潰れた定食屋


<オープニング>


 とある町に、以前は定食屋として使われていた建物があった。
 今度新しい食べ物屋がそこで開店する事となり、その業者が下調べに来たのだが……引き戸を開けた瞬間、彼等は不思議な感覚に包まれ……気づいた時彼等は、外観からは想像もつかないほど広くなった部屋の中に立ちつくしていた。
 そして部屋の真ん中に、いかにも料理人といった感じの白い服と帽子を着用した男性が1人立っていた。
「アジニハ……ジシンアッタンダ」
 男はぶつぶつと何か呟きながらどこからか超巨大な刀剣を取り出し、驚いて足がすくむ業者の者達をたったの一振りで全て薙ぎ倒してしまった。

「みんな集まってるね。事件についての説明、始めるね」
 教室に集まった能力者達に対し、神崎・優希(中学生運命予報士・bn0207)は今回の事件について説明を開始する。
「今回の現場は潰れた定食屋さん、斬馬刀の抗体兵器を持ったおじさんの地縛霊が相手となるよ」
 優希の説明によれば、以前は定食屋が営まれ、現在は廃墟となっている建物に足を踏み入れると抗体空間へと引きずり込まれ、そこに待ちうける料理人風の格好をした地縛霊に襲われるのだという。
 地縛霊が現れるのは正午頃、彼の待つ建物の中へ足を踏み入れると抗体空間へと引きずり込まれる。
 地縛霊の力によるものなのか、鍵はその時間帯だけ開いているらしい。
「今回の抗体空間は特に特殊な効果はないみたいなんだけど……ある程度の時間が過ぎると、空間内に溜まった物凄いエネルギーがみんなにダメージを与えるみたい」
 よって、時間以内に地縛霊を倒さねば全滅してしまう可能性がある。
 地縛霊は白い服と帽子を着用した料理人風の格好をした男性の姿をしており、斬馬刀の抗体兵器で相手を切り裂く攻撃を行うという。
「そこにあった定食屋さんはあまり繁盛してなかったみたいで……お店を経営していたおじさんが借金で首がまわらなくなって、店内で首を吊っていたらしいの……」
 恐らくは、今回の地縛霊はその経営者の男性なのではないかと優希は言う。
 ちなみに肝心の味がどうであったのかはわからないとの事である。
「残念だけど、ゴーストになっちゃったらもう料理は作れないもんね……しっかりと退治して、天国に送ってあげてねっ」

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参加者
浅葱・悠(星黎の紡ぎ手・b01115)
相澤・悟(生涯一ゾンビハンター・b03663)
矢和・翅居(群晴・b22326)
マリア・シンクレア(洗礼の処女・b24391)
ジェニファー・スウィート(暗黒なる氷雪の女皇・b30598)
ミラ・エセルドレーダ(冥土へ誘うもの・b41885)
天童・将(聖地への棋跡・b46020)
狭霧・霞(姫騎士・b49390)
桃宮・紅綺(子守唄の魔獣・b57806)
桃宮・紫戟(五線譜の綺術師・b76106)



<リプレイ>


「ご主人様方、どうやらあの店のようですわ」
 前方にひっそりとそびえ立つ建物を指さし、仲間達に目的地へと辿り着いた事を告げるミラ・エセルドレーダ(冥土へ誘うもの・b41885)。
 ちなみに彼女が言うご主事様とは、仲間達に対する敬称であるらしい。
「味に自信あり……か……売れるには味だけでなく立地条件も絡んでくるからな……」
 きっと運がなかったのだろうなと、地縛霊に同情を示すジェニファー・スウィート(暗黒なる氷雪の女皇・b30598)。
「例え味がしっかりしとっても、立地とかで店の雰囲気がらっと変わってまうしな」
 相澤・悟(生涯一ゾンビハンター・b03663)もまたジェニファーと同じように、地縛霊の店が上手く繁盛しなかった事を気の毒に感じる。
 自信があるのに認められない……それはとても虚しく、切なく、やりきれないものなのだろう。
 彼が地縛霊となってしまったのは必然といえる事だったのかもしれない。
「そうだね……お店経営するのって大変なことだもんね」
 2人の言葉に相槌を打ちながら、ゴーストとなるくらい自信があったのだから、地縛霊の作る料理はとても美味しかったのだろうなと矢和・翅居(群晴・b22326)は思う。
 それと同時に、それが徒となってしまった事を残念に感じているようでもあった。
「僕の場合は 料理ではなく手芸だけど。自分の好きなモノ作りを仕事に出来るのは、夢だし、素敵な事だと思う」
 恐らくそれは地縛霊にとって、様々な苦労の結果ようやく実現した夢のはずである。
 しかしその後も苦労は重なり、結局何も実らないまま、彼は命を絶ってしまった。
 同じような夢を抱く桃宮・紅綺(子守唄の魔獣・b57806)にとって、彼のその悲しみや怒りはまるで我が事のように感じられるようである。
「……彼を救いだそう、この悪夢から」
「ああ……私の気持ちも紅綺と同じだ」
 紅綺の決意の言葉に頷くのは、彼の従兄弟の桃宮・紫戟(五線譜の綺術師・b76106)。
「ゴーストとしてこの世に留まり続けている事が果たして本当に彼にとって【悪夢】なのか、【成仏して消える事よりはマシ】なのか、それは 彼……料理人自身にしか分からないけど」
 自分達にできる事が力を以て彼を天へ送り届けるという事だけなのなら、その現実から目をそらさず、戦いぬこうと紫戟は決意する。
「……今となっては店が潰れた理由はどうでもいい事だ。私が今望むのは食ではなく強者との戦」
 過ぎた事をあれこれと詮索するよりも、目の前の敵と戦う事の方が浅葱・悠(星黎の紡ぎ手・b01115)にとっては重要であるようだった。
 今回の敵は斬馬刀を用いるという事もあり、彼女は1人の剣士として、彼との戦いを楽しみにしているようであった。
 そして……そうこうしている間に時刻は正午頃となり……能力者達はゆっくりと店の扉を開け、中へと足を踏み入れていく。
 すると彼等は不思議な感覚に包まれ、気づいた時、外観からは想像もできないほど広くなった空間の中、巨大な剣を肩に担いだ男が1人、そこに立っていた。
「これは見事な斬馬刀……というか、包丁ですよね、多分」
 恐らくそれは料理人の魂ともいえる包丁が変化した姿なのだろうと、天童・将(聖地への棋跡・b46020)は感じているようであり、あの斬馬刀に料理されてしまわないよう注意しなければと、彼女は気を引き締める。
「料理人が人を傷つける為に刃物を使ってはならない、それは貴殿の誇りを失うことだ」
 狭霧・霞(姫騎士・b49390)は地縛霊を諭すように語りかけつつ、スゥっとカードを取り出し、
「だから私は戦おう。貴殿が誇りを失う前にその暴走を止めるために!」
 彼女はカードを天高く掲げて起動させ……現れた二つのレイピアを両手でしっかりと握りしめ、身構える。
 彼女に続き仲間達も次々とイグニッションを完了させ、それぞれの武器を手に戦闘態勢を整える。
「迷える子羊を導くのが神に仕えるシスターの務め……たとえそれが死者の魂であろうとも同じこと」
 この地に囚われた哀れな料理人の魂を救い出すという自らの使命を果たすため、マリア・シンクレア(洗礼の処女・b24391)は仲間達とともに、地縛霊に敢然と立ち向かっていくのであった。


「先手必勝や!」
 戦闘開始直後、悟は狙いを澄ましながらあっという間に地縛霊との距離を詰め、彼の腹部へと両手に握りしめたスパナを力いっぱい叩き込んだ。
 その瞬間生じた衝撃波が地縛霊の体内を駆け巡り、彼の体を内側からじわじわと破壊し続け、
「料理もまた戦……一流の料理人は戦にも通じると聞くがその実力を見定めさせて貰おうか」
 地縛霊との戦いが血沸き肉踊るものとなる事を願いつつ、悠は星黎剣【白鷺】の刀身に漆黒のオーラを纏わせながら斬りかかり、地縛霊の体を袈裟がけに切り裂いた。
「オレノ……リョウリハ……!」
 だが地縛霊はすぐさま深く腰を落として力いっぱい斬馬刀を振りまわし、悠も攻撃直後という事もあってそれを避けきれず、体に大きな横一文字の斬撃を刻み込まれ、一気に体力が奪われてしまう。
 そんな彼女に対し、地縛霊は更にもう一度剣を振ろうと構えるが……そこへすかさず紅綺が割って入り、
「僕も、同じモノ作りを愛する男として、あなたの無念……分かります」
 だからこそ彼は、地縛霊を悪夢から救い出してあげたいと強く願い……それを現実のものとするため、長剣、†・罪殺しの聖者・†から漆黒のオーラを湧きあがらせ、上段からそれを振りおろして彼の体をざっくりと切り裂く。
 そうして、彼等3人が肉薄している間に他の能力者は次々と強化を完了させていき、最後に将が幻影兵団を展開したところで……総攻撃の準備は整った。
「いい攻撃だ……なかなかやるな!」
 地縛霊の戦いぶりを称賛しつつ、ジェニファーは地縛霊を呪う言葉を呟き始める。
 呪言士の力をその身宿す彼女が放つ言葉はそれ自体に力が宿り、地縛霊の体に負のエネルギーを注ぎ込み、ダメージを蓄積させ、
「ご主人様、ご一緒にしかけましょう」
「了解した!」
 ミラと霞の2人は互いに声をかけあって合図を交わし、
「あなたの生気、いただきますわ」
 ミラは前方の空間に歯を突きたて、
「我が神速の剣技。その身で味わえ!」
 霞は目にも止まらない速さで、両手のレイピアによる鋭い連続突きを繰り出す。
 その瞬間、先程将が展開していた2体の幻影兵が2人の力と動きを伝達し、1体は吸血噛み付きによって歯を食いこませてエネルギーを吸収し、吸収されたエネルギーはミラの体内へと吸収されていく。
 もう1体は瞬断撃による超高速の刺突を繰り出し、地縛霊の体を何度も何度も刺し貫いていく。
 更にマリアと将が、美しく光り輝くエネルギーを集束して作り出した槍をそれぞれいくつも作り出し、
「大天使の眩き黄金の剣よ。雲を払い、闇を切り裂け!」
「一気にケリをつけましょう」
 2人はそれらを一斉に射出し、彼等が放ったいくつもの光の槍はまるで流星雨の如く地縛霊の体へと降り注ぎ、彼の体へと突き刺さり……貫いていく。
 更に後衛の者達の攻撃を目くらましにして、前衛の4人が地縛霊を囲みこむ。
「料理道具を血に染めんなや!」
 料理人としての誇りはどこにいってしまったのだと悟は地縛霊に訴えかけつつ、再度両手のスパナを用いた狙い澄ました一撃を地縛霊の体へと叩き込むが、
「ヌゥゥゥ!!マダ……オワラン!」
 地縛霊も負けじと豪快に剣を振りまわし、彼の体を深く鋭く切り裂いた。
「っ……俺なんか料理しても美味ないで!」
 それでも悟は退こうとはせず、強くスパナを握り締め、連続でインパクトを叩き込み、何度も何度も彼の体に衝撃を駆け巡らせ、内側からダメージを与えていく。
「食材として生を狩りつつも人を生かすは料理人……貴様は私と同じ死しか与えぬ剣士、互いの剣にて語り合うとしよう」
 悠は地縛霊を料理人ではなく、剣士として認識しているようであり……彼と切り結ぶため、彼女は突貫していく。
 そんな悠を薙ぎ払おうと、地縛霊は剣を振りまわすが……彼女は大地を蹴って跳び上がりその攻撃を避けると、彼の頭上へと漆黒のオーラにそまった長剣を振りおろして彼の体を切り裂く。
 更に着地と同時にまた剣を一閃、二閃させて彼の体を黒影剣による斬撃を刻み込んでいく。
「僕も、あなたの作るお料理、食べてみたかったな。いつか……またあなたが生まれ変わって また料理に志すことがあれば……」
 そのチャンスを与えるためにも、紅綺は地縛霊を倒さねばならない。
 彼も霞と同様、長剣を漆黒のオーラによって染め上げ、縦、横、斜めに剣をはしらせて地縛霊の体を切り裂くが、
「リョウリ……リョウリ……オレハ……」
 そんな紅綺の気持ち等露知らず、地縛霊は腰を鋭く捻りながら豪快に斬馬刀を振りまわし、彼の体をざっくりと切り裂く……が、
「大丈夫か、紅綺!」
 彼の体が傷ついた瞬間、すかさず紫戟が恍惚寸前まで高めたフリッカーハートの情熱をビームへと変換して紅綺の体へと照射し、彼の傷を癒す。
 紫戟にとって仲間は大切な存在であるようだが、その中でも紅綺は特別な存在であるらしい。
「おじさん、刀じゃ料理は作れないよ。料理人の誇りも捨てたの?上手く行かないからって自棄起こして暴れ回るような人が店主じゃ、お客さんも入り難かっただろうね……!」
 それは翅居の本意ではなかった。
 彼女は自分に地縛霊の注意がむくようにあえて彼を挑発しつつ、拳に螺旋状の詠唱停止プログラムを纏わせ、デモンストランダムによるラッシュを浴びさせ……一瞬グラリと彼は体をふらつかせるが、
「グゥオオオ!」
 なんとか体勢を立て直した地縛霊は斬馬刀を頭上へと持ち上げ……勢いよく振り下ろし、切り裂くのではなく、腹の部分で翅居を叩きつける。
 翅居は咄嗟に頭上で両手を組んでガードする……が、やはり超重武器であるだけに完全にダメージを防ぐ事はできず、両手両足に激痛がはしり、思わず彼女も苦痛に顔を歪める。
 だが、それが地縛霊の最後の抵抗となった。
「御代は黄泉への切符や!ゆっくり眠りや!」
 悟の繰り出す攻撃が地縛霊の体に衝撃をはしらせ、
「生の料理人、死の剣士……どちらにもなれぬ貴様に興味はない……終幕だ」
「僕には……こんな事しかできないけど……」
 悠、紅綺が繰り出した黒影剣による斬撃が地縛霊の体に刻み込まれ、
「これで……終わりだよ……!」
 そして翅居のデモンストランダムが地縛霊の顔面へと炸裂した瞬間、彼は仰向けにゆっくりと体を傾け……、
「オレハ……タダ……オレノリョウリ………ヲ……」
 散り際、地縛霊は何か言い残そうとしていたが……残念ながら彼はそれを言い終わる前に、その姿を消し去っていった。


 戦闘が終了して間もなく抗体空間が消滅した後、彼等は建物の外へと出てきていた。
「さすが料理人、あなたの血はなかなか美味しかったですわ。素材の良さが決め手なのかしら?」
 そう言って満足げにくすっと笑みを浮かべるミラ。
 やはりそれは生前料理人であった事が関係しているのか……それは誰にもわからない。
「私は彼の誇りを守れたのだろうか?」
 誰にともなく、霞はそう問いかける。
 彼女に騎士としての誇りがあるのと同様、生前は地縛霊にも料理人としての誇りがあったはず。
 それが守りとおせたならいいなと、彼女は願っているようである。
「ゴーストになってしまった以上……しかたない……か……」
 ジェニファーは悲しげな笑みを浮かべながら建物を見上げ、ぽつりと呟く。
 仕方ない……と口に出してはいたものの、出来る事なら生きているうちに彼を助けてあげたかった、という想いを彼女は抱いていた。
「これからは天国であなたの料理をみんなに振舞ってくださいね」
 マリアは建物をジッと見つめながら、天へと昇っていったであろう男性の魂に語りかける。
 今度こそ、彼の料理が誰かに認められる事を願いながら。
「っかー!動いたら腹減ったで!なんか食い行かへん?」
 地縛霊との戦いで体を動かし、ちょうどいい具合にお腹が減った悟は、そう言って仲間達をランチに誘う。
 時刻は午後1時ちょっと前……昼食をとるにはちょうどいい時間であろう。
「そうだな、料理を得意とする者のもとで食事にしよう」
 悟の言葉に相槌を打ちながら、彼の提案に応じる悠。
 そんな彼女の料理の腕前であるが、見た目は上手く作れるものの、食べた者は気絶してしまうほどの味であるという。
 誰しも得手、不得手があるという事なのだろう。
「うん、お腹空いたしちょうどいいね」
 翅居もまた悟の意見に賛成しつつ、できる事なら、このお店が営業していた頃に来てみたかったなと残念そうな表情を浮かべる。
 そして、もしもこの場所に新しいお店ができた時は、またこの場所に足を運んでみようかなと考えているようであった。
「すみません、僕と紫戟はもう少しこの場所に残らせてもらいます。さあ行こう、紫戟」
「ああ、わかった」
 仲間達がその場から去ろうとする中、紅綺と紫戟はこの場に残る事を告げて再び店内へと足を踏み入れて行く。
 彼等は地縛霊を追悼する意味があるのか、この場所でサンドイッチを作り、食事をしていくのだという。
 そんな2人を見送った後、残った8人は改めてその場から立ち去る事とした。
「地縛霊になるほどの情熱を持っていても駄目な事がある……世知辛い話ですよね」
 もしかしたら、人間にとってもっとも恐ろしいのはゴーストなどではなく、この社会なのではないかという想いを胸に抱きながら、将は仲間達とともにその場をあとにしていった。


マスター:光輝心 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/07/17
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冒険結果:成功!
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