紫陽花小径


<オープニング>


 霧雨はどんよりと空に広がった雲から絶え間なく降り続き、すべてをしっとりと濡らしていく。
 さした傘は、パタパタと音を立てて楽を奏でていた。
「今年も綺麗に咲いたね、婆ちゃん」
 見上げながら少女が祖母に言うと、祖母はふと顔を上げた。細い石畳の両側を埋め尽くす様々な紫陽花たちは、林の奥へ奥へと誘っているようだった。
 シーボルトが世界に紹介した、七段花。
 日本に広く分布するガクアジサイは、周囲の花だけが咲き額縁のような姿で咲いている。
 見慣れた青やピンク色のアジサイもたくさん植えられていた。
 西洋から輸入したものも、少し混じっていた。
「見に行くなら、これを持ってお行き」
 祖母は店に飾っていた傘から一つ小さなものを抜き取ると、少女に手渡した。
 それから、お団子も三つ。これはお寺さんにお供えするものだと少女も分かっているようで、大切そうに袋にしまい込んだ。
 紫陽花小径の向こうにある小さなお堂までの道は、少女や祖母、そして地元の人にとっても慣れた道である。
 少女は何の不安も見せずに、一人傘を差して歩き出す。
 白い和傘に咲いた花も、また紫陽花。
 くるくる回しながら、紫陽花小径をあっちにフラリこっちにフラリと寄り道をしながら、お堂へと向かっていた。
 ぽつり、と影が落ちたのは小径の中程……祖母の和傘店から十分ほど歩いた所であろうか。
 真っ青な着物を着た女の人が、雨の中一人で立っていた。彼女は傘もささず、長い髪がすっかり濡れて首筋にはりついていた。
「……何してるの?」
 少女は恐がりもせずに、そう聞いた。
 傘に入れてあげようか、どこまでいくのか、いくら聞いても彼女は答えない。ふと少女が周囲を見回すと、この辺りの紫陽花はみな青くなっていた。
 死体が埋まっていると、紫陽花が青くなる。
 そんな噂を、少女も小学校で聞いた事があった。
 こんなに全部綺麗に染まってしまうものなの?
 それとも、この辺り全部死体で……。
『綺麗な紫陽花咲かせましょうか?』
 ここは楽土に向かう道。
 紫陽花に包まれて、永久の楽土へと……。
 少女はそれきり、帰ってこない。

 雨の中、紫陽花が咲いている。
 扇は降り続く雨を、教室の窓越しに見ていた。
「紫陽花日より。……雨の中出現する幽霊に、今日少女が殺される。紫陽花を見に行った、丁度その途中の事だ。
 彼女が向かっているのは、林の中にある古いお堂である。かつては紫陽花を見る為に人が訪れたというお堂も、今は邑ともども廃れてしまっていた。
 少女の祖母は、そこの小径のふもとで和傘を作って販売している。
「おそらく、今向かえば女の子が出発する頃には間に合うだろう。彼女が殺されてしまわないよう、何とか先にゴーストを倒してほしい」
 紫陽花小径の女は、雨の中で傘を差して小径をあるいていると現れる。
 彼女を守るのは、紫陽花の下に埋められたモノ……。犬や猪、そしてニンゲンである。それらはとっくに朽ち果てているが、まだ戦う力は残っている。
 ただ紫陽花を青くする為だけで殺された、哀れな命である。
「……どうやら、その奥にあるお堂を建てた昔のお坊さんが紫陽花の好きな人だったらしい。それでいつの間にか地元の人達が紫陽花を集めて植えて、お坊さんがお堂で皆を守ってくれるようにと願うようになったらしいね。雨は水害も生むから、村の人にとって紫陽花はてるてる坊主と同じ意味かもしれない」
 くすりと扇は笑った。
 さあ、紫陽花を見に行った少女と紫陽花小径を守りに行ってくれ。紫陽花小径に静寂が戻ったら、傘を差してお堂に行き、おまんじゅうをお供えしてきてほしい。
 扇はおまんじゅうを渡して、そう頼んだ。

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参加者
真咲・久遠(螺旋の月・b01439)
嘉納・武道(柔道番長・b04863)
朱残・誄火(紅蓮呪奏・b18864)
天羽・十六夜(闇に囚われし者・b21674)
リュート・レグナ(微睡みの音・b41973)
須賀・義衛郎(天を取る者・b44515)
リラローズ・マグスレード(紅き月下に舞う薔薇小姫・b52012)
雪下・陽(雪割一華・b67514)



<リプレイ>

 雨が降っていた。
 小降りではあったが、しとしとと傘をぬらしていく雨。どんよりと曇った空が周囲を暗くかげらせており、今が昼か夕かという時間の感覚すら奪っていた。
「もう少し戻った所にあったようですね」
 嘉納・武道(柔道番長・b04863)はレインコートのフードを少し上げながら、後ろを振り返って皆にそう言った。
 石畳の道はここまで一本道であったが、和傘店はもう少し民家の方に戻った所にあったのかもしれない。途中で遭遇出来れば一言言い残しておけたのだが、と武道は少し残念に思っていた。
 緋色の蛇の目傘をさしている朱残・誄火(紅蓮呪奏・b18864)は、武道の後ろ……最後尾を歩きながらその方角に自分も視線を向ける。
 戦闘になった後引き返すのは自分の役目。
 だから、和傘店の方角は確認しておかねばと思ったのであろう。
「子供の足ですから、そこまで早くはないでしょう。……急いで終わらせてしまいませんか?」
 誄火が笑顔で言うと、一番先頭で傘を差していた陽が足を止めた。まっすぐ前を向いて紫陽花を眺めるようにしていた陽は、片手を腰にやって半身振り返る。
「雨が強くなってきたね。そろそろ来るんじゃないかな」
 雨に濡れた着物の人、というのだからもっと雨が強く降り続いている光景なんじゃないだろうか。陽は次第に強まる雨を見上げて、それを予感していた。
 ざあざあ降る雨の下に立つ着物の人なんて、いかにも怪談っぽいじゃないか。
 足を踏み出すと、武道もフードに手をかけて歩き出す。
 霧のように景色を霞ませる、雨が……。
「ずぶ濡れだな」
 武道が言うと、ぽとりと側に傘が転がってきた。声をかける間もなく、須賀・義衛郎(天を取る者・b44515)が飛び出していく。それを見ると、雪下・陽(雪割一華・b67514)も後に続いて走り出した。
 義衛郎のビニール傘と、陽の傘とが地面に咲く。あっという間の混乱で、傘は何時の間にかどこかに押しやられていった。
 雨に濡れるも、戦いの汗を流すには心地よいではないか。
「さあ、行くとするか!」
 競うように飛び出した二人の前に、死した犬が二頭立ちはだかった。

 降り続く雨の中現れた女は、獣たちを連れていた。紫陽花の下に埋められていたのか、半分朽ちているように見える。
 勢いづけて飛び込んできた猪を避けると、天羽・十六夜(闇に囚われし者・b21674)はセファイドを鞘からすらりと抜きはなった。曇り空の下でも、刃は鈍く青白く光って見える。
 そっと傘を道の脇に置いたのは、その青い傘が結構十六夜は気に入っていたからであった。戦いが終わるまで、折れずにいればいいが。
「あんた達がここの紫陽花に埋められた犠牲者なのか、それとも……雨の中の幻?」
 義衛郎が目を細めてそう問いかけると、十六夜も彼らを見据えた。そういえば、何時の間にか周囲は青い紫陽花でいっぱいになっていた。
 不自然な程に、青い青い紫陽花たちが道の左右に咲いている。
「誰かの犠牲の下に咲いた花だと思うと、とてもこの道を歩きたいとは思わないな。……こんなものは幻だ」
「……俺が手数を減らすから、その間ガードよろしくお願いしてもいい?」
 うっとうしそうにちらりと鈍色の空を見上げながら、真咲・久遠(螺旋の月・b01439)が武道に声を掛ける。武道は久遠の前に立ち、笑ってみせる。
 むろん、誰かに護られるより誰かを護る方が武道に合っている。
「二体くらいは引きつけたいですが……ね」
 先手を打って放った久遠の紙片が舞い散り、雨に濡れながらも突進してきた猪の体を切り裂き、女を護るように立った死人の肉を割いた。
 そういう事ならば、と閃光が走り十字が輝く。
 更に、冷たい雨を凍らせる冷気が周囲を包み込んだ。
 リラローズ・マグスレード(紅き月下に舞う薔薇小姫・b52012)は久遠に合わせるように十字架を輝かせながら、ちらりと誄火を見た。
 紫陽花小径に入って、どれ位の時間が経過しただろうか?
「雨が激しくならないうちに、お迎えに行って差し上げてくださいまし」
「もう少しだけ……梅雨払いに協力しますよ」
 誄火の氷雪が消える頃、すうっと女が顔をあげた。
 雨が顔をぬらし、頬に髪が張り付いている。女はぼんやりとした視線で、こちらを見返していた。どこか寂しそうで、放っておけぬ顔である。
『ここに……』
 にいっと女が笑った。
 ここに、綺麗な紫陽花を咲かせましょうか。
 女の言葉を聞いて、リラローズは首を横に振った。何故なのかは、みんな気付いている。リラローズも、誄火も、久遠も。
「自然の織りなす景観は、何物にも代えがたく美しいものです。ただここを悲劇で濡らすしか出来ないあなたには、分からないかもしれませんが」
 雨の紫陽花小径を血で濡らす、霊魂の叫び。
 女が微笑むと、雨が弾丸のようにぱっと散った。
 雫が前に立った十六夜や武道達の体を穿ち、血で濡らしていく。傷つきながらも前に進み出た十六夜は、義衛郎と陽にも声を掛けた。
「ここで攻撃を食い止めるぞ、片付けろ!」
 猪の咆哮が地面を割き、剣を盾にした十六夜の体に裂傷を作った。

 体を血で濡らす雨雫の弾丸は、やがて癒しの雨に変わっていった。
 立て続けに放った久遠の紙片とリラローズの十字架、そして氷結が彼女達の傷を広げていったのである。
 癒しの雨は、リュート・レグナ(微睡みの音・b41973)を護っていたケットシーのルルが誘ったダンスの効果も消していった。
 雨の中で足踏みをする人間たちと犬が、どこか可愛らしかったけれど、それが消えるという事は戦いに加わって来るという事。
 猪の咆哮に切り裂かれたリュートが傷を抑えて体勢を崩すと、ちらりと陽が振り返り、こちらに声を掛けてくれた。
「大丈夫か?」
「はい。だって、皆を守るのがわたしの役目ですから」
 リュートのしっかりした答えを聞き、陽は武道や十六夜、義衛郎と声をかわす。隙を見て後退しはじめた誄火の様子に気付いたように猪が走り出すと、その前に武道が立ちはだかった。
 ずしんと、正面から受け止めた武道の体に重みがのしかかった。
「うろちょろされては……困るのでな」
「これで、っ」
 お終いだ、と義衛郎がチェーンソーを唸らせる。鈍い音を立てて、猪の体は四散し雨の中に消えていった。
 地面に吸い込まれるように消えた、猪の体の側には青い紫陽花が咲いていた。
 まったく、忌々しい。
 前髪を手で上げると、義衛郎は溜息をついた。
「前髪が張り付いて鬱陶しいこと……本当邪魔だ」
 溜息は、雨の日の戦いに対してなのか憂鬱な気分に対してなのか。間髪入れずに十六夜が黒燐蟲を犬に放つと、義衛郎は鋭い視線で体を人間たちへと向けた。
 二人の人間に食いつかれている陽の肩を掴むと、隙から剣を相手の体へと突き刺した。陽の傷口にリュートの符が張り付き、塞いでいく。
 再び雨雫が、降りそそぎ始めていた。
「俺が右から片付ける」
「無理するな、まだ体が毒に蝕まれてるだろう」
 義衛郎が陽に言うと、陽は青い顔をしながら余裕を見せるように笑顔を浮かべてみせた。片手のパイルバンカーと剣は、まだしっかりとしている。
「傷なんか、戦ってたら治っちまうよ」
 パイルバンカーに影を纏わせ、陽が朽ちた死人へとぶつかっていった。杭から伝わる衝撃は、じわりと陽に力を取り戻させる。引き抜きながら横に退けると、先ほど食いついた犬へと闇の腕を繰り出した。
「あんた……何で、青がいいんだ」
 陽は、一人たたずむ女に問いかけた。
 答えが返る事は、あまり期待してない。ただ、その表情には何かの答えがあるような、そんな気がしていた。
 雨雫に傷つけられるルルを抱き寄せたリュートが、視線をあげる。
「もう少し、頑張って」
 そっと声をかけ、リュートは女の方を見た。
 何故……?
「青い紫陽花の好きな人だったんじゃないかな」
「それだけ?」
 陽が振り返ると、ふんわりとリュートは微笑んだ。
「すごく好きだったんだよ。……ゴーストになっちゃう位にね」
 好き……か。
 肩の力を抜くと、陽は牙を立てた犬を見下ろした。ぎりぎりと食いつく犬の体には、陽のパイルバンカーが代わりに食い込んでいた。
 でも、それで死を呼ぶのだけは見過ごす事が出来ない。
「せっかく、皆の願いが詰まってるのにさぁ!」
 守って欲しい、という気持ちを感じたから。

 雨の中、ぽつりと小さな傘が咲いていた。
 ここはまだ、霧雨であった。あの激しい雨が嘘のように、静かで優しい雨が降り続いている。誄火は彼女の姿を見つけると、その前で足を止めた。
 じっと少女の目が見上げると、ふと誄火は笑ってみせた。
「傘が壊れちゃって、困っているんだ。傘を直してくれる所がどこかにないかな」
 少女がちらりと見ると、誄火の傘は骨の部分が折れていた。
 紫陽花の絵が描かれた可愛らしい和傘を上げ、しげしげと少女は誄火を見つめる。それから傘をそっと誄火に差し出した。
「おばあちゃんちは、傘屋さんなんだよ」
 少女は屈託のない笑顔を浮かべると、傘に誄火を入れてあげた。そっと傘を受け取り、誄火は自分の傘をたたむ。
 小さな傘に少女と入ると、道を引き返して歩き出す。
 傘屋から引き返す頃には戦いが終わっているように、と祈りつつ少女の手を取った。

 青い紫陽花の咲いた小径は、雨がざあざあと降り続いていた。
 十六夜の腕に食いついた犬を雷弾で弾き飛ばすと、久遠は十六夜に声をかけた。こんな所で倒れたら、寝覚めが悪いぜと言う久遠に十六夜がふと苦笑を浮かべた。
「個人的に青は好きな色なんでな」
 そう言い、剣先を女へと向ける。
 青は、良い色だ。
 リラローズも、そう呟いた。
「青い空、青い海、そういった青なら美しい色だと想います。でも殺戮で彩をさす紫青など、美しくはありません」
 怒りを光に込めて、リラローズは大きな槍を作り上げた。雨の中輝く槍は、まっすぐに女の方へと向けられている。
 放たれた槍が空気を切り裂き、雨のしぶきを弾いて女の体に穿たれる。久遠の放った雷撃が直撃すると、槍もまた閃光を放って見えた。
「命吸って咲く花なんざ、美しくも何ともないんだっての!」
 ざあざあと降っていた雨が、ゆっくりと上がっていく。
 光が消えるとともに雨が次第に緩やかになり、視界もはっきりとしてきた。女の姿は、すでにそこには無く獣の遺体も何もかも、消えていた。
 そして、あの不自然な程に青かった紫陽花たちも、そこにはなかったのである。
 あるのは、色とりどりの華やかな花。

 紫陽花の咲いた可愛らしい小さな傘が、義衛郎の頭に咲いていた。少女が差し出した傘は、今は義衛郎の側にある。
 義衛郎の左手に握られた傘は、ぽっきりと折れてしまっていた。
「乱暴に扱うからそうなるんだ」
 と十六夜は言ったが、義衛郎は気にしていないようである。少女と二人で小さな傘に入り、武道の紫陽花談義に耳を傾けていた。
「紫陽花が青いのは、土壌が酸性だからだと言っていた。日本の土壌が酸性だから、紫陽花の青いものが多いのだと聞いた事がある」
「嘉納が紫陽花に詳しいなんて、思わなかったな」
 意外な所があるものだ、と十六夜が言うと武道は手を振った。どうも、武道が調べたからではなく、それを教えてくれた友人が居たからであるようだった。
 紫陽花を青くさせるのは遺体などで土壌の質が変わってしまうせいもあり、石灰などで調整する人もいるのだという。
「北海道では紫陽花が夏に咲くので、本州に来るまでは夏に咲く花だと思っていました」
「紫陽花が夏か……梅雨に濡れる紫陽花は風情があって良い物だが、嘉納が見ている紫陽花に雨は浮かんでこないのか?」
 十六夜は不思議そうに首をかしげながら、紫陽花を見つめた。ふと見ると、そこには八重咲きの山紫陽花が咲いていた。
 あまり見かけぬ山紫陽花の美しさに、思わず足を止める。
「天羽さんは青が好きと言いましたよね」
 リラロードが、花を見ながら言った。
「紫陽花の紫は、暁と闇を纏う空の色。青はどこまでも高く澄んだ蒼穹の色。そんな空の色を映して咲いているのだと思うのですよ」
 楽しげにリラローズは十六夜に言うと、軽やかにステップを踏んで駆けだした。後ろに続いて走り出した少女を振り返り、リラローズは笑う。
 お堂までの道をまるで案内するように植えられた紫陽花たちは、ぐるりとお堂を取り囲んで咲いていた。
 そっとお堂にリュートはお饅頭を置くと、手を合わせる。もう二度と、ここで雨の日に血が流れぬようにとお堂の守り人に願った。
「もしかしたら、清四郎先輩がここの事を探知したのは、お坊さんの願いを汲んだ神様のおかげかも…なんてね」
「じゃあ神様のお告げってやつ?」
 扇を思い返して笑った久遠であったが、案外そうかもしれないと付け加えた。そのおかげで、こうして紫陽花をみんなで見る事が出来たし、少女が犠牲にならずに済んだのだから。
「それじゃあ、お土産の傘を買いに行こうか」
 久遠が声を掛けると、リラローズはお饅頭の横に飴をちょんと置いた。紫陽花に囲まれたお堂に深く一礼すると、久遠達の後を追って駆け出す。
 また、紫陽花小径を踊るように駆けながら引き返していく。
 鮮やかな傘が見える頃には、雨はほとんど止んでしまっていた。ふとリラローズが目にとめたのは、あの少女が持っていたのと同じ紫陽花が書かれた傘であった。
「装飾が細かくてとっても可愛い傘ですね」
「……あれ、これ中にも書いてあるんじゃないか?」
 陽に言われてリラローズが傘を開くと、本来何も書かれていない傘の内側にも紫陽花の花が描かれているのが見えた。
 内側の紫陽花は、ちんまりと咲いている。
 傘の中にも書かれているなら、さしている間も心が躍る。くるくる回してみながら、リラローズは紫陽花を眺めた。
 それが綺麗で陽もじっと紫陽花を眺めて居たけれど、さすがに女の子っぽくて選ぶ事が出来ない陽。
「ねえ、オレちゃんにも似合う傘選んでよ」
 義衛郎が頼むと、陽もと傘選びを少女に頼んだ。
 一つは、紫陽花の咲いた中黒猫が傘の縁を駆けている傘。中から見ても黒猫。どうやらオレちゃんへは黒猫、らしい。
「黒猫かぁ。オレ、ハンターだよ、猫っぽいのかな」
 少女にゾンビハンターであるとは分かるはずもなかったが、義衛郎は傘を見つめて頷いた。リュートは青い紫陽花の傘を選ぶと、陽にも差し出して見せた。
「やっぱり紫陽花がいいよね」
「よし、じゃあ俺も紫陽花!」
「え、み、みんな紫陽花……なの?」
 どれにしようか悩んでいたリュートが、おろおろと見回す。
 ほら、早く選んでと言った久遠の手にも紫陽花が咲いていた。そっと開いた、リュートの傘に紫陽花が咲くと、自然とほほえみが漏れたのだった。
 皆と過ごした思い出を、悲しい紫陽花の青の色よりも濃く鮮やかに残したいと願う。リュートが選んだ紫陽花は皆の傘にも咲いてきっと、良い思い出のよすがになるだろう。


マスター:立川司郎 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2011/06/22
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