<リプレイ>
●地下へ 「蒐集癖が昂じて自ら石像と成り果てた、と言う訳ですか。趣味に生き過ぎるのも考え物ですね」 「……コレクションして楽しいの?」 呟いて眼鏡へ手をかけた奈那生・登真(七生討魔・b02846)にパン屋の袋を抱えたまま月乃・星(永遠の欠食児童かも・b33543)は首を傾げて問うた。 (「それぞれ何かに愛着を持つコレクターと言うのは何処にでも居る物だけれど、拘りらしいものが見えない辺り、既に手段が目的になっている様な気がする」) (「尽きる事無き欲……地縛霊にまでなり収集欲に囚われるとは哀れを通り越し呆れるな」) 会話に混じる規則的な音はアラストール・セブンセントラル(高貴なる義務・b05350)や浅葱・悠(星黎の紡ぎ手・b01115)を含む能力者達が階段を下り行く足音。 「被害者が出る前に、急ぐよ!」 リラ・リエンダ(銀誓の女豹・b28374)に促され地下への階段を下り始めたのは少し前のことだった。 「人によるだろうな。……まあ、死んでいようが生きていようが趣味嗜好は個人の自由だが、それで他人に害が及ぶのは、死のうが生きようが頂けない」 問いの答えに絡めて眼鏡を外した登真は言い、幾人かの能力者が頷く。 (「抗体ゴースト……先の戦争で判明した新たな敵、そして人類の本当の敵」) 仲間達がコレクターとそのあり方に触れていた時、レン・ホーリー(白き勇者・b23785)の思考は別の方向を向いていた。 (「吉凶を占い、厄災から世を守るのが陰陽師の役目」) ただ。 (「お前たちがどれほど強力であろうと白き勇者の名に掛けて」) (「どれほどゴーストが強化されようと人々の幸せを守るために」) レンも近衛・咲耶(陰陽師・b35581)も辿り着くところは――。 (「人々に仇なすゴーストはボクらが倒してみせる!」) (「ゴーストを退治してみせますえ!」) 他の能力者達とほぼ一緒だった。ゴーストを倒す、誓いを胸に二対の瞳は仲間達の者と共に薄暗い階段の奥へと注がれる。 (「敵は美術品収集家ですか。……相手の目利きなどはわかりませんが、抗体兵器と言う厄介な物を持っているのでしたね」) 文月・風華(暁天の巫女・b50869)の手にした懐中電灯の明かりは、舞い上がる埃の中で能力者達が進むべき先を照らしていた。 (「コレクションの一部にされないように注意して行動しないと」) 聞こえるのは、能力者の足音と。 「……あ、美味し」 パンを咀嚼していた星が袋からパンを取り出す音。微妙に脱力感を覚える場面だが、星もパンを食べつつ色々考えていたのだ。 「こんな埃だらけのところで食べて咽せたりしないのですか?」 「……大丈夫」 埃が舞うと言っても能力者達は階段を下りているだけ、ひょっとしたら埃が舞っているのは主に足下の方だけなのか、気にするそぶりを見せず星は再びパンを食べ始める。 「っ、これは……」 妙な感覚を知覚したのは能力者達誰もが同じタイミングだっただろう。 「みなさま、立ち位置に十分注意してくださいね」 咲耶の警告が響いたのは石像の建ち並ぶ部屋の中で。 「ここならどうだい? ……っ!」 答えたリラの感じた感覚はおそらく、抗体空間の有する石化能力の欠片。ある意味での戦闘は既に始まっていた。
●光に曝かれしは 「隠れたって無駄です、出てきなさい!」 「隠れたところで、ボク達には無駄だよ!」 「隠れてないで、出てきな!」 風華とレンとリラ、三人が声を張り上げる中、意外な活躍を見せたのは幾人かの能力者が持参した懐中電灯だった。 「居た!」 まさに範囲攻撃であぶり出すまでもない。明かりが皆無であったら『戦闘に支障はない』までも、あぶり出すなり探す必要はあったかもしれない。だが、懐中電灯の明かりは地縛霊特有の鎖をくっきりと浮かび上がらせていたのだ。アラストールの予測が半分当たった形でもある。 「アンタがコレクターってわけかい?」 「隠れ鬼はそこまでだ。次は一つ、大立ち回りに付き合って貰おうか」 登真が石像の影に隠れつつ距離を詰める中、既に駆けだしていたリラは石像を足場にして直角に曲がり、地縛霊を視界に納めて飛んだ。 「アタシをコレクションできるものならしてみな!」 装着した龍靭虎爪に獣のオーラを宿し。 (「アンタがコレクターならアタシは女豹」) 地縛霊の隣に佇む石像の胸を蹴れば、獲物はもう目と鼻の先だった。 「アンタの喉笛を噛み切ってやるよ!」 「グアアッ」 リラとすれ違った地縛霊は悲鳴を上げつつ首を押さえる。まるで石像が動き出したかのような光景だった。 「意外とあっさり見つかったな……まあいい。挨拶代わりだ、喰らい尽くせ」 悠はこれを好機と見、地縛霊めがけて針金細工の猟犬を召還し、けしかける。 「私達も行きましょう」 「承知しましたえ。先人より伝えられし、陰陽道の秘術をご覧に入れましょう」 風華と咲耶は共に肌に縞模様を浮かべながら地縛霊の元へと向かい。 「……あ」 星は霧の巨人を用意し忘れたことを少し悔やみつつ地縛霊までの距離を詰める。 「仲間の回復範囲から出ないこと、それが重要なんだ……」 レンは旋剣の構えをとりつつ地縛霊まで後数歩というところで足を止めた。一歩前は石像の影、四歩先にはリラの姿がある 「引き裂けッ!」 アラストールが影を伸ばしたのは、ちょうどリラとレンの中間だった。 「石になってたまるものですか!」 「くっ」 「痛いの痛いの、飛んでけ〜♪ なんてなぁ」 石化を免れた風華は青龍の力拳に込めつつ別方向から地縛霊へ更に接近し、咲耶は石化が始まった仲間へ符を飛ばす。 「ありがとうよ。アラストール、同時に仕掛けるよ。アタシに合わせな!」 符の力で石化から脱したリラの視線が一瞬だけ咲耶と絡み、声に応じるように剛剣が風を切る。一人は横に飛んで地縛霊の後背に回り込みつつ今まで立っていた場所を譲り、一人は闇のオーラで軌跡を描きながら、空いた場所を踏みしめる。 「なら、同時に仕掛けよう!」 そこへ、さらにもう一人。 「一つ、便乗させて貰おうか」 いや、二人。 「……あ」 三人か。 「我が敵に災厄をもらたせ、カラミティハンド!」 「はッ!」 レンの伸ばした赤い影が上から地縛霊を襲うと共にアラストールが剣の軌道を跳ね上げ、闇のオーラを纏った斬撃を地縛霊の脛に叩き込む。 「ガアアッ!」 「どこ見てんだい!」 痛みに咆吼する地縛霊の背後には既に別の能力者が迫っていた。 「その通りだ」 素早いフットワークで死角に回り込んでいた登真もまた。 「……あれが抗体兵器」 描き出された三日月の向こう、地縛霊の手が握る杖を眺めながら星は考える。 「……何に対する『抗体』なのかな」 瞬断撃を繰り出しながら。 「アアアアアッ!」 抗体空間に響く苦痛の声を地縛霊にあげさせたのは同時に叩き込まれた五つの攻撃。 「……石に化けただけはある、流石に硬いか」 雑魚であれば一瞬で屠りされたであろう攻撃にも地縛霊は耐えた。 「リラクン、敵に狙われているよ。気を付けて!」 そして、攻撃を耐えれば反撃をしてくるのも道理である。 「っ!」 「欲シイ……」 警告の声に振り返る能力者を地縛霊の瞳は捉えた。
●タイミング 「大丈夫ですか?」 地縛霊にとって不運だったのは、反撃が出雲・那美(慎ましき巫女・b24518)の舞う直前になったことだろう。視線の犠牲になった能力者の立ち位置は地縛霊の斜め後方、ギリギリ慈愛の舞の効果範囲内だった。 「貴様の収集物などに興味はない……今望むのは美術品を見る事ではなく強者との戦だ」 悠は長剣を両手に床を蹴り、闇のオーラが布のように揺れながら二方向より地縛霊を狙う。 「飽く事無き収集欲、集めた先に何を見る? 今から消えるものには無用な問いだろうがな」 「タリナイ……モット、コレクションヲ」 地縛霊は答えととれる様な言葉は発さない、問いを理解出来てさえいないのかもしれない。斬撃を受け止めた杖が鋭い音を立て、空間の力が能力者達へ牙を剥く。 「そん……な……」 「これは、長引かせるわけにはいかないね。わかっては居たけど」 運で回避出来る分、被害は少ない。石化する者が半数を超えることはほとんどないだろうが、だからといって楽観視出来るような状況でないのも事実だった。 「くっ、止められた……」 「レンさん、ウチが援護しますえ!」 だからこそさっさと倒したいところなのだが、地縛霊は予報士の言葉通り『ちょっと堅い相手』なのだ。何度か攻撃を受け止められはしているものの、何人かで連携して繰り出した攻撃は地縛霊の体力を確実に削っているというのに。 「倒れませんね……」 「アタシの力は、こんなもんじゃないよ!」 時折回復を交えて繰り返される攻勢を耐え、地縛霊はまだその場に立っている。 「そろそろ……砕けろっ!」 登真の足が再び三日月を描き出し、人影がもう一つ地縛霊と交差する。 「ガッ……」 「女豹に狩られる気分はどうだい?」 「このまま押すぞ」 二連の攻撃で傾ぐ地縛霊の姿を見て、アラストールは声を発しつつ飛んだ。 「グウウッ」 闇のオーラを纏った斬撃が十文字に地縛霊を切り裂き。 「ゴーストであろうと形あるものは必ず滅する……貴様の散り様、我が白鷺の剣で飾ってやろう」 石像を足場に悠も飛び上がる。 「……あ」 悠が飛んだことで地縛霊の注意は上方にそれて。星の放つ瞬断撃は完全に地縛霊の虚をつく形となる。 「ギャアァァッ!」 「ここが攻め時ですわ!」 一瞬遅れてヒビの入った膝を押さえ地縛霊は絶叫を上げ、咲耶も叫んだ。 「はい」 短く答えた風華は屈み込む形になった地縛霊の顔面へ青龍の力を込めた拳を叩き付ける。 「この一撃で……砕け散れ!」 「ガアアッ、足リナ……」 ひび割れた顔面を押さえながら、地縛霊は杖にすがるように立ち上がろうとするが。 「我が敵に終焉をもらたせ、カラミティィハァァンド!」 杖を手にした腕を残したまま赤い影に引き裂かれた地縛霊の身体は、腕を残して床に崩れ落ちる。 「勇者に、敗北は許されないんだ」 光の粒に変わり霧散して行く地縛霊の姿を眺めながらレンは呟いた。それが、抗体空間の主が終焉。 「終わったな」 身体に続いて地縛霊の腕と抗体兵器も消滅し、やがて抗体空間も主の消滅によって崩壊を始める。能力者達は戦いに勝利したのだ。
●噂の真相? 「狩られたのはアンタだったみたいだねぇ」 元の階段に戻ってきたリラは先に続く下り階段へ視線を向けて呟く。 「コレクターはハンターじゃない、獲物を捕らえるのは苦手だってことさね」 闇に沈んだその先は明かり一つなく、地縛霊ももうリラの声を聞くことはない。 「……趣味嗜好、主義主張は個人の自由。だからといって、故人の遺物を生者が漁って良い理由にはなりません」 「ものは集めるだけではなく有効活用してこそだと思うが……集める、飾る、使う……ものにおける考えは人それぞれか。うん?」 眼鏡をかけ直した登真の言に悠は嘆息すると、階段を下りようとする登真に目をとめた。自分同様、このまま撤収するだろうと思っていたのだ。 「いえ、、亡き蒐集家の熱意に敬意を表しせめてもの盗人対策でもしておこうかと思いまして」 訝しげな視線に気がついたのだろう、登真は視線で問うた悠にそう答え、下へと向かおうとし。 「待ってくれ、僕も行こう」 アラストールが同行を申し出る。 「抗体ゴーストと通常ゴーストとの違いがないか調べてみたいんだ」 現場にせめてささやかな手がかりでもあればと言うのがアラストールにとっての同行理由で。 「何の事はありません、遺された石像を全て地下室の入口の向けておくだけの事」 登真が試みようと思っていた盗人対策がそれだった。もっとも、階段の下に本当に地下室があるとは限らないのだけれど。 「では、二人が帰ってくるまで待つか、それとも――」 先に帰るか。勿論埃っぽい階段を上りきり、廃ビルの外や別の部屋などで待つという方法もある。 (「敵がますます強くなってきたなぁ……ボク達もそろそろパワーアップできるといいんだけど」) 黙って二人の消えた闇の中を見つめつつレンは小さく息を吐き。 「……お腹すいた」 ぐー、というお腹の音とともに口を開いたのは星だった。 「とりあえず、上に行きましょうか」 どこかに持っていたパンの袋から再びパンを取り出して食べ始めた星の姿に誰かが提案して。 「あぅ……ホコリまみれになってしまいました……」 「イグニッションを解いたら良くないか?」 「なるほど、盲点でした」 ようやく階段を抜け、埃だらけの姿に嘆いていた風華は悠の助言を聞いてはたと手を打つ。 「さて、任務を達成したなら長居は無用だな」 やがて戻ってきた二人と合流した能力者達はそのまま帰路につくこととなる。 尚、階段の下まで行った二人が目的を果たせたか風華に聞いたならこう答えたことだろう。 「下には何もありませんでしたよ〜」 と。
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参加者:8人
作成日:2011/05/24
得票数:楽しい2
カッコいい7
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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