<リプレイ>
● 「そろそろ二時ですね……」 小早川・奈々(シトラスアナイアレイト・b16673)が携帯の時計に目を落とす。 草木も眠る丑三つ時。 一行が居たのは、都内某所に存在する広大な霊園の一角。 「夜の墓場か……夏に肝試し以外で来る事があるとは思わなかったね」 周囲をきょろきょろと見回しつつ、フェリシア・ヴィトレイ(きまぐれな野良猫・b54696) 能力者達がこんな時間、この様な場所に居るのは他でも無い。 この墓地に存在する、封神台のメガリスゴーストを破壊し、それに操られた地縛霊とリビングデッド達を葬るためである。 (「封神台のメガリスゴーストか……亡き者を蘇らせ、人々を襲わせるなんて、そんな悲しい事は許せないわね」) クールな印象を与えがちな美少女、桜庭・柚樹(寒緋桜の雪夜叉・b32955)。 しかしその心中では、死者を冒涜するメガリスゴーストの存在に正義の怒りを燃やしている。 「それにしても、肝試しをしてるみたいですねぇ。そういえば、今回のゴーストになった方は生前はオカルトを研究してたとか……」 わざと低い声で、肝試し気分を演出しようとする日向・夏果(のんびりまったりいきましょう・b55022)。 「あぁ……ゴーストと墓って填まり過ぎて笑えないな」 それを聞いて、思わず苦笑いを浮かべる三井寺・雅之(風炎の光彩・b60830)。 肝試しの現場で、実際に存在するゴーストを退治しようというのだから、皮肉というか何というか……。 「速坂は大丈夫か?」 「えっ? あ、だ、大丈夫に決まってるじゃない」 ビクリと顔を上げる速坂・めぐる(真烈風少女・bn0197)だが、隣を歩くフェリシアにぴったりとくっついたまま。 やはり、まだこういう雰囲気は苦手な様だ。 「そうか、俺は怖いよ」 「え? そ、そう……やっぱり私もちょっとね」 素直に認めてみせた雅之の言葉に、めぐるも本音で応える。 「それにしても、不思議を求めてこうなってしまうのは……本末転倒と言うのでしょうか?」 皮肉と言えば、今回の被害者達である。 オカルトを求め、自らがゴーストになってしまった若者達を想う四季・紗紅(白虎拳士・b59276)。 「ええ、自分自身が超常現象になるとは……いくら好きとはいえ本人はどんな気分なんでしょうか」 その隣を歩く飛鳥・瑛士(高校生黒燐蟲使い・b49579)も、数回頷いて相づちを打つ。 「……ともあれ、死して、己が友を葬る羽目になった彼と、その犠牲者を解放しなくてはいけませんね」 津上・晶(緋天蒼雷・b57574)の言葉に一同頷く。 間もなく、莉緒の告げた区画――封神台のメガリスゴーストがある墓が見えてくる。
● 「来ますね」 校章が刺繍された結社製のバンダナに触れ、呼吸を整える瑛士。「自分を信じて 集いし仲間を信じて」そこに記された文言を反芻する。 墓石の前に集った一行を、異様な空気が包み込む。 生暖かかった空気が、妙にひやりとしたものに変わっていくのを誰しもが感じていた。 「……んだよ……」 地の底から響くような、低い声。 「やっぱりあったんだよ……科学で証明出来ない事……だって俺……ここに居るもん」 青白い顔に死装束。頭に天冠と言った古典的お化けスタイルの男がそこに立っていた。メガリスゴーストによって地縛霊と化した、オカルトサークルの一員だろう。 強いてお化けっぽくない所と言えば、ガタイがかなり良い。生前は頑強な青年であった事を窺わせる。 「うわ……」 そして気づけば、周囲の景色も一変していた。 地形だけなら今まで居た霊園と変わりないが、いずれの墓石も崩れかけ、卒塔婆は折れ、荒れるに任された様な有様だ。 どこからお化けが出てきても、全く不思議は無い様にすら思える。 「周りは張りぼてだと思っていこうぜ。ゴーストに集中しよう」 「え、えぇOK!」 雅之の言葉に頷く一同。めぐるもはっきりと頷く。 「これ以上惨禍を引き起こさせない為に、そして哀れな死者に安寧を」 そんな景色やゴーストの言葉に気を取られる事も無く、氷雪の鎧を纏う夏果。 瑛士も独鈷杵に黒燐蟲を纏わせる。 「あぁ……俺たちが証明だ」 「そして君たちも……僕らの仲間に……」 地縛霊に続いて、地中から這い出すようにして現れた3人の若者。 生ける者を死の世界に引きずり込もうと手を伸ばす。 「死んだ後に出てこいと言われはしても、こんな形で実現するなんて皮肉な話よね……」 柚樹の徒桜に白燐蟲が宿る。 姿形は生前の彼らであっても、その中身はもうゴーストでしかない。 「本当に、それが本望なのか?」 空間を歪ませる程、晶の魔力が凝縮される。 問いかけと同時に放たれた蒼き魔弾は、唸りを上げながらリビングデッドの1体へと吸い込まれていく。 ――バシィッ!! 「ぐあぁぁぁっ!」 目映いばかりのスパークが周囲を照らす。 「これ以上被害を広げないため、ここで退治させていただきます」 紗紅の足が力強く大地を踏みしめれば、砕ける敷石と共に走る衝撃波。 「うわあっ!?」 リビングデッドのうち、ある者は吹き飛ばされ、ある者はよろめく。 「くっ……こんなもんじゃないだろう……俺たちは……一度死んでるんだからな!」 「そうだ……見せてやれ!」 地縛霊の声に奮い立ったのか、ゴーストは俄然気合いを入れて能力者達へ反撃開始。 先陣切った地縛霊は丸太のように太い腕を振るい、柚樹目掛けて掴みかかる。 ――ガッ! 「こちらは任せて下さいっ!」 粉砕バットで地縛霊の腕をはね除けつつ、声を上げる奈々。 「超常現象が好きなら一度は石化も体験しておくべきじゃないかな?」 「何? 石化だと……?」 フェリシアの誘い文句に気を取られたせいか否かは定かでないが、輝く七星の光は攻め寄せるリビングデッドのうち一体の動きを停止させる。 「畜生、神秘の力は選ばれた者だけが……お前達の様な子供がおいそれとっ!」 「速坂、こっちだ! また石の下に送り返してやるぜ」 「わかった!」 雅之の拳が紅蓮の炎に包まれ、それはそのまま飛びかかったリビングデッドの鼻っ柱を強かに打ち抜いた。 そして激痛の悲鳴を上げさせる間もなく、めぐるの瞳に宿った呪の力が瀕死のリビングデッドに引導を渡す。 「ノブ! ……お前ら……許さない……絶対にっ!!」 既に死んでいたとは言え、仲間を倒されたゴースト達は激昂。 一層苛烈に能力者達へと向かってくる。
● 「めぐるちゃん、ここは僕が」 「お願い瑛士!」 「旋風よ! 仲間を浄化する力を!」 瑛士の右手が挙げられると同時に、清らかな浄化の風が能力者達を包む。 奮起した超常現象ゴースト達は、質・量共に勝る能力者達に対し、果敢な抵抗を試みていた。 一度死した自分達が、ここで退治されて無に帰るとすれば、それは本来あるべき状態に戻るとも言える。 「たまるかっ……そんなことっ……!」 オカルトを信奉し、自らが超常現象であると自認する彼らにとって、それは死以上の「死」を意味する。受け入れがたい事に違いない。 「俺たちこそ……超常現象の担い手……俺たちが超常現象だ!」 一層戦意を高揚させた地縛霊は、死装束が破れるほどに全身の筋肉を隆起させる。 「過ぎたる力に、戒めを……」 けれど、夏果はその瞬間を見逃さなかった。 反戦の魂が籠められた歌声が響き渡り、地縛霊の体力を削ると同時に攻撃力を大きく失わせる。 「狙い撃つ……」 再び放たれる、晶の魔弾。 ――バシュゥンッ!! 「ぐわぁぁぁーっ! ……ば、かな……こんな事……あるはずが……」 再度爆ぜる青白い雷光。 「不思議の証明のためだけに、居続けられては他の方々に迷惑でございましょう」 ――タンッ。 「ありえん……ありえぶわぁっ!!」 紗紅の指先から流し込まれた膨大な量の気が、リビングデッドの内部よりその身体を破裂させる。 「残るリビングデッドは1体……もう一息ね」 「倒しちゃってもおっけーですよねっ!」 二振りの宝剣で地縛霊を牽制する柚樹と、死角を突いてローリングバッシュを繰り出す奈々。 2人は上手く連携を取って地縛霊を抑えながら、隙を突いてその体力を削りさえする。 「余りあっちを待たせちゃ悪いわね。フェリシア」 「よし、とどめを刺すよ」 ――バッ!! フェリシアの九尾がリビングデッドの心臓を抉ったのは、めぐるの魔眼が妖しく輝くとほぼ同時。 「ぐっ……あぁぁぁーっ!!」 「たか! ……お前達……良くも仲間を……」 「やり方が汚いんだよ。言っても分からないだろうがな」 ――シャッ! 「むうっ!? お、俺達は不死身だ……何度でも蘇る……」 雅之の光槍が地縛霊の腕を貫く。 満身創痍ながら、その戦意は未だ失われていない様だ。 「何度でもだ!」 「っ……」 夏果に掴みかかる地縛霊。 その怪力に、表情を歪める。 「大丈夫ですか? もうちょっとです。頑張りましょう!」 けれども、すかさずその傷を癒す瑛士。 「今度はこちらからいきますよっ! 桜庭さん!」 「ええ、紅蓮の炎よ……敵を焼き尽くして!」 奈々のローリングバッシュに呼応し、紅蓮に燃え盛る柚樹の宝剣が一閃。 ――ゴォォッ!! 「がっ……はっ! あったんだ……確かに死後の世界は……俺達はそれを――」 燃え盛る炎に包まれた地縛霊は、そのまま燐光を散らして霧散してゆく。
● 「……忘れません。この結末も……お休みなさい」 地縛霊が掻き消えると、特殊空間も消滅。一行は元居た霊園へと戻っていた。 静かに犠牲者らを悼む晶。 「一緒のメンバー同士、これからは安らかに眠ってね」 持参した花を供えた柚樹も、冥福を祈りつつそう告げる。 「妖孤さんには渡しません……何度でも、壊してあげます」 決意を新たにする奈々。悲劇を拡大せぬ為には、戦い続けるより無い。 「早く封神台のメガリス手に入れたいものです」 原型は留めながらも、傷ついた墓石をいたわりつつ呟く瑛士。 「お化けが出る前に帰りましょうか」 「お、お化けはもう出ないでしょ……こんな綺麗な霊園だし、特殊空間に比べたら全然怖くないわ」 表情を緩めて言う夏果と、少し虚勢を張りつつ言うめぐる。 「確かに。肝試しをするなら、ここより山の方が良いと思うのですけれど。夜は、それこそ真っ暗ですから」 「……肝試しはもういいわ」 冗談なのか本気なのか、真顔で提案する紗紅に対しても、めぐるはかぶりを振る。 「死者は怖がるものではなく弔うものだよ」 少したしなめる様なトーンで言うフェリシア。 そして死者が再び動き出したり、まして生者を害するような事は、決して有ってはならないのだ。
かくして被害の拡大を防ぎ、死者達を本来の形に帰した能力者たちは、静かに凱旋の途についたのだった。
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参加者:8人
作成日:2011/08/31
得票数:楽しい4
カッコいい3
ハートフル12
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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