<リプレイ>
● 旭川市から車で暫く。深き谷の奥に天人峡温泉は有った。 名にし負う温泉は勿論のこと、日本の滝百選にも選ばれた羽衣の滝。「東洋のナイアガラ」と称される敷島の滝。「日本で最も美しい沢」と呼ばれるクヮウンナイ川等々、複数の観光名所を擁する。 原初の吸血鬼は、この温泉郷に存在する温泉宿を制圧し、宿泊する湯治客や観光客を人質にしようと目論んでいると言う。 「……宿を襲い人質を取るなど、下郎の所業……」 中寮・琴乃(風花の舞う静謐の乙女・b47782)を初めとする9人の能力者は、それを阻止する為に宿へ入っていた。 ひとまず部屋に荷物を置いて現在は、襲撃予想ルートである露天風呂裏手の沢を下見中である。 北海道はこの時期でも本州に比べ遥かに涼しく、鎌倉と同じような格好では寒いくらいだが、真雪女である琴乃に関して言えば全く問題にならない様だ。 「本当に一息吐く暇も無いわね。まあ、今目論見が潰せるのは幸いかしら。……後々発覚して心の沸点が段飛び急降下するよりは」 緩やかな小川の周辺や、その水深等を確かめながら呟くのは掛葉木・はたる(焔陽の蔓薔薇・b75297)。 「それにしても、人質を取るとか原初どもの考えそうなこったぜ。そのふざけた企み、絶対に叩き潰す!」 ルドルフ・ジルバークーゲル(風纏う銀の弾丸・b39199)は足下に転がっていた大きめの石を、彼方へと投げ捨てる。 銀誓館対策として、念には念を入れてきた感がある今回のやり口。阻止出来なくては正義の名が泣くと言うものだ。 「久しぶりの温泉だ〜♪ 日本人の憩いと癒しの場を襲撃するとは、原初の吸血鬼は許せません!」 「温泉を守る為、戦いますよ私達は! ……勿論、世界平和の為に、ですわ?」 と、妙に戦意が高まっている様子の夜代・伊織(マクシミリアン美少女悪魔男爵・b66197)と刀守・梓杜乃(メイドオブオールワーク・b42779)。 DNAレベルで、日本人は温泉に対して特別な思い入れがあるのかも知れない。敵がそれを踏みにじろうと言うのであれば、普段より士気が上がるのも当然。 「原初ですか、因果な相手ですが。今回の私達はディフェンス側。きっちりと宿の人を守っていきますわ。隠れ場所としては、この岩の裏などはいかがでしょう?」 日本人ではないが、能力者としての正義感に違いは無い。待ち伏せに手頃な場所を幾つかリストアップしているのはエリュシオネス・アンフィスバエナ(白にして暁光・b74146)。 「温泉♪ 温泉♪ 卓球大会と言い温泉と言い、良い旅行になりそうだねー」 一方、完全に旅行気分でいるのは柳瀬・和奈(てるてるむすめ・b39816)。 ゴーストの襲撃までは温泉旅館を満喫して良いとの事で、修学旅行生のようにウキウキしてる。もっとも任務遂行には目立たないことが重要。修学旅行生のように振舞って悪いことは無いのだ。 「日本のスパ文化は、ネットでググった程度なので少々緊張が」 「そうなんだ、じゃあ裸で混浴って事も知ってるのね?」 「……えっ?」 まだ日本の文化に慣れていないホムラ・キャラウェイ(赤い処刑マシーン・b74566)を、悪い冗談でからかって居るのは速坂・めぐる(真烈風少女・bn0197)。 「さぁ、それではそろそろ戻りましょうか?」 こうして一頻り現場の観察を終えた一同は、宿へと引き返して行く。
● 「浴衣って慣れねぇから動き難い……でも夕飯旨かったな」 「ええ、さすが北海道」 「最高だったわねー、イクラ丼……それに焼きホタテも! 本当に私にくれちゃって良かったの?」 ルドルフとはたるのやり取りに大きく頷きながら、隣を歩くホムラに視線を向けるめぐる。 「貴女が、ジッと物欲しそうにしていただけですわ」 当人はそっぽを向きつつ、相変らずのツンデレっぷりを披露する。 「温泉旅館と言えば、やっぱりこれですわね」 そんなやり取りを交わしつつ一行が到着したのは、卓球場。 「年季入ってるな、このペン」 「シェイクハンド無いの……?」 これから戦いを控えているというのに、そんなに体力を消費して良いのだろうか……そんな心配もどこ吹く風、ワイワイとラケット、ボールを借りる。 「俺は点数係を……中寮と掛葉木もやらないのか?」 「……いえ、私自身は球技の類はどうも不得手ですので……」 「えぇ、私も観戦のみ」 点数係と審判はルドルフ、琴乃の2人が引き受ける。はたるは見た目に寄らず勝負事で火が着くタイプの様で、参加自粛。 「では丁度6人ですわね……ダブルスに致しましょうか?」 「良いですね!」 「うん、楽しそうじゃない」 と言うワケで、2人組を作る一同。 「よろしくね、めぐるちゃん!」 「ええ、勝ちに行きましょ和奈!」 1組目は、和奈・めぐるペア。 「本気でいきますわ」 「たまには浴衣も良いですね」 2組目、エリュシオネス・梓杜乃のペアは、なんだかとっても色気たっぷりな浴衣姿の2人。 「卓○温泉の松○慶子のプレイをみて学んだ私の腕前を見せてあげます!」 「速坂めぐる、覚悟は宜しくて」 そして3組目は伊織・ホムラペア。
「和奈・めぐるバーサスエリュシオネス・梓杜乃。和奈トゥサーブ、ラブオール」 「卓球はほとんどやったことないけど……」 ――カコン! 和奈のサーブは、相手側コートに鋭く突き刺さる。 「……フォルト」 「和奈、一回自分のコートに入れないと……」 「え、サーブってテニスみたいに相手のとこに直接じゃダメなの?」 運動神経は良いが、先行き不安な和奈。 「あらあら、ボールが……きゃっ!」 転がったボールを追いかけ、拾おうとした琴乃だが、自らボールを踏んづけてしまい転倒。 本人が言っていた通り、かなり絶望的な運動音痴だ。 「……では、参りますわ」 ぐぐっと前屈みになる梓杜乃。浴衣の胸元がいかにも眩しい。 ――カコン! 「なんのっ!」 ――カコン! 「あら? ふむん、なかなか難しいですわね」 和奈が打ち返し、それをまたエリュシオネスが何とか相手コートへバックする。ようやく卓球らしい白熱したラリーだ。 それにしても、両陣営の揺れ幅の差にはかなりの開きがある……。 「なるほど、大体把握しましたわ」 「こっちも慣れてきたよ!」 ――カコンッ! 「イレブン、エイト。マッチトゥ和奈・めぐる」 「「いえーい!」」 動きやすさの勝利か、結局僅差の試合を制したのは和奈とめぐるペア。
「和奈・めぐるバーサス伊織・ホムラ。和奈トゥサーブ、ラブオール」 「この調子で連勝いくよ!」 ――カコン! 「本気でやるからには、狙うは一番です!」 ――カコン! 大胆に浴衣の裾を肌蹴させながら、和奈のサーブを勢いよく打ち返す伊織。 でも男子だと言う事を忘れてはいけない……。 「あっ……何しているんだホムラ、もっとやれるはずだ」 これを打ち損じたホムラは、ラケットを見つめながらぶつぶつと自分を叱責。完全にガチモードだ。 「私もああなってたかも知れないわね……」 そんなホムラを見て、ふっと溜息を零すはたる。 「いきます!」 「なんのっ」 ――カコンッ! 「テン、トゥエルブ。マッチトゥ伊織・ホムラ」 激闘ではあったが執念の差か、結局勝利したのは伊織・ホムラチーム。
「エリュシオネス・梓杜乃バーサス伊織・ホムラ。エリュシオネストゥサーブ、ラブオール」 かくて迎えた最終戦。この試合で伊織・ホムラチームが勝利すれば優勝は決する。 「どうしてそこで諦めるんだ、諦めんなよ…」 相変らず自分に暗示をかけるかの様に、ラケットに話しかけているホムラ。 「一勝くらいはしませんとね」 一方巨にゅ……エリュシオネス・梓杜乃チームは、全敗で終われるかとばかりに一層揺れ幅を激しくする。 ――カッ! 「あっ!」 「イレブン・シックス。マッチトゥエリュシオネス・梓杜乃」 めぐるに対して激しく燃えていたホムラも、他のチーム相手では実力が発揮出来なかった様子。 卓球素人と言う伊織も奮闘したが、結局はお色気たっぷりチームが1勝。全チームとも勝ち星を綺麗に分け合った結果に終わったのだった。
● 卓球で大いに盛り上がった一行は、暫しの休憩を経て後、昼に下見した沢へとやってきた。 「昼に見つけてた場所は……あぁ、あそこか」 「うぅ、ちょっと寒いね」 都市部の夜とは違う、真っ暗な夜に多少苦労しながらも、各々物陰に身を隠す。 ――がさっ……ばきばきっ。 数十分程が経った頃だろうか、山のほうから響く物音。 「(来た!)」 予報士の説明にあった通り、熊と人間の中間の様な外見をしたゴーストが3体。ジリジリと宿の方へ近づいてくる。 だが、一定の距離まで近づいてきたと思うと、何かの気配を察してか立ち止まる。 「行こう!」 きょろきょろと周囲を見回し、警戒の色を濃くする獣人。奇襲の意味が無くなってしまわぬうちに、物陰を飛び出す能力者達。 「どうだ、明るくなったろう」 ホムラを初め、皆一斉に用意してあった光源を点灯させる。 「……疾く沈みませ。荒ぶ氷の刃にて葬送の路を成しましょう」 ――ビュォォォッ! 戦端を切ったのは、琴乃の起こした凄まじい猛吹雪。 ケルベロスオメガの宿儺も、静寂を維持しつつ間合いを詰める。 「エリスちゃん!」 「ええ、ここは通しませんわ」 獣人1体の前へ立ちふさがる和奈とエリュシオネス。 「夜代様、私達も」 「はい!」 梓杜乃と伊織ペアは、反対側の獣人の前へ。 この2組のペアによって2体を抑え、その間に残りの1体を集中攻撃によって葬る狙いだ。 「いくぜ」 「温泉宿の雰囲気を一番ぶち壊しにする異形達は即刻退場なさい」 強烈な上昇気流を生じさせるルドルフ。これに呼応し、はたるは雷弾を放つ。 ――ババッ!! 「グルォォォッ!」 突き刺さる数条の攻撃に、怒りのうめき声を上げる獣人。任務遂行を妨害する敵の存在を認め、抗体兵器であるメイスを取り出す。 ――ブオンッ! 「んっ!」 強振されたメイスを、護剣・陽煌で受け止める和奈。 防いで居るにもかかわらず、響く衝撃に表情が歪む。 「その程度……効きませんよ」 こちらも得物の八咫烏で一撃を受け止めた梓杜乃。すぐさま獣性の塊である漆黒のオーラを纏い、傷を癒す。 「紅焔と黒刃を存分に振るいなさい!」 尚も氷雪の地獄を発生させ続ける琴乃。その声に応え、宿儺も前衛として獣人へ襲い掛かる。 「優雅にいこうか♪」 「ええ、ガンカタと洒落こんで見ましょうか」 共に貴種ヴァンパイアの技を会得している和奈とエリュシオネスは、舞う様な優雅さで剣を振るう。 ――ザシュッ! 「ウガァァッ!」 獣人も怒りのままにメイスを振るうが、2人の動きにやや翻弄され気味と言ったところ。 「こちらも負けていられませんね」 「はい、皆の邪魔はさせません!」 黒炎を纏った八咫烏が獣人の肩口を切り裂き、分身した伊織が前後からの同時攻撃を仕掛ける。 獣人は頑健で簡単には怯まないが、4人は獣人らをしっかりと引き付けていると言って良い。 「今のうちに!」 「畳み掛ける!」 ホムラは無数の弾丸を叩き込み、めぐるも禍々しい呪いの力を帯びた瞳で標的を見据える。 「ラルフ、意地でも通すな!」 こちらもケルベロスオメガのラルフに命じつつ、ジェットウインドを放つルドルフ。 息もつかせぬ波状攻撃の前に、さしもの獣人もその体力を削り取られてゆく。
● 「此の身命に賭けて、何としても食い止めさせて頂きます」 「グォォォオォン!!」 度重なる連続攻撃に加え、琴乃の氷雪地獄がついに獣人に引導を渡す。 「ナイス! 今のうちに、エリスちゃん」 「まだ、ぬるいですわ」 和奈の病魔根絶符によって傷を癒されたエリュシオネスは、跳躍。ヘレナの聖釘を獣人の眼前に突き付け、引き金を引く。 「一歩も退いてたまるかよ」 ラルフのレッドファイアに合わせ、ルドルフのジェットウィンドが吹き荒れる。 「もう一息、援護します」 伊織の水刃手裏剣と、氷を纏ったサンダーピラーが、次々に獣人の腹部を貫く。 「グルルァァ!」 傷を負いながらもメイスの強撃を繰り出す獣人達だが、その戦力差は急速に開いてゆく。 「はたる、トドメを!」 ――バシィンッ!! はたるの手から一際大きな雷弾が打ち出され、瀕死の獣人を葬り去る。 「さぁ、最後は全員で」 残る獣人は1体。梓杜乃の言葉に頷くと、一同は一気に包囲の網を狭めてゆく。 降り注ぐような集中砲火、咆哮する獣人の眉間に、伊織の水刃手裏剣が突き刺さる。 「グォォ――」 断末魔の叫びを上げて腕を振り上げた獣人だったが、その悪あがきが功を奏する事は無い。 「魔を祓う銀の弾丸、冥土の土産に持っていきな」 ――ガァン! 火を噴くルドルフのVerbindungが、その思念を霧散させた。 「任務完了、と」
「どうか、無事で……」 大雪山の方向に瞑目し、静かに祈る琴乃。 「よし、獣人に勝てたし次は温泉だねー♪ めぐるちゃんも大きくなったねぇ」 「ちょっ、抱きつかなくてもわかるでしょ!」 「フムフム、じっくり見比べさせて頂きますわ」 「此処に関しては一安心ね。お風呂は空いてるのかしら」 「はい、まだ入れるそうですよ。お風呂上りの一本、ご用意致します♪」 と、再び温泉旅行気分にスイッチする女性陣。 戦いの疲れを温泉で癒すのも良いだろう。 「ルドルフさん、私達も一緒にお風呂行きましょう」 「ん……あぁ、そうだったな」 一方、伊織の誘いに一瞬耳を疑うルドルフだったが、すぐに納得いった様子。 かくて、無事ゴーストの襲撃を退けた一同は、旅館へと凱旋するのだった。
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参加者:8人
作成日:2011/05/25
得票数:楽しい17
カッコいい1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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