レイニーデイR 〜荊姫の寝台〜


<オープニング>


 これは、ある洋館にまつわる一つの怪談話である。
 持ち主が没落し今や廃墟と化した屋敷にるという隠し地下室。
 そこには壁や床が殆ど隠れてしまうほどの無数のツタを張って紅い薔薇が咲いている。
 無数の荊の奥にはなんと、真紅のドレスを身に纏ったあどけない少女が眠っているのだと言う。
 少女はいつまでも変わらぬ姿で眠っていて、抱き上げた者にただ一言願い事を言うのだ。
 『ここから出して』と。

 そんな怪談話が浮き上がってから四年。
 この洋館にはもう怪談話は流れていない。
 誰も寄りつかぬ、薄暗い木々に囲まれた廃墟である。
 だがそんな廃墟に一人、少女がいた。
 錆びたスコップを土に突き立て、ゆっくりと掘り返していく。
 ゆっくり。
 ゆっくりと。
 するとやがて、声が聞こえるのだ。
 『ここからだして』
 
「こういう感じ、久しぶりかもしれませんね」
 運命予報士藤崎詩穂はそう言って、地図や写真を机に広げた。
「四年前に皆さんの手で消滅させたある地縛霊が、抗体ゴーストとして蘇りました」
 にわかにざわつく教室内。
 詩穂は表情を変えずに続ける。
「この抗体地縛霊を、倒してください」
 
 場所や状況は、四年前の焼き回しと言ってよかった。
 違うのは相手の能力である。
 広い部屋のような抗体空間を発生させ、無数に生えるツタによって立ち入った者を絞め殺すのだという。
「以前は単純にツタを払っていればよかったのですが、今回は空間そのものが襲い掛かってきます。それに加えて、人型に丸まったツタような地縛霊も数体出現します。そして肝心の抗体地縛霊ですが……」
 そこで、詩穂は口を噤んだ。
 事前に渡されていたメモを見る。
 部屋最奥には石の寝台があり、紅いドレスの少女が眠っているのだと言う。
「これが、抗体地縛霊だと?」
「はい、攻撃は自動的に行っているようですが。こんな……」
 そこまで言って、詩穂はやめた。
 この上で感情論を語る意味は無い。
「よろしくお願いします。皆さんの手で、終わらせてあげてください」

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参加者
篠田・春一(夕焼けの春空・b01474)
紫月・双牙(光焔真牙・b08033)
三笠・輪音(夕映比翼・b10867)
エルム・レガート(夜明けの紫・b39299)
百十・繰(おねえちゃん子・b49520)
小鳥遊・桐音(御伽草子・b53243)
愛良・向日葵(元気二百パーセント・b62143)
御神・深月(破天の戰・b63397)



<リプレイ>

 これは、勇敢にも死地に赴き、戦い抜いた能力者達の顛末である。
 故に全ての前置きを割愛する。
 幻想を挟む暇も、空想を述べる暇も、ここにはないのだ。

●火花、散る。
 能力者達は抗体空間に侵入。
 その開始10秒が最も重要であった。
 サポートメンバーを含めた九人を即座に拘束する荊。
 部屋の荊は半数を、そして抗体地縛霊本人が放ったであろう荊はほぼ全員を拘束にかかった。
 この対策として5名もの回復要員を用意していたが、この内有効に働く見込みがあったのはエルム・レガート(夜明けの紫・b39299)と愛良・向日葵(元気二百パーセント・b62143)、そしてサポートに呼ばれていた了の三名のみであった。
 行動順の問題で、彼女達が自力で締め付けを解き、慈愛の舞を発動させなければ後に続く殆どの攻撃担当が自力でのチェックを余儀なくされる。
 それも『超締付け』である。動けるのは四人いる内の一人程度だろう。
 だがエルムは初手は氷雪地獄と決めていたため除外。つまり……。
「あなた達が荊を千切れるかどうかで、私達の運命が決まるのよ」
 小鳥遊・桐音(御伽草子・b53243)がナイフをしっかりと握り、向日葵と了の顔を見た。
「……!!」
 了はがっちりと腕を固定されて動けない。向日葵は歯を食いしばって荊を千切り、慈愛の舞を発動。これでも6割程度の解除率ではあるが、数名だけはなんとか解除に成功した。残りのメンバーでなんとか被ダメージ分を埋める。
 そうこうしている内に前方から8体もの地縛霊が素早く飛び掛ってくる。
 目を細める桐音。
「幸せな夢を見ているのかしら」
 両手にガンナイフを握り、地縛霊三体を巻き込んでのスラッシュロンドを繰り出す。
「幸せなまま逝かせてあげる」
 地縛霊の纏う無数の蔦を断ち切り、激しい血を噴出させた。
 まあ、想像はしていたが。
「伏せていろ」
 御神・深月(破天の戰・b63397)が腕を突き出す。
 瞬間的に伏せた桐音の頭上を白燐蟲大拡散砲が通り過ぎた。
 はっとして深月に目をやる桐音。
「待って、浸食弾じゃないの!?」
「……射程に四体は入ったもので、ついな」
 ぎりりと歯をこすり合わせる音が聞こえた。
 なぜなら、今の二人の攻撃で、一体の地縛霊すら消滅していなかったからである。
 彼らの腕が桐音と深月に襲い掛かる。
「やべえ。双牙、いけやがるか!」
「なんとか!」
 手足を荊に掴まれて動けない篠田・春一(夕焼けの春空・b01474)の代わりに紫月・双牙(光焔真牙・b08033)が地縛霊へ斬りかかる。
 血と荊を撒いて一体を撃破。
 しかし残り七体が容赦なく深月たちに襲い掛かる。
「マズイ……持ちそうにないわ」
 桐音は一体に組み付かれ、更にもう一体の手で首を絞められる。
 後ろは空いている。今なら下がることもできるかもしれない。そう思って後退し始めた……その時、三体目が桐音の胸に手を突っ込んだ。腕は胸を貫通し、背中から突き出る。
「……!?」
 身体をのけぞらせる桐音。
 薄れゆく意識の中で深月に目をやると、彼は四体の地縛霊に取り囲まれていた。
 二体に両腕を拘束され、胸や腹に貫手を突き込まれ続ける深月。
 視界は薄れ、激しい耳鳴りがする。どうやら全身の至る所から出血しているらしい。
 一度体力を奪い尽くされ、歯を食いしばって凌駕する。
 だが、そんな深月に手を伸ばした地縛霊を見て最後を察した。
「ここまでか……先に、行くぞ」
 崩れ落ちる深月。
 どうやら、地縛霊の攻撃は二人以外には及ばなかったようだ。
 それで、よしとしよう……。

 侵入から10秒が経過し、残り地縛霊は7体。味方の残り7体。
 ここからは立て直しが重要となる。
 毎回訪れる荊の締付けは、了とエルムの二人でなんとか解除した。
 初手は氷雪地獄と決めていたエルムだが、ここで味方の解除に専念しないわけには行かなかった。一撃で撃破できる見込みのない攻撃で削っている場合ではない。
 先刻頑張っていた向日葵は解除に失敗。行動順が早かったこともあって動けずに終わる。
 拘束系の恐ろしい所は、解除役より早く動いてしまい、かつ自力でのチェックに失敗すればそのターンは何もできずに終わってしまうと言うところにある。
 先頭メンバーは双牙と春一。彼らのダメージをフォローするため三笠・輪音(夕映比翼・b10867)と百十・繰(おねえちゃん子・b49520)が回復に回った。
「双牙さんが囲まれます。春一さん、黒燐弾は……!」
「今やってる!」
 輪音の言葉を受けて、春一が暴走黒燐弾を発射。
 双牙を囲む地縛霊に黒燐蟲がとびかかるが、何分命中率に不安のあるアビリティである。三体いる内の一体に当たったに過ぎなかった。それでもかなりの威力があったようで、その一体を撃破する。
「悪ぃ、双牙……」
「仕方ありませんよ」
 双牙は糸目をごくわずかに開いた。
「私もせめて、一体は道連れにして見せます」
 両サイドから襲い掛かる地縛霊。右側の長剣とレッグブレードでガード。左からの攻撃には刀でのカウンターを叩き込んだ。
 胸を貫かれ消滅する地縛霊。が、直後に別方向から放たれた攻撃で壁に叩きつけられた。
 頭から血が漏れ出し、壁にどっと広がる。
 ずるずると崩れ落ちる彼に操が駆け寄った。
「双牙さん、しっかりして下さい!」
「いえ、ちょっと無理そうですねえ……」
「今回復を……あっ!」
 操はぐっと唇を噛んだ。今積んで来ているのは回復量の低い全体回復ばかりだ。白燐奏甲を持っていた深月は先ほどリタイアした。
 ギリギリまで凌駕した双牙を救う手だては、もう無いのだ。
「仕方、ありませんよ」
 開いていた目は、いつもの糸目に戻っていた。
 どうやら友を、仲間を守れはしたようだ。
 貫く思いは、切り裂く意思は、退かぬ意地は、挑む覚悟は、確かに友を守れたのだ。
 ならば、良い。
「少し、休みます……死なないように、お願いしますよ」
 荊が奔り双牙を締める。
 そして双牙は、動かなくなった。

●死の影
 5体まで残った地縛霊達の猛攻。そして抗体地縛霊の放つ毎ターンの攻撃と『超締付け』。たとえ前ターンで生き延びても次まで耐えきるのは困難だった。
 深月の連れて来てくれたサポートの了がリタイアする。高いイニシアチブで活躍してくれた、良いサポートだった。
「おい、これって……」
「はい……」
 春一の額に汗が浮かぶ。輪音は胸の前で手を握って言った。
「もし10ターンまで戦闘が続いた場合、深月さん達の死亡が確定します。安全地帯はありませんし、全体攻撃が毎度襲ってきますから……」
「死なないようにお願いって、そういうことかよ」
 春一は一か八か、自分に群がろうとする地縛霊に暴走黒燐弾を放った。
 クリティカルやジャストアタックはあり得ない。奇跡の無いアビリティである……が、しかし。奇跡は起こった。
 地縛霊達の中心で拡散した暴走黒燐弾の全弾が地縛霊へと命中したのである。
 二体の地縛霊がたちまち消滅。残り一体も体力を半分まで削られてふらついている。
「当たればこんなもんだ……っし、仲間をやらせやしねぇ!」
 残った三体の地縛霊へと春一が突撃。胸や頭に強烈な攻撃を食らって崩れ落ちた。
 うつ伏せに倒れる春一。
「……っ!」
 地縛霊、残り3体。
 味方は回復役を含めた自分たち4人。
 肝心の抗体地縛霊は健在。
 故に、輪音はここで緊急対応に出た。 
「あのお姫様を倒して……皆で帰るの!」
 春一が削ってくれた地縛霊へ掴みかかり、壁に叩きつける。
「大丈夫。自分も皆も、信じてるもの」
 地縛霊が悲鳴をあげて消滅。
 残り二体が輪音に狙いを定めてくる。
 回復する筈だったところをキャンセルしたのだ。この二体から攻撃を受けたら……恐らく次まで持ちはしないだろう。
「輪音さん、下がって!」
 操が横から地縛霊に組み付く。それにより輪音へ攻撃をしかける地縛霊は一体のみとなった。
 命が繋がる。
 次へと繋がる。
 希望への活路を見出す時間なのか。
 死への時間を伸ばしているだけなのか。
 それは、分からなかった。

●終焉
「あの子は消えて倖せだったと思う。けどまた戻された」
「解放後は、ルールーをおしおきですね」
 毎度の荊解除には気を抜けない。
 エルムと向日葵は協力して荊を解除し、蓄積したダメージをなんとかフォローしにかかる。
 それでもすべてではない。操と輪音は地縛霊を倒しきる方に集中せねばならないのだ。
「ダメージは私が受け持ちます。操さんは攻撃を」
「…………わかりました!」
 腕に絡みつかれ、腹に何度も荊のナイフを突き刺される輪音。その後ろから操がジェットウィンドを放った。
 一体をなんとか撃破。
 もう一体は輪音の攻撃で消滅。
 地縛霊が全て倒される。
「うっ」
 輪音が胸を押さえて蹲る。
 先刻も、相手の攻撃をモロにうけて凌駕で耐えていたのだ。もう体はボロボロだった。
「輪音、さん……」
「いいんです。どの道次まで持ちません」
 向日葵の手を丁寧に払って、輪音は口元をほころばせた。
「生きて、帰りましょうね」
 次の瞬間、周囲の荊が輪音を覆い隠す。
 向日葵は強く手を握って、部屋最奥へと走り出した。

 地縛霊は倒れた。
 だが、残されたメンバーはエルム、向日葵、操の三人だけだった。
 このメンバーで部屋最奥までたどり着き、抗体地縛霊を倒さねばならない。
 三人は、二人を回復に回し、一人が移動すると言う地道な移動方でなんとか最奥を目指した。
 だが、二人で回復を続けたところで蓄積したダメージの方が大きかった。荊を自力で解除しきれなかった時のダメージがどうしても蓄積してしまうのだ。
 それに……。
「ごめん、僕が回復できるのはここまでだよ」
 エルムが道の途中で唇を噛む。積んでいた慈愛の舞は四発限りで、ここで尽きてしまったのだ。
 操が憔悴した顔で頷く。
「大丈夫です。私はまだリベリオンビートが残ってます。向日葵さんは?」
「こっちは沢山積んできたからなんとかなるよ。でも……」
 向日葵は慎重に歩を進めながら後ろを振り返る。
 深月と桐音が折り重なるように倒れ、双牙と春一が壁にもたれ、輪音と了も荊に覆われて動かない。
 中でも深月と桐音は、あと数十秒で死亡が確定するのだ。もたもたしてはいられない。
 向日葵は目じりを拭って、喉を絞って言った。
「……走ろう」
「走る?」
「防御も何もかも無視すれば、一気に距離を稼げるよ。それでなんとか……」
 三人は、傷だらけの身体をお互いに見た。
 長くは持つまい。
 しかし、長く持たせる時間は無い。
 仲間を殺してまで、身の安全など保って痛くはないのだ。
 皆、無事で帰らねば。
「いくよ!」
 周囲から襲い掛かる荊。彼女達はその中を駆け抜けた。
 全身を鑢にでもかけたかのような痛みが襲うが、全て無視した。
「あうっ!」
 向日葵が足を掴まれ転倒。
 しかし部屋最奥までもう10mも無い。
 見れば操とエルムも拘束されていた。
 向日葵は意を決して慈愛の舞を発動させる。
「向日葵さん!?」
「いいから、行って」
 元々体力的に余裕のない彼女である。次までは持たないだろう。
 荊から解き放たれた操とエルムが寝台まで駆け寄って行くのが見える。
 視界が徐々に閉ざされていく。
 闇に落ちていく。
 目を開けた時、死んでなかったらいいなあ。
「生きてたら、いいなあ」
 向日葵はそう呟いて、目を閉じた。
 そして……。

 エルムと操は、肩で激しく息をしていた。
 それぞれの武器を振りかざす。
「解放してあげる」
「皆生きて帰る」
 彼女達を荊が襲うが、二人とも自力で引きちぎった。
 回復を使うまでもない。
 今叩き込まなければ。
 今消さねば。
 皆死ぬのだ。
「「うわあああああああああああ!!」」

●明星
 操がはっとして目を開けると、そこは湿っぽい地下倉庫の中だった。
 出入り口の扉が僅かに開いて、外の光を入れている。
「……生きてる」
「みたいだね」
 エルムが仰向けに寝転がったまま呟いた。
 見れば、仲間たちもそこかしこに倒れ付している。急いで確認してみたが、息はまだあった。
「そっか、よかった……」
 二人は安堵のため息をついて、その場に転がった。

 荊姫の寝台は消えた。
 もう、現れることは無い。


マスター:空白革命 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/09/03
得票数:泣ける1  カッコいい14  怖すぎ10  せつない3 
冒険結果:成功!
重傷者:篠田・春一(夕焼けの春空・b01474)  紫月・双牙(光焔真牙・b08033)  三笠・輪音(夕映比翼・b10867)  小鳥遊・桐音(御伽草子・b53243)  愛良・向日葵(元気二百パーセント・b62143)  御神・深月(破天の戰・b63397) 
死亡者:なし
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