<リプレイ>
●ケンの夢 何の変哲も無い2階建て住宅の一室に、タカハシケンは眠っていた。 部屋にはヒーローもののアニメや漫画、フィギュア等のグッズが所狭しと飾られている。 能力者達はそれぞれ言いたい事を一先ず飲み込んで、取り急ぎ彼の夢の中へと侵入してゆく。 「ジャスティス・ケン……俺達間違ってたよ。アンタに殴られて目が醒めた。心を入れ替えて、真人間になるよ!」 「そうだケン、俺達も仲間にしてくれよ!」 「うむ。正義に目覚めた瞬間、お前達は私の友だ」 「ケン!」 夢の中では、先ほど女をナンパして殴り倒された不良達がケンの仲間になった様子。 正義のヒーローにやられた悪役は、心を入れ替えて仲間になる。この夢は、そんな子供の好むヒーローアニメや漫画のノリをそのまま体現しているのだろう。 「くくく……ふふふ……はーっはっは!」 「誰だ!?」 そんなやり取りを遮る様に、再び夜の路地裏に響く高笑い。 「正義とか友とか言うから、思わず笑っちゃったよ……僕は悪の科学者、ドクタースズカだよ!」 ケン達の視線の先に居たのは、白衣とグラサンと言う出で立ちの鈴鹿・小春(空色のうたかた・b62229)。 「あ、悪の科学者? 一体何を企んでいるんだ!」 大袈裟に怯えつつ、お約束のフリを投げかける元不良A。 「この世界からジャスティス・ケンを消し去る」 「「な、なんだってーっ!?」」 「ジャスティス・ケンはな……すごく強い正義の味方なんだぞ! お前みたいな科学者の1人や2人――」 「待てーぃ!」 不良Aの言葉を遮る声。同時に、小春の後方にあるビルの屋上に降り注ぐ6つのスポットライト。 「な、何者だ!?」 「赤れんじゃう!」 真紅のスーツを纏った風雅・月媛(告死天使・b55607)。 「黄れんじゃう〜!」 黄色の志筑・涼子(残念な子とは呼ばせない・bn0055)。 「……桃れんじゃう?」 何となく自分の番だと察したフェリシア・ヴィトレイ(きまぐれな野良猫・b54696)。 「青れんじゃう」 前髪で表情は窺えないが、どことなくクールな青は綺堂・恭也(高校生真魔剣士・b68847)。 「黒れんじゃう!」 ノリノリでポーズを決める黒は白河・融(冥王星・b00158)。 「黒れんじゃう!」 何故か十六夜・瞳(宵闇の歪・b02156)も忍者の様な仮面付きの黒装束でびしっとポーズを決める。 「「6人揃って、悪役戦隊ごれんじゃう!」」 ――ババーン! そして最後は、6人揃っての戦隊ポージング。 「ま、待て……もう一度聞く、お前達は何者だ」 余りにインパクトある登場シーンを目にして、若干気圧され気味のジャスティス・ケン。 「ごれんじゃう!」 「6人なのになんでごれん……まぁそれはいい、お前は何色だ」 「黒れんじゃう!」 「6人揃って」 「「ごれんじゃう!!」」 「おい、待て待て! ……君は?」 「黒れんじゃう!」 「じゃあ君は」 「黒れんじゃう!」 「なんで黒が2人居るんだ」 「ほら、ぼくらおんなじ結社ですから。それに色とかそんなんじゃないんで」 「いや、色……」 「1人1人の個性を見てもらいたいんで」 うんうんと頷くごれんじゃう。一方、この世界の住人達は唖然とした表情のまま。 「良くは解らんが……お前達みたいな悪人の個性などに興味は無い! 悪は倒すだけだ!」 ひとつ咳払いをした後で、ヒーローの威厳を保つかのように決然と言い放つケン。 「そういう貴方は、悪いところなどないと言えるのか!」 「……何ぃ?」 かくして、ごれんじゃうによるケンへの説得が始まった。
●苦悩のヒーロー 「夢で戦うんじゃなくて、戦わなきゃ、現実と!」 先陣を切って説得に当たるのは融。 「っ……黙れ! 俺はこの世界で人々を守ってるんだ! 現実なんかどうでも良い! 必死で受験勉強をして、やっと大学に入ったと思ったら今度は単位。ようやく卒業したら就活ときた……いざ就職したってこんな時代じゃ、いつまで勤められるかも解らない……あんな夢の無い世界は沢山だ!」 かぶりを振って現実からの逃避を決め込むケン。 「……自分もだった……大学3年で就職活動始まるのにどうするんだよ……」 だが、融にとっても他人事ではなかった。 説得する筈の言葉が、そのまま自分に跳ね返ってくるブーメラン状態。 「やめろっ……やめるんだ……そんな話は聞きたくないですぅ」 そしてもう一人、同じく大学生の涼子も耳を塞いで蹲っている。 現実と戦わねばならないのは、ケンだけでは無いらしい。 「苦境を自らの力で乗り越える者こそヒーローだ。都合の良い超常の力に頼るのはヒーローと呼べないだろう?」 ミイラになったミイラ取りはさておき、ケンへ語り掛けるフェリシア。 「都合の良い力……違う、これは俺が……世界を守る為に授かった力なんだ! 大体それを言うなら、お前達だって――」 「ボクかい? 確かにボク達は超常の力があるけどね、ただその力を揮うのは自分の使命を果たす時のみだよ」 「俺だって同じだ……この力は、この世界の平和を守るためにあるんだ!」 しきりに声を張り上げ、自分の正当性を主張するケン。 「ヒーローというのは『自分に厳しく他人に優しい』というものであろう。にも関わらず、自分に甘く優しい夢の中に逃げ込んで、勝手にヒーローを気取り悦に浸るとは、ほとほと笑わせてくれる」 鼻先で笑い飛ばす様に言う月媛。 「な、なんだと?」 「貴様のヒーローは、辛い事があったら直ぐに逃げて、自分にとって都合の良い夢を見ると言う訳か? 甘ったれるな!」 「ぐっ……ち、違う……違う……」 正鵠を射るような月媛の言葉に、ぐうの音も出ない様子のケン。 「ええい、頭が高い! 貴様のようなヒーローは、私達の前に跪くがいいぞ!」 なぜか勝ち誇った様子で言う瞳。 「まったくですぅ……もぐもぐ」 更には融手作りのカレーを食べつつ便乗する涼子。 「……お前は何故カレーを食べてるんだ」 「いや、だってほらイエローですしぃ」 ちなみに歴代戦隊ヒーローのイエローで、カレーを好物としていたのは2人だけ。にもかかわらずイエロー=カレーのイメージを定着させた2人の功績は、もはや偉業と言って良いだろう。 「お、お前達の言う事など……」 さて、更なる能力者達の追い打ちにそれだけ言い返したケンだが、降り注ぐ正論にかなり窮している様子。 「自分の中に逃げ込むな、キミの中の正義はそんなものか? 辛くとも現実と戦う勇気こそが正義じゃないのか? ジャスティス・ケン!」 「っ……」 更に言葉を連ねるフェリシア。ケンは立ち尽くしたまま俯く。 「納得できない? 言いたいことでもある? よかろう、いくらでも聞こうぞ。ただし、現実でな」 決め手とも言える月媛の一言に、崩れ落ちるケン。 (「夢で正義のヒーローなんてやっているぐらいだ、悪い奴ではないはず……」) 恭也がそう読んだ通り、彼も根は善人なのだ。 「ケン! 騙されちゃいけない……そいつらの言って居る事は、一見もっともらしい。だが、ケンは逃げてなんかいないじゃないか」 「そうよ、こうして私達を守ってくれてるじゃない!」 と、心が折れ掛けたケンを励ますのは、夢の世界の住人達。 「あいつらの卑劣な罠にはまってはダメだ。ヒーローの心を惑わすのは悪人の常套手段だぞ!」 ケンの闘志が萎えてしまえば、彼らの力も半減する。そうはさせまいと、頻りにケンを焚き付ける。 「そ、そうだ……俺は守らなくてはいけない……この世界を……人々を……チャージングGO!」 これを受け、再びジャスティス・ケンに変身するケン。 いつの間に変身が解けていたのかは謎だが、要するに演出上の都合だろう。 「変身したとは言え、心に迷いがあるのは明白」 「うむ。実力行使に出るなら、それでも構わん。我ら、悪役戦隊ごれんじゃうが、返り討ちにしてやろう」 「「おーっ!!」」 かくて、戦いの幕は切って落とされた。
●さらばジャスティス・ケン 「都合の良い夢の中で、躓きのないヒーローなんて可哀想なだけ……僕達が助け出してあげるよ!」 「ええいまだ言うか、こいつからやっちまえ!」 ――ぶおんっ! 小春に振り下ろされるバットや角材。 だが、それらをヒラリとかわした小春は、体内に眠る「気」を爆発的に覚醒させ戦闘力を高める。 「白河さん、いつまでもブルーになってる場合じゃないですよぅ。来年くらいから本気出せば十分間に合いますぅ!」 「そ、そうだな、気を取直して行こう……」 取りあえず、現実から目を逸らす事にした2人。融のブラックヒストリーが辺りを乱舞する。 「おのれごれんじゃう! 罪の無い一般人を巻き込むとは卑劣な!」 「他人の心配をしている場合か? まずは挨拶代わりだ」 ――バキッ! 再びヒーローになりきり始めたケンの頬を、月媛の拳が強かに打ち据える。 「その性根、叩き直してやる」 「ぐっ……悪役ごときが……知った風な口を聞くなぁっ!!」 ヒーローポーズを取り、こちらも戦闘力を高めるケン。 「よく聞け、ジャスティス・ケン! 本当に護るべき者は命を賭して護るべきなのだぞ」 多量の導眠符を竜巻に乗せて乱舞させる瞳。 更にはフェリシアが妖狐の守護星を瞬かせ、住人達を飲み込ませる。 「だ、黙れ! そんな事お前達に言われずとも解っている!」 ケンは必死に言い返すが、彼の心は能力者達の説得により大きく揺らいだまま。弱体化を余儀なくされた住人達は、次々に眠り、石化してゆく。 「ケン……助けてくれ! 君しかいないんだ……この世界を守ることが出来るのは――」 ――ザシュッ。 ケンの心を惑わそうとする住人の言葉を、恭也のティアダウナーが途切れさせる。 「邪魔立てはさせないよ」 再度吹き荒れるのは融のブラックヒストリー。悪夢の住人らは、次々と打ち倒されていく。 「み、皆……よくも! ジャスティス・フラーッシュ!!」 ――バッ!! 守るべき対象を失ったケンは、半ば破れかぶれといった様子で必殺技を繰り出す。 眩い光に飲み込まれるごれんじゃう。 「やったか!?」 「……フラッシュ? そんなもので悪のロマンが止められるかー♪ 悪を倒すのは魂の込められたその拳のみ!」 ――ドンッ! 「ぐっ!?」 小春の脚が、大地を踏みしめると瞬間に広がる衝撃波。ケンのバランスを崩し、よろめかせる。 「我等ごれんじゃうの方が、ヒーローというものを理解しているぞ。ヒーローが輝いてこそ、我等悪も輝くのだからな。甘ったれの貴様は、思いきり教育してやろう!」 ――ドゴォッ!! 「ぐああっ!」 月媛は両手のパイルバンカーによって、ケンを強かに打ち据える。 インパクトの瞬間からその体内を駆け巡る衝撃は、彼に膝をつかせるには十分な威力。 「何か必殺技の名前でも叫んだ方がいいのかい? 天妖……九尾穿!」 フェリシアの九尾が、ケンの鳩尾を抉る様に直撃する。 「ぐうっ!? ……ば、ばかな……この俺が……正義のヒーローが……」 「くっくっく、偽りのヒーロー破れたりですぅ」 崩れ落ちるケンと、楽しそうに悪役を演じる涼子。 「次は真のヒーローになるんだぞ」 失われる意識の中、瞳の言葉は恐らくケンに届いた筈だ。
●そして現実へ 「ケンさんは正義感が強くて力もあるから、警備関係の仕事とかいいんじゃないですかね?」 ベッドの上で眠るケンに、就職情報誌を渡す融。 目覚めた彼が、どの様に現実世界を生きて行くかは解らない。 ただ、二度と夢の中に逃げ込む事は無いだろう。 彼が現実のヒーローになってくれる事を祈りつつ、能力者達は部屋を後にする。 「大学の春休みって長いから、ずっと休みたくなっちゃいますよねぇ……出来る事なら1年中が休みの世界に……」 しかし現実世界が辛ければ辛いほど、人々は甘美な夢の世界へ逃げ込みたがるもの。 彼らを救う能力者達の戦いは、いつ果てるとも無く続いてゆくのだろう。 頑張れ僕らのごれんじゃう! 戦えぼくらのごれんじゃう!
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参加者:6人
作成日:2011/04/05
得票数:楽しい1
カッコいい12
せつない3
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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