≪CANDY@BOX≫幻想茶会に血の雨は降る


<オープニング>


 その一団を最初に目撃したのは、銀誓館学園に通う一般男子生徒だった。
「なんだ、ありゃ? 仮装行列……?」
 彼が目撃した者達の姿は、どこか非日常を感じさせるものだった。
 先導するエプロンドレスの少女と時計を持った男はまだ良いとして、問題はその後ろにいる連中だ。
 猫に兎に卵にドラゴン(だとその生徒は思った)の仮装、そしてとどめに王冠をかぶった女性。
 ファンタジー小説か絵本から抜け出して来たかのような一行は、クラブ棟の方へ向けて、しずしずと進んでいく。思わず写真を撮ろうと携帯電話を取り出した少年に、先頭の少女がにこやかに手を振った。
 その笑みに見とれていた生徒は、思わず写真を撮る機を逸していたのに気付いて舌打ちする。
「……どこの団体だろ?」
 学園祭も近いし、きっと、どこかの団体の宣伝活動だろう。
 そう思って、その生徒は考えを打ち切ると帰宅の途に就いた。
 異常は異常であるがゆえに見過ごされる。これから始まる戦いを、彼が知ることは無い。

 結社『CANDY@BOX』が入っている一室には、穏やかな空気が流れていた。室内にいた8人は、思い思いに時間を潰している。
「やっぱのんびりしてるのはいいよなあ……あ、そのクッキー欲しいな」
「どうぞ」
 クッキーの入った深皿を、カイト・クレイドル(真イケメン人狼騎士・b37048)の側に置いてやる水姫・優希那(おちこぼれ妖狐・b73873)。
「サンキュ」
 カイトが礼を言い、クッキーの皿に手を伸ばそうとした時、扉をノックする音が鳴った。渚砂・実流(いつだって全力全開の魔砲少女・b57743)が席を立つ。
「入団希望かな? 今団長はいな……」
「いや、そんな可愛い人達じゃなさそうだよ
 こちらの返答を待たずに入って来たエプロンドレスの少女と、その後ろに続く一団を見て、真神・瑞貴(氷の貴公子・b45562)が警告した。
 室内に足を踏み入れたエプロンドレスの少女はスカートの裾をつまんで礼をした。
「素敵なお茶会ね。わたしたちも混ぜて欲しいの、あなた達のお茶会に」
「生憎と、無礼な連中はお断りだ」
 吉師・鴇継(長剣の魔獣戦士・b57118)の鋭い視線を受けながら、少女は髪に手をやった。肌と髪の色が白へと染まり、その間から現れるのは、その可憐な面立ちには似つかわしくない無骨な電動鋸だ。
 裏方・黒衣(蒼の猫型どりる・b57463)が、彼女達の名を叫ぶ。
「やっぱり、ナンバード……!」
「まさか、堂々と来るとは……。良い度胸ですね」
 目を細め、ウルリケ・シュヴァルツ(蝙蝠円舞曲・b69278)がイグニッションカードを手に取った。明らかに髪の中に収まるはずもない大きさのそれを構えたナンバードの少女に続き、後ろにいた一団も次々に剣呑な抗体兵器を取り出して見せる。
「ね? お茶会、混ぜてくれない? そう時間は取らせないわ」
「っは、不思議の国が揃い踏みでってとこか。お茶菓子は僕達ってとこ?」
「そうね。あなたたちの命をたべさせて」
 微笑む少女に、カイトは肩をすくめた。
「ここでドンパチしたら、なんつうか、怒られそうだけどな」
「押しかけて来るなら場所を考えて欲しいものです」
 望月・三樹(ベナルカントス・b22354)が呆れたように言う。室内は、これだけの人数が戦うにはいかにも狭い。乱戦となるのは確実だ。普段後衛を務める能力者も、接近戦を行う覚悟が必要だ。
 加えて折悪しく、他の能力者達も来る様子が無い。この場は、今いる8人だけで、この危機を凌がなくてはならないだろう。
 イグニッションカードを手に取り、能力者達は逃れられぬ戦いを決意した。

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参加者
望月・三樹(ベナルカントス・b22354)
カイト・クレイドル(真イケメン人狼騎士・b37048)
真神・瑞貴(氷の貴公子・b45562)
吉師・鴇継(長剣の魔獣戦士・b57118)
裏方・黒衣(蒼の猫型どりる・b57463)
渚砂・実流(いつだって全力全開の魔砲少女・b57743)
ウルリケ・シュヴァルツ(蝙蝠円舞曲・b69278)
水姫・優希那(おちこぼれ妖狐・b73873)



<リプレイ>

 イグニッションカードを手に、叫ぶ言葉は唯一つ。

「「イグニッション!!」」

 等しい言葉を軸として、カードに封じられた、団員達本来の力が呼び起こされる。
 その瞬間に生じるのは、前進と攻撃を求める詠唱兵器の響きだ。
 ナンバードに反応の暇も与えず、団員達は動いた。


 肉体と精神が解放される感覚に乗るまま、裏方・黒衣(蒼の猫型どりる・b57463)は右手のナイフで切り裂くように輝線を描く。
 心に宿る緊張感をどこか楽しむ自分を感じながら、彼女の右手は文字通り目にも止まらぬ速度で動いた。その右手が描画するのは、輝線で出来たナンバードの姿。
「いって!!」
 瞳を入れると共に生まれ出た小さな帽子男は、殺意を鏡写しにしたようにナンバード本人へと襲い掛かった。宙を翔けるその姿を追うように足元の床を蹴ったのは、ウルリケ・シュヴァルツ(蝙蝠円舞曲・b69278)。
 黒いマントを翻した彼女の姿が空中で二重にブレる。霧の分身を伴い、前に出掛けた卵男を前後から挟むようにしてウルリケと分身は手を伸ばす。
「消えるのは、貴方達よ」
 翻るマントの下から差し出された掌から、水のエネルギーは炸裂した。鳩尾と背骨に当てられた手から溢れ出すエネルギーが卵男の体内で衝突し、波紋のように響きを産む。だが、その一合で終わるほど、抗体ゴーストも脆くは無い。
「この程度……ッ!」
 癇に障るイントネーションで呟きながら、卵男が鎌の振るいによってウルリケを振り払った。
(「攻守ともに固めてるの……嫌な連中」)
 渚砂・実流(いつだって全力全開の魔砲少女・b57743)が、声に出さずに思考。抗体ゴーストは、その攻撃力も耐久力も、通常のゴーストとは比べ物にならないほどまで強化されている。
「ま、それならそれで」
「倒れるまで攻撃するだけの話だ!」
 先制攻撃に出来た隙は、団員達のさらなる動きを呼ぶ。カイト・クレイドル(真イケメン人狼騎士・b37048)と吉師・鴇継(長剣の魔獣戦士・b57118)、体を低くし、足の裏で床を押し出すようにして前方へ跳躍。
 地を馳せる影のように敵の足元へと飛び込んだ二人は、瞬間、悪を滅ぼす旋風となった。身を回す動きに伴って肘から飛び出す処刑の刃。入口付近に密集していたナンバード達の足から体へと斬線を刻みつけ、その切れ味を示さんとする。
 響き渡る激しい金属音。
 ナンバード達が己の詠唱兵器を楯として、二人の悪滅スピナーを受け止めんとしたのだ。それでも殺し切れない威力が、ナンバード達の姿を赤く彩る。
「いきなりなんて、だいたんね」
 床に突き立てたチェーンソーを軸に、その上で倒立しながら呟くナンバードの少女の姿が、突如して起こった衝撃に煽られる。望月・三樹(ベナルカントス・b22354)の踏込が激しい衝撃波を巻き起こし、ナンバード達を襲ったのだ。
 続けざまに真神・瑞貴(氷の貴公子・b45562)と水姫・優希那(おちこぼれ妖狐・b73873)、真妖狐の力を持つ2人が放った光がナンバード達を急襲する。
「みんなで必ず生き残る! 絶対の意思で貫くのっ!」
 実流の雷の魔弾が、部屋の空気を貫いて飛んだ。
「なななな、なんですかこれは……ッ!?」
「狼狽えている場合か、役立たずめ」
 困惑する帽子男を、竜の扮装をした男が罵倒する。雷の魔弾を受けて痺れる帽子男を捨て置いて、ナンバード達が一斉に攻撃に転じた。
「殺すのは、それぞれ一人までにしてね」
 チェーンソーを振り回してエプロンドレスの少女が切りかかるのは、後衛にいる優希那だ。大上段から振り下ろされるチェーンソーの刃が天井のコンクリートを豆腐のように切り裂く。
「あばばば、こっちにはあんまり来ないで下さいよぅ……」
 優希那は薙刀の先端を上げた。駆動音を立てて迫るチェーンソーの刃を逸らそうとするが、その威力は殺し切れなかった。制服が切り裂かれ、血煙が舞う。
「やっぱり、実力はあるね……」
 竜の翼から撃ちこまれる衝撃波を受け、喉の奥に血の味を感じながら瑞貴が呻く。
 己の内なる衝動に従い、ナンバード達は彼らがそれぞれに命を奪うべき者達へと、兇器を繰り出して来る。
 帽子や異形の翼といった、団員達の知る限り詠唱兵器には存在しないような代物までが含まれているのは、抗体兵器が常識を超えたものである証左だろうか。
 一斉攻撃が団員達の体を揺さぶり、彼らの纏う防具が次々と切り裂かれた。だが、おそらくは時計男の標的であったのか、攻撃されなかった黒衣は再び手にしたナイフを繰って敵の姿を虚空に描きながら、小首をかしげる。
「……それだけですか?」
「何?」
「その反応。どうやら、先程の黒衣さんへの回答は『イエス』ということですね」
 冷徹な視線と共に、三樹のカカトが、ナンバードの側頭部を捉えた。凄絶な音が響き、卵男の頭蓋が蹴り砕かれたところに、黒衣のスピードスケッチが襲う。驚愕をたたえたままの表情で動かなくなるナンバード。
「狩人を気取っていても……こんなものですか」
「ひっ!」
 三樹の冷たい視線に、動きを止められたままの帽子男の顔に恐怖の感情が浮かぶ。
(「あまり、能力者と戦った事が無さそうだな」)
 回転しながらカイトは思考。
 ナンバードの攻撃を凌ぎ切った団員達の顔に浮かぶのは、凌ぎ切ったという達成感よりも、むしろ困惑のそれだ。
 抗体兵器を用いた攻撃の威力は高く、ナンバードの肉体の力もまた、学園の能力者の限界近い強さを持つ黒衣やカイトらをも上回っている。
 敵の数はこちらと同数、数的な優位も見込めない。
 だが、それだけだ。彼らの動きは、好き勝手に戦っているようにしか思えない。
 んー、と小首を傾げ、魔弾を撃ち出しながら実流が呟く。
「あんまり変なアビリティを使う様子もないの」
「……元一般人か?」
 鴇継の推測を聞きながら、瑞貴が身を躍らせた。
「……舐めるなっ!!」
 部室のテーブルを蹴って跳んだ彼が、眼下へと鋭く息を吐き出す。そこに宿った冷気が、歪んだ爪を振りかざしてウルリケと切り結んでいた嗤う猫の体を凍てつかせる。白い霜に覆われた彼を、ウルリケが分身と共に挟み込む。霧影爆水掌。
 呻き声を上げて崩れ落ちる男の姿に何らの感慨すら抱いていない様子で、扉の前から動かずにいた竜の扮装の男の背にある翼が羽ばたく。
 着地際を狙い、撃ち出される衝撃波。
「瑞貴様!」
 直撃を受けて転倒した瑞貴を、優希那の呼び出した祖霊が優しく癒す。その間に突進するのはカイトと鴇継。翻る悪滅の刃は、その勢力圏を入口側に近づけていく。射撃でこちらを狙うため、大きく距離を取れずにいたナンバード達が面白いように切り裂かれた。
「お、お前達こっちに来るな! 私まで巻き込まれ……!」
 回転を崩さぬままの矢継ぎ早の攻撃と共に、兎のような扮装をしたナンバード達の片方、時計を持った側が一気に切り裂かれた。
 瞬時に叩き込まれる刃が、白い兎を赤く染める。鴇継の回転が止まると同時、その身は動きを止めていた。切り裂かれ、なお動いていた時計が、その存在を薄れさせていく。消えゆく秒針を見ながら、カイトが振り向いた。
「20秒で4人。なかなかいいペースじゃないか?」
 視線の先、石化されていた帽子男が、物言わぬ石像と化していく。


 たちまちのうちに、戦いは団員達のペースとなっていた。ナンバードの人数が同じでさえ優勢だったのが一方の数だけ減れば、どうなるのかは明白だ。
 防御態勢を取って回復を図るナンバードもいるが、それは終焉までの時間を引き延ばすだけの結果しかもたらさない。
「三樹さん!」
 残る兎の片割れの大鋏に切り裂かれる三樹に、黒衣がギンギンカイザーXの瓶を放り投げた。回転しながら飛んだ瓶の蓋が取れ、狙い通り下にいた三樹に頭から降り注ぐ。
「この程度で、誰が死ぬものか……」
 白虎の如き文様を纏った三樹。その両手を覆う発勁手袋が、轟々と唸りを上げた。攻撃の手を止めることは、それだけ相手にも余裕を与えるという事に他ならない。
「容易く手折れると思わないことね」
 霧の分身を出現させ、ウルリケもまた守りを固める。
「大事な人達との絆、奪われてなるものか……」
 瑞貴の撃ち出す幻楼七星光が、優希那を襲わんとしていたエプロンドレスの少女を頭上から襲った。実流に長杖を繰り出していた女王が巻き込まれ、その体が石化を始める。
「くっ……!」
 既に劣勢であることは明白となり、残りの数字に余裕のあるナンバード達の表情に、焦りと共に撤退への思考が生まれていた。
 じりじりと下がった竜が、後ろ手に入口の扉を開ける。兎が慌てた様子で叫んだ。
「あ、あんた何やってんだよ!」
「こんな躓き一つで、死んでたまるか……!」
「す、すみません。ちょっと止まってください!」
 だが、身を翻そうとした彼の動きを阻むのは優希那の放つ幻楼七星光だ。その力の前に、ナンバード達の口論が強制終了する。
「ここまで来て、逃げるってのは無しだろ!」
 冷気を帯びた大鎌が鋭い弧を描いた、石化を脱し、扉の方へと走ろうとしていたエプロンドレスの少女を捉える。霜着く刃の一撃が、少女の体を魔氷に包んだ。
「あっ……!」
 悲鳴を上げる少女の胸に貼り付く、十字の紋様。
 それを放った鴇継は、冷徹な一言を放った。
「お前達が来たのは、絶対に来ちゃならねぇとこだ。それを教えてやる……」
 出現するのは十字の紋様。石化を逃れたエプロンドレスの少女に紋様は貼り付き、放たれる弾丸が次々とその中央へと叩き込まれた。
 もはや言葉もなく、エプロンドレスをひらめかせた少女は、音もなく床に倒れ込んだ。
 勝機を失ったナンバード達が、憎しみを籠めて能力者達を睨みつける。
「このような、ところで……」
 彼らが能力者を襲う存在と化したのは、万色の稲妻があればこそだ。だが、
「僕達は、こんなことで殺されるわけにはいかないんだ……絶対に……!」
 瑞貴の言葉は、心からのもの。ここで敗北するわけにはいかないという決意を示すものだ。
「そろそろ終劇としましょうか」
 ウルリケの言葉に、誰一人言葉を返さず、だが行動で同意を示す。
 強化された三樹の蹴りが兎を捉え、鴇継の放つ銃弾が竜を貫く。
「全力全開で、終わらせるの!」
 短時間の戦闘で、見る影もなく荒れ果てた室内を振り返りながら、実流は側で石化している女王にサンダーピラーを突きつける。至近距離からの雷の魔弾が、女王を貫いた。


 残ったナンバード達が幻楼七星光の影響を脱するより早く、戦いの決着はついた。
 終わってみれば、ナンバード達が現れてから勝負がつくまで1分程の短期決戦となった形だ。
「皆さん、お怪我はありませんか? カイトも無茶をしてませんね?」
「ああ、勿論……ってそこは痛い痛い」
 ウルリケが、アンチヒールのせいで傷が癒えていないカイトを悶絶させている。
 そちらは見ないふりをすることにした他の6人の目には、室内の現状が飛び込んで来ていた。
「お部屋……大惨事ですねぇ……」
 優希那が現状を一言でまとめる。内装はあちこちが抗体兵器や詠唱兵器に切り裂かれ、加えてナンバード達の血にぶちまけられた栄養ドリンクにと、室内はそれはもう酷いことになっている。
「……部室もカップも御臨終か」
「あーあ……」
 テーブルだったものの残骸を見下ろして、鴇継が言った。黒衣は、その残骸の中に紛れたカップの破片を見つけ、どこか達観した様子で肩を落とす。
 実流が困った様子で、サンダーピラーを一つ振った。
「カレンちゃんやひなちゃんに部屋を散らかしてごめんなさいってしないとね☆」
「……勝った後の方が修羅場とは」
 三樹は肩をすくめて息を吐いた。瑞貴も無言のまま、遠い目で嘆息一つ。
 そんな皆を励ますように、優希那は拳を握った。
「こうなっちゃったものはしょうがないのです。荒れる前より綺麗になるよう、お掃除も頑張るのですよ!」
「ま、一人でも欠けなかった分で差っ引いて、許して貰うか」
 苦笑と共に鴇継が賛意を示す。そうですね、と頷き、黒衣は部屋の片隅を指差した。
「で、あれどうしましょうか」
 皆の動きが止まる。
 動かなくなったナンバード達の屍だの石像だのが、そこにはあった。
「……魔王に謝らなくてはね」
 ウルリケがぽつりと告げる言葉に、彼らは後始末が面倒になりそうなことを実感するのだった。


マスター:真壁真人 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2011/07/18
得票数:カッコいい26  知的1 
冒険結果:成功!
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