<リプレイ>
● 「よー、かわい子ちゃん。俺達と遊ぼうぜぇ?」 「いえ……私、もう帰らないと……」 今時そんなナンパに引っかかる人間が居るのだろうか? ガラの悪い男三人組が、真面目そうな女子学生を取り囲むようにして、しつこく声をかけ続けていた。 時刻は夜の9時。 薄暗いガード下に他の通行人は無く、少女は今にも泣き出しそうな困惑具合だ。 「大の男が三人がかりで、いたいけな少女を取り囲んで何をしているのですか」 凛とした声が、唐突に響く。振り返る四人。 「諦めて立ち去りなさい」 声の主、四季・紗紅(白虎拳士・b59276)は促す。 「あぁ〜ん? 何だってんだこのアマ、関係ねぇだろ」 「いや待てよ。諦めたらお姉ちゃんが代わりに俺たちに付き合ってくれるっての? だったら考えるけどよぉ〜」 「おぉ、良いね良いね〜」 しかし男達は、あろう事か紗紅にターゲットを変えて来る始末。 紗紅は呆れたように吐息をこぼし、それから三人を睨み付ける。 「うっ……」 「不愉快なのですよ。理由はそれだけで十分でしょう?」 小柄な彼女のどこからその迫力が出るのだろうか。 2mもある大男に襟首を掴まれたような、極道に啖呵を切られたような、圧倒的な威圧感に気圧される三人。 「ひ、ひぃぃっ!」「お許しをー!」 ついに、三人は這々の体で逃げ出していった。 「怖がらせてしまいましたか? もう心配要りません。気をつけてお帰りなさい」 「は、はい……」 女子学生は、紗紅にぺこりとお辞儀すると、足早にその場を立ち去っていった。 「……皆さん、結構ですよ」 紗紅の声に応えて、数人が姿を現す。 彼らは銀誓館学園の能力者達であり、この場所で間もなく起こるゴースト事件の阻止と解決の為にやってきたのだ。 「最近天女の羽衣のメガリスゴーストの事件が多い気がする」 気のせいだろうか、それとも何かの予兆か、飛鳥・瑛士(高校生黒燐蟲使い・b49579)はぽつりと呟く。 今回の敵は、メガリスゴーストである天女の羽衣。 羽衣にとりつかれた、一人の女性を救うのが任務だ。 (「本人は、良かれと思ってやっているのでしょうし、少なくとも今までは良いことをしていたのでしょう。でも……」) 「今回ばかりは、放置しておくと大変な事になりかねないからな」 旅人の外套を使って、その姿を隠しつつ考えるルエニ・コトハ(小学生シルフィード・b79730)と、その心の呟きに続けるかの様に言う境・鷹男(帰ってきた真の努力家・b06261)。 これまでの彼女の行動が、多少行き過ぎた正義の味方として許容の範囲内だったとしても、人を殺めるに至っては、到底看過出来るものではない。 「……にしても、異性との付き合いのコンプレックスねえ。こりゃまた厄介な悩みをお抱えのようで」 頭を掻きつつ、日下部・砌(ゲイルトレーサー・b01206)。 羽衣に魅入られる人間には、もしかしたら男性を敵視していたり、苦手とする女性が多いのかも知れない。 「それじゃ、始める?」 どこか楽しげに言う黒木・摩那(深遠なる碧き鏡の剣士・b12406)。 「あまり自信はないが、やるしかないか」 「僕もあんまり柄悪いのは得意じゃないけど……やってみるよ」 対照的に、何らかの覚悟を決めている様子の生田・修(スリーピングオウル・b76981)と春崎・樹(ウィンディーソニック・b75584)。 羽衣に魅入られた女性、ミサをおびき寄せる為の作戦が始まる。
● 「おうおう、ネーチャン、俺たちとお茶しねぇか?」 「えー、いきなりそんな事言われても」 「夜は長いんだ、俺達とこれから遊ぼうぜ」 摩那を取り囲むようにしながら、口々に言う樹と修。 「えー、困るわ。どーしよー」 摩那はどうしていいか解らないと言った様子で、困惑気味。ただ、何となくそこまで困っていないように見えてしまうのは、気のせいだろうか。 「ねーちゃん。この大男に付き合わないかい?」 「そこまでですわ!」 鷹男が更に言い寄ったその時、ガード下に響く声。 「いやがっている女性を無理矢理ナンパするなんて、汚らわしい! 気持ち悪いですわ!」 声の主は、ゴスロリドレスに身を包んだ小柄な女性。 彼女がミサに違いあるまい。 「君にはうらみも何もないけれど……」 樹を始め、三人はナンパをやめてミサに向き直る。 「んー、魔法『少女』はそろそろ止めといた方がいいと思うわよ。そういうのは、やってる時はいいけど、後からじわじわーとダメージ来るから。主に精神的に」 摩那も、それまでとは打って変わった態度でミサに目を向ける。 「……どういう事ですの? 貴女、ナンパされて困っていたのではなくて?」 「ごめんなさい。その力で不幸になる前に、手放してもらいます」 状況が飲み込めないで居るミサの眼前に、物陰から姿を現す能力者達。 「……罠、と言う事ですのね? 男共の考えそうな事ですわ、わたくしを罠にはめて一体何をしようというの!? 汚らわしい! それに貴女、女の身でありながら、こんな連中に荷担するなんて許せませんわ!」 「言ってることは良く分からないけど、妄想力が凄そうね」 「良いでしょう、卑劣な獣共。このわたくし――正義の使者、マジカルミサリンが皆まとめてお仕置きしてあげますわ!」 バールのような物をくるくると回転させたかと思うと、びしっと決めポーズ。完全に世界に入り込んでおり、見ている方が思わず赤面してしまいそうだ。 決めポーズに合わせ、数匹の猫たちも姿を現す。 自称正義の魔法少女(?)と、能力者達の戦いの火ぶたが切って落とされた。
「ウチの姉さん曰く……いい男いい女ってのは傍に落ちてるようなもんじゃない。そういう奴には足が生えてる」 「だからなんだと言いますの?」 「砂まみれの荒野でもすっくと立ち、誰にも媚びず阿らず、道なき道をどこまでも独りで歩き、踊り、駆け抜ける足が。だからいい男を奪うなら、いい女を望むなら。荒野の先まで、地獄の果てまで追いかけよう」 「わけが分かりませんわ! いい男だのいい女を追いかけるだの、不純で不潔ですわ!」 霧影分身を用いながら言う砌に、金切り声を上げるミサ。 「行きます」 ルエニの手が、猫を指さす。 ――バッ! 巻き起こる突風に合わせ、ケットシー・ワンダラーのクヤがエネルギー弾を放つ。 「メソ、行け!」 これに続き、魔方陣を展開する修。シャーマンズゴースト・ファラオのメソが、その指示に従って猫へ突進を掛ける。 「くっ……非道な男共めっ」 「どんどん行くぜ」 瞬く間に体力を削られていく猫。やや焦りをにじませるミサと、余裕の表情で雑談刀を回転させる鷹男。 「異性を苦手に思う気持ち、解らなくはありませんが……」 イーグルソードに黒燐蟲を纏わせる瑛士。 彼も女性に苦手意識を感じていた時期が有った。けれど、それも大切な人が出来て克服された。 ミサもまた、大事に思う相手が出来れば考え方が変わるのかも知れないが……それはまだ先の事になりそうだ。 「小柄、童顔……逆に武器にしてしまえばよろしいのに……」 「フギャオオッ!」 そんな事を呟きつつ、猫の引っ掻き攻撃をかわした紗紅。すぐさま、練り上げた気を震脚によって大地へと送り込む。 「吹き荒れろ、導眠符の嵐!」 数匹の猫が吹き飛ぶのを見て、間髪を入れず樹。つむじ風に乗った導眠符が、猫らの動きを封じる。 「どうして邪魔をしますの!? わたくしが退治したいのは、その男達だけですわ!」 「25近くで魔法少女はアウト!」 「なっ!? なぜわたくしの年齢を……いえ、わたくしは永遠の19歳ですわ!」 ――ガシャーン! 摩那はミサに精神攻撃をしつつ、鉄の処女を召喚。猫のうち一匹を捉え、その戦闘力を喪失させる。
● 「そらよっ」 「フギャンッ!」 ――バッ! 砌の爆水掌が、手負いの猫に引導を渡す。 敏捷な動きによって能力者に襲い掛かった猫達だが、磐石の連携を崩すには力不足。各個撃破によって次第にその数を減らしていた。 「くっ……いたいけな猫や女性を傷つけて、それでいい男のつもりですの!?」 「……え? おれは『いい男』なのかって? さあな。それは見た奴が判断することだろ?」 悔し紛れにわめくミサと、軽口で応える砌。 「自分の想いでなく人を殺してしまうこと、止めます」 再び、ルエニとクヤの同時攻撃。 ジェットウィンドとエネルギー弾の直撃を受け、また一匹の猫が地に倒れ伏す。 「もっと気楽に生きても良いんじゃないか? 自分が気楽なら、周囲の者も安心出来て、打ち解けやすくなるかもしれんぞ」 「お、お黙りなさい! あなた方の様なナンパな男に何が解ると言いますの!?」 メソのタックルに合わせ、蒼の魔弾を放つ修。しかしミサは、そんな彼のアドバイスにも聞く耳は持たない。 「そこだ! これで止めだ!」 ミサの動揺を見計らってか、黒炎を帯びた鷹男の長剣が、最後の猫を切り伏せる。 「後ろで支えるのも、また戦いだよ!」 甲斐甲斐しく病魔根絶符によって仲間の手傷を完治させる樹。 その復元力の高さから、ミサ達は中々有効な攻撃が出来ていない状況だ。 「小柄であることは、私も大して変わりませんが、それを長所に変えて日々生活をしております」 じわりと、ミサへの囲みを狭めつつ紗紅。 「確かに貴女も小柄ですわね……お幾つですの?」 「来年成人です。貴女も子供に見られるのなら、それを利用して迷惑をかけている方々を罠にかければよろしいのに……」 「……短所を長所に……ですの?」 「髪染めるとか、いいかもよ。雰囲気明るくなるし。あとメガネは色付きのファション眼鏡がお洒落よ。自分を変えたいなら魔法少女でなく、大人の女性らしく化粧やお洒落でやらないとね」 「くっ……お黙りなさい! わたくしは……女の敵を退治したいだけですわ! べ、別に……男性に好かれたいなんて……」 紗紅に続いてアドバイスを送る摩那。ミサはバールを振るいつつ、微妙に語るに落ちている。 「隙あり!」 「なっ?!」 摩那の聖葬メイデンがミサを捕らえるや、紗紅の白虎絶命拳が間髪入れぬ追撃を掛ける。 「ぐうぅっ!!」 大ダメージを受け、よろめくミサ。 「これで止めだ! 荒ぶる暴風よ! その力を僕に!」 更には、暴風に身を包んだ瑛士が捨て身の突撃。 「きゃあぁぁぁっ!!」 この一撃によってミサは倒れ、天女の羽衣の支配から開放された。
● 「終わったか……自分の納得の行くように、進んで行けたらいいな」 羽衣の変身が解け、ごく一般的な服装になったミサ。意識の無い彼女を見ながら、そんな言葉をかける修。 「……おれだって、諸々恰好いい男になりたくってね」 呟く砌。 ミサに限らず人は皆、変わっていきたいと言う想いを抱えながら生きているのかも知れない。少しのきっかけ、背中を押してくれる何か、そうした物が必要なのだろう。 「でもね。髪を一度染めると、元に戻せないのよね」 もちろん、変わるにはそれなりの覚悟も必要ではあるのだが。明るい色に変わった髪を撫でつつ、呟く摩那。 「……ここではなんですし、安全な場所に運びましょう」 「そうですね、眠っている女性を放っておくのも気が引けますし」 紗紅と瑛士は、近くにあるバス停のベンチへとミサを運ぶ。 「これからは危ないことはしないでくださいね」 ルエニは彼女が風邪を引かないように、ベンチに横たえたミサにタオルケットの様な物を掛けてやる。 「演技だったとは言え、ナンパなんて2度とやるもんじゃない事はわかった」 「うん……僕も修行が必要かも知れないね」 ナンパ師役の鷹男と樹は、やや気恥ずかしさが抜けきらない様子でそんなやり取り。
かくして能力者たちは、一人の女性と男達の命を救うことに成功した。 変身の切欠を失ったミサが、今後どう生きて行くかは彼女次第。 メガリスゴーストなどではなく、自分の力で変わっていけることを祈りつつ、一同は凱旋の途につくのだった。
|
|
参加者:8人
作成日:2011/08/05
得票数:楽しい12
知的1
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
| |