースちゃん、もう一度!」 「はい」 頻とリースは再びの氷雪地獄によって騎士たちを飲み込む。 「ぎゃぁぁぁ」 能力者たちの苛烈な攻撃の前に、脆くも崩れ落ちるフレデリコ。 「くそっ、このガキどもがっ!」 氷を纏わせた刃を振り上げ、眞子に斬りかかるクレメンザ。 ――キィン! 「映画みたいにいつも上手くいくとは限らないのよ!」 フロストファングを受け流した眞子は、ロケット噴射の勢いに載せて月白風清を叩きつける。 「ぐうおおっ!!」 深手を負って吹き飛ぶクレメンザ。 「ちくしょうめ!」 ――ガキィン! 「っ! その程度では、私達は倒せなくてよ」 力任せに剣を振り下ろすサンティニだが、セラフィナは忍者刀でこれを受け止める。 「今一度、超武器破壊の術をご覧なさいませ!」 「手の内は見えてるからな」 「うわあぁぁっ!」 セラフィナが再びデモンストランダムを繰り出すのに合わせ、紫郎の暴走黒燐弾が騎士たちを薙ぎ払う。 「クロ、いくよ」 さつきはケットシー・ワンダラーのクロにダンスを舞わせつつ、自らは2丁の銃で援護射撃。 「コニー(コンスタンツァの愛称)、ケイ! ボスを連れて逃げろ!」 戦況の不利を察したマイケルは、深手を負いながら後衛の騎士達に指示を出す。 「そうはさせるかよ!」 退路を断つ様に回り込んだ葵の長剣が、コンスタンツァに向けて突き出される。 「さあ、踊りましょう。土となるまで、灰となるまで、塵となるまで」 アリアが召喚したのは血塗られた逆十字。 息も絶え絶えだった前衛の騎士達は、この一撃によって崩れ落ちる。
●騎士解放の為 「紺碧(Azure)の力で……」 「きゃあぁぁっ!」 リースの結晶輪が青く輝き、コンスタンツァを直撃。クルセイドモードによる回復も、能力者たちの火力の前では焼け石に水だった。 「クロストリガー!」 ――バババッ! 「強いねー……けど、こっちも負けられないの!」 「ぐうっ!」 捨て身の反撃を繰り出すケイも、頻の放つ光槍に倒れる。 「そろそろ勝ち目はなくなってきてるよ。残ったファミリーの為にも無駄死はよくないと思うけど」 「我々は何よりも誇りを重んじる。そして、血には血で報いるのがシシリーの掟だ」 眞子の勧告にも、応じる事無く長剣を構えるヴィト。やはり倒す他無さそうだ。 「援護する、今だ」 紫郎のダークハンドに合わせて、一気に間合いへ飛び込む眞子とセラフィナ。 ――ギィン!! 「ぬうっ!」 四方からの同時攻撃に、さすがのヴィトも体力を削られてゆく。 「っ……」 「逃しませんよ」 圧倒的な不利に、逃げ出そうとするテッシオ。しかし、これを看破したアリアと葵は先回る。 「とどめだ!」 「ぐわぁあっ!!」 黒炎を帯びた剣が、テッシオを貫く。 「はぁぁっ!」 剣を手に、捨て身の突進を仕掛けるヴィト。 (「これも人狼騎士さんを助ける為だから……ゴメンね」) これに照準を合わせたさつきは、心中でそう呟きながら、引き金を引いた。
「特に情報らしい情報は無かったかな」 屋敷内を探索した眞子が出てくる頃、巡礼士達が捕らえた騎士達を引き取りにやってきた。 「今はちょっと大変になるけど……皆、正気に戻れると良いね」 頻は捕縛した騎士達を彼らに預け、その姿を見送る。 ヨーロッパに置ける作戦の第一歩は、ここシチリアの田舎町で成功を収めたのだった。
|
|
参加者:8人
作成日:2011/03/17
得票数:カッコいい14
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
| |