<リプレイ>
● 梅雨の合間の晴天、燦々と輝く太陽に白い砂浜。午前中というのに、気温はかなり高くなっていた。 夏本番ともなれば大いに賑わうであろう海岸も、今日はまだ閑散としている。 沖の方では数人のサーファーもちらほらと見えるが、能力者達は誰かに注目される事も無く、問題の岩場へ歩みを進めていた。 「水澄みぬれば、きさらぎあり……自然と清き水に恵まれたヒノモトの地を守ることが、我が一族の使命」 代々水を友とする忍びの里に生まれた如月・涼浬(くノ一・b22959)は、水場を荒らす不快な地縛霊に対し、一切手心を加えるつもりはなさそうだ。 「海ですか、いいですよねー」 「夏と言えば海、海と言えば水着……彼女さんと来たかったなぁ」 こちらは対照的に、無邪気に砂浜を歩いている磯貝・御殊(深海の護人・b44481)と、水着姿の恋人に思いを馳せるアルノー・ケンプフェルト(流水暴刃のナハトブリッツ・b53216)。 夏の海と言えば、遊びにせよ恋にせよ、楽しみの尽きない場所。ゴーストにより悲劇が起きる事は、あってはならない。 「こう暑い時期に、暑苦しい地縛霊とは面倒臭いですねぇ。まあ、確認されたのが被害が出る前で良かった」 強い陽射しに一層目を細めつつ、温和な口調で呟く伊藤・洋角(百貨全用・b31191)。 「まあ簡単に出来る肉体じゃないだろうし、努力は素直に賞賛したい所だが正直キモいな」 一方、フェリシア・ヴィトレイ(きまぐれな野良猫・b54696)は未来視の女子大学生達と同じ感想を抱いているようだ。 「それに嫌がる相手に見せ付けるなんて色々失格だよきっと!」 「春だけじゃなく夏にもいるんだな、こういう奴が」 それを聞いて、至極正論をのたまう鈴鹿・小春(獣の術士・b62229)と、呆れたような口調の三井寺・雅之(風炎の光彩・b60830)。 鍛え上げられた肉体は確かに賞賛されて良いが、それを無理矢理見せ付ける行為は、ボディビルダーの風上にも置けない。 「えぇ。夏に海岸を訪れる沢山の人のためにも、迅速に確実に地縛霊を処刑するとしましょう」 その隣で頷くのは、久保田・龍彦(ぴこぴこ系処刑人・b40406)。 「この辺りか……準備が出来次第、始めよう」 そうこうするうち、一行は地縛霊の澄む岩場へと到着。レイリア・ヴァナディース(戦場のヴァルキュリア・b37129)の言葉に一同頷く。作戦開始だ。
● 水着に着替え終えた一同は、さっそく地縛霊の誘引に取りかかる。 「わぁー、たくましい体付きですね。ボクは女々しいって良く言われますから、そんなたくましい身体になりたいです」 「そうですか……?」 元々青龍拳士であった洋角は、精悍な体付き。女の子に間違われる事が多い御殊は、賞賛を惜しまない。 「久保田センパイも伊藤センパイも背高くていいなー……長身に均整の取れたすたいる……というか背の高い人は羨ましいのですよ!」 「あぁ、さすがだな。とても真似できないぜ」 ややぽっちゃり体型の小春や、まだ小柄な雅之からは、先輩らの体型は羨望の的らしい。背の高い2人を見上げて羨ましそうにしている。 今回の地縛霊は、スタイルや肉体にかなりの執着があるらしく、こういった話題に反応して出現するのだと言う。 「やっぱり今の時代って細マッチョ目指すべきなのー?」 「『細マッチョ』……不思議な響きですね。でも確かに、普段の生活の中では、普通な体型が良いかなと思いますよ。細身の人が風邪引くと長引いたりしますし」 アルノーの問い掛けに答える龍彦は、自分の細い体型には余り自信が無い様だ。 いきすぎたマッチョや、余りに細すぎる身体よりは、適度に男らしい体型が無難と言った所か。 「おや、皆さんよくお似合いです。流石スタイルが良い方は違いますね」 と、遅れてやってきた女性陣に気付いた洋角。 「レイリアさんとか、フェリシアさんは、胸だって大きいし、スタイルが良くて羨ましいなぁ……」 「確かにフェリシア殿はスタイルが良いですね。涼浬殿や速坂殿も、とてもキュートだと思うぞ」 スレンダーな体型の涼浬は、2人のフェミニンな体型を見て溜息。レイリアも頷いてフェリシアを褒めながら、すかさず涼浬とめぐるにフォローを入れる事も忘れない。 「うん……レイリアや涼浬はスタイル良いと思う」 フェリシアはスタイルにさほど自信が無かったようで、賛辞の雨を受けて少し照れくさそうに見える。 「そうよね。胸のサイズはともかく、手足が長いって言うのは羨ましいわ……綺麗に見えるもの」 「うんうん。立ってるだけでサマになるのはズルイよねー」 「ああ、めぐるは後3年程たてば綺麗になるんじゃないかな。今は可愛いで我慢しておいてくれ」 めぐるの言葉に同意を示す小春と、今回の女性陣の中では唯一、まだまだ子供っぽい体型のめぐるを慰めるフェリシア。 「フハハハ! 愚か者どもめ、その程度の貧相な肉体で何を褒め合っている!」 と、賛辞の応酬を遮る高笑い。 気付けば、能力者達は今までに居た海岸とはやや異質な空間へと誘われていた。
● 「スタイルが良いとは、こういうことだ!」 黒光りする肉体。鼻を突く柑橘系の匂い。 どこか不自然な笑顔の男は、両腕の上腕二頭筋をこれでもかと誇示するポージング。 程なくして、更に2人のマッチョメンが姿を現わした。 「肉体美、とは言うけれど……あれはやり過ぎだと思うっ」 高速演算プログラムを起動しつつ、率直な感想を洩らすアルノー。 「絶対複数で囲まれたくない敵です」 と言いながらも、仲間の盾となるべく前線に進み出る龍彦。 「人狼騎士の誇りと覚悟を見せてやる!」 レイリアも魔狼の闘気を纏い、これに続く。 「キモイ地縛霊には消えてもらいます! 四神たる宿星の力、ここに示さん!」 体内に眠る気を覚醒させる涼浬。 「キモい……だと? もう一度言ってみろ小娘が!」 大胸筋を左右交互にピクつかせながら、あくまで笑顔のまま怒る男。キモいと言わずしてなんと言おう。 「筋肉は最大のパフォーマンスができる程度の量があれば十分、それ以上はただの重石です」 湊洋江に黒燐蟲達を纏わせる洋角。 「それでも大和男子か、この軟弱物がっ! 鋼のような肉体に身を包んでこそ漢と言えるのだ!」 サイドチェストポーズで、その胸板の厚さを誇示する男達。地縛霊全体に言える事だが、やはり話は噛み合いそうに無い。 それどころか、特殊空間の中は男達の熱気によって炎に包まれる。 「……それにしてもあつーい! 暑苦しいポージングみてると一層!」 うだるような熱に辟易しながらも、魔方陣を展開する小春。 「炎の様な暑苦しいのは苦手です、涼しげな水の方が良いですよ!」 そんな中、御殊の放つ水刃手裏剣。キラキラと水分を蒸発させながら、男のうち1人に襲いかかる様は一服の清涼感をもたらす。 「なんのこれしきぃ!」 水の刃は男の胸板に突き刺さり一定のダメージを与えたはずだが、その程度ではへこたれない様だ。 「ふむ、なかなか見事な肉体だね」 「ほう、ようやく我々の肉体を理解する者が現われたか!」 と、フェリシアの褒め言葉に上機嫌のマッチョマン。 「そのまま石像になればさぞかし芸術的な石像になると思わないか?」 「確かにな……ギリシャ彫刻の様に、私の美しい肉体を永遠に遺したいものだ!」 悦に浸っている男達を他所に、妖狐の守護星を降臨させるフェリシア。 「すぐに済ますから檻の中でおとなしくしていてもらおうか」 間髪入れず、雅之も土蜘蛛の檻を放つ。 「むおぉぉ! ちょこざいな!」 「そのまま彫像になっているといいですよ」 続けざまに幻楼七星光を輝かせる龍彦。 「まだ出番は先ですので、少しお休みください」 洋角は導眠符を男の額に貼り付けてその動きを止める。 状態異常の嵐で彼らの動きを封殺し、一方的に葬る狙いだ。 「アルノー殿、同時に仕掛けるぞ!」 「今の時代は細マッチョだと言う! そんな訳で君達のその筋肉は時代遅れなのだー!」 至近の敵に対し、弧状の蹴りを繰り出すレイリア。時を同じくしてアルノーは、拳に纏わせた詠唱停止プログラムを叩き込む。 ――ドゴォッ!! 「な、何を……がふぁぁっ!?」 「流行り廃りなどあろうはずが……筋肉こそ人類の夢なのだ!」 「地に水流るるは自然の理……奥義・水刃手裏剣ッ!」 「この水刃を受けて、少しは涼んで下さい!」 涼浬、御殊の水刃が再び男の肉体へと突き刺さる。 「ぐあぁぁぁ……この私の肉体に……傷が……」 いかにタフなマッチョ地縛霊とは言え、苛烈な能力者達の集中攻撃に耐え続ける事は出来ない。 「絶対に許さんぞ!」 上腕三頭筋を強調するサイドトライセップスのポージングを取る地縛霊。 再び、灼熱の熱気が周囲を包む。 「熱っ……小春!」 「うん、風鈴じゃないけど鈴の音で涼んで祓ってねー」 小春は大通連を振るうと、慈愛の舞によって仲間達を癒す。めぐるも浄化の風を吹き荒らし、これに続く。 「体脂肪を削りすぎているね、脳まで筋肉に変えてしまったのかい?」 フェリシアは辛辣に地縛霊達を皮肉ると、巨大な隕石を召喚。彼ら目掛けて落下させる。
● 灼熱のポージングによって能力者達を手こずらせた地縛霊だが、いかに鋼の肉体を持つ彼らであっても、不死身では有り得ない。 ゆっくりと、確実に戦いは終焉に近づいていた。 「何時か彼女さんと来る時の為に、海の平和は僕が守る!」 「貫け、九尾っ!」 再度放たれるアルノーのデモンストランダムに、龍彦の天妖九尾穿。 「その程度、この鋼の肉体で……ぐわぁぁぁーっ!!」 仁王立ちしてこれを受けとめようとした無謀な地縛霊は、一溜まりも無く消滅。 「レイリア殿、援護します。仕掛けて下さい!」 「人狼騎士の戦い方が、剣だけと思わぬことだ!」 涼浬の水刃手裏剣に合わせ、再びクレセントファングを見舞うレイリア。 「おのれぇぇ!」 苦し紛れの抵抗を試みる地縛霊。自慢のポージングも、もはや気休め程度の反撃でしかない。 「暑苦しいから近寄らないでー……止まれ!」 御殊が放つ水刃が男の眉間を貫くと、小春は膨大な魔力を凝縮した蒼の魔弾を放つ。 ――バシィィッ!! 「ばかなぁぁぁぁーっ!!」 青白い雷光に飲まれ、2体目の地縛霊が掻き消える。 「なぜだ……なぜこの肉体美を理解せぬ!」 「ムキムキのマッチョは正直これ以上見たくない、暑苦しいしね」 再び隕石の魔弾を降らせるフェリシアは、あくまで地縛霊に理解を示すことは無い。 「おのれ……おのれぇぇ……」 「終わりにしましょう。援護願います」 「よし、行くぞ速坂!」 「わかった!」 洋角の瞳が禍々しい力を帯びて男を見据える。雅之は光槍を投げつけ、めぐるもまた魔眼を開く。 ――バッ!! 黒と白の光が弾け、男の身体を貫いてゆく。 そしてそれらが収まったとき、マッチョマンの姿は跡形も無く消え去っていた。
● 「さぁ焼けましたよ、サザエの壺焼き、いかがですか?」 香ばしい磯の香りを漂わせつつ、サザエの壺焼きを小皿へと取り分ける涼浬。 地元の海女さんが、取れたてをお裾分けしてくれたのだ。 「どうぞ、飲み物も冷えてますよ」 レジャーシートを広げ、クーラーボックスから飲み物を取り出す洋角。 「なんだか、もう夏休みになったみたいね!」 「えぇ、一足早い、夏の思い出ですね」 「偶にはこうやって戦いの日々を一時的に忘れて、羽を伸ばすのも良いですよね」 上機嫌ではしゃいでいるめぐると、日頃の疲れを癒すべくリラックスしている龍彦と御殊。 「まああんな暑苦しい敵と戦ったのだから、少しくらいはね」 冷えたペットボトルを受け取り、おでこに当てるフェリシア。
「今年の初泳ぎ! いっくぞー!」 腹ごしらえを終えると、準備運動もそこそこに波打ち際に駆け出していく小春。 「波に乗るのは、意外と難しいものだな……」 既に沖の方では、レイリアがボディボードに挑戦している。 「せっかくだし行ってみようぜ」 「そうね、じゃあ……あそこの岩までどっちが先にいけるか競争しましょ」 雅之の誘いに頷くと、沖の岩を指差すめぐる。 「めぐるさんは泳ぎ得意ですか?」 「ええ、泳ぐのは大好きよ!」 御殊の問い掛けにも、元気よく答える。 「ねぇフェリシア、貴女もいくでしょ?」 「そうだね、競争はともかく泳ごうかな」 「それでは行きましょう」 「って、涼浬と御殊はずるいでしょ! 水練忍者が相手じゃ勝負にならないわ」 「見守ってて、もし誰かが溺れたりしたら僕達が助けてあげるよー」 口を尖らせるめぐるを宥めるように、本業ではないが水練忍者のアルノーが提案。 結局、競争ではなく皆で一緒に泳ぐ事になった。 「やっほーい!」 「気持ちいいわね!」 水温は僅かに冷たく感じられるが、泳ぐには十分。 泳ぎになれた能力者達は、割と簡単に目標の岩に到達する。 「ねぇ、戻ったらビーチバレーしましょうよ。レイリアが道具持ってきてるって言ってたから」 まだまだ遊び足りない様子のめぐる。 「雅之は当然やるでしょ? ……考え事?」 「いや……」 何やら普段と様子が違う雅之の顔を覗き込む。 「かわいいよ」 「えっ? あぁ、ありがとう。今年の夏は一杯泳ごうと思って買ったのよ」 勇気を振り絞った雅之の言葉に、一瞬意表を突かれた様子のめぐるだったが、おニューの水着を褒められたものと解釈してそう答える。 「戦いももちろんだけど、夏休みはやっぱり楽しまなきゃね。私達にとっては、小学生最後の夏休みじゃない」 「あぁ、そうだな……」 「レイリアー! ビーチバレーしましょー!」 「よし、解ったー……うわっ!?」 めぐるの声に応え、手を振りかけたレイリアだったが、バランスを崩して転覆。 「……なっ、こ、こっちを見るな!」 その拍子に水着が取れてしまうお約束っぷり。近くに誰も居なかったのが不幸中の幸いだろうか……。
食べ、泳ぎ、遊び、一足早い夏を満喫する一同。 やがてこの浜辺に夏が訪れても、ゴーストによる悲劇が起こることは無くなったのだ。
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参加者:9人
作成日:2011/06/30
得票数:楽しい16
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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