蒼き槍士


<オープニング>


「フシャァァァァッ!」
 呼気の漏れる様な音を出しながら『それ』は変質する。一見ユーモラスに見えた身体が歪み腹部が膨らんで、膨らみから水かきのある腕や足が生えた。
「フシャァァァッ!」
 万色の稲妻に打たれた『それ』は最終的に人に近しい身体を持った獣人へと変貌し。
「シャァァァッ!」
 変貌を遂げた個体がいつの間にか手にしていた銛を使い、陸の方を指し示す。
「「フシャァァァッ!」」
 この時、既に周囲には無数の魚が集まっていた。どれもが普通の生物にはあらざる形をした生き物達が。
「フシャァァァッ!」
 こうして妖獣の群れは陸へと向けて動き出した。マンボウの頭部を持つ獣人に率いられて。
 
「みんな、集まってる?」
 能力者達に少し遅れて、教室に現れた運命予報士の少女は問うた。答えを待つより目で人数を確認した方が早い状況だったが。
「OK、いるね。じゃ、本題。人里離れた海の中で飢えた妖獣の一体が獣人化――抗体ゴーストになっちゃったみたい」
 獣人化した妖獣は、抗体兵器を手にして周囲の妖獣を支配下に置くと、人里目指して動き出したらしい。
「ゴースト達の目的は飢えを満たすことだから、放っておくと人里が襲われて大変なことになるの」
 飢えを満たすためにゴースト達は人間を殺し、その残留思念を喰らおうとする。惨劇を防ぐためにも能力者達の力が必要なのだ。
「それで、獣人と妖獣達が通る場所はわかってるから――みんなにはそこで待ち伏せて撃破して貰いたいの」
 場所は砂浜。それなりに浅いため上陸間近になればゴースト達の全貌は確実に見て取れるようになると言うこと。
「獣人が率いている妖獣は大小様々な魚妖獣。腰の高さぐらいまでだけれど宙を泳ぐこともできるから陸上でも問題なく活動できるのよね」
 もっとも、通常攻撃しか持たない為、ぶっちゃけるとある程度の攻撃力と移動力をもった壁にすぎない。もちろん、能力者にとっては。
「問題はマンボウ獣人の方。かなり頑丈な上に、多彩な槍技で遠近共にこなす強敵なのよ」
 20m直線範囲攻撃の銛投げ、近接全周囲へ追撃を付与した攻撃を放つ乱れ付き、そして体力を回復しつつ攻撃力を引き上げる――マンボウの構え。
「「ちょっと待て、最後の槍関係ねぇだろ!」」
 何て声をそろえてツッコミ入れられても、予報士の少女は動じない。
「遮蔽物もなく、視界の開けた場所だから、隠れるなら……」
 言いつつ少女が取り出したのは、スコップと袋と段ボール。
「砂に穴掘って隠れるのがベストなの!」
 実に良い笑顔だった。
「みんななら大丈夫だと思うけど、気をつけて」
 最後にそう言い添えて少女は送り出す――能力者達を。

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参加者
緋勇・龍麻(龍の伝承者・b04047)
桐生・カタナ(修羅龍眼・b04195)
伊藤・洋角(百貨全用・b31191)
早乙女・陽菜(召喚絵師・b32003)
冷泉・香夜(幻想涙花・b47140)
木之花・さくら(混血種・b47400)
日向・夏果(のんびりまったりいきましょう・b55022)
天宮・沙希(スケバン・b67479)



<リプレイ>

●砂に潜んで
(「夏は女の子にとっても勝負の時!」)
 青い海、青い空、そして白い砂浜。早乙女・陽菜(召喚絵師・b32003)は初夏の日差しの下、胸中で叫んでいた。
(「やれやれ……人里離れた地とは言え、まだ海開きには早いのだがな?」)
 もし心の声が聞けたなら、時期はちょっと早いけどと続けた陽菜だけでなく桐生・カタナ(修羅龍眼・b04195)も時期については近しい認識をしていたことがわかっただろう。
「もう海の季節ですかねぇ。そうすると、今回は少し早い海水浴でしょうか……なんかすいません」
 誰に対して謝っているのかちょっとわかりかねた日向・夏果(のんびりまったりいきましょう・b55022)だけでなく。
「マンボウさんって、何かのんびりした印象がありますね」
 ポツリと呟いた木之花・さくら(混血種・b47400)は手にしたスコップを砂へと差し込む。
「イグニッションを解けば取れるとは言え、砂塗れになるのはちょっと気が進みませんが」
 これもゴーストを欺く為なのだ。波打ち際よりもやや内陸側、能力者達はゴーストを待ち伏せる場所を作るべく砂浜に穴を掘っていた。
「平和な海にも抗体ゴーストですか…………やれやれな話ですね」
 伊藤・洋角(百貨全用・b31191)が嘆息する間もスコップが砂を食む音があちこちから聞こえてくる。そもそも、この穴掘り作戦は能力者達にゴースト退治を依頼した予報士のアドバイスにあったものである。
「王府さんの作戦、期待してるよ……」
 緋勇・龍麻(龍の伝承者・b04047)が完成した穴の中から空を仰げば、浮かぶ志都子は目をそらしつつ言ったことだろう。
「うん、その作戦の発案僕じゃないんだけど」
 と。
「……クソ暑っ」
「どうか、無理はしないでください……ね」
 ようやく完成した穴に入りながらも、汗をぬぐいつつ蓋を傾けたカタナへ冷泉・香夜(幻想涙花・b47140)は視線を落として言うと、自身も穴へと身を隠す。
(「……噂の抗体ゴースト、お会いするのは……初めて、でしょうか……?」)
 予報士から容姿については知らされている。来る方向も武器も戦闘能力も。
(「中々、不思議な姿の、獣人さんのようですが……抗体兵器も持っていますし……人里に向かわせるわけには、いきませんから……」)
 まだ獣人達の姿は確認できないものの、すべき事はわかっている。
「フシャァァァッ!」
(「あれが噂の獣人かい」)
 天宮・沙希(スケバン・b67479)が声に出さず呟いた頃、ようやく獣人達は波の合間から顔を出す。まさに情報通り。
「(来い、もっと近づいて来い……)」
 龍麻は穴の中で囁きながら布槍を握りしめ、飛び出すタイミングを窺う。
「えと……」
「行きましょう。あまり、時間を掛ける訳にもいきませんしね」
「では、合わせますね」
 真っ先に動いたのは、香夜、洋角、夏果の三人。
「シャァァァッ!」
 砂をかぶっていた段ボールの蓋が跳ね上がり、獣人と妖獣達が三人の姿を認識するのと同時に爆発が生じ、海面へ黒燐蟲の群れが成す弾丸の炸裂する中、砂浜に歌声が響き渡る。
「常に獣人の配置に注意するんだ!」
(「武器を持ったところで攻撃力が高くなっただけ」)
 龍麻の指示を耳に沙希は息を吸い込んだ。

●タイマンチェーン
「オラオラ、お前の相手はアタシだよ!」
 沙希の役目は獣人の抑え。闘気を具現化したチェーンをマンボウ獣人に飛ばしながら、沙希は叫ぶ。
「よしっ」
 飛来したチェーンが獣人の腕に絡み、能力者達の奇襲に乱れた群れの中で獣人は沙希へと向き直る。
「フシャァァァッ!」
 鎖によって怒りに囚われたマンボウ獣人を瞳に映し、沙希は笑った。
「来いよ。けどな……頭に血が昇ってちゃ、アタシには勝てないぜ!」
 それが、一対一の戦いの始まり。
「天宮、少しの間耐えてくれよ!」
 龍麻は仲間に向けていた視線を切ると、洋角の暴走黒燐弾が着弾した付近を指さす。
「みんな、まずはアイツを狙うぞ!」
 正確には、香夜のアークへリオンにも巻き込まれボロボロになっている妖獣を。
「そうね、近づかれる前に敵を弱らすわよ!」
「はい」
 陽菜の声にさくらは短く答え。二人を起点に白と黒が広がった。
「わたしの新作はいかが? それとも、獣人の頭じゃ理解できないかしら?」
 白は陽菜の飛ばした原稿用紙。
「行きなさい!」
 黒はさくらがけしかけた無数の吸血コウモリ。小ぶりな魚妖獣達は間髪なく放たれる範囲攻撃だけで力尽き、大型の妖獣も攻撃が重なるごとに傷つき、弱って行く。
「悪いが……ここから先は通行止めだぜ」
 傷つきながらも進軍してくる妖獣を待ちかまえていたカタナは旋剣の構えをとったまま砂を蹴った。奇襲による仲間の範囲攻撃を乗り切った妖獣達が傷つきながらも進んできたことで、間合いに入ったのだ。
「これでも喰らっておきなッ!」
 具現化した炎を宿し威力を増した式刀がシャチほどの大きさはあろうかという魚妖獣の身体に沈み込み、焼き切るようにして体躯を盾に二分する。
「数はともかく、強さの方は……なるほど、壁ですね」
 群れの中では強い方と思われる個体でさえ、カタナの紅蓮撃によって一撃で屠られている。洋角は妖獣の固まっているところを狙って再び暴走黒燐弾を撃ち込み。
「総てを凍てつかせる氷雪よ……」
 夏果の指先は寄ってきた妖獣の中でも一番大きな個体を凍てつかせ、氷に命を奪われた妖獣はガラス細工のように砕けて消滅して行く。
「……歪んでしまったものは、元には戻れない……から。ごめん、なさい……」
「あっちがここまで上手くいっているってことは」
 始まりの刻印が起こした大爆発に巻き込まれ消滅して行く妖獣達を視界の端に止めていた龍麻は悟る。
「っ!」
「やってくれるじゃねえか……。だが、この借りは高く付くぜ!」
 対峙早々旋剣の構えを余儀なくされた沙希の向こう、群れを指揮していた獣人が能力者一人で押さえ込める程弱い相手ではなかったと言うことを。
「煌めく龍の双眸は、いかなる魔も見逃さない!」
 すかさず獣人と沙希の間に龍麻は飛び込み、獣人に龍顎拳を叩き込みながら後ろを見ずに問う。
「大丈夫か?」
「緋勇、悪ぃ」
 実際厳しいところだった沙希は感謝の言葉を口にしつつ獣人をにらみ据えた。
「さくらさん、わたしが援護するわよ!」
 一方で、妖獣の群れと対応する面々は順調に敵を撃破しつつあった。範囲攻撃で削られた箇所を埋めるように前進して来た妖獣は、陽菜とさくらの二人が織りなす原稿用紙と吸血コウモリの歓待に多くの被害を出し。
「獣人にも残しとかねぇとな」
 紅蓮撃の反動が抜けないカタナは旋剣の構えで威力の増した斬撃を突出してきた大物に振る舞う。
「癒しの力を……」
 香夜が舞を踊り、仲間の身体を苛む技の反動を浄化する中。
「そろそろ戦力切れですか」
「そのようです、一足先に取り巻きの方を掃除するとしましょう」
 やがて数えるほどしか居なくなった妖獣を視界に納めつつ、洋角達は残された妖獣の殲滅に乗り出す。
「意外とあっさり片が付きましたね」
 ただ、既に数が激減していたこともあり、妖獣が殲滅されるまでにたいした時間はかからなかった。残るはマンボウ獣人のみ。

●苦戦の終わり
「フシャァァァッ!」
「俺の前で、仲間を倒れさせやしない!」
 龍麻が叫んでも、前に立ちふさがっても、怒りに我を忘れた獣人はただひたすらに沙希を狙う。そもそも、タイマンチェーンはそれが狙いだったのだから文句の言いようもないのだが、生命力も詠唱兵器の耐久力も有限である。沙希のスケバンセーラー服は攻防の間ボロボロになったり元に戻ったりをひたすら繰り返しており、現在はボロボロな状況にあった。
「フシャァァァッ!」
「くっ、そんなにじろじろ見るんじゃねぇ!」
 と言ってみても、怒り状態で常時ロックオンしているマンボウ獣人には無理な話であった。
「っ」
 繰り出された銛は容赦なく沙希を狙い。
「ちッ」
「くそっ」
 穂先の前に龍麻が飛び出そうとするも間に合わない。鋭く尖った銛の先端は吸い込まれるように沙希の胸をめがけて突き進み。
「天宮さん、もっと右にズレて!」
 陽菜の声を沙希が知覚した直後。吹き出した炎が沙希の視界を染める。
「シャギャァァァッ」
「やれやれ……愉快なのは顔だけにしてほしいぜ」
 急に精彩を欠いた銛の穂先をかろうじてかわした沙希へ、カタナは間に合ったようだなと声をかけ立ち上がった。
「萌えないゴーストは、燃やしちゃうわね!」
 もう既に燃えているとツッコむのは無粋だろうが、獣人は既に燃えていた。カタナの紅蓮撃に続き陽菜の撃ち込んだ魔弾が命中したマンボウ妖獣は更に激しく燃え上がり、身を焼かれる苦痛に悶える。
「大丈夫……でしょうか?」
「さあ、このまま消えてもらいましょう」
 香夜の呼び出した祖霊が抑え役だった沙希の傷を癒す中、能力者達の集中攻撃は開始された。
「シャ? ……フシャァッ」
 ようやく怒りと炎から解放されたマンボウ獣人は珍妙な構えをとって傷を癒そうとするが、もう遅い。
「――貴方が蒼い槍なら、私の槍は紅の光――交えましょうか?」
 長槍を向けたさくらが連続で弾丸を撃ち込んで獣人を踊らせ。
「緋勇、同時に仕掛けるぜ!」
 獣人を押さえ込んでいた二人も完全に反撃に転じる。
「そういえば、本来のマンボウは物凄く皮膚が弱いらしいんですが……まあ、関係ない話ですかね」
 複数の獣の特徴が混じった妖獣もいるのだ、似ていても別物ととるべきなのだろう。時折繰り出された攻撃を獣人が弾く姿を洋角は眺めつつ、視線に力と怨念を込める。傍観しているわけではなく、洋角も呪いの魔眼で味方を援護しているのだ。
「過ぎたる力に、戒めの歌を……」
 一方的に近い攻撃の中、銛の力を夏果の歌に封じられた獣人に状況を打破する力は残って居らず。
「海へ返してやるぜ。但し―――真っ二つにしてなッ!」
「光よ……彼らに、永久の安らぎを……」
 カタナの斬撃にあわせて香夜が飛ばしたエネルギーの槍はマンボウ獣人の頭部を貫いた。
「シャギャァァッ」
 断末魔を上げ獣人が崩れ落ちる姿をもって、戦いは終わりを迎えた。

●戦い終えて
「お疲れ様でした」
 洋角が味方を労う中。
「戦場は整えていきますか」
 自分たちが掘った穴を見て、夏果は呟く。
「だな」
 この点に関してはカタナも全面的に賛成の方針であった。見解の相違を見たのは、この後のこと。
「折角ですから、海水浴とかしたいですねぇ。水着も一応持ってきましたし……」
「いや、俺は海には入らねーが」
 微妙な温度差が出た瞬間でもあった。
「時間に余裕があるし、他の方は遊んで帰るんですかねぇ?」
「私は遊ぶわよ。水着も持ってきたし……ピンク系のセパレーツ」
 陽菜はごそごそと荷物をあさって自分の水着を取り出すと、何故か再び荷物をあさる。
「沙希さんにはぜひ、この黒のビキニを〜♪」
 ぎゃぴーっっと謎の効果音出しつつ取り出したのは、何故か他人用の水着。
「なぁ、一応聞いておくけどこのビキニは透けないよな?」
「透けないわよ! そもそも何故そんなことを?」
 そもそも透けたら大問題である。自身の問いかけに陽菜が返してきた視線を沙希はまっすぐ受け止められず、ついと視線をそらす。
「いや、透けなきゃいいんだ……って」
 流れでつい受け取ってしまったビキニは着替えざるを得ないだろう。
「俺はバーベキューの準備しておこう。まだ寒い海だから温かい物が恋しいだろう?」
 なにやら楽しむ気満々の仲間を眺めながら、龍麻は微笑むと荷物の前にしゃがみ込み。
「次は……幸せに、なれますように……」
「兎も角、夏が近いですね、ええ……」
 香夜が獣人と妖獣達へ瞑目して祈りを捧げる横で、洋角は空を仰ぐ。
「にゃんと!? わたしを狙うのは無しよ〜! っぷ、溺れる〜!」
 やがて波打ち際で聞こえ始めた賑やかな声に悲鳴が混じったりし始めた頃。
「――それでは、また、何時か何処か、運命の交わる瞬間にお会いしましょう」
 誰に向けてかさくらは優雅に一礼して踵を返す。残されたのは海辺の賑やかな声と少し離れた場所から漂ってくる美味しそうな香りだけだった。
 


マスター:聖山葵 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/05/17
得票数:楽しい14 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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