めぐるの誕生日 〜ミラクルナイン〜


<オープニング>


「速坂さん、幾つになるの?」
「11よ。6年生」
 莉緒の問い掛けに、誕生日を迎える速坂・めぐる(真烈風少女・bn0197)はそう答えた。
 彼女が銀誓館の能力者達に救い出されてから、早い物で約2年半が過ぎようとしていた。
「幼女成長し易く萌え成りがたしですねぇ」
 と、相変らず良く解らない事を口走る涼子。
「で、今年はどんなのにしましょうか?」
 誕生日と言えば誕生パーティ。
 さて今年は……

「そうね……野球かしら」
「野球が観たいの? それとも試合がしたいの?」
「野球選手になりたいのよ」
 尋ねる莉緒に対し、めぐるの答えは選手になりたいと言う物だった。
「私は、良く映画や漫画であるような弱小チームに在籍してる選手なんだけど、何かをきっかけに、チームのメンバーが真面目に練習するようになるの。そしてやがては強いチームになって行くみたいなのが良いわ!」
 とまぁ、お約束な展開が好きらしいめぐる。
「なかなか面白そうですぅ。つまり、速坂さんの夢の中で野球選手になるって事ですねぇ?」
「なるほど、それは結構面白そうかもね」
 と、野球好きの涼子、莉緒も口々に言う。

「と言うわけなのよ……あなたも速坂さんのお祝いに来てくれる? 面識が無くても全然問題無いし、面識があるなら尚更よ」
「そのチームでどんな役を演じるか決めてあればOKですぅ。なぁに、適当で良いんですよぅ。大事なのはノリと勢いですぅ」
 と言うワケで、めぐるが楽しめる様に野球選手ごっこが出来ればそれで良い様だ。「ただ、速坂さんと無関係にカップルでイチャイチャするみたいのは、きっと罰が下りますぅ……いや下しますぅ」
 と言う事らしいが、それ以外はめでたい日でもあるし基本的に無礼講と行こう。

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参加者
NPC:速坂・めぐる(真烈風少女・bn0197)




<リプレイ>

●万年最下位球団
 春も近づきつつある頃、鎌倉市某所ではとある球団が練習を行っていた。
「レフト!」
 レフトを守るのは盗塁王に2度輝き、ゴールデングラブ賞の常連だった翔。
 しかし近年は無理をしない、悪く言えば手抜きプレーばかりで、記録されないエラーが増えていた。
「ライト!」
 これもぽとりとグラウンドに落ちる。
 それもその筈、ライトのフェリシアは、麗らかな陽射しの下で眠りに落ちていたのだから。
「センター!」
 またも転々と転がるボール。
 なんとデューテはそこに居なかった。
「どこにいった?」
「彼女なら、打撃練習を」
「今は守備練習だぞ。君からもちゃんと指示を……」
「自分で考えろ。そう指示してあります」
 山内連夜総合コーチは、スコアラーからの他球団情報に目を落としたまま、不利動明監督の言葉にも興味なさげに答える。
 彼は元々スカウトだったが、獲得選手の不振が続き、最後のチャンスと言う事で空席化していたコーチの職を押し付けられていた。
「池田、1番打者に大事なものは何だ」
「ホームラン!」
 明の質問に答えたのは、1番ショート・池田勇人。堅実な守備に加え、パンチ力のあるバッティングが持ち味の大型遊撃手。
 ただ、HRの魅力に取り憑かれた彼は、どの様な局面でもフルスイング。扇風機とあだ名される選手になっていた。
「チームには慣れたか?」
「わたくしに不可能はないでやんす。あの小娘が失点しなければ勝てるでやんす」
 ホムヤンことホムラ・キャラウェイは、イタリアのプロ野球チームからやって来た助っ人。
 広角に鋭い打球を放っているが、チームに馴染もうと言う意志はない様。そんな彼女が唯一意識しているチームメイトが――
 ドラフト1位ルーキー速坂めぐる。
 彼女は先ほどから、空を見上げているばかり。
 望む球団に入団できなかった為、やる気が出ないと言った様子だ。
「速坂、軽くキャッチボールでもするか?」
 そして、そんなめぐるに声を掛けるのは巴衛円。
 長年正捕手を務めたベテランだが、寄る年波には勝てず、コーチへの就任要請を辞退し、大幅減棒を受け入れながらなんとか現役を続けて居る。
「肩に違和感があるからパスで」
「……じゃあ、夜咫」
「はい」
 ――ズバンッ!
 晶はチームのリリーフエースで、大きなスライダーが武器の火消し屋である。
「よし、次は朝宮だ」
 もう1人のピッチャー、りんねは……
 ――ぱすっ。
「ふっ、力を持たぬ者には見えない高次元の変化球なのよ」
 彼女の投げる変化球は、変化しない半速球。バットに当たればどこまでも飛んで行ってしまいそうな球だった。
「雅之、山崎を医務室に運んでおけ!」
 ドラフト3位のスラッガー候補雅之が、明の声に応えてグラウンドに倒れているましろの元へ走る。
 彼女は守備固めや代走、様々な場面で重宝されている選手だが、病弱で良く倒れる為、ガラスのスーパーサブと呼ばれていた。
「小春は何やってんだ?」
 現在の正捕手鈴鹿小春は、血の滲むような努力の末に扇の要となった練習の虫。
「特訓と言えばこれだと思って……どうですかカントク!」
 だが、鉄ゲタを履いて階段を駆け上る彼は、チームの中で明らかに浮いていた。

●目覚める選手達
 開幕から暫くが経ち、交流戦の季節。
「ジャガースのルーキー緋勇龍麻はここまで堂々たるピッチング。速坂とはリトルリーグ以来のライバルという宿命の対決ですが……内容は天と地。ウィンドウズで頑張ってるのはベースボールドッグのデルタくんくらいですぅ」
 ウィンドウズは借金を膨れさせ、この日の試合も大きくリードを許されている。
 地元ローカル局の実況アナウンサー涼子も、ウィンドウズに対し、言いたい事を言っている始末。
「7回表、1死ランナー無しで迎える打者は、『いなりまん』としてメジャーで活躍。今シーズンから日本球界入りした天宮久遠。尚、6回の守備で負傷退場した鈴鹿に替わり、現在は巴衛がマスクを被っていますぅ。鈴鹿は現在アイシング治療中で、大事には至らないだろうとの事ですぅ。さて速坂、振りかぶって第一球、投げました、打った! ふらふらっと上がったボールは……ショート下がる。レフトも前進……あーっと見合った! ボールが落ちる、天宮は一塁回ったところで止まりますぅ。これだけ静かな球場なんだから、お互いの声が聞こえない事は無いと思いますけどねぇ」
 呆れつつ飲み物に手を伸ばした涼子だが、ふと異変に気付いて目を凝らす。
「おや、珍しくウィンドウズ内野陣がマウンドに集まっていますぅ」
 めぐるの周囲に集まる内野陣。
「まあ、気持ちは分からんでもないがな……そんなんで最初の一年潰す気か?」
「なんの事?」
 円の言葉に、視線を落としたままのめぐる。
「いいかルーキー? お前にとっちゃ最初の一年だろうが、俺にとっちゃ最後の一年だ。それがどういう事か解るか?」
「さぁ」
「スタンドを見ろ、あの中に初めてプロの野球を見に来た子供が何人いる? この球場に二度と訪れる機会が無い人だって居るだろう。そう言う一期一会の観客達に、胸を張って見せられるプレーをしているか? お前だっていつまで選手で居られるか、次のワンプレーが最後になることだってあるんだぞ」
 円の言葉に、静まる一同。
「速坂だけじゃない、俺達全員だ」
「……」
 皆俯き、何かを噛み締めるような表情だったが、バシンとグラブを叩く音。
「今のままじゃ、皆あんまり楽しく無さそうだよ。お客さんだけじゃなくて、自分が楽しむためにも、野球やってみない?」
 笑顔で問い掛けるのはセカンドの和奈。内野ならどこでも守れる器用さと、俊足が売りの選手だ。
 これまで彼女は、自身が野球を楽しむことを考え、チームの状況は余り気にしていなかった。けれども、野球はチームスポーツ。チームメイトが楽しんでいなければ、自分が本当に楽しむ事は出来ないと気付いたのだ。
「俺も同感だ。せっかくやるんだから楽しもうぜ」
「9回裏2アウトまで試合は解らないニダ!」
 雅之、勇人もにこりと笑ってみせる。
「解った。で、でも、別にチームのためとか」「そう言うんじゃないんでやんすからねっ!」
 喰い気味で台詞を取るホムラ。
「何してるんだろう」
「さぁね。でももしかしたら、楽しくなるかも」
「一ヶ月遅れで開幕……か」
 異変をを感じ取る外野陣。
「どんな話をしているんだろうな?」
「さぁ、奴らなりに自分で考えているのでしょう」
 ベンチで首を傾げる明に対し、興味なさげに答える連夜。けれど、その視線は手元のノートではなくグラウンドに向いていた。
「内野陣が再び守備について試合再開。速坂第一球、投げた、ど真ん中ストライク! 今日最速の150キロ!」
 次第にざわめくスタンド。
「二球目は、インコース! これもずばっと決まりましたぁ。追い込んで三球目、低め打った! ピッチャーの足下を抜け、いやショート池田飛びついた! 柳瀬にトス、一塁送球! 一塁もアウト、ダブルプレー!! え、えーとぉ?」
 数少ないウィンドウズファンは呆気にとられていたが、やがて一斉に沸き立つ。
 その後、毎回得点で同点に追いついたウィンドウズは、めぐるの後を引き継いだりんね、晶のリレーで延長12回までを無失点でしのぐ。
 最終回に四球で出塁した翔が果敢に二塁を盗むと、デューテが進塁打で三塁にランナーを進め、最後はホムラのサヨナラヒットで劇的な大逆転勝利を収めたのだった。

●ミラクルロード
「全国数千万の野球ファンの皆様、いよいよこの日がやって参りましたぁ。ホワイトウィンドウズ対ジャガースの日本シリーズ。3勝3敗1分けで迎えた8戦目、ついに日本一を決する戦いが始まりますぅ!」
 球場は超満員。日本一を夢見るファンによって興奮のるつぼと化していた。
「ここに至っては言う事は無い。楽しんでいこう」
「「おおっ!」」
 ベンチ前で円陣を組んだ面々は、明に大きな声で応える。
「平常心よ」
「りんねさん、お願いしますね」
「この秘密兵器に任せておいて」
 めぐると晶の言葉に頷くりんねだが、プレッシャーの為かアホ毛がぴこぴこしている。
 先発陣は連日の登板で消耗し、中継ぎのりんねに頼らざるを得ない状況なのだ。
「この舞台に立てる日が来るとはねー……いけない、涙出てきたかも」
「鈴鹿、普段通りいけ」
「はい!」
 緊張気味の小春を励ます円。
「あれほどの弱小チームを立て直してしまうとは、さすがは俺のライバルだけはあるぜ! しかし……今年の優勝は俺のチームがもらう」
 一方ジャガースの先発は龍麻。最優秀防御率のタイトルを獲得していた。
「HAHAHA優勝決定戦まで来るとは意外なのじゃ、とんだへっぽこちーむなのじゃー!」
 高笑いは打点王の久遠。ジャガースの四番打者としてリーグ優勝に大きく貢献していた。
「プレイボール!」
 かくして、運命の試合が始まる。

「花は桜木、男はハヤト!」
 レフトスタンドを指すリードオフマンの勇人。
「相変らず扇風機か。3球以内で仕留めてやる」
 大きく食い込むシュートから入る龍麻。
「ウリの絶好球ニダ!」
 ――ぐわきぃ〜ん!
 体勢を崩しながらもアッパースイングで掬った打球は、天井に直撃。そのままフェアグラウンドに落下した。
 続く翔は初球を巧くバント。
 首位打者のフェリシアが進塁打で2死3塁とすると、4番ホムラは敬遠。
 5番雅之のタイムリーヒットで鮮やかな先制点を奪う。

「くっ、こんなときに! 鎮まれ、私のアホ毛」
 初回以降、追いつ追われつのシーソーゲーム。7回途中まで3失点とまずまずの好投を果たしたりんねも、再び二死満塁のピンチを迎えていた。
「一振りで決めてやるのじゃ!」
 バットをブンブン振り回す久遠。
「ピッチャー交代、麻宮に代えて夜咫」
 ベンチを出て、交代を指示する明。
「みんな、あとはまかせたわ」
「ナイスピッチりんね!」
 拍手を浴びつつマウンドを降りるりんねを、ハイタッチで出迎える一同。
「皆さんが頑張ってくれた分……お返しします」
 2番手は今年最多セーブ投手に輝いた晶。
 ――ビュッ!
「なん……だと…」
 久遠に粘られながらも、最後は伝家の宝刀スライダーで三振。
 その後も気力を振り絞った力投により、更なる失点こそ許さなかったが、龍麻もまた1点のリードを守り続ける。

「試合は9回の裏、1点を追うウィンドウズに奇跡は起こるのでしょうかぁ!」
 球場のボルテージは最高潮に達していた。
「この回の先頭鈴鹿、初球打ち! 右中間を破って長打コースぅ! 一打同点のチャンスを作った所で、不利動監督が出て来ましたぁ……代走を出すようですぅ」
「ナイス小春!」
 ベンチの面々が小春を迎え、ましろが2塁へ向かう。
「ここまで来たら優勝するのも楽しそうじゃん?」
 打席には和奈。深呼吸をしてマウンド上の龍麻を見据える。
 1ボール2ストライクとして4球目。
 ――キィン!
「打った! 抜ける! 山内コーチは腕を回すぅ! 山崎3塁を蹴るが、ボールも帰ってくるぅ!」
 全力疾走のましろは、ホームへ突っ込み、キャッチャーと激しく交錯。
「……セーフ!!」
 球場が割れんばかりの歓声に包まれる。
 が、それはやがてざわめきに変わる。
「……ましろ?」
 起き上がらないましろの元に、チームメイトらが駆け寄る。
「きっといつか、いいことありますです……そう信じて……がんばってきてよかったのです……この最高の舞台で、チームに貢献できて……」
「担架を!」
「後は頼みましたのです……必ず、必ず日本一に」
 がくりと力が抜け、事切れる(?)ましろ。
 土壇場で同点に追いついたウィンドウズだが、龍麻もさるもの。すぐさま併殺を取って二死ランナー無しとする。
「エリートのおじょうちゃん、何してるんだい?」
「え?」
 ベンチで祈るめぐるに声を掛けたのはフェリシア。
 当初はやる気の無いルーキーを嘲り挑発していたが、めぐるが心を入れ替えて以来は、その高い守備力と、天才的と称されるバッティングで支えてきた。
「うちは祈ってる間に勝手に勝つようなチームじゃない。そうだろう?」
 そんな言葉と共に、手渡されたバットを受け取るめぐる。
 ――カキン!
 響く打球音。当たりはボテボテのサードゴロだったが、全力疾走で一塁にヘッドスライディングを試みるデューテ。
「……セーフ!!」
 土を払いながら立ち上がったデューテは、ベンチに向かってサムズアップ。
「監督、行かせて下さい!」
「解った。代打、夜咫に代えて速坂!」
「優勝、決めてくださいね」
 志願しためぐるを代打で送り出す明。晶の言葉に頷いためぐるは、打席へと向かう。
「二死一塁の場面で、代打速坂。もしこのまま延長戦に突入すれば、万全のリリーフ陣を残すジャガースが圧倒的有利。大きな期待がかかりますぅ……第一球、投げた! あっと走った!? 二塁は、セーフぅ!」
 迷い無くスタートを切ったデューテは二塁へ。
「ライバルのプライドとして勝負は逃げられん!」
 だが、龍麻もまた打席のめぐるに集中していた。
「二球目、投げた、空振り! ま、また走っている!? 三塁……セーフ! まさかの三盗! ワンヒットでサヨナラですぅ!!」
「無茶するわ」
 冷や汗を拭うめぐるだが、三塁上でデューテはにっこりと笑顔。土を払うその仕草に、めぐるは目を見開く。
「これで勝負だ!」
「さぁ、マウンド上の緋勇、大きく振りかぶって、投げた! あっ?!」
「っ!?」
 球場全体が息を飲んだ。デューテはスタートを切り、めぐるはバントの構え。龍麻の投じたボールは大きく縦に落ちる。
 ――カツッ。
 地面スレスレの所でバットの先端に当たったボールは、ホームとマウンドの中間に転がる。
 龍麻がボールを拾い上げ、捕手へとトスした時には、主審の両手は横に広げられていた。
「サ、サヨナラー! サヨナラですぅ! 日本一決定ー!!」
 割れんばかりの歓声と喚声。飛び出してきたチームメイトらによって、手荒い祝福を受けるめぐる。
「ばんざーい! ばんざーい!」
 そのまま、歓喜の輪の中で胴上げが行われる。
「くそ! 今回も勝てなかった……勝ったら告白するつもりだったのに」
 悔しそうに呟く龍麻だが、その表情はどこか満足げ。
「行きましょう。次は貴方です監督」
「あぁ、そうだな」
 連夜が明に促し、2人やベンチの選手達もグラウンドに飛び出す。
「今、この瞬間に死んでしまいたい位だよ」
 万感の想いらしい円。小春も感極まって号泣している。医務室から戻ってきたましろも胴上げの輪に混じり、ドームに鳴り響く歓喜の声は、いつまでも絶える事なく続いたのだった。

 これは12歳になっためぐるが見た夢のひとつ。
 これからも彼女は多くの夢を見、叶えて行くことだろう。
 掛け替えのない、素晴らしい仲間達と共に!


マスター:小茄 紹介ページ
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いまいち
参加者:17人
作成日:2011/05/01
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