清く正しく中二病


<オープニング>


「私のイビルアイズデスに耐えるなんて……さすが白き悪魔に囚われし魂かしら。でも、安心して。私が約束された楽園に連れていってあげるから!」
「さすがって、威力もちんまい攻撃なんて避けるまでもねぇ。っつうか白き悪魔ってなんだよ! 約束された楽園ってどこだよ!!」
 夕方の人ごみから外れた路地の裏。持ち主を失って久しいビルが林立する場所で、沢近永羅という名の少女がナンバードと呼ばれるゴーストと戦っていた。
 詠唱兵器である制服が敗れ、密かにコンプレックスを抱いているスレンダーな体が晒されてしまっているほど追い詰められているのに、永羅の調子に迷いはない。
「ふふっ、今はまだ知らなくても大丈夫よ。もうすぐ連れていってあげるから。私の、ブラックマトリクスキャノンの精霊が!」
 傷だらけの腕で投げるのは、空に羽ばたく黒燐蟲
 胸に七の数字を持つナンバードは軽々と飛び越えて、剣を高々と振り上げた。
「てめぇと付き合ってると胃がいくつあっても足りそうにねぇ。こいつで……仕舞いだぁ!」
「それは……白い悪魔の定めし剣、ソードオブヴァイスね!」
「英語なのかドイツ語なのかはっきりしろぉぉぉぉ!!」
 愉快なやりとりとは裏腹に、行われているのは命の取り合い。永羅はナンバードの振るう刃の前に、最後まで心揺るがぬまま絶命する。

 放課後を迎えて人の気配も失せた学食で、秋月・善治(運命予報士・bn0042)は集った者たちを出迎えた。大きなテーブルに座ることを促した後、依頼の説明を開始する。
「今回はナンバードの討伐。そして、ナンバードに襲われんとしている能力者を救出してきて欲しい」
 ナンバードとは、万色の稲妻を受けて抗体兵器を獲得したリビングデッド。白い肌と白い髪を持つのが特徴で、普段は人間と同じような姿を取れる力と殺すべき能力者の居場所を知る力がある。幸いにも、それ以外の能力者を感知する能力はない。
「救出してもらいたい能力者の名は沢近永羅。十三歳、中学二年生の少女であり……少々難儀な性格をしている」
 一言で纏めるならば、中二病。
 曰く、自分は使者の魂を導く死神で、覚醒した力もそのためにあるだとか。敵にいちいち大仰で無意味な設定をつけるとか。ブラックマトリクスキャノンだのイビルアイズデスだのダークネスアームズだのを操るとか。
 ようは暴走黒燐弾や呪いの魔眼、黒燐奏甲。すなわち、黒燐蟲使いであるだけなのだけど。
「能力者として覚醒する前から、自分はそういう存在だと思っていたみたいだな」
 しかし、言動を除けば優しい少女。また、能力を操るに相応しい人間であろうと勉学、スポーツと自己鍛錬を欠かさないため、友人が皆無ではないらしい。
「接触のチャンスは中学校に潜入するか、帰宅する時を狙うといいだろう。その際は……そうだな、何を言われても受け流し、大事な面だけを伝えたり、いっそのこと調子を合わせてしまうのがいいと思う」
 そうして信頼を得ることができたなら、ナンバードを迎え撃つことが可能になる。しかし、疑われて警戒されてしまった場合は襲撃が行われた時近くにいることができない……といった事が考えられるため、注意が必要となるだろう。
「さて、それではナンバードについての説明に移るぞ」
 姿は二十代ほどの女性。抗体兵器として長剣を持っていて、魔剣士に似た力を使ってくる。性格としては残忍だが常識人といった趣だ。
「また、戦闘になれば三匹のネコ型妖獣を呼び寄せてくる」
 特徴は額に浮かぶ第三の眼。素早く爪でひっかくといった避けづらい攻撃の他、第三の目から光線を発射してくる。力量が低いのは幸いだろうか。
「以上が依頼に関する説明だ。現地までの地図や永羅の通う中学校の制服など、必要なものを渡しておくから活用してくれ。吉報を待っている」

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参加者
舛花・深緋(ブルズアイ・b27553)
伊藤・洋角(百貨全用・b31191)
今市・直人(手遅れ・b36897)
撲・佳蹴(高校生真妖狐・b38040)
水走・ハンナ(狂気を忌む庶民派吸血鬼少女・b46874)
冷泉・香夜(幻想涙花・b47140)
木之花・さくら(混血種・b47400)
桐原・真夏(太陽のリズムで踊ろう・b50014)
来栖・裕也(此の身は月華に捧げられ・b52262)
正午・密美士(遡潮轍駆・b72187)



<リプレイ>

●宿命に導かれし邂逅
 紺碧の広がる梅雨狭間、陽射しの強い昼下がり。日々の生業を終えて帰路に着く生徒たちに従うようにに、撲・佳蹴(高校生真妖狐・b38040)、水走・ハンナ(狂気を忌む庶民派吸血鬼少女・b46874)、木之花・さくら(混血種・b47400)の三名は車の通らない通学路を歩いて行く。
 視線の先には、友人らと楽しげな会話を交わす少女の姿。
「……というわけなの。エントロピーの増大と円環の理の関係、分かるかしら?」
「うん! 全然わかんない!」
 会話の内容から、小難しい言葉をこねくり回している彼女が此度のターゲットである沢近永羅と判断できる。三人は視線で合図を送りつつ、密かな追跡を継続した。
 終幕は、永羅が友人らと別れた時。
 狂わすには、とも云われる四辻にて。
 永羅を追い抜き、三人は手慣れた調子で踵を返す。違和を感じたか立ち止まった永羅を前に、眩い日差しを背負うさくらが口を開く。
「――はじめまして、黒き黒、運命の交わる瞬間に――ようこそ」
「貴女、いい目をしているわね。凶眼、か……絶えて久しい戦士の顔だわ」
 羽織ったマントをはためかせるハンナも囁くように語りかけ、興味を持っていると伝えていく。永羅の瞳に走る警戒の色は更に色濃く染まっていたものの、興味を抱かせることもできたのか口を開かせることに成功した。
「……何者?」
「私の名はハンナ。人間と吸血鬼のハーフよ」
「私は佳蹴です。とある方法により、あなたが白い肌と白い髪を持つ化物に狙われていることがわかりました。そして、私たちはそんな存在と敵対する組織の者なんです」
 佳蹴が一歩前に出て、具体的な説明を始めて行く。固有名詞を含まぬ説明を続けていくうちに様々な事項を補完したか、彼女の言葉が終わると共に永羅は言葉を返していく。
「そう……貴方たちも迷える魂を約束された楽園に送る死神なのね。そんな存在が集う場所なんて思いもよらなかったわ。それに……ヴァンピールかしら? 人間と吸血鬼のハーフも妖狐も、とても心強いわ」
「……信じてくれるのですか?」
「もちろん! 私を誰だと思ってるの? シュバルツブラックを操り漆黒の異名を持つ可愛らしき剣士、沢近永羅よ」
 力強く拳を握る少女の笑顔には迷いも戸惑いも存在しないように思われた。ハンナもさくらも同意見なのか、佳蹴の視線に小さく頷き返している。
 ならば、さらなる非日常への導きを。
 佳蹴は仲間に紹介すると告げながら、通信機器を取り出した。

●ツッコミ役の少ない戦場
 住宅地から離れた繁華街。裏通りにある廃ビルに、探索組として動いていた六人が陣を張る。唯一、そして必然的に接触組からも探索組からも外れていた正午・密美士(遡潮轍駆・b72187)だけは飽きることなく己の左腕を抑えていた。
「ぐっ……鎮まれ、封印されし天地魔闘の力!」
 北方を守護せし最強にして唯一無二の四天王。彼はそう語り人目も気にせず浸っていた。
 故にか元来興味がないのか、冷泉・香夜(幻想涙花・b47140)は電灯の設置を続けている。さなかに出入口の方に気配を感じて身を起こした。
「あ、来られたんですね。良かったです」
「この人たちが貴方達の……ううん、私のスピリチュアルフレンドの仲間なのね」
 怖気づく様子もない永羅の言葉を受けて、伊藤・洋角(百貨全用・b31191)が一歩前に歩み出る。今市・直人(手遅れ・b36897)は帽子を目深にかぶりなおし、桐原・真夏(太陽のリズムで踊ろう・b50014)は小さく笑った。
「我々の同士というわけですな、よろしくお願いしますぞ」
「ええ、よろしく頼むわ。銀誓館の死神さん?」
 洋角がすと腕を差し出せば、力強く握り返してもくれた。
 漂う空気が和やかな物へと変化した頃合いを見計らい、直人も抑えた声音で語りかける。
「この先に辛い戦いが待っていても、生き延びる勇気があるかい?」
「愚問ね」
「……敵の性質、聞いているのだろう?」
「ええ。でも、それが何? 迷える魂ならば救わねばならない。倒すことで送らねばならない。それが、私たち死神の役目。それに……」
 永羅は荷物から鞘に収められた西洋剣を取り出して、慣れた動作で腰に差す。静かな息を吐き、口の端を持ち上げる。
「私たちが倒さなければ、被害に合うのは普通の人々……臆してなんていられないわ」
「……なかなか強い心を持ってるみたいだね。それなら、永羅ちゃんの持つ力もかなりのものかも。でも……」
 正面へと歩み寄りながら、真夏も頬を緩めていく。握るナイフを輝かせ、永羅の瞳を覗き込む。
「私が持つ古の雷魔法のミヨゾティサンダーも負けないよ」
「ふふっ、そうこなくちゃ面白く無いわ。私も、戦いになったならイビルアイズデスを見せてあげる」
「……」
 微笑みあう二人に、あるいは場にいる全てに当てられたのか、舛花・深緋(ブルズアイ・b27553)も彼女のもとへ歩み寄る。
「Welcome to Underground……」
 耳元に甘く囁いた後、顔を真赤にして後退した。
 ひと通り自己紹介が終わったならば戦いの準備が再開される。
 やっと現実へと戻ってきた密美士も手伝えば、程なくして問題ない光量の確保に成功した。
「……来たな忍者の全てを極めしマスターにして天地魔闘の構えを行使する最強の戦士に相応しい敵が」
「……大丈夫、みんなが……今市くん達がいます」
 ひるむ様子すら見せない密美士とは裏腹に、香夜は深蒼の衣を握りしめる。されど震える様子はなく、滞り無く剣を浮かべ終える。
 剣の切っ先が示す先、階段から戦場へと唯一つながる扉には、二十代と思しき女性が佇んでいたのだから。

 明かりを灯し、廃ビルで待ち構えているという状況を即座に理解したらしく、女性は言葉を交わす間もなくナンバードへと変化。第三の目を持つ三匹の猫妖獣を呼び出して臨戦態勢を整えた。
 深緋も俺のハート一番奥行きと刻まれたバス停で駆ける猫妖獣を示しつつ、傍らに待機する真スカルロードの菫に命を下す。
「背徳の残場より生まれ出でし闇喚の存在よ、我が命に応じ、降魔の兇刃を驟雨の如く打ち付けよ! ミシック・ロードヘイム!!」
「……」
 声を張り上げた深緋だが、菫は鎌を振り上げたまま動かない。
 変化なく、どこどなく凍りついていく空気を破るため、深緋は顔を真赤にしながら戸惑いの色を浮かべる瞳を覗き込む。
「……今日はそういう日なの! ね!」
「……あー、なんだ。命令は分かりやすくしたほうがいいと思うぜ、っと」
「汝らの身に刻め、始まりの刻印」
 ナンバードがツッコミを入れるさなかにも、来栖・裕也(此の身は月華に捧げられ・b52262)が始まりの刻印を召喚。世界創世の光で猫妖獣たちを焼いていく。
 素早く剣を構え直していくナンバードを指し示したハンナは禍々しき逆さ十字を降臨させた。
「私たちは永羅が殺される、そのふざけた運命をぶち壊しに来たの。悪く思わないでね」
「……ちっ」
 不可視の力が命を吸い取っていくさなかにも、さくら操る古の槍に施された氷の牙が鎌の一撃を浴びた猫妖獣を噛んで行く。
 流れるように退いていく彼女の隙を埋めるのは、躊躇など微塵も見せない密美士の忍術。全てを滅する地獄の円運動。
 両肘から生えた刃に切り裂かれ、動きの精彩を削いで行く。
「……ふっ。どうだ、すごいだろう俺の最強技」
「……負けていられないわね」
 無駄なカッコつけが士気高揚をもたらして、永羅の瞳が輝き出す。
 新たな魔眼が開かれて、猫妖獣の体が大きく揺らいだ。
「イビルアイズデス……効くでしょ?」
「……そのネーミングセンスはどうかと思うんだが……っと」
 溜息と共に微かな疑問を口にしつつ、ナンバードは剣を振るう。
 ノギスで受け流した佳蹴は身を引いて、第三の目から光線を発しようとしていた猫妖獣を切り裂いた。
「後もう少しで倒せそうです。みなさん……」
「醜勺なりし禍つ炎白を以て我は願う、黒き所業よ灰燼と化せ! 紅蓮煌弾!」
 返事を返すまでもないとばかりに、深緋の放った炎が宙を翔ける。
 燃え盛る炎の中心へと照準をセットして、さくらは心のトリガーに指をかけた。
「――全てを貫く――私の光」
 数多の弾丸に襲われて、猫妖獣は塵と化すようにして消滅。さすがに焦りを感じたか、ナンバードが一旦距離を取っていく。
「色々と愉快な言葉を吐いてるけど……実力は本物だな」
「ええ……でも、安心して下さい。あなたもすぐ同じ場所へ……そう、約束された楽園へと送ってあげます」
「……約束された楽園ってどこだよ。っつうかお前達みたいなのはそんな言動がデフォなのか?」
 疑問には、意味があるようで実のところ意味のない微笑みで答えつつ、さくらは再び体ごと槍を凍てつかせる。
 鋭く避けがたい爪の乱舞に小さく眉を潜めつつ、新たな得物を仕留めるために槍を真っ直ぐに突き出して――。

 一匹目を倒した後、半ば乱戦の様相をていしつつあった戦場が一つの形を見せ始めた。
 それは、洋角と直人がナンバードを抑え、その他が猫妖獣を叩く形。飾り気のない剣で袈裟に振り下ろされた刃を防いだ後、洋角が魔眼を……インビジブルアイズを開いて行く。
「既に存在が常識外れなのに、自分は常識人みたいな顔は止めて欲しいですねぇ」
「少なくともてめぇらよりは常識人だと思うが……つうか、あれは何だ。流行ってんのか?」
「いやっほう、お姉さん俺だー!」
 ナンバードの抱く疑問とはまた別の問題を抱く直人が跳びかかり、ナンバードを熱く抱きしめる。
「太古に封じられし魔獣の咆哮よ、我が両腕に宿りて抱き屠れッ! エンダーディアー!!」
 常人と変わらぬ膨らみを堪能しつつ、きっちりと獣の力は叩き込む!
「ぐ……てめぇ……」
「これが……愛ッ! おっと」
 剣から伸びる影が厚みを持ち始めるさまを見て、直人は素早く飛びすさる。影が今までいた場所を切り裂いていく光景を眺めた後、再び拳に獣の力を込めて殴りかかる。
「ナナちゃん、まだまだ行くよー!」
「ナナちゃんって呼ぶな! つうかどこ触りがやった!!」
 拳が入り込んだのは、柔らかな双丘の右の方。
 更なる怒りを抱いた斬撃が、直人の体を斜めに斬る。
「どうか、御力を……」
 知り合いの蛮行にどんな感情を抱いたかはさておいて、すかさず香夜が祖霊を降ろし流血も傷口も塞いでいく。
 洋角もナンバードの動きを削ぐかのように、再びインビジブルアイズの封印を解き放つ!
「我が視線見えますか? かわせるものならかわしてもらいましょう」
「……確かに見えねぇ。だが、受けることはできる!!」
 多少揺らいだ様子を見せたけど、ナンバードが堪えた様子はない。されど、その頃には猫妖獣の殲滅が完了し……戦列に、全ての仲間が出揃った。

●シュバルツブラックを操り漆黒の異名を持つ可愛らしき剣士・沢近永羅
「さあ、同士永羅。共に世界を崩壊に導く敵を滅そうじゃないか!」
「ええ、同士裕也。私のブラックマトリクスと貴方のシュッツェン・シルト。至高にして究極の奥義を見せてあげましょう!」
「別に世界を崩壊に導くつもりはないっていうか色々と横文字が並びすぎっていうか本来対立する概念だろ、それ!?」
 余裕がなくなってきたかツッコミが激しくなっていくナンバードはひとまず無視し、裕也は光を永羅は黒燐蟲……ブラックマトリクスを手元に集わせる。
 呼吸を重ねて投げたなら散らばるブラックマトリクスに紛れるかのように、鋭い光がナンバードの体を貫いた。
 直人も懲りずに拳を振り回し、あの手この手でナンバードの体を狙っている。度重なるセクハラに激昂する素振りを見せたなら、隙ありと香夜が輝ける槍を投擲した。
「光よ、どうか、貫いて……」
「……ちっ」
 願いは届き、ナンバードの左肩に新たな刺し傷が生まれていく。
 だからだろう。集中力を高め傷を癒し始めたのは。
「……喰らえ必殺! シャイニングカタストロフッッ!」
 ならば、それ以上の打撃を与えんと、真夏が蒼き雷を解き放つ。
 加護は残れど傷多く、治療を諦めたかナンバードは剣を青眼に構え直す。
「仕方ねぇ……っと」
「何、満身創痍の体で防いだだと!? 仕方あるまい、今こそ俺の封印されし真の力を解き放」
「長ぇよ!」
 受け流した刃を返すついでに密美士の体を切り裂いて、僅かばかりの傷を消していく。されど前回には程遠く、動きに精彩を取り戻すにも足りていない。
「貫け、リュミエール・ランツェ」
「だからフランス語かドイツ語かはっきりしろ!!」
 ツッコミを入れど避けられるわけではなく、裕也の光が再びナンバードを貫いた。かと思えば拳が肉体を堪能し、鎌の連撃が更なる裂傷を刻んでいく。
「これで決める! ミヨゾティサンダー!!」
「なんなんだその名前は!!」
 ギリギリまで引き伸ばした詠唱、魔法陣による増幅を経た雷を、真夏はブラックマトリクスに紛れさせるように撃ち出した。
「ぐが……」
 ブラックマトリクスに押されていては避けることもかなわずに、ナンバードの体が火花散る雷撃に包まれた。
 黒の奔流が収まる頃、ナンバードが居た場所には何もない。
 敵が消滅を迎えたことを知る時まで、つかの間の静寂が訪れる。

「……これでまた一つ……粛清された……」
 戦いの終りをいち早く悟った裕也は扇子を開き、口元を隠して静かに笑った。さすればさざなみのように臨戦態勢が解除され、心に安らぎが取り戻される。
 治療も施されていくさなか、真夏が永羅に声をかけた。
「永羅ちゃ……ううん、同士永羅。邪悪を滅ぼしうるその力、私たちに貸してくれないかな!」
「改めて、ウチに来ない? 実際はとある学校だけど……戦士を擁する機関に変わりはないわ」
 ハンナも誘いの言葉を投げかけて、永羅の反応を待ち望む。
 背中を後押しするために、洋角も静かに口を開いた。
「貴女の力こそ我々には必要なものなのです」
「死神も吸血鬼も妖狐も何でもありの、実に楽しい所ですよ」
「……」
 言葉をつなぐ佳蹴の言葉も受けて、永羅は嬉しそうに頬を緩めていく。剣を鞘に収めながら、小さな胸を叩いていく。
「そうね……考えさせてもらうわ。貴方達の機関が、シュバルツブラックを操り漆黒の異名を持つ可愛らしき剣士である私に相応しいかどうか」
 前向きに検討、といった趣だろうか。そんな話をしているうちに、別れの時間がやってくる。
 それが、果たしてひとときの別れなのか――。
「――それでは、また、何時か何処か、運命の交わる瞬間にお会いしましょう」
「学園でお会い出来るの、楽しみにしてますね、ラ・ヨダソウ・スティアーナ!」
 ――ならばせめて、再会の願いを込めて。
 さくらと深緋の想いが伝わったかのように、永羅は今日一番の笑顔を浮かべていた。
 未来がどうなるのか。それは誰にもわからないけれど……想い抱き続ければ、きっと、いつか――。


マスター:飛翔優 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/06/22
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