追跡期限は48時間


<オープニング>


「源平合戦の戦い、お疲れ様でした」
 厳しい戦いに勝ち抜いた能力者達を、藤崎・志穂(運命予報士・bn0020)は、六甲アイランドで出迎えた。
 影の城の中では、既に、祝勝会の準備が始まっているはずだ。
 神戸での戦いは、厳しい、本当に厳しい戦いだった。
 しかし、魔都福原京を滅ぼし、異形の首魁の一人、無血宰相トビアスを石化して撃破してみせた戦果は、誇るべき戦果であったろう。
 悔いがあるとすれば……、不滅の災いを取り逃がしてしまったことだけなのだが……。
 その思いが、能力者の表情を曇らせるが、それに気付いた志穂が、気を落とさないようにと言葉を添えた。
 
「皆さんの言いたいことは良くわかります。しかし、不滅の災いを取り逃がしたとはいえ、その力を異形に奪われた訳ではありません。全ては、これからなのです」
 その志穂の言葉に、集まっていた能力者達は、何かを感じ取り顔を上げた。
「これから……と言うことは、不滅の災いの行方が?」
 何人かの能力者が異口同音に尋ねると、志穂は首を縦に振った。
 
「はい、コマンダーの皆さんの作戦がうまくいったようです。ゴーストチェイスにより、不滅の災いの行く先が判明しました」
 志穂は、そう言うと、地図を広げて、その一点を指さした。
 それは、その地図の中で、いや、日本で最も高い場所であった。
「現在のところ、不滅の災いは富士山頂に向けて移動中です。そこで皆様には、ゴーストチェイスが切れるまでの48時間以内に、不滅の災いを捕捉し、その行動の調査をお願いしたいのです」
 志穂は朝6時17分発の新幹線のチケットを取り出すと、、ボートアイランドから富士山に向かうための交通手段について説明した。
「名古屋でこだまに乗り換えて新富士駅で下車、その後はバスでの移動になりますが、明日の昼前には富士五合目まで移動できるはずです」
 富士五合目からは歩いて登山する事になるが、能力者の足ならば、それほど、かからずに頂上まで移動できるはずだ。
 
「皆さんにお願いする事は、不滅の災いの調査になります。不滅の災いが富士山頂で何をするつもりか、できるだけ詳しく調査してきてください。また、調査後は、不滅の災いに再びゴーストチェイスを撃ち込むなどしていただければ、改めての追跡調査が可能になる……と思われます」
 そう言うと、志穂は、戦いが終わったばかりなのに申し訳ありませんが、よろしくお願いしますと頭を下げた

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参加者
姫川・芙美子(悠久の立読姫・b01058)
バゼット・クルースニク(狩りたてる恐怖・b31766)
狼幻・隼人(高校生波射瑠挽歌亞・b40479)
雪積・桜紅楽(春を待つ優雪・b67470)
天堂・櫻子(義理と人情の桜吹雪・b67497)
天守・矜星(全てを振り切る灼熱の最高速・b67547)
菅間・ヤロスラーヴァ(静かなる追跡者・b67571)
稲葉・和音(翠雷の頸刎ね兎・b68065)
リザ・ホークアイ(蒼炎・b70917)
紅乃瀬・司(黄昏の誓いと暁の夢・b71583)
椿姫・都古(桜花絢爛・b74156)
斎東・黎(濃紫の摩天楼佇む追跡者・b78933)



<リプレイ>

●ゴーストチェイサーよ、富士の山へ急げ!
「それじゃ、各自、用意できた装備を報告してくれ」
 7月4日早朝、志穂が手配した新幹線に乗り込んだ紅乃瀬・司(黄昏の誓いと暁の夢・b71583)は、早速、装備の確認をするように仲間に指示を出した。
 出発までの時間が短かったため、準備は難しいかと思ったが、装備状況は思ったよりも悪くなかった。
 コンパス、食料、水、防寒具、双眼鏡などは、サーチャーが用意していた物資の流用などで、充分数確保できていたのが大きかっただろう。
「おっ、観光ガイドもあるんだな」
 狼幻・隼人(高校生波射瑠挽歌亞・b40479)は、用意された富士山の観光ガイドを手にして、早速、登山道の確認を始めた。
 登山道の入り口までは、公共の交通機関で行くのだから、そこまでの道程についてのチェックはあまり必要ないだろう。
 ちなみに、この観光ガイドは、斎東・黎(濃紫の摩天楼佇む追跡者・b78933)が、深夜営業の書店で買い求めた物だ。
 普通の書店は閉店している時間でも、チェーンの古本屋などは閉店していない。
 最新のガイドブックでは無い可能性はあるが、富士山の情報は1年2年で刷新される事は無いので、これで必要充分なのだ。
「なるほど。これが、最短ルートで間違いなさそうや」
 天守・矜星(全てを振り切る灼熱の最高速・b67547)は、隼人がガイドブックに引いた男らしい黒線を指でなぞって確認し、彼らの行くべき道が決定したのだった。

 その後、新幹線からの乗換えを経て、富士山の五合目までバスで移動する。
 富士五合目は、あいにくの空模様だったが、気温は30度を超えており、蒸し暑かった。
「富士五合目の標高は2300m。もう少し涼しくても良いんじゃないか」
 登山ルートなどをメモしていた黎が、思わず顔をしかめる。
「あと1500弱だってェのに、五合目なのか?」
「登り5時間が目安みたいだから……イグニッションすれば、30分もかからずにすむと思うわ」
 稲葉・和音(翠雷の頸刎ね兎・b68065)の呟きに、椿姫・都古(桜花絢爛・b74156)がフォローする。
「さて、行くとしよう」
 天堂・櫻子(義理と人情の桜吹雪・b67497)の掛け声に応えるかのように、彼らはイグニッションを終えると、すぐさま山頂目指し駆け出したのだった。

「初の富士山登山は、イグニッションして悠々自適ってか。……感動がねぇな」
 リザ・ホークアイ(蒼炎・b70917)は、自らも飛ぶように走りながらも、複雑な表情で呟いた。
 初めての富士登山、どうせならば、周囲の風景を確かめながら、イグニッションせずに登山を楽しみたかったというところか。
「やはり、世界結界の影響でしょうか。人が少ない……ようですね」
「まぁ、いつもがどのくらいいるのか分からないから、比較できないけど」
 姫川・芙美子(悠久の立読姫・b01058)の言葉に、バゼット・クルースニク(狩りたてる恐怖・b31766)がそう答える。
 イグニッションしての行軍であるため、彼らは登山道の脇を駆け足で移動していた。
 まばらに通り過ぎる、登山客。その異変に気づいたのは、菅間・ヤロスラーヴァ(静かなる追跡者・b67571)であった。
「この時間にしては下山する人が多すぎる。やはり、何かあるな」
 富士山は登って降りるのに7時間半くらい掛かるので、昼前くらいの時点で下山者が多いのは不自然と思われる。
「おい、立て札があるぞ!」
 それを見つけたのは隼人。登山道を半分も進まないうちに、道の中央に立て札が立てかけられている。
 その立て札を見た登山客が、あたかも『工事中の看板を見た歩行者』のように、回れ右をして下山しているようだ。
『――この先立ち入るべからず――』
 立て札を見ると、そう筆で書かれた半紙が張られていた。
「もしかすると、この半紙、修学旅行の時に使われたものと同じなのでは……?」
 雪積・桜紅楽(春を待つ優雪・b67470)の言葉に、すぐさま辺りを見渡すも、何も見つけることはできなかった。

●不滅の災いと葬の一文字
 立て札を越えた先は、無人の登山道が続いた。
「アレが筆使い達の仕業だとしてェ、彼らは何をしてるってんだ?」
 和音は立て札を不審に思い、言葉に出す。だが、ここに答える者はいない。
 彼らは、登山というよりも短距離走のようなスピードで富士の山を駆け上がっていた。
 富士五合目で30度近くあった気温は、八合目を過ぎたところでも下がる気配が無い。
「しかし、暑いな」
 山の上なら涼しいかと思い、防寒具まで用意した司だったが、その心配は無かったようだ。
「ちょい待ち! これ、明らかに変やろ!?」
 ガイドブックを確認した矜星が、思わずツッコミを入れる。
 富士山頂付近は夏でも10度以下になるはずだ。8合目で30度もあるはずがない。
「やはり、不滅の災いか」
 櫻子は確信にも似た呟きを発し、考えを廻らせる。
(「燕なら正面から挑もうとするのだろうが……」)
 思い出されるのは、豪快な十三の生き様。
 だが、今回の自分達の任務は、戦う事ではない。
「あそこにいるようだな、不滅の災いが」
 櫻子は、山頂付近に『金色のオーラ』のようなものが揺らぐのを見いだした。

「これもゴーストチェイサーの因縁か。待ってろ、不滅の災い!」
 山頂へと後一息のところで、隼人が駆け出そうとしたが。
「シッ!」
 それをヤロスラーヴァが止めた。
 傍にいたリザは、その鷹の眼とも称される鋭い知覚で見たものを……山頂の一点にあるものを指さした。
「あそこだ。あそこに何か……ある。んっ? 旗と……陣幕?」
 彼女が指し示す一点には、確かに、何かはためくものがある。
「陣幕とは随分と和風だな。それにあの旗。何か書かれているみたいだ」
 遠巻きに観察しながら、司が言う。
「ここからでは良く確認できませんが、何か難しい漢字か何かですね」
 旗に何かが書かれているのを桜紅楽が気づいた。
「……葬。そう読めないか?」
 読み上げたのは、ヤロスラーヴァ。
「かなり無理矢理だが、その可能性は高いか」
 リザは頷き、彼らの見つけた旗の下へと駆け出した。

 富士山山頂は、火口のまわりをぐるりと取り囲む峰や岳で出来ており、その外周部のどこかに立てば、富士の頂上に登頂した事になる。
 富士最高峰の剣ヶ峰を含め、富士八葉とされる8つの峰と岳を繋ぐ外周部分が、富士の山頂と呼ばれているのだ。
 山頂に登った能力者達は、その富士八葉に設置された8つの陣幕と、そして、そこから降りた火口部分に鎮座する、不滅の災いとを確認する。
 不滅の災いの周囲には数百もの鳥型の妖獣、不滅の災いの使徒が舞い踊っていた。

 しかし、火口にあったのは、それだけでは無かった。
 富士八葉の陣幕にはためく旗から導かれた力の筋が、不滅の災いの体を縛る『文字』となり、その動きを引き留めていたのだ。
 その文字こそ、葬の一文字。
 陣幕に掲げられた旗の文字であった。
「不滅の災い……そして、これが……」
「葬の一文字……なのか?」
 和音と隼人が、その光景に眼を奪われていたその時、不滅の災いが、強い光の束を周囲に放ったのだ。
 それは、強烈な攻撃の光であった。

「くうっ……」
 その衝撃に思わず膝をつく都古。
 だが、思ったよりも、ダメージは無い。周りを見ても、大きなダメージを受けたものはいないようだ。
「見て!」
 その声に不滅の災いを見た黎達は、その動きを縛っていた文字が消え去っている事を知る。
 富士火口に誇らしげに立つ不滅の災い。
 言祝ぐように、周囲を舞う不滅の災いの使徒。
 黄金に輝くその姿は、神々しくさえあっただろう。

「まずいぞっ!」
 最初に気付いたのは、ヤロスラーヴァ。
 葬の一文字が消えたということは、それは、儀式を行っていた筆使い達の敗北を意味する。
 自分達は衝撃程度のダメージで済んでいたが、儀式を行っていた彼らが無事に済んでいるとは思えない。
 ヤロスラーヴァを先頭にして、急ぎ陣幕へと向かった彼らは、はためく旗の下では決死の表情のまま、血だらけで倒れている男の姿を見つけたのだった。

「大丈夫かい!?」
 慌ててかけよるバゼット。
「息は……あるみたいね。死んでいないわ!」
 すぐさま都古がヘブンズパッションを試み、男の傷を癒す。だが、それも完全とまではいかない。それほど男の傷は深かったのだ。
「お前達は?」
「鳳凰堂と神戸で、不滅の災いと戦った組織のものだよ」
「あぁ、お前達が。だが、我等の葬の陣は敗れた。不滅の災いが富士に還るのを阻止する事はもはやできない……」
「葬の陣、富士に還る?」
 だが、そのバゼットの問いに答える事無く、男は意識を失った。
「大丈夫です、命に別状はないようです」
 芙美子はほっとした表情でそう、皆に告げた。
「なら、俺らは俺らの目的を果たそうやないか」
 にっと笑みを浮かべ、矜星が立ち上がる。
「不滅の災いが富士に還るのを阻止できないと彼は言ったけど、その前にできるだけの情報を得よう」
 バゼットは、意識を失った男を横たえると、陣幕を出た。
「目指すは、不滅の災い!」
 筆使い達が倒れた今、不滅の災いと相対できるのは自分達しかいないのだから。

●不滅の災いは黄金色に輝きて
 富士火口は、輝きに満ちていた。まるで黄金色の海原のように。
「不滅の災いに攻撃の意思は感じられませんね」
 芙美子が注意深く、災いの動きを目視していた。
「攻撃の意思が見えなくても油断はすんじゃねェぜ。相手はあたし達12人を100回殺せるだけの戦力だからな」
 和音は退路を確保しつつ、出来るだけ不滅の災いに近づける場所を探す。
「あれがイサハヤかな?」
 バゼットが多数いる妖獣の中から、主だった妖鳥を確認した。
 時間が経っても動きがない場合は、こちらから接触、あるいは交渉を行うことになっている。
「……目安の10分は過ぎた。行くぞ」
 司の言葉に、皆は動き出す。
 幸いにも不滅の災いは、司達に興味を示すことはなかった。
 妖鳥達も、自分達が危険になるような敵では無いという事がわかったのか、興味深げに旋回するだけ。
「神戸の戦いは既に終結しました。私達に抗戦の意思はありません」
 武器を収めて非戦闘の意思を表しながら、友好的に対話を試みるのは、芙美子。
「アンタらと、そっちの災いには手を出すつもりはあらへん!」
 矜星なりに気を配りながら、そう語りかける。
「皆の言う通り、戦う気はないよ。そもそも、僕らに勝算は無い。よく知ってるだろう?」
 バゼットもまた、敵対の意思が無いことを主張した。
 そんな対話に興味を持ったのだろうか、不滅の災いの使徒の一鳥が舞い降りてくる。

「お前は、イサハヤでは無いな」
 確認するリザに、知彗鳥は翼をはためかせて頷いた。
「時告鳥が見る夢は、既に滅びし歴史のみ。今生の者に興味を持つ能わず」
「ならば、あなたは誰なのでしょう。封土鳥でも地縁鳥でも無いのですよね」
 そう名を尋ねるのは、桜紅楽。
「我は、知彗鳥エニシユカリ。封土も地縁も今は無し。新たに生まれるまで会う能わず」
 既に倒した封土鳥や地縁鳥に比べ、知性を感じる妖鳥であるのは、知の名を持つ妖鳥の特性なのだろうか。
「今は話がしたいだけだ。近付いてかまわないか?」
 櫻子の問いかけに、知彗鳥は頷いた。
「我らの眠りは永く、こたびの現世は短すぎた。話をしよう、我等が知を満たすために」
 その答えを受け、さっそくバゼットが尋ねた。
「戦争で封土鳥は何をしていたんだ?」
「封土は鶏卵に似る。温め育み産み落とす」
 謎かけのような問答だが、おそらくは、福原京の準備が整うまでの間、特殊空間に閉じ込めていたのが封土鳥の役割であった……という事らしい。
 はるか古き残留思念から生み出したゴーストが、特殊空間の外で活動できるようになるまでの間滞在する特殊空間を作った……ということだろうか。
「イサハヤはどんな役割を担っているんだ?」
 知彗鳥の様子を伺いながら、そっと黎が尋ねる。
「時告ぐるのが時告鳥。歴史を遡る道しるべ」
 またも謎かけのような問答だが、これは、それなりにわかりやすい。
 平家の残留思念が、現在の世界に充分に存在したとは思えない。
 おそらく、わずかに残っていた残留思念を増幅し、過去の状態に戻す役割を持っていたのだろう。
 残留思念は、集合離散し時と共に自己の存在が希薄になる。
 そうでなければ、千年前の地縛霊が『自分の名前を覚えている』ような事はありえなかっただろう。
「最終的な目的地はどこなんだ?」
 気になる質問を黎が投げかける。
「霊峰不死なり。この地より生まれ、この地に還る」
 富士山が中継地点という事も考えたが、どうやらそうでは無いらしい。
「どうして富士に来たんですか? それはあなた方の意思なのでしょうか」
 桜紅楽が続けて問うと、知彗鳥は、
「新たに生まれるため。それが不滅の性なれば」
 と歌うように答える。
 不滅の災いは不滅ではあるが、その為に、富士山での休息が必要……ということなのだろうか。
 ここまで質問を投げかけて、知彗鳥は逃げる様子を見せなかった。
 機会をうかがっていた芙美子は、知彗鳥の隙をついて、不滅の災いにゴーストチェイスを施す。バゼットも密かに災いへとゴーストチェイスを刻み、ヤロスラーヴァも他の不滅の使徒へとゴーストチェイスを放った。
 それを見た他の能力者達も、一人ずつ目的の相手にゴーストチェイスを刻んでいった。
 その間にも知彗鳥との対話は続いている。
「平家の勢力にいた妖狐の『本国』や他の災いの居場所はご存知ですか?」
「…………」
 その桜紅楽の質問の意味がわからなかったらしく答えが無い。
 だが、この質問自体は、知彗鳥にとって心地よかったようだ。
「さぁ、話そう。時間は、それほど無い故に」
 その言葉にほっとした様子で、櫻子が尋ねた。
「なぜ富士に来た? 平家の命令を遂行しているのか?」
「時告の見た夢は夢に過ぎず。滅び平氏は何も残さず」
 先日の戦いに現れた平氏は所詮ゴーストであり、本物の平氏では無いということらしい。
 1000年前に滅びた本物の平氏は何も残していないという事なのだろう。

「最終的に鎌倉を破壊する気なんか?」
 矜星が問えば、
「全てはいずれ滅びるもの、唯一、不滅を除いては」
 と知彗鳥が答える。
 自分達が滅ぼさなくても、鎌倉は滅びるだろうという事だろう。
 また、矜星は会話の合間を見て、『月、かぐや姫、不死の薬』という単語をそれぞれ出して反応を見たところ、特に返答は得られなかったが、知彗鳥はそれぞれを興味深く聞いているようであった。
「災いと呼ばれたゴーストは、平家じゃァあんた等だけだったのか?」
 和音のこの問いには、意外な返答が来た。
「災いの名にふさわしきは四霊に過ぎず」
 つまり、あと3体は、このクラスがいるという事なのだろうか。
 だが、既に倒した大いなる災いがそれだとすると、あと残り2体、存在することになる。
「お前達は平家のゴーストだろ? 平家の連中と一緒にいなくてもいいのか?」
 そうリザが尋ねる。
「時告が見た夢は夢に過ぎず。夢は平氏となる事は無い」
 本物の平氏は能力者であったのだから、地縛霊となった平氏は平氏では無いという事で、きっと良いのだろう。
「封土鳥が言ってた愛子っていうのは誰のことだ?」
 次に司が尋ねた。
「封土が育みし揺籃の子ら」
 つまりは、福原京のゴースト達の事らしい。
 どこからか呼び寄せた不安定な残留思念やゴースト達を、封土の力を利用して、能力者との戦いに耐えられるようにしたのだろう。
「マヨイガで平和に暮らしてみない?」
 最後に都古がそう提案すると。
「不滅にとって、全ては平穏なり。眠りもまた、ひとつの平穏なれば」
 知彗鳥はそう答えた。
 不滅ということは死んでも死なないという事である以上、平和に意味は無いらしい。
 また、封印されて永い眠りについたとしても、それもまた平穏……という事らしい。
 確かに、不滅にとっては、封印の時間が永い短いに意味は無さそうだ。

 と、そのときであった。
 周囲の黄金の海原が一際強く輝きだしたかと思うと、不滅の使徒らが、一羽、また一羽と消え始めていくではないか。
「え? どういうことですか!?」
 突然の出来事に芙美子は慌てて、知彗鳥に問いかけた。
「話は尽きぬが、時が来た」
 知彗鳥はそういうと、能力者達を残して高く飛翔する。
「この世は、おかしき世なり。ならば、また、会おう」
 そう言って消えていく。
 黄金の光が消え、不滅の災いは消え、不滅の災いの使徒も消え、残されたのは能力者達のみ。

 はっと我に返った桜紅楽が皆の方を振り返る。
「あの、筆使いさんの様子を見に行かないと……」
「そうだな、戻ろう」
 司の言葉に頷くように、彼らは火口を後にし、今度は陣幕の張られていた場所へと駆け戻ると……。
「何だァ、ありゃァ?」
 そう首を傾げる和音の視線の先には、先ほどはいなかった、黒い着物を着た能力者らしき集団が集まっていたのだ。
 和音達を見つけて、すぐさま黒い着物を着た者達が駆け寄ってくる。
 それも波ならない敵意を持って。
「お前達は、不滅の災いの関係者か! 不滅の災いの結界の中から現れるとは怪しい奴」
「成敗!!」
 黒い着物を着た者達は、その手に持った筆を能力者達へと向けたのだった。

●富士八葉の書道使い達
 黒い着物の筆使いに囲まれ、能力者達はじりじりと後ずさりしていく。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 誤解だ!」
 そう隼人が叫び、説明しようとするが、先ほどまで不滅の災いの使徒と仲良く話をしてきて、戻ってきたことは事実。
(「もしかして、誤解でもないかもしれないのか?」)
 それでもと都古は、両手をあげ、交戦の意思がないことを示しながら、一歩前へと出る。
「戦うつもりはないわ。それに、私達が持っている情報が余りにも足りないから、その情報を得るために彼らと会話していたのよ。本当よ」
 都古を援護するかのように、和音も自分の持っていたパイルバンカーを、がしゃんと足元に落として、戦意がないことを示す。
「見ての通り、私達に戦う意思はありません。よければ、話し合いませんか?」
 その桜紅楽の呼びかけにも応じようとはしない。
(「手練れ……という程では無い。戦えばおそらく勝てる」)
(「だが、それではダメ……」)
 極力戦いを望まない彼らにとって、戦うことは避けたい状況。
 やはり、戦わざるを得ないか、そう能力者達が覚悟を決めたときであった。
「控えろ。その方達は神戸で不滅の災いと戦った方達だ」
 奥から現れたのは、先ほど重傷を受けた筆使いの青年であった。黒い着物を着た者達に支えられながら、ゆっくりと能力者達の元へやってくる。
 その青年の言葉を受け、黒い着物の能力者達も筆を下ろした。
「それに、私を助けてくれたのはこの方達だ。この方達が私を癒してくれなければ、私はあのまま死んでいたことだろう。……ありがとう」
「そんな……礼を言われることはしてないわ。ただ、怪我した人を放ってはおけなかっただけだから」
 そう都古が告げる。
「礼をいうのはこっちの方さ」
「鳳凰堂には後輩がいたんだ。おかげで彼女は助かった。……礼を、言わせてくれ」
 リザと、そして黎が鳳凰堂の戦いで助けてくれたことについて、礼を述べていく。
「そうか……君達も我々と同じだったのだな」
 そう、青年は嬉しそうに微笑み。
「私は墨枝・宗司郎。我々は『書道使い』として、京都を……この地を守ってきた」
 そう青年、いや宗司郎はそういって、能力者達に握手を求めるのであった。

 互いに自己紹介を終えた後、ヤロスラーヴァは真っ先に。
「すまなかった」
 先の源平合戦で不滅の災いを滅しきれなかったことへの謝罪を告げる。
「いや、それは君達の所為ではない」
 むしろ我々の力不足もあると宗司郎は、瞳を伏せる。
「我々は、不滅の災いを封じる為に、ここに陣を敷いていた」
「どうして、ここに?」
 その問いに宗司郎はうむとひとつ頷いて。
「力を使った不滅の災いは、富士の火口に還り、力の回復を図る事はわかっていた」
 だからと宗司郎は告げる。
「ここで陣を構え、不滅の災いを封じようとしたんだ。この陣が成功すれば、不滅の災いに傷を一つつける事ができ、それが3度になれば、不滅の災いを封じる事ができるのだから」
「ということは、今の不滅の災いは傷が一つついているということなのか?」
 と問われると宗司郎は、くっと悔しそうに首を振る。
「いや、陣は失敗だった。我々は不滅の災いに傷をつける事はできなかった」
 どうやら、宗司郎の話によると、不滅の災いが事件を起こし、そして力を回復させるために富士に戻ってくる度に、この陣に挑戦し、いつの日か、不滅の災いを封印するというのが、書道使いの戦いであった。
「君達が知識を貸してくれるのなら、僕らは戦力を貸そう。ギブ&テイク。……悪くはないと思うな」
 そうバゼットが提案する。
「神戸の戦いでは不覚を取ったが、私達ならば、不滅の災いと正面から戦って、三筋の傷を一度につける事もできると思う」
 黎もまた、銀誓館学園の戦力をアピールする。
「だが……それでは、不滅の災いが富士に還り、復活してしまうのだろう」
 櫻子の指摘ももっともな話だ。
「封印する力を持つのが、書道使いの皆さんだけということならば、私達は協力すべきなのではないでしょうか?」
 桜紅楽の申し出もあり、宗司郎は。
「その申し出、非常にありがたいが……京都と京都の封印を守る事が我らの使命であれば、即答はできない」
 その返答に能力者達は暗い表情を浮かべるが。
「だが、京に戻りし後に、皆に相談をしたいと思う」
 どうやら、書道使いは、銀誓館学園の申し出に前向きに考えてくれているようだ。
 これならば、共闘する日も近いのかもしれない。
「俺らは、不滅の災いの調査をしに来たんや。災いに関して、知ってること教えてくれへんか?」
 矜星の問いかけに宗司郎は、そうだなと災いに関して語り始めた。
「不滅の災いは定期的に復活しては、災厄をもたらし、時が経てばまた、富士山に戻る。絶対に死なない能力を持っているため、我々の陣で封じなければ、それは永遠に続くことだろう」
「なら、あたし達が3回倒せば済むことじゃないのか?」
 リザの言葉に宗司郎は首を横に振って否定した。
「傷を付けただけでは駄目だ。陣で封じなければ、災いは必ず復活してしまう。それに、三筋の傷がなければ、陣で封印をすることも叶わぬ。それに、傷を受けても富士山で眠り復活すれば、その傷もなかったことになる」
「ということは、3回傷を負わせた後、富士山で復活する前に、封印しなくてはいけないのか……」
 黎の言葉に宗司郎はそうだと頷いた。
「それと、富士山で復活した不滅の災いは、事件を起こす場所に直接現れる事が出来る。富士山で見張っていても役には立たないだろう」
 現に、富士山にいた不滅の災いは、現時点でその姿を消してしまっている。
 探すことも困難だろう。
「つまり俺達は、不滅の災いが新たな事件を起こすまで、手も足も出ないと言うことか」
 司は眉をひそめながら、そう告げる。
「だからこそ、不滅の災いは、この日本で最大の災厄なんだ」
 宗司郎はそう答えた。
「そういえば、鳳凰堂で戦った仲間が、鳴子の夢を見たといってたけど、あれは、何だったんだ?」
 隼人の問いに宗司郎は優しく答える。
「京都の危機を知らせる結界だ。書道使い以外で、あの鳴子の音を聞くことが出来たという事は……。君達こそ、日本を守る定めを持っているのかもしれない」
「ああ、そうだ。最後にいいか?」
 話は変わるがと前置きしてリザは告げる。
「もうすぐ、あたし達の学園で学園祭があるんだ。お前達も来ないか? 歓迎するぜ!」
 その提案に驚いてはいたが、こちらも即答はできないようだ。
 ただ、宗司郎は興味を示しており、リザから学園の場所を教えてもらっていたようだ。
 一通り、情報を得た彼らは、宗司郎達、書道使いに別れを告げ、下山していく。
 山の五合目、丁度、彼らが登ってきた入り口には、数多くの登山客がいた。山頂にいけないために、ここで時間を潰している者も多く、人手が多くなってきている。
「そういえば、不滅の災いは?」
 司の言葉にバゼットと芙美子が答えた。
「不滅の災いは、富士山の内部に完全に入っちゃってるね」
「富士山の半分を吹き飛ばせば、中にいいる不滅の災いを露出させて戦うことが出来るかもしれませんが……」
「不滅の災いが次に現れたときに倒すしかないか……」
 司の言葉に皆が頷いた。
 到着するバスに揺られながら、彼らは富士山を見る。
「私達ゴーストチェイサーと災いとの因縁、か……」
 言い知れぬ運命を感じながら、櫻子はそっと呟く。
「よし、学園に報告に戻ろうか」
 ヤロスラーヴァの言葉に、皆が頷いた。
 黎の手には、今回の調査で得た貴重な情報が詰まったメモが握られていた。そう経たないうちに、この情報も銀誓館学園に届けられることだろう。


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作成日:2011/07/11
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