風燃やす鳳翼


<オープニング>


「うん、みんないるわね?」
 昼下がりの武道場。少し遅れてやって来た八重垣・巴(高校生運命予報士・bn0282)は能力者達の顔を確認すると語り始めた。
「今回、あなた達に頼みたいのはとある廃ビルの屋上に見つかった強力な残留思念への対処よ」
 その廃ビルは、繁華街から少し外れた場所にある。最初の区画整理の計画ではそこまで繁華街が広がるはずだったのだが、その計画が不況で頓挫――飛び地のように、そこにそのビルだけが建てられたのだという。
「立地が立地がだから、人気が出ずにそのまま廃れていっちゃったのね。で、ビルの所有者が不当たりを出して失踪――それによって、無人の廃ビルが出来上がっちゃったのよ。今ではちょっとした肝試しのスポットになっているわ。時期が外れている今の内に、詠唱銀でゴースト化させて確実に処理して欲しいの」
 巴はそこで一度言葉を切ると懐から取り出した地図を広げる。
「問題の廃ビルはここね――万が一を考えて人目を避けるために夜がいいわ、だから光源は必須ね。残留思念のある屋上が戦場になるけど、広さがあまりないわ――後衛にいても相手の射撃攻撃は届くからそこは十分に注意して」
 残留思念は屋上の真ん中にあり、そこから出現するのは一体の妖獣と六体の地縛霊だ。
「厄介なのは、妖獣ね。体長は二メートルほど、燃え盛る炎の鳥よ。幸い、飛べないし動きは鈍いけど、なかなかに面倒な敵なの。攻撃手段はたった一つ――遠距離の視界内を炎で埋め尽くす、それだけよ。この炎には強力な『魔炎』と『締め付け』、加えて『封術』の効果があるの。戦場が狭いだけに、対処を間違うと一気に劣勢にもっていかれるわ」
 そして、同時に出現するのは影がそのまま起立したような薄っぺらい地縛霊六体だ。
「この地縛霊は近接の全周へと体の一部の影をばら撒いて攻撃するわ。これは回避が困難な上に強力な『猛毒』の効果があるから要注意よ」
 このゴースト達は炎の鳥を中衛に前後を三体ずつが横一列に並び守るように出現する。どういう陣形で挑むか、それが一番重要よ、と巴は念を押した。
「とにかく、手当たり次第に攻撃して来るだけの連中だけの攻撃力は本物よ。こっちはきちんと戦術を練った上で対処に当たってね? ――大丈夫、あなた達なら出来るって私は信じているわ」
 じゃあ、頑張ってね、と巴は信頼の笑みで締めくくり、能力者達を見送った。

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参加者
綾上・千早(殺神一劍・b02756)
琉孔・セト(彼の蟲溢るる籠灯籠・b03188)
陽桜祇・柚流(華焔公・b21357)
的場・遼(真ゾンビハンター・b24389)
ブルース・レイ(白黒の逆さ歩兵・b30727)
国見・眞由螺(影武者・b32672)
神羅・あやね(深山の女天狗・b35586)
天童・将(聖地への棋跡・b46020)
梁瀬・美優姫(錆色の魔女・b55136)
八葉・文(八つ神の舞巫女・b71444)
悠・流(風の如き自由騎士・b76769)
海原・零(蒼魂の霹靂・b78340)



<リプレイ>


「おっしゃー♪ 今回のメンバーにも可愛い娘がいっぱいいるじゃないか! これはやる気倍増だぜー!」
 廃ビルの屋上、一人テンションの違う盛り上がりを見せる的場・遼(真ゾンビハンター・b24389)を横目に見ながら、陽桜祇・柚流(華焔公・b21357)が呟く。
「この廃ビルは、さながら妖獣の支配する焔の塔……かな。強敵だけど……ここで僕らが倒せなかったら、誰かの命が脅かされるかもしれない」
 繁華街は遠く、明かりも疎らだ――しかし、その光の一つ一つに人の生活が、命があるのだと、そう思えば気が引き締まる。
「ビルの屋上に現れる炎の鳥……ですか。怪我でもしてそこから動けなくなってそのまま……でしょうか? ……なんにせよ、早めに消えてもらうのです」
「まぁ、頭冷やしてあげて、スッパリあの世に逝ってもらいましょう」
 どんな理由がそこにあってもやる事には、変わらない――八葉・文(八つ神の舞巫女・b71444)の疑問に詠唱銀を片手に綾上・千早(殺神一劍・b02756)が仲間達を見回した。
「じゃあ、撒くよ」
 布陣がすんだ、それを確認すると千早が詠唱銀を残留思念へと撒いた――その直後だ。
 ドウ! と火柱が上がる――そして、火柱はやがて体長二メートルほどの燃え盛る炎の鳥へと変貌した。その炎の鳥によって暖められた風を受けながら、悠・流(風の如き自由騎士・b76769)がニヒルに笑う。
「暖を取るには丁度ええかもしれんな」
「風を燃やす炎の鳥……これが完全に鳥として飛べるようになったら、倒す事はかなり困難になっていたでしょうね。今でもかなり恐ろしい存在ですけど、野放しにはとても出来ません」
 天童・将(聖地への棋跡・b46020)が術扇を開き構えながら言った。その言葉に、海原・零(蒼魂の霹靂・b78340)が小さく苦笑する。
「炎の鳥とはカッコいいが飛べないのか。……まぁ雷鳥――サンダーバードの僕も飛べる訳じゃないが」
「今回はまた随分大モノね。見た目も仰々しいみたいだし。まぁいいわ。被害が出る前に浄化してやりましょう」
 梁瀬・美優姫(錆色の魔女・b55136)がそう言い捨て、琉孔・セト(彼の蟲溢るる籠灯籠・b03188)も静かに言い放つ。
「考え無しに火を噴く輩に、考えて行動できる私達が、対処できないはずはない」
「アンタら恨みはないけど、これもアタシの仕事なの大人しく死んでくれるかしら?」
「蜘蛛の巣に掛りし獲物たちよ。我らが贄となるがいい!」
 神羅・あやね(深山の女天狗・b35586)が、国見・眞由螺(影武者・b32672)が、凜と言い放てば、ブルース・レイ(白黒の逆さ歩兵・b30727)が挑むように吐き捨てた。
「俺の炎とあんたの炎、どっちが勝つかな?」
 ユラリ、と炎に揺らめくように立つ六体の影を従え、風燃やすモノがその翼を広げる――ここに、戦いの火蓋が切って落とされた。


 風燃やすモノを中心に前に三体、後ろに三体、横一列に踊らされし影が控えるゴースト達の陣形に対して能力者達の陣形はこうだ。
 布陣を前後の二つに分け、ゴースト達を挟撃するように、前方の陣の前衛に千早と眞由螺、ブルース、中衛にあやね、後衛に美優姫と流、零、後方の陣の前衛に遼と将、後衛に文とセト、柚流といった布陣だ。
「ブラックヒストリー!」
「遊んでいる暇はないの……」
 柚流が原稿用紙を舞い散らせ、あやねが虎紋覚醒で自己強化を施す。
「幻影兵よ。来たれ!」
「いくぞ、ペラペラ人間!」
 ザザザザザザッ! と将によって召喚された幻影兵達が仲間達の背後に控え、駆けた千早が低い体勢から放つ高速回転蹴り――グラインドスピンで三体の踊らされし影を蹴り飛ばした。
「何者も、我が糸からは逃がさぬ!」
「さて、狩りの時間だぜ!」
 眞由螺の紡ぐ土蜘蛛禁縛陣の糸が戦場に張り巡らされ、遼が独自の狩猟体勢を取る。ギシリ――、と二体の踊らされし影が、糸に絡み取られ身動きを封じられた。
「ほら! 喰らいやがれ!」
「さあ、始めようか?」
 ドンッ! と突き出した流の右手から一条の電撃が放たれ、ブルースがクルセイドモードで自己強化する。
「高速演算開始――」
「喰らえ!」
 美優姫がその赤茶色の瞳に文字列を走らせ自己強化し、先手必勝とばかりに零の詠唱銃の射撃が踊らされし影の一体を撃ち抜いた。
「アークヘリオン!」
 そして、セトの刻んだ始まりを意味する刻印から溢れ出す光の爆発が三体の踊らされし影を飲み込んでいく。
『――――!』
 そこで、四体の踊らされし影が動いた。千早とブルース、遼、将、眞由螺をそれぞれ巻き込むように厚みのない影をばら撒き切り裂いていく。
『ヒュウ――――!』
 そして、風燃やすモノが風切り音のような声と共に炎の翼をはばたかせ前方の陣を炎で飲み込んだ。
「慈しむは命の力、邪なる力に屈せぬ力の舞!」
 すかさず文が慈愛の舞を舞う――その舞を受けて、能力者達を包んでいた魔炎が音もなく四散する。
「……ち、予想通り攻撃も激しいな……」
 零が小さく舌打ちする――その目の前で、風燃やすモノがその飛べない翼を広げていった。
 夜の闇の中で、あまりにも美しいその光景へ――能力者達は挑んでいく。


 ――白燐光の淡い輝きと火の粉が夜を彩る。
「命を喰らい尽くせ……、壱の秘剣・ヒルコ!」
「燃えちまいな!」
 眞由螺の闇色に染まる長剣とブルースの紅蓮の業火に包まれた長剣が一体の踊らされし影を切り裂き、燃やし尽くした。
「俺の邪魔をするな!」
「技を使うだけが能じゃないってな!」
 遼の黒い瞳が禍々しい輝きを宿し、流が詠唱ライフルの引き金を引く。ザクリ、と一体の踊らされし影が内側から切り裂かれ、もう一体の踊らされし影がライフルの一撃に撃ち抜かれ不安定に揺れる。
「ライトニング――ヴァイパー!」
「癒しの音よ……響け!!」
 ドンッ! と美優姫の突き出した右手から放たれたライトニングヴァイパーが紙を貫くように踊らされし影を撃ち抜き四散させ、前方の陣、その前衛を零のリベリオンビートが回復させた。
「黒子は引っ込む時間……だよ!」
 そして、最後の踊らされし影の一体をセトのアークヘリオンの一撃が吹き飛ばす!
『ヒュ――!!』
 再び、風燃やすモノがその翼を羽ばたかせ、炎の海を生み出す。後方の陣形を飲み込む魔炎――その中で文が舞う。
「慈しむは命の力、邪なる力に屈せぬ力の舞!」
「く、蒼の魔弾!!」
 文の慈愛の舞のよって魔炎を振り払いながら、柚流が時空を歪める蒼い雷を撃ち込む。しかし、それを風燃やすモノは翼の羽ばたきで受け流した。
「逝かせてあげるわ!」
「光よ、貫いて!」
 前方からのあやねによる白燐侵食弾が、後方からの将による光の槍が風燃やすモノへ放たれる――それを風燃やすモノは自分の体から生み出した炎の壁で受け止めた。
「影よ、穿て!」
 そして、その間隙に千早の足元から影が伸びる。そのダークハンドの鉤爪が風燃やすモノの喉笛へと突き刺さった。
 ――能力者達とゴースト達の戦いは一進一退の攻防となっていた。
 火力に勝るゴースト側ではあるが、その攻撃も陣形を二つに分けた事により文字通り効果が半減している。それに加え文と零の優秀な回復手段とそれぞれの自己回復によってその猛攻を耐え凌いでいた。
 しかし、風燃やすモノの攻撃は苛烈だ。それしか行わない――だからこその威力は、次第に能力者達の回復量を超えていく。こうなれば、速度勝負だ――倒されるか? その前に相手を倒すか? そして、ついにその時が訪れようとしていた。
「燃え尽きろ!」
「内側から爆ぜろっ!」
 ブルースの紅蓮撃の斬撃が深く風燃やすモノの胸元を横一文字に切り裂き、その傷口を遼の呪いの魔眼が広げる。
「ぶち抜け!!」
「いくらまだ寒い時期って言っても、貴方は熱すぎるわね。もう少し控えなさいなっ!」
 流と美優姫、二条の電光が戦場を貫く――苦しげに身悶えた風燃やすモノを見ながら、零がリベリオンビートをかき鳴らす。
「もう少し、頑張れ!」
「翼をもがれて、燃え尽きなさい!」
 リベリオンビートを回復を受けながら、セトが渾身の力で光の槍を投擲した。その一撃は、風燃やすモノの翼を貫き、その首元を貫く!
『ヒュ―――!!』
「ぐ……!」
「――!」
 風燃やすモノが死力を振り絞り、その翼をはばたかせる――そして生み出された炎の海に、ブルースと美優姫が耐え切れずアスファルトの上へと転がった。
「慈愛の、舞……!」
「お前の焔でも、灰塵とならないものがこの世にあるって事……見せてあげるよ……っ」
 文が慈愛の舞を舞う中、背後から飛び掛った柚流がそのナイフを振るう。ズッ! という確かな手応え――そこへ、あかねと将が続いた。
「邪魔よッ!!」
「護られるだけではいられない……!」
 あかねの白燐侵食弾が右の翼を、将の光の槍が左の翼を撃ち抜く。明確な苦痛に身悶える風燃やすモノへ、二つの影の鉤爪が迫る――千早と眞由螺だ。
「捌いたげるから、そのまま焼き鳥になんなさいっ!」
「黄泉津大神の腕に抱かれて果てよ……、弐の秘剣・イザナミ!」
 ザザンッ! と二つの影が鉤爪を突き立てる――そして、大きく形を崩した風燃やすモノはただの一度も空を飛ぶ事のなかった翼をはばたかせ、四散した……。


 ――戦いの熱気を、まだ冷たい春の夜風が文字通り吹き消していく。
「戦ってる時は暖かかったけど倒したら寒くなってきたな」
 流がそう呟いて、苦笑する――倒れた二人も命には別状はない、だからこそ出る軽口だろう。まともにぶつかっていたら、もっと大きな犠牲が出ただろう――そう考えれば覚える寒気は、決して夜風の冷たさだけではないはずだ。
「流石に息が上がるわ……。まあ、肝試しに本物が出なくてよかったかしらね」
 セトがそう安堵の息と共にこぼす。犠牲者を出さずにすんだ、その事に素直に安心した。
「それでは、帰りましょうか?」
 懐から取り出したお煎餅を齧りながら、文が言う。それに仲間達はうなずくと帰路へとついた。
 あの飛ぶことすら出来ず燃やす事しか出来ない翼は、もう誰も傷付ける事はない……。


マスター:波多野志郎 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:12人
作成日:2011/03/31
得票数:カッコいい9 
冒険結果:成功!
重傷者:ブルース・レイ(白黒の逆さ歩兵・b30727)  梁瀬・美優姫(錆色の魔女・b55136) 
死亡者:なし
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