ただ、純粋なる願い


<オープニング>


 決して裕福ではないけれど、幸せな家庭だったと思う。
 いつも忙しいけれど、優しかった両親。ちょっと小生意気だけれど、可愛かった弟。
 そんな幸せな生活は、ある満月の一夜に全て失った。
 両親に言われるままに、一人の男を家に招き入れた私は、その牙に血を吸われた。
 有り体に言えば、私はその男に売られたのだ。『命が惜しかったら、娘に自分を招き入れさせろ』と脅された両親に。
 もっとも、その両親も……そして何も知らない弟も、結局その男に殺されてしまったのだけれど。
 家族を殺され、男もまたすぐに姿を消した。
 私に残ったのは、『じゅうぞくしゅ』とか言う力と、男から戯れに与えられた、仮面の少女。失ったのは、それ以外の全て。
 蛇の尾が生えた少女は、言葉は話せなくても、私のたった一人の家族。いや、私の全てだった。

 でも、そんな『全て』さえも、容赦なく奪われる時が来た。
「てめぇに与えられた選択肢は3つ。楽に死ぬか、苦しんで死ぬか、すげぇ苦しんで死ぬかだ」
「くっ……!」
 鉄塊のような巨大な剣を持った白肌白髪の男に襲われた私は、全く抵抗出来ずに倒された。与えられた力など、何の役にも立たなかった。
『……』
「あぁ? なんだ?」
 後はトドメを刺されるだけ……と言うその時、仮面の少女が、私とその男の間に立ち塞がる。彼女が、私を守ろうとしているのは明らかだった。
「てめぇに用はねぇんだ。退けよ」
「駄目……逃げて……」
 男が彼女を睨みつけ、私は彼女に必死に声をかける。私は殺される。けど、彼女だけでも生き延びて、と。
『……』
「どうやらてめぇも死にたいみてぇだな?」
 それでも、彼女は私を守るように立つ。殺意から、私を必死に守るように。
「やめて……お願いっ……私の事なんて、いいからっ……!」
 彼女は私を守り続ける。その命を賭して、私のことを。
 私にはもう、逃げる力も残っていない。きっと彼女は男に殺されて、その次は、私も殺される。
 それでも、彼女はずっと、最期の瞬間まで、私を守り続けてくれていた。
 その時になって、私はようやく気づいた。最期まで守り続けてくれた私の『全て』だと言うのに、私は彼女の名前さえ知らなかったのだと。

「……こんな事許せる筈がありませんわっ!」
 紫崎・芽衣香(高校生運命予報士・bn0057)の見た『未来』を聴き終えたペルセフォネ・エルフィンストーン(ノーブルフラット・bn0192)は、激昂しながら叫ぶ。
「はい、そうならない為にご主人様方に集まって頂きました。本日の依頼は、抗体ゴースト・ナンバードを撃破し、このお嬢様を救出して頂く事です」
 リビングデッドの抗体ゴースト・ナンバード。白い肌・白い髪を持ち、抗体兵器を携えた強力なゴーストである。
 人間の姿に変身する能力、そして『殺すべき能力者』の居場所を知る事が出来る能力を持ち、能力者を殺す事で成長を遂げる。
 それ以外の能力者を感知する能力は持たず、能力者を殺し続けなければ自身が消滅してしまうが、通常のリビングデッドより遙かに上の力を持つ。

「そのナンバードの標的となっている、神庭・香澄様とおっしゃる従属種ヴァンパイアのお嬢様は、人目を偲ぶように廃ビルに住み着いています。ご主人様方には、ナンバードより先に香澄お嬢様に接触して頂く事になります」
 ある程度信頼関係を結べれば、ナンバードを優位に迎え撃つ事が出来るかもしれない。だが、香澄は自分のサキュバス・キュアにしか心を許していないので、信頼関係を得るには相応の説得が必要だろう。
「説得に失敗した場合、逃げられてしまいナンバードの襲撃の際に近くにいる事ができなかったり、戦闘中に警戒されてややこしい事になる可能性もあります。そうならないよう、是非とも説得を成功させて下さいませ」
 襲撃してくるナンバードは巨大な剣をを持った男で、魔剣士のアビリティに似た能力と、近接全周を薙ぎ払う必殺技を持つ。後者の方は回数が少ないのか、ここぞと言う時にしか使わないようだ。また戦闘になると、その牙に『毒』を持った犬の妖獣を5体ほど、配下として使い敵を襲わせる。
「ご主人様方全員が力を合わせれば倒すのはそれほど難しくはありませんが、もし説得に失敗し、不利な状況から戦闘を始める事になった場合、香澄お嬢様を無事に救出するのは難しいかもしれません。戦闘よりも、説得に重点を置いた行動をお願いいたします」
 もし香澄の説得に成功したら、銀誓館学園に誘ってみるのも良いだろう。
「まだ何も知らない能力者の保護も、学園の務めですものね」
 そのためにも、必ず香澄を助ける。そう決意を固めるペルを見ながら、芽衣香は能力者に一礼する。
「お気をつけていってらっしゃいませ、ご主人様。香澄お嬢様とご一緒の、無事のお帰りを心よりお待ちしております」

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参加者
四神・蒼夜(硝子の紅葉・b00988)
フェシア・リンフォース(月影の魔術士・b02719)
山本・真海(晴色忍者姫・b05587)
ユマ・ジャン(イアハム様のメイド・b59371)
朱桜・結華(白雪を知らぬ桜の精霊・b59637)
クリスティーナ・ベルンシュタイン(小学生真貴種ヴァンパイア・b62248)
芝村・蒼(遺された想いとともに歩む者・b63422)
護宮・マッキ(輝速アレグロコンブリオ・b71641)
NPC:ペルセフォネ・エルフィンストーン(ノーブルフラット・bn0192)




<リプレイ>

●邂逅
 目的の廃ビルの前。護宮・マッキ(輝速アレグロコンブリオ・b71641)は、落ち着かない様子で内と外の様子を探っている。
「上手い事行ってると良いんだがな」
「大丈夫、素直な気持ちを伝えれば、きっと通じるよ!」
 前向きな笑みで答えるのは山本・真海(晴色忍者姫・b05587)。とはいえやはり気になるようで、頻繁に中を覗き込む。
 いきなり大人数で行っては警戒されると言う事で少人数が中に入り、後の能力者はナンバード襲撃への警戒に当たっていた。中が上手く行っているか、外からいつ脅威が来るか。二つの懸念に、落ち着かない空気が漂っている。
「それにしても、香澄様を従属種にした者は貴種の風上にもおけませんわね!」
 同じ貴種として、怒りを露にするクリスティーナ・ベルンシュタイン(小学生真貴種ヴァンパイア・b62248)。
「できれば家族を失う前に防ぎたかったわね……」
 それは能力者達にはどうにもならない事ではあったけれど、フェシア・リンフォース(月影の魔術士・b02719)は少し悔しそうに口にする。
「過去を変えることはできません……でも、せめて幸せな未来を得られるよう力になりたいと思いますの」
 貴種として。貴種と従属種の間に生を受けた者として。クリスティーナは誓いを新たにする。
「そうね……せめて、身を挺してでも助け出してみせるわ」
「一人は、寂しいですからね……」
 フェシアの言葉に頷き、己の過去を回顧するように目を細める四神・蒼夜(硝子の紅葉・b00988)。
「僕も銀誓に来て初めて、大切な何かを護りたいと思うようになったんですから」
 だから、彼女にも……と。祈りを込めるように、彼はビルを見つめる。 

「……誰!?」
「待って下さい! 僕達はあなた達に危害を加えに来た訳ではありません!」
 そのビルの中。こちらを警戒し敵意を向けてくる香澄に、芝村・蒼(遺された想いとともに歩む者・b63422)は慌てて声をかける。
「ワタクシ達は、味方ですわ。あなた達を助けに来ましたの」
「助けに? 嘘……」
 ユマ・ジャン(イアハム様のメイド・b59371)もまた、言葉を重ねるが、香澄は敵意を抑えようとはしない。
「本当です。僕達も、あなたと同じ力を持っているんですから」
「同じ、力……あなたたちも、『じゅうぞくしゅ』?」
 その言葉に頷く2人。この2人が説得に選ばれたのは、それ故の事だ。
「わたくしは……違いますけれど」
 もう1人、最初の説得に当たる事になったのはペルセフォネ・エルフィンストーン(ノーブルフラット・bn0192)。しかし、香澄は明らかに警戒を強めており、紡ぐ言葉に迷う。
 銀誓館の事、これからゴーストがやって来る事、それから香澄を守りに来た事。それを話して香澄を説得しようとするも、その警戒は解かれない。
 真実ではあっても、それを信用されるかどうかは別の話だ。そもそも事実の『説明』だけでは、『説得』にはまるで足りない。
「貴女達が、本当の事を言っているかは……分からない。本当だったとしても、裏切らないとは……」
 何より、信じていた者に裏切られた少女は、信じる事にとても臆病だ。たった一つの絆に縋る少女に対して、真実を口にするだけで信用を勝ち得るのはとても難しい。
 それでも彼女が会話を打ち切らなかったのは、事が自分の事だけではないからだ。
「僕達に、あなたと、サキュバスを守らせて貰えませんか?」
「あなたも、あなたの傍らの友達も、一緒に助けたいんです」
 香澄の縋るたった一つの絆。それを持ち出せば、信じる事も、拒む事も、彼女は慎重にならざるを得ない。
「他にも仲間がいるんです。入って貰っても良いですか?」
「……それ以上近づかないなら、ね」
 結局警戒を解かぬまま、彼女はユマのその言葉に小さく頷いた。

「ナンバードが入って来るとしたら、やっぱり正面からね」
 建物の構造を観察していた朱桜・結華(白雪を知らぬ桜の精霊・b59637)がそう結論付けた。
 能力者達は入り口の守りを固めつつ、全員で香澄と接触する。
「お初にお目にかかります。わたくし、クリスティーナと申しますの。以後お見知りおきを」
「子供……?」
 笑顔で一礼したクリスティーナに、香澄は驚いたように目を丸くする。
「ええ、ですが、私たちもまた貴女のように力を持ち……そして、一人でもゴーストの犠牲者を減らしたいと思っているのですわ」
「多くの人達が、ゴーストに傷つけられている。その脅威から人々を守る……それが能力者の役目よ」
 フェシアも言葉を重ねるが、やはり香澄の不信は拭いきれない。それでも、その説明を自分なりに考えようとしているのは伝わってくる。
「まあ、すぐに信用すると言っても難しいだろうけど……」
「でも、これだけは信じて欲しいんだよ! 私達が香澄さん達を守りたいと思っていること!」
 そんな香澄に、真海は必死に、そして真摯に訴えかける。
「もうすぐやってくる悪いゴーストから香澄さん達のことを守らせて欲しいんだよ! お願いします!」
 真っ直ぐな思いは、時に正確な事実よりも心を打つ。目を逸らさず、真っ直ぐにぶつかってくる真海の思いに、心揺らされる香澄。
「まあ、今すぐに信用してくれ、なんて言うのは、実際都合の良い話でしょうしね」
 そう言った結華が目を向けるのは、香澄のサキュバス・キュア。
「ただ、其方の従者さんは貴女を護ろうとしている。だから私も手を貸すの。その意志は私も理解出来るから」
「……この、子が……」
 たった一つの絆。それはあるいは、自分自身以上に、大事な相手。表情を仮面に隠した少女を見つめ、香澄は逡巡する。
「……」
 時間にして、十数秒。けれど、もっと長く感じられる時間の後。
「……やっぱり、信用は出来ない。けれど……本当にその『ゴースト』が襲ってくるなら、それまでは、一緒にいても良いわ」
 不信を完全に拭い去る事は出来なかったけれど。僅かであろうとも能力者を信じてくれたのか、香澄はそう口にした。

●刻まれた者
 そうして香澄とともに待つ事しばし、男は現れた。
「あぁ? なんだなんだぁ? 雁首揃えて、俺を歓迎でもしてくれんのか?」
「ええ、とても手荒い歓迎でよろしければ、ですけれど」
 鮫の歯を思わせる剣を抜き放ち、言い放つはクリスティーナ。他の能力者達もイグニッションし、それぞれの戦闘体勢を整える。
「え……あなた……?」
「あら……同じ使役ゴーストを見るのは初めてですのね」
 ペルが呼び出した真サキュバス・キュアを見て驚きに目を見開く香澄。いっそ最初から見せていれば、もう少し説得も楽だったかもしれないが、まあそれは今言っても仕方のない事だ。
「邪魔しようってのか。だがま……俺は寛大だからなぁ、許してやるぜ」
 白き髪と肌、そして刻印を露にすると、ナンバードは口を大きく開き、大剣を吐き出す。
「お前らをみんな殺せば、相当強くなれるだろうし、なぁ……」
「そうは行きません!」
 そのナンバードに急接近ながら、赤く波打つ剣に黒影を纏わせる蒼夜。そのまま、強引に唾競り合いに持ち込んでいく。
「貴方の相手は僕です。同じ剣を持つもの同士、鎬を削りあい、刃を交わしましょう」
「別にそういうのに興味は無いんだが……てめぇが先に死ぬってんならそれはそれで構わねぇぜ!」
 ナンバードも大剣に同じように闇を纏わせ、ぶつけ合う。
「数字の走狗と化けて出たのね、下郎。アンタはもう終わったモノでしょう?」
「……あぁ?」
 対峙する蒼夜を、仲間を、そして香澄達を守るべく、幻夢の領域で戦場を包みこむのは結華。
 見下したような視線を向けられたナンバードは、苛立ちを隠そうともしない。
「生意気だぜ、てめぇっ!」
 領域の守りごと、蒼夜を打ち砕こうとするナンバード。その力が火花を散らす間、取り巻きとして現れた妖獣を処理すべく他の能力者達が走る。
「香澄さん達は絶対に私達が守るよ!」
 虎の手を模した獣爪に、獣のオーラを纏わせ叩きつける真海。犬の妖獣に、真なる獣の強さを叩きつける。
「少しだけど、信じてくれたんだもん……その信頼に、絶対応えるよっ!」
 明るい色の忍装束に妖獣の牙が突き立てられても、彼女は怯まず前に出る。身を呈してでも、必ず香澄を守ると、ただまっすぐな思いを胸に。
「僕も最初はこの力を憎んでいた……」
 手にした力ゆえに主を殺された過去。大切な者を護りたいと願った今。
「でも、今のこの力は、大切な人との繋がりを示すかけがえの無い物です……!」
 蒼の身体から放たれた黒き疾風は、目の前の妖獣を裂き、その血を啜り、奪い取る。
「香澄様は、昔のワタクシに良く似ております」
 同じように家族を失ったユマ。けれど、彼女には家族となってくれる主がいた。
「決してそれが望まない力でも……それは、隣にいるご友人を守れる力なのです!」
 メイド服のロングスカートを翻し、己の世界を広げるように舞う。
「ちょっとはペルセフォネにいいとこ見せなきゃなっ!」
 マッキの身につけたイエローゴールドのブレスレットが持つ煌きが、幻楼の光となって広がった。石化を齎す七星の呪いが、妖獣達の足を止める。
「理不尽な事に、何も出来ないなんて嫌だから……」
 金色の鍵穴が解放され、革表紙の魔道書が開かれる。魔弾の力を解放し、フェシアは炎の隕石を呼び寄せる。
 壊すよりも、守るために。身に纏う魔女の服に込められた思いを、今こそ真実にするために。
「ペルセフォネさん、ちゃんと守ってあげてよね!」
「当然ですわっ!」
 ペルと彼女のサキュバスが、香澄を守り、万が一にも攻撃を通さない。皆、己の身を呈し、その身を毒に蝕まれても、香澄を傷つけぬと意地を見せる。
「……」
 それを見て、心揺らされる香澄。守りたいと言う意志、心の底からの行動が、少女の凍った心を溶かしていく。
「さあ、これからですわよ!」
「ちっ……面倒なヤツらだぜ!」
 ユマがその想いを乗せた光で仲間の傷と毒を癒せば、ナンバードは苛立った表情で能力者達を睨みつける。
「だいたいこんなに居るなんて聞いてねぇんだよ!」
「所詮、下衆の思い通りになるような事など無いと言う事よ」
 仕込み刀を振るい、周囲に茨を呼び寄せる結華。櫻の木より削り出した一刀は、染み付いた冥鬼の血によって束縛を戦場全体に広げる。
「行っけぇぇっ!」
 茨に囚われ動きの止まった妖獣へと、巨大な手裏剣を生み出し投げつける真海。牙獣の力が爆ぜては複数の妖獣を一気に薙ぎ払い、消し飛ばす。
「くそっ、役に立たねぇヤツらだ!」
 姿を消していく妖獣に毒づくナンバード。目の前の蒼夜も依然打ち倒す事が出来ず、苛立ちが募る。
「てめぇらに許されるのは……その女を差し出して楽に死ぬか、苦しんで死んでからその女に後を追ってもらうか、どっちかだってのによっ!」
「どちらもお断りです」
 蒼夜の脳裏に過ぎるのは、万色の稲妻降り注ぐ森で、護れなかった命。全ての命を守る事など、到底無理ではあったけれど。
「でも、だからこそ……今回は絶対に護る。殺す事でしか生きられないナンバード……鎮めます!」
 桜の舞装束を翻して、想いと共に、彼は舞うように剣を振り下ろす。
「鎮められてたまるか、ってんだよっ!」
 ナンバードの持つ大剣が旋風となって、能力者達に襲いかかった。必殺の薙ぎ払いが、能力者に傾いていた戦況を一気にナンバードの方へ引き戻そうとする。
「させは、しませんわっ!」
 その剣を掻い潜り、ナンバードに肉薄するクリスティーナ。牙を突き立て、血を啜る、それは従属種が持つ最も基本的な力。
「……私の、力……」
 それを見て、香澄は小さく呟く。無理やり与えられた力。今までずっと疎んできた、力。それを振るい、能力者達は戦う。
 何のために?
 もちろん、香澄の為に。誰かを守るために。
「……」
 香澄が考え込む間に、能力者達はナンバードを追い詰めていく。
「はあああっ!」
 お仕置き用の鎖付き棘鉄球を振り回し、力強くナンバードに打ち付けるユマ。その重量に揺らいだ所に、蒼が吸血の衝動を叩きつけた。
「香澄さんとサキュバスには指一本触れさせません」
「この身に代えても、彼女の未来を勝ちとって見せるわ!」
 フェシアの呼んだ魔炎の隕石が、ナンバードの身体を炎上させる。
「悲劇は此処までにしましょうか」
 燃え盛るナンバードに、結華は静かに宣告する。
「舞台を穢す無粋な輩に滅びを、舞台で足掻く主演には……祝福を」
「くそっ……てめぇらを……殺し、てっ……」
 最後まで能力者達に敵意を向けながら、ナンバードはその身を霧散させた。

●信じられたモノ
「終わったか……」
 全ての敵を倒し、緊張を解くマッキ。戦闘が終われば、誰からともなく香澄に目を向ける。
「大丈夫、怪我はない?」
「……ええ」
 気遣うように向けられたフェシアの言葉に、小さく頷く。そして。
「……ありがとう」
 続けて口にされた言葉には、照れこそあっても、不信の色などなく。自分を守ってくれた……そして自分を導いてくれた者への、深い感謝が込められていた。
「わたくし達こそ、お礼を言わなければですわ。あなたが、信じてくれた事」
 戦いの労苦も、その感謝の一言の前では些末に過ぎない。クリスティーナは嬉しそうに香澄に微笑みかける。
「ねぇ……私達の事を信じてくれたなら、一緒に銀誓館に来てくれないかな?」
「あなた達の、学園に?」
 真海に誘われ、考えるように首を傾げる香澄。
「そうすればこれからも悪いゴーストから守れるからね」
「それに、絆って大事です」
 今までは、たった一つの絆だけに縋って生きてきたけれど。
「銀誓で、多くの友人を作ってみませんか?」
 これからは、彼女の絆が、世界が、もっと広がるように、そんな思いを込めて蒼夜も彼女に入学を勧める。
「無理強いはしませんが……もちろん、サキュバスさんも一緒ですよ」
「今は一緒ではないですけれど、私の大切な友達も紹介したいですしね」
 蒼やユマも、口々にそう言葉をかける。ユマが思い出すのは、かつて自分と一緒にいたサキュバスの事。
「『のうりょくしゃ』の学校……そこでなら、私も……」
 失ったものは取り戻せないけれど、またいつか、幸せに笑える日が来るのだろうか。
 そんな思いを込めた香澄の瞳に、能力者達は皆、力強く頷く。
「でも、入学する前に一つやる事があるわね」
 結華は言って……香澄に付き従うサキュバスに目を向ける。
「彼女に名前を考えてあげないと、ね」
「あ……」
 その時になって初めて、少女の名前を知らなかった事に気づいた少女は、己のサキュバスを見て、そこでふと気づく。
「……あれ。笑ってる?」
 香澄を見るサキュバスの口元には、とても幸せそうな微笑みが浮かんでいた。
 主の新しい門出を、深く祝福するように。


マスター:一二三四五六 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/05/10
得票数:カッコいい1  ハートフル13 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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