職人の魂


<オープニング>


 不況のあおりを受けて閉鎖された小さな工場があった。
 そこは取り壊される事もなく、長らく放置されていたのだが……そのうち幽霊が出るといった噂が流れ始め、近所の悪ガキ達が時折面白半分でやってくるようになってしまっていた。
 その日も近所の小学生達が度胸試しのためにそこへやってきたのだが……中に入ってみると、そこには40代くらいの男性が1人立っていた。
「コノバショハ……ダレニモ……ワタサネェ」
 男性はぶつぶつと何かを呟きながら少年達に迫り、少年達も慌てて逃げ出すが、男性は常人とは思えないほど足が速く、両手に握りしめたスパナで彼等を滅多打ちにし……工場内に絶叫がこだました。

「今回の現場は小さな工場、スパナの抗体兵器を持ったおじさんの地縛霊が相手となるよ」
 神崎・優希(中学生運命予報士・bn0207)の説明によれば、昔は工場として使われていた廃墟に足を踏み入れると地縛霊の抗体空間へと引きずり込まれ、そこに待ち受ける男性の地縛霊に襲われるのだという。
 地縛霊が現れるのは午後1時〜2時の間頃であるらしく、その時間に工場へと足を踏み入れると抗体空間へと引きずり込まれるという。
 廃墟とはいえ、明るいうちは誰がくるとも限らないため注意が必要だろう。
 工場は扉が全開になっており、閉めようとしても錆びててとても閉まらないようである。
 抗体空間内部は特に特殊な効果はないが、一定時間以内に地縛霊を倒す事ができなければ凄まじいエネルギーがその場にいる地縛霊以外の全ての者を襲う。
 地縛霊は作業着を着た40代くらいの男性の姿をしており、スパナの抗体兵器を両手に装備しており、それで相手をたたきつける攻撃を行うという。
「地縛霊になってまでその場所を守りたかったのかな、そのおじさんは……」
 その地縛霊がどういった人物であったのかはわからないが、その工場となんらかの関わりがあった事は間違いないだろう。
「なんにしても地縛霊である以上は退治しないとね……みんな、頼んだよっ」

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参加者
緋勇・龍麻(龍の伝承者・b04047)
聖鳳院・喪作(シルバーフェニックス・b07533)
毒島・毒子(フリッカースペード・b16226)
方・瑞麗(魅惑の脚線美・b35580)
叢雲・そうや(天微星・b44036)
文月・風華(暁天の巫女・b50869)
鳳凰寺・龍也(終わりを見届ける者・b53591)
萱森・各務(遊鬼士・b56350)
醍醐・夕華(タイガーユウカ・b59337)
伊香鎚・敬介(光轟く眩しき轟音・b76328)



<リプレイ>


 閉鎖された工場に現れるという地縛霊を倒すため、銀誓館学園から現場へとやってきた10人の能力者達は、出入り口にロープや看板等を設置して一般人が入り込めないようにした後、地縛霊が現れる時間がくるまでジッと待機していた。
「不況のあおりは何処もあるものですね」
 この廃墟となってしまった工場もそうなのだろうかと思いながら、
「誰しも好き好んで倒産はしたくないでしょうが、好き好んで廃墟への度胸試しに来る人はいる、と」
 面白半分でこの場所を訪れる者達に対し、やや批判的な言葉を呟く聖鳳院・喪作(シルバーフェニックス・b07533)。
「執念深いゴーストが抗体兵器を持ってより執念深くなったか」
 抗体空間も厄介な特性を持っているようであるし、早々に決着をつけようと鳳凰寺・龍也(終わりを見届ける者・b53591)は静かな闘志を燃やす。
「どうやら工場に何かしらの思いがあるようですね」
 作業着を着ているという事から、昔この工場で働いていた人物のなれの果ての姿なのだろうかと考える文月・風華(暁天の巫女・b50869)。
「大切なものを守りたいという強い想いが未練となって悪霊へと変わってしまった男性の霊……なんと哀しい霊なのでしょう……」
 萱森・各務(遊鬼士・b56350)は心を痛めつつ、地縛霊となってしまった人物の魂を救ってあげたい、救ってあげなければと強く思う。
 現世に縛られた魂を解放する事こそが、僧侶である彼女が御仏より与えられし使命であるらしい。
「彼がこの場所を守りたいと思うのと同じように、俺は仲間たちやこの世界に生きる人たちを守りたい……そして、この地に縛られ続けている、彼も救いたい……」
 そんな考えを持つ自分は欲張りであるのだろうかと自問自答する緋勇・龍麻(龍の伝承者・b04047)。
「工場の閉鎖の理由も死んだ理由も知らねぇ、おっさんがどんな思いでこの工場に囚われてるのかなんて知らねぇ、だがおっさんがこの場所に存在しちゃいけないのだけはわかる……同情はしないぜ」
 ある程度地縛霊に同情的な各務や龍麻とは違い、厳しい態度で彼に接しようと伊香鎚・敬介(光轟く眩しき轟音・b76328)はしていた。
「そうだな、地縛霊となってしまった以上は大人しく引導を受けてもらわねばな」
 思い入れも過ぎれば妄執に終わる……せめて業を重ねる前に始末をつけようと、叢雲・そうや(天微星・b44036)も決意しているようであった。
「彼をこのまま放置すれば罪も無い人たちが危険に陥るんだものね」
 可哀想だと思わないわけではない……が、だからといって地縛霊を見過ごすわけにはいかない。
 醍醐・夕華(タイガーユウカ・b59337)は決意を新たにしながら、仲間達とともに工場の中へと足を踏み入れていく。
 するとそこには、両手にスパナを握りしめた男性が1人佇んでいた。
「また抗体ゴースト……最近は本当にうじゃうじゃいるわね。だけど私たち銀誓館は敵がどれほど強大になろうと諦めないわ。今度も確実に叩き潰してあげる!」
 グッと拳を握り締めながら、方・瑞麗(魅惑の脚線美・b35580)は地縛霊にそう言い放つ。
 自分がどれだけ強いのかを確かめるため、強敵と戦う事を望む彼女にとっては、抗体ゴーストはまさにうってつけの相手であるのかもしれない。
「おじさんさ、それって人を殴ったりする為のモノじゃないんじゃないの?……見た感じよ、見た感じ」
 地縛霊が手にしたスパナを見てそう指摘しつつ、毒島・毒子(フリッカースペード・b16226)は仲間達とともにカードを取り出し、
『イグニッション』
 能力者達は一斉にカードを起動させ、それぞれの武器を手に、地縛霊に敢然と立ち向かっていくのであった。


 戦闘が開始された……が、地縛霊は能力者達に先んじて行動を開始し、
「デテイケ……!」
 彼は両手のスパナで毒子の体を強打し、彼女へと大ダメージを与え……ギリギリのところで踏みとどまったものの、彼女はガックリと片膝をついてしまう。
 そうして出鼻をくじかれてしまった能力者達であったが、それに惑わされる事無く各々思い思いの配置につきながら次々と強化を行っていく。
 そんな中、唯一龍也は地縛霊へと攻撃をしかけ、
「古き物を壊すのが正義だとは言わない。が、暴力的な抗議行動は未然に防がせてもらおう」
 一方的に地縛霊に非があるわけではないとしつつも、彼は斬馬刀を振りまわして地縛霊の体を切り裂くが、
「コゾウガ……」
 地縛霊はすぐさま反撃に転じ、龍也の脳天へと両手のスパナを勢いよく振り下ろし……思わず龍也も気絶してしまいそうになるものの、首を左右にふってどうにか意識を保ち……そして、その間に強化を終えた仲間達もまた攻撃に移る。
「抗体兵器は武器ですが、貴方ならもっと違うスパナの使い方が出来たのでしょうね」
 本来なら地縛霊のスパナも人々の暮らしに役立つために使われたのだろうが……今となってはただ人を傷つける凶器でしかない。
 喪作は残念そうにそう呟きながら目にも止まらない速さでガラスの剣を一閃させて地縛霊の体を切り裂き、
「仕事場を荒らしたのは謝るわ。でも勝負は負けないわよ!」
 地縛霊にとって大切な場所に勝手に足を踏み入れた事を素直に謝罪した後、瑞麗は改めて正々堂々勝負を申し込み、グッと握りしめた拳に四神の一つ、青龍の力を宿した拳にを地縛霊の顔面目がけて叩き込む。
「お前の自由にはさせない!」
 みんなを守るため、地縛霊を救い出すため……龍麻は戦う、己の全てを賭けて。
 彼は極限まで練り込んだ気を指先に集め、地縛霊の体にぴとっと触れてそれを流し込み……気は地縛霊の体の中で激しく暴れ狂い、
「いきなり重いのいきますよ!」
 更に、いつの間にか地縛霊の背後へと回り込んでいた風華がグッと大地を踏みしめ、直後、彼女の足元から衝撃波がぶわっと巻き起こって地縛霊を襲い、思わず地縛霊も吹き飛ばされそうになるものの、なんとか両足に力を込めてそれに耐え抜く。
「悪霊となりし者よ。御仏の導きに従い給え!」
 地縛霊を救い出すためには、彼を倒す以外に方法はない。
 各務は自らの使命を果たすために心を鬼にして、呪詛呪言によってダメージを与え、確実に地縛霊の体力を奪い取っていく。
「鳳凰寺さん、無理しないで」
 いくら能力者達といえど、抗体ゴーストの攻撃を受け続けては一たまりもない。
 夕華は傷ついた龍也の身を案じ、彼の武器に白燐蟲を宿らせて白くぼんやりとした光に包みこむ事によって彼の体力を回復させる。
「おっさんがどうしてこうなっちまったのか知る術もないし知る気もないけどよ、それが免罪符にはなんねーんだよ」
 たとえどれだけ辛い過去があったのだとしても悪事を働いていい理由にはならない……そう地縛霊に説きながら、敬介は太陽の如く燃え盛る炎を拳に宿し、地縛霊の腹部へとそれを叩き込んで正義の鉄槌を下す。
 毒子もまた龍也へと黒燐蟲を宿らせて回復させ、
「闇を食らうは闇。食らい尽くせ」
 仲間からのサポートによってどうにか持ち直し、更には強化された龍也は再び斬馬刀を強く握りしめて振りまわして地縛霊の体を切り裂き、
「死して尚未練を残すか……」
 地縛霊の行動に対し、何やら思うところのある様子のそうやであるが、彼はそれで注意力がそがれるような性格ではなく、呪殺符を一瞬にして作り出して地縛霊目がけて投げつけ、彼の体にそれを貼りつかせ、ダメージを与えていくのであった。


「その鎖、断たせてもらう」
 地縛霊を呪縛から解き放つため、喪作は両手の武器を強く握りしめ……ゴーストや仲間の能力者達でさえ視認する事の困難な斬撃を繰り出し、更に一歩踏み込みながら超高速の突きを放ち、更にもう一度水晶剣を一閃させ……一瞬の間を置いて、彼の放った瞬断撃による傷が地縛霊の体に次々と現れる。
「仕事なの。悪く思わないでね」
 やはりどこが罪悪感を感じている様子の瑞麗であったが、それでも戦いにおいて彼女が手加減する事はなく、片足を軸としながら高速で体をスピンさせ、そのすらりと伸びた美しい脚で地縛霊に連続蹴りを放つ……が、
「デテイケェ!」
 すぐさま地縛霊は反撃に転じ、瑞麗の腹部へと両手のスパナを突き刺すようにして叩き込み……瑞麗は苦痛に顔を歪ませながら一度後退していく。
「無敵の龍、最強の虎、龍虎の技を受けてみろ!」
 続く龍麻もまた体を高速回転させはじめ、青龍拳士の得意技、龍尾脚を次々と叩き込み、更に再度白虎拳士の必殺技、白虎絶命拳を放って地縛霊の体に気を流し込んで暴れ狂わせ、その言葉どおり龍虎の技を組み合わせた見事な攻撃を繰り出すが、
「コノバショハ……ワタサン!」
 地縛霊も負けじとスパナで龍麻の体を連打し、滅多打ちにしていく。
「俺には守りたいものがある。だから負けられないんだ!」
 それでも龍麻は痛みをこらえ、再び龍尾脚による攻撃をしかける。
 続いて風華が攻撃をしかけようとするが……地縛霊はそれに先んじて彼女の頭部を力いっぱい殴りつけ、
「痛た……工具はそんな風に使うものではありません!」
 そのあまりの威力にふらつきつつも、風華は地縛霊にそう注意しつつ虎紋覚醒により体力を回復させ、再び震脚を発動させて凄まじい衝撃波を巻き起こし、更に龍麻同様白虎絶命拳をお見舞いし、内側から地縛霊の体を傷つけていく。
「不動明王よ。かの者の悪心のみを打ち砕け!」
 そして各務はひたすら呪いの言葉を呟き続け、そうする事によって生まれる負のエネルギーによりダメージを与える。
 それは前衛に立つ仲間達ほどの派手さはないものの、着実に地縛霊の体力を奪い取っていき、
「みんなは、攻撃に専念して!」
 夕華は仲間達が安心して戦えるようにそう声をかけつつ、地縛霊の攻撃によって傷ついた仲間達目がけて白燐蟲を飛ばし、それらを彼等の武器に宿らせる事によって体力を回復させ、そうして彼女はひたすらサポート役に徹し続ける。
「俺がきっちりケリをつけてやるぜ!」
 悪しき地縛霊を倒すため、敬介は熱い正義の炎を燃やして拳に宿らせ、地縛霊の顔面に強烈な右ストレートを放ち、地縛霊が左手を突き出してカウンターを繰り出すが身をかがめてそれを避け、右、左と拳を繰り出してプロミネンスパンチによって地縛霊の腹部を連打し、更には彼の体を真っ赤な炎によって包み込む。
 続く毒子は禍々しい怨念に満ちた瞳によって地縛霊を睨みつけ、彼の体を内側から切り裂き、龍也もまた斬馬刀によって地縛霊の体を薙ぎ払って斬撃を刻み込み、
「手数で攻めさせてもらうぞ」
 そうやは禍々しい力が込められた呪いの呪符、呪殺符を作っては投げ、作っては投げと繰り返し、ぺたぺたといくつもの呪殺符が地縛霊の体へと張り付いて負のエネルギーを注ぎ込んでダメージを与え……そして、
「ヌゥ……オォォォ」
 これだけの人数の能力者が攻めに徹した事もあり、地縛霊は誰一人として仕留める事のできないまま地に伏し、徐々にその姿が薄れていく。
「ココハ……オレ……ノ……」
 それでもなお……体が消え去る最後の瞬間まで、彼はこの場所に執着し続けていたようであった。


 地縛霊は消滅し、戦いは能力者達の完全勝利に終わった。
「お前の終わり、確かに見届けた」
 地縛霊が消え去っていった辺りを見つめながら、ぽつりとそう呟く龍也。
「……」
 そしてそうやも同じようにその場所を凝視しつつ、自分にはあそこまで執着するものが無い、人として正しいのはどちらであるのだろうか……と、自分自身に問いかけていた。
「倒すことでしかあなたを止められない私たちを許してね。そして……あなたの魂が無事に天に召されますように……」
 夕華はそっと目を閉じながら、男性のために黙祷を捧げる。
 力には力で対抗するしかない……彼女もそれを理解してはいたが、やはりどこかやり切れない想いを抱いているようであった。
「御仏よ、かの者の魂を救い給え……」
 同じように祈りを捧げる各務。
 地縛霊を縛りつける鎖は各務、そして彼女の仲間達の活躍によって完全に断ち切られた。
 もう二度と、男性がゴースト化してさ迷い出る事はないだろう。
「地縛霊も居なくなりましたし一応は安全ですけど、この場所どうなるのでしょうね……」
 辺りを見渡しつつ、風華が誰にともなく問いかける。
 このまま放置されるのか、それとも新しい何かを作るために取り壊されてしまうのか……。
「……看板は置いていきましょうか、今後また遊び感覚で度胸試しに来る人もいるでしょうから」
 元々ここは閉鎖された工場、立ち入り禁止の看板があったとしてもなんら不思議な事はない。
 能力者達は喪作の提案に従い、あえて立ち入り禁止の道具はそのままにして銀誓館学園へと帰還していく。
 男性がゴースト化してまで守ろうとしたこの場所が、二度と誰にも侵されない事を祈りながら……。


マスター:光輝心 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/06/04
得票数:カッコいい11 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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