<リプレイ>
●日没 鎌倉はもう日が落ち、薄暗くなった頃だろうか。 マヨイガを通り抜ければ、時間的にはすぐに辿り着くのに。 今、眼前に広がる瀬戸内海の景色は――赤一色。 それはまるで壇ノ浦で散った平家の怒りや怨念が海を支配しているかのような。 燃えるような、夕焼けの赤橙を帯びていた。 そして浪をかき分け、怒りの色に支配された海から来るは、怨恨の形相を宿す蟹武者達。 1体、また1体と、その獣人――平家蟹の抗体ゴースト達は、江田島へと上陸を果たしていく。 そして、ザッ、ザッと武者達が一歩ずつ踏み出す度に、夕焼け色を帯びた砂が砂浜に舞って。 その足の向く先は、江田島市街地の方角。 「……よく来てくれた。早速だが、状況説明に移る」 江田島の異変に気づき、先行していた毛利・周(真火を得た日輪の将・b04242)は、ガードレールに沿ってサイクリングロードを辿り、慎重に且つ迅速にここまでやって来た仲間達と無事合流を果たして。 ガードレール下の岩場に身を隠しつつ、これまでの敵の動きや周囲の地形等の報告を始める。 周が取り仕切っている結社をはじめ、広島に拠点を構えるマヨイガ結社の面々が異変に気づいたのは、ほんの数時間前。 突如海に発生したもの――それは、巨大な龍の如き謎の水柱。 さらに、その水で成された昇龍が消えた後。 海から江田島へと上陸を目指し現れたのは、複数の平家蟹の獣人達。 そしてそんな蟹武者が手にするは、万色の稲妻がもたらした、抗体兵器。 (「平家蟹の怨念……鎌倉に本拠地を置く私たちの敵といえば敵ね」) 周の偵察結果を聞きながら、上条・鳴海(雪割草・b55099)は、憤怒の表情に見える甲羅の鎧を纏った敵を見遣る。 平家蟹にまつわる伝説通り祟られるのは御免であるが。 見逃すわけには、いかないから。 (「海で起きた異変が原因で蟹武者が出てきたと考えると、この影響がもっと違う者を呼び出す可能性も考えたほうが良いかもな」) まだ謎も多い、抗体ゴースト。 金澤・陽介(奮闘中の使役使い・b50948)も原因不明の現象について考察を展開させつつ。 この異変、自然に起きた物でないとするとやっかいな事になりそうだな、と。 仲間達や真サキュバス・ドールのタツキとともに、動向を窺いながら岩陰で身を潜めて。 (「同じ抗体ゴーストがいっぱい上陸、これは何かありそう」) ケルベロスオメガのウル君に寄り添う蒼井・加奈(目指せきれいなおねーさん・b75538)も、そう海から来る平家蟹の獣人達に視線を向けるも。 ことの真相も気にはなるが……まずは、獣人の侵攻阻止が最優先だと。 そう眼前の敵に、意識を集中する。 (「龍の如き水柱……。何か気になるが……まずは蟹退治が先か」) (「平家蟹の獣人、ねぇ……何が原因かは分からないケド、今は出来る事をしましょうか」) 同じように、六桐・匳(青藍水月・b66454)やリチェンツィオーソ・ヴェルジネ(偽り刻む怨讐の舞燈姫・b59634)も、極力物音を立てぬよう細心の注意を払いつつ。 ゆっくりと、だが確実に前進する敵の群れの侵攻を阻止すべく、仲間達と最終的な打ち合わせを済ませておく。 敵は強敵の抗体ゴースト6体。 そのうち和弓を持つ蟹獣人2体と鎖鎌を持つ2体は、すでに砂浜へ上陸を果たしている。 残る大太刀持ち獣人2体も、まさに今上陸を済ませるところだ。 だが幸い、慎重に身を潜め偵察に徹していた周や、彼の元にやってきた後続の能力者達の存在に、蟹獣人達はいまだ気付いてはいない。 それに先に上陸している和弓や鎖鎌の蟹獣人は、仲間を待つかのように、能力者達の潜む岩場に背を向け、完全に海の方へと視線を向けている状態だ。 陣形も整っておらず、相手の警戒も薄い今が――攻め時。 (「我が故郷の広島の地で、何が起ころうとしているのか……。見極める為にも、まずはこの防衛戦、勝利せねば」) マヨイガ防衛結社の代表を務める者として、また、故郷に起こった異変の真相に近づくためにも。 ここで、抗体ゴーストを退ける。 報告と打ち合わせを端的に終わらせた周は、仲間達と顔を見合わせ、頷いて。 「作戦目標は残らず撃滅、ってコトで♪」 「ウル君、がんばるのよ!」 いつの間にか赤から黒へと変化し始めた砂浜へと、10人の能力者は、一斉に踊り出る。
●奇襲 薄暗くなった砂浜に灯る明かりと、勢い良く砂を蹴って迫る複数の影。 『……!? グァッ!!』 一番岩場に近い位置に立っていた和弓の蟹獣人は、その存在に気付くも、遅く。 満足に振り返ることもままならず声を上げた。 日の暮れた空を翔け、平家蟹の獣人へと襲いかかったのは――『でかいデフォルメ越前蟹』。 艮・鏡兵(僕はこれでも男です・b80716)の放った、越前蟹スピードスケッチ。 ――これが、奇襲の合図。 二回目の依頼で緊張気味ではあるが、マヨイガ結社の一員として江田島の安全を取り戻したいと。銅縁の眼鏡をくいっと上げ、気合を入れる鏡兵。 それに何よりも。 「余談ですが、蟹は僕の地元の福井の方がおいしいです!」 平家蟹は食用には向きませんが、越前蟹はすごく美味なのです! そんな鏡兵の合図に合わせて。 「ここらで止まってもらうぜ、蟹の鎧武者さんよ」 一気に前へと出た匳の三日月の軌道の蹴りが間を置かず和弓の獣人へと叩き込まれ、主人の加奈が放つ漆黒の弾丸降る中、ウル君のレッドファイアの魔炎が燃え上がった刹那。 「爆ぜよ……」 さらに薄暗くなった闇の中輝く炎は、その形を不死鳥へと変える。 そして周のフェニックスブロウが油断していた和弓獣人を容赦なく焦がすと同時に。 ヘイゼル・ローレンベルグ(静寂なる風の流れ・b54104)のひと睨みが、硬い蟹の鎧の内側から敵の身を引き裂きにかかる。 江田島に迫った危機。人々の安全を守る為にも頑張らないと、と。 ヘイゼルは、月に照らされたサファイヤの長い髪をさらりと揺らして。 (「マヨイガ結社の人達の頑張りに、僕も応えないとね」) 危機を知らせ、現場へ先行してくれていたマヨイガ結社の皆の頑張りに負けじと、仲間達とともに抗体ゴーストの前に立ちはだかる。 そんな親友のヘイゼルに、今回も一緒に頑張ろうねっ♪ と声を掛けてから。 「蟹さん大行進だ〜♪ ふふっ、君たちが来るのはお見通しだよっ! ……なーんちゃって〜♪」 大きくて沢山いる蟹さん達に無邪気に笑む、乃々木・栗花落(木花咲耶の戦神子・b56122)であったが。 「沢山狩ってカニ鍋にしたいけど、ゴーストじゃあマズそうだね」 美味しいカニ鍋にできないのならば……爆ぜる黒燐蟲の、餌食にするだけ。 事前に立てた作戦通り、皆で息を合わせて。まずは一気に弓兵を沈めてしまいたいと。 そう砂に足を取られることなく颯爽と前に出て敵をなぞる鳴海の指先が、和弓蟹を痺れさせるほどに凍らせて。 タツキを前へと送り出しながら放たれた陽介の雑霊の塊が、怨念の蟹武者の身体をモロに打ち抜いたのだった。 成す術もなく何もできぬまま、砂浜に崩れ落ち消える抗体ゴースト。 奇襲の策がはまり、1体の和弓の蟹獣人に何もさせぬまま、即効で落とすことに成功したが。 「私の故郷、広島での狼藉を許すつもりはない。残さず討ち滅ぼす!」 天堂・櫻子(義理と人情の桜吹雪・b67497)は、ようやく反撃に出た和弓獣人の乱舞矢をパイルバンカーで叩き落としてから。決して攻撃の手を緩めず、まだ態勢の整っていない敵陣へと踏み込み、残った和弓獣人へと、気合を乗せたインパクトの一撃を見舞って。 さらにリチェンツィオーソの流星を思わせるような棘鉄球が、フラついた敵に追い打ちをかける。 そして少し離れた位置にいた鎖鎌の獣人も、上陸し波打ち際あたりにいた太刀の獣人も。 抗体兵器を振り翳し、戦列に加わるべく、能力者達の方へと一気に距離を詰める。
奇襲を仕掛けた能力者陣営が、まずは流れを作ったといえる戦況ではあるが。 敵はただの妖獣ではなく、抗体兵器を持つ獣人。 流れを掴んだ今のまま、一気に畳み掛けてしまいたいところだ。 「このまま、こちらのペースで圧倒するぞ」 フェニックスブロウの魔炎に包まれ崩れ落ちた和弓獣人を後目に、周は仲間に声を掛けつつ、今度は鎖鎌を持つ敵へと視線を移して。 雪の鎧を纏い万全に戦闘体勢を整えた鳴海のさよならの指先が、次の標的である鎖鎌獣人の身を魔氷で蝕んだ。 その間、倒れる前に和弓獣人が加奈へと放った一矢の猛毒も、ウル君の祈りによって綺麗に消し去られて。 そして仲間達が鎖鎌獣人を倒す間、前へと出てきた太刀の獣人2体の抑えを、匳と櫻子が担う。 太刀による力任せな大振りの攻撃は、その軌道を見極め易くもあるが。 「く、う……っ!!」 目の前の匳目掛け振りおろされた必殺の一撃は、血飛沫とともに彼の体力を大幅に削り取った。 さらに鎖鎌の鎖がすかさず絡みつき、詠唱動力炉が停止したのは、櫻子のパイルバンカー。 敵が一筋縄ではいかないほど、前衛にかかる負担は大きくなる。 だが。 「……ハッ、まだまだ終わらねぇ」 「大丈夫、まだ戦えます!」 鏡兵の白いキノコが匳の負った傷を塞ぐべく戦場を飛び、匳自身も己の姿を二重に映し出す霧を発生させ体力を回復させて。 タツキとのゴーストイグニッションで強化された陽介の雑霊弾が鎖鎌獣人に炸裂する中、すかさず仲間を支援すべく浄化サイクロンを巻き起こすヘイゼル。 「大丈夫だよ……すぐに治すから。怪我を治すのは任せて」 「サポートってボクの性に合わないんだよねっ!」 同時に、回復の行き渡立った現状に笑んで攻撃に転じるのは、栗花落。 刹那、爆ぜる黒燐蟲が鎖鎌獣人1体の身体を食らいつくし、跡形もなく消滅させた。 櫻子は再び回転し始めたパイルバンカーの音を耳に聞きながら、太刀獣人を抑えている間は無理はせず、防御や回避、回復に専念する。 作戦においての各人の役割が明確で、互いがそれを支え補い合う。 そんな能力者達の戦線は、強烈な攻撃を受けても尚、保たれたままだ。 そして戦場に展開されるは、リチェンツィオーソの力漲る情熱的なダンスパフォーマンス。 その世界に引き込まれた鎖鎌獣人と太刀獣人1体が、その意思と関係なしに踊り始める。 見た目なかなか滑稽な蟹ダンスを披露する抗体ゴースト。 だがその有り様を微笑ましく眺めてあげる程、能力者はお人好しではない。 集中攻撃を叩き込み、一体ずつ確実に仕留めにかかる能力者達は。 残りの敵を滅すべく、勢い良く砂を巻き上げながらも一気に地を蹴る。 獣人達も踊りの呪縛を順に振り解き、強烈な攻撃を繰り出してくるが。 獣爪を交差させ、確とその衝撃を受け止める周。 そして敵に生じた隙を見逃さず、加奈とウル君の息の合った攻撃が鎖鎌獣人を毒と炎で蝕み、止めをさして。 体力の高い太刀の獣人2体に対して攻撃を集中させ、徐々に削っていく。 再び、大太刀を能力者へと振り上げる蟹武者。 だがその獣人が繰り出す必殺剣の太刀筋を見切り、かわした匳は。 「危ねぇ行軍はオシマイ、ってなぁ!」 先程のお返しといわんばかりに、クレセントファングの華麗な高速の蹴りを武者に叩きつけて。 硬い甲羅に覆われた身体を砂浜に這わせ、消滅させたのだった。 「僕の眼を見て……その身を蝕んでやるよ……」 「えいっ、バラバラになっちゃえ〜♪」 刹那、戦場に広がるのは、異なる黒き燐光の衝撃。 ヘイゼルと栗花落の呪い魔眼と暴走黒燐弾が、最後の1体となった蟹武者へと放たれれば。 「その殻、叩き割ってあげるわよ♪」 リチェンツィオーソの流星鎚が唸りを上げると同時に、距離を詰めた鳴海の指先がさよならの引導を渡すべく敵の身をなぞり、陽介の呼び集めた雑霊が塊となり敵の上体を大きく揺らがせた。 しかし足元が覚束ないながらも、いまだ倒れぬ太刀の蟹武者。 逆に反撃の一撃を、櫻子へと思い切り振り下ろす。 だが櫻子は、その身に受けた大きなダメージにも一歩も引かずに。 「一気に決めるぞ! 貫け!」 鏡兵の投じたギンギンパワーZの回復と強化を受けながら、ここが勝負時だと踏み込み、渾身のインパクトを叩きつけたのだった。 そして。 『グ……グアアアアァァッ!!!』 平家の怨念の形相を象ったかのような、褐色をした甲羅の鎧は。 見事に砕け散って飛散し、夜の闇に消えたのだった。 ●不穏 無事に6体の獣人を撃破した能力者達。 だが……決してこれで終わりではないと、全員が感じていた。 「あはは、おうちに帰るまでが戦いだよっ♪ なんちゃって」 栗花落とヘイゼルは念の為、仲間達に万全の回復を施して。 加奈も何かが起こった場合に備え、労いながらもゴースト再生手術でウル君を癒してあげる。 陽介は各人が持参した明かりを頼りに、用意していた双眼鏡で、周囲や海に新たな異変が起きていないかを探って。 「……ったく。一体何が起こってるやらな」 匳も、何か学園に報告できるようなことがないか、念のため獣人達が向かおうとしていた方角にも目を向けてみる。 「やれやれ、此れからどうなるやら……」 そう呟くリチェンツィオーソも、櫻子とともに、すっかり漆黒の闇に覆われた夜の海に目を凝らした。 海から更なる増援が……なんて状況に陥ったら、全くもって洒落にならない。 「これ以上何か起きるのでしょうか?」 ふと、運命予報士が教室で口にしていた不安の言葉を思い出しつつ。 鏡兵も警戒を怠らず気を引き締めて。 「そういえば以前、龍脈のゴーストを逃がした事例があったわね。それが抗体化して襲ってきたとしたら……」 嫌な予感が脳裏をよぎりながら、鳴海は妖狐や他ゴーストなどの敵勢力がいないか確認しておく。 ――今のところ、夜の静けさに包まれている江田島。 だが、海に突如発生したという、巨大な龍の如き水柱の謎。 そして江田島に上陸し市街地の方へと向かっていた、平家蟹の獣人達。 ことの真相は、まだ今の段階では分からないが。 「……これで終わる道理無し。……異形の次の手に備えるとしよう」 周は何かが起こる予兆を見逃すまいと、仲間達と共に江田島の風景を瞳に映す。 静かに響く瀬戸内海の浪の音を、耳にしながら。
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参加者:10人
作成日:2011/06/03
得票数:カッコいい18
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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