山桜は夢を見ない


<オープニング>


「皆さん、まずはこの写真を見て下さい」
 運命予報士は、そう言って大きく引き伸ばした一枚の写真を机の上に置いた。
「綺麗でしょう。これ、山桜なんです。ですが、ここをよく見て下さい……そうです、ここです。何かボンヤリしたものが写っているでしょう?」
 能力者達が写真を覗き込むと、成程、木の根元にうっすらと白い靄がかかっていた。
「いわゆる心霊写真ですか」
「そうです。ですから、今のうちに皆さんに手を打っていただきたいのです」
 そこは、写真から窺う限りでは、どうやらあまり人気のない、公園と呼ぶにはあまりにも大雑把な手入れしかされていない場所だった。
 それでも、今の季節は、山桜が丁度花をつけているため、昼の間はそこそこ人がおり、ほんの数軒ではあるが屋台も開いている。
 運命予報士の話では、問題の山桜以外にも4本。全部で5本の山桜が公園には植えられていて、それらは他の木々に混ざってぽつぽつと点在しているらしい。
 せいぜい1時間もあれば巡りきれる程度の広さなので、ついでにちょっと花見気分を味わうのもいいかもしれない。
「とりあえず、現地に行って写真と照らし合わせれば、どの木に残留思念がついているのか分かると思います。山桜は5本しかありませんから、特定にそう苦労することはないと思いますよ」
 場所を特定し、そこに詠唱銀を振りかければ、残留思念は忽ち地縛霊へと変貌するだろう。地縛霊の力はごく弱いものでしなかいので、さほど警戒する必要はない。
 しかし、地縛霊が現れれば、気配に誘われて、リビングデッドと化した野良猫が3匹ほど姿を見せるだろう。こちらもさして強くはないが油断は禁物だ。
「とりあえず、気をつけていただきたいのは、残留思念は一般人に影響を与えないかわり、世界結界の効果もないということです。つまり、人払いが期待できないということです。ですから、戦闘を行う際には細心の注意を払って下さい。とりあえず、昼の間は散策がてら場所の特定をするようにしてみたらいかがでしょう?」
 折角、まだ桜が咲いているのですしね、と、運命予報士はにっこり微笑んだ。


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参加者
霧生・颯(双子の妖草使い〜兄〜・b01352)
緋霧・恋歌(高校生魔弾術士・b01848)
蒼月・桜華(高校生魔弾術士・b02095)
村上・志乃(打たれ弱い魔剣士・b03482)
詩鳥・絢音(朱桜灯籠・b07074)
天皇・藍華(禁忌秘想華・b17830)
椎名・あや(月下美人の雫・b21094)
早瀬・葵(高校生ファイアフォックス・b22756)
織原・和泉(神術士・b24087)
長谷部・夢路(高校生水練忍者・b24520)



<リプレイ>

●散策
 春の日差しの中、公園へと続く坂道を元気良く駆け上がるひとつの影。
「早瀬さ〜ん、こっちです〜♪」
「あっ、いたいた! 颯くんお待たせ〜!」
 早瀬・葵(高校生ファイアフォックス・b22756)は、息を切らせ坂の天辺まで辿り着くと、そこで待っていたウサ耳リボンの短パン少女……いや、少年、霧生・颯(双子の妖草使い〜兄〜・b01352)に、朱のさした顔でニッコリと微笑みかけた。
「ごめんごめん、待った?」
「ううん、僕もついさっき来たところ」
 残留思念の付いている山桜を見つけるという目的があるとはいえ、好意を寄せている相手と一緒の特別な時間。颯の頬は心なしか、走ってきたはずの葵以上に朱に染まっていた。
「それじゃ、行こうか?」
「あ、うん。……あの、早瀬さん……手、繋いでもいいかな……?」
 もじもじしながら尋ねる颯の手を、笑顔で頷いて握りしめる葵。
 2人は笑いながら、公園の中へ駆けていった。

 天皇・藍華(禁忌秘想華・b17830)は、ひとり、屋台で買ったフランクフルトを齧りながら公園散策をしていた。
 のんびり気ままなように見えて、その実、目は忙しなく周囲の状況を確認している。
(「対象となる桜はあの木……周囲の地形は……うん、憶えた」)
 これで、あとは心おきなく散策に時間を割くことが出来る。しかしどうせなら独りよりも可愛い女の子と……と、彼女が目を付けたのは、同じく独りでふらふらと歩いていた詩鳥・絢音(朱桜灯籠・b07074)だった。
「花咲く園で眠れ眠れ……」
 物思いに耽りながら可愛らしい声で歌う彼女の肩を、藍華は後ろから近寄り、そっと叩いた。
「浪々連なる夢路の……きゃっ!」
 ピクッと肩を震わせ、振り返る絢音。
「こんにちは、詩鳥さん」
「あ、藍華殿……ちょっと驚いたのじゃ……」
 振り返った先に見えた藍華の笑顔に、絢音はホッと胸を撫で下ろした。
「ねえ、良かったらこの後一緒に桜を見ない? お菓子もほら、さっきポップコーン買ったの」
「そうじゃのぅ、ひとりより2人の方が楽しかろう」
 桃色の瞳をくるりと動かし、絢音は藍華に微笑んだ。
「それじゃ決まりね♪」
「ちょっ……藍華殿……!?」
 藍華は嬉しそうに絢音に腕を絡めると、指先で器用にポップコーンを弾きあげ、ぱくりとくわえた。

 さてその頃、緋霧・恋歌(高校生魔弾術士・b01848)はと言えば……。
「んー、やっぱりこっちの桜の方が綺麗〜♪」
 彼女は既に残留思念のついた木の特定を終え、その途中で見つけた一番綺麗に咲き誇っている山桜の木の下で、のんびりとジュースとお菓子を楽しんでいた。
 どうやら彼女、件の桜の木を探すことよりも花見とお菓子に夢中なようだ。
「けど、ダラダラばっかりしてるのも飽きるわねぇ〜……あら?」
 恋歌は、やや遠方の見覚えのある後ろ姿に、クスッと笑って立ち上がった。
「ちょっと眺めて遊んじゃおうかしら♪」

「やっぱり桜はいいものですねぇ〜」
 椎名・あや(月下美人の雫・b21094)はそう言って咲き誇る山桜にカメラを向けた。
 写真部の活動を装いながら、ファインダー越しに見える景色を、運命予報士に見せられた写真の記憶と照らし合わせてゆく。
 ふと、一本の木の前で彼女の手が止まった。
「この木みたいですねぇ〜。綺麗な山桜です。こんな所に地縛霊がいるなんて、市民の皆さんも安心できませんね」
 彼女は、周囲の地形を注意深く観察し、それを写真におさめた。
 そこに丁度、スケッチブックを抱えた蒼月・桜華(高校生魔弾術士・b02095)が姿を見せた。
「「あっ……」」
 2人は一瞬ハッとして、周囲の人達を見たが、別段誰も気にしている様子はないようだった。
「この木で間違いないみたいですね」
 桜華の言葉に、あやも頷いた。
 山桜は特定した。あとはこの情報を皆に伝え、人気のない時間帯を見計らって地縛霊とリビングデッドの退治を行うのみ。
「折角ですし、もう暫く御一緒しませんか?」
「はい〜是非に〜」
 風に舞い散る花弁に目を細め、2人はゆっくりと歩き出した。

 彼女達と入れ違うようにして、今度は村上・志乃(打たれ弱い魔剣士・b03482)と長谷部・夢路(高校生水練忍者・b24520)が姿を現した。
「んー、この桜だな」
 探索中に出会った2人は、どうせなら一緒にと、のんびり花見を楽しみながらここまで辿り着いていた。
「山桜ってなんか古風だよな。地縛霊は着物姿だったりして……」
「そうだったら面白いですね」
 夢路はそう言って笑い、山桜の木に触れてみたが、何ら変わったことは感じられなかった。しかし、ここに残留思念が蓄積しているのは間違いない。
「世界結界も作動しませんし、戦う時は一般人に見つからないように気をつけないといけませんね」
「そうだな、人目には気をつけないと」
 決行の時間は、皆が集まってから話し合って決めよう。
「さて、まだ時間あるようだし……弁当持ってきてるんだけど、少しつままないか?」
「いいですね。なら、そっちの芝生で……あ、飲み物買ってきますね」
 そして、2人はまた花見客に戻った。

 人気の無くなってきた夕刻、織原・和泉(神術士・b24087)が漸く公園を訪れた。
「おやお嬢ちゃん、こんな時間に独りで花見かい?」
 物珍しさからか、そんな彼女に店仕舞いの支度をしていたたこ焼き屋の店主が声をかけてきた。
「はい。授業の一環で身近な樹を、ということで山桜を見ているんです。綺麗ですよね」
「そうかい。あぁ、どうだい? 半額にしとくからひとつ買ってかないかい?」
「はい、是非。……いつもここでお店を出してるんですか? ここは初めて来たんですけどゆっくり出来る良い場所ですよね」
 たこ焼きを手に、世間話を交えながら店主から公園の利用状況等を聞き出してゆく。
(「やっぱり、夜間は殆ど人が居ないようですね」)
 和泉は、店主にぺこりと頭を下げると、まだ手をつけてないたこ焼きを持ったまま、一旦公園をあとにした。

●掃討
 そして、日が沈み……。
「みんな、目的の桜は特定できた?」
「うふ、バッチリよぉ♪」
 人目を避けるように一所に集まった能力者達は、特定した桜の木の特徴、そして周囲の風景を話し、照らし合わせていった。
「どうやら、場所は間違いないようじゃの」
「そのようですね。それと、屋台の人から聞いたんですが、やはり夜間は殆ど人が居ないようです」
「じゃあ、時間も問題ないな」
 能力者達は、戦闘時の役割分担を再度確認すると、真っ暗な公園を一直線に目的の桜へ向かって駆けていった。

「みんな、準備はいい?」
 詠唱銀の欠片を握りしめ、葵が皆を振り返る。
「はい、いつでもどうぞ」
 葵とともに最前列に立つ桜華は、斬馬刀の柄をグッと握りしめ、桜の木の根元を見つめた。
「では、いきます……!」
 和泉の手にしたランタン光に、ぱらぱらと舞い落ちる詠唱銀が照らし出される。
 すると、まるで化学反応でも起こすかのように、周囲に溜まっていた残留思念が渦巻き、形を取ってゆき……。
「現れたな……いいかシャーマンズゴースト・フレイム、火は噴くんじゃないぞ」
 周囲を警戒し、シャーマンズゴースト・フレイムになるべく派手な行動を避けるように指示を出しながら、志乃は現れた地縛霊目がけて長剣を振り下ろした。
「地縛霊ごめんなさい〜大人しくして下さいね〜」
 後方から、あやの光の槍が一直線に飛ぶ。更に、やけに露出度の高い甲冑に身を包んだ藍華の扇から、雷の魔弾が放たれる。
『ガガッ……!?』
 生まれたばかりの地縛霊は、突然の出来事にひどく動揺しているかのように見えたが、それでも本能からなのか、目前にいる葵目掛けて鋭い爪を伸ばしてきた。
「甘いっ!」
 葵はそれを難なく受け止めると、逆に地縛霊にフェニックスブロウを叩き込んだ。
『グガガ……』
 最早、風前の灯火となった地縛霊。しかし、その思念を感じ取ってか、闇の中から鈍く光る6つの目が現れた。
『にゃぁ〜……』
「キミ達の相手は僕だよ!」
 颯は長杖を振り上げ、一番先頭にいた猫のリビングデッドへ向けて雷の魔弾を撃ち込んだ。
「すまぬが、暫く眠っていてくれぬかのぅ」
 緩やかに響く絢音の歌声。地縛霊と猫達は、忽ち眠りに落ちてしまった。
「夜も遅いしぃ、さっさと片付けるわよぉ〜!」
 闇夜を一閃。恋歌の龍尾脚が、眠る地縛霊を呆気なく討ち倒した。
「そうですね。一般の人達に気付かれないうちに、早く終わらせましょう」
 和泉は冷静に薙刀を振るい、既に手傷を負っていた猫のリビングデッドへと止めを刺した。
 そして、残る2匹も、夢路の水刃手裏剣をはじめとする的確且つ容赦のない攻撃のもと、反撃すら出来ぬまま地へ倒れ伏した。

●平穏
 周囲は、まるで何事もなかったかのように静まりかえっていた。
「やっぱり静かでありたいわね、こういう場所は」
 和泉は、戦闘によって荒れた地面を踏み慣らしながら、平穏を取り戻した空気にほっと溜息をついた。
「猫、どこかに埋葬できるといいですね」
「なら、この木の陰なんてどうでしょう。灌木も多くて人目に付きにくそうですし」
「あ、良さそうですね。そうしましょう……今度は、普通の猫としてお会いしたいですね」
 桜華達は猫の亡骸を地中へ埋めると、そっと目を閉じ、手を合わせた。
「どの様な想いがあったかは、きっと測りは知れぬもの……せめてその眠りが安らかなものであるよう……」
 桜に眠る霊に何かしらの思い入れがあったのか、絢音は、じっと山桜を見つめ、祈りを捧げるように呟いた。
 それぞれの想いを胸に抱きながら、能力者達は、手際よく周囲を片付けていった。
「よし、これで終わりだな」
「それじゃ、夜更かしはぁ美容に良くないしぃ、恋歌、もう帰って寝るわねぇ〜……」
 恋歌はそう言って手を振ると、あふっと小さな欠伸をした。
「では私も、お先に失礼します」
 和泉も、皆に軽く一礼し、夜の公園から一足先に帰っていった。
「皆さんお疲れ様でした〜。夜桜……綺麗ですねぇ……」
 去ってゆく背中に手を振りながら、あやは、おっとりと桜の木を見上げた。
「みんな、お疲れ様。うん、憑き物が取れた夜桜はきれいだな」
 志乃も腕を組み、うんうんと頷いた。
 葵と颯は手を繋ぎ、仲良く夜桜を見上げた。
「夜の公園にくる事なんてそうそうないし。ゆっくりして行くのもたまにはいいですよね」
「そうですね、折角ですから桜を楽しんでから帰りましょう」
 夢路の言葉に同調するように、残った能力者達はベンチへと腰を下ろした。
「そういえば、先程から藍華殿の姿が見えぬようじゃが?」
 きょろきょろと辺りを見回す絢音。
 そこに、戦いの興奮で火照った身体を冷まし終えた藍華が、服の襟元を整えながら戻ってきた。
「ごめんなさい、ちょっと風に当たってたの」
「そういえば、夜風も心地良いですねぇ〜」
 さぁっと吹き抜ける風に、あやの藍色の髪が揺れる。
 気が付けば、少し離れたベンチでは、颯が葵の肩に凭れてスヤスヤと寝息を立てていた。
「颯くん、お疲れ様」
 その姿に葵はクスッと笑みを浮かべ、風に揺れるウサ耳リボンをそっと立て直してやった。

 平穏を取り戻した山桜から舞い落ちる淡い花弁。
 それはまるで、能力者達にお礼を述べているかのようにもみえた。


マスター:大神鷹緒 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2007/05/18
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