お狐様の願い事


<オープニング>


 この村にはお狐様がいる。
 神主も巫女もいない神社だけど、お狐様がいる。
 お願い事を書いた紙に、お賽銭を包んで賽銭箱へ。もしもそれがささやかで、幸せになる願いなら、お狐様が叶えてくれるでしょう。

「……最近は、自分勝手な願いが多いですねぇ」
『お狐様』は賽銭箱から取り出した願い事を読みながら、ため息を吐いた。
「『慰謝料を多く取って離婚したい』とか『テストなんてなくなりますように』とか専門外です。お狐様のお仕事はもっと、ささやかーな願いをささやかーに叶える事なのです」
 少女は、お狐様である以外の生き方を知らない。
 物心がついた時には、巫女も神主もいない神社で、独り、暮らしていた。
「…………ん?」
 少女の手が、三つ目の包みを開いて止まる。
「展望台公園の遊具を綺麗にしてほしい……うん、わかりました。これはささやかな願いなのです」
 お狐様は、微笑んだ。
 そして狐の姿になって、獣道を伝って程よきところで人へと戻り。
 ペンキを買って、子どもたちが帰る夜になるのを待って、公園へと向かった。

「待ちくたびれたぜ」
 その口調には、覚えがなかった。
「誰ですの?」
 二色のペンキの缶を両手にぶら下げて、ぽかんとお狐様は、現れた男を見る。
 髪は白い。肌は白い。手に持った猟銃らしきものも、白い。
「!」
 気づいた時には、ペンキの缶を離して後ろに転がっていた。
 三回転半で起き上がる。弾痕が自分のいた場所に残っていて、ぞっとする。
 この男は、倒さなければならない。敵だ。
「だって、私は、みんなを幸せにする」
 尻尾が男の喉元に狙いをつける。
「お狐様、なんですから」
 流星のように駆けた狐の尾が、男の喉元を貫く。
「やりました……?」
 安堵、そして、次の瞬間、絶望。
 男の喉の傷跡が、みるみるうちにふさがっていく。
「狐か」
 ニヤリ、男が銃を構える。
「狐なら猟銃でちょうどいい」
 弾。弾。弾。弾。
 抗うこともできずに、両手両足を撃ち抜かれて。
「俺の為に、死ね」
 額から一直線に後頭部まで貫く感触。
 嗚呼。
 息が、漏れた。
(「私は、最後にこの男を幸せにできたのでしょうか?」)

「ナンバードが現れた。急ぎの依頼だ」
 穂村・勇史(高校生運命予報士・bn0292)はそう言って、能力者達に用意していたグラスを差し出した。
 ホワイトココアとコーヒー、生クリームに卵黄、砂糖多めでをシェイクしたオリジナルの『ゴールド・フォックス』である。
「ナンバードは抗体兵器を持つリビングデッド。強力な敵だ。あるナンバードに、妖狐の少女が殺されてしまう運命が視えた」
 普段は人間の姿で日常に潜んでいるナンバードは、戦闘になると白い肌と白い髪をあらわに、戦いを挑んでくる。
「彼らには自分が殺すべき能力者の居場所を知る能力があるが、それ以外の能力者は感知できない。そこにスキができるだろうな」
 何とかして妖狐の少女を助けてほしいと、勇史は頭を下げる。

「ナンバードに殺されかかっている妖狐の少女は、ただ『お狐様』と呼ばれている。物心ついてから、ずっと賽銭箱に入っている、村の人のささやかな願いを叶えて暮らしてきた」
 願いを叶えるのに必要な場合は除いて、彼女が人間の姿で人前に出てくることはない。
 その場合でも、狐の姿で神社を抜け出し、途中の獣道で人間に戻るという徹底ぶりだ。
「接触するには、願いをかけるのがいいかもしれないな。願いを書いた紙で賽銭を包んで賽銭箱に入れれば、神社から人がいなくなった後に、願いを読んでそれがささやかな願いならば行動に移すらしい」
 願いの内容次第で、上手く『お狐様』と接触を図ることができるだろう。
「なお、ナンバードが現れるのはその村にある展望台公園だ。接触できなかった場合も最悪そこで防衛戦ができるが、信頼関係が築けていない分不利になるのは明らかだろう」
 ナンバードは、猟銃を得物とする。
 直線状にいくつもの弾を撃ちまくるのと、視界内にばら撒いて炎を起こすのと、そして回復の力を込めた弾で自らのこめかみを撃ってダメージとBSを回復すること。
「それと、ナンバードはウサギの妖獣を連れている。彼らは鋭い牙で噛み付き、毒のような出血を与える」
 そう説明を終えてから、少し考えて勇史は告げる。
「彼女の境遇上、この村を離れたがらないかもしれない。だが、我侭な願いに心を痛めながら、ただ陰の存在として願いを叶え続ける彼女に、他の世界も知ってほしいと思うなら」
 銀誓館学園に、誘って欲しいと。
 そう、勇史は能力者達に告げた。
「能力者一人の命を、確実に救えるだろう依頼だ。頼んだぜ」
 お前らなら大丈夫だよな、と言って、勇史は能力者達を送り出した。

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参加者
撲・殴子(真ファンガス共生者・b15466)
葛城・浪漫(真赤い亀裂・b17113)
春日部・朔(高校生真青龍拳士・b35977)
小島・大地(針槐・b51788)
茅薙・優衣(宵闇の蜘蛛姫・b52016)
桐崎・早苗(無自覚天然娘・b59392)
レオナ・ダオレン(彷徨う狐は何を見るか・b71278)
最上・千秋(偽装獣耳マニア・b74259)
夜乃・空(はらぺこかいじゅうは真符術士・b78639)
大月・昇太(中学生妖狐・b81038)



<リプレイ>

「今日はお願い事が多い日ですねー」
 お賽銭箱をよっこいしょっと開けて、お狐様は目を丸くした。
「んー? えっと、近所の公園を綺麗に……それから、花壇を綺麗にですか。お花を増やしてほしいってのもありますねー、それから修理っと……ふむ? 白い幽霊? ゴーストですかね退治しなければ。おお、公園の裏のポスト、そういえば塗装が剥げてましたねぇ……お友達になってください? えへへ、言われると嬉しいもんですね、でもどうしましょ……」
 一つ一つ開いてニコニコしたりふーむと首を傾げたり。
「でも」
 ふふ、と笑みがこぼれた。
「今日のお願い事は、ささやかなお願い事が多くて、幸せですねぇ」

「健気で可愛らしいもふもふお狐様! 是非お持ち帰り……」
 みんなのいぶかしげな視線に、撲・殴子(真ファンガス共生者・b15466)は咳払いして続けた。
「ではなく是が非でもお守りしなくては!」
 力強く言いながら『もふらせて!』と書いた紙をしまう。賽銭箱に入れようとしたが断腸の思いで諦めた。
「お狐様……か。ずっと一人で人の願いを叶え続けるって、どんな気持ちなんだろう」
「ホント、スゲーよなぁ」
 春日部・朔(高校生真青龍拳士・b35977)の呟きに、葛城・浪漫(真赤い亀裂・b17113)が深々と頷いた。
「とにかく、凄くお人好しだってのは分かるわ……」
 依頼で色んな人を助けている私達も同じようなものかしら、と朔はくすと笑みを浮かべる。親近感が胸を満たす。
「人のささやかな幸せの為に動く……随分と良い子のようですねぇ」
 レオナ・ダオレン(彷徨う狐は何を見るか・b71278)がせっせとゴミ拾いをするお狐様を眺め、しみじみと目を細める。
「ささやかなお願いを叶えるって素敵な事だと思います」
 そんなお狐様をいじめるナンバードはすみやかに退治しないといけませんね、とにこやかに、だがきっぱりと茅薙・優衣(宵闇の蜘蛛姫・b52016)は言い放つ。
 隣で小島・大地(針槐・b51788)が頷いて、ぎゅっと手の中に収めたイグニッションカードを握る。
「俺も狙われたから、仲間が狙われるのは見過ごせないよ」
 大月・昇太(中学生妖狐・b81038)、彼もまた、銀誓館学園の能力者達に救われた妖狐である。だからこそ、彼女も助けたいと願った。
「あと御稲荷さんにお願いがあるんだ」
 そう呟いて、昇太は狐の姿に変化する。
 今度は花の苗を手に取ったお狐様に、最上・千秋(偽装獣耳マニア・b74259)はちょっと複雑な視線を向けた。
「ほむ、狐として人々から敬われ頼りにされてるのって、必死に人のふりして正体隠してる身からすると、ちょっと羨ましいかもです……慰謝料とかの相談は確かに御免ですけど」
 妖狐としての生まれを隠し続けた記憶が少し蘇って、千秋はふるふると首を振る。夜乃・空(はらぺこかいじゅうは真符術士・b78639)が大丈夫かと声をかければ、ん、と千秋は頷いた。
「ナンバードの野望と狐狩り撲滅の為いくですか」
 そして彼女も狐の姿に変身する。
 レオナと桐崎・早苗(無自覚天然娘・b59392)も同じように狐の姿に。メッセージを書いたメモをくわえた早苗を先頭に、四匹の狐が茂みから飛び出す。
「んー……わ、狐さんがたくさんですねー。こんにちはー」
 顔を上げたお狐様が、ぱたぱたと手を振った。
「……あれ? 油揚げはないですよ?」
 四匹が揃って近づいてきたのに首を傾げる。くいと早苗が差し出したメモを、「何でしょう」と受け取って。
「『あなたを助けたい』……ですか? ……え?」
 顔を上げたお狐様が目を丸くする。
 いつの間にか立っていたのは、四匹の狐ではなく四人の人間。
「え、ま、まさか……私と同じ、妖狐?」
「ええ、お初にお目にかかります」
 優雅に早苗が一礼した。それに続いて三人もぺこりと頭を下げる。
「人目を避けたかったためこのような時機となってしまいました。まずはこのような訪問をお許しください」
 混乱したように首を傾げているお狐様に、早苗は安心させるように微笑みかけた。
「桐崎・早苗。ご覧の通り同じ系統の力を持つ者でございます」

「ふむー、妖狐だけじゃなくって、能力者、っていうんですか? そういう人達たくさんいるんですかー」
 話を聞いて興味深げにこくこく頷くお狐様に、能力者について説明したレオナがにっこりと笑みを浮かべる。
「それで……その、幽霊退治のおねがいは俺が書いたんだ」
「あ、そうなんですか?」
 じゃあ退治するのお手伝いすればいいんですか、と昇太を見つめるお狐様に、いや、その、と昇太は言葉に迷ってから。
「御稲荷さんはそれに狙われてるんだ。俺も別の奴に狙われたことがある」
「え?」
 ぱちぱちと瞬きするお狐様。「あ、あと御稲荷さんって私の事ですよね?」と聞き返す彼女に、昇太は頷く。
 そこから千秋が話を引き取った。
「突拍子の無い話ですが、お狐様の命を奪う事で力を維持する輩がいるです」
「ほー、そういうことなのですか」
 世の中広いですねぇ、とのんびり呟くお狐様を、千秋は真剣な顔で見つめて。
「親切の押し売りみたいですが、貴方を守ると同時にそいつは私達の敵なので倒しに来たです」
「そんな、強いんですか……」
 ふぅむとお狐様は首を傾げる。
「あなた達、多分私より強いですけど、それでも四人か、私入れて五人でかからないと勝てないってことですよね」
「いえ」
 早苗とレオナがさらりと首を振る。
「実は、あと七人仲間がいて、それで戦いに行くんですけど」
 お狐様の目が、もう何度目かわからない真ん丸になった。

 そんなわけで花壇の植え替えを手伝いながら、自己紹介タイムが始まった。
「鎌倉の銀誓館学園から来た葛城・浪漫だ。宜しくな♪」
 そう言って微笑む浪漫に、にっこり笑ってから「銀誓館学園ってどんなところなんです?」と尋ねるお狐様。
 包み隠さず全てを話す浪漫に、自分達も狐にはなれないけど能力者だと朔が口を添える。
「君のように狐に変身できる仲間もいる。君が今狙われているから守りに来た」
「なるほどなるほど。ゴースト怖いですもんね、ありがとうございます」
 そう説明した大地に、土まみれのお狐様は丁寧に頭を下げる。
「あ、優衣さんですよね。その苗取ってもらっていいですか?」
「はい、どうぞ」
 優衣は指さされた苗を取り出して渡す。空が掘った穴にその苗をそっと収め、土をかぶせるお狐様。
「ナンバードとの因縁は、どちらかが倒れるまで続いてしまう。だから、倒すのに協力してほしいんだ」
「もちろんです」
 大地の言葉にこくんとお狐様は頷く。
「ゴースト退治はささやかな幸せを守るのに大事ですもんね。それにしても」
 ふふ、と小さな笑みをこぼして。
「守ってもらうのも、助けてもらうのも初めてかもしれません」
 いつも、叶える側だったからとそっと呟く。
「私の願いは『頑張ってるもふもふさんを手伝いたい』ですよ」
 そう殴子がにっこり笑えば、「ありがとうございます!」とお狐様は嬉しそうに笑みを返した。

 けれどそんな和やかな空気は、展望台公園についた途端に霧散した。
「待ちくたびれたぜぇ……」
 既に白い肌を露わに、銃を担いだナンバードが立っていた。
 同じく白い毛を持つ兎達が、凶暴に牙を剥く。
「現れました。私の後ろへ」
「この人が……」
 ぎゅっと拳を握って呟くお狐様に頷いて、早苗は彼女を庇うように前に出た。
「御稲荷さんを頼むね」と釣・克乙とサキュバス・キュアの乙姫に言い残し、昇太が一歩前に出て幻の炎を解き放つ。
「彼女に攻撃なんかさせませんよっ」
 土蜘蛛の糸を伸ばし、優衣が昇太の幻楼火と同時に解き放つ。
「クソッ、忌々しい!」
 そう叫ぶナンバードに、大地と浪漫が目を合わせ、地を蹴って肉薄する。
「させねぇよっ!」
「狩られるのは君だよ、ナンバード!」
 黒燐蟲が浪漫のチェーンソー剣と長剣を覆い輝く。低くまとわりつくような狩猟の体勢をとった大地がナンバードを睨み据える。
「ちっくしょおおおおお!」
 ナンバードが銃を振り回す。次々に能力者達を穿った銃弾は、炎でさらに彼らを焦がす。克乙がすかさず浄化サイクロンを吹かせ、乙姫がお狐様を護ろうと前に出る。
 対するかのように飛び出すのは、締め付けとマヒを逃れた兎達。
「今です!」
 早苗とレオナ、千秋が同時に七星の輝きを解き放つ。空が導眠符を竜巻に乗せて飛ばし、お狐様も援護するように幻楼火をぽっと灯した。
「ありがとうございます、これで楽になりますね!」
 殴子が錫杖を鳴らし飛び出す。その周囲に四つの光るコアが現れ、くるくりと飛び回る。
「あの子はやらせない……!」
 さらに地を蹴った朔が、そのままの勢いで兎の体に龍尾脚を浴びせる。
 じたばたともがく兎達の、一体が戒めを抜けた。
「行かせないよっ!」
 昇太がお狐様を護るように飛び出す。三日月を描いて蹴り上げられた爪先が、見事に兎の腹を捉える。
 その間に大地と浪漫がナンバードを抑える。龍尾脚を脇腹に、暴走黒燐弾の直撃を胸に受けて、ナンバードがぎしりと歯噛みしながら連続で直線状に弾を放つ。
 優衣がレオナを癒し、早苗が空に病魔根絶符を投げる。空がさらに自分でも符を使い、傷を癒す。
「良い子ならば尚の事、その命は護らなければなりません」
 レオナが九つの尾を生やし、兎の一匹へと突撃をかける。自由になりかけた兎には、千秋が向かって足を止めさせる。
 殴子が錫杖の先端に呼んだ光の槍をそのまま殴りつけるように兎にぶつける。朔が自分の目の前の兎を喰らい尽くような龍顎拳でぶち抜く。
「克乙兄ちゃん、御稲荷さん、回復いくよ!」
 昇太とお狐様のアヤカシの群れ、克乙の浄化サイクロンで傷がみるみる癒えていく。
 大地と浪漫が、同時にナンバードの足元に一歩踏み込んだ。
 チェーンソーが唸りを上げ、青龍刀が銀の波を描く。
 長剣が、布槍がナンバードの鳩尾を穿つ。
「うおおおおおっ!」
 吹き飛びながらもナンバードが炎の弾丸をまき散らす。けれど優衣が情熱ビームを、空が病魔根絶符を飛ばして大地と浪漫の傷を癒してしまう。
 さっと早苗が灯篭を伸ばす。その先に降臨した七星の輝きが、ナンバードの体から自由を奪う。
 レオナの九尾が駆け抜け、兎を貫く。不意に自由になった別の兎の一撃を、千秋が両手の九尾穿で受け止めた。
「ふみゅう……本来なら私も前衛向きじゃないけど、仕方ないです」
 痛いのはやっぱり嫌いです、と呟きながら、千秋は仕返しの一撃を放つ。
「昇太さん、ファンガスいきます!」
 殴子がなかよしファンガスを飛ばす。朔が龍尾脚で兎の体を蹴り飛ばす。
「これで終わりだよ!」
 昇太の爪先が華麗な三日月を描き、兎の一匹を消し飛ばす。ナンバードが動けないでいる間に、千秋が九尾扇で引っ叩き、殴子が光の槍を零距離でぶつけ、朔の拳が炸裂して目の前の兎を片付けていた。
「コノヤロオオオオオ!」
 ようやく動きを取り戻したナンバードが銃を乱射する。けれど昇太の幻楼火と、早苗の幻楼七星光が、再び動きを縛り付ける。
 空が己の傷に符を貼るところを、優衣が守るように赤手を紅蓮に染めて殴りつける。
「手加減は、しませんよ」
「ん。出し惜しみ無しで」
 レオナと千秋のこめかみで狐耳が揺れる。爆発するように生えた合わせて十八の尾が、次々にナンバードを貫く。
「……ごめん、なさい」
 迷ったように、その言葉は紡がれた。
 幸せにできなくて、と言って、尾が伸ばされ、ナンバードの喉を貫く。
「こんあ素敵なもふもふさんを苛める輩は」
 殴子が光の槍を錫杖の先に作り出す。
「殺ス」
 投げる。
 光の炸裂。同時に地を蹴った朔の踵が、ナンバードの頬に沈んだ。
「願いを叶え続ける、俺にとってスゲーことだと思うんだ」
 浪漫がふと呟くように口を開く。大地が目で頷き、同時に動く。
 挟み込むように構えた武器から、炎の噴射が起きる。
「そんな彼女の行為を踏みにじる真似はさせやしねぇ……!」
 両側から合わせて四つの武器が、ナンバードを貫いた。
 そして、彼は再びの死を迎えた。

 初めての強敵との戦いを終えたお狐様に、次々に能力者達が声をかける。その顔は、守り切れた喜びに満ちていた。
「あ、そうだ、今度学園祭があるんですよ、銀誓館で」
「がくえんさい?」
 きょとんと首を傾げたお狐様に、優衣が銀誓館の学園祭がどんなに楽しいか説明する。
「よかったら銀誓館に来てみないかね?」
 入学するかどうかは来てから決めたらいいし、と言う浪漫に、「でも私はここで願いを叶えなくちゃ」とお狐様は困った顔。
「入学するかは置いておいても遊びに来たら良いよ。仲間も悩みを相談できる人もいるし、もちろん僕も付き合うよ」
「学園祭、一緒に回っていただけませんか? あたらしいお友達として紹介したいですし」
 大地と優衣が両側から言えば、お狐様はおろおろしながらも嬉しそうに微笑む。
「大丈夫ですよ。学園には偽身符というものがありまして……」
「ぎしんふ?」
 殴子が偽身符について、そして学園生活を送りつつ村に戻り願いを叶える事もできるということを説明すれば、お狐様の顔がぱっと輝く。
「私達はこういう敵と戦っているの。これからもあなたは狙われるかもしれない……私達が力を貸すから、あなたも同じように私に力を貸して?」
 そう朔が言えば、「私の力でも役に立ちますかね?」とお狐様はじっと自分の手を見つめた。
 その手を、そっとレオナが取る。
「形は違えど、私達の仕事は人間を幸せに出来る事もあります。それに、今まで知らなかった幸せを、貴女にも知ってほしいですしね」
 最終的に決めるのは貴女ですよ、と優しくレオナは微笑んで。
「人の幸せを叶えるだけじゃなくて、そろそろ自分の幸せの為に動いても良いんじゃないですか?」
 千秋はそう言ってお狐様を見上げる。銀誓館へ来るのがその一助となると思えるのは、彼女の経験故かもしれない。
「実はまだ、お願いがあるんだ」
「お願い、ですか?」
 首を傾げるお狐様に、昇太は包みにした紙を渡す。
「『これからはみんなの願いだけでなく、御稲荷さん自身の願いも叶え幸せになって』……」
 ほろ、とお狐様の瞳から涙が落ちる。早苗が、その頬にハンカチを当てる。
「誰かの為に。そんな貴方だから私も思うのでしょう。今までずっと誰かのために生きてきたのですから、そろそろ自分のために生きてみてはいかがでしょうか」
「……はい!」
 それは初めての、年相応の少女の微笑みだった。

「名前、決めなくてはいけませんね?」
 その言葉をきっかけに、再び皆が盛り上がったことは言うまでもない。
 たくさんの名前が提案され――悩みに悩んだお狐様は、ついに一つの名を選んだ。
 天にある日のようでありたいと天日、皆と己の願いを叶える心を込めて、叶恵。
 もうただのお狐様ではない。天日・叶恵という名の、妖狐の少女。
 彼女は新しい仲間達と共に、新しい場所へと向かう――。


マスター:旅望かなた 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/07/09
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