ライブハウス『7th』へようこそ!


           



<オープニング>


 N.A.R。
 とある老舗・名門ライブハウスが開催している定期イベントです。オーディションもデモ音源審査も無し、ジャンル不問な上に機材レンタル費も無料。チケット代も格安と言う、初心者や高校生バンドにとっては至れり尽くせりなこの企画。
 若手ロックミュージシャンの登竜門的存在であり、ここから、多くの有名アーティストが巣立っていきました。
 このステージに、『彼女』と一緒に立とうと願う人はいますか――?
 
「あなたたち、あたしと対バンする気はある?」
 神凪・刹菜(高校生フリッカースペード・bn0010)は、『N.A.R!』と大書された黒板を背に、そう尋ねました。
「日曜昼間の枠が空いてるの。バンド5つ分。バンド1つに与えられた時間は30分。その間、きっちり演奏できるだけの腕さえあれば他は問わないって言う企画なの」
 そこを銀誓館のバンドで埋めてみよう、というのが彼女の狙いなようです。
「ただ、演奏するならオリジナルの曲にして。これは絶対よ」
 にやりと笑ってハードルを設定し、
「ま、観客として来るって手もあるわ。チケット代、かなり安いし」
 そう続けます。
「こういう由緒あるハコで演奏するってのも、バンド続けてくなら、良い経験になると思う。やる気があるなら、来て」
 ――もし気に入ったなら、セッションしてあげてもいいし。
 そう、小声で最後に付け加えて。

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参加者
NPC:神凪・刹菜(高校生フリッカースペード・bn0010)




<リプレイ>

●序幕「N.A.R(銀誓館Mix)」
 今日のN.A.Rは普段とは違う様相を見せていました。
 通常よりも遙かに多い枠。出演バンドは全て、鎌倉のとある学園に通う生徒児童達との噂。だと言うのに、ホールレンタルではなく、『7thのN.A.R』としての開催。
 若手育成に熱を入れている7thのことだから、何か企んでいるのだろう。新人達だけのフェスというのも、見ようによっては面白い。そう、7thの常連客達は結論づけました。元よりこの業界は玉石混淆。そして彼らは、磨けば光る原石たちを見るのが何よりも楽しみな好き者だらけ。前売り券は順調に売れていき、とうとう当日を迎えます。
 イベント告知のポスターの前には、ツインテールの少女――神凪・刹菜(高校生フリッカースペード・bn0010)。不敵な笑みを浮かべてしばらくポスターを眺めた後、彼女はライブハウス『7th』へと入っていきます。
 ――これはきっと、一回限りのイレギュラー。そして誰かの、夢の始まり。

●第一幕「Teenagers are crying to be sympathized」
「みんな、楽しんでる? ノってる? もしかして、もうお腹いっぱい? それじゃあダメダメ、まだ甘い。スタミナ不足だけじゃなく、メロコア分が足りてないっ!!」
 司会役を買って出たペルナのトークは、三つのバンドが演奏を終えた後も留まることなく。テンポ良く元気よく観客を導いていきます。十代の少年少女をターゲットに、観客との一体感を重視して、緩急をしっかり付けたステージ展開を見せた『Trap★Art』。少人数ながらもV系らしさを打ち出した『Croix de Rose』。楽曲、演出ともに正統派ロックバンド指向で攻め抜いた『Desperation』。彼らの後に続くのは――
「暗い気持ちを喰らい尽くす激しいcryが、アナタをクラッとさせる……『crime−clime』! どうぞ!」
 ――刹那、唸りを上げるギターリフ。一気に続く大音量のパンク・サウンドが、疾風のように駆け抜けます。その裏で堅実にリズムを刻み、時に表に出て存在を主張するベースとドラム。一曲目から一気に掴みに行くやり方は、『即席』には負けないという自負そのものでした。客席だけでなく楽屋でもにやりと笑い、あるいは驚く面々がいて。最前列では、ビートに合わせて激しくヘッドバンキングする少年少女の姿。
 緩急をくっきり付け、アマチュアなりに慣れた進行を見せる『crime−clime』の面々。用意したセットリストは順にクリアマークが並び、メンバー紹介を兼ねたMCが終われば、残るは最後の一曲。セットリストの最後を飾るのは、この日のために用意した新曲でした。
(「キメてやれ、クライムがこのステージのためだけに用意した新曲――」)
 名を、『teenage cry』。
 深く重く響くバスドラムとベースが拍動する心臓であれば、ミドルテンポで進むギターリフは血流。それらに畳みかけるような英語詞のラップが絡み合い、パフォーマンスを交えながらの演奏と共に最高潮を迎えます。その後に訪れるのは――唐突な静寂、でした。不意を打たれたかのように、観客のヘッドバンキングが止まります。
 ステージを照らしていた照明も今は絞られて、光の下にいるのはボーカルの吠示だけ。
「出来損ない達の肉塊」
 隙間を埋めるように、詞が生まれました。落ち着いた声で、語りかけるように。
「音楽が生まれた」
 次いでギターの尚志と一樹が光の範囲に入ります。出番を静かに待つ尚志とは対照的に、一樹はあの仕草で吠示へと中指を立てて見せました。にやりと強く、不敵に笑って。
「時代を変えなくったっていい、オレとキミに響くなら」
 最後にジンとキリヱ。客席最前列から後列へと視線を巡らせて――演奏、再開。
 ギターのアルペジオが穏やかに、けれどどこか競い合うように響く中、ベースラインとドラムは精確に鼓動を刻み。
 最後に連打されるバスドラムと、強く大きく響くスネアドラム。それらはまさに新生を叫ぶ産声。
 響いたかよ、と。
 スネアの残響と共に、滲んだ視線は客席の彼へと語りかけています。
 答えは万雷の拍手と、とある少年の――。

●第二幕「Allegretto Capricco」
 『熱血乙女・巫女バンド』vs『驚異の誤字バンド・Poison Tuna with Goji Maid』vs『みんなで歌おう本気狩猟★あやリン・ゾディアック』。ポップバンド指向の『Patch Works』の後に控えていたのは、見ようによってはイロモノと捉えられかねない三つのバンドでした。マニアックな人気を博しかねない程に独特な、コスチュームと演奏スタイル。そこに、熟練のスタッフによる演出技術が加われば、カルト&カオティックなステージが出来上がります。『crime-clime』までとは違うステージ展開に酔う観客も出る始末。
 そんな観客の声を一部取り上げるならば、
「変な漢字が頭の中に浮かぶ……! ……あのボーカル、歌い方はまともなのに……!?」
「悪霊だけでなく、誤字も退散させてほしい……! でも、巫女さんゴーゴー!」
「例え巫女さんが駄目でも、あやリンなら、あやリンならきっと……!」
 などなど。演奏技術の未熟さを補って遙かに余りある『楽しませたいし、共に楽しみたい』というバンド側の意志は、しっかりと通じているようでした。
 流石に長丁場は堪えるのか、演奏の合間やバンド交代の隙には、熱気に当てられた観客を他の観客が介抱する姿や、後列や壁際へと移動する姿が見受けられました。ライブに慣れた面々は、慣れているなりに楽しみつつフォローに回り。不慣れであったり、これがライブ初参加という面々も、同行している友人たちと共に、自身なりの楽しみ方を模索しているようです。
 そしてここにも、自身の楽しみ方を追求する面々がいました。ライブハウスのやや中程、壁際。楽器を小脇に抱え、或いは側に立てかけている彼ら・彼女らは、事情があってバンドを組まずにいた面々――ソロの参加者たちでした。普段は観客として場を盛り上げ、乱入上等を標榜するバンドが出たならば、愛器をひっさげ、もしくはその身一つでステージへと上がる。それが、本日の彼らのスタイルです。
「次は……ああ、もう始まりますね。『Allegretto』ですか」
「……確か、楽器屋の面々だったかな。どんなレベルか、少し楽しみだ」
「私達はどうしましょう、二郎さん?」
「ちょっと休んでよう、歌戀。流石に疲れた」
 興味深そうにステージを見つめるのは星司と陽炎。敢えて、先程のステージには上がらなかった二人でした。二郎と歌戀をはじめとした先程のステージに参加した面々は、観客として過ごすつもりのようです。
「驚いた。――あれだけドラムとベースがしっかりしていれば、安心できるってものだ」
「ええ。リズム隊がきっちりキープし続けているから、ギターの彼女があんなに動ける。――参ったな、熱くなってきました」
 などと二人にコメントさせるほど、ギターの彩音が前列で終始パワフルな演奏を見せ続けた一曲目、綺羅のトランペットでは足りないブラス分をレンのシンセサイザーが補い、スカ特有の軽快さをしっかりと表現した二曲目。夜宵のしっとりとした歌声を聞かせる作りが特徴的な三曲目。それらに楽曲に合わせたPAと照明演出も加わって、安定感のあるライブ進行を見せる『Allegretto』。
 四曲目、インストゥルメンタルナンバーの『MIX−UP』でソロ参加組の出番がやってきました。熱くなった二人がそれを見逃すことなど、あるわけもなく。『Allegretto』の面々が紡ぐ旋律に星司のベースと陽炎のサックス、そして、予期せぬ三人目――ここに来てようやくステージへと乱入した刹菜の歌声が加わりました。刹菜の歌声は、
(「あんなにしっかり発声練習をしてたのは、このためだったのでしょうか……」)
 と、偶然練習風景を覗いてしまったレンに思わせる程。
 かくして、『MIX−UP』は好評の内に終わり。最後の五曲目で、ライブハウス内に衝撃を走らせて、『Allegretto』はステージを降りました。
 7thに衝撃を刻んだ、その曲の名は――
「みんなー、行くわよー! 曲名はぁ、恋のっ! ジャーマン☆スープレックス♪」
(「アイド……ル……? 女装させられたから自棄になって吹っ切れたのか、それとも……!?」)
(「というかもう片方のボーカル、この曲のためだけにドレスからあんなコスチュームに……ッ!?」)
 例えコミックソングであっても、リズム隊の安定感を下敷きとして、『演奏の楽しさ』(と、時折ショップの宣伝)を観客へとアピールする姿勢は終始一貫していました。

●第三幕「聖剣幻想(ある・おとこの・うた)」
 『Allegretto』の次には、ピアノ主導のゴシック風ロックで勝負に出た『チェス』が続き。ツインボーカルの特性を活かした『Lunatic』も、今、最後のサビに突入していました。
「舞散る翼――夜を切り裂き。月の光――闇を照らし。僕等は君の――剣になろう」
 大空へと誘うようなキーボードとギターの旋律と、それらを支えるドラム。見るモノ、聞くモノを惹き付けるように舞い踊りながらも、不用意に触れるモノを容赦なく切り裂く剣のようなボーカル。夜半に不意に訪れた青空のような、幻想的な楽曲でした。
 次のバンドは、『Combat Band Ascalon』。ツインベース&ツインボーカルをウリとした構成で、『現代音楽(J−POP)による弾き語り』を行うという、特徴的なバンドでした。
「『Lunatic』さんが月の魔剣なら、うちは龍殺しの聖剣。気合い入れて行くよ、みんなっ!」
 ステージ袖でメンバーを鼓舞するのは、リーダー兼メインボーカル(&ダンサー)の静音。待ちに待った舞台ゆえか、全員の意気は上がりに上がっていました。
 演奏もまた同様。龍と騎士と、騎士の剣の物語。戦場の、旅路の、そして旅の果ての様々な情景を、ツインベースが先導する楽曲が、そして、曲ごとに組み合わせが変わるツインボーカルが描きます。龍と騎士との旅物語(として仕立てた、現代社会へのメッセージ)を綴る彼らには、ハードロックやヘヴィメタルではなく、メロディアスなポップナンバー……スピードポップとでも言うべきものこそが似合っていました。
 無二の相棒と言うべき剣を片手に龍へと挑み、旅を続ける騎士。絶望的な状況下であっても諦めぬ彼を支えるのは、不屈の意志。
「その刃に空を映して、斬り拓け、伝説の彼方。その足が止まらない限り、その剣を振るえる限り、僕達はどこへでも行ける――」
 龍に挑み、強大な龍を讃え、龍を倒し、無二の相棒たる剣と、龍討伐の際に失った者へと歌を捧げ。龍を倒した後の道行きを、希望を持って見据えていく。彼を主役として描いた全五曲からなる物語は、途中で刹菜の乱入を受けるも、無事に終わりを告げ。
 万雷の拍手が、物語を歌いきった吟遊詩人達へと捧げられました。

●第四幕「あの人に捧げる花」
 残るバンドは、刹菜の枠を含めて四つ。この長い長いイベントも、ようやく終わりが見えてきました。
 ラスト四つのバンドの内、先陣を切るのは『RedMotel feat 歌胤カノン』でした。『音楽やってる瞬間が、生きてるって実感できるんだ』とMCで語るカノンを筆頭に、『crime−clime』をどこか意識しているような、けれど彼らに負けるとも劣らぬ進行と構成で見せる彼ら。ロックの疾走感と、隣り合わせの喪失感。その穴を埋めるかのように求める観客との一体感。それら全てを、幅広い楽曲で表現し、求めていきます。
「ガキだったあの頃は、全てが本当でキラキラの明日が過ぎてた。夢ばっかりだった日常が、今は遠く見える――」
 『teenage cry』と対になるかのような曲を歌い上げ、次のバンドへと繋ぎます。
「永久(とわ)を謡い、空へと手を伸ばした。欲しかったのは永遠という約束――」
 そう歌い上げるのは、『Lilium concolor』の面々でした。スローテンポな曲でクールダウンを計った後に歌うこの曲は、『RedMotel feat 歌胤カノン』の曲、『夢追カレイドスコープ』を受けて続くかのようなハイスピードのロックサウンド。ハイテンションな演奏に切ない歌詞を合わせる手法を見せ、更に次のバンドへと道を譲ります。
 次に現れたのは、『Snow Drop』と――刹菜でした。驚きが走る客席をよそに、演奏は始まります。『Snow Drop』の名にふさわしい、雪のような冷たさと清廉さクールに進んでいくナンバーが、火照りに火照った観客の肌を、心を、そっと撫でて冷やしていきます。
 ラストナンバー前のMCで、刹菜からの説明が入りました。刹菜の枠は『Snow Drop』に託したと。そうするだけの意味と理由があるのだと。最前列でステージをじっと見つめるフィーアたちへと、まるで、諭すように。
 そうして、ラストナンバーが始まります。
「Snowdrop 導かれた春をあなたに贈ろうか。一輪の赤に託す『ありがとう……』」
 ボーカルの雪那を『Snow Drop』のバンドメンバーとともに支え、引き立てるかのように、サブのボーカルやコーラスの役に徹する刹菜。
 しっとりと、優しく、感謝を込めて紡がれる歌詞の意味するところは――
「――ああ、そうか」
 ――『母の日』に相応しい、母への感謝。そして、互いを気遣う『Snow drop』の面々への――。
「いい仲間を、得られたのだものな――」

●終幕「夢追カレイドスコープ(I wanna sing for all dreamers)」
 片付けを含めた全てが終わり、カノンらの案内の下、打ち上げ会場へと移動している銀誓館学園有志。彼ら彼女らの顔は、皆達成感に満ちあふれていました。長丁場ゆえの疲労も、見方を変えれば勲章のようなもの。ならば、更紗や真名たちが用意した差し入れ品――どれも疲れた身体や喉を気遣う品――は、褒賞と言ったところでしょうか。
 そんな中で、誰かが問いました。何故、このような無理を通したのかと。
「あたしは今年で卒業するし。――良い思い出くらいは残してやりたいってわけ、あんた達に」
 あっさりと。けれど、茶色の瞳を優しげに細めて返す刹菜。その場の全員が目を白黒させ、互いを、そして刹菜を見やった後に。
「……んもう、この先パイはあっ!」
 感極まった静音と、それに便乗した何人かが刹菜に抱きつきました。彼女らに揉みくちゃにされた刹菜が、お決まりの『バッカじゃないのっ!?』を炸裂させた頃。
 先行して打ち上げ会場を抑えていた面々が、移動中の有志を出迎えました。後はもう、明日の授業のことも忘れて、『お疲れ様でした!』の大合唱。
 ――これにてイレギュラーは終わり。けれど、彼ら彼女らの夢は――。


マスター:貴宮凜 紹介ページ
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参加者:98人
作成日:2007/05/23
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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