廃村に潜む怪


<オープニング>


「あー……まさか、本当にあるんスか……」
 どこか呆れたような声で、その若い測量士はぼやいた。
 山奥。そこにあったのは、朽ちかけたいくつかの廃屋だった。
「地図にない村だっけか? 都市伝説じゃなかったんだなぁ、おい」
「ああ、先輩でも初めてッスか?」
「噂には聞いてたが、目にするのは初めてだよ」
 中年の測量士が後輩の若い測量士の言葉に苦笑交じりで答える。この日本にもこういう場所がある、と思うとおかしな気分だった。
「参ったな……計画だと、ここ通るだろ? 道」
「そうッスよね……ちょっと、中の確認しとくッスか?」
「面倒だけど、しゃーないな……」
 十軒にも満たない木造の家々を二人は見て回る。中に残っている家具によっては持ち出してはした金にでも変えた方がいい――そういう考えだ。
「……一緒にぶち壊して処理しても問題ないか?」
「後は、あの一番大きなとこだけッスね」
 めぼしいものなど見当たらない――最後に一際大きい家へと二人は覗き込む。
「……おお。こりゃあなかなか」
 広い板の床に小さな囲炉裏――時代劇や昔話にでも出てきそうな平屋の日本家屋だった。誘われるようにで二人足を踏み入れ、中を見回していたその時だ。
『あは――』
「――!?」
 ビキリ、と二人の体を真っ白な氷が埋め尽くしていく――そうして凍りつく二人を、おかっぱ頭の着物姿の少女が笑顔で見詰めていた……。

「みんな、いるわね?」
 放課後の武道場。最後にやって来た八重垣・巴(高校生運命予報士・bn0282)が集まった能力者達を見回した。
「今回、あなた達に頼みたいのはある廃村に出現する地縛霊よ」
 その廃村は明治初頭ほどに住人がいなくなり、そのまま忘れられた『地図にない村』なのだという。
「噂話ぐらいには残ってたし、実際お年寄りでは実在を知っていた人もいたみたいね。今回はそこが道路開発のルートに選ばれちゃったのよ。で、運命予報では測量士の人が二人巻き込まれてしまうわ……幸い、未来の出来事だから今から処理すれば命は救えるわ」
 巴はそこで懐から取り出した一枚の地図を広げる。そして、あらかじめ×印の描かれた地点を指差した。
「村がある場所はここね――問題の建物はこの村の一番大きな建物よ。行けばすぐにわかると思うわ。で、この家の中に入れば地縛霊は普通に出現するわ。中は戦闘を行うにはちょっと狭いからどこにでも射撃攻撃が届くものだと思って。後衛とはいえ、油断出来ないわよ」
 出現する地縛霊は四体――もっとも強力なのは、おかっぱ頭をした着物姿の少女の地縛霊だ。
「能力は三つ。遠距離の視界内の対象を凍てつかせる魔眼、遠距離の直線を氷の氷柱で刺し貫く攻撃、後は青白い冷たい炎を身にまとって回復と同時に攻撃力を上昇させてくるわ。攻撃のどちらにも強力な『魔氷』の効果があって、魔眼には強力な『足止め』の効果が、氷柱には強力な『封術』の効果があるわ。強力な固定砲台みたいな敵よ」
 そして、同時に出現するのは青白い冷たい光が人型をしたような地縛霊三体だ。
「こっちは近接の全周を青白い光で凍てつかせてくるわ。厄介なのは強化している対象を強力な『封術』と強力な『締め付け』状態にする事ね。強化していると、かなりの脅威よ?」
 これに加え、抗体空間まである。この抗体空間は空間内の対象に極小のダメージと共に『魔氷』を与えてくる――これにも注意が必要だろう。
「出現時、三体の光の人型が前に横一列に並び、少女の地縛霊が後ろへと控えた形で建物の一番奥に現れるわ。能力から考えれば陣形が重要な相手よ?」

 巴は念を押す事を忘れずそう付け足すと、信頼の笑みで能力者達を見回す。
「かなり厄介な相手よ。油断だけはせず、慎重に対処してね? ――大丈夫、あなた達なら出来るって私は信じているわ」
 じゃあ、頑張ってね、と巴は締めくくり、能力者達を見送った。

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参加者
刈谷・紫郎(見通す者・b05699)
玖堂・統夜(黒の確約者・b05760)
関・銀麗(天華青龍・b08780)
夕凪・朔哉(高校生真魔弾術士・b20365)
御形・司(天雷无妄の理・b22570)
舞園・彩音(戦場の歌姫・b24404)
闇野・啓(黒き刃と魂の銀貨・b25609)
御鑰・陽一郎(オックルタメント・b35995)
ミラ・エセルドレーダ(冥土へ誘うもの・b41885)
犬山・ホエル(妖獣使いの牙道忍者・b42890)
小鳥遊・桐音(御伽草子・b53243)
シルヴィア・テスタロッサ(紅月印の迷探偵・b62958)



<リプレイ>


「地図にもない、忘れられた村……そこに魂を縛られた悲しい存在がいる、と……」
 シルヴィア・テスタロッサ(紅月印の迷探偵・b62958)が小さく呟き、目を細めて周囲を見回した。
 人が来る事もないのだろう山奥。そこに残された、かつて人が生活していたのだろう残滓――廃村の存在に、御鑰・陽一郎(オックルタメント・b35995)が溜め息交じりにこぼす。
「……地図にない村、ですか。もしかしたら僕らが知らないだけで、どこかにはそういう村がまだあるのかも知れませんね」
「忘れられた村の忘れられた思い、って所かね。しかしソイツが人を襲って気付いた奴を消しちまうなら、人食い村とかなっちまいそーだな……」
 そういう闇野・啓(黒き刃と魂の銀貨・b25609)の表情にも苦いものがある。
「以前住んでいたお年寄りが知っていたなら何か由来があったのだろうね」
 関・銀麗(天華青龍・b08780)がしみじみと呟く――それに、小鳥遊・桐音(御伽草子・b53243)が表情を消して言い捨てた。
「一体どういう経緯で地縛霊になったのか……正直なところ興味がないわね。でもやはり子供の霊というのは悲しいものだわ」
「怨念という名の鎖につながれ、いつまでも変わらぬ想いのまま『生きる』のはきっと辛いだろさ。想いの呪縛から救い出してやろう」
 犬山・ホエル(妖獣使いの牙道忍者・b42890)の言葉に、御形・司(天雷无妄の理・b22570)が一つうなずく。
「じゃあ――行くか」
 司の合図に、能力者達がその一際大きい日本家屋に踏み入った。
 板張りの床。小さな囲炉裏。ここで誰かが日々生活していたのだろう――しかし、あまりにも長い年月はその痕跡すら残る事を許さない。
 あまりにも冷たいその空間の中で、おかっぱ頭に着物姿の女の子が煙のようにその姿を現した。
『あは……』
「おかっぱ頭の着物の少女……なんか座敷童みたいだな」
 決して気のせいだけではないだろう、確かな寒気を感じて夕凪・朔哉(高校生真魔弾術士・b20365)はマフラーをしめ直す。
「どんな場所であろうともご主人様に誠心誠意お仕えするのがメイドの務め。メイドの矜持に掛けてご主人様に危害をなす者達を放置してはおけませんわ!」
「私は歌い続ける。幸せに生きる人々の為に、そして戦場で戦う仲間たちの為に!!」
 ミラ・エセルドレーダ(冥土へ誘うもの・b41885)が、舞園・彩音(戦場の歌姫・b24404)が、凜と言い放ち玖堂・統夜(黒の確約者・b05760)が吐き捨てた。
「暖かな春に冷たき氷は不釣り合い。氷は溶け、そして水となって地に還る。貴様も雪解けの水のように、陽光に溶け、地に還り、そして無へと還れ」
『あはは……』
 あどけない忘れられし童の笑い声と共に、屋敷の中に急激な冷気が満ちていく――ピキリ、と自身を蝕む魔氷に顔をしかめながら刈谷・紫郎(見通す者・b05699)が言い放つ。
「座敷童にしては、ちょっと凶悪過ぎるよな」
 忘れられし童と青白い人型の光三体を前に、能力者達が身構える――ここに、戦いの火蓋が切って落とされた。


 忘れられし童が背後に控え、前に横一列に三体の凍てつく光が並ぶ地縛霊達に対して能力者達の陣形はこうだ。
 班を二つに分け、A班の前衛に啓とミラ、銀麗の使役ゴーストである真フランケンシュタインFWの赤兎、後衛に銀麗と陽一郎、桐音、司、B班の前衛に統夜と紫郎、シルヴィア、ホエルの使役ゴーストであるモーラットヒーローのシロ、後衛に彩音とホエル、朔哉といった布陣だ。
「ここの子かい?人を襲うのは関心しねーなぁ!」
「先手必勝! 一気に行くわよ!」
 バサリ、と啓のブラックヒストリーがばら撒かれ、銀麗が破魔矢を射た瞬間、赤兎のファイナルキャノンが放たれた。ブラックヒストリーと視界を埋め尽くす電撃、そこを一体の凍てつく光へと破魔の矢が突き刺さる。
「あなたの生気、いただきますわ」
「封神十絶!」
 そこへミラがその牙を剥き首筋へ喰らいつき、司が十の絶陣を展開させ仲間へ癒しを敵へ苦痛を与えた。
「天地――あまつち――の力、今、解き放つ! 喰らえっ!」
「――切り裂け」
 ホエルの突き出した右手から放たれた衝撃波――牙道砲と統夜の足元から伸びた影の鉤爪が走る。衝撃に撃ち抜かれ、影の鉤爪に切り裂かれながらも凍てつく光はその形を保ち続けた。
「難しい仕事、だが。やって出来ん事も無いっ……!」
「消える前に目に焼き付けなさい! これが吸血鬼の闘争よ!」
 そこへ紫郎が闇色に染めた長剣を袈裟懸けに振り下ろし、桐音の召喚した血塗られた逆十字架が三体の凍てつく光の精気を貪り――音もなく、爆ぜるように一体の凍てつく光が消滅した。
「そよ風のハミング……、聴いてください♪」
「少しでも数を減らさせてもらおうか」
 ゴウッ! と彩音を中心に浄化サイクロンが吹き荒れ、朔哉の撃ち放った蒼い雷が凍てつく光を撃ち抜く。
「Donner Ein Sto Bzahn!!」
「星よ、墜ちよ……、冷気ごと地縛霊を蒸発させろッ」
 一条の電光と燃え盛る隕石の雨――シルヴィアのライトニングヴァイパーと陽一郎の隕石の魔弾にさらされながら、二体の凍てつく光が動いた。
「――ッ!?」
 ミラと紫郎を青白い光が凍らせていく――だが、強化していない状態ではその攻撃も脅威ではない。
『あはは……』
 忘れられし童が無邪気な笑みをこぼす――それと同時、ビキリ! と生み出された氷柱が一直線に戦場を貫いた。
「ぐ……ッ」
 ビキリ、と肩口を貫かれた銀麗がそこから魔氷の白に蝕まれていく。そして、再び戦場が冷気で満たされていった。
「ったく、囲炉裏有りの日本家屋でも冬は寒かったってか」
 啓がギンギンカイザーXを手に吐き捨てる――強力な抗体空間と地縛霊を前に、能力者達は緊張を高めていった。


「天地に充る森羅の力、借り受ける!」
「失せろ」
 シロの祈りを受けながらホエルが森羅呼吸法で回復し、統夜の長剣による鋭い刺突――インパクトに凍てつく光が内側から爆ぜるように消滅した。
「貫く!」
「こんなところにいたら寒いでしょう? 暖めてあげるわ」
 そして、紫郎のダークハンドと桐音の炎の魔弾が同時に凍てつく光へ突き刺さり撃ち抜く。だが、凍てつく光はユラリと揺れてもその姿を崩さない。
「戦場に響くそよ風の歌声……」
「回復するぞ」
 彩音の浄化サイクロンによる回復と紫郎への朔哉のヒーリングファンガスが飛び――螺旋状の文字列をその拳にまとわせたシルヴィアと頭上に右手をかざした陽一郎が続いた。
「Ein Halt!!」
「これ以上……邪魔はさせない!」
 ドゥッ! とシルヴィアのデモンストランダムがその胸部を強打し、降り注いだ隕石がその輪郭を押し潰す――凍てつく光を倒し切った、その直後だ。
『あははははは……』
 青白い冷たい炎を身にまとった忘れられし童がその瞳に禍々しい輝きを宿す――その凍てつく眼差しが、A班の能力者達へと放たれた。
 そして、再びビキリ――ッ! と空間が凍てついていく。その中を啓が動いた。
「ま、だまだ――!」
「油断大敵、備えあれば憂いなしと」
 啓のギンギンカイザーXと赤兎の祈りを受けて銀麗が赦しの舞を舞う。そして、ミラと司が魔氷を引き剥がしながらその右手を突き出した。
「ゴミ掃除は、メイドの仕事ですわ」
「十の絶陣よ、封じよ!」
 ミラのジャンクプレスが忘れられし童を飲み込み、司の封神十絶陣が展開されていく――だが、それを忘れらし童はその小さな手を振り払う事によって退ける。
『あははは……』
 あどけなく――そして空虚な笑顔。それを前に、能力者達は武器を構え直し挑みかかっていった。
 ――能力者達と地縛霊達の戦いは一進一退の攻防となっていた。
 強化した対象を呪う凍てつく光の攻撃を強化のない彩音の浄化サイクロンや銀麗の赦しの舞、司の封神十絶陣やヘブンズパッション、朔哉のヒーリングファンガス、シロのペロペロ舐めるなどの豊富な回復手段で戦線を維持していく。凍てつく光を倒した後、忘れられし童を相手に能力者達は自己強化を重ね、挑みかかっていく。
 だが、忘れられし童の高い威力の凍てつく怨念や広範囲の凍てつく眼差しという攻撃が、攻撃力を上昇した状態で能力者達を追い込んでいく。互いが互いに死力を尽くし合う攻防、その流れを大きく変えたのは陽一郎だった。
「ご主人様、わたくめが援護いたします。どうぞ、仕掛けてくださいませ」
「これは呪いだ……、その炎をそれ以上揺らす事は許さない」
 ミラのジャンクプレス――それを振り払った間隙を、合わせて動いた陽一郎の呪詛呪言が呪った。ミシリ……! と忘れられし童の動きが止まる――そこへ司の声が響く。
「今だ――畳み掛けろ!!」
「その身と心を縛る鎖を、今砕く。還れ! 銀の雨に!」
 十絶陣が展開され、その中をホエルの牙道砲とシロのVキャリバーが忘れられし童の身を撃ち抜き、切り裂いた。
『は……ッ』
「――こちらだ」
「切り裂け――!」
 統夜と紫郎――二本の長剣による薙ぎ払いが、小さな体を斬り裂く。グラリ、と揺れたそこへ、彩音の構えたギターマシンガンとシルヴィアの振り上げたデモンストランダムの拳が続いた。
「鳴り響け、私のパッション!」
「ここらで終幕といこうか!」
 銃弾に小さな体が震え、その螺旋状の文字列に包まれた拳が叩き込まれた瞬間、青白い炎が音もなく消し飛んだ。
「――燃えなさい!」
「穿て――雷よ」
 そして、魔弾の射手の魔法陣によって強化された桐音の炎の魔弾と朔哉の時空すら歪める蒼い雷の弾丸が、忘れられし童の胸元を穿ち、魔炎で包む!
『…………!』
「悪いな……被害を出す訳にはいけねぇんだ」
「今解放してあげる。だから安らかにお休み」
 空間が凍てつく中、啓の描いた緻密な幼女――スピードスケッチと銀麗の破魔矢、そして赤兎の巨大な拳が繰り出される――その連撃に、その小さな体は耐えられない。まるで春の日に降った季節はずれの雪のように、音もなく儚く消え去った……。


「……こんなもの、かしら?」
 桐音が地面へと付き立てた板を前に、そう呟いた。
 ここにはやがて道路が通るのだろう――それでも、ここに誰かがいた……眠っていたのだという証を残してあげたかった、それだけだ。
「Amen……」
「いつかここも春が来て花が咲くさから、それまでこれで我慢してね」
 シルヴィアが十字を切り、銀麗が花のついた桜の枝をそこへ供える。
「願わくば静かなる眠りを……どうか安らかに」
 シロの頭を撫でてやりながら、ホエルが黙祷を捧げた。そして、陽一郎が溜め息交じりにこぼす。
「これで測量士の方々も被害に合わなくて済むでしょうか。しかし勝手に何かを持ち出していく様なのは感心しませんけどね」
 あれを祟られた――そう見るべきなのか? どこか複雑な表情で苦笑した。
「人であれ物であれ、忘れられるのはさみしいよな……」
 あの抗体空間にいたからか、寒さに身震いしながら朔哉が寂しい光景を見回す。
「抗体兵器に抗体空間使う抗体ゴースト、抗体メガリスなんてモンまで出て来るんじゃねーだろーな」
 啓がたまらない、という表情で言い捨てる。忘れられていく場所での戦いが終わり、能力者達は自分のいるべき場所へと帰っていく――自分達の世界を、こんな場所にしないために戦う決意をかためて……。


マスター:波多野志郎 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:12人
作成日:2011/05/08
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重傷者:なし
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