毒を流し続けるムカデ


<オープニング>


 山の中で落ちていた雛を抱き上げていた男は、巨大ムカデに襲われた。
 鋭い先端となった足に体は貫かれ、口からあふれ出てくる緑色の液体によって全身がむしばまれていく。
 男は無惨な姿で地面に転がり、手の中にいた雛も見る影もない姿で落ちていた。


「お待ちしておりました」
  神奈・瑞香(中学生運命予報士・bn0246)は、集まった能力者たちに丁寧なおじぎをした。
 近いうちに、ある山で一般人が殺される。
 そう告げた瑞香は、事件を未然に防ぐためにも妖獣を倒してほしいと、視た出来事を伝えだした。

 場所は、山の中腹にある鳥の巣を乗せた木。
 その木には、三匹の雛と周囲を飛び回っている二匹の親鳥がいるという。
 妖獣は、そこにいれば向こうから姿を見せてくれるようだ。
「妖獣は、二メートルほどある大きなムカデです。
 妖獣は、鋭くとがった足で相手を貫き、口からこぼしている緑色の液体を獲物にかけて毒を与えます。
 どうやら、液体は遠くへ飛ばすことはできないようですが、顔を振り回せば、近くにいる全ての者に液体をかけることができますので注意が必要です。
 ですから……雛とその周りを飛んでいる親鳥の安否は問いません」
 瑞香は目を伏せてうつむいた。
 妖獣を前に雛などに気を取られれば、能力者たちに苦戦が強いられるだろう。
 それほどの相手だ。
「……仕方ありません」
 唇をかんだ瑞香は、大きく息を吸ってから能力者たちに笑顔を向けた。

「皆さん、どうかお気をつけて。帰りをお待ちしております」

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参加者
涼風・葉月(高校生霊媒士・b05192)
舞園・彩音(戦場の歌姫・b24404)
七瀬・瞳亜(パパラチアの魔女・b25292)
伊藤・洋角(百貨全用・b31191)
犬山・ホエル(妖獣使いの牙道忍者・b42890)
秋月・慎斗(シロガネ・b48239)
常陸・朝霞(土蜘蛛に新しい風を吹き込んで・b50975)
時守・癒太(夢幻世界投影者・b52874)



<リプレイ>


「う〜ん、雛はどこにいるのかなぁ」
 涼風・葉月(高校生霊媒士・b05192)はいろいろな木の間を望遠鏡でのぞきこんだ。
 近くでは二匹の親鳥が、雛を守るかのように能力者たちを警戒しながらとびまわっている。
「心配しなくても、小鳥たちに危害をくわせませんよ」
 歌うように親鳥へ話しかけた舞園・彩音(戦場の歌姫・b24404)は、笑顔をみせた。
 警戒心を少しゆるめたのか、親鳥たちの飛び方がゆるやかに変わる。
 そんな二匹を見つめながら、時守・癒太(夢幻世界投影者・b52874)は拳をにぎりしめた。
「作戦を完遂するなら、鳥の一家を見捨てなければならないか……」
 確かにその決断が必要な時もある。
 しかし、少なくとも今はそのときではない。
「できれば、雛も守りたいよね」
「守ります。力を持つ者、能力者としての義務を果たします」
 ポツリと言った葉月の言葉に癒太はうなずく。
 犬山・ホエル(妖獣使いの牙道忍者・b42890)は癒太の肩に手をおいた。
「鳥たちは、俺が責任を持って助ける」
「ええ、犬山さんにまかせます。その代わりといってはなんですが、自分たちはムカデの注意をひきつけるために、行動するとしましょう。あまり無理はしないようにですけれどね」
 伊藤・洋角(百貨全用・b31191)はにこやかに言った。
 雛を直接救う者と間接的に助ける者。
 どちらも欠かせない役割は、すでに相談で決めている。
 だが、七瀬・瞳亜(パパラチアの魔女・b25292)は一つ気になっていたことがある。
「人を襲うのなら、どちらにせよ倒すべき敵なのでしょうけど……巨大ムカデは小鳥を見つけて出てきたのでしょうか? それとも、男性を見つけて出てきのかでしょうか? その辺りが、この討伐の鍵になる気がするのですけど……考えすぎでしょうか?」
「……その可能性もないとは、いいきれないですね」
 同じことを思った能力者たちは、今まで口をつぐんでいた常陸・朝霞(土蜘蛛に新しい風を吹き込んで・b50975)の言葉に、表情をかげらせた。
 鳥の巣を見つけたという葉月の示した場所にいて妖獣が来なければ、最悪、雛を囮にすることも考えなくてはならないからだ。
 しかし、まだ雛を囮にすると決まったわけではない。 
 しかも、見れば雛は巣から落ちていない。
「ベストをつくせば、どんなことになっても、なんとかなるものさ」
 秋月・慎斗(シロガネ・b48239)は、気合いの入ったこぶしを平手に打ちつけた。
 その通りかもしれないと、能力者たちは、まだ見ぬ先に光を見る。
 妖獣が現れるという場所を見つけた彼らは、巣の下に立って辺りを見回した。
 警戒。注意。ムカデという生態から、地中から現れる可能性。
 さまざまな思考をめぐらせて、能力者たちは妖獣を目と感覚で探した。
「いたよ!」
 耳を澄まし、目をこらしていた葉月がいち早く妖獣の存在に気づいた。
 朝霞は、妖獣が持つたくさんの足を見て、不愉快そうに腕を組む。
「ムカデ……足が多ければ偉いってものじゃありません。……ということこで、ぶっ飛ばしてやるのです。……鳥さんも助けますよ? ついでですよ? ……ええ、ついでなんです」
 朝霞は珍しく長い言葉を連ねながら、顔を妖獣に向けた。


 妖獣が近づいてくるなり、癒太はホエルが雛を避難させる時間をかせぐため、すぐに敵へ接近して奥義石兵気脈砕きを放った。
 作戦を完遂するためなら、鳥の一家を見捨てなければならない決断も必要なときがある。だが今はそのときではない。
 力を持つ者、能力者としての義務を果たすために、癒太は気脈を撃ち込む。
 うごめいている妖獣の足が下から石化し始めた。
「犬山先輩、今の内に早く!」
「シロ、俺の分まで頼んだぞ」
 使役ゴースト、真モーラットヒーローに仲間の回復を頼んだホエルは、木に登り、雛の鳴く巣をそっと抱きかかえた。
「すまないが引っ越しだ」
 ホエルは、巣を大事に抱えたまま枝から飛び降り、着地した。
 そんなホエルを守るように、瞳亜が体の半分が石化した妖獣に蒼の魔弾を撃った。
 妖獣が能力者と雛のどちらを狙っているのかはわからない。
 だが、雛を襲わせるわけにはいかない。
「もし、小鳥たちを目標にしているようでしたら、破魔矢を放って気をそらさなくてはいけないですね」
 瞳亜の口が、きつく結ばれる。
 そこに、彩音の歌声が響いた。
 妖獣を雛とは別方向に敵を誘導するという歌声に込められた彩音の主張が、コトダマヴォイスとなって能力者全員に伝わる。
「もちろんですよ」
 洋角は笑んだまま妖獣にかけよった。
 黒燐奏甲をかけながら、石化をはじきとばした妖獣を翻弄し、自分に注意を引きつける。
 そして、体の上を滑っていった妖獣の鋭い足先を武器によって軽減させる。
 洋角の動きが鈍りを見せないのは、雛を無事に救いたいという願いからだ。
「ささいなことでも、可能性があるなら自分らが身体をはります」
「ああ、助けられるものは助けておきたい。鳥の安否は問わないとはいえ……命は大事だ。それに、心がないと戦いなんてやってられない!」
 毒に当たらないために、木の幹を盾にしながら遠ざかっていくホエルを背に、慎斗は奥義牙道砲を撃ち込んだ。
 まさに大切なものを守ろうとする獣の姿勢から放った衝撃波は、妖獣を吹きとばしはできなかったものの、大きく体をゆがませた。
「遠当て……、結構、いい威力だろう」
 妖獣から苦痛の声があがる。
 朝霞は旋剣の構えをとりながら前に出た。
 慎斗と肩を並べていた葉月は奥義雑霊弾を撃ち込んだ。
「ボクの攻撃を囮にして、キツイ一撃をくらわせてよ!」
 雛たちの元へは行かせないと、後衛ながら壁となった葉月は、使役ゴースト、真モーラットピュアに回復をまかせて攻撃に集中した。
 妖獣が一カ所にとどまるとは限らない。
 妖獣の細長い体がうねった。
 癒太は、再び石兵気脈砕きをかけ、妖獣を石化した。
 瞳亜は、動かない相手に蒼の魔弾を。彩音はギターマシンガンを撃つ。
「これで終わらせますよ!」
 これを機に洋角は一気に攻めると奥義呪いの魔眼をむける。
「師匠譲りのパンチ!!」
 慎斗は正面から妖獣に向かっていき、奥義獣撃拳を下から上へとふるった。
 朝霞は、斬馬刀らに宿した炎を、思い切り叩きこんだ。
 反動が枷を与えるが、迷いはない。
 葉月は雑霊弾を撃ち込む。
 このままでいけば、勝てる。
 しかし、妖獣は石化と解くと同時に、頭を激しくふりまわして、口から触れている毒液を散らせた。
 近くにいた朝霞、慎斗、洋角、癒太は、体をむしばむ感覚に眉根を潜める。
 降ってきた数滴をはじき飛ばした癒太のナイフから、緑色の液体が落ちていた。
「そう簡単にはいきませんか……」
 癒太は、妖獣の死角へたちまわり、奥義八卦浄銭剣をふるった。
 巣を安全な木に移し、上空で心配そうに飛び回る親鳥に必ず雛たちを守ると告げていたホエルは、巣のない別の木の上から奥義牙道砲を放った。
 万全ではない体だとしても、仲間は守る力はある。
 妖獣が体を大きくそらせて牙道砲をかすめたとき、瞳亜は赦しの舞を踊った。
「毒の方は、これで心配ありませんから、一気に倒しましょうね」
 後方で全体を把握し、常に最善の行動を選択していた瞳亜は、優しい笑みで仲間に語りかけた。
 妖獣は、次々と毒液を飛ばしてくるが、彩音の浄化サイクロンも重なって、能力者たちは毒から重度のダメージを受けることはない。
 そして、それは朝霞がふるう紅蓮撃がもたらす枷も同時に解いてくれる。
 必ず仲間が解いてくれるという信頼が朝霞の技をより鋭いものとさせていた。
「そよ風のハミング…、私の歌、聴いてください…」
 彩音は浄化サイクロンで再び、毒をとりのぞきにかかる。
 ――雛を救えずに、何のための力でしょうか?
 歌が持つ不思議な力を知り、能力者としての力が大切なものを守るためにあると信じている彩音は、そう思わずにはいられない。
 妖獣は、黒燐奏甲で仲間の傷を癒していた洋角から呪いの魔眼を、慎斗から牙道砲を飛ばされて悲鳴をあげた。
 そして、間をおかず朝霞の紅蓮撃によって炎に包まれる。
「足が多ければいいというものではないわ」
 土蜘蛛のとしての誇りがある朝霞は、すっと目を細めて口を笑ませる。
「モーちゃん、回復行くよ!」
 葉月は、仲間の治癒に当たっている真モーラットピュアの傷を奥義ゴースト治癒で癒した。
 ホエルと使役ゴースト、真モーラットヒーローと対になるかのように飛び跳ね回る真モーラットピュア。
 妖獣は、口を大きく開けて威嚇しながら、緑色の液体をボタボタとこぼす。
 再び液体がまき散らされても、能力者たちは攻撃の手をゆるめない。
「守る!」
 その言葉に刻まれた誓いのために、能力者たちは刃を放った。


「小鳥は無事?」
 彩音は戦いが終わるなり、移動された巣の元へかけよった。
 どこにいるのかと、辺りを見回す彩音に、ホエルは頭上を指して教える。
 そこには、誰一人失っていない親子の姿があった。
「鳥たちも無事のようだ。まら、来年には成長した雛鳥たちが、元気な歌声を聞かせてくれるだろう」
「そのときは、私と一緒に歌を奏でたいですね」
 ほっとした彩音は、雛たちの声に耳を傾けた。
 元気の良い高い声だ。
 駆けつけてきた癒太は、巣を見上げてにっこりと笑う。
「よかった」
「鳥たちが無事なら、体をはったかいが、あるものです」
 洋角は、満足そうにうなずく。
「外敵から少しは身を守れるように、鳥小屋を設置してもらったいいかもしれないですわ」
 瞳亜は、ぽん。と手を合わせたが、鳥小屋を作る材料がないことに気づいて、残念そうに息をついた。
 朝霞は、瞳亜に向けていた目を巣に移す。
「……むやみに近づいたら、怯えてしまうかもしれません。……このままでいいのですよ」
 雛をじっくりとみたいと思っていた葉月は、その通りかもしれないと気を登りたい衝動を抑えた。
 見上げれば、今も可愛い顔がときおりのぞける。
「騒がせてわるかったな」
 慎斗は、雛のエサをとりにいくのか、巣を飛び去った一匹の親鳥の背を笑みながら見送った。


マスター:あやる 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/05/30
得票数:楽しい5  ハートフル9 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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