見果てぬ夢の、その先は


<オープニング>


 悲劇は、いつだって冷酷にやって来る。
 無慈悲に――濁流のように。

「くっ……!?」
 埼玉県某所。
 夜の路地裏で、苦悶の声が漏れた。
 声を漏らしたのは、茶髪の少年。
 意志の強そうな瞳を保有しているが――今、その瞳には弱々しい光しか無い。
「へぇ、結構やるね。正式な訓練も受けていないクセに」
「……褒めてくれる位なら、いっそ見逃してくれねぇか?」
「それは難しいなぁ」
 彼は今、何者かに襲われていた。
 精一杯の軽口を叩きながら、敵――敵に決まっている――を、ねめつける。
 ソレは。
 白い肌と、白い髪を持つ長身の女性だ。
 彼女の傍らには、巨大な狼が控えている。
「……何者だよお前ら。俺と同じような力を使いやがって」
「教えてあげない。キミは今から死ぬんだぜ」
「ち……!?」
 くすりと女が笑うと同時、狼がこちらの胸元に牙を突き立てた!
 灼熱感が認識を蹂躙する。
 痛みに――思わず槍を取り落し、倒れた。
(「あんまり良いこと、ない人生だったなぁ……」)
 己の超常の力に気付いたのは、もうずっと昔のことだ。
 得体の知れぬ力が誰かを傷つけることを恐れ、彼は家を捨てた。
 もう長い間――彼は独りだった。
 家族はいない。
 友達もいない。
「……学校とか……普通に、行ってさ……勉強とか……部活とかして……友達もいて……一緒に……遊んだり……とか……」
 頬が濡れる。
 血だろうか。
 涙だろうか。
 どうでもいい。
 どの道――それを拭ってくれる人なんて、居ないんだから。
「……してみたかったなぁ」
 そうして。
 一人の少年は、死を迎える。

「さて、みんな集まってくれて有難う」
 能力者たちの集まった教室で、瀬之口・フィオン(運命予報士・bn0092)は話を始めた。
 静かに、穏やかに。
「実は最近、ナンバードと呼ばれるリビングデッドが能力者を殺そうと動き出しているみたいでね」
「!」
 彼の言葉に能力者たちは息を呑んだ。
 能力者が、殺される。
 その言葉の持つ重みに。
「ナンバードは抗体兵器を持つリビングデッドであり、白い肌と白い髪を持つ強力な敵だ。普段は人間と同じような姿をしているけど、戦闘になると正体を現して戦いを挑んでくる。奴等は自分が殺すべき能力者の居場所を知る能力があるみたいだけど、それ以外の能力者を感知する能力は無いようだね……」
 すらすらとフィオンは続ける。
 能力者たちは、彼の放つ次の言葉が、容易に想像できた……。
「そう。つまり今回は、能力者がナンバードに殺されてしまう事態を阻止するために……君たちの力を借りたいと。そういう訳さ」
 彼は。
 強い意志を込めて、言った。

「救出対象は、神楽坂・歩という名の少年だ。現在地は、埼玉の……この辺みたいだね」
 フィオンは地図で、救出対象の位置を教えつつ説明を続ける。
 場所は、埼玉だ。
「さて、ここからが重要なんだけど――君たちがもし、ナンバードが現れるよりも前に彼に接触して、ある程度以上の信頼関係を結べれば、彼を味方にしたうえで敵を迎え撃てるかもしれないんだね」
「!」
「一緒に戦ってくれることも、あるかもしれない……ただ、戦闘能力者としては初期レベル相当の実力だから、注意は必要だけど」
 重要な情報が、語られる。
 救出対象を味方にできる意味は非常に大きい。
 戦力になる、ならないという以前の問題として――彼が協力的でなければ、敵に襲撃のチャンスを与えることになってしまうかもしれないのだから。
「……彼についての情報は?」
「うん」
 早速の質問に、フィオンは軽く頷いた。
「彼は他人との接触に、かなり警戒心を抱いているらしい……人が嫌いなんじゃない。むしろ性格は明るくて、とても善良だ。けど、彼は自分の能力が誰かを傷つけるかもしれないと考えている……つまり、誰かと必要以上に関わることで、その人を不幸にしてしまうかも、と信じているんだね」
 泣きたくなるくらいの孤独。
 ソレは、どこまでも他人事ではない問題だ。
「彼がいるのは郊外で人が少ない。夜になれば、ナンバードが襲い掛かってくるだろうね」
 敵は強力な全体回復と、全体攻撃の風を操るナンバードだ。
 引き連れる5体の狼型妖獣は、非常に素早い。
 毒の牙で襲ってくるので、無策では危険だ。
「……敵は、強いよ」
「……でも、やるしかない、ネ?」
 小さくフィオンが言えば。
 答えるのは、能力者の一人、劉・瞬成(除霊建築士・bn0175) だ。
「能力者の気持ちは、とても良く分かるカラ……絶対、成功させるヨ」
 力強く言い切る。
 歩のような思いをした能力者は――実のところ、少なくはないのだ。
「油断は出来ない任務だから、気を付けて……僕達の仲間を、救ってやってくれ」
 目を伏せ、頭を下げるフィオンに、皆は頷いた。
 そして、教室を出て行く。
 この世が、絶望ばかりではないことを――その少年に教える為に。

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参加者
芦夜・恋月(縛鎖の中で足掻く狗・b10866)
犀遠寺・限(黄泉津の楔・b26238)
烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804)
今市・直人(手遅れ・b36897)
メイベル・コトフォード(魔導騎士・b51440)
識祗・颯(想いと絆の継承者・b56801)
灰谷・梨音(嘲笑う銀狼・b65894)
菅間・ヤロスラーヴァ(静かなる追跡者・b67571)
NPC:劉・瞬成(除霊建築士・bn0175)




<リプレイ>

●放浪者の下へ
 そうして、物語は埼玉郊外から始まった。
「……この辺りに、神楽坂のお兄さんがいる筈なのね」
 気概と共に辺りを見回し、烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804)が言った。
 この街に――居るはずだ。
 仲間が。
「長い間、独りでいたのか……辛いよな」
「だね。それは俺も良く解るし、銀誓館なら解る人の方が多いと思う」
 ぽつりと識祗・颯(想いと絆の継承者・b56801)が呟けば、すぐに今市・直人(手遅れ・b36897)が頷きを返した。
 孤独。
 放浪。
 ――浮かぶ単語は、心を掻き乱す。
 そして。
「敵はあのナンバード、ですか。欧州で遭いましたが……」
 今回戦うだろう敵は、非常に厄介だ。
 欧州での悪夢を思い出し灰谷・梨音(嘲笑う銀狼・b65894)が目を細めた。
「……野放しには、出来ないな」
 傍らの菅間・ヤロスラーヴァ(静かなる追跡者・b67571)が、梨音に微笑する。
 埼玉を守る為に戦士となった彼女だ。
 戦わぬ理由は、何処にもない。
「やっぱりここは、格好よく守ってあげないとね?」
「……うん、そうだネ!」
 やや離れたところでは、劉・瞬成(除霊建築士・bn0175)に明るく芦夜・恋月(縛鎖の中で足掻く狗・b10866)が声を掛けていた。気負わぬようにという、その配慮に瞬成は感謝する。
「行きましょうか? 時間は、そんなに残されていないだろうし……」
 歩にも、人として当たり前の生活はさせてあげたい。
 メイベル・コトフォード(魔導騎士・b51440)は願いと共に、歩き出す。
(「あと少しだけ、諦めないでくれ……」)
 犀遠寺・限(黄泉津の楔・b26238)は祈るように、街中へ目を向けた。
 もう少しだけ。
 もう少しだけ孤独に耐えてくれと、祈りながら――。

●邂逅
「あー……もう夕方か」
 その少し、後。
 皆が発見した少年は、緩やかに嘆息していた。
「……もう、今日も終わりか」
 ああ。
 なにか、たのしいことはないかな――。
 ソレはありふれた、しかし切実な願いを込めた言葉だ。
(「接触、開始ね」)
「っ、と!?」
 そんな歩が路地を曲がった瞬間を見計らい、猫になったメイベルが彼に接触した!
 慌てつつも、彼は飛び込んできたメイベルを柔らかく受け止める。
「はは、元気良いなぁお前。野良猫か?」
 にゃぁ、とメイベルが短く鳴けば。
 彼は明るく、優しく笑う。
(「確かに……悪い子じゃ、ないわね」)
 成程、彼は善良だ。
 そして……きっと我慢強い。
「あ、そこのお兄さん! その猫、そのまま捕まえていて欲しいのねー!」
 と、続いてメジロが声を掛けた。
「あぁ、君達の猫か、これ?」
「……いきなり駆け出して困っていたんだ。ありがとう」
 丁寧にヤロスラーヴァが礼を言うと、彼は、ん、と破顔。
「是非お礼をさせて欲しいのだが……」
「え――あぁ、いや、大丈夫。こんな可愛い猫を抱けただけで十分だよ!」
 けれど、彼女の続く台詞には、微かに震えて。
 悲しいくらいに完璧な微笑で、その場を去ろうとする歩だ。
「あ、お兄さん待って!」
 それを、離さないのがメジロだ。
 歩が困ったような笑みで彼女を説得するが……。
「大所帯でごめんなさい、神楽坂さん。私の名前は灰谷梨音と言います」
「! どうして、俺のこと……」

 説得すべきは、自分たちだ。

「警戒しないで下さい。私たちは……鎌倉にある、銀誓館学園という学校の生徒です」
 瞬間、歩の瞳に浮かんだのは憂いの色だ。
 彼はただ、誰かと接触して……傷つけてしまうことだけを、恐れている。
 優しい少年だ。
 皆は一度視線を交わし、告げた。
「……此処にいる皆は、貴方と同じように……何らかの『力』を持つ人たちです」
「!」
 真実を。
 そして――。
 瞬間、歩の瞳に去来したモノは――漠然とした安堵だった。


「うん、この場所なら戦い易いかな?」
 暫し離れた場所。
 恋月は目の前の【戦場候補】を見つめて満足気に言った。
 それは――廃屋と言ってもいいような建築物だった。
 元は富裕層の住宅であったのか、敷地は広い。
「こうやって探索してると昔を思い出すねぇ」
「あぁ、ボクと直人が初めて会った依頼、」
「そうそう俺が血塗れになったトラウマのねっ」
「アルー!?」
 軽くトリップしている直人と瞬成も頑張った!
 実の所、今回の依頼、説得と戦場探索は同時に行っていては時間が足りなかった――この正解を引き当てたことは、来るべき戦闘を有利に進められることだろう。
「……っと、神楽坂が来たみたいだぜ」
 と、そこで颯の呟き。
 足音に振り向けば、そこには――歩が来ていた。

●解放
「……飲むか?」
「あ、どうも……」
 とりあえず、限の差し出したコーヒーでブレイクタイムに突入した。
 廃屋内は、戦闘のことも考えた颯の光明呪言で照らされていて。
 メジロがおにぎりや飴も取り出し、色々と完璧である。
「……」
 暫しの沈黙。
 歩は、待っている。
 何らかの言葉を。
 故に、それでは始めましょうか、と口火を切ったのは梨音だ。
「さて。此処にいる皆は、貴方と同じように……何らかの『力』を持つ人たちです」
 ね? と、小首を傾げて、彼女が見るのは限。
 彼は静かに頷き、己が異能、白燐の輝きを披露する。
「それ……」
「……これは、白燐蟲。普段は俺の体の中にいるが、こうやって出てきてくれるんだ」
 紡ぐ言葉に乱れは無い。
 己について語ることを、厭うつもりは――無いのだろう。
「俺は研究所で被検体として育った。学校には何とか行けていたが、当然、普通には行けなかった」
「……」
 お前は、どうだ?
 そんな問いかけに、歩は、本当にか細く答えた――気がした。
「……っ」
 俺もだ。
 俺も、そうだよ。
 俺も……。
 学校、普通に行きたかったよ。
「……えっと、皆は銀誓館って処に居るんだよな?」
「うん。そしてそこで力の使い方を覚えれば、守る力にもなるのね!」
「っ……本当に!? 本当に、この力を制御できるのか!?」
 次に言うのは、笑顔を咲かせたメジロだ。
 歩は愕然と呟く。
 無論ソレは――。
「……学園に来れば、力が安定する。望めば家族とも再会できる」

 ――救済に他ならない。

「え……」
 ヤロスラーヴァの染み入るような微笑に、彼は小さく震える。
「ほ、本当に?」
「ええ。貴方の能力は誰かを守る為に使えるし……人並の生活だって、送れる。保証するわ」
 人の身に戻ったメイベルが、確認に応じる。
 必要とあらば、彼女は何度でも同じ事を繰り返すつもりだった。
「そうそう。まあ俺なんか何かにつけイマイチな男なんだけどさ……仲間が居れば、それも埋められるワケでね。なんなら歩君も、俺と助け合う仲間になってくれると嬉しいな」
 直人が更に、身振り手振りを込めて説明する。
 君は要らない存在なんかじゃない、と。
 差し伸べる手は、きっと暖かい。
「俺も……戻れるのかな? 日常に……」
「んー。もしかしたら私たちの過ごした日々ってのは、貴方の想像する日常より、ちょっとドタバタが多かったかもしれないけど……でも、私にとっては掛け替えのない大切な時間だったよ」
 だから、貴方もきっとそんな時間が過ごせるよ。
 頼もしく笑って、恋月が力強く頷く。
 そして、そこで漸く……。
「そっか……」
 彼は、安堵して呟く。
 そっか。
 俺も、良いんだ。
 人並の幸せを望んでも――良いんだ。
「……ちっくしょ。嬉しい……なぁ……くっそ……駄目だ、涙……子供みてぇ……ッ」
 何度も、そっか、と呟いて。
 歩は、その頬に涙を伝わせた。
 幼子のように。
 迷子のように。
 必死に声を漏らすまいと、安堵と共に泣き声を上げる。
「短い時間で決めるのは酷だけど、最終的には神楽坂の意思次第だ。今のままを望むならそれでもいい……けどさ、今までと違うことを望むなら、そうすれば良いんだ」
 どうする、と。
 意思を込めて颯が聞いた。
「ん、と……ちょっとだけ待って。頭がパンクしそうだ! でも……」
 歩は、顔を上げた。
 言葉の意味は迷いのそれ。
「……でも。正直、凄く救われる話だ。それに、アンタ達は敵じゃないってのは確信したよ」
 けれど。
 その顔つきは、先程までとは別人だった。
「ン……それじゃ、次の話題に移ろうカ?」
 それだけでも救われると、本当に嬉しそうに笑った瞬成が、言う。
 そう、まだ話すべきことはあるのだ。
 すなわち――これから訪れるだろう、敵について。
 
●見果てぬ夢の、その先は
 そして――夜。
 廃屋に、新たな足音が響いた。
「おやぁ? こりゃまた随分と、豪勢な処じゃないか!」
 どこか芝居がかった声の主は、白い肌の女。
 ナンバードだ。
「……陽気な登場だネ」
「うん? おやおや、まさか待ち伏せかい?」
 静かに、怒りを込めて瞬成が言えば、女は笑みを濃くして応じる。
「独りきりで、寂しく死ねばいいのにさぁ」
「いや……」
 歩は、最早その異形に恐れることなく向き合った。
 仲間と共に突撃槍を構え、叫ぶ。
「悪いけど俺、死にたくないんだ。人生悪いことばかりじゃ無ぇみたいでさ!」
「……そう。まあ、想うだけなら自由だよね!」
 瞬間、その場の空気は戦場のソレに変貌した!
「口の減らない奴だな。行こう、皆!」
「「イグニッション!」」
 颯の声に起動の言葉が唱和する。
 速やかに組まれる陣形は、前衛、中衛、後衛を区分して、最奥に歩を置くものだ。
「――狼と犬、どっちん牙が痛いか思い知らせちゃんよっ!」
「――さーて、頑張りますか。今回の俺は至って真面目です!」
「――良いことね。さっさと倒して、帰りましょう」
 機先を制するのは、一瞬の頷き合いで連携を果たす恋月と直人。
 巻き起こる攻撃はヴァンパイアクロスとパラライズファンガスの範囲スキルだ。
 同時、メイベルの幻影兵団で皆の射程が向上。
「「!」」
 連携は俊敏な動きの狼の突撃を、絶妙のタイミングで止める!
「グルル……!」
 無論、五体の敵全ての動きは止めきれない。
 迷わず歩を目指す狼、最も突出した一体に向かうのは梨音だ。
 狙うべきはナンバードだが、歩を狙う輩も放置出来ない。
「――来ました、ね。此処は通行止めです、お引取りを」
「――灰谷、こいつも連れてけ!」
 限の連携が発動し、白燐の輝きが梨音を包む。
 感謝の目礼と共に放たれたロケットスマッシュが――狼の胴を捉えた!
「ガッ!?」
「へぇ、強い強い……でもね、ボクだって強いんだぜ!?」
 初手は上々だが、ナンバードは皮肉気に微笑。
 応ずる一撃は、強力な風の一撃!
「「ッ!?」
 広範囲にわたる暴風は、能力者を平等に蝕む。
「みんな、お兄さん、ファイトなのね!」
「あぁ、悪いなメジロ……!」
 すかさずメジロが浄化の風を行使するが、疲労感は残る。
「さぁ、逃げたくなった? 悲しくなった?」
 女は、確かに強い。
 だが――強敵を前に弱音を吐く者は、此処には居ないのだ。
「――」
 ハンティングモードで強化された身で、女へ駆けるはヤロスラーヴァ。
 放つインパクトの一撃は、敵の前進を阻むに値する一撃だ。
「……真面目だねェ?」
 彼女は答えない。
 想いはただ一つ――同胞を守るという、一念のみだ。


「存外しぶといね……!」
 続く激闘の中で、やがて女は己の不利を悟った。
 もしも――能力者達が戦場を定めていなかったら。
 結果は違っていただろう。
 歩を【護る】ことを重視する能力者達が、逆に不利であった可能性の方が高い。
 ……だが、此処は違う。
 廃墟は防御に適した砦だ。
 遮蔽物は敵の速やかな進軍を阻み、ある程度は攻撃さえ遮る。
「ガァッ!」
「通行止めだと、言ったでしょう……!?」
 どうにか後方に到達する狼も、梨音の捨て身のロケットスマッシュと、
「お兄さんはやらせないのね! その為に来たんだから!」
 メジロのジェットウインドで無力化される。
 得意の運動性能を生かせぬ狼は、驚くほど速やかに全滅した……。
「凄ぇ……くそ、俺も何かしないと!」
「大丈夫だ」
「犀遠寺さん!」
「あれはお前を狙ってる……死なせたくない、だから下がれ」
 歯噛みする歩を制するのは、白燐蟲大拡散砲で女を牽制する限だ。
 く、と息を呑みながらも歩は従う。
 その理性は、優秀の証だ。
 彼は多分――強い能力者になれるだろうと、限は確信する。
「俺……強く、なれる、かな?」
「勿論!」
 最早、幕は降りる段階だ。
 己の力を解放しながら、恋月は声の限りに叫んだ。
「キミの力は……誰かを傷つける力じゃない! 誰かを守れる力なんだ!」
「そういうこと。そして力は、集約すればより強くなる……俺達は独りじゃないんだからね!」
 皆が、ナンバードへと駆ける。
 ヴァンパイアクロスに併せ、直人が踏み込み、獣撃拳を打つ!
「ち、」
「ああ。この戦い、神楽坂の転機にしないとな……劉!」
「了解ネ!」
 傷付く女に、颯と、敵足止めに尽力していた瞬成の連携が成立。
 呪詛呪言と龍撃砲の一撃は、敵の身体へ突き刺さり――。
「まだ、だよ……」
「――いや、終わりだ」
「――神の雷、しっかり味わいなさい?」
 逃がさない。
 ヤロスラーヴァのインパクトが女の身を折り、そこにメイベルの雷の魔弾が直撃した!
「は……はは!」
 それが、終止符だ。
「馬鹿か、正義ぶりやがって。誰かの為に戦う奴なんざ、損するだけだろう……!」
 呪詛の如き言葉を紡ぎ、ナンバードが、消える。
 戦いは、終わった。

●共に歩む未来
「いやー、何とか終わったね……」
「……ああ。これで、神楽坂も新しい道を歩める」
 夜が深まる中、能力者達は帰還を始める。
 廃墟を背に、直人と颯は息を漏らす。
 やはり、特殊な任務に気負うところはあったらしい……。
「でね! 学園には普通の人と、沢山の能力者が一緒に通っているの。教室も運動会や球技大会も一緒なのね」
「そうなんだ……」
 視線の先には、メジロと、頷く歩。
 歩く速度は緩やかに。
 けれどすぐに――駅に着いた。
「……さて。それで、どうする?」
 此処で、分かれるか。
 共に行くか。
 メイベルが、言葉を紡ぐ。
「もし共に来てくれるなら、私は嬉しいです。けど……」
「ああ。歩、最終的には、お前がどうしたいかだ」
 梨音とヤロスラーヴァの最後の確認。
 無理強いは出来ない。
「俺は……」
 けれど。
 歩は、迷わなかった。
「俺は、皆と一緒に行きたい……」
「……そうか」
 一礼する彼の頭を、ふ、と笑って限が撫でる。
「今まで、頑張ったな」
「っ、嬉しいけど照れ臭いな!」
 彼は気付いているだろうか。
 それが。
 そうした触れ合いこそが、彼の望んで止まないものであったことに――。
「とにかく……ようこそ、銀誓館学園へ!」
「歓迎するヨ!」
 電車の発進のベルが鳴る。
 恋月の差し出す手を、最早歩は迷わずに取った。
「ああ……これから、宜しく先輩方!」

 こうして、銀誓館学園に、また一人仲間が増えた。
 闇に浮かぶ月は、歩を祝福するかのように、明るく輝いていた……。


マスター:緋翊 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/04/26
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冒険結果:成功!
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